ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第2話 違いと嘆きのドラゴンです!

 俺の素顔を見て驚愕する平行世界のグレモリー眷属。

 まあ考えてみれば当たり前か……何せ自分たちの『兵士』と同じ姿、武装、顔の存在が目の前にいるんだからな。

 俺は見る限りの人物の顔と名前を一致させる。

 ……リアス、朱乃、アーシア、小猫ちゃん、祐斗、ゼノヴィア、ギャスパー、ロスヴァイセさん……そして兵藤一誠、か。

 なんか変な感じだな。

 自分が目の前にいるってのは。

 まあ目の形とか髪型とかは若干の差異があるが……まあそれはどうでも良いか。

 むしろ今の問題は俺が敵対されている(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)っていう事実だ。

 こういう時こそ冷静になるのが俺が目指す『王』としての素質のはずだ。

 とにかく、今は情報が欲しい。

 そんな中で確実な情報を持っているこいつらと敵対するわけにはいかないし―――何より、観莉をこれ以上危険な目に遭わせるのだけはダメだ。

 

「話を聞いてくれ!俺は決してお前たちの敵じゃない!どちらかといえば、俺も巻き込まれた側の人間なんだ!」

「何言ってやがるッ!?俺の顔をした偽物だろう!?お前は!!」

 

 ……目の前のこいつは、明らかに頭に血が昇ってるッ!!

 ここまで怒るほどの相手と俺を間違えているのは確実だろうけど、今の俺にそれを拒否しても怪しく見えるだけ、か。

 

「俺が怪しく見えるのは当然だとは思う!だけどこっちだって突然のことで混乱しているんだ!お願いだ!!話だけでも―――」

 

 ―――そう言っている最中、俺の真横を抜き去る一本の剣。

 いや、聖魔剣(・ ・ ・)

 それを放ったこの世界の祐斗は、冷静ながらも怒りに囚われた表情をしながら、剣を構える。

 

「―――喚かないでもらえるかい?こちらは友人を傷つけられて怒っているんだよ……そんな虚言、信じられるはずがないだろう?」

「………………おい、お前」

 

 ……その安易な行動に、俺はつい頭に血が昇る。

 俺は観莉という一般人を抱きかかえているのにも関わらず、あいつは剣を牽制とはいえ放った。

 ……観莉は俺の大切な友達で、生徒で、未来の後輩だ。

 そんな俺の護るべき存在をこいつは―――危険に晒した。

 

「……例え俺の仲間と同じ顔をしていようが、やっていいことと悪いことがあるんだよ―――ふざけんなよ、てめぇら……ッ!!!」

 

 俺は魔力を殺気と同化させ、目の前の()に向けて放つ。

 それによって土煙が起きるように風が吹き、グレモリー眷属は一歩後退りした。

 

「大体お前らの状況と俺の状況、この相違性は理解したし、ほぼ正解に近い答えは出た―――だけどそれすら出来ないお前らには説教が必要みたいだな」

『ッ!!』

 

 俺は睨みつけるように威嚇し、そして心の中でフェルに話しかける。

 ……恐らくあいつらは俺と誰かを誤解している。

 あいつらは現在、さっきの小言を聞く限りでは事件が発生していてその犯人を俺と勘違いしている。

 だから頭に血が昇って冷静な判断が出来なくなっているはずだ。

 しかも身内が被害にあったってことなら尚更だ―――だけどそれを差し引いても、あれほどの身勝手な行動は目に余る。

 

「フェル、観莉を安全なところに運んでくれ」

『はい、主様。ですが私抜きで大丈夫ですか?』

 

 フェルは機械ドラゴンとなり、俺から離れて観莉を背負って俺の隣に飛び立つ。

 それを見て目の前のあいつらは更に驚くものの、俺はそれを無視して一言―――

 

「ああ。必要ない。この鎧さえあれば十分だ」

『まあそうでしょう―――ではご武運を』

 

 フェルはそう言うと、その場から飛び立ち少し離れたところでこちらを観察する。

 ……さて。

 

「―――じゃあ少し付き合ってもらうぜ、この世界のグレモリー眷属」

「ッ!!てめぇなんか、俺一人で十分だ!!ドライグ!!」

『応っ!何かは分からんが、相棒を偽る敵ならば討つのみだ!!』

 

 ……今の声、間違いなくドライグだ。ただどこか心労を抱いているかのような声の重さを感じたが……

 

『息子よ、今はそれを気にしている暇はないぞ』

 

 ……おい、分かりにくいからって息子とか言わなくてもいいんだぞ?

 まあどうでも良い!!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」

『BoostBoostBoBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!』

 

 ……この世界の俺は即座に倍増エネルギーを幾重にも貯え、更にそれを解放して馬鹿みたいに真っ直ぐ拳を放ってきた。

 ―――真っ直ぐ過ぎて、逆に避ける気が失せる。

 じゃあこっちは―――

 

「―――アスカロン」

 

 俺は籠手からアスカロンを引き抜き、それをあえて奴の拳と真正面から突き刺す。

 拳と剣は激しい金属を響かせながら、俺は即座に懐から無刀を取り出し、更にアスカロンに言霊を響かせた。

 

「聖なる龍の聖剣よ。その神々しいオーラと共に無の刀に刀身を―――」

 

 その言霊に応えるように無刀にアスカロンからの聖なるオーラが移動し、そして次の瞬間―――聖なるオーラが無刀から放出させ、目の前の赤龍帝に向けオーラの逆噴射を放った。

 

「がッ!?あ、アスカロンまで!?なら―――龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニックルーク)!!!」

『Change Solid Impact!!!!!!』

 

 ―――赤龍帝がそう叫んだ瞬間、奴の鎧の一部が変化する!

 普通の鎧だったものが途端に図太く、轟々しい極太の腕に変わり、それは体全身が肉厚となることを意味していた。

 ……防御特化の鎧ッ!?

 赤龍帝は肘にある撃鉄を打ち鳴らし、更に手元をオーラを極大にして拳を放つ―――俺はそれを真正面から受けて挑む。

 

『Accel Booster Start Up!!!!』

 

 対する俺は倍増の速度が加速するアクセルモードに移行し、瞬時に極大な魔力のオーラを手元に集め、極太の拳と真正面から拳をぶつけた!

 そして―――力の限り、目の前の赤龍帝を殴り飛ばす。

 

「う、そだろッ!?トリアイナで特化した俺のパンチを、普通の鎧でッ!?」

 

 ……どうやら今の一撃、奴の中では自信のある一発だったようだな。

 だけどあれくらいの一撃、跳ね返せなきゃ俺は今までの修羅場を潜り抜けることは出来なかった。

 ……にしてもトリアイナ、か。

 

「三又のトリアイナのことを言っているんだろうな……龍剛の戦車、か―――つまり三又、僧侶、戦車、騎士の力をそいつは宿しているってことか?なるほど、面白い発想だな。つまり今のは防御と攻撃特化のモードってわけだ」

 

 俺は大体の予想を立て、奴の力を解析するように暴く。

 この前のロキとの戦いでは嫌というほどの読み合いをしたせいか、この手の読みは最近は簡単になってきた。

 初見とはいえ、同じ赤龍帝の力。

 どういう進化をたどればあんな形になるのか知りたいけど―――ともかく仮定していれば攻略はさほど難しくない。

 

「だったら騎士は速度、僧侶はサポート……もしくは魔力特化ってところか―――いや、考えてみれば女王の力もあるかもな」

「こ、こいつッ!?どうしてそこまで俺の力が―――ッ!?」

 

 ……今のこいつの反応が裏付けだ。

 さて、こいつの力はほぼ暴いたようなもの。

 そういえばさっきアスカロンのことも言っていたから、恐らくあいつもアスカロンを所有しているんだろう。

 

「……さっきの攻撃方法、初見の敵を相手にしている割には真っ直ぐ過ぎる。そんなんだからこんな簡単に予想は立てられるし、攻略される―――まだ続けるか?」

「くッ!!あったりまえだろ!!!」

 

 あいつは背の翼を展開し、更に背中のブースターを逆噴射し俺へと近づく。

 更に―――

 

龍星の赤龍帝(ウェルシュ・ソニック・ブーストナイト)ォォォォ!!!」

『Change Star Sonic!!!!!!』

 

 ……極太となった鎧を全てパージし、明らかな軽装となった赤龍帝の鎧。

 なるほど、あれが騎士モードってわけだ。

 奴の速度は目では捉えきれなくなり、そして次の瞬間、俺の前に現れ拳をあげる―――だけど予想通りに真っ直ぐだ。

 

「一つ、教えてやる―――お前のスタイル的に、騎士は向いていない」

 

 俺は殴り掛かる腕を逆に蹴り飛ばし、空中で赤龍帝の体を浮かせる。

 更に手持ちに魔力を集中させ、それに能力を付加―――そして放った。

 

断罪の龍弾(コンヴィクション・ドラゴンショット)

 

 ただ威力を強大化させただけの単純な魔力弾。

 しかしこいつはそれを避けることが出来ず、成す術なく飲み込まれ―――仲間の方に飛んでいった。

 ……出来る限り威力は抑えたから、たぶんそこまで深い傷はない。

 それに向こうにはこの世界のアーシアがいる。

 

「……あれだけ大口叩いた割には呆気なかったな―――まだやるか?」

「―――当然だろうッ!!僕の親友がこけにされて、黙っていられるかッ!!」

「そうだな……私も加勢するぞ、木場!!」

 

 ……次はこの世界のゼノヴィアと祐斗。

 共に聖魔剣とデュランダルを手に、俺に襲い掛かる。

 ………………俺は二人を相手取りながら剣をさばき続ける。

 ゼノヴィアは俺の世界のゼノヴィアと大差はなく、祐斗は俺の世界の祐斗よりも速度が遅く、更にただの聖魔剣を使っている。

 ……いや、ゼノヴィアは力に頼り過ぎている。

 これならこっちの世界のゼノヴィアの方がまだテクニックをしようしているな。

 俺はアスカロンと無刀の二刀流で、更に鎧を解除して戦闘に応えた。

 

「―――ふざけるな!僕たちを舐めているのかッ!?」

「貶されたものだなッ!!」

 

 ……その行動に怒りを露わにする二人だけど、そのせいで動きが単調になった。

 俺は即座に身体中に魔力を伝達し、更にそれを超過することで―――体の筋肉を活性化させ、一時的に圧倒的な身体能力を得るオーバーヒートモードを発動する。

 更にプロモーションで騎士となり、二人と相対した。

 

「な、生身で僕たちと同等に!?」

「同等?ふざけるな」

 

 俺はアスカロンを勢いよく振るい、この世界の祐斗の聖魔剣を砕く。

 それに目を見開いて驚く祐斗。

 そこで更に隙が生まれ、俺はプロモーションとオーバーヒートによって強化された速度で二人を翻弄し、そして―――

 

「唸れ、アスカロン。慢心する敵には―――断罪の龍を」

 

 俺は上空に飛び、真下にいる祐斗とゼノヴィアに聖なる龍の形をしたオーラを放った。

 それは二人を包み込み、そして飲み込む。

 ……防御は出来ているけど、防御に徹底しているからか動けない様子だ。

 俺は無刀をしまい、アスカロンの両手で握り―――ゼノヴィアのデュランダルに向けて刃を思い切り振りかぶった。

 

「くぅッ!?わ、私と真っ向から生身でパワー勝負だとッ!?」

「お前はそっちの方が好みだろ?」

「―――舐めるなぁぁぁぁ!!!」

 

 ゼノヴィアは負けじとデュランダルから聖なるオーラを噴出させるが……いや、デュランダルだけじゃない。

 これは―――エクスカリバーのオーラ?

 まさかエクスカリバーとデュランダルを合成したってわけか?

 ……デュランダルはそれ単体で最強の聖剣になれる可能性を含んだ聖剣だ。

 それをエクスカリバーと合成、か。

 

「……そのパワーも使いこなせてない」

『Boost!!』

 

 俺は鍔迫り合いをしている最中、赤龍帝の籠手を展開して倍増エネルギーを溜める。

 更にそれを二度三度繰り返し、そして―――

 

『Explosion!!!』

 

 力を解放し、それを全てパワーに変換する!

 そのパワーを以てゼノヴィアをデュランダルごと斬り飛ばした。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ……隙を見計らい祐斗は聖魔剣を両手に持って俺に襲いかかる―――が、それを少しのステップで避け、横腹に回し蹴りをしてゼノヴィアと同じ方向に蹴り飛ばした。

 ……終始、エールカリバーを使わなかったという事は、この世界の祐斗はエールカリバーに目覚めていないってわけか。

 いや、もしかしたら未だにエクスカリバーに関して克服していないのかもしれないな。

 ……さてと。

 

「……なんなら残り全員で来ても構わないぞ」

 

 俺はアスカロンの剣先をグレモリー眷属に向け、そう言い放った。

 既に兵藤一誠は鎧が解除され、アーシアから治療を受けており、ゼノヴィアと祐斗は肩で息をしている。

 俺と接近戦をすることが出来るのは、残るは小猫ちゃんだけってわけだ。

 リアスも朱乃も魔力戦が得意で、ギャスパーは……良く分からないな。

 後はロスヴァイセさんの北欧魔術の連続投射ってところか。

 だけど平行世界だから必ずしも同じ技を使うわけでもないし―――そもそも、俺の世界にいたみんなよりも、この世界のグレモリー眷属は弱い。

 

「……そうね。正直、勝てる気がしないけど―――でも可愛い眷属を傷つけられて、黙っていられないわ!!」

「……ははは。なるほど―――どこの世界でも、リアスは良い王様ってことか」

 

 俺はその言葉を聞いて嬉しくなり、つい笑みを溢してしまう。

 

「まあ傷つけたのは確かだけど、そっちだって俺の友達を危険な目に遭わせてるんだぜ?―――フェル!!」

『はい、主様!!』『Reinforce!!!!』

 俺は遠く離れたところからフェルの名を呼ぶと、フェルは即座に俺の考えを理解して白銀のオーラを放った。

 俺は赤龍帝の鎧を身に纏い、そしてその白銀のオーラを身に纏った。

 フェルの神器強化の力。

 それにより鎧の各所は鋭角なものとなり、ドラゴンの翼は機械的なものに変化。

 鎧は一回り薄いものになるものの、強大な力を俺は感じざる負えなかった。

 

「神滅具禁手強化―――赤龍神帝の鎧(ブーステッドレッドギア・スケイルメイル)

「赤龍、神帝の……鎧?」

 

 ……その名を聞いて、その波動を肌で感じて戦々恐々になるグレモリー眷属の面々。

 

『Infinite Booster Set Up―――Starting Infinite Boost!!!!!!!!』

 

 静かな音声の後の圧倒的な破壊的音声。

 その音声と共に俺の中で無限倍増が始まり、瞬間的にグレモリー眷属の前に立った。

 その瞬間、ロスヴァイセさんがすぐさま行動を開始して、自分の後方に幾重もの魔法陣を展開し、そこから機関銃のように様々な魔力弾を放つ。

 リアスは滅びの魔力を俺に放ち、朱乃は雷光を放ち、ギャスパーは自らの化身のコウモリを放った。

 小猫ちゃんは動けない他のメンバーの代わりに俺の懐に入り、拳を掌底の形で放つ。

 ……俺は片手で小猫ちゃんの掌底と拳をぶつけ、更にもう片手で無限倍増で得た倍増エネルギーで魔力弾を強化。

 それを魔力砲として向かいくる魔力弾の雨に放ち、全てを相殺した上で小猫ちゃんを殴り飛ばした。

 ……仙術で気を狂わせようと考えたんだろうけど、それは魔力の逆噴射で小猫ちゃんの気自体を相殺し、俺は何事もなかったようにグレモリー眷属の前に立ちふさがる。

 

「……もう良いだろ?どう足掻いても、どんな技を出したところで全部見切ってやる。どんな合わせ話でも、俺とドライグとフェルの力で全部消し飛ばしてやる―――それでもまだ続けるか?」

「…………イッセーをあしらい、テクニックの祐斗をテクニックで翻弄し、パワーのゼノヴィアをパワーで跳ね返して私たちの同時攻撃をたった2動作で無力化……悔しいけど、今の私達では勝てる見込みはゼロね」

 

 ……でも諦めた顔はしていない。

 ―――この世界のグレモリー眷属と戦うことは俺の本意ではない。

 諦めてもらうためと、ちょっとイラってしたから戦っているだけで、本当は戦いたくないわけだけど。

 それに人は違えど、良く知っている皆を下に見たくはないし……

 

「……あぁ、どうやったら信じてもらえるんだ?そのお前たちでいう事件ってのを解決したら、俺が敵じゃないって認識してもらえるのか?」

「だからお前が!!」

「―――そもそも、こんなタイミング良く空から敵が現れるか?自分と顔が全く同じで、全く同じ武装をする存在が」

 

 俺は兵藤一誠を封殺するようにそう言った。

 

「そもそも俺がお前たちの敵なら、今頃全員死んでるぞ?」

「……確かに、本気で殺しに掛かってきていた感じだったが、私も木場も軽症で済んでいるのは事実だが……」

「そ、それにイッセー先輩も回復出来るアーシア先輩の方に殴り飛ばされましたし!」

 

 ……もう少しか。

 少なくとも今のでゼノヴィアとギャスパーは俺を信じはじめた。

 …………もし俺の世界のアーシアと、この世界のアーシアが同一の性質を持った存在なら―――アーシアに信用されたら、この眷属は俺を信用してくれるはずだ。

 俺は全武装を解除し、そしてアーシアの方を見た。

 

「信じてくれないか?俺は出来れば争いたくないし、何より自分の置かれた状況も良くないんだ。それにお前たちにとっても有益な情報も与えることが出来ないかもしれないし―――正直、自分の仲間と同じ顔をした皆を、傷つけたくなんだよ」

「……………………み、みなさん」

 

 ……するとアーシアは俺の顔を見ながら、挙手をするように手を挙げた。

 

「そ、その……このヒトはたぶん、悪いヒトじゃないです!なんて言いますか……その、イッセーさんに似ているって言いますか……嘘を言っているようには見えないんです」

「あ、アーシア?そりゃあ俺と同じ顔をしてるけどさ?」

「……それにどこか困っている様子なので……ちゃんとお話を聞いてあげませんか?」

 

 ……アーシアの言葉に、眷属は黙りこくる。

 ―――そうか、なるほど。

 

「あはは!どこ世界も、アーシアは女神だな!」

 

 俺はいつもの癖でアーシアを撫でると、途端にアーシアから驚いたような声が響いた。

 途端に兵藤一誠は俺とアーシアの間に入り込み…………って、そっか。

 

「ああ、悪い悪い。いつもの癖でな」

「て、てめぇ!!いつもの癖ってなんだよ!?お前、いつもアーシアにこんなことしてんのか!?っていうかアーシアはここにいるじゃねぇか!!」

「…………お前、まだ気づいていないのか?」

『仕方あるまい、相棒。見た限りではこの男、相当頭の回らない阿呆にしか見えん』

「ど、ドライグ!?なんでお前までそんなことを言って…………ってえぇぇ!!?」

 

 兵藤一誠は自分の中のドライグが話したと思っていたけど、すぐに俺の手の甲の宝玉を見て驚く。

 ……自分がこんなんとか、頭が痛くなるッ!!

 ともかく今は―――

 

「とにかく、俺はお前たちとは別の世界、つまりパラレルワールドから飛ばされた兵藤一誠…………っていっても混乱するだけか」

 

 同じ顔、同じ名前の存在が目の前にいても驚くだけだ。

 ……っと、俺はそこで思い付いた。

 そうだな、こういう時こそ、最近思い出したあの名前を使おう。

 

「ここではこう名乗らせてもらう……俺のことは、オルフェル―――オルフェル・イグニールって呼んでくれ」

 

 ―――そう、これが自分と向き合えたからこそ言える名前。

 俺、オルフェル・イグニールはある意味でタイムスリップを果たしたのだった。

 

 ―・・・

 

 俺が通されたのは通いなれたオカルト研究部部室だった。

 未だに祐斗とかリアスは俺を警戒していて、特にそうでもないのがアーシアやゼノヴィア、ギャスパーといった面々。

 んでもって一番警戒してるのが兵藤一誠か。

 ロスヴァイセさんや朱乃に至っては俺を観察しているようすだ。

 俺は観莉を抱っこしながらここに入り、そして今は観莉に膝枕をしながらソファーに座っている。

 

「…………ねえ、イッセー……じゃなかった。オルフェル君?彼女、大丈夫なのかしら?攻撃した私たちが言うのはあれだけど」

「ああ。外傷はない……たぶんパラレルリープする時の衝撃で気絶したまんま何だろう。とりあえず今はこんな感じに寝かしていたら大丈夫なはずだよ」

「……随分とイッセーとは違っているものだね。何ていうか、静かというか。先ほどの戦闘時の迫力が嘘のようだよ」

 

 ……ゼノヴィアはどこか楽しそうにそんなことを言っていた。

 ゼノヴィアに関しては、何故か俺の世界のゼノヴィアと一致していて話しやすいな。

 

「まあさっきのことは水に流そう。一般人を巻き込まれたから怒ったけど、そっちも状況が分からなかったんだからさ。な?リアス」

「そう言ってもらえるとありがたいけど……あなた、自分の世界でも私のことをリアスと呼んでいるのかしら?」

「そうだけど……まあ言い始めたのは最近だよ」

 

 俺がそう応えると、リアスは兵藤一誠の方をジト目で見つめた。

 ……あ、なるほど。

 

「ゼノヴィア、ゼノヴィア……ちょっといいか?」

「ん?なんだい、オルフェル」

「リアスと兵藤一誠ってさ……もしかして只ならぬ仲?」

「……良く分かったね。君はかなりイッセーとは趣が違うようだ―――応えるとすれば、リアス部長とイッセーはお付き合いしているのさ」

 

 俺は二人の雰囲気を見て納得する―――俺はリアスを振ってしまった身だし、なんとも言えない感じだな。

 まあリアスが幸せならそれでいいか。

 

「…………女心に鋭いイッセー先輩……じゃなくてオルフェルさん……イッセー先輩、少しは見習ってください」

「ぐふッ!!」

 

 兵藤一誠は小猫ちゃんの言葉にナイフを刺されたみたいな表情になる。

 ……これは何か一悶着あったのかな?まあ追求する気もないし、興味もないけど。

 

「それにしてもイッセー君とオルフェル君では随分と性格が違いますわね……なんと言いますか、戦い方からしても落ち着きからしても……」

「……そうだね。悔しいけど、戦いに関しては手も足も出なかった。まさか生身で圧倒されるなんて」

「修行の積み重ねだよ、祐斗。お前も伸びしろと才能は誰よりもあるんだから、もっと鍛錬すればもっと強くなれるはずだ」

「……ち、ちなみに君は僕を自分の世界でも名前で呼んでいるのかい?」

「ああ、当たり前だろ?仲間でなおかつ親友なんだからさ」

「―――ッ!?」

 

 祐斗はそう言った瞬間、どこか綺麗で嬉しさがにじみ出るような顔をした。

 そしてまたもや兵藤一誠の方をジト目で見る。

 

「お、おい!!き、木場までなんでそんな目で見んだよ!?」

「……いや、イッセー君に名前で呼ばれたいなんて考えてもいないよ?あはは」

 

 ……違う、あれは望んでいる目だ。

 しかも純粋に、友情的な意味で―――これはまさか綺麗な祐斗?

 単純に兵藤一誠に友情という輝かしい感情を向けている、綺麗な祐斗なんじゃないか?

 

「―――おい、兵藤一誠。この祐斗と俺のところの祐斗をチェンジしてくれ」

「は、はぁッ!?あ、あんた何言ってんだ?」

「お願いだ、頼む!こんな綺麗な祐斗、俺は長らく見ていないんだッ!!」

「い、いやだから―――」

 

 すると兵藤一誠は何かに気付いたように俺に耳打ちして来た。

 

「もしかしてあんたの方の木場、あっち方面なのか?」

「…………ああ。想いに女も男もないそうだ」

「「………………………………………………」」

 

 俺と兵藤一誠は押し黙る。

 互いにその意味を理解したからか、俺がどうぞどうぞと手を送るも首を横に振った。

 

「遠慮するなよッ!!こっちの祐斗はそれを除けば完璧だぜ!?」

「ふ、不完全でも俺は俺の親友の木場の方が良いんだよッ!!」

「お、おい!!いくら綺麗な祐斗の前でもその台詞は止めろ!!それがどれだけ危険な言葉は、お前は一つも理解していないぞ!?」

 

 ……かくいう俺も、最悪の事態に陥るまで気付かなかったが。

 ともかくないものねだりはよそう。

 ……それにしてもここには黒歌とかは居ないのか?

 あのシスコン大魔神なら、いつでも小猫ちゃんの傍にいても不思議じゃないけど……

 それにオーフィスとかティアとか、チビドラゴンズもいないし。

 ……いや、下手なことは言わないほうが良いか。

 もしかしたらこの世界にはこの世界の流れがあって、必ずしも俺の世界と同じとは限らないわけだし。

 そもそも俺自体が前赤龍帝からの転生者なわけで、その時点でこの世界の俺とは趣が変わっているんだ。

 力に至っても俺とは全然違う進化を辿っているようだしな。

 

「それよりそっちに何が起きているのか、話してくれないか?俺も何とかピースを集めてある程度の答えを導き出しただけだからさ」

「……一応、その答えを聞いても良いかしら?」

 

 リアスはそう恐る恐る尋ねると、俺は特に隠すこともないので話す。

 

「まず第一に、皆の町を襲う謎の襲撃者がいるってこと。それによって皆の友達か誰かは知らないけど、被害に遭った……そして突如学園の校庭に空から現れた俺をその事件の犯人と思い、襲撃しに来たと勘違いして遅い掛かって来た……大体はこんなところか?」

「……予想どころかほぼ正解よ。正直、そこまで頭の回る貴方に驚いているのだけれど―――そうね、話すわ」

 

 リアスはそこでようやく俺を信頼したのか、肩の力を抜いて話し始める。

 

「事の始まりはほんの一週間前の話よ―――」

 

 ―・・・

 

 ……リアスの話を聞いて、俺の中でピースが嵌った感覚を得る。

 事の始まりは今からちょうど一週間前だそうだ。

 突如、駒王学園を含める駒王町で魔物が頻繁に現れるようになったらしい。

 それは本当に唐突な話で、それに対処すべくこの世界のグレモリー眷属とシトリー眷属、更にこの学園に滞在している悪魔や天使、堕天使といった面々が魔物退治に討って出たそうだ。

 魔物自体はそんなに強い個体はほとんど見受けられず、たまに強い個体がいても自分たちの力量から考えれば大した敵ではなかったそうだ。

 この一連の出来事をこの世界のアザゼルやリアスたちは、この世界にも存在しているテロ組織『禍の団』の仕業だろうと考え、厳重な警戒をしていた。

 ……だけど事件はそんな慢心から生まれたらしい。

 

「……本当に突然のことだったのよ。町を巡回していたシトリー眷属の匙君と花戒さんが不審な影を見かけて、それを追いかけて―――そして襲撃を受け、重症を負わされたの」

「…………匙が?」

 

 ……リアスがそう語ると、グレモリー眷属の面々が少しピリピリとした殺気を迸る。

 

「つい先日の話よ。今も匙君と花戒さんは意識不明の重体で、シトリー眷属は二人に付きっきりでいるわ―――そしてそれの調査をしている最中、駒王町上空に謎の魔法陣が察知されたの」

「つまり、それが俺ってわけだ」

 

 ……なるほど、これならば辻褄は合う。

 だけどそれでも情報が少ないな―――少なくとも、意識不明の匙が何らかの重要な情報を持っているはずだ。

 

「そして今に至るわけよ。まさか襲撃者と思った人が、平行世界から飛ばされて来たイッセーとは思わなかったけれども……」

「……ここに因果関係があるのかは分からないけど、事件と俺たちの身に起きた出来事……偶然で片づけるにはまだ早計だな」

 

 ……俺たちの時間旅行の神器に介入して来た存在に関しては分からないけど、手がかりはないわけではない。

 まず一つが神器が突然発動したときにバイクの下に展開されていた碧色の魔法陣。

 見たことのない紋様だったけど、模様は完全に覚えている。

 まずはそこから辿っていくしかないか……

 

「……ごめんなさい。いくら切羽詰っていたからとはいえ、あなたの制止を聞かずに遅い掛かるなんて」

「だから言っただろ?水に流すって―――仕方ないもんは仕方ないんだ。それよりも今はこの町を護るっていうのが皆の総意なんだろ?」

 

 俺はこの世界のグレモリー眷属を見渡し、そう尋ねる。

 室内はビリッ、と痺れるような緊張感に包まれ、言葉には出さないが皆頷いているように見えた。

 ……多少の差異はあれど、その心は本物だ。

 さっきは優劣つけるような言い方をしてしまったが、ここのグレモリー眷属の心意気は理解できた。

 ―――だったら

 

「―――俺は何かを護るために赤龍帝の力を使う。例えそれが今さっき知り合った他人だとしても、俺は伸ばせる限り……少なくとも手の平に埋まる程度のものは護る。だから手伝わせてくれないか?俺だって生まれ育ったこの町が大好きなんだ……例え、平行世界だとしてもそれは変わらない」

「ッ…………ありがとう、オルフェル君」

 

 リアスは代表と言わんばかりにそう言うと、俺は笑みを皆に見せる。

 ……っと、そこでまた間に入り込むのは兵藤一誠だった。

 

「な、何だよ!あんた!そんな無駄にカッコいい台詞と爽やかすぎる笑顔は……ッ!!本当に俺かよ!?」

「生き方とかまるっきり違うんだからな。それに平行世界なんだから、性格に差があっても仕方ないだろ?」

「で、でもよ!そんな台詞を恥ずかしげもなく吐かれたら……そ、その……皆が、あんたに惹かれるんじゃないかって……」

 

 ……はは!

 そっか、こいつ……思った以上に純粋なのかもしれないな。

 俺はつい可笑しくなり、そして……この世界の兵藤一誠の頭に軽く手を置いた。

 

「それはないぞ?なんたって、お前の行動が眷属を惹きつけてるんだぞ?この世界でお前がどんなことをしたのかは分からないけどさ。だけど間違った行動はしてないよな?」

「あ、当たり前だろ!」

「んじゃあ大丈夫だ。良いか?お前の仲間っていうのは俺の世界の皆と同じで、良い奴ばっかだ。だから仲間を信じろ―――パッと出てきた俺なんかに惹かれる奴は一人もいないからさ」

 

 俺は笑みを浮かべたまま兵藤一誠の頭をグリグリと撫でる。

 ……なんか、自分とは思えないな。

 なんていうんだろう……弟って感じかな?

 ちょっと馬鹿で、でも可愛い弟って感じだ。

 

「…………は、反則だろ、そんなの……」

 

 兵藤一誠は少し照れたような顔をしているが、嫌がっているようには見えない。

 ……ともかく、やることは決まったな。

 

「……なんていうんだろう―――兄貴肌が凄まじいな。あのイッセーを言葉と撫でただけで黙らせ、照れさせる男……」

「そ、そうですわね―――でも少し野性味が足りませんわ」

「……でも理想のお兄ちゃんって感じがします」

「お、男の僕でもあれほど真っ直ぐに言われたら照れるよ」

「ど、ドッペルゲンガーと思いましたけど、イッセー先輩とは全然違いますぅ!!」

「―――素晴らしい!!紳士な赤龍帝!!こんだら赤龍帝ばい、おんどれがなるん目標だっぺ!!」

「……どっちのイッセーさんも素敵です!」

 

 ……ああ、この世界でも俺は兄貴肌が強いのか。

 

『流石、相棒だ。やはり兄龍帝の名は伊達ではない』

『ええ、これぞ至高の主というものです。冥界の子供を護る兄龍帝はこうでなければ』

 

 俺の胸元と手の甲から現れて、そんなことを抜かすドライグとフェルなのだが―――その言葉を聞いた瞬間、この世界のグレモリー眷属は首を傾げた。

 

「……今のドライグと、謎の女性の声はさておくとして―――兄龍帝って何かしら?」

 

 その質問をしてくるはリアス。

 良く見れば兵藤一誠の手の甲からは俺と同じように宝玉が現れており、何か眩く光っていた。

 ……自分で説明するのは凄まじく恥ずかしいな。

 

「ま、まあなんていうか……ある一連のことがあって、俺を題材としたドラマが冥界で放映されてるんだよ。そこで俺は兄龍帝……冥界の子供の笑顔を護り、大切な仲間、家族を護る存在で強大な敵と戦うっていう、よくある特撮ヒーローものだよ」

「……ち、ちなみにそこでは私に役とかはあるかしら?」

「一応は。確か、記憶を失った俺の姉……って設定で、今はちょうどその辺りに焦点が合っている展開だよ。記憶を失ったリアス姫、って感じだな。話が良く出来てるから、今リアスのキャラが冥界の男性とか女性にも大人気になってて―――って、なんでそんな泣きそうな顔をしてるんだ?」

 

 ……俺がそう言った瞬間、リアスは顔を引き攣らせて頬を真っ赤にする。

 いや、厳密にはリアスだけではなく他の全員―――兵藤一誠に至るまで、口をポカンと開けて驚愕の表情となっていた。

 

「え、どうしたんだ?」

「…………いえ、別に……ただあなたの世界の私が、随分と良い役を貰っていて、妬ましいとか考えていないわ……」

「………………」

 

 ―――嫌な予感がした。

 もしこの世界でも俺と同じような出来事があり、そして俺と同じように兵藤一誠を題材にした番組があったとする。

 そしてこのリアスの反応を鑑みるに―――そう考えた瞬間、突如野太い声の号泣が室内に鳴り響いた。

 

『―――ウォォォォォォォォォォンッ!!!!!あ、兄龍帝だとぉぉぉぉ!?何故だッ!!!何故お前が俺の相棒じゃないんだぁぁぁぁ!!!!!!??!!』

 

 …………兵藤一誠の手の甲から叫ぶ、この世界のドライグ。

 この叫びで、俺は一番最初に感じたこの世界のドライグの心労めいた声の重さと、リアスの反応に一種の答えを導き出した。

 俺は尋ねる。

 

「な、小猫ちゃん―――この世界では俺、何て呼ばれているんだ?」

「………………………………………………………………乳龍帝」

 

 ……小猫ちゃんは視線を逸らし、ポツリと呟く。

 めちゃくちゃ言いたくないよな目だ。

 ―――だけどいくらなんでも今の言葉は聞き間違いのはずだ。

 ……よし、次はそうだな。

 

「な、アーシア?この世界の兵藤一誠は、どんな風に呼ばれているんだ?」

「………………………………お、おっぱい……ドラゴン、です……」

 

 ……………………おかしいな。

 今、清純で純真なアーシアから、卑猥な言葉が漏れたぞ?

 

「……な、祐斗。この世界の馬鹿は、何て呼ばれているんだ?」

「―――ごめん、怒らないで聞いてほしい。これ聞いたらたぶん君は怒り狂うし、君の仲の赤龍帝も怒り狂うと思うから」

「……ああ、覚悟は決まったよ」

 

 俺はこの世界の祐斗の言葉にそう応える。

 そして―――

 

「―――乳龍帝・おっぱいドラゴン……だよ」

 

 …………沈黙すること数秒。

 俺はその単語を聞いた。

 俺の中のドライグも、フェルも聞いた。

 …………は?

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんッ!!うわぁぁぁぁんんん!!!!!』

 

 ……聞こえるのはこの世界のドライグの鳴き声。

 誇り高き二天龍の面影はそこにはなく、ただ心労に心労を重ねた哀れな姿。

 ……そして―――

 

「『『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああッッッ!!!!?!?!?!?!?』』」

 

 ―――俺たちは同時に、そう叫ぶしかなかったのだった。


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