ファンタジー世界を現代兵器チートが行く。   作:トマホーク

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※ちょっとした現状報告。
(興味の無い方は飛ばして頂いて大丈夫です)

え〜と……まぁ……ちょっと色々ありすぎてまして鬱病になりました。
(;´д`)

そのため7月の終わり頃から会社を休職し、時間だけは大量にあったのですが、8中旬頃までは鬱のせいで何も(日常生活すら)出来ず更新がここまで遅れてしまいました。

また、鬱が完治していない状態で何とか執筆しているため文章におかしな所があるかも知れませんが、もしありましたらご指摘頂けると有難いです。


13

有する国力で勝り、動員した兵力で勝り、そして何より使用する兵器体系で勝り、パラベラムの負ける要素が何ら見当たらない帝都攻略戦。

 

事実、今の戦況も絶対的な優勢を保ち勝利は揺るがない事からパラベラム軍の軍全体に多少なりとも戦勝ムードが漂っていた。

 

だが、千歳以下の師団長クラスの上級指揮官が一堂に会した臨時の前線司令部には軍に漂う戦勝ムードの真逆――連敗続きの時のような重苦しい空気が立ち込めていた。

 

「……」

 

「「「「……」」」」

 

ちなみにその重苦しい空気は自然と形成されたモノではなく、腕を組みながら険しい顔で上座に鎮座する千歳が無意識の内に発生させているモノであったりする。

 

何故それほどまでに千歳が不機嫌なのかと言えば、帝都攻略戦が始まってから既に2週間が経過しているのにも関わらず敵の本丸が残っているからであった。

 

時系列的に見れば初日には陸海空の各方面から比類なき大兵力を投入しての物量作戦で帝都を守る帝国軍部隊の多くを撃破せしめ、多少の被害を被ったものの魔物の大群やアンヘルを殲滅するという大戦果を上げたパラベラム軍はこの日だけで帝都の4分の1に相当する面積の攻略に成功。

 

2日目からは戦車部隊と機械化歩兵部隊を主力とした歩戦共同部隊が槍機戦術――一気に展開、一気に攻撃、一気に撤収という市街地における新しい機動作戦の運用により敵の防衛線を各地で寸断した上で、某赤い国並みの規模の歩兵部隊を集中投入し孤立した帝国軍をしらみ潰しに各個撃破。

 

その後も塗り絵をペンキで塗り潰すが如く凄まじい勢いで占領域の拡大を図り、そして槍機戦術と人海戦術を用いた猛攻に次ぐ猛攻により帝国軍の組織的抵抗が目に見えて減少した5日目には帝都の中心で魔力障壁に守られ聳え立つ宮殿や大聖堂を除いた帝都全域の制圧を完了。

 

また、その3日後には帝国軍の敗残兵や狂信的なローウェン教信者からなる反抗勢力が隠れ家兼地下陣地として利用していた下水道などの地下施設の出入り口を悉く爆破し、生き埋め状態となった反抗勢力が魔法を使って地上へ這い出てくる前に第二次世界大戦で地下陣地に立て籠る日本軍に対してアメリカ軍が行ったように大量のガソリンを地下施設内に流し込み反抗勢力をこんがりと真っ黒になるまで焼き尽くす事で掃討。

 

結果として僅か1週間と少しでパラベラム軍は帝都の占領を完了していた。

 

しかしながら、それほどまでの戦果を得ていても必ず攻め落とさねばならない宮殿と大聖堂が帝都を落とすために必要とした同じ時間を掛けてもなお健在で、確保または殺害するべき最重要人物達が野放しになっているという現実が千歳の気分を害し焦らせていたのである。

 

「全ケラウノス、低軌道上に展開完了」

 

「戦術データリンクとのリンク確認」

 

「バルドル、ヴォータン、オーディン、フェンリル、レクス。全ケラウノスの照準連動及び照準補正よし」

 

「同時同一箇所攻撃の用意よし」

 

「発射カウント5、4、3、2、1、0」

 

「発射」

 

とは言えパラベラムはもちろん、当の千歳も座してただ時間を浪費している訳ではなかった。

 

艦砲や重砲などを集中投入した24時間の制圧射撃や魔力障壁の側に積み上げた300トンもの高性能爆薬の一斉起爆など様々な試みを実行し、状況を打開しようと動いていた。

 

しかしながらそれら全ての試みが失敗してしまったがために、今現在パラベラムが保有する5基のケラウノスによる一斉攻撃という新たな試みが試されている最中であった。

 

「弾体降下を開始」

 

「補助ロケットブースターに点火」

 

「目標まで残り9秒」

 

「弾着まで3、2、1、0」

 

「目標に全弾命中」

 

「現在戦果を確認中」

 

「……チッ」

 

戦果を確認するために送り込まれた無人偵察機のRQ-1プレデターが送ってくる現場映像、それが映る巨大なスクリーンを眺めていた千歳は弾着の影響で舞い上がった土煙が収まる前に舌打ちを打っていた。

 

「……も、目標健在。魔力障壁及び宮殿に損害を認められず」

 

「これでも駄目か……」

 

「なんて硬い魔力障壁なんだ」

 

「どうすればあの魔力障壁を突破出来る……」

 

オペレーターの無情な報告に居合わせた上級指揮官達が口々に驚きの声を漏らす。

 

「……」

 

「副総統閣下、どちらへ?」

 

眺めていたスクリーンから視線を外し、不意に席を立った千歳に壮年の師団長が声を掛ける。

 

「ご主人様に核兵器の使用を具申してくる」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

千歳の口から飛び出した核兵器の使用という言葉に場の空気が凍り付く。

 

「お、お待ちください!!核兵器の使用はまだ早計かと」

 

「そうです。まだ何か方法があるはずです」

 

「核兵器の使用ともなれば兵を被爆という要らぬ危険に晒す事になりかねません!!」

 

「ならばどうする。これ以上無用な時間を費やし敵に貴重な時間を与えるのか?」

 

「そ、それは……」

 

「「……」」

 

「奴等が何を考えているのかは知らん。だが、これまでの行動からして奴等が時間を稼ごうとしているのは明白。そんな奴等にこれ以上の猶予を与えるのは核兵器の使用以上にデメリットがある」

 

「……」

 

敵を殲滅するには有効な手段でありながら、それ以上の問題を引き起こす核兵器の使用に躊躇いを抱いた複数の将官の抗議の声をあっさりと説き伏せた千歳が踵を返し再度カズヤへ連絡を取ろうとした時だった。

 

「ま、魔力障壁が消滅しました!!」

 

オペレーターの驚きに満ちた声が前線司令部に響き渡った。

 

「何!?」

 

「どういう事だ!!」

 

「分かりません!!いきなり魔力障壁が消えました!!」

 

「……ケラウノスの攻撃が効いたのか?」

 

「いや、魔力障壁は完全に攻撃を防いでいた様に見えた。攻撃が効いていたのであれば弾着と同時に消滅していたはず」

 

「だったら何故、魔力障壁は消えたんだ?」

 

いくら攻撃を加えようとも健在であった魔力障壁が突如として消滅した事で前線司令部内は混乱に包まれ事実確認に大わらわだった。

 

「副総統閣下、これは我々を誘い込むための罠なのでは?」

 

「……罠であろうと何であろうと構わん。魔力障壁が消えた、その事実だけでよし。――全軍に通達!!これより宮殿と大聖堂を攻め落とす!!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

こちらを誘っているかのような状況に不信感を抱いた将官が千歳に罠の可能性を問うが、千歳から返って来たのは攻撃の指示と背筋が凍るような獰猛な笑みであった。

 

「急げー!!すぐに敵がやって来るぞ!!」

 

「何故だ!!何故魔力障壁が消えたんだ!!」

 

「誰か、誰かムタグチ様を見た者は居るか!?」

 

「皇帝陛下を安全な場所へ!!」

 

「おぉ……神よ。我らを異教徒の手から守りたまえ、汚らわしき者達を滅ぼしたまえ」

 

あらゆる攻撃を防いでいた魔力障壁という最強の盾にして命綱が何の前触れもなく突然消え去り、身を守るための設備が初代皇帝の残した城壁や城門などの極めて原始的な防衛設備だけになってしまった帝国側がてんやわんやで宮殿内の防御態勢を固めている最中。

 

その宮殿から少し離れた場所にある瓦礫の山の上に1人布陣した千歳は鷹のように鋭い視線で宮殿を睨みつつ、この時の為にあらかじめ用意されていた背後の簡易陣地――部隊の集結地点で各突入部隊の準備が整うのをただじっと待っていた。

 

「……」

 

「やっと見付けました。こんなところに居たのですか」

 

目に見えるような殺気を垂れ流し殺意に溢れたその姿のために近付く者は誰もおらず、故に千歳の周囲だけは不気味な静寂に満ちていたが、その静寂を破る者が不意に現れた。

 

瓦礫の山を登り千歳の隣へと並び立ったのは、いつも被っている真っ黒なローブのフードを珍しく脱ぎ、短いブロンドヘアーを風にたなびかせながら強い日の光に目を細めるセリシアであった。

 

「何か用か?」

 

隣に立ったセリシアをチラリと一瞥し、すぐに興味を無くしたように視線を戻しつつも律儀に言葉を返す千歳。

 

「いえ、用と言う程では無いのですが……ただ何となく戦いが始まる前に貴女と少し話がしたかったんです」

 

「そうか」

 

「……」

 

「……」

 

宮殿にばかり意識を向ける千歳の素っ気ない返答に話の取っ掛かりを失ったセリシアは困ったように視線をさ迷わせた後、千歳と同じ方向に視線を向け黙り込む。

 

「……あと少しでこの戦も終わりますね」

 

暫しの沈黙の後、千歳が見ている宮殿では無く宮殿の隣に聳え立つ大聖堂を見据えていたセリシアが感慨深げに口を開く。

 

「あぁ、そうだな」

 

「この戦いが終わったら……貴女はどうするつもりですか?」

 

「どうする……か。ふむ、どうすると言われてもな。これまでもこれからも私のやることは変わらん。全てはご主人様の為。ご主人様が望まれる事を全て叶える事が私の使命。ご主人様のためにこの命を捧げご奉仕するだけだ」

 

「……貴女らしい答えですね」

 

セリシアの返答を聞きどこか弱々しいと言うか弱気と言うか、いつもと雰囲気が少し違う事を感じ取った千歳は無意識の内に眉をひそめた。

 

「そう言えば大聖堂の制圧は一任して欲しいと言っていたが、本当にそっちは大丈夫なんだろうな?何なら千代田を2〜3人送るが」

 

「いえ、結構です。これは私が……元ローウェン教信者の我々がつけるべきケジメですから」

 

セリシアの様子に僅かな不安を抱いた千歳がそれとなく千代田の派遣を提案するが、セリシアは強い意思を瞳に宿しながら首を振りそれを断った。

 

「そうか。ならば大聖堂の管理者――聖母マリアンヌ・ベルファストの始末はお前に任せた。言うまでもないが生きて帰ってこい」

 

「……私の事を心配してくれているのですか?」

 

千歳の口から出た言葉にセリシアは驚いた様子で言葉を返した。

 

「お前の心配じゃない。お前が死んだ際にご主人様が気に病まれる事を心配しているんだ」

 

「フフッ、それもそうですね。我らが主は心配性な方ですから」

 

攻略戦初日にウリエルの攻撃で自身が負傷し後方へ下がった際、専用機で颯爽と現れ完全治癒能力で傷を癒し、ついでとばかりに居合わせた負傷兵全てを治してから(某副総統に)事が発覚しない内に怯えた顔で脱兎の如く帰っていった男の事を思い浮かべたセリシアはクスクスと苦笑した。

 

「……?」

 

「――姉様、準備完了です」

 

そんな出来事があった事を知らない千歳がセリシアの反応に首を捻っていると部隊の準備の指揮を取っていた千代田が姿を現す。

 

「そうか」

 

準備完了の知らせに千歳が振り返り視線を下げると、そこにはフル装備に身を包んだ兵士達と用意されたストライカー装甲車などが整然と列をなしていた。

 

「総員傾注!!」

 

千代田の掛け声と同時にザッと姿勢を正す身動ぎの音が響き、兵士達の視線が千歳1人に注がれた。

 

「我々はこれより宮殿内への侵攻を開始する!!これが最後の戦いだ!!死命を尽くして最善を尽くせ!!以上!!」

 

「総員乗車ァ!!」

 

最早待ちきれぬとばかりに訓辞を端的に短くした千歳はセリシアと別れ、千代田の指示の声を聞きながら準備されていた装甲車に乗り込むと一路宮殿へと向かった。


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