これは魔法少女ですか?~はい、ゾンビです~   作:超淑女

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2「そう、義姉です」

 マミはダッシュで家へと帰ってきた。

 外の日差しのためもはややつれて今にも干物になりそうな顔だが、震える手でなんとか部屋に入る。

 カバンの中にストックしておいた水を飲むと、すっかり元通りのマミ。

 キッチンでエプロンを取って、リビングへと入る。

 そこにいるユウはメモ帳をペンで叩く。

 

『めし』

 

 さては昨日書いた奴の使い回しかと思ったが、カバンをソファに投げると、エプロンをつけ始める。

 そして苦笑しながらユウを見るマミ。

 

「今から私出かけなきゃならないから、留守番しておいてもらえる?」

 

 その言葉に、頷くユウ。

 笑みを浮かべながらごめんね。と言うとマミは調理に入る。

 あまり難しいものは作れないから、軽く肉を炒めて味を付けて、手際よく野菜なども切ってドレッシングで和えると、ちゃぶ台に並べる。

 さらにご飯も用意して箸もしっかりとおいた。

 

 急いでエプロンを外すマミは、エプロンをテーブルに置くと自室に戻る。

 ユウは両手を合わせると、箸と茶碗を持って食事を始めた。

 静かに食事をするユウ。

 すぐに部屋から出てきたマミは、私服に着替えていた。

 

「じゃ、行ってきます!」

 

 ユウは静かに『行ってらっしゃい』と書いたメモ帳を持ち上げる。

 ドアが閉まる音と共に、ユウはメモ帳を置いて食事を再開した。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 マミがダッシュで喫茶店につく。その時には日も沈んでいるのでそこまで問題は無かった。

 ガイアの試練を乗り越えた自分への褒美かと内心舞い上がりながらも喫茶店の席につく。

 向かいの席にいるさやかとまどか。

 テーブルの上には白い生き物キュゥべぇ。

 

「ごめんなさい。お待たせしたわね」

 

「いえ、忙しいのにごめんなさい」

 

 まどかがそう言うので、マミはほほ笑みで返す。

 とりあえずキュゥべぇと二人には少し忙しくてということで一時帰らせてもらった。

 嬉し恥ずかし電波な義妹ができたなんて言えない。

 

「大丈夫よ。それよりもどこまで?」

 

「願いを一つ叶えて魔法少女になってもらうということと、使い魔と魔女についてさ」

 

 大体のことは話したらしい。

 昨日も今日も戦った使い魔。使い魔は悪の権化ともいうべき存在である魔女の下っ端。

 人的被害としては、人間を食べるということ。それと“魔女の口づけ”と呼ばれるマーキング。

 それを受ければ自殺などをさせられてしまう。

 基本的にその二つが魔法少女の敵なのだけれど、まぁいろいろある。

 

「キュゥべえに選ばれたあなたたちには、どんな願いでも叶えられるチャンスがある」

 

 一度メリットだけを教える。魔法少女が増えるのはこれからが楽になる。

 ユウのこともあるから魔女狩りなどはさっさと終わらせたい。というのが本音だ。

 

 なによりも、一人で戦うのはやはり嫌。

 自分は死なないけれど、一人はつらい。

 

「でもそれは……死と隣り合わせなの」

 

 死なない自分とは違う二人に、そう言った。

 ゾンビでない二人は魔法少女になって攻撃されて死んでしまうのだ。

 

「ふぇ…」

 

「ん~、悩むなぁ」

 

 悩んでいるのが伝わった。

 けれど、一緒に戦ってくれたら嬉しいという気持ちがある。

 カバンに入っているメモ帳のページを二枚破って、そこに自分の電話番号を書いて渡す。

 

「これグリーフシードって言うんだけれど、さっき話した魔女の卵なの」

 

 黒い宝石を一つ、テーブルの上に置く。

 驚いて少し下がる二人。

 

「まぁこの状態だと安心なのだけれどね。道や壁なんかにたまにこれが落ちてる時があるの、これを見つけたら電話してくれる?」

 

 その言葉に頷く二人。その二人に笑みを浮かべて礼を言うマミ。

 わかってくれたようでなによりだ。

 だけど、デメリットは教えておかなくてはならない。

 死の怖さは良くわかっているつもりだ。

 

「なによりも魔法少女になることについてだけど……」

 

 マミは目を細めて紅茶を一口飲んだ。

 

「一生戦い続ける運命に身を投じるってこと、恋人や友達を作る暇がないぐらい忙しいってこと、決して忘れないでね?」

 

 二人の生唾を飲む音が聞こえた。

 ここまで言えば魔法少女になることは無い。なんてことまで考えられるかもしれない。

 けれど、自分の我儘で死なない自分に死ぬ彼女たちを付き合わせたくは無い。

 

「送っていくわ二人とも」

 

 マミは会計をするために立ち上がる。

 一応聞かれれば質問はなんでも答えることにした。

 できればなってほしい。

 確かにユウのおかげで一人ではないけれど、戦うときだけは一人。

 彼女にとっては、そんな孤独も辛かった。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 二人を送った帰り、キュゥべぇがマミの肩に乗っている。

 真っ黒になったグリーフシードと呼ばれるその宝石を軽く指ではじく。

 グリーフシードがキュウべぇの背中が開いてそこに入る。

 

「今日はどうするの?」

 

「グリーフシードは回収したからボクはまた別の場所に行くよ」

 

 最近は来ないのね?と言うと、忙しい。と返された。

 他の魔法少女を勧誘するのだろうか?

 それにしても疑問がいくつか思い浮かぶ。

 

「あの、鹿目さんたちのクラスに転校してきたっていう暁美ほむらさんだけど」

 

「彼女に関してはまったくの謎だよ。なぜボクを攻撃してくるのか、なぜ魔法少女なのかもね」

 

 謎が多い少女、それだけに気になる。

 敵なのか、そうじゃないのか―――わからないことばかりだ。

 立ち止まるマミ。

 魔女の結界の前で立ち止まったマミが、宝石ソウルジェムを出現させて変身した。

 

「いくわよ!」

 

 マミがそう言うと、キュゥべぇがしっかりとマミの肩に掴まる。

 結界の入り口へと消えるマミ。

 彼女は、今日もまた同じことを繰り返す。

 日常に隠された非日常を、今日もまた繰り返す。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 魔女狩りが終わった後。マミはキュゥべぇと共に墓地にやってきていた。

 ほの暗い闇の中、ペットボトルの紅茶を一口。

 ふぅ、と息を吐いて落ち着いたように笑みを浮かべる。

 

「やっぱり落ち着くわね」

 

 夜中の墓地で少女が一人、紅茶を飲んでいるというのは不自然きわまりない光景。

 墓地のベンチに座りながら、マミがゆっくりとあたりを見まわす。

 

「迷子かしらね」

 

 近場の雑木林の奥から音が聞こえる。マミはそれでもおちついた表情で紅茶を飲むのみだ。

 雑木林から激しい笑い声。それと共に現れるのは使い魔。

 下半身が車で、上半身が子供。ただしほかの使い魔同様その姿は子供の落書きのようだ。

 笑い声をあげながらマミへと走ってくる使い魔。

 マミは立ち上がると、ペットボトルをベンチに置いたまま立つ。

 

 墓石が並べられた道を一直線に走ってくる使い魔。

 マミは足をしっかりと地面につけて、拳を後ろに振りかぶる。

 あの程度の使い魔ならば、生身の方が効率的だ―――マミにとっては……

 

「120%!」

 

 使い魔に向けて拳を放つ。衝撃がビリビリとあたりに伝わる。

 拳が直撃した使い魔は吹き飛んで地面を転がった。

 走り出すマミは通常の速度よりよほど早い。

 

「200%!」

 

 至近距離へと近づいたマミはさらに拳を叩きつける。

 それで、使い魔はバラバラに砕け散り。消えた。

 

 通常の人間というのは、肉体が勝手にリミッターをかけてしまうのが原因で100%の力を出すことはできない。

 しかしマミは違う。

 

「普通じゃないね。前例がないよ」

 

 キュゥべぇがつぶやいた。

 その通り。普通じゃなければ前例もない。

 使い魔が居た場所から拳をどかすマミ。

 

「私はゾンビよ?」

 

 彼女はゾンビ。そんな限界は構わないし、意味も無い。

 笑みを浮かべると手を軽く振る。

 刹那。使い魔を殴った方の手が肘より少し先からカクン、と音を立ててまがった。

 

「きゃぁっ!手が変な方向に!」

 

「新しい関節ができたね」

 

 折れてブラブラとしている腕をもう片手で持ってなんとかくっつけようとしているマミ。

 それを見て、キュゥべぇは表情を浮かべてはいない。

 すぐ、マミの腕はくっついて何事も無かったかのようになっている。

 

「ふぅ、ゾンビじゃなかったら大変だったわね」

 

「(魔法で回復してくれた方が助かるんだけどね)」

 

 キュゥべぇはゾンビのことを知っているようで、何も言わない。

 ネクロマンサーのことは知っているのだろうか?まったくわからないけれど、キュゥべぇはユウが来てから一度もマミの家へ姿を現さないのは確かだ。

 時たま魔女狩りの最中に姿を見せてソウルジェムの穢れを吸わせて危険なグリーフシードを渡す。

 

 ユウが来たからきっと自分が居なくてもマミは大丈夫。とでも思ったのだろうとマミは思っている。

 なんたってマミの数少ない友達なのだからと―――マミはキュゥベェを信頼していた。

 再びベンチに座ると、マミは紅茶を飲み始める。

 落ち着いた雰囲気と違って、あたりは不気味な雰囲気だ。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 記憶にあるのは巴マミが自分に銃を向ける姿。

 マミのかつての弟子を、ほかならぬマミが撃ち殺した。

 そして、自分をその魔法で拘束して、自分に向けて銃を向ける。

 信頼していた彼女。尊敬していた彼女に銃を向けられた。

 それがトラウマになって……

 

 過去の姿を思い出すと、自分を助けてくれた彼女(マミ)を思い出すより早く―――自分に銃を向けた彼女(マミ)の姿が思い浮かぶ。

 

 だから、マミをどうも受け入れることができない。

 できることならばもう一度、マミの弟子として戦ってみたいという気持ちはある。

 彼女と共に戦えないののなら、せめて彼女(マミ)の弟子でありたい。

 

 それができればとっても素敵で、けれど―――それは無理だ。

 

 やはり記憶の底ではいつか“撃たれる”と思ってしまう。

 どんなに外見を変えても、自分はいつも臆病だ。

 そう思うと、塞ぎ込みたくなる。

 けれどそんなことをしている暇も無い。

 

「あの子と一緒に、夜を超える」

 

 それが今の目的。ただそれだけを求めて戦い続けてきた。

 ならば関係なんて無い。彼女(マミ)と一緒だとか、彼女(マミ)は……

 

「あの子を魔法少女にしないための……生贄」

 

 彼女、暁美ほむらは鋭い瞳でそうつぶやいた。

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 家に帰ってきたマミ。リビングに明かりはついていて、ユウがお茶を飲んでいた。

 すでに時刻は10時を回っている。

 

「ただいま」

 

 そう言うと、ユウはゆっくりとメモ帳を持ち上げる。

 

『おかえり』

 

 それを見てほほ笑むマミは上着を脱ぐ。

 食事もすっかり冷めているけれど、炊飯器から茶碗に米をよそってユウの横に座った。

 多少冷えているが問題は無いだろう。

 肉と米を一緒に食べる。

 ユウを見ると、お茶を飲みながらテレビを見ていた。

 

「今日はごめんね。今度好きなもの作ってあげるわ」

 

 ユウが頷く。

 そして、マミの頭で妄想が繰り広げられる。

 

「私、お姉ちゃんの作ってくれるものならなんだって食べるよ?」

 

 妄想の中のユーはマミに優しい。

 ふと、袖を引かれてそちらを見るマミ。

 メモ帳をトントンとつつくユウ。

 マミが見たメモ帳には一言。

 

『トリュフ』

 

「それは無理」

 

 現実は非常よ。と言うとマミは食事を続けた。

 こんな感じの生活だけれど、マミは嫌いでは無い。

 一ヶ月前までは嫌だった。

 命懸けで戦って、傷ついて、恐い思いをして……けれど、今はすっかり違う。

 死なない。というのもあるかも知れないけれど帰りを待っていてくれる人がいるだけで、心も余裕ができた。

 魔法少女でも幸せになれる。一度は諦めたけれど、やっぱりそんなことは無い。

 今は離れている“彼女”にだって、マミは胸を張って言える。

 

 食事を終えたマミが、両手を合わせて食器を重ねた。

 すると、ユウの方を向き両手を開くと飛びかかろうとする。

 

「さて、ユウ!今日こそ一緒にお風呂入りま―――」

 

 マミがそう言った瞬間、ユウの裏拳が横顔に直撃した。

 ゴギン、という音共に、マミは地に伏せて動かなくなる。

 首が不自然なほど真横に向いているが、マミが突然動きだし両手で元に戻す。

 起き上がったマミ。

 

「何度も言うけど、そんな風にしちゃいけません」

 

 妹相手の姉のように言うマミに、ユウが頷く。

 すると、マミが両手を広げるてユウに飛びかかる。

 素早く移動するユウ。マミはちゃぶ台の角に頭を強打した。

 

「きゃああぁっ!頭が裂けたぁぁっ!」

 

 血が噴き出る頭を抑えながら転げまわるマミ。

 ユウはメモ帳を静かに持ち上げる。

 

『お風呂入ってくる』

 

 そのまま歩いて行ってしまうユウ。

 マミは今だ血が噴き出る頭を押さえて転げまわっている。

 これも、いつも通り―――彼女なりの幸せな日常の一つ。

 

 ―――あれもユウなりの照れ隠しなのよね。私の頭、割れてるけどね。

 

 

 

 




あとがき

はい!これで下準備は整いました。そして問題はここから、ハルナは出しにくいのでともかく、セラを出すべきか出さざるべきか……まぁハルナも出して問題は無いんですが思ったより出しにくい。
魔装少女は難しい。のでとりあえずセラを出すべきかで悩んでます!
みなさんの意見聞けたら嬉しいなとか思います!

では、次回もお楽しみに♪

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