ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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並々ならぬ殺意と確固たる決意を胸に秘める千歳が突入部隊と共に集結地点から宮殿への移動を開始した頃。

 

『HQより全部隊に通達。これより作戦コード37564を発令――オリンピック作戦を開始する。各部隊は作戦行動に移れ』

 

この戦争に終止符を打つための最後の作戦――オリンピック作戦の実行がパラベラム軍全軍に通達され、最終決戦の始まりを告げるゴングが打ち鳴らされた。

 

『こちらイーグルアイ。オリンピック作戦の開始を確認。――イーグルアイよりグレース隊、空中待機を解除。作戦開始に伴い予定通りフェイズ1へ移行せよ』

 

HQから作戦実行の通達を受け、帝都から少し離れた空域で作戦行動中のE-767早期警戒管制機(AWACS)――イーグルアイに乗り込む管制官達が空中待機中の航空部隊へ矢継ぎ早に命令を下す。

 

『グレース1了解。空中待機を終了しフェイズ1へ移行する。現着まで120秒』

 

イーグルアイからの指示の元、まず最初に待機空域で空中待機していたF-15Eストライクイーグルが4機、宮殿上空へ急行する。

 

「ッ、来たぞ!!敵機来襲!!」

 

「おのれ、忌々しい異教徒め……守備隊は迎撃の用意だ!!」

 

宮殿の見張り台に居た兵士の大声と打ち鳴らされる鐘の音に反応して、防備を固める宮殿内が一気に騒がしくなる。

 

「将軍閣下!!無理です!!あの高さで飛ばれていては手出しが出来ません!!」

 

「……退避ー!!身を隠すんだ!!」

 

宮殿を守っていた魔力障壁が突然消失した事や、レンヤの姿がどこにも見当たらない事などから指揮系統が混乱し、誰が何をしているのかさえ把握出来ていない中、状況を把握するため城壁に上がり兵達の統率を執っていた老年の将軍が側にいた兵士の報告に前言を撤回する。

 

「退避!!退避だ!!」

 

「退避!?退避たって……どこへ隠れろってんだ!?」

 

「おぉ、神よ。我が身を守りたまえ……」

 

戦いが始まる前から混乱の渦に飲み込まれた宮殿では右往左往する兵士や祈りを捧げる貴族達の姿がそこかしこで見られた。

 

『目標上空に到着。これより攻撃を開始する。グレース1より各機に告ぐ。ペイブェイⅣの投下用意……投下!!』

 

『グレース2了解。ペイブェイⅣ投下』

 

『グレース3、ペイブェイⅣ投下完了』

 

『グレース4、ペイブェイⅣ投下ッ!!』

 

眼下で右往左往する敵の事など露知らず、宮殿上空に到着した4機のF-15Eは帝都の中心、小高い丘の上に建てられ年月と共に幾度とない増改築を繰り返されて巨大化し、更には幾重にも防御設備を増設されて堅固な要塞としての機能を兼ね備えた宮殿に対しレーザー誘導爆弾であるペイブェイⅣを計8発投下。

 

投下されたペイブェイⅣは地上で誘導任務に就いている統合末端攻撃統制官(JTAC)の誘導により目標とされた城門に命中し炸裂、鋼鉄で出来た門を粉々に破壊した。

 

「ゲホッゲホッ……クソッ、城門が完全に吹き飛ばされたぞ……」

 

「呆けている暇は無いぞ!!被害確認を急げ!!それから魔法使いを召集し土の壁を作らせろ!!何も無いよりはマシだ!!」

 

「了解!!」

 

敵の侵入を阻むはずの分厚い城門を易々と破壊されながらも、やるべき事、為すべき事が明確となった事で守備隊の兵士達が混乱から抜け出し対応のために必死に駆け回る。

 

「伝令ー!!伝令ー!!」

 

「何だ!!」

 

「先の攻撃により東西南北の一の門、二の門を含む全ての門が破壊されました!!」

 

「「「「……」」」」

 

しかし、たった4機のF-15Eの爆撃により宮殿の主館に至るまでに固く立ち塞がっていた東西南北の各2門、計8つの城門をピンポイントで破壊された事を知り、守りについている帝国軍兵士達は早々に絶望感を味わう事になった。

 

『……グレース1よりイーグルアイへ。目標の全破壊を確認した』

 

『イーグルアイ了解。フェイズ1を終了し、フェイズ2へ移行する』

 

城門が破壊され、侵入経路が確保されると作戦が次の段階へ進む。

 

『イーグルアイよりアサー01へ。これよりフェイズ2を開始します。地上部隊の突入支援のため城壁上の敵兵や目視範囲内の敵を掃討して下さい』

 

帝国軍が被害の確認と対応に追われている最中、グレース1の報告と宮殿周辺を飛行しているMQ-9リーパーから送られてくる映像でグレース隊の爆撃の効果を確認しつつ、イーグルアイの管制官が新たな指示を下す。

 

『こちらアサー01、了解した。我が隊はこれより攻撃に移る』

 

F-15Eの爆撃から間をおく事なく、続いてMi-24ハインドの後継機であり同軸反転式ローターという珍しい特徴を持つKa-50ホーカムが編隊を組みつつ中隊規模で宮殿に接近。

 

宮殿近くまで進出した後は編隊を解いて1機単位でバラバラに分散し、宮殿から一定の距離を保ちながらホバリング状態での横移動で周回機動を開始。

 

と同時に機首の30mm機関砲2A42の砲火を開き城壁上で弓に矢をつがえようとしていた敵兵を砲弾で粉砕し、また4箇所のハードポイントに搭載した20連装ポッド4基から次々とロケット弾を発射して盾壁や城塔を容赦なく爆砕していく。

 

「――撃て!!」

 

「詠唱を続けろ!!」

 

『っと、アサー01よりイーグルアイへ。敵の反撃を受けつつある。一時退避を要請する』

 

だが、一方的な攻撃に帝国軍もただやられていくだけではなく一矢報いようとKa-50の攻撃の隙を縫い、魔法やバリスタ、魔導兵器が扱う魔砲を改造した対空火器を擁する帝国軍の対空部隊がKa-50に必死の反撃に打って出る。

 

『こちらイーグルアイ、了解しました。一時退避を許可します』

 

『アサー01了解、一時退避する』

 

一時退避の許可が降りた事でKa-50は全機が素早く戦闘空域から離脱していく。

 

だが、それを逃がすまいと帝国軍は届くことのない対空砲火を放ち続ける。

 

『イーグルアイよりホワイトロック01へ、こちらで敵の火点をマークしました。マークした目標を全て破壊して下さい』

 

それらの光景を高空から眺めていたイーグルアイが後続として待機していた第151航空連隊所属のAH-64Eアパッチ・ガーディアンへ攻撃指示を出す。

 

『こちらホワイトロック01。了解した。……ターゲットロック。マーベリック発射』

 

イーグルアイから転送された攻撃目標のデータに従い、それぞれの目標を照準に捉えた大隊規模のAH-64Eが空対地ミサイルのAGM-65マーベリックを発射。

 

両翼のスタブウィングに懸架されているマーベリックが白煙と共に飛び出し、固体燃料ロケットを激しく燃焼させながら目標へと一直線に飛んで行った後、やけっぱちの様に激しく魔力弾の対空砲火を吐き出す対空火器や魔法使い達を次々と吹き飛ばしていく。

 

『マーベリックの残弾0。ハイドラに切り替える』

 

だが、1機に付き8発しか無いマーベリックで無数の目標全てを破壊することは不可能であった。

 

そのためマーベリックを撃ち尽くしたAH-64Eは順次攻撃手段をハイドラ70ロケット弾に切り替える。

『攻撃を再開』

 

ただし、マーベリックの代用として使用されるハイドラはただのハイドラでは無く、ロケットモーターと弾頭の間に誘導装置を付け足し、安価な空対地ミサイルと化したAPKWS(先進精密攻撃兵器)であった。

 

『全目標の沈黙を確認』

 

元が無誘導のロケット弾であるが故に携帯弾数も多く、またコスト面でも優れた兵器となったハイドラの活躍によって宮殿から放たれる砲火は0となり、代わりに黒煙の筋がいたるところから立ち上る事となった。

 

『現在、残存戦力を捜索中』

 

『突入部隊到着まで残り5分』

 

『到着まで残り5分か。見える範囲の敵はあらかた片付いたはずだが……うん?こちらイーグルアイ。宮殿西側の倉庫より多数の魔導兵器が出現した。ホーネットハイブ01、直ちに凪ぎ払ってくれ』

 

すっかり静かになった宮殿上空を飛び回るMQ-9のライブ映像を目にしていたイーグルアイの管制官は新たに出現した脅威を突入部隊が宮殿に到着する前に潰すため、今か今かと出番を待っていた部隊へ連絡を取った。

 

『ホーネットハイブ01、了解。すぐに排除する』

 

自分達の分の獲物が残っているかどうか不安気に空から様子を見守っていたホーネットハイブ01――AC-130のパイロットは待っていましたと言わんばかりの声で答え、すぐさま機体を左に傾け攻撃態勢を取る。

 

そして、次の瞬間には準備万端の状態であった20mmバルカン2門と40mm機関砲1門、105mm榴弾砲1門が現れたばかりの魔導兵器の頭上にこれでもかと弾丸を叩き込み、魔導兵器を火柱と爆煙で包み込む。

 

結果、そんな地獄に突然見舞われた魔導兵器は回避行動に出る間もなく、瞬く間に壊滅し付近に出来たクレーターの一部と成り果てた。

 

『こちらイーグルアイ。今度は宮殿東側の偽装陣地から魔導兵器が出現した。アサー01、そちらが一番近い。狙えるか?』

 

『アサー01、可能だ。こちらで対処す――うわ!?』

 

一時退避後、編隊を整え直し再度戦闘空域に舞い戻り撃ち残した弾薬の使い道の機会を窺っていたアサー01はイーグルアイからの要請に答えようとし、途中ですっとんきょうな声を上げた。

 

『アサー01どうした!?』

 

『A-10に乗ったバカが俺達の編隊の間をすり抜けて行ったぞ!!……肝心の魔導兵器はA-10が急降下爆撃で撃破したが、さっきのバカなんだ!!』

 

『何?A-10だと!?現在出撃中のA-10など居な――イーグルアイよりHQ!!直ちに後方の全医療機関に問い合わせ脱走兵の有無を確認されたし!!』

 

ハッと嫌な予感がしたイーグルアイの管制官がHQへ確認を取ると、管制官の嫌な予感は見事に大当たりであった。

 

『こちらHQ。ルーデル少佐が病院から姿を消し、また後方の支援基地から無許可で出撃したA-10が1機確認された』

 

HQからの返信で、アンヘルの反撃で撃墜され負傷し後送されていたにも関わらず、運び込まれた病院から見張りの目を盗んで脱走して出撃していたルーデル少佐の存在がここに至って露呈した。

 

『『『『……』』』』

 

『……変わらんなあの人は』

 

HQからの返答にイーグルアイの管制官達は互いの顔を見合せ、肩をすくめながら自らの職務へと戻るのであった。

 

『イーグルアイよりHQへ。攻撃対象の存在は確認出来ず。繰り返す、攻撃対象の存在は確認出来ず』

 

『こちらHQ了解。これより地上部隊が宮殿内へと突入する。以後の航空支援は地上部隊との連絡を密にし誤射に注意せよ』

 

そうして戦場を支配していた航空部隊の活躍は終わり、戦いの主役は地上部隊へと移った。


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