ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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千歳が敵軍の捕虜となったという信じがたい凶報がカズヤの元に届く数時間前。

 

主殿内ではパラベラム軍が最早虫の息である帝国軍を一兵残らず殲滅するべく徹底的な掃討戦を繰り広げていた。

 

『こちら第5師団第3歩兵中隊、宮殿北の侵入口より主殿内部へ侵入。現在までに主殿の炊事場を確保しメイド数十名を保護』

 

『第202機動歩兵大隊よりHQ。現在、南別館の3階西廊下で敵と交戦中』

 

『第58歩兵連隊よりHQ。東別館の完全制圧を完了。敵対勢力は殲滅した』

 

『第25戦闘工兵中隊からHQ。南の別館の地下に隠されていた工廠にて特殊戦用魔導兵器10機及び高機能型自動人形の設計図を鹵獲した』

 

『親衛隊第38任務小隊より報告。SASと協同で後宮を制圧。しかし、突入前に複数の自害者が出た模様。遺体の回収班を要請する』

 

『こちらネイビーシールズ。主殿地下にて何かの研究室と……実験に使用された被験者らとおぼしき者達を保護した。至急応援を頼む』

 

『第33機甲師団、第1旅団戦闘団より報告。2名の皇族を捕捉し拘束した』

 

飛び交う無線からもパラベラム軍の優勢が簡単に読み取る事が出来た。

 

「邪魔だ!!雑魚共!!」

 

そんな中で主殿内へと突入した千歳は追随する味方の事などお構い無しに屋内を猛然と突き進み、主戦場となっている主殿の中央廊下で軍刀を振るい、遭遇する敵兵を悉く手当たり次第に斬り捨てていく。

 

「33、34、35ッ!!」

 

「だ、誰か奴を止めろー!!」

 

鼻歌代わりに斬った人数を数えながら、人間の血と脂にまみれた軍刀で敵兵を切り裂き血風を巻き起こしながら前進するその姿はまさに修羅の様であった。

 

「おのれ異教徒!!ここで息の根を止めてくれる!!」

 

「同胞の仇!!」

 

「ふん、ようやく少しはマシなのが出てきたか」

 

一般兵が抵抗する間もなく、むざむざと斬り捨てられ阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出す中で、それに待ったをかけるべく真っ白な法衣を纏い大杖を持った宮廷魔導士達がぞろぞろと現れ、千歳の行く手を遮る。

 

だが、当の千歳はといえば少しは斬りごたえのある相手が出てきたとばかりに不敵に口元を緩めていた。

 

「「「「レイド、ザムイ、レイキ、サムイ――エターナルフォースブリザード!!」」」」

 

魔導士達の同時複合詠唱が行われた直後、千歳の立っていた辺りが氷の世界に包まれ静寂が周囲を満たす。

 

「わはははっ!!やったぞ!!」

 

「異教徒め。我々に、帝国に刃向かうからこうなるのだ!!」

 

「このままの勢いで敵を押し戻し、我らの――ッ!?」

 

冷気に当てられながらも勝利に沸く魔導士達であったが、それも長くは続かなかった。

 

「……おい。まさか、これで終わりか?」

 

何故ならば魔導士達によって作り出された氷壁に亀裂が走ったかと思うと氷が粉々に砕け、その中から無傷の千歳が現れたからであった。

 

「な、何故生きている!?」

 

「何なんだ貴様は!!」

 

「死神だ!!冥界からやって来た死神だ!!」

 

千歳の持つ魔力障壁の発生装置で自分達の最強の術があっさりと破られた魔導士達は驚きを露にし恥も外見もなく逃げ出す。

 

「逃がすものか!!」

 

しかし、悪鬼羅刹の千歳が獲物を逃がすはずもなく、魔導士達が踵を返した瞬間には既に逃げ出した獲物を狩るべく駆け出していた。

 

「逃がすな、撃ち殺せ!!」

 

だが、ようやく追い付いてきた千歳の護衛である4人の千代田や親衛隊の兵士により魔導士達は銃弾の雨を浴びせられ1人足りとも逃げ切る事は出来なかった。

 

「邪魔をするな、千代田!!」

 

「姉様。お気持ちは分かりますが、少しは落ち着いて下さい。突出しすぎです」

 

「うるさい!!まだだ、まだ殺し足りん!!」

 

「ヒッ!!」

 

幾度となく主を傷つけられ、その上その代価を敵に支払わせる事が今まで出来ていなかったせいで溜まりに溜まった怨みや憎しみが爆発した千歳のバーサーカーモードに護衛の兵士が小さく悲鳴をあげる。

 

『HQより全突入部隊へ告ぐ。パーケッジ1(牟田口廉也)及びパッケージ2(仮面の男)は発見次第始末せよ。パーケッジ3(マリー・メイデン)を見付けた場合は手出しせず捕捉したまま速やかに副総統へ連絡。パーケッジ4(皇帝スレイブ・エルザス・バドワイザー)以下の皇族及び貴族共については可能な限り捕縛に努めよ。それ以外の者に対しては戦闘の意思無き場合にのみ捕虜とする事を認める。繰り返す――』

 

と、そんな時。

 

千歳の状態を見透かした様にHQから虐殺防止の定期無線が入る。

 

「……」

 

それによって僅かに冷静さを取り戻した千歳が立ち止まると、だめ押しとばかりにすかさず千代田が側に歩み寄った。

 

「姉様」

 

「……分かった」

 

そうして幾分か落ち着きを取り戻した千歳は千代田や護衛の兵士達と共に前進を再開した。

 

……戦闘の意志があろうとなかろうと、ご主人様を傷付けた国の者共など皆殺しにしてしまえばよいのだ。

 

しかし、それをすればご主人様の意向に叛いてしまうか。

 

戦いの最中に千歳や帝国としがらみのある兵士達が暴走せぬようにと繰り返し冷静さを求めるHQからの無線を煩わしく思いながらも千歳はそれに叛く事が出来ない事に歯痒さを感じていた。

 

「ここか」

 

そうして多量の返り血を浴びながらも、まるで我が家の中を歩くように悠然と主殿内を闊歩していた千歳は遂に目的地である玉座の間の扉の前へと辿り着く。

 

「開けろ」

 

千歳の命令に2人の親衛隊の兵士が構えていたHK416を肩に掛け直しつつ、サッと扉に取り付き足を踏ん張りながら扉に体重を掛ける。

 

「ゴーゴーゴーッ!!」

 

ギギギッと蝶番が軋む音と共に扉が押し開かれると既に突入の態勢を取っていた親衛隊が左右に別れて雪崩れ込み、部屋の壁に沿って素早く展開する。

 

「さて、ようやくだ」

 

そして、肝心の千歳はと言えば弾除けとなるべく傍に控えている4人の千代田と共に堂々と入り口のど真ん中から玉座の間に足を踏み入れていた。

 

「レンヤ……レンヤはどこにおるのだ!!レンヤがいなければ計画が……私の計画がぁ〜!!レンヤはどこだぁ〜!!」

 

「……」

 

予想していたような盛大なお出迎えが無く、少しばかり拍子抜けした千歳の視線に入ってきたのは玉座に座り錯乱した様子でレンヤの名を連呼する皇帝と、その背後に控える仮面の男の姿であった。

 

「貴様が報告にあった仮面の男か」

 

麻薬中毒者のそれと酷似した様相の皇帝を一目見て、興を削がれたように眉をひそめた千歳はもう一方の人物――仮面の男に声を掛けた。

 

「……」

 

「黙りか。まぁいい、妖精の里ではよくもご主人様に……ご主人様にッ!!」

 

言葉の途中でカズヤを殺そうとした男への怒りや憎しみの感情が押さえきれず激昂した千歳は歯を食い縛り鬼の形相で仮面の男を睨み付ける。

 

「楽に死ねると思うな!!その仮面の下に隠れている貴様の醜悪な顔が恐怖と苦痛に歪み、死を乞うまで嬲り殺しにしてやる!!」

 

「……」

 

皇帝が泡を吹いて失神し、味方の兵達すら怯えてしまうほどの怒気を放つ千歳に対し、仮面の男は何故か虚空を見つめた後、何かを耐えるように目を閉じ、そして千歳に向き直るとおもむろに口を開いた。

 

「――動くな」

 

「何を――な……に!?体が!?貴様ッ!!一体何を……ッ!!」

 

仮面の男のたった一言で金縛りにあったように全身の自由が効かなくなり、身動きが出来なくなってしまった千歳は仮面の男を睨み付ける。

 

「閣下!!総員、撃――」

 

千歳に何らかの異常が発生したのを見て、HK416を構えていた親衛隊の面々が攻撃の実行に踏み切る。

 

「総員武装解除。所持している全ての武器を捨てろ。それが済んだら……邪魔だから壁際に並んで立っていろ」

 

「な!?」

 

「どういう事だ!?」

 

だがしかし、再び仮面の男が口を開くと親衛隊の兵士達は自らの意思に反して全ての武器を地面に置くとぞろぞろと壁際に移動し、そしてそこで横一列に並んで動きを止めてしまった。

 

「貴様……召喚能力だけでなく催眠術系の能力まで持っているのか」

 

「……催眠術なんかじゃない。ただ“俺”の言葉にお前達は逆らえないだけだ」

 

まるで操り人形のように仮面の男の言葉に従ってしまっている自身や親衛隊に千歳は仮面の男が召喚能力以外にも他人を操る能力、もしくはそれに類する能力を所有しているのだと考えるが、他ならぬ仮面の男によってその推測は否定された。

 

「なに?……千代田!!動けるか!?」

 

嘘ではなくただ淡々と真実を口にしている様子の仮面の男に千歳は不気味なモノを感じつつ、何かと頼りになる妹に声を掛けた。

 

「……あり……得ない」

 

「まさかそんな……」

 

「あり得るはすが……無い」

 

「しかし、音声の照合結果は確かに一致して……いや、でも……」

 

「どうした千代田!?」

 

しかし、千代田からの返答は無く。

 

それどころかAIが元であるが故に狼狽える事など滅多に無いはずの千代田が見るからに狼狽し、4人が4人ともフリーズしてしまったかのようにブツブツと独り言を漏らしていた。

 

「貴様!!我々に一体何をした!!」

 

「簡単な事だ」

 

千歳の詰問に含み笑いを交えながら緩慢な動きで仮面を外す仮面の男。

 

「バ、バカな!?」

 

「嘘だろ!?」

 

白日の元に晒されたその素顔を目の当たりにした親衛隊の兵士達は驚愕のあまり目を見開き。

 

「やはり……」

 

「信じたくはないですが……」

 

千代田は仮面の男の声――声紋からその正体を導き出していたために、目を細め口を一文字に結ぶ。

 

「……」

 

そして千歳は自分の目に映る光景を疑い、言葉を失った。

 

「これで分かっただろう?なぁ、“千歳”」

 

「ご……主人……様……?」

 

仮面の男の正体――それは自らの主と同じ顔、同じ声、同じ体を持った人物。

 

他ならぬ長門和也その人であった。


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