よどむ空、すでにワルプルギスの夜までの時間はそれほどない。
数時間後には、この街や自分たちの命をかけた戦いをしているのだろう。
街ではすでに避難警告が出ていて、見滝原の住人たちは避難している。
そんな状況下で、マミの家に集まっている少女たち。
マミ、ほむら、杏子、セラ、さやか。
計五人の少女たちが集まり、話をしていた。
「で、ここであたしがフィナーレってことだな」
杏子が地図を指して言う。作戦の見直しだ。
完璧に行くとは思ってはいないが、完璧なぶん悪いことは無い。
この異常な世界に、ほむらはかけていた。
これ以上の失敗は自分が許せない。
おそらくこの世界で失敗すれば待っているのは―――絶望だ。
「……そんな顔しないで」
ほむらはハッとして、マミの方を見た。
不安が顔に出ていたのだろうか? 杏子は笑っている。
マミはほむらの頭をそっと撫でると、言う。
「アレもしっかり渡したでしょう?」
「えっ……あぁ、あれね」
戸惑うようにほむらが頷く。
ほむらとマミ以外の面々は話の内容がいまいちわかっていない。
ムッとした表情を見せる杏子。
素早く飛んできたクナイが、マミのこめかみに突き刺さる。
「ぬあぁぁぁっ! 最終決戦前もこれぇっ!?」
苦悶の声を上げて床を転げまわるマミ。
「っ!?」
セラが僅かに眉を寄せて、立ち上がると窓から空を見た。
それについていく杏子とさやか。
マミのこめかみからクナイを抜いたほむらが、マミを支えながら窓の方へと向かう。
窓の方へと向かうと、唖然としたまま空を見ている杏子とさやかを疑問に思う。
セラはクッと歯をかみしめる。
空を見るマミが、ようやく気付いた。
「……メガロ、か」
空にうずまく雲の中心から、現れたのは顔。
まだ出てきてはいない。だが、徐々に出始めているのは確かだ。
その顔の下には、見滝原を一望できるタワー。
苦笑したマミ。間違いなく、そこにいるのだろう。
「みんな、もう少ししてから渡そうと思ってたのだけれど……今渡してしまうわね」
ほむら以外の、一人一人に、メモ帳を渡していく。
受け取る面々が、わずかに戸惑いながらも頷いた。
苦笑するほむらを見て、頷く。
マミは、空に浮かぶ巨大な顔、メガロをにらみつけた。
メガロの顔の真下のタワー。
その内部で、中心にあるエレベーターが開きマミが現れる。
生身での戦いを想定してか、動きやすい短パンだ。
ニーソックスでロングブーツ。薄手の上着を着ている。
マミの視線の先には、二人。
コートを着ているロングストレートの青年こと、夜の王。
そして、ユークリウッド・ヘルサイズ。
「よく来たね」
夜の王の言葉が聞こえるが、マミはユウだけを見る。
「みんな待ってる、帰りましょ」
そう、言葉をかけるマミ。紙飛行機が飛んできた。
真っ直ぐと飛ぶ紙飛行機を受け取ったマミが、その紙飛行機を開く。
『私がいなくなった方が平和だったでしょう?』
「えぇ、メガロが出ないからね……でも、物足りなかった」
そう、言葉にする。
マミにはユウの背中しか見えない。
「ユウが居ないとダメだよ」
そんな訴えに耳を貸しているのは確かだ、返事を書いた紙を、ユウが紙飛行機に折っている。
だが、そんなユウの手から紙飛行機を奪い取るマミ。
小さく声を上げるユウだが、マミは紙飛行機を開く。
『けど、私は迷惑になるから』
マミが一度目を伏せてから、紙をぐしゃぐしゃに丸めた。
「そんなの関係ない!」
丸めた紙を床に放る。
紙クズは夜の王の足元に落ちた。
笑いながらも、夜の王言う。
「やれやれ、僕は無視かい?」
「貴女、なにするつもりなの!?」
声を荒げながらも言うマミ。
ワルプルギスの夜が現れる日だというにも関わらず、邪魔しにきたからだろう。
早くみんなの元へ戻らなくては戦いが始まってしまう。
「メガロを呼ばせたんだよ、ユークリウッドにね?」
いつも無表情なユウが、沈んだ表情を見せる。
「その切ない顔が見たかった……どうだい、綺麗だろう?」
ユウを一目見たマミが、すぐに夜の王をにらみつけた。
無言が数秒続くと、夜の王が続けて話す。
「まもなくこの街は滅びる、君が最も嫌いな争いごとでね。ツライだろう? 悲しいだろう? 僕が憎いだろう……だからユークリウッド。早く殺しておくれ」
夜の王の懇願ともいえる言葉に、両手で耳をふさぎながら首を左右に振る。
嫌がっているのは見てわかることだ。
「まただ……泣くほど辛いのに、殺したいほど憎いのに、この子はなにもしようとはしない。君は本当に残酷だよ。ユークリウッド」
つぶやくように、言い聞かせるように言う夜の王を睨みつけていたマミ。
だが、いつのまにやらマミの眼は睨みつけるものではなくなっていた。
「可哀そうなヒト、いやゾンビね」
なに? と煩わしそうな眼を向ける夜の王。
そんな夜の王を見るのはマミにとって初めてだ。
敵対しているのに、彼は自分に中々敵意を向けない。
「貴女は、ユウのことなんにもわかってないじゃない」
外の豪風が、窓を叩く。
そろそろ来るということだろう。
悪いがいけそうにないと、マミは心の中で謝る。
外、見晴らしの良い川の傍に立つほむら、杏子、さやか、セラの四人。
タワーの上空からゆっくりと現れるメガロ。
だがそちらだけに集中するわけにもいかない。
白い霧が、あたりに漂う。
「……来る」
ほむらのつぶやきと共に、カウントダウンは始まる。
⑤
何度も挑んで負けた。舞台装置の魔女。
④
「今度こそ、勝つ!」
ほむらの言葉と同時に、三人の魔法少女が変身する。
セラは刀を出現させた。
「私は避難所の方へ」
風のように消えたセラ。
②
さやかと杏子がほむらの前に立ち、武器を構える。
盾を構えたほむら。
あたりにはパレードのように行進する像やピエロのような使い魔。
①
そして奴が現れる。
舞台装置の魔女―――ワルプルギスの夜。
巨大な体。女性のような上半身に下半身の歯車。
逆さまになっているその魔女を睨みつけたほむらが大量のランチャーを周囲に配置した。
盾から音がした。それと共に止まった時の中でほむらがそれらを撃つ。
時が動き出せば、放たれたロケットランチャーの弾頭の数々がワルプルギスの夜に直撃する。
地上へと落ちたワルプルギスの夜を相手に、杏子とさやかが跳び出した。
「マミさんが帰ってくるまで持たせよう!」
「ハッ! 別に倒しちゃっても良いんでしょ?」
二人が浮遊を始めるワルプルギスの夜の体を切り裂く。
「決着はつけてきて……巴さん!」
叫ぶと同時に、ほむらは走りながらストライカーを撃つ。
筒から放たれたグレネードは正確にされた計算の元、ワルプルギスの夜へと放たれた。
タワーの中にまで聞こえる爆発の音。
だがそれも僅かな音にすぎない。
夜の王がつぶやくように言う。
「不死を手に入れたとき、これでなんでもできると喜んだよ。だが、途端に見えてる世界が色あせたんだ……君にもわかる日が来るよ。死ぬことは辛い、けど生きることよりはマシだって」
マミへと語る夜の王。
彼女の背後でメモ帳に急いで文字を書いたユウが夜の王へと見せる。
『私はもう、友を殺したくない』
笑う夜の王。
「相変わらずだね。なら、その気になるまで君の美しい顔を堪能するとしよう」
夜の王が、ゆっくりを歩を踏み出す。
「どうやら彼女を痛めつければ、君は悲しんでくれるようだ」
一歩下がったマミが、すぐに拳を握りしめて一歩踏み出した。
キッと夜の王をにらみつけたマミ。
「ふざけないでよねっ!」
拳を振りかぶり、突き出したマミ。
だが夜の王からあふれ出た影に包まれ、影が晴れた時には目の前には天井が映っていた。
重力に従い、床に背中を叩きつけることになるマミ。
離れた場所へと落とされたことに気づくと、助走をつけて再び殴ろうと走り出す。
「でやぁぁぁっ!」
再び影がマミを包む。次は自分の体を窓へと叩きつける形になっていた。
頑丈な窓がひび割れる。べっとりと窓についた血はマミのもので、倒れたマミ。
「君は、僕に触れることすらできない」
だが、マミは立ち上がる。
負けるわけにはいかない。
まだこれは前哨戦にすぎないのだ。
避難所の外にて、避難所に近づく使い魔や亡霊のような形をしたメガロを斬りつづけるセラ。
たった一人で避難所を守ると言うのはさすがに無理があったのかもしれない。
けれども、彼女は負けるわけにはいかないのだ。
「くっ、数が多い!」
黒い翼をはばたかせて、敵を切り裂いていく。
おそらくほむらたちも使い魔とメガロを同時に相手にしてるのだろう。
基本的に攻撃するのは魔女といっても、使い魔とメガロの攻撃が飛んでくる中、戦う。
ビルの上に乗って対戦車ライフルを撃つほむら。
ワルプルギスの夜へと近づいて斬るさやかと杏子がそこから見える。
せめてもの救いは気が滅入るほどいるメガロと使い魔も戦っていることだろう。
さやかと杏子が再び吹き飛ばされるのが見えた。
「っ!?」
自分の背後から迫るメガロの攻撃を避けて、ビルから降りるほむら。
地面へと着地すると、強化された足で駆けだす。
サブマシンガンを二挺手に持つと、邪魔をするメガロと使い魔を狩りながら走るのだった。
タワーの中で、マミは立っているも服の所々がやぶけていた。
流れる血が、床に汚れを作る。
肩で息をしながら、夜の王をにらみつけるマミ。
「この程度の傷じゃ、僕らは死ねやしないよね」
無言で眼前の“敵”を睨みつけるマミ。
ユウは心配するようにその光景を見守っている。
「しっかり見ているんだ。ユークリウッド、君が良かれと思って成したことの結果を……」
歯ぎしりをするマミ。
一度目はキュゥベェ。
二度目はユウ。
「(二人に助けられた命を、何の役にも立てずに……)」
心の中で悪態をつくマミが、ふと気づく。
自分の手を見て、その中指についた指輪を見つめた。
そう、自分はただのゾンビでは無い。
「だよね! 変……身ッ!」
いつも以上に気合を入れた掛け声と共に、マミの身体が輝いた。
一瞬―――マミは魔法少女の姿に変わったのだ。
夜の王の背後の霧。それを消し去る。
避難所を守っていたセラ。
再び一体の使い魔を切り裂く。だが、その脇を通ってメガロが避難所へと飛ぶ。
「そんなっ」
「臆するなセラフィム!」
凛とした声が響き、メガロが切り裂かれる。
周囲の使い魔も同様に切り裂かれた。
セラの周囲を飛ぶ、吸血忍者たち。
「サラスバティっ!? みんな!」
敵を切り裂くサラスは、微笑を浮かべていた。
ほかの吸血忍者たちもサラス同様、避難所に近づく敵を切り裂いていく。
これでも防衛がやっとだろう。それでも十分、心強い仲間たちだ。
変身したマミが、夜の王を視界に入れる。
けれど彼女はまったくもって先ほどと違う。
勝てる。という表情をしたいた。
「行くわよ。新必殺技!」
マミの体が輝き、魔法少女の服装が変わる。
「シュヴァルツ―――」
言葉を発し、足を踏み出す。
「(黒?)」
必殺技の名前で、技など大抵予測できるものだと、夜の王は考えた。
だがそれはマミを知らないが故の考えだ。
「―――シュヴァイン!」
「(意味を考えてもまったくわからない技だ。なによりも必殺技を使う意味がわからな―――)」
マミの背後に現れる巨大な銃剣。
驚愕する夜の王が出した霧だが、それらへと突撃するように銃剣は跳び出す。
それが実体ある影を貫く。
「黒豚と全く関係―――ない!?」
シュヴァルツ・シュヴァイン。和訳すれば黒豚。
しかし巴マミはイタリア語以外ちんぷんかんぷんの少女だ。
なんとなく発音で決めたのだろう。
ユウもセラも、ほむらたちでさえもその程度なら理解できたことだ。
銃剣に突き刺された影。そして、撃鉄が鳴る。
爆発と共に、あたりに爆煙が巻き起こる。
すぐに爆煙が晴れるが、ソウルジェムを確認したマミ。
たった一撃だが、これ以上使えば問題も発生するだろう。
それほどまでに魔力を使う大技だった。
膝をついている夜の王がコートを脱いで立ち上がる。
変身を解いたマミが、夜の王と視線を交差させた。
ここからは、小細工なしの純粋な戦いだ。
ワルプルギスの夜との戦いが始まって何十分経っただろうか、それとも数時間か……。
グリーフシードのストックの数は今までほむらがループした世界の中でもトップクラスだ。
間違いなく勝てる状況のはずだったにもかかわらず、メガロのせいでかなり消耗させられる。
「まさか、ここまで堅いとはね」
ビルの屋上に立つ杏子とさやか。
そこにほむらが現れる。
「まだアイツは本気にもなっていない。強すぎるわ」
おかしい。しかしほむらはなんとなく理解できてしまう。
このおかしな世界線のワルプルギスの夜なのだから、と……。
「三人共、大丈夫ですか?」
現れたセラ。避難所は吸血忍者の仲間たちに任せてきてくれた。
だが、戦いはまったく上手く進まない。
瞬間、衝撃波と共にワルプルギスの夜の周囲に浮かんでいたビルがほむらたちへと落ちてきた。
避けようにも時間停止のために使う砂時計がないのに気づくほむら。
衝撃と共に、ほむらたちは吹き飛ぶ。
ボロボロになったビルの屋上にて、ほむらが横になっていた。
近くの瓦礫を背もたれにして、ほむらが涙を流す。
「何度やってもアイツに勝てないっ……」
自らの手にある盾に手をかけようとするが、あきらめた。
ここで死ぬならば、自分ももう構わない。
そう思える世界だった。そう思える場所だった。
そして、ほむらに待つのは絶望。
「えっ?」
魔女になる前に自分で止めをと思い銃を出そうとしたが、違う。
自分の手にあるのはみんなより先にマミに渡されていたメモ帳だった。
そのページを開く。
何ページもあるメモ帳の数ページを見て、ほむらの口元には笑みが浮かんだ。
『ハハハハッ! ほむら、マミからもらったメモ帳見たか!?』
杏子からテレパシーが飛んでくる。
『ええ、あの人らしいわ』
『だな!』
立ち上がるほむらが、歩いてビルの角に立つ。
ワルプルギスの夜は今だ健在である。
ほむらの横に現れるセラ、杏子、さやか。
「まったく、どこまでも中二病なクソ虫ですね」
穏やかな表情で言うセラ。
「私のかなり良かったよ!」
さやかが嬉しそうに言って頷いた。
全員が片手にメモ帳を持っている。
そのメモ帳を全員がしまう。
「さて、マミが考えた技……やるぜ!」
杏子が三つほどのグリーフシードを確認して両手を合わせる。
真っ赤な魔力が彼女の周囲に放出され、巨大な槍が地面から現れる。
「あたしの必殺技、見せちゃうよ!」
さやかの手に巨大な大剣が現れた。
グリーフシードのストックはまだある。
「そうね、巴さんからもらったものだものね……」
ほむらは、盾の中から日本刀を取り出す。
彼女から受け取ったそれを持つと、鞘を背中にかけて、刀を抜き放つ。
『魔力を使わない最大限の防衛』と言っていた。けれど、十分な力は秘めている……らしい。
「行くわよ……八咫烏!」
マミから受け取った刀“八咫烏”を手に、ほむらはビルから跳んだ。
まだ、戦いは終わらない。
鹿目まどかは、ため息をつく。
誰も避難所から出ようとはしない。
母を説得して、避難所から出たまどかは周囲の使い魔やメガロたちを倒す吸血忍者たちを見ている。
自分が行かなければと思うも、やはり邪魔になってしまうのではないかと思う。
そんな時―――白い獣が、まどかへと近づいた。
あとがき
さてやってきました最終決戦。
終りませんよぉ、まだ終わりませんよ!
ドイツ語ってかっこいいですよね。おもにクーゲル・シュライバーとか(ボールペン)ね。
とりあえず今回ミストルティンキックがないのでこんなことに、まぁ問題はさほどないですがw
では、次回をお楽しみに!
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