死人子育て記   作:Shushuri

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二話連続投稿です。
'13/7/28 誤字報告より修正しました。


母を見る

 冬木ナツエは大蛇丸から逃亡した後に危機感を感じていた。

 彼女の強みとは不老不死である。眠らず、陽の光の届かない場所で延々と修行と研究を続けられる。チャクラが尽きることも、体調不良も存在しない。しかし、問題としては彼女の知識に偏りがあり、切磋琢磨する相手もいないという現実である。

 かつて、自身の親が死んだことを認識した後、戦場から生贄になりそうな人間を連れ去って穢土転生の生贄にしようと試したことがある。しかし、親、ドウシンは復活しなかった。穢土転生は対象となる魂があの世にある必要がある。既に成仏か、輪廻転生しているならば復活などできない。当時は勝手なものだと憤慨し、涙を流したものだ。

 冬木ナツエの知っている、目標と成る忍というのも問題であった。「誰々のように」と言うだけならいくらでも言えるが、実際に戦闘を目の当たりにしたことなどないのだ。だからこそ、父と同じような道を進んでいた。研究者である。

 あの時は、土地柄の把握も、こちらの情報も何一つないからこそ大蛇丸から逃げられた。次は簡単に囚えられる。

 

「新しい顔岩。大蛇丸とかいう男じゃないですね」

 

 忍の入り乱れる戦場へ足を運ばなかったから、新たな火影、波風ミナトを彼女は知らない。

 

「私の時は、まだ扉間様までの顔岩しかなかった。ヒルゼン様の顔岩は復活した時に見たけれど……」

 

 顔岩は木ノ葉の歴代火影を象ったものであり、その変化に、見た目は変わらないが、自身が歳をとったという感慨に耽る。

 同級生に、嘗ての友人に生きている者はいるか。忍養育施設はどうなったか。見てみたい気もするが、里には「白眼」の日向一族がいる。周辺視野角の広さと、透視術、千里眼を併せ持つ白眼が警備につくからこそ、日向は木ノ葉の守りとして名が知られるのだから。

 その時である。木ノ葉を揺るがす巨大なチャクラと共に出現した赤い、九尾の狐。

 

「九尾の、復活!? 幾らなんでも不味い!」

 

 数十年の時が経っていようが、やはり生きていた土地の執着がある。単純に、見捨てられなかった。

 九尾。尾獣と呼ばれる、チャクラの塊でもある獣の存在。かつて「うちはマダラ」がその「写輪眼」という瞳術で操り、里を襲撃した。あれを確実に封印するには今は亡き初代火影、「千手柱間」の血継限界「木遁」がいる。今を生きる千手一族に木遁使いが生き残っていればいいと考えつつ、彼女は急いだ。

 九尾の口の先には黒いチャクラの塊。それが発射されると、そこにある顔岩よりそれはまるで見えない何かに飲まれるように消え、遠く離れた場所で災厄となって被害を出した。「時空間忍術」と呼ばれる、何かを呼び寄せる「口寄せの術」を代表とするものだ。

 

「時空間忍術結界!? 素晴らしい術者がいるようですね。それに……」

 

 遠方を見る為の瞳術。血継限界ではなくとも、忍術を用いれば行うことができるそれで九尾の瞳を見た。

 

「流石に尾獣の眼球なんて知りませんけど、先ほどの出現は『口寄せ』のそれ。犯人は、うちはですか」

 

 戦闘経験の浅い彼女でも、九尾の巨体が街に向かおうとしているのは理解できる。

 

「遠隔口寄せ、二重羅生門!」

 

 地面に手を付けた瞬間、顔の描かれた巨大な門が地面から飛び出して九尾は正面からぶつかる事となる。一枚が簡単にひしゃげるが、二枚目で保つ。

 そして、九尾を相手取るには、冬木ナツエの肉体はチャクラの最大放出量が少ない。よってドーピングを行う。

 

「開門、休門、生門、傷門、杜門、景門、驚門、死門、解! 『八門遁甲の陣』」

 

 「体内門」。体内に存在するチャクラが密集した部位が八つあり、それを開くことで爆発的に戦闘能力を得るが、八門全てを開くことは命を確実に落とすことになる。最も、既に死亡している彼女だからこそ、迷いなく開けることが出来る。

 瞬間移動かと疑う速度で九尾の前まで来た彼女は思い切り蹴りを入れる。それだけで九尾の体が吹き飛んだ。その瞬間、経絡系を含めた左足が破裂した。痛みを感じない彼女はそのまま印を組む。

 口から出されたのは水。それが龍を型取る。水遁・水龍弾の術だが、その巨大さは八門遁甲によることが理由だ。そこで全身の筋肉、脊髄から捻れるように体が崩れた。

 

「まさか、これは『八門遁甲の陣』を……」

「このような少女が何故……」

 

 そのような言葉が聞こえたところで、割れた陶器を繋げるように体の再生が始まる。それを見てどよめきが走る。再生した顔には目を覆っていた布がなく、まるで白黒が反転したような眼球をしていたからだ。

 この場に集った忍は、年齢を重ねた古い世代の木ノ葉の忍。「穢土転生」が禁術であれ、二代目火影の下でその技を見たことがある者が何人いるか。

 

「……動揺も解りますが、私は『穢土転生』による死者で、木ノ葉の人間でした。『水遁・水鎖錠の術』」

 

 巨大な水龍弾で出来上がった大量の水が、錠となって足と首を封じ、そこから水が鎖となって縛る。

 そこに幾人も忍が忍具と術を叩きこむ。

 

「正直、現状の木ノ葉の勢力は知りません。千手一族に木遁を継承した方はいますか!?」

「いや。千手にはもう木遁の血継限界はいない。誰が呼び出したかは知らぬが、お主のお陰で里の外へ九尾を出すことができた。礼を言う。知っておるかもしれんが、三代目の火影を務めた猿飛ヒルゼンという」

「自己紹介は後々に! 幾らチャクラが無尽蔵でも自力が違いすぎる!」

 

 水の鎖が引きちぎれる。その瞬間に、口寄せで呼ばれただろう赤い、巨大な蛙が九尾を押さえつけた。四代目火影の口寄せ生物。蝦蟇一族の蝦蟇ブン太である。

 

「幾らワシでもこいつはそう押さえておけんで!」

 

 彼女には四代目だろう人物の言葉は聞き取れないが、巨大な蛙の声を聞き逃すことはない。その間に、九尾の口には再び黒いチャクラの塊、尾獣玉の準備がされている。だが、九尾は姿を消した。

 

「ミナト……、九尾ごと飛んだのか!?」

「時空間忍術! 流石火影の座を頂く方ですね」

 

 そうして、今回二度目となる尾獣玉の被害が離れた森で起こる。

 

「あっちか!」

「行きます」

 

 爆発の先へ向かったのは彼女と三代目、それと数人の上忍と思わしき忍達。

 監視するような目を受けながらも辿り着いた場所には、鎖に縛られた九尾と二人の男女。九尾を外に出さないようにする為の結界で中には入れなかった。

 

「赤い髪の女性……。ミト様の一族ですか?」

 

 四代目火影の使った術は「屍鬼封尽」。ナツエは初めて見るが、穢土転生の天敵とも言える封印術を得意とする「うずまき一族」の研究は親から大量に用意され、自身でも滅びた国の遺産を調べた経験もある。使用者の命と引き換えに死神の腹の中へ封印する封印術。

 九尾のチャクラが随分と封印されたらしく、その姿は小さくなったが、九尾は健在。縛られながらも振り下ろした爪は四代目と相方の女性を貫いた。

 

「子供……。母親、ですか。強いです。本当に、憧れるほどに」




穢土転生って八門遁甲の陣を使い続けるのが一番強いと考えている作者です。
それから、原作で体内門開くのが体術師弟だけですけど、恐らく術はチャクラの心配なく大技連発ぐらいはできると信じています。

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