ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第9話 失いたくない、から

 三つの鎧が戦場に出揃う。

 一つ目は初期の赤龍帝の鎧からは防御力が低くなって、代わりに攻撃力が底上げされている俺の鎧。回避能力がある俺に合わせた鎧。

 二つ目は一誠が纏う従来の赤龍帝の鎧。ただしその力は様々な可能性を持つこの世界の兵藤一誠だからこそ到達した力。

 そして三つ目―――全てが闇色に染まり、従来のどの姿からもかけ離れた歪な鎧。

 黒い赤龍帝が纏う鎧は正にそれだ。

 こうして冷静に前にしてその力、怨念の力を視覚出来る。

 ……自分でも驚くほどに俺の心は静寂だった。

 やることは決めた。したいことを認識した。―――それだけで、以前とはこうも違うとは思わなかった。

 

「敵であろうと救ってはいけないなんて決まりはない。俺はお前を倒して、お前を救う!」

『応ッ! ならばわが相棒、兵藤一誠は真っ直ぐ進むのみ!』

『それこそが優しい赤龍帝の真理!』

 

 俺は初陣のように鎧の力を最初から飛ばしていく。

 まずは鎧の倍増速度を加速させる―――アクセルモード!

 

『Accel Booster Start Up!!!!!!』

 

 アクセルモードを始動させ、ただでさえ際限を失った倍増は更に速度を加速させる!

 俺は莫大な倍増のエネルギーを即座に得て、それを以て身体強化に回して黒い赤龍帝に襲い掛かる。

 横目でチラッと一誠を見て、そして―――初撃。

 驚くほどに真っ直ぐな拳を黒い赤龍帝に放った。

 真っ直ぐに放たれる拳は、これまた驚くほどに綺麗に黒い赤龍帝の懐に侵入し、そして―――ガンッ!!

 ……奴の堅牢な鎧と、俺の拳が激しい金属を鳴り響かせた。

 

『Blade……』

 

 すると黒い赤龍帝の鎧よりそんな音声が響き渡り、奴の籠手より闇色に染まった剣―――アスカロンが姿を現した。

 それは既に一誠から知らされていた情報で知っている!

 俺はゼロ距離から剣を振るう黒い赤龍帝に対し、自らも籠手よりアスカロンを引き抜く。

 そしてそれを言霊を以て振るうッ!!

 

「―――唸れ、アスカロン。間違いを犯す者に、断罪を!」

 

 アスカロンから聖なるオーラが龍の形となって放出され、更にそれを刃に纏わせる。

 俺の聖剣アスカロンと、黒い赤龍帝のアスカロン。……魔剣に堕ちた聖剣、アスカロンと幾度か刃を合わせた。

 俺がコンパクトな動きで放つ振り下ろす剣を黒い赤龍帝は無駄のない動きで避け、更に懐にカウンターと言わんばかりの剣戟を放ってくる。

 ……見極める!

 

「唸れ、アスカロン! 無の刀に聖なる力を施せ!!」

 

 瞬時、俺は懐から無刀を取り出し、それにアスカロンのオーラを譲渡する。

 更に鎧の倍増の力の一端を無刀に譲渡し、その結果刀身なき刀から聖なるオーラの刀身が生まれた。

 ……無刀・聖者の刃。

 俺が好んでよく使う無刀の一つの形態であり、聖あるオーラの刃という分かり易い力だ。

 俺はそれを逆噴射するように黒い赤龍帝に放つ―――、それと共に後方の一誠を確認した。

 様子を鑑みるに恐らく、トリアイナを使うんだろう。

 後ろでは一誠の鎧は変化し、背中の翼にレールカノンのような銃口が生まれていた。

 ……俺は聖なるオーラの逆噴射により黒い赤龍帝の剣による一閃を紙一重で避け、そしてアスカロンを一斬、振るった。

 

「くらえッ!!」

「……ッッッ!!」

 

 莫大なオーラを含んだ聖なるオーラの斬撃波だけど、黒い赤龍帝はそれを激しい剣戟で消し飛ばす。……少なからず、ショックは隠せないな。

 普通の赤龍帝の力では、俺は黒い赤龍帝に遠く及ばないってことか。

 ―――なら、次の手を打つ。

 ……っと、そこで後方の一誠が準備完了したのに気付いた。

 

「っし、行くぜ! フェル!!」

『はい!』

 

 俺は予め用意していた創造力をそのまま籠手に対して纏わらせる。

 それと共に胸のフォースギアは反応し、そして―――

 

『Reinforce!!!』

 

 俺の鎧を文字通り強化し、鎧を神帝化させた。

 ……赤龍神帝の鎧(ブーステッド・レッドギア・スケイルメイル)を纏い、俺はドラゴンの翼をバサッと大きく広げる。

 そして……刹那、事態は変貌する。

 

「オルフェルさん、避けてくださいッ!! うぉぉぉぉ、ドラゴンブラスタァァァァァ!!!!」

 

 ―――翼の影で黒い赤龍帝の視界から隠れていた一誠の言葉と共に、俺は黒い赤龍帝よりも更に上空に一瞬で移動する!

 目の前に強大な力……俺の神帝の鎧があったおかげで、更なる脅威に気付かなかった黒い赤龍帝は手元に黒い魔力を集中させて一誠の攻撃を無力化させようとする。

 だけど俺はそこで神帝化の力を解放させた。

 

『Infinite Booster Set Up―――Starting Infinite Booster!!!!!!!』

 

 神帝の鎧から発せられる無限倍増の開始を告げる音声。それと時をほぼ同じくして俺は手元に小さな赤い魔力の塊を浮かばせ、そしてそれに次々と倍増の力を加えていった。

 ―――一誠のトリアイナの、強いては僧侶形態での魔力砲は神帝の鎧を纏う俺の弾丸よりも強力だ。

 当然、白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)による白銀の龍星群(ホワイト・ドラグーン)や赤龍帝の鎧によって限界ギリギリまで強化して放つ紅蓮の龍星群(クリムゾン・ドラグーン)には及ばない。

 だけどこの二つは行程が面倒であり、更にそれなりの用意がなければ放つことが出来ない技だ。

 だけど一誠のトリアイナによる砲撃は違う。

 少しばかりチャージするための時間を要するものの、その威力は絶大でしかも―――今は万全の状態だ。

 以前の黒い赤龍帝との戦いで同じ技を放った時は、それまでの消耗がたたって大したダメージを与えることが出来なかったようだけど、今は違う。

 

断罪の(コンヴィクション)―――龍弾(ドラゴンショット)!!!!」

 

 黒い赤龍帝の前方より一誠のドラゴンブラスターが、上空より俺の破滅力を付加させた魔力弾が同時に奴を襲う!

 砲撃と弾丸は黒い赤龍帝を覆い、覆い、覆い尽くす。

 ……どうだ?

 

「……ッ!?」

 

 ―――次の瞬間、俺は背筋に殺気を感じてその場から離脱するように降下した。

 ……そして、その行動が正しかったということはすぐさま理解することになった。

 

「なんだ、あれは……ッ!!」

 

 ……それは、ドラゴンのようでドラゴンでない形をした黒い弾丸だった。

 黒い翼のようなものを形作り、下半身は東洋の龍のような形をした龍殺し(・ ・ ・)の力を持った弾丸。

 それが幾つも放たれ、そしてそれは……消えずに、宙に浮いていた。

 ……俺たちの攻撃による立ち込めていた煙は消え去る。

 そしてそこには―――

 

「ア、アガァ……あぁぁぁぁぁぁあああ!!!」

 

 ……闇色の魔力によってコーティングされた、まるで黒い赤龍帝を折檻するように奴を包む真っ黒な檻があった。

 その檻は俺たちの猛撃を防いだように煙を上げていて、当の黒い赤龍帝は多少の傷があるもののほぼ無傷。

 そして奴を包むように、不気味な魔力の塊が黒い赤龍帝の周りに集結した。

 

「……気を引き締めるぞ―――あいつ、まだまだ力を隠し持ってやがる」

「はいッ」

 

 一誠の隣に移動してそう言うと、一誠もまた奴の脅威を察知してか震えた声音でそう言った。

 ……ふと、俺は自分の鎧を見た。

 ―――そこには、若干風化しかけている鎧の様子があるのみだった。

 

「ドラゴンスレイヤー。……予想以上に厄介だな」

 

 俺は一旦、アスカロンと無刀をしまった。

 黒い赤龍帝と渡り合うにはまだ足りない。奴には隙という隙が存在しないことが今分かった。

 接近戦にはアスカロンに戦闘技能、防御には先ほどの俺たちの猛撃を耐えるほどの防御対策。更に自立させることの出来る兵器のようなものまで存在している。

 しかも龍殺しまで搭載と来たもんだ。

 それに加えてまだ見せていないあの八つ首のドラゴンヘッドに、あの化け物を一瞬で屠った常闇の槍がある。

 

「一誠、お願いがある」

「な、なんすか? 言ってください!!」

 

 俺は隣の一誠にそう言うと、一誠は焦りながらもそう言った。

 俺はすかさずにこう返すのだった。

 

「―――2分で良い。時間を稼いでくれ」

 

 ―・・・

 

『Side:兵藤一誠』

「―――2分で良い。時間を稼いでくれ」

 

 ……珍しいオルフェルさんの焦る言葉と、このヒトの初めての願いに俺は心底驚いていた。

 あのオルフェルさんの戦術と力を以てしてもあの黒い赤龍帝を攻め切ることが出来なかった。

 それに加えてあの黒い檻型の魔力で形作られた技。

 ……オルフェルさんが時間を稼いでくれ、って言うくらいだ。

 ―――きっと、何か策があるに決まっている。

 俺はそれを確信して、オルフェルさんより前に出た。

 ……俺の中には変な高揚みたいなものがあったんだ。……オルフェルさんが俺に背中を預けてくれた。

 俺を頼ってくれたことに対する、言葉に出来ない嬉しさ。

 あれほどの辛いことを乗り越えて今、前を歩く強者に認められているっていう言い現せない感情が俺を支配していた。

 

「~~~っし! 行くぜ、ドライグ!!」

『応ッ! 飛ぶことは俺に任せて、相棒は奴を相手取ることだけに専念してくれ!』

 

 ドライグとの会話を経て、俺は黒い赤龍帝に接近していく!

 黒い赤龍帝は未だにあの檻の中に包まれていて、その周りの歪な形の魔力の塊が俺に襲い掛かってくる……ッ!!

 これは、龍殺しの力ッ!!

 あの時、俺たちを襲った化け物の力か!?

 ならこいつを消し飛ばす!

 俺はトリアイナのモードを『僧侶』のまま継続し、追尾してくる魔力の塊に対して向かい合った。

 まるで憎悪で俺を襲ってくる魔力の塊で、まさに意志を持っていると言わんばかりの迫力!

 しかも移動するときの音が悍ましい声に聞こえて仕方ねぇ!

 

「ドライグ、背中の銃口は全体を放射するマシンガンみたいに使う!!」

『……なるほど、それならばチャージに時間はかからんかッ!! ならば調整は俺がする! 相棒は上手く立ち振る舞ってくれ!』

 

 ドライグからの言葉を受け、俺はとにかく逃げる!

 黒い赤龍帝はあの位置からは動かず、鉄壁の檻に包まれながら力を溜めているのか?

 それとも―――能力を同時に展開する限界があるのか?

 ……どっちかは分かんねぇけど、それならやりようはある!

 今までやってもらってたことだから、出来るかは分からないけど―――やらなきゃ始まらない!

 俺は自らの意志で、自分の左腕に収納されているアスカロンに意識を集中する!

 アスカロンの聖剣のオーラを左腕に込めるように力を流すッ!

 いつもはドライグにやっていてもらったことだから、難しいッ!

 だけどオルフェルさんに力の使い方をたくさん教えて貰った。

 同じ赤龍帝だからこそ、努力の塊であるオルフェルさんの教えは的確で、しかも分かり易かった。

 ……だからこそ、やらなくちゃならない!

 オルフェルさんから学んだことを奴にぶつけるんだ!

 ―――……見るとその左籠手に、聖なるオーラが集まっていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」

 

 俺は他の塊よりも早く俺に近づく闇の塊に対して、聖なるオーラ込みの拳を放つッ!!

 例え龍殺しだろうと元は魔力! なら聖なるオーラに対応できるはずがねぇ!!

 俺の拳は塊を確実に貫き、霧散こそしなかったけどそれでも行動を停止させた。

 ―――こいつらに、聖なるオーラは有効だ。

 

『相棒、準備は整ったぞ!!』

「よし、ならそこにアスカロンのオーラも含ませてくれ!!」

 

 俺はドライグにそう指示して、即座に魔力とアスカロンの力がチャージされていく!

 更に鎧から倍増の音声を響かせた。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!』

 

 ―――チャージ完了!

 いくぜ!!

 

「マシンガン型、ドラゴンブラスタァァァァ!!!」

 

 幾数もの弾丸となった小さな機関銃型ドラゴンブラスターが塊たちを襲う!

 それによって塊は次々に体に穴をあけていき、俺に襲い掛かってこれなくなった。

 完全な消滅に至らせるにはやっぱり、普通のドラゴンブラスターが必要か。

 ……無限に放たれるような弾丸も次第に止んでいく。

 ―――刹那、

 

「がッッッ!?」

 

 ―――俺を、一陣の黒い旋風が襲った。

 その鋭い旋風の元が魔力ということにすぐ気付くけど、これは不味いッ!!

 かはッ……口から、血反吐を吐いた。

 旋風の威力で鎧の所々に穴が開き、そして俺はそれまで魔力の塊がいたところを見ると、そこには―――半数の塊が消えていた。

 まさか……まさかッ! あの塊を元に、あの距離で新たな技を造ったのか!?

 

「んな芸当、何百年生きたら出来んだよッ!!」

 

 背中の噴射口から倍増のオーラを噴出して旋風から離脱する。

 旋風は次第に息を潜めるけど、だけどそれによって辺りの地形が変わっていた。

 

「ごほっ! …………。ドライグ、まだ行けるぞ……ッ!!」

『神器の禁手が鎧形態であったことが幸いか。しかしなんとも厄介な者だ。……いや、あれくらいでないと奴はあの化け物を倒せなかったというわけか』

 

 厄介なのは百も承知でこの戦いに挑んでいるんだ。

 ……まずはあの旋風。

 あれはあの魔力の塊を元に造っているはずだから、俺の天敵と言える。

 そしてあの旋風を回避した後に来るのは、あの堅牢な檻の盾がある。

 攻防完備ってのが現状だ。

 

「……ドライグ、ドラゴンブラスターを放射型で放てるか?」

『ああ、可能だ。なるほど、ドラゴンブラスターを広域に渡る放射型であの旋風を相殺するというわけか。先ほどの旋風はある程度時間が経てば消えたということを考えると……』

 

 ―――付け入る隙はある。

 ドライグがレールカノンに魔力をチャージして、俺は奴の動向を視認する。

 黒い赤龍帝は自立する魔力の塊を半分ほど旋風に変えて、残りの塊を俺へと放ってくる。

 ……数は片手で数えれるほどだ。

 消し飛ばすことができなくても、足を止めることぐらいはしてみせる!!

 

「うぉぉぉぉぉおおお!!」

 

 ……背中のチャージとは別に、手元にドラゴンショットのための魔力の火種サイズの塊を造る!

 普通の鎧で奴を殴ればそれだけでダメージを受けるから、殴るならアスカロンの聖剣のオーラを集中させた拳で対処するしかない!

 速い速度で近づいてくる塊に対し、背中の噴射口から倍増のオーラを噴出させて奴らの軌道線上から離れる。

 態勢はまともには取れていないけど、その状態から幾つかの塊をまとめて覆えるようにドラゴンショットを放った。

 ……そのうち、一つの塊がドラゴンショットを免れて俺に襲い掛かってくる。

 それに対して聖なるオーラを含んだ左腕の拳で殴り飛ばし、そして―――目の前に旋風が迫りくる。

 ドライグ!

 

『おうッ!! ただこれ以上考えもなしにドラゴンブラスターは放てないぞ!!』

 

 ドライグの忠告を聞き、背中のレールカノンを即座に旋風に向ける。

 そして―――放った。

 放射型のドラゴンブラスターは黒い旋風と威力を相殺しあう。……そうか、旋風は龍殺しの性質があるだけで、あまり威力があるわけじゃないのか。

 ただ速度が速くて、なおかつ事前に対策がなかったら危険ってわけか。

 ……しかしすぐに脅威は目の前に来る。

 先ほど足止めをした塊共が俺へと一斉に襲い掛かってきた。

 

『相棒! 奴らが来るぞ……ッ!!』

 

 ドライグの焦る声が聞こえてくるけど、でも俺は驚くほどに焦る気持ちはなかった。

 だって―――

 

『Full Boost Impact Count 1,2,3!!!!!!!』

 

 ―――俺の後方から放たれる白銀の流星。

 その流星は一撃で今まで俺が苦戦していた自立型魔力塊は全て塵のように消え去り、そして残りの二つの流星が黒い赤龍帝を襲う。

 白銀の流星は黒い赤龍帝の檻を容易く消し去り、それを見計らって俺は己の駒を変異させた。

 

龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)!!」

 

 トリアイナの力を『僧侶』から『戦車』に変更し、檻が破られた状態の黒い赤龍帝に対して堅牢と化した極太の拳を放った。

 肘の撃鉄を何度も打ち鳴らし、更に鎧から倍増の音声を鳴り響かせた。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

「うぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 そして―――

 

「ガァァァァッッッ!?」

 

 ……鎧を砕き破り、黒い赤龍帝は大幅に後方に飛ばされる。

 腹部の鎧がはじけ飛び、そして俺はそこでようやく後方を見た。

 

「―――助かった、一誠。こっから先は任せてくれ」

 

 そこにはオルフェルさんがいた。

 姿は赤龍帝の鎧を身に纏い、更に―――白銀の腕を両腕に装着するオルフェルさんの姿があった。

 

『Side out:兵藤一誠』

 

 ―・・・

 

『Side:木場祐斗』

 

 イッセー君たちを除く僕たちは現状、たった一人を相手取って戦っていた。

 アイと名乗る黒い赤龍帝と同じ世界から来た存在で、オルフェルさんやイッセー君に彼を止めてほしいと願った存在。

 そして……僕たちの敵だ。

 

「雷光よ、鳴り響け!」

「消し飛びなさい!!」

 

 すると部長と朱乃さんの同時攻撃がアイに放たれる。

 アイはその攻撃に対してそっと手をかざし、そして……。

 

「防御魔法陣、展開」

 

 ―――いとも簡単に二人の猛撃を耐える魔法陣を展開し、更に新たな魔法陣を展開する。

 そこから基礎の攻撃魔法を放った。

 エネルギー弾のような碧色の弾丸が部長たちに放たれ、部長たちは即座に防御魔法陣を展開するけど、それは瞬間的にはじけ飛んだ。

 僕はすぐに追撃をされそうになる部長たちの救援として聖魔剣を地面から返り咲かせ、アイへと攻撃を放つ!

 ゼノヴィアは聖なる斬撃波を、ギャスパー君は自身の化身である無数のコウモリを向かわせてアイを停止させようとするけど……ッ!?

 ―――僕は目を疑った。

 

「―――全方位型北欧式攻撃魔法陣展開」

 

 ……それはロスヴァイセさんが展開する北欧式魔術の連続応酬だった。

 しかもそれが何倍もの強力なものとなっている状態で、僕たちのすべての攻撃を文字通り、真正面から蹴散らしていたッ!!

 

「わ、私の技をどうして!?」

「落ち着け、ロスヴァイセ。理屈はわからねぇが、やられたもんは仕方ねぇ―――いくぜ、バランスブレイク……ッ!!」

 

 ロスヴァイセさんの隣に立つアザゼル先生は金色の短剣を片手にそう言って、そして堕天龍の閃光槍(ダウンフォール・ドラゴンスピア)を疑似禁手形態に変化させた。

 黒と金の入り混じる凄まじいオーラを放つ力、堕天龍の鎧(ダウンフォールドラゴン・アナザーアーマー)を身に纏ってアザゼル先生はアイに向かってとびかかろうとした。

 

「ここは通しません。何があろうと、命を懸けようと!!」

 

 するとアザゼル先生の気配を察知したアイは、手のひらをぱっと開いた。

 するとそこから―――左右中指に指輪のようなものが出現した。

 

「ま、まさかあれは私と同じ……ッ!?」

 

 ……その存在にアーシアさんが驚愕の目を浮かべた。

 それもそうだよね。

 だって―――彼女の手元にあるものは、アーシアさんと同じ聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)があるんだから……ッ。

 

「私は私の目的のために、あなたたちを誰一人としてあの人の前には立たせない! そのためなら、この命を落としてでもいい! だから―――禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 アイから放たれるのは碧色と深緑色が混雑したオーラで、あのアザゼル先生ですら蹴落とされて動けなくなる。

 ……待て、別の世界の存在であって更に兵藤一誠の仲間。

 そして―――アーシアさんと同じ神器を宿す存在。

 それってまさか……ッ!!

 僕がその思考に至った瞬間、あまりにも激しいオーラによってそれまでアイの顔を隠していた黒いヴェールが吹き飛んだ。

 そして僕たちはその顔を見た。

 

「―――聖魔女の二重微笑(シスターウィッチ・デュアルスナーズ)

『―――――――――――』

 

 僕たちは言葉を失う。

 当たり前だ。

 だって、だってそこには僕たちのなじみ深い顔があったから。

 少し大人びていて、背も本人よりも高い。

 それでもわかる。

 あれは、あれは―――平行世界のアーシア・アルジェント!!

 

「わ、私?」

「いえ、違います―――私は何もできなく、自分で決断できなかった昔の私ではありません」

 

 ……アイは同一人物であるはずのアーシアさんに手を向ける。

 手には装飾が大きく変わり、それぞれの手の宝石が大きくなっている指輪が装着されていた。

 碧色と深緑色の宝石。

 アイはその深緑色の指輪から極大なオーラが出て、それをアーシアさんに放った!!

 

「ッ!? アーシアを守れ! それはやばいぞ!!」

 

 その攻撃を見てアザゼル先生が焦ったような顔になる。

 僕は誰よりも早くその声に反応し、アーシアさんのもとに神速で近づいて、アーシアさんを離れてその場から離脱した。

 ―――その刹那、アーシアさんがそれまでいた場所に巨大な大穴が生まれていた。

 それだけじゃない!

 僕たちの周りを囲んでいた魔物も蹴散らされていて、その力の強大さが目に見えて理解できる。

 ……同じトワイライト・ヒーリングでどうしてこんな破滅力を出すことができるんだッ!!

 

「……まさか癒しの力が反転して、圧倒的な破壊力を生んでいるのか? いやだがアーシアの性質がどう歪めばそんな―――」

「あなたたちには考えている暇など与えません―――魔女の嘲笑(ウィッチ・プア)

 

 アイは深緑色の指輪から凶悪な破壊のオーラを僕たちに対し放ち、更に魔法陣すらも幾重にも展開する。

 ―――いくらなんでも、無茶すぎるッ!!

 

「ちっ!? 俺の光の槍を浸食するのかッ!?」

 

 そのオーラとまともに相対するアザゼル先生の光の槍ですら、そのオーラは嘲るように浸食する。

 更に魔法陣からは北欧式の魔法が幾重にも展開されて僕たちを襲った。

 

「くぅッ!?」

「きゃっ!」

「……ッ」

 

 その猛威に前線にいたイリナさん、ゼノヴィア、小猫ちゃんがダメージを受けた。

 すぐに体勢を整えるも、遠距離からの彼女の猛撃は僕たちに襲い掛かり続ける!

 次に魔法陣から展開されるのはガラスの破片のような弾丸。

 それを全方向に放ち続けて、更に深緑色の破壊のオーラを執拗に放っていた。

 

「絶対に、通しません。例え命が枯れようとッ!!」

「……なんで、そこまで」

 

 ……見ていれば分かる。

 例え平行世界のアーシアさんであろうと―――魔力の絶対量は、確実に存在する。

 確かにこの世界のアーシアさんも魔力の才能はある。

 でもそれは僕たちの現状の実力からしたら些細なものだ。

 にも関わらず、彼女は僕たち全員を相手にして圧倒するほどの力を見せつけてくる。

 ……一体、どれほどの修行をすればこれほどの力が手に入るんだ。

 どれほどの努力を続けて、血反吐を吐けば―――これほどまでの気迫を、彼女が出せるんだろう。

 

「もう、私には彼しか残っていないんです。だから、たった一つの希望を失わないために、私はこの力を使いますッ! それが例え―――間違っていようとも!!」

 

 額から一筋の汗を垂らし、鬼気迫る表情で体中から魔力を溢れさせるアイ。

 更に足元に魔法陣を展開し―――そこから、幾重ものドラゴンを呼び出した。

 その見た目は細長い体長が異様に長い蛇のようなドラゴン。

 ま、まさかこれは……ミドガルズオルム!?

 

「なッ!? なんでお前が悪神ロキの創り出したそいつを呼び出せる!?」

「……例え敵の力だとしても、私はそれすらも利用すると決めました。どれだけの罪を重ねようとも、彼のためならどれだけ汚れても良い―――愛しています、イッセーさん」

 

 ……盲目的なほどに、歪んでいる。

 一見するとアイはとても冷静であると思っていた。

 だけど違う。

 そう―――彼女もまた、壊れてしまっている。

 たった一つ、自分の愛する者のために彼以外の全てを敵に回しても良いと考えている。

 だから……イッセー君たち(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)を通したんだ。

 

「…………もしあなたがあなたの信念で私たちの前に立ちふさがっているなら。それなら私たちは私たちの信念であなたを倒さなくてはならないわ」

 

 部長は何かを理解し、悟ったような表情をしながらアイにそう言い放った。

 

「私は貴方がどんな経験をして、それほどの力を手に入れたかは知らない。それを間違っているとは決して言えないわ―――でも私の愛する眷属を危険に晒すというなら、貴方は私にとって敵でしかない」

「ええ。私の知っているあなたならそう言うと分かっていました。本当に……いい主でした、あなたは」

 

 ……アイは儚い表情を浮かべて、瞳を閉じる。

 

「それを知っているからこそ、あなたを越えることで私はイッセーさんの本物になれる―――」

 

 ……次に目が見開かれた時。

 その時、彼女の目にあったもの、それは―――覚悟の灯った目であった。

 

「―――見物しようと思っていたけど、随分と面白いことになっているじゃないか」

 

 ……僕たちが再度アイを相手取ろうとした時だった。

 第三者の介入というように、戦場に白い鎧が現れた。

 それは僕たちが良く知る人物。

 

「―――ヴァーリッ!? なんでてめぇがここにいるんだ!!」

 

 その存在に真っ先に反応したアザゼル先生がヴァーリにそう言い放った。

 ……まさかこの戦場に白龍皇、ヴァーリ・ルシファーが姿を現すなんて誰が想像できる!?

 

「やぁ、久しぶりだな。アザゼル」

「……この際、お前が何でここにいるとかは全部抜きにして聞く―――お前は、どちら側だ?」

 

 するとアザゼル先生は核心を突くような質問を問いかける。

 ……とはいえ、恐らく答えは一つだ。

 このタイミングでこの男が現れたこと、それはつまり奴は敵。

 

「―――平行世界のアーシア・アルジェント。君はグレモリー眷属でも相手にしているといいさ。俺はアザゼルと久しぶりに戦ってみたいものでね」

「……礼は言いません、ヴァーリ・ルシファー」

 

 ……アイはこれまでとは打って変わって、棘のある口調でその名を呼ぶ。

 

「思わぬ邪魔が入りましたが、まあ良いです―――行きます!」

『ッ!!』

 

 ―――そして僕たちは、再びアイと戦闘を続けるのだった。

 

『Side out:木場祐斗』

 

 ―・・・

 

 一誠が稼いだくれた時間の中、俺はただ白銀龍帝の籠手を禁手させることだけを考えていた。

 その間、一誠は確実に黒い赤龍帝の足を止めてくれた。

 そしてそのおかげで今、俺はようやく自身の中の完全装備に至れた。

 神帝の鎧、白銀龍帝の双龍腕、無刀、アスカロン。

 俺は瞬時に白銀の流星のような極大な魔力砲を黒い赤龍帝に向けて放ち、その隙を突いた一誠の強力な攻撃が奴に通り、そして……今に至る。

 肩で息をする一誠の前に浮かび、拳を構えた。

 

「後は俺に任せろ」

「オルフェルさん!」

 

 俺は安心させるように再度、同じ言葉を一誠に投げかけた。

 ……実際に一誠はよくやったよ。

 あれほどの奴の猛威に喰らいつき、一矢報いた。

 ホント、こいつは見ていて興味が湧くよ。

 ―――だからこそ、ここから先は己の強さをこいつに見せてやらないとな。

 

「俺、まだまだ戦えます!」

 

 すると一誠から威勢の良い、そんな言葉が投げかけられた。

 ……一誠なら、そう言うよな。

 もちろん一緒に戦いたい気持ちもある。

 だけど―――

 

「トリアイナの弱点は消耗。お前はそこで見てろって」

 

 俺は一誠の頭を軽く小突いて、前を向く。

 ……うし、んじゃまあ一回気合入れますか!

 ここまでまともに戦えていないし、それに何より―――一度あいつには負けてんだ。

 

「リベンジマッチだぜ、黒い赤龍帝」

『Full Boost Impact Count 4!!!!!!』

 

 俺は白銀の腕の中にある4つ目の宝玉を砕き、現状の極限まで濃縮した倍増のエネルギーを手に入れる!

 更にそれを両腕に篭め、そして一気に黒い赤龍帝に近づいて行った。

 俺の腕が白銀の腕によって光り輝くのとは対照的に、黒い赤龍帝の腕は闇色のオーラによって覆われていた。

 砕かれた鎧は修復されている。

 ……まだ隠し玉があることは承知の上だ。

 

「いくぞ、うぉぉぉぉ!!」

 

 俺は先手を打つように真っ直ぐと黒い赤龍帝に拳を放った。

 黒い赤龍帝はその拳をわざわざ迎え撃つように自らも右腕の拳を放った。

 ぶつかり合う二つの拳。

 俺の白銀のオーラに包まれた拳と、まるで巨人のように肥大化した黒い赤龍帝の闇の拳。

 互いの力は拮抗し、鍔迫り合いならぬ拳迫り合いを続ける!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost……』

『Infinite Accel Boost!!!!!!』

 

 黒い赤龍帝と俺の鎧から互いに力を倍増する音声が流れる!

 黒い赤龍帝の拳のオーラは更に巨大化し、対する俺は全ての倍増の力を背中の噴射口に集中させる!

 拳の力は今のままで十分だ!

 だからこそ今は勢いが欲しい。

 俺という存在そのものが一つの流星になるほどの速度―――俺の拳は、黒い赤龍帝を圧し始めていた。

 

「ッッッ!!!?」

「俺の拳は、お前に届く!!」

 

 歯を食いしばって、俺は拳の力を緩めなかった。

 激しい金属音が鼓膜を破るんじゃないかって思うくらいの音が鳴り響き、その状態のままで俺は更に二つの宝玉を砕いた。

 

『Full Boost Impact Count 5,6!!!!!!』

 

 砕いた宝玉の一つのオーラを更に背中のブースターに篭め、もう一つは白銀のオーラとして拳に更に上乗せする!

 

「お前の辛さは理解した! 共感も出来る! だから、この拳はお前を貫く!!」

「ダマレェェェェ!!!!」

「うるせぇ!! あんな化け物に支配されてんじゃねぇ!! お前の力は、そんなもんじゃないだろ!?」

 

 ―――俺は黒い赤龍帝を殴り飛ばす。

 それと共に更に宝玉を三つ砕いて、それを三つの流星として放った。

 更に事前に用意していた神帝の鎧で造り上げた赤い魔力の球を拳で砕き、そこからもう一つの流星を創り出す。

 紅蓮の龍星群(クリムゾン・ドラグーン)白銀の龍星群(ホワイト・ドラグーン)

 計4つの圧倒的魔力砲を黒い赤龍帝へと放つ!

 黒い赤龍帝はそれを軽やかな舞で一つ避け、更にもう一つ避ける。

 流星は地面に大穴を二つ空け、そして黒い赤龍帝は三つ目の流星を避けた。

 ……流石だ。

 やはり奴は経験が違う。

 ―――だけど、それは俺も同じだ。

 

「……拡散しろ(オーダー=スプレッド)

 

 赤い流星を黒い赤龍帝が避けようとした時に、俺は言霊を発する。

 それは流星に元々プログラムしていた魔力弾に対する能力付加だ。

 加えた力は、弾丸が拡散する力。

 黒い赤龍帝は予想外の球の軌道に対応が遅れ、鎧を大きく破損させた。

 

「今だ―――うぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 俺は背中の噴射口からオーラを放出し、更にドラゴンの翼を織りなして黒い赤龍帝へと近づいて行く。

 初めて出来た奴の隙だ。

 チャンスは逃さない!!

 

『Full Boost Impact Count 7!!!!!!』

 

 宝玉を一つ砕き、それを球体状にする。

 それの拳を覆うように展開し、そして黒い赤龍帝に対して球体ごと拳を放った。

 

「ラァァァァァ!!!」

 

 その刹那、黒い赤龍帝は黒い檻で自分を覆って防御を測ろうとする。

 ……だけど関係ない。

 

「無駄だ!! この拳はお前を檻から引きづり出す!!」

 

 球体を貫き、俺の拳は檻とぶつかり合う。

 更に砕かれた球体の力が発生し、拳から放たれる拳圧のような白銀の柱。

 それが黒い赤龍帝を覆い、そして―――檻を完膚なきまで粉砕し、そこでもう一度黒い赤龍帝に近づいた。

 構えを最小限にし、しかし力は絶大。

 小さなモーションで黒い赤龍帝を殴り飛ばし、地面へと叩きつけた。

 

「……お前のために戦っている存在がいるんだ。さっさと自分を曝け出せ―――他の誰でもない俺自身が(・ ・ ・)相手をしてやる」

 

 煙が立ち込める地面に向かって、俺はそう言い放った。

 きっとまだこいつは終わらない。

 だってこいつはまだあれ(・ ・)を見せていない。

 あの化け物を一瞬の内に屠った力の片鱗を―――夢の中でアザゼルが使わせたくなかった、間違った力を。

 それを真っ向から相手にしてねじ伏せないと俺はこいつを救えない。

 

「オルフェルさん!!」

 

 すると俺の後方より飛んでくる一誠。

 一誠は先ほどまでの疲労がある程度回復したのか、気合十分な趣だった。

 ……いや、そうじゃないとここから先の戦いについていけないか。

 

「……一誠。たぶん、これが本当の意味で最後だ」

「…………」

 

 俺の言葉に一誠は固唾を呑んだ。

 その言葉の意味を、重みを理解したんだろう。

 ……次第に煙は晴れる。

 ―――そこには、鎧がボロボロでメットも完全に崩れ去っている黒い赤龍帝の姿があった。

 体から血を流し、そして……あの時の、闇色のオーラを撒き散らしていた。

 

「―――もう、俺に残っている生きがいなんてないんだ」

 

 ……だけどその闇色に対して、黒い赤龍帝の声音は実に冷静で穏やかなものだった。

 

「何もかも失って……あいつを殺してさ―――こんなにも心が晴れてるはずなのに、なんでこんなに辛いんだろ。……なんで、涙が止まらないんだろ」

 

 自嘲気味に笑みを込める黒い赤龍帝。

 それとは裏腹にあいつを覆い被る闇のオーラは止まらなかった。

 

「きっとこうして普通に話せるのは最後だ。……だからお願いだ―――俺を、殺してくれ。もう俺には誰かを傷つけることしか、出来ないッ! それが覇を受け入れて、その道を進んだ俺の……報い、なんだ」

 

 ……辛い気持ちは痛いほど分かる。

 こいつの本心は本当は戦いたくないんだ。

 だけど一度受け入れてしまった力はそれを拒み、間違った道を突き進ませてしまう。

 でも、そんなの―――

 

「―――ふざけんじゃ、ねぇぞ!!!」

 

 ……俺の想いは、隣で肩を震えさせる一誠によって代弁された。

 

「俺はあんなの過去とか、そんなもの知らない! だけど誰かを傷つけたのを後悔してるなら、それならもっと抗えよ!! そんな簡単に諦めてんじゃねぇよ!! その傷つけた人たちに償えるように、しろよ!!!」

 

 ……同じ兵藤一誠だからこそ言える言葉だった。

 

「あんたのために戦っている奴にいるんだ。オルフェルさんみたいにカッコよくは出来ないかもしれない―――それでも良い。俺たちはあんたをぶっ倒して、そして!」

「―――お前を救う!!」

 

 俺と一誠の気持ちが一つになった時、黒い赤龍帝の表情を失った。

 そして―――

 

「―――ありが、とう」

 

 その小さな一言と共に、声を失わせる。

 闇に覆われ、蠢き、そしてその中で何か別者の声音のような声が響いた。

 

『我、目覚めるは―――闇夜の混沌に身を沈めし死の覇王なり』

 

 ―――死戦が、始まる。


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