ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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ドカンッと鼓膜を激しく打ち震わせる爆発音や、破壊されガラガラと崩れ落ちていく城壁の一部が引き起こす崩壊音。

 

それに加えていつまでも耳にこびりつくような悲痛に満ちた人間の断末魔。

 

それらが織り成す破壊と死の協奏曲が唐突に止んだ。

 

「お、終わった?」

 

地に伏せた状態で砂まみれの顔を恐る恐る上げた帝国軍の一般兵が辺りの様子を伺いながらそう呟き、各所から立ち上る黒煙で霞んでいる宮殿の主殿を何気なしに見上げる。

 

「……良かった。ッ、こりゃ酷い」

 

「うぅ……た、助けてくれ」

 

「イテェ……イテェよ……!!」

 

「誰かー!!手を貸してくれー!!ここに仲間が埋まっているんだ!!」

 

全くの無傷のままその往年の姿を保つ帝国の象徴――帝国旗が翻る主殿にほっとしたのも束の間、幾つものクレーターが穿たれ流血によって赤く染まった負傷者達が溢れている悲惨な状態の持ち場を目の当たりにして兵士は呆然と言葉を漏らした。

 

「おい、貴様!!今は猫の手でも借りたい時なんだ!!さっさと立ち上がって働け!!敵はすぐにやってくるぞ!!」

 

「は、はい!!」

 

そんな風に呆然としていた兵士だったが、被害箇所の修復や負傷者の救助の為にやって来た魔法使いに呆然としている所を見咎められ、怒鳴り声を浴びせられたため慌てて立ち上がった。

 

「……」

 

しかし、魔法使いに怒鳴られ立ち上がったは良いものの、何をしたらよいのかと兵士は困惑した表情で辺りをキョロキョロと見渡すだけであった。

 

「おい、何をしている!!早く動かんか!!」

 

「ハッ、それがその……先ほどの攻撃で隊長が戦死なされため自分は何をしたらよいのか分かりません。……それにそもそも最初に配置につけとの命令が来ただけで今の状況もあまり把握出来ていないのです」

 

そんな姿を先ほどの魔法使いに再び見咎められ首を竦める兵士だったが、困った顔でそう言い返した。

 

「えぇい!!とりあえず貴様は瓦礫の下敷きになった負傷者を引っ張り出してこい!!」

 

「ハッ、了解です」

 

「クソ……。どこもかしこも指揮官が不在か戦死。加えて上からの命令も降りて来ぬし今の指揮系統がどうなっているのかなど私が知りたい位だ。それにしても陛下は無事に地下の御所に避難されたのだろうか……。というか、この様な時にレンヤ様は一体どこに居られるのか。あの方のお力があればこの程度の危機など直ぐに方が付くはずなのだが……」

 

指示を与えた兵士が走り去って行くのを見送った魔法使いは眉をひそめながら悪態を吐く。

 

そして、自分も動かねばと足を踏み出した時であった。

 

それはやって来た。

 

「攻撃開始。愚者共を地獄に送ってやれ」

 

「「「「ハッ!!」」」」

 

パラベラム空軍による的確な航空攻撃により各所で損害を被った帝国軍が態勢を立て直し急ぎ迎撃の準備を整えようと必死になっていた最中、副総統という立場にありながら一兵卒に紛れて最前線にその身を晒す千歳の号令が下されると攻撃開始位置に展開し、宮殿を取り囲むパラベラム軍の地上部隊が行動を開始した。

 

「工兵隊、前へ!!」

 

千歳の攻撃命令と同時に動き出したパラベラム軍はまず、宮殿の周囲をぐるりと取り囲んでいる水堀を越えて宮殿内部へと侵攻する為に必要な橋を架けるべく工兵隊を前に出す。

 

「よし、行くぞ!!」

 

「了解!!」

 

宮殿の正面に位置する南門からはアメリカ合衆国が開発した主力戦車――M1エイブラムスの車体から砲塔を抜き取り、代わり橋梁の展張ギアを装備した装甲戦闘工兵車両のM104ウルヴァリンがけたたましいエンジン音を立てながら護衛のM2A3ブラッドレー歩兵戦闘車2両と共に無残に破壊された城門へと向かって行く。

 

ちなみに南門の侵攻を担当しているのは千歳率いる3個師団の親衛隊を筆頭にアサルトアーマー部隊や某アニメに登場したガタクと外見が似通っているカノーネパンツァー部隊、更に千代田が操る無人兵器部隊である。

 

また東門には陸軍4個師団が、西門には海兵隊3個師団がそれぞれ配置され、そして宮殿の裏門にあたる北門には妖魔や獣人を主として編成されてこれまでも幾多の戦功を上げている第33機甲師団を含む4個混成師団が配置されていた。

 

「こちらグラスホッパー01。架橋位置に到着。敵の妨害は認められず。これより架橋作業に入る」

 

『CP了解』

 

作戦行動中の部隊に対して迅速な支援が実施出来る様に設計がなされているM104が所定の位置に到着すると、搭乗している2名の乗員が安全な車内から機器を操作し分割され重ねられた状態で車体上部に装備されている全長26メートルのLEGUAN橋梁の下部パーツをゆっくりと伸ばしていく。

 

そしてせり出した下部パーツに上部パーツが連結され、後はアームによってLEGUAN橋梁を水路の上に架橋するだけとなった時であった。

 

「下部および上部パーツの連結確認」

 

「展張アーム展開開始。――ッ!!敵弾飛来!!」

 

爆撃によって破壊された城門の影や城壁の上に隠れて機を伺っていた帝国軍の攻撃魔法の集中砲火がM104やM2A3を襲う。

 

『マンティス1よりグラスホッパー!!敵の数が多すぎるぞ、これは!!』

 

「分かっている!!グラスホッパー01より本隊の援護を求む!!」

 

『こちらCP。こちらの方も既に援護射撃を開始した』

 

「援護射撃の効果が認められず!!更なる援護を求む!!」

 

『CP了解、120秒待て』

 

「了解!!」

 

敵の反撃の直後、護衛のM2A3が25mm機関砲やM240 7.62mm機関銃で応戦し、更にM2A3から降車して周辺警戒にあたっていた歩兵達が弾幕を張り敵を撃退しようと奮戦するが敵の攻撃の勢いは収まらず、また誤射を防ぐために大火力の兵器を除いた本隊からの援護射撃もあったがそれでもなお敵の攻撃は続いていた。

 

そんな中、架橋作業中の為に回避行動が出来ないM104に次々と魔法が命中していく。

 

「車体後部に被弾!!ッ、エンジンがエンストしました!!」

 

「再始動急げ!!」

 

「ッ、ダメです!!かかりません!!」

 

「クソッ!!死に物狂いの敵はいつだって厄介だな!!後は車両を退けるだけだってのに……だが架橋作業自体はギリギリ完了。目的だけは何とか果たせたのが幸いか」

 

強固な防御力を持つエイブラムスの車体のお陰で正面から放たれた魔法は問題にならなかったM104だが、車体後部に受けた敵の魔法がきっかけで架橋作業完了直後にエンジンがエンストし行動不能に陥ってしまう。

 

「グラスホッパー01よりCP。架橋作業は完了したがエンジン不調により行動不能。現在地からの車両の移動は不可能だ。これより退避する。ついては車両の放棄許可を!!」

 

『CP了解、車両の放棄を許可する。直ちに退避せよ』

 

M104の乗員が思わず漏らしたように、魔法至上主義を掲げ曲がりなりにも大国であった帝国の意地を見せるような反撃は苛烈を極めた。

 

しかし、パラベラム軍が、引いては千歳が率いる親衛隊がこの程度で引き下がる訳もなく。

 

「さっさと潰せ」

 

そして、それを象徴するような端的な言葉が千歳の口から紡がれる。

 

M104の乗員がM2A3に乗り込み城門前から退避した後、至近距離まで前進したカノーネパンツァーの203mm榴弾砲の直射で城門付近一帯は粉微塵に爆砕され、次いで機動力を生かして水堀をジャンプで飛び越えたアサルトアーマーが残敵を掃討し橋頭堡を確保。

 

その後、擱座したM104を88装甲回収車が回収すると千歳や親衛隊はLEGUAN橋梁を渡り悠々と宮殿の内部へと足を踏み入れ目的地である主殿を目指した。

 

なお、他の門を巡る戦闘では東門と西門がほとんど抵抗らしい抵抗を受けずに侵入に成功したが、北門では南門同様の激しい抵抗が発生。

 

「亜人が居るぞ!!」

 

「なんと穢らわしい!!」

 

「やつらを決して宮殿内へ踏み入れさせるな!!」

 

というのも、先鋒を務めた第33機甲師団に多くの妖魔や獣人が居ることを帝国軍が察知したためであった。

 

お陰で自分達の国の聖域と言うべきような宮殿に迫害の対象としていた妖魔や獣人を入れまいと半ば狂気染みた反撃が行われた。

 

そのため第33機甲師団は架橋作業に取り掛かる前にとある車両を投入。

 

それは史実において修理のために後方へと送られて来たティーガーⅠの兵装を換装し装甲厚を大幅に増やして製作されたシュトルムティーガーであった。

 

ただでさえ強力であった8.8cm高射砲をスターリングラードの戦闘における戦訓を元に38cmロケット臼砲という化物染みた兵器に載せ換えたシュトルムティーガーは8.8cm高射砲の約1800倍の威力がある350キロの砲弾を城門に対して一斉に発射。

 

長さ約1,5メートルのロケット砲弾は40キロものロケット推進薬によって撃ち出され、城門や城壁に着弾すると弾頭に充填された125キロの高性能炸薬が起爆。

 

史実では至近弾だけで数輛の戦車を戦闘不能へと追いやった事もあるという威力を思う存分発揮した。

 

そんな恐ろしい砲弾を受けた城門とその付近の城壁は砲弾の命中と同時に消滅。

 

そうして敵をあらかた排除した後、悠々と架橋を終えた第33機甲師団は第二次世界大戦中にドイツ第3帝国で試作され完成には到らなかった超重戦車――E-100。

 

それも8.8cm連装式対空砲を搭載したE-100対空戦車を先頭に宮殿内へと侵入。

 

対空戦車と言っても明らかにその強力な連装砲を使用しての硬目標の撃破を期待されているE-100対空戦車は、宮殿内へと侵入するとその期待に答えるように敵のトーチカや城塔を次々と粉砕していった。

 

そんなE-100対空戦車に続けとばかりに第二次世界大戦時に登場した世界各国の多種多様な戦車群が進軍。

 

ロマン溢れる光景を現実のものとしつつ、立ち塞がる帝国軍をスチームローラーの要領で押し潰しつつ宮殿の主殿へと迫った。

 

「なぁ、なんでウチの隊長は変な楽器を吹いてんだ?」

 

そんな中、活躍の場を戦車と飛行歩兵達に持っていかれほとんどすることが無く暇を持て余していた通常の歩兵部隊の兵士が遠くから聞こえる砲声に獣耳を立てながら自身の胸に抱いた疑問を口にした。

 

「知らねぇよ。というか、その前に剣と弓矢しか武器を持ってない所を突っ込めよ」

 

「……異世界の人間はよく分からん」

 

そんなこんなで作戦は順調に進み、宮殿突入開始から約4時間程で全部隊が宮殿の主殿前へと揃い踏みしていた。

 

「残るは主殿のみ」

 

怨敵がいるであろう主殿を前に千歳が舌舐めずりをして、腰の軍刀に手を掛けた時であった。

 

主殿の隣にある大聖堂で大きな爆発が起きた。

 

「セリシアめ、派手に始めたな……。我々も遅れをとるな!!行くぞ!!私に続け!!」

 

一足先に大聖堂の制圧に向かったセリシアに思いを馳せつつ、千歳はそう言うと護衛の兵士を置き去りにするような速さで駆けて行った。


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