ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第4話 二つの怒り

 室内に電子的な音が一定間隔で鳴り響く。

 心電図の電子音が病室を包み、そしてそれに繋がれる男に寄り添うようにいる女性―――ソーナ・シトリー会長は目元に隈を作りながらも、最低限の笑みを俺たちに浮かべていた。

 

「……兵藤君から既に話は聞いています。初めまして、平行世界の赤龍帝……なんて自己紹介は不要でしょうか?」

「ええ。俺も貴方のことは良く知っているので」

 

 ……謎の女性、アイとの邂逅から既に数十分が経過した今。

 俺は匙が収容されている病室に足を踏み入れていた。

 先に到着していた一誠が事の次第をソーナ会長に説明し、大体のことを理解しているんだろう。

 ―――だけど会長は明らかに顔色が悪かった。

 

「……現状のことの前に先に聞きます―――ほとんど寝ていませんよね?」

「………………」

 

 俺の質問にソーナ会長は無言になる。

 ……目元の隈や声音から察してはいたものの、やはりそうだったと俺は納得する。

 俺の世界の会長と、この世界の会長が性質的に変わりないならば……それなら、会長は自分の愛すべき眷属に付きっきりになって看病するはずだ。

 それこそ寝る間も惜しんで。

 それは彼女の優しさだ。

 ……だけどそれを匙が望むとは思えない。

 自分のために無理をして、最悪倒れられでもしたらあいつは自分を責める。

 

「……俺は自分の世界のあなたしか知らない。だけど眷属のために涙を流すヒトなら、きっと俺の世界の会長と同じです―――少しでも良いから、休んでください」

「で、ですが私はシトリー眷属の」

「シトリー眷属の王だからこそ」

 

 俺は会長の言葉を遮るように言葉を続け、そして言った。

 

「―――王は、誰よりも冷静で威風堂々としていないといけないんです」

「…………………………」

 

 会長は封殺されるように言葉を失くし、苦い表情をしていた。

 たぶん俺の言葉を理解しているんだろう。

 だけど理解していても納得できないことは存在している。

 

「俺からの忠告はそれだけです―――じゃあ、話を現在に戻します」

 

 俺は話を変えるようにパンッ、と拍手をするように手の平を叩き、話題を転換する。

 俺は床に伏せる匙を見た。

 ……意識はなく、規則正しい吐息を漏らしながら未だ眠っている。

 俺の知る情報では、確か正体不明の襲撃者に襲われて花戒さんと共に重症を負ったとは聞いていた。

 ……だけどこの傷は想像以上に深いな。

 

「会長。匙はシトリー眷属で一番強いですか?」

「……ええ。純粋な火力ではうちの誰よりも秀でていると考えます」

「…………その匙に対してここまで一方的な傷を負わせる襲撃者―――なるほど、一筋縄じゃいかないな」

 

 ……アイの言葉を信じるなら、匙を襲った襲撃者はアイのいうこの町に来る脅威ってことなんだろう。

 更に言えばこの町で起きている魔物の大量発生も、この件と無関係とは言えない。

 

「せめて匙の意識は戻っていれば、話を聞けるのに……」

 

 俺の隣でそう呟く一誠。

 確かに匙に話を聞くのが一番手っ取り早いんだろう。

 だけど当の匙が今は意識不明の重体だ。

 ……いや、待て。

 

「ここは俺のいた世界よりも後の時間軸。俺の世界なら既に匙はヴリトラの意識を取り戻し、龍の形態に至っている……一誠、お前はヴリトラって知っているか?」

「え、ええ。匙の中に存在している龍王の一角っすけど……」

「……だったらやりようはある」

 

 俺は匙が横になるベッドの傍にあるパイプ椅子に座り、そして匙の右手に手を添える。

 ……黒の龍脈(アブソーブション・ライン)は右手に展開される神器。

 そこに龍法陣を展開し、直接ヴリトラと接触する。

 調整はドライグとフェルに任せても良いか?

 

『ああ、問題はない。ただヴリトラが既に目覚めているという保証はないぞ?』

 

 ドライグが俺にそう問いかけるが、やってみる価値はある。

 俺も龍法陣はティアから軽く習っている程度だから、うまくいくとは思わないけど。

 

「今から匙の中に存在しているヴリトラに対し、龍法陣……ドラゴンの魔法みたいなものを使って、接触を測ります」

「……ッ! そ、そうです。盲点でした……匙の中でヴリトラもまた、共に戦っていたというわけですか」

「そういうことです……とはいえ、そのヴリトラもまた意識不明の可能性が高いですが」

 

 赤い龍法陣を展開し、俺は匙の中のヴリトラの影を掴むように意識を潜らせる。

 目を閉じ、真っ暗闇の匙の深層意識―――神器の中へと入って行った。

 意識がないためか辺りは真っ暗闇で、俺は泳ぐように進んでいく。

 

『精神世界でなら俺たちが全面的にサポートしよう』

『姿を見せることが出来るのは、こういう時だけですからね』

 

 すると突如、姿を現す二対の巨竜。

 赤い肢体の誇り高き傷を幾つも負っているドライグと、プラチナのように光り輝き神々しいオーラを放つフェル。

 元々の大きさとなった二人が俺に寄り添うように黒い空間を前進していく。

 

『……これは想像を絶する攻撃を受けたのであろう。生きているのが不思議なくらいだ』

「ドライグもそう思うか?」

『ああ。圧倒的破壊の力。この空間からはその残照のようなものを感じる』

『未だ匙さんが目を覚まさないのは仕方ないです。ここまでの破壊の力を受けてしまえば……』

 

 ……なおさら許せないな。

 その襲撃者がどんな理論を並べても、どんな言い訳をしたとしても。

 直接俺とこの世界の匙が関係性を持っているわけでもない。

 

「だけど、俺にとって匙は親友だ」

 

 例えそれが平行世界の匙であろうと。

 こいつは俺が「守る」べき存在だ。

 

「ドライグ、フェル。絶対に手がかりを掴もうぜ!」

『はは、俺たちは相棒についていくさ』

『ええ! 行きましょう、主様!』

 

 ドライグとフェルは力強くそう頷いた―――その時だった。

 

「……ッ! これは……ドラゴンの気配」

 

 俺は少し離れたところにドラゴンの気配を察知した。

 それは弱弱しく、それが傷ついて存在が気薄になっていることを意味している。

 

『これは……恐らく、ヴリトラの意識』

『だがこれほどに弱っているとはな』

 

 フェルとドライグの言葉によって俺の考えは確信のものに変わり、そして俺たちは到達する。

 ……ヴリトラの袂まで。

 

「ドライグ、何とか話せそうか?」

『……難しいな。消えることはないだろうが、しばらく休まないといけないほどの傷だ』

『魂の存在であるはずのヴリトラさえもこうしてしまう敵、ですか』

 

 俺たちはその場で動かないヴリトラを前にして、そんな会話をしていた。

 ここまで来ても、当のヴリトラがこうして倒れていたらどうしようもない。

 この空間ではフェルの力は発動するのか?

 

『いえ、わたくしも魂だけの存在。主様という源があってこそ、私の力は神器という形で発動するのです』

『俺も同様だ。軽いドラゴンとしての力を以てすれば、問いかけくらいは出来るが……』

「……そっか」

 

 引き返すしかないか。

 俺はそう諦めを付け、ヴリトラから背を向けた―――その時だった。

 

「……? この光、まさかあの時の……」

 

 突如、俺の胸の中から赤い光の球が現れる。

 これはそう……赤龍神帝であるグレートレッドが俺に託した、真龍の因子だ。

 俺が守護覇龍を発動したときに使い、それでもう俺と同化していたとばかり思っていたけど……とにかく、その光を俺は掴んだ。

 すると俺は突然赤いオーラに包まれ、そして体が勝手にヴリトラの方に移動する!

 そして倒れるヴリトラに手を触れた。

 

『……グレートレッドの因子。やはりそれは相棒の中で根付いて、育っているのか』

『恐らくは。最近主様が不思議な夢を見るのは、それが所以なのでしょう』

 

 ……なるほど、それなら合点がいく。

 これがグレートレッドの力の一端なのだとしたら、もしかしたらヴリトラの意識を戻すことが出来るかもしれない。

 あのドラゴンは夢幻を司るドラゴン。

 夢、についてはどんな存在よりも影響力があるはずだ。

 

「お願いだ、ヴリトラっ! 辛いのは分かる……だけど今の俺たちにはお前が頼りなんだ!」

 

 ヴリトラに触れながら、俺はそう言葉を続ける。

 俺はそう黒龍に問いかけ続ける。

 それを数分続け、そうしていると―――

 

『……貴様、は……確か……』

「ッ!! ヴリトラ!?」

 

 ―――ヴリトラは、弱弱しいながらも声を漏らした。

 

『我は、何をして……そう、か。我と、我が分身は、やられた、のか……』

「ヴリトラ、そのまま少しだけでいい! 意識を保ってくれっ!!」

『……あまり、期待はするでない。我は、いつ眠っても、おかしくはない……』

 

 ……俺はヴリトラの言葉に頷き、そして尋ねる。

 

「聞きたいことは二つ。一つはお前たちは何に襲われたんだ?」

『……正直に言えば、分からん』

 

 ……分からない?

 俺はヴリトラの言葉に疑問を持つが、ヴリトラは補足するように言葉を続けた。

 

『奴が何者で、何が目的で我々を襲ったのかは……不明、だ。ただ一つ―――おぞましいほどの、力だった……』

「……そうか。じゃあ質問はこれで最後だ―――敵は、どんな姿だった?」

 

 ……これが正しい質問かは分からないが、俺は気になったことをぶつけた。

 何故こんなことを聞いたかは分からないけど、どうにもアイの言葉が頭に引っかかるんだ。

 既に匙は襲われている。

 なのにあいつはこれから来る脅威(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)と言った。

 もし匙が襲った存在とは別に脅威が俺たちの前に来ているのだとしたら。

 今の問題と、これから来る脅威の見分けをつけないといけない。

 

『……黒い、獣のような存在、だった……すまんが、そろそろ我も限界だ。元々記憶も定まって、いないものでな……どこまで参考になるかは、分からぬが……』

「いや、お前の言葉が対策になる―――ありがとう、今はゆっくりと休んでくれ」

『そういえば、貴様は……赤龍帝、なのか? だが、我の知る赤龍帝とは、また違う……』

「……そうだな。次にお前が起きるときには、俺はいるか分からないから今名乗っておく―――俺は、オルフェルだ」

 

 俺はヴリトラに頭を下げ、そして名乗る。

 するとヴリトラはどこか楽しそうな声を上げ、そして……俺の頭を、震える手で撫でて来た。

 

『……すまぬな、何故か……こうしたくなった……』

「……いや! 伝説クラスのドラゴンにそうされるのは慣れてるさ!」

『はは……頼む、我と……我が分身の分まで、奴を……』

 

 ―――それと共に俺たちの意識は現実に戻る。

 ……ああ、約束するよ。

 俺が絶対にこの問題を解決する。

 

「お、オルフェルさん?」

「どうでしたか?」

「……ええ。一番知りたい情報は手に入りました」

 

 俺はそう言うと、一誠は目を見開いて驚いていた。

 ……俺は知りたい情報を知ることができたので、席から立ち上がり会長の頭を下げた。

 

「俺はこれで失礼します。この問題は俺や、ここにいる一誠たちに任せてください」

「で、ですが!」

「気持ちは分かります―――だけどさ? そんな疲れ顔でせがまれても説得力がないだろ?」

 

 俺は敢えて軽い口調で会長にそう言った。

 

「もし本当に匙の弔い合戦をしたいなら、もっと王らしい風格を持った状態でいてくれ。そうじゃないと怪我しちゃうからさ」

「…………ふふ。そうですね―――ありがとう、オルフェルさん」

 

 会長は若干くだけた話し方でそう言うと、俺と一誠は病室を後にする。

 

「ほへぇ……あの会長が、あんなに素直に笑って礼を言うなんてびっくりっす!」

「そっか? こっちの世界の会長は、色々可愛いけどなぁ……」

 

 匙との進展はどうですかって聞いたら、十中八九顔を真っ赤にして動揺ついでに怒ってくるしさ。

 

「……それで詳しいことは俺も知らないんですけど」

「そうだな、それも含めて歩きながら話そうと―――」

 

 ……思ってるよ、そう言おうとした時だった。

 突如、病院内で鳴り響く不相応な着信音。

 その着信音の主は一誠で、俺はその常識のなさにため息を吐きながら頭を軽く小突く。

 幸い病院の入り口まで来ていたので一誠を外に先に出させ、そして俺はゆっくりと歩いて行った。

 

「ったく、あのバカは」

 

 俺は軽く笑いながらそう呟くと、一誠は通話を終えたのか、こっちに急ぎ足で戻って来た。

 

「良いか? 一誠。病院ではマナーモードにしているのが常識―――」

「そんなこと言ってる場合じゃないっすよ!」

 

 ……すると一誠は何故か焦った表情で、俺の大事なお言葉をぶち切る。

 何をそんなに焦ってんだ?

 

「―――オルフェルさんの連れの女の子が、目を覚ましたらしいんです!」

「…………ッ!? それは本当か!?」

 

 俺は一誠の肩を掴み、そう尋ねる!

 観莉はパラレルリープの影響で意識を失っていて、今は部室で介抱をしてもらっている。

 ……観莉は一般人だから、出来ることなら悪魔関係のことを知られるわけにはいかない。

 幸いこの世界は平行世界で、俺たちの世界と大差ないから問題はないはずだけど……この世界の自分と会わない限りは。

 そう高を括った時だった―――

 

「え、ええ! で、でもどうにも状況が上手く飲み込めないそうで……」

「……どういうことだ? 少し落ち着け」

「は、はい! ……じゃあ言います。その―――どうにも、その女の子は自分が誰かも分からないって言っているらしくて……」

 

 ………………は?

 俺は一誠の言った言葉の意味が理解できず、もう一度一誠に尋ねた。

 すると一誠は答えた。

 

「―――記憶喪失、だそうです!」

 

 ……その言葉を聞いた瞬間、俺は一誠を置いて全速力で部室へと走り帰るのであった。

 

 ―・・・

 

 俺は全速力で部室に向かって走る。

 それはもう、道行く人が振り返るほどの速度で。

 後で絶対にリアスに怒られると確信できるくらいの速度で、俺は走っていた。

 

「観莉が記憶喪失とか、嘘だろ……ッ!?」

 

 ……先程、俺は一誠にその事実を聞かされた。

 正直驚きもしたけど、それ以上に今回の件で観莉を巻き込んでしまったのは俺だ。

 結果的に仕方ない面があるけど、それは言い訳になんか出来ない。

 

「はぁ、はぁ―――リアス! 観莉が記憶喪失って、本当か!?」

 

 俺は部室の扉を勢いよく開くと、そこには先程まで共にいた皆。

 そしてソファーには観莉が座って―――

 

「うぇぇぇぇぇんっ!!こわいよぉ、こわいよぉっ!!!」

 

 ―――聞こえたのは可愛らしい鳴き声だった。

 それはもう愛くるしい声で、どこの子供が部室に紛れ込んだと思うほどのもの。

 だけど…………俺はこの声を、知っているっ!!

 

「………………り、リアス? こ、これはどういう状況……なんだ?」

「……私が知りたいわよ」

 

 リアスも困った表情で俺の問いに答えるが、答えになってない!!

 いや、リアスに言えた義理じゃないけどさ?

 ……よし、冷静になろう。

 

「もうやなのぉ……おうち、かえりたいよぅ……あれ? おうち、どこだっけ……うえぇぇぇぇぇん!!!」

 

 ―――なんというブーメラン。

 そう心の中でツッコむしか出来ないぞ、これ!

 違う違い、冷静になるんだ!

 つまりあれか?

 俗に言う、これは―――幼児退行?

 

「……お、オルフェルさん。この子、私の手には負えないです」

「はうぅぅ! こんな時、イッセーさんがいてくれたら!!」

 

 いや、アーシア。この場に仮に一誠がいても、たぶん何も出来ないと思うよ?

 むしろ逆に泣かれそう。

 

「……ってか俺がどうにかするしかないよな」

 

 観莉がこうなってしまったのは確実に俺の責任だし。

 俺は頬をパンッと叩き、気合を入れ直す。

 そして未だなお泣きじゃくる観莉(幼児退行)に近づいて、そっと頭を撫でた。

 

「ごめんな、起きたら周りに知らない人がいて、自分が誰か分からなかったら泣いちゃうよな?」

「……え?」

 

 涙目で突然頭を撫でて来た俺を、上目遣いで見つめる観莉。

 目を丸くして、不思議そうに俺の顔を見ていた。

 

「大丈夫、俺は君を知っているよ?」

「……ほ、ホント?」

「ああ! 君はね、すごく明るくて真面目で、いつも笑顔を周りに振りまいて皆を笑顔にしてくれる可愛い女の子なんだ。俺もそんな君にいつも癒されて、笑顔を向けているんだよ」

 

 俺は優しく撫でまわすように観莉の頭を包み込む。

 観莉はトロンとした表情で俺を見ていて、俺は続けて言葉を掛け続けた。

 ……不安なら、安心できるほどの『何か』を与えてやればいい。

 その何かを「自分のことを知っている、信頼できる存在」っていう風にすれば、きっと安心できるはずだ。

 

「だから俺は、君のそんな笑顔が見たいな。ほら、涙なんか似合わないよ」

 

 俺はポケットからハンカチを取り出し、観莉の目元の涙を拭う。

 

「良し、とりあえず笑ってみよう! はい、ニパー」

「に、ニパー!!」

 

 俺の真似をするように観莉は笑ってみせる。

 俺はその行動を褒めるように再度頭を撫でて、そして更に話し続けた。

 

「良い笑顔だ! 良いか? 君の名前は観莉。俺の友達だよ」

「……みり? それがわたしのなまえ?」

「そう。俺のことは……そうだな、オルフェルって言ってくれれば良いよ」

「むぅ……ながいから、いいにくいっ!」

 

 

 すると観莉は難しい顔をしながら、何かを考え込むような顔をした。

 ……確かに長いな。

 

『それにしても流石は相棒、何ともまあ慣れている』

『流石のお兄ちゃん力です。ええ、これぞ冥界のお兄ちゃんドラゴンの本領……ふふ、世界さえ変えてしまいそうです』

 

 言い過ぎだろ、それは。

 そんな愉快な会話をしていると、観莉は何か答えを出したように表情をパァッと明るくさせて、俺の手を引っ張って来た!

 そしてギュッと手を握り、そして高らかにある言葉を言った。

 

「おにいちゃん! そっちのほーが、しっくりくる!!」

「…………………………あはは、それでいーよー」

 

 ……観莉のまさかの発言に、俺は自分でも驚くほどの棒読みで返した。

 その瞬間、俺の中の愉快なドラゴンが歓喜の笑いを浮かべた。

 もう何も知らねぇよ!

 まさかここでもお兄ちゃんが来るなんて考えもしなかったよ!

 ってか考えるわけねぇだろ!

 

「ぎゅ~、おにいちゃ~ん♪」

「おいおい、いきなり懐きすぎだろ」

 

 そして体は絶賛成長中の観莉なもので、色々と柔らかい感触が凄まじいのは…………ああ、気にしなかったら犯罪になるっ!!

 普段の観莉も悪戯に引っ付いてくるけど、この観莉は完全なる善意と純粋な心でくっ付いてきている。

 無下には、できないッ!

 

「…………これがお兄ちゃんドラゴンの実力」

「う、なんというか……」

「い、イッセー君の立つ瀬がないよね、これ」

 

 小猫ちゃん、ゼノヴィア、祐斗が勝手なことを抜かしているが、俺は心を無にすることにした。

 この子は体は大人、頭脳は幼女なんだ。

 だから変な感情は抱かない!

 

「お、オルフェルさん!? 俺を置いてけぼりとか酷過ぎっすよ!! ……ってなんだよ、この状況!!」

 

 ……少し遅れて部室に戻ったイッセーは、そんな風に驚くのであった。

 だけど言わせてもらいたい―――驚くのはこっちだよってさ。

 

 ―・・・

 

「いっしょにおふろはいろー!!」

「アウト!! それ完全にアウトォォォォ!!!」

 

 ……あれから一日が経過した。

 観莉は結局、パラレルリープの影響で記憶を失い、どういうわけか幼児退行を起こしたっていう診断が出た。

 時間が解決するか、同じショックを与えれば治るかもしれないらしいが、そもそも自分の世界に戻る方法すら知らないんだ。

 だからそんなこと出来るわけがなく、とりあえず俺たちはこの町に滞在することになったわけだ。

 俺は観莉の面倒を見る役目を担っているわけだけど、流石にお風呂は遠慮しないといけない!

 これが本当に子供なら一緒に入っても問題ないが、観莉は中学生離れしたスタイルをしているから俺には無理だ!

 かといって観莉は俺から離れないほどベッタリ懐いてしまっているから、別々の行動は不可能なわけで。

 つまり―――

 

「八方塞がりってこういうことを言うんだよな」

「ん? おにいちゃん、みりとラブラブしよー!」

 

 俺の腕を掴み、そのまま風呂に特攻をかけようとする観莉。

 それを何とか阻止しようとその場で動こうとしない俺に、観莉はそれでも風呂場に連れて行こうとする。

 

「お、おにいちゃんはお風呂は一人で入りたな~」

「またまた~」

 

 ギャグかよ、おい。

 だけど俺は本気なんだよ、観莉。

 この一線を越えてしまえば俺は一誠を馬鹿に出来なくなる。

 変態の称号を、俺が頂戴することだけは御免なんだ!

 

「良い子は一人でお風呂に入るんだぜ?」

「みりはわるい子だから、ひとりはむりなの♪」

 

 ―――こいつ、実は幼女退行の振りをしてるんじゃないのか?

 そう思ってしまうほど、この子は観莉だった。

 ともかくこのままじゃ埒が明かない!

 俺は町のパトロール兼事件の調査をしないといけないんだ!

 

『……もう一緒に連れて行ったらどうだ?』

『お風呂に関しては……まあ心を無にすれば』

「無に出来ないから拒否しているんだよ、バカヤロォォォォ!!!」

 

 ……兵藤家に俺の怒号が響き渡るのであった。

 ―――俺と観莉はとりあえず兵藤家にお世話になることになったんだ。

 衣食住をどうにかしないといけないということで、一番便利が良い兵藤家が選ばれたとのこと。

 ここで一つ驚いたのが、俺の両親と、この世界の一誠の両親は顔が全く異なっているということだ。

 これにはもう驚いたよ。

 むさ苦しい親父ではなく、普通のサラリーマンの親父。

 年齢不詳の心読み系母さんではなく、年相応の主婦の母さん。

 一誠の両親は疑うことがないほどの「普通」の両親だったんだ。

 やっぱり俺の世界とは随分と違いがあるようだな。

 

「……良し、観莉。俺が甘いものを好きなだけ食べさせてやる。だから町に遊びに行かないか?」

「どれだけたべてもいいの?」

「ああ! だからお風呂はまた今度……ってことでどうだ?」

「―――りょーかい! みりはおにいちゃんについていくのだ!!」

 

 観莉は可愛く敬礼をするようにビシッとし、そして出かける身支度をする。

 服に関してはとりあえずアーシアの服を貸して貰っており、俺は一誠のを着ている。

 まあセンス云々は置いておくとして、特に困った点はないな。

 

「でも二人だけで出掛けるのも不用心か」

『確かに相棒は力はあれど、ここはこの世界の誰かを付けた方が良い』

 

 まあその辺りが妥当だよな。

 ……よし、ここは比較的楽な人選で行こう。

 

「……祐斗、小猫ちゃんと連絡を取るか」

 

 聞いたところによると、パトロールは基本ツーマンセル。

 二人一組で行うことが普通らしい。

 ただ現状、匙をあそこまでボロボロにした正体不明の襲撃者の存在を危惧すれば、もっと固まって行動した方が良いか。

 俺はそれを理解した上で祐斗たちと連絡を取るのであった。

 

 ―・・・

 

「祐斗、そっちの進捗状況はどうだ?」

「そうだね、著しく進んでいないっていうのが本音だね。あれ以来、謎の襲撃者の目撃情報も出ていないわけだしね」

 

 俺は祐斗と合流し、意見を交換する。

 祐斗と小猫ちゃんのグループは市街区を中心に情報収集しているが、やはり一向に情報が手に入らないらしい。

 かといってここにはたくさんの人が住んでいるから、ノーマークっていうことも出来ないというわけだ。

 

「まあそんな一日や二日では状況は進まない、か―――ところで小猫ちゃんは何をそんなに欲しそうな顔をしているんだよ」

 

 俺はそこで小猫ちゃんに尋ねた。

 俺の手には大きなクレープが一つあり、小猫ちゃんはそれを凝視しているんだ。

 俺は観莉を連れて、二人と合流する前に繁華街によってクレープを購入してここに来た。

 小猫ちゃんは甘いものには目がない今時の女の子で、当然俺の手元の生チョコいちクレープにも興味津々なんだろう。

 

「……オルフェルさん。お願いですから、そのクレープを一口ください」

「珍しく饒舌だな―――まあこれは小猫ちゃんに差し入れで買ってきたものだけど」

 

 俺はクレープを小猫ちゃんに丸ごと手渡した。

 その行動に小猫ちゃんは目を丸くして驚いているけど、俺の世界は小猫ちゃんは俺にとって、家族も同然の存在だ。

 だからか、どうしてもそんな家族に甘くなってしまうんだよな。

 

「……オルフェルさんは、元の世界でもこんなに私に優しくしているんですか?」

「どの範囲までが優しいかは分からないけど……まあ大切な家族だからな。それなりに可愛がってるし、面倒見たりもしてるよ」

「………………家族、ですか」

 

 そこで小猫ちゃんの表情に憂いが見えた。

 家族の言葉に反応する……ってことは、この世界では小猫ちゃんの傍にいない黒歌が関連しているのか?

 ―――でもそれに対して、俺は口出ししてはいけない。

 それをどうにかしないといけないのはこの世界の小猫ちゃんと、そして……この世界の一誠だ。

 あいつが曲がりなりにも俺であるなら、きっと俺が言うまでもなく問題解決のために動くんだろうけどさ。

 

「俺の世界は俺の世界だけど、割り切っても対応だけは変わらないんだよ。だから好意は素直に受け取ってくれよ?」

「……そうですか。良く分かりました。あなたの性質が……っというより、見たことがないくらいの甘ちゃんってことが」

「そいつは酷くないか!?」

 

 俺は小猫ちゃんにそう言うけど、当の小猫ちゃんは顔をそっぽ向けてクレープを頬張っていた。

 

「君は危険な男だね、オルフェルくん」

「なにがだよ。俺、特に何もしてないだろ?」

「そういうところが、だよ」

 

 祐斗は少し苦笑いを浮かべながらそのまま前を歩いて行く。

 

「ねねー、ねこのおねえちゃん! おにいちゃんとなにをはなしてるのー?」

「……こう、自分よりもスタイルが良くて身長が大きな子に『お姉ちゃん』って呼ばれると、無性に腹が立つです」

 

 ……それは落ち着いて冷静にスルーしてくれッ!

 俺はそう切実に願うのであった。

 ―――その時だった。

 

「……祐斗」

「ああ、分かっているさ」

 

 ……俺はあるものを察知し、祐斗に声をかけた。

 祐斗も俺が言わんとしていることに気が付いており、それは仙術を扱える小猫ちゃんも同様だった。

 

「……小猫ちゃん、観莉を安全なところに連れて行ってくれ」

「……分かりました。私もすぐに戻ってくるので、持ち堪えてくださいっ!」

 

 すると小猫ちゃんは観莉の手を握って、来た道を走りながら戻っていく。

 観莉が何か反抗の言葉を言っているけど、今はそんな場合じゃない。

 

「よくもまあこんな白昼堂々出てこれるもんだな―――魔物が」

「全く以てそうだよ」

 

 俺は籠手を展開し、祐斗は聖魔剣を生み出して剣先を目の前に向ける。

 ……そこには無数の影があった。

 形が定まらない、気味の悪い魔物の数々。

 俺が昨日倒した魔物によく似ているが、その中に一点だけ異常な魔力を感じる。

 

「祐斗、俺について来れるか?」

「努力はするよ―――僕もすごく気になっていたんだ。君の戦うところを、間近で見たかった」

「そうかい。なら見ていて良いぜ?」

『Boost!!』

『Force!!』

 

 俺は籠手とフォースギアの音声を鳴り響かせ、更に昇格を果たす。

 ここは正に俺にとっては敵地も同然。

 ここは祐斗に倣って『騎士』で行くか。

 

「プロモーション、騎士(ナイト)

 

 とはいえここは人の住む民家。

 赤龍帝の爆発的力を使うわけにはいかない。

 だから騎士を選んだわけだけど―――ここはアスカロンと無刀の二刀流が一番か。

 

「アスカロン、無刀。また共に戦うぞ」

 

 俺は無刀に魔力を注入すると、そこから夥しいほどの紅蓮の刃が生まれる。

 断罪の性質を加えた魔力だから、無刀には魔物を倒すのに最適な滅殺力が含まれているはずだ。

 アスカロンからは激しい聖なるオーラが放出され、俺は祐斗と同じように剣先を魔物に向けた。

 

「……二刀流。あの時は鎧を身につけている状態でだったけど、生身でも出来るんだね」

「当たり前だろ。これでも、生身で最上級悪魔とやり合うのが目標だからな」

 

 俺はその言葉を残すと同時に行動に移る。

 脚に力を入れてそれを掛け、そのままアスカロンを横薙ぎに振るった。

 振るったアスカロンからは聖なる斬撃波が魔物へと放たれ、それにより魔物を削っていく!

 

「お前らが何のためにこの町を襲うのかは知ったこっちゃない! だけどな、それで傷つけられた奴がいるんだ!!」

 

 俺は地上に降り、周りには恐ろしいほどの魔物に囲まれている。

 だけど恐れることはない。

 

「だから、ここでお前らは全滅してもらう」

 

 ―――それを境に、魔物は一誠に襲い掛かってくる。

 俺はそれを一斬一殺で屠っていき、時折無刀のオーラの逆噴射を放って一気に魔物を屠る。

 そして自分の体を支柱として、両手の剣を横に広げて一回転、また一回転と回って周りの敵を全て切り伏せた。

 

「数じゃ俺には届かない―――祐斗!」

「ああ、分かっているさ! ソード・バース!!」

 

 祐斗は地に手を添え、地中に剣を生成していく。

 そしてそれを地面から咲かせるように放ち、多くの魔物を串刺しにしていく。

 祐斗自身も聖魔剣を二振り握って魔物を屠っていき、速度で奴らを翻弄していた。

 ……本気ではない。

 あいつは未だに何か力を使わず戦っている。

 俺の世界の祐斗ならばエールカリバーや聖魔の剣鎧などといったものは存在していないんだろう。

 だけどこっちの祐斗からはそれとは違う「何か」を感じる。

 それを今気にしている場合じゃないだろうけどさ。

 

『Force!!』

 

 っと、知らない内に創造力が結構溜まっていたようだ。

 ここで出来る手は色々ある。単純に神器を創造し、それを行使するのも一つの手だろう。

 籠手を強化するもの手だとは思う。

 ……いや、ここはあれで行こう。

 

「『創りし神の力……我、神をも殺す力を欲す。故に我、求める……神をも超える、滅する力―――神滅具(ロンギヌス)を!!」

 

 俺はフォースギアを抑え、そう呪文を唱えるように言霊を放つ。

 それは俺が神滅具を創造するときの呪文。

 俺だって日々、この力に慣れていっているんだ。

 神滅具の創造に必要な創造力も徐々に減っていて、短期間で創ることも不可能ではなくなってきている。

 具現には制限があるけどな。

 さて―――

 

神滅具(ロンギヌス)創造―――白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)

『Start Up Twin Booster!!!!!』

『Boost!!!』『Boost!!!』

 

 俺は久しぶりにツインブースター・システムを始動させ、二つの籠手による倍増を開始する。

 アスカロンと無刀を戻し、そして拳を構えた。

 

「祐斗、そんなに見たいなら見ておけ―――俺の特技は、手札の数だ」

 

 俺は駆け出す。

 両籠手から発せられる倍増の音声は定期的に鳴り響き、俺は拳で魔物たちを屠っていく。

 最初は無数にいた数も、徐々に数を数えられるほどになっていた。

 

『Right Booster Explosion!!!』

 

 右の籠手の倍増の力を解放し、俺はそれを自身の身体強化に当てる!

 それにより俺の拳は重く、鋭いものとなり魔物を貫いて、貫く。

 魔物も不利を悟ったのか、同時に俺を襲おうとするが―――俺はその行動を見て手の平を魔物に向けた。

 

拡散の龍砲(スプレッド・ドラゴンキャノン)!」

 

 俺は一つの魔力弾を放つ。

 俺の放つ魔力弾は軽い性質を持たせた弾丸であり、威力はそれを極めた者には劣るもの。

 だけど汎用性を重視した分―――三下には絶大な力を誇る!

 弾丸は一定の距離に入るとその大きさを拡散させてゆき、そして魔物全体に魔力弾を拡散させて直撃させた。

 ……俺がオルフェルだった頃、魔力の才能が皆無だった俺が唯一得意だった技。

 それが魔力弾に能力のプロセスを付加させることだった。

 それを赤龍帝の倍増の力で何とか強力なものとして、行使していたのが昔。

 だけど今は魔力の質が変わり、昔では小手先だけの技だったものが強力な技になった。

 ……積み重ねは、無駄にはならないんだ。

 ―――俺の右の籠手はリセットされ、更に倍増を重ねる。

 その時、俺の目前に異常なほどの魔力を放つ魔物が現れた。

 ……恐らく奴があの魔物を率いているリーダー的な存在。

 

「これで最後だ―――歯を食いしばれよ、魔物の親玉」

 

 俺は両手の拳を合わせるように撃鉄を打ち鳴らし、魔物を睨みながら拳を構える。

 

「この町を傷つけるっていうなら、それは俺たちが許さねぇ」

「……そうだね。僕たちは許さないよ」

 

 祐斗は俺の隣に並び、聖魔剣を二振り構えて少し笑みを浮かべる。

 なんだろうな―――まるで並び立つのが楽しいって感じか。

 ああ、確かに俺も高揚している。

 こうして平行世界のヒトと分かり合い、共に戦えることが。

 

「お前に意識はないのかもしれない。ただ何かに操られているのかもしれない―――だけどそれが許されることはない」

『Twin Booster Explosion!!!!!』

 

 俺の言葉に呼応するように両籠手が力を解放、その絶大な力は俺の体を包み、紅蓮と白銀のオーラが俺を包み込んだ。

 そして―――走り出す。

 手の平には赤と白銀が混ざり合った小さな玉が浮かんでおり、俺はそれを握り潰し、そのオーラを左手に覆った。

 

「これで!」

「終わりだ!!」

 

 俺は一際大きな魔物に拳を放ち、そしてその体を貫いた。

 祐斗は後に続くように魔物を幾重にも切り刻み、そして俺の隣に立って魔物を背にした。

 ……魔物の断末魔が響き、俺たちはそれに目を掛けることなく武装を消し去る。

 

「……行くぞ、祐斗」

「はは、どうにも君とイッセー君は趣が違いすぎるよ―――でもついて行こうと思ってしまうのは、凄まじいよね」

 

 祐斗は主に付き従うようにそのまま魔物を置いて歩いて行く。

 ……魔物は既に消失していた。

 

 ―・・・

 

『Side:兵藤一誠』

 

 俺、兵藤一誠は今は繁華街をパトロールしていた。

 共に居るのはアーシアとぶちょ……リアス。

 元々繁華街は匙たちの管轄だったけど、あんなことがあったから今は俺たちが管轄としているんだ!

 匙の分まで俺が頑張らねぇと! そう思って俺は辺りを警戒するように見渡した。

 

「……こら、イッセー。そんなに肩に力をいれない」

 

 ……するとリアスは俺の肩を後ろからそっと掴んで、優しく抱きしめてくるっ!!

 や、柔らかいおっぱいの感触が!!

 

「もう、ホントにエッチなんだから……ふふ。そんなに触りたいなら今日の夜にでも―――」

「だ、ダメですー!!」

 

 すると俺の腕に引っ付いてくるアーシア!

 あ、アーシアの成長途中の慎ましくも柔らかいおっぱいが!

 くうぅぅッ! これが役得という奴なんだな!

 

『……オルフェルがあれだけ説教しても、相棒は……ッ!! 相棒の馬鹿野郎ッ!!』

 

 ……ドライグ、すまない。

 だけどな、これは男の性分なんだ!

 悪いとは思っているけど、でも目の前におっぱいがある!

 ならばな、そこから目を背けるわけにはいかないんだ!

 

『そんなことにカッコつけるでない! うぉぉぉぉぉん!!』

 

 ……ドライグがまた泣き出す。

 

「……ところでイッセー。あなたから見て、オルフェル君はどんな存在なの?」

 

 すると突然、リアスは後ろから抱き着きながらそう尋ねて来た。

 ……オルフェルさん。

 突然俺たちの前に姿を現した、俺の顔にそっくりな人だ。

 身長とイケメン具合が俺よりも高い、普段の俺なら敵視しても可笑しくない人。

 ……だけど、オルフェルさんには誰にも譲れず負けない信念ってものがある。

 最初、オルフェルさんを対峙した時、俺は匙の一件もあって頭に血が昇ってあのヒトの話を聞こうともしなかった。

 だけど―――あのヒトが戦った理由は、自分を襲われたからじゃなかった。

 ただ傍にいた何の関係もない女の子を危険な目に遭わされたから、怒っていた。

 俺は自分を恥じたよ。

 目先のことで頭に血が昇って、彼の話を一つも聞かなかったんだから。

 だから自分はまだまだだなって思った。

 

「……オルフェルさんは、すごいです。俺を説教した時だって、ちゃんと俺のことを理解してくれていました。怒るとこは怒って、認めるところは認める。冷静に物事を見て、でも熱い所は熱くて叱咤もする―――こんな感覚、サイラオーグさんと戦った時以来なんです!」

「イッセー……ふふ、そう」

 

 俺は血反吐を吐きながら己の信念のために殴り合った、最高の漢を想い出しながら部長に素直に言った。

 そう……俺はオルフェルさんを慕っている。

 あれほどに尊敬して、一緒に居たいと思う人は初めてなんだ。

 それほどオルフェルさんには他人を惹きつける何かがあって、俺はあのヒトから色々と学びたい。

 ただ―――あのヒト、魅力的すぎて皆がオルフェルさんのことを好きになるんじゃないかって心配が一つ。

 お、俺はハーレム王になりたいけど、あのヒトには勝てない気がしてならないッ!!

 ……っとその時、リアスはそれを見透かしたように強く抱きしめて来た。

 

「……確かにオルフェル君は魅力的な男の子だと思うわ―――でもね? 私たちはイッセーのちょっとエッチだけど、真っ直ぐに私達と向き合ってくれた……いつも一生懸命で、仲間のために自らを厭わない向こう見ずなところを好きになったの。だからオルフェル君に靡くなんてありえないわ」

「……はい。オルフェルさんは慕ってしまうのは私もですけど、でもやっぱりそれは理想のお兄さんって感じで―――私はやっぱり、イッセーさんがどうしようもなく大好きです!」

 

 リアスとアーシアが満面の笑みでそう言ってくれる。

 ……くそ、なんか涙が……ッ!!

 ああ、男らしくないよな……改めてそんな風に言われると、どうしても涙が止まらない。

 こんなんじゃあオルフェルさんに笑われちまうよ。

 

「……もう、可愛いわねっ!」

「は、はい!」

 

 二人は俺を可愛がるように甘やかすッ!!

 や、柔らかいおっぱいの感触が更に俺の背中と腕にぃぃぃ!!

 ありがとうございます!!

 

『……相棒。煩悩全開のところ良いが、警戒は怠るな―――近くに、想像を絶するオーラを感じるぞ』

 

 ―――突如、ドライグは俺にそんなことを言った。

 途端に俺の頭は煩悩状態から冷静なものに変わり、それを察知したのか部長も俺から離れた。

 アーシアはビクッと少し震えて、俺はドライグの言葉の真意を問いただす。

 

『……これは負のオーラだ。しかも相当危険な―――恐らく、相棒一人では危険かもしれん』

「だけどそれをこんな繁華街で放っておけるはずがないだろ?」

『そう。その思考をあの男、匙元士郎もしたからこそ、あのような状況を招いたのだ』

 

 ドライグがそう強く言うと、俺は何も言えなくなった。

 ……だけど放っておけるはずがない!

 匙をあんなにした敵を、みすみす見逃せないに決まっているだろ!?

 

「……イッセー、落ち着いて。ドライグ、少し良いかしら?」

『なんだ、リアス・グレモリーよ』

「あなたの予想では、あの敵は私達でどうにかなるかしら?」

『……相棒が真紅の力を使えば、対抗は出来るはずだ。だがあれはまだ調整段階。そう長くは持つまい』

 

 ドライグが冷静にそう言うと、リアスは何か考え事をするように顎に手をやる。

 

「……ある程度戦って、少なくとも対抗策を練るために情報が欲しいわ―――イッセー、私と連携して襲撃者を襲撃しましょう」

「ッ!! はい、部長!!」

 

 俺は部長の言葉に同調し、その襲撃者の気配のする路地裏に移動する。

 部長は辺り一帯に人払いの結界を張り、そして俺は籠手を展開して二人を前にして歩いて行く。

 俺が前線で戦って、部長は後方支援とアーシアの守護が役目ってところか!

 ……にしても路地裏の薄暗さは異常だった。

 嫌なほど寒気がするし、何より―――血の匂い。

 俺は唾を飲み込む。

 冷や汗を掻き、拳を強く握った。

 そして―――それを前にした。

 

『ひゃひゃひゃひゃひゃはははははぁぁぁぁああああああ!!!!!!!』

 

 ………………狂った人形のように歪んだ嘲笑を挙げる、体調が3mを超える化け物。

 形は何とか人の形を保っているけど、気味が悪いッ!!

 そして何より―――そいつは何かを貪っていた。

 

「―――ツ!? この下種がッッッ!!」

 

 部長は何かに気付いたように、明らかな憎悪を化け物に向ける。

 ……俺もそこで気付いた。

 ―――夥しいほどの血の塊と、肉片。

 それはつまりこいつが…………この畜生がやった、証!!

 

「い、いやぁ……こんなの、こんなのってッ!!」

 

 アーシアはその惨劇を見て瞳から涙を溢し、地面に膝を付けて崩れ落ちる。

 ……許せないッ!!

 

「ふざけんなよ、お前!!」

『ひゃは、ひゃははははは? はははははははは!!!!』

 

 化け物は俺の存在に気付いたのか、こちらを見た後で更に笑い続ける。

 何を嗤ってんだよ、この化け物が!

 何の罪もない人を殺して、喰らって!!

 

「何がそんなに可笑しいんだよ、この畜生がぁぁぁ!!!」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!!!!』

 

 俺は怒り心頭のまま籠手を禁手化させ、化け物に向かって殴り掛かった―――

 

『ひはははははは!! ぎゃははははははははははあぁぁぁぁ!!!!!』

 

 それでも化け物は、壊れたように嗤っていた。


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