ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第2話 悪魔となってしまったらしいです

 ん? ……俺は日差しのあまりもの眩しさに目を開ける。

 俺はいったいどうして……確か昨日堕天使に襲われていた女の子を助けようとして、そして―――堕天使の光の槍で射貫かれ、殺されたはずだ。

 俺は少しずつ色々な事を思い出してゆき、そして昨日、堕天使によって開けられた腹部の幾つかの傷を見るけど、しかしそこには傷一つなかった。

 ……夢?

 いや、それは絶対にない。今もまだ傷の感触は残ってるし、かすかに痛みもある。

 なら何で俺は生きている?

 ……俺には分からなかった。

 

「それよりも……何で俺は裸なんだろう」

 

 色々な事柄はとにかくさて置くとしては、今現在の俺は全裸だ。

 こんなところ、母さんに見られたら大変だ――――――そう思ったその時だった。

 

「イッセーちゃぁぁぁぁぁぁん!!!何でまた帰ってくるなり怪我して…………」

 

 まるでタイミングを見計らったように、我が母、兵藤まどかが扉を勢い良く開けた。

 って、何でノックの一つもしないんだ!?

 しかも母さんは何故かわなわなと震えさせて俺をじっと凝視してるし!!

 

「―――…………ッ!!」

 

 って、おい!!

 母さんは突然、どこから出したであろう見事と言わんばかりの一眼レフカメラを取り出すと、無言で俺を激写する!?

 パシャパシャというシャッター音をその耳で聞きながら、俺は思う。

 ―――マジで何やってるの!?

 

「い、い―――いい加減にしてくれ、かあさぁぁぁん!!」

 

 ……シリアスな俺の自問自答は裏腹に、いつも通りの騒がしい一日の始まりを告げる合図のようだった。

―・・・

「それで俺は昨日、いつに帰ってきたんだ?」

「はい……ちょうど7時くらいです」

 

 母さんを説教して5分ほど経過し、母さんは親とは思えないほど肩身が狭くなりながら俺の質問に敬語で応える。

 

「そっか……。それで俺はどんな格好だったの?」

「……何故だか良く覚えていないんだけど、とにかくすごい怪我をしてるってイッセーちゃんを連れてきた子が言ってたの。確か木場って名乗ってた。イッセーちゃん程じゃないけど、割とイケメンだったよ?」

 

 ……確実にビンゴだな。母さんの親バカ加減は置いておくとして。

 木場ってことはオカルト研究部……。なるほど、大体の話の辻褄は通った。

 あとは、まぁ……問題は一つ残ってる。

 

「ごめんな、母さん。心配掛けて……もう大丈夫だから、心配しないでくれ」

「イッセーちゃん……ッ!!」

「でもそれとさっきの行動を許すかどうかは別だよ?」

 

 俺の一言で母さんは押し黙るように封殺した。

 ……俺は朝食を食べた後、学校に行くための支度をしてそのまま家を出た。

 朝だからかはわからないが、重い身体を引きづりながら通学路を歩く。

 この謎の身体の重さも突然のことで理解できないんだよ。

 

「身体が重すぎる。流石にこれは普通じゃないぞ」

 

 俺はそう呟きながら通学路を歩く。

 ―――それとは違う問題がある。

 それはずっと呼びかけているにも関わらず、俺の中のドライグとフェルから返事が来ないということだ。

 当然、消えたわけじゃない。

 実際に二つの神器は残っているし、二人の気配も俺の中からしてはいる。……けど、まるで眠っているように目を覚まさない。

 

「昨日のことが関係しているのか?」

 

 なんとなく不安げな表情が、白音……俺が大切にしていた猫に似ていたあの女の子を襲ってた堕天使に、俺は戦った結果、殺された。

 負けたとか、そんなことはどうでもいい。

 今はあの子は無事なのだろうか、それが一番心配になるところだ。

 

「でもあの子も悪魔で、それに木場も悪魔か……」

 

 知っていたわけではない。

 だけど何となく、予想はついていた。

 俺の長年の経験上、悪魔や堕天使、天使といった関連の存在には独特のオーラや魔力がある。

 それを察知することである程度の予想は出来ていたんだ。

 おそらく、木場の所属するオカルト研究部とは悪魔で結成されているはずだ。

 昨日、木場が俺を家まで運んでくれたというのだから間違いないだろう。

 俺を家まで運んだ木場、堕天使に襲われてた悪魔、ここは完全につながっている。

 ……とにかく救ってくれたのが悪魔でも、礼を言わないと気が済まないな。

 それがせめてもの礼儀ってやつだ。

 

「悪魔だってそんなに悪い存在じゃないってことは、この一年で証明されたからな」

 

 俺が駒王学園に入ったのは、もし悪魔が人間を傷つけたり、私利私欲のために利用しているのならば、守ろうと思ったからだ。

 俺は木場が最初の方に悪魔ということは察していたし、たぶんオカルト研究部もあいつと密接に関係しているから、そっち関連の存在という仮説も立てていた。

 だからこそ、悪魔はどういうものか俺は見定めた。

 そして俺は答えを出した。

 悪魔は人間と大して変わらない……悪魔なのにいい奴ってのが俺の出した答えだった。

 もちろん全ての悪魔がそういうわけてはないというのは理解している。

 ただ、噂とかの言葉で相手を見るなってことだな。

 

「とにかく一度、木場に会っておいた方が良いかな?」

 

 俺はそう思って学校に向かい、そして真っ先に木場の教室に向かった。

―・・・

「は?休み?」

「は、はい……その木場きゅ……。木場君は今日はお休みみたいで、その……」

「あ、ああ……なんか驚かしたみたいでごめんな?」

「い、いえいえ!! そんなことないです!有名な兵藤君に話しかけられて驚いただけなので……」

 

 ……正直、拍子抜けだった。

 その日、木場は学校を休んでいたのだ。

 珍しいことではあるけど、いないものは仕方がない。

 俺はそのまま自分の教室に向かおうするが、そういえばという風に思い出した。

 松田と元浜の情報によれば、確か昨日の女の子は後輩だったはずだ……確か学園のマスコットとかあいつらは言ってたっけ?

 ほんの少ししか見ていないけど、確かにマスコットと言われてもおかしくないほど可愛らしい容姿はしていたけど……(とはいえ、状況が状況だったから確証は持てない)

 心配だから顔を見に行こうかな?

 そう思って俺は足を一年校舎のほうへと向けた。

 ――はずだったんだけどな。

 ……結果的に言えば、あの女の子はどこにもいなかった。

 でも後輩の女の子が何人か俺に話しかけてきたので、それで朝の時間は潰れた代わりにあの子の名前とある程度の情報を知る得ることができた。

 何でもあの子もかなり有名な存在らしく、あの小さく愛らしい容姿と小柄な体から、松田と元浜の言うとおり、学園ではマスコットのように思われているらしい。

 名前は塔城小猫。

 木場と同じくオカルト研究部に所属しており、学年は一年。

 そして彼女も今日は休みだということを彼女のクラスメイトの子が言っていた。

 

「……これは本格的に繋がったな。ってことは俺を助けてくれたのは―――」

 

 駒王学園オカルト研究部の部長。確か名前は、リアス先輩だっけ?

 いつか顔を合わすことはあるだろうと思ってたけど、それがこんなタイミングになるなんてな。

 とにかく、行動は明日からするか。

 俺はそう思って自分の教室に向かうのだった。

―・・・

 放課後になった。

 その日は特に何もなく、普通にいつも通りご飯を食べ、そして授業を受けただけだった。

 ただ体が時間が経つにつれて動くようになっていた。

 それと授業中に何となく神器が動くかどうか試してみたけど、両方ともまだ動きはするが力を発揮できないようだ。

 この摩訶不思議な現象の解明にはまだ時間が掛かるだろう。

 

「さてと……松田、元浜! 今日はどっか遊びに行くか?」

「ああ。……実はな、昨日素晴らしいものを手に入れてしまったのだ」

「素晴らしいもの?」

 

 俺は元浜の気味の悪い笑い声に少し引く。

 そして高らかに顔を上空に仰ぎ・・・叫んだ。

 

「ああ……タイトルは『堕天使の私が童貞の貴方を食べちゃう♪』というDVDなのだが―――ってイッセー! 何をしてるぅぅぅぅぅうう!!?」

 

 ……元浜がピンポイントに俺の聞きたくない単語を言うので、仕方なく俺は元浜の鞄の中をまさぐってDVDを取り出した。。

 

「え? いや、普通にディスクを叩き割ろうと思って……駄目か?」

「駄目に決まってるだろう!? 何でそんなにキョトンとした無垢な表情で言うんだよぉぉぉぉぉ!!」

「元浜、諦めろ……イッセーは心が綺麗な女が好きなのだ―――心が欲望に堕ちた堕天使はだめらしい」

 

 ……松田が元浜の肩をポンと叩いた。

 それと時を同じくして、なんか周りのクラスメイトの女子がざわざわしていた。

 

「さて! 今日はお花にお水でもやろうかな!!」

「あたしなんてあれよ! 動物を可愛がる!!」

「私は木の陰で兵藤×木場本作るもん! ……ぽっ」

 

 ……ぽっ、じゃねえよ!!

 特に最後のはひどいじゃないか!

 俺と木場のホモ疑惑を更に深めようとするなぁぁぁああ!!!

 ……すると松田が俺の肩を持つ。

 

「ふふ、イッセーよ……。今日は俺の家でこれでも見て癒されようじゃないか」

 

 松田はそう呟いて俺の手元に一つのDVDを乗せてくる。

 ……題名は「金髪シスターと仲良くなろう!」。

 ―――俺は次こそ箱ごとDVDを叩き割ったのであった。

 ただ一言―――なんだかアーシアを穢されたようでムカついたのであった。

―・・・

 ……嘆く松田を無視して、俺は一人で帰路についていた。

 ったく、ピンポイントすぎるあいつのDVDを思い出すと、俺は不意にアーシアを思い出した。

 

「……アーシアはまさしく癒しの存在だな」

 

 ……癒しのような雰囲気に、癒しの神器。

 正に本当に現実にいた癒し系女子だな。

 

「……ブーステッド・ギア」

『Boost!!』

 

 俺は周りに人目がないことを確認して赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出現させる。

 次に心の中でもう一つの神器を思い浮かべた。

 

『Force!!』

 

 すると俺の胸元に白銀の宝玉が埋まっているような、エンブレムブローチ型の神器、神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)が現れた。

 

「試してはなかったけど、ドライグの神器の調整は終わっているんだな。ただ、力が何故か抑制されているか……」

 

 そう……何故か赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の力は抑制されていた。

 普通の倍増なら問題ないけど、今の状態では禁手化は出来ない。

 それと神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)も問題なく動くが、思ってたよりも創造力が溜まらない。

 

「ただ……」

 

 そう、時間が経つごとに気付いたけど、今の俺は相当なまでに体が動く。

 体が軽いって言った方が良い。

 神器の力が急に落ちたけど、身体能力は著しくアップしているんだ。

 

「朝は弱いけど。……さて、どうしたものか」

 

 俺は神器を二つとも消した。

 確認は出来たし、多分、今なら籠手だけで仮にあの堕天使と遭遇しても遅れは取らないと思う。

 

「さてと。そろそろ帰ろうかな?」

 

 そう呟いて歩み出したその時だった。

 

「―――ほう、数奇なものだ。都市部でもないこんな辺境で、よもや貴様のような存在に出会うとは……」

 

 ……何となく、肌越しに威圧感を感じ、その存在に気付いた。

 今、俺の目の前にいるこいつは人ではない。

 スーツを着ていて、黒いシルクハットのような帽子を被っている男。……でもこの聖なる感覚に邪さが入ってるこの感覚は―――

 

「ったく、どうしてまあこんな連続で遭遇するんだよ―――堕天使!」

「ほう……貴様、私の存在が解るのか。ならば話が早い。貴様、主は誰だ?」

「……何を言っているのかさっぱりだけど、お前、俺を殺すつもりか?」

「ほう。その目、決死の覚悟を持つ者の目をしている―――ということは貴様、”はぐれ”か?」

 

 ……こいつ、昨日の堕天使の女が塔城小猫に言っていたのと同じ台詞を言いやがる!

 ―――こいつらははぐれとかいう肩書だけで、殺してもいいっていう感覚でいるとでも言いたいのかッ!!

 

「ふざけるなよ、堕天使風情が」

「……貴様、今何と言った?」

 

 堕天使が俺の言葉を聞いた途端に本領を発揮する。

 黒い、真っ黒な翼を展開して手には光の槍。

 ……昨日の俺と同じと思ってもらっては困る。

 

「ドライグはいない。……でもいけるな、ブーステッド・ギア!」

『Boost!!』

 

 俺は籠手を出現させて本領である倍増の力を発揮する。

 

「何をぼそぼそと……よもや神器か?」

「ああ……そんでもってこいつはお前をぶっとばす力だ」

『Boost!!』『Boost!!』

 

 立て続けに力が倍増してゆく。

 だけど俺はこの時、全く別の事を考えていた。

 ―――この堕天使はもしかして、俺を舐めているのか、と。

 この強化の瞬間でも、俺を殺すことは可能だ。

 でもそれをしないのはつまり……

 

「お前、命を懸けた戦いを知らないのか?」

「貴様、何を言って……」

「知らないならどうでもいい。……他人を殺す殺す言っておいて、いざ自分は戦いを知らないとは思わなかった―――まあ関係ないか」

『Boost!!』

 

 俺は神器の倍増をもう一度行い、そして次の瞬間―――籠手に溜まった倍増の力を全て解放した!

 

『Explosion!!!』

 

 解放の力と共に、俺の体には一気に倍増の力が流れてくるッ!

 この感覚、数日ぶりだ!!

 

「な、なんだ、貴様は!!」

 

 堕天使は突然、力が格段に増した俺に恐れるような顔をしていた。

 まだ不安定も良いところだけど……でもお前を倒すくらいはどうってことはない!

 

「駒王学園、兵藤一誠だ!! 覚えとおけ、この堕天使野郎!」

 

 俺の拳が堕天使の懐に入ろうとした時……その時だった。

 

『Burst』

 

 ――――――その時、今まで蓄積してきた力が一気に消えるように、音声が響く。

 バースト……本来は神器の活動限界―――つまり俺の肉体の限界を迎えた時、神器が強制的に機能を停止させるものだ。

 

「……何だ? 貴様から感じた圧倒的な力が、消えた?」

「ッ!!」

 

 俺はすぐさま堕天使から離れる。

 どういうことだ・・・体の限界なんかまだ当分先だ!

 なのに何でバーストした!?

 まだドライグの調整は終わって無かったのか!?

 

「……何が起きたかは知らぬが、貴様を野放しにしていては危険そうだ―――ここで死ぬが良い」

 

 堕天使がそう言うと、手元に瞬時に槍を出現させ、そして俺に光の槍を放ってくる……ッ!!

 なんだ、この悪寒……俺は反射的に槍を避けていた。

 

「……なんていうか―――絶体絶命?」

 

 堕天使は両手に槍を持っていて、対する俺は使い物にならない神器。

 神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)は、龍の手でも45秒の時間が必要だから使えない……

 こういう時、ドライグとフェルウェルの存在が大きいことに気付くな。

 

「では死ね。どうせはぐれならばここで殺しても誰の文句も……」

 

 ―――その時だった。

 風が、一陣の風がなびく。

 それと同時に俺の付近の地面に、赤い……紅色の魔法陣?のようなものが浮かんでいた。

 

「―――その子に手を出さないで貰えるかしら、堕ちた天使さん?」

 

 ……涼しげな声が聞こえた。

 それと同時に紅い魔法陣から一つの影が、堕天使の男の方に向かって行った。

 

「……先輩に近づかないでくださいッ!」

 

 ……ッ!

 その影は俺が助けた塔城小猫であり、彼女はオープンフィンガーグローブを装着してる。

 そして彼女は堕天使の懐に入って、堕天使を遠く後方に殴り飛ばした。

 しかし殴られた当の堕天使は、翼を織りなしてすぐに戻ってくる。

 ってことはこの声の主は…………。俺は先ほど、涼しげな声が聞こえた方向を見た。

 そこには―――赤。いや……むしろ紅と言うべきだろう。

 見たこともないような鮮やかな紅の髪が、俺の目に入った。

 

「紅の髪―――なるほど、グレモリーの者か」

「はじめまして。私の名はリアス・グレモリー。あなたの言う通り、グレモリー家の次期当主よ―――さて、この場合はどうすればいいかしら?」

 

 ……リアス・グレモリー先輩が本気で怒ってる。

 彼女から感じられるオーラは怒りそのものだ。

 笑顔だけど、彼女は仲間を殺されかけているから、当たり前か。

 それと同時に管理している学園付近で敵対しているはずの堕天使が平気顔で活動しているのならば、怒るのは当然だ。

 

「怖い怖い……なに、散歩がてらにその者を発見してな。はぐれと思い狩ろうと思っただけだ」

「そう……それでどうするの?」

 

 俺は周りを見た。

 周りにはリアス・グレモリー先輩を筆頭に、塔城小猫、それと……何故か面影を知っている女子生徒がいる。

 艶やかな黒髪でどこか作り笑いのような笑みを浮かべる、恐らくは先輩であろう悪魔。

 

「あらあら、部長がお怒りのようで……うふふ」

 

 ……この人、どこか楽しそうだな。

 俺は先ほどまでの作り笑いではない、どこか冷や汗を掻くような笑みを垣間見て苦笑いを浮かべた。

 

「いやいや、こちらとしては散歩だったのでな。今日のところは帰ろう。……しかしリアス・グレモリーよ。自ら眷属はしっかり管理しておいた方が良いぞ? 私のようなものが散歩がてらに狩るかもしれぬぞ?」

「ご忠告痛みいるわ。でも私の眷属やこの町で何かするのであれば消し飛ばすから―――そのつもりで」

 

 怒りのオーラを出しながらも、リアス・グレモリー先輩は特に手を出すつもりはないらしい。

 ドライグやフェルの話では、三大勢力はいつ爆発しても可笑しくない均衡状態らしいから、それも当然か。

 一悪魔が戦争を勃発させるような行動は取れないということだ。

 ―――すると堕天使が飛び去っていく最中、突然、俺の方を見てきた。

 

「……兵藤一誠と申したか。貴様のことは覚えておこう。再び相まみえることがあればその時は」

「―――俺がお前を完膚なきまで消し飛ばしてやるよ」

 

 俺は皮肉のように堕天使に言うと、奴は高笑いをしながら飛び去っていく。

 ああ……お前がもし人を傷つけるなら、赤龍帝の全てを以てして、お前を叩き潰す!

 

「……随分と、好戦的な性格のようね。裕斗の話とは少し違うけど」

 

 すると俺の前にリアス・グレモリー先輩がいた。

 少し困ったように苦笑している先輩の隣にはニコニコしている女子生徒と塔城小猫がいる……。なんか塔城小猫の頬が少し赤いぞ?

 

「いえ、助かりました。リアス・グレモリー先輩」

「グレモリーはつけなくて良いわ。それより無事なのかし……ら?」

 

 すると、リアス先輩は俺のことを不思議そうに見ていた。

 あれ……? なんか、視界が暗くなってきた。

 なんで――

 

「どこも怪我はない様子だけど……。確かこの子の家は……」

 

 ああ、最近、俺は意識を失うことが多いなぁ。……多分、また木場が俺を家まで送るとかそんなところか?

 とにかく……俺はそのまま眠りについたのだった―――

―・・・

 

 夢を見ていた。

 夢の中の俺は何故か裸で、そして何故か俺は母さんらしき人に追いかけられている。

 しかも何故かその母さんらしき人は複数人いて、大きさがまばらで、しかも全員似ているという具合だ。

 まるで母さんの成長するまでの全ての姿を見ているようで何とも言えない気分だ。

 ……なんていう夢だよ、そう思った時に俺は目を覚ました。

 

「んん……。なんか変な夢を見たような……」

 

 俺は布団から起きて、首を少し回した。

 案の定、俺は家にいて、そして何故かは知らないけど、また裸……ここまで前と一緒だ。

 おそらく俺を連れてきてくれたのは木場で、そして俺は昨日、どういうわけかは分からないけど、また意識を失った。

 よし、ここまでは整理は出来た……

 なら今、俺の目前にある状況はどうなっているんだ?

 

「すぅ~……。すぅ……んん」

 

 ……何で下着すら身につけていない、全裸のリアス先輩が俺の前にいるんだぁぁぁあああ!?

 いや、ホントに目のやり場に困るっていうか、いくら母さんでなれたとはいえ相手は俺と同じぐらいの年齢で、しかもスタイル抜群だから目のやり場に困る!

 時間は……って6時30分!?

 普段俺が母さんに起こしてもらう時間だ!

 そして俺は昨日、多分、また木場に家までおぶられたに違いない!

 ってことは母さんは――

 

「いっせーちゃぁぁぁぁん!!!!!」

 

 ほらやっぱり来た!

 今にも足音が俺の部屋に届く!

 

「ん……あら、もう朝?」

 

 ああ、もう! 先輩はなんか起きたけど寝ぼけてるし、母さんも来てるし……

 ―――なんだ、俺、詰んでるじゃないか!

 そうして俺の部屋の扉の音という名の悪魔の音が静かに響いた。

 

「イッセーちゃん! 大丈夫なの!? どこも怪我はない!? 昨日、また木場君って子が……………………」

 

 …………母さんが俺とリアス先輩を黙視して、10秒経過。

 ……20秒経過。

 30秒経過。

 そしてその沈黙を破ったのは、ようやくお寝ぼけさんから覚めたリアス先輩だった。

 

「おはようございます?」

 

 ……そりゃあ、ねえだろ―――俺は心の中でそう毒突くように思った。

 そして次の瞬間、母さんの絶叫に近い声が家中、もしくは近所中に響くのであった。

 

「いやぁぁぁぁぁああああ!!! イッセーちゃんがぁぁぁぁああ!! 可愛いイッセーちゃんがぁぁぁあ!! 子供から大人にアップいやぁぁぁぁぁあああ!!!」

「か、母さん!? ちょっと待って、それ勘違い!! 理解できないかもしれないけど、勘違いだから!! 息子の身はまだ綺麗なままだからぁぁぁ!!!」

 

 母さんが俺の部屋から走り去って行くが、俺は何も着ていないのでどうにも出来ず、ただ母さんの走り姿を見送るしか出来なかった。

 

「あら、彼女は貴方の妹さん?随分と可愛い子ね?」

 

 母さん……貴方は俺の妹に間違えられています。

 兵藤家七不思議の一つ、いつまでも若々しい母さんはやはり健在という証明が成された瞬間だった。

 それはそうと俺は先輩から目線をそらした。

 

「どうしたの、兵藤一誠君?」

「い、いえ……その、何か羽織ってもらえませんか? 先輩はちょっと、思春期の男子には刺激が強すぎるので」

「ふふふ……。あなたはなんだか思っていたよりも可愛いわね」

 

 先輩から小悪魔見たいな笑い声がするのは気のせいか!?

 すると俺の耳に布の掠れる音が聞こえた。

 

「布団を羽織ったから、こっちを見ても平気よ?」

「それならわかりまし……って全然羽織ってない!?」

 

 そこには下半身を隠した先輩の姿が……全部、隠せよ!!

 色々と見えてるから、本当にやめてください!

 

「ふふふ、あなたをからかうのは楽しいわね。……っと、後輩くんいじりはこれくらいにしておくわ」

「そ、それで先輩、その……」

「先に言っておくわ―――私はまだ処女よ?」

「聞いてませんわ!!」

 

 俺は先輩をついツッコンでしまう!

 駄目だ、なんか先輩のペースに引き込まれている!

 

「ふふ……本当に可愛いわね―――いいわ、教えてあげる。私はリアス・グレモリー、あなたの駒王学園での貴方の先輩で、そして悪魔よ」

 

 ……やっぱりそうか。

 俺は既に分かっていたので大して驚かなかった。

 

「あと貴方も悪魔だから」

 

 ―――…………えぇぇぇぇええええええ!!?

 それは予想外の言葉だった・・・いや、考えてはいたけど完全に候補から消していた!

 

「私はあなたのご主人様よ、よろしくね。兵藤一誠君・・・イッセーって呼んで良いかしら?」

 

 ……なんか、突然のことが多すぎて頭はかなり混乱している俺だった。

 例えるならそうだな・・・兵藤一誠として生まれ変わったときと同じくらいの衝撃だった。

―・・・

 制服に着替えて、リアス先輩と一緒にリビングに降りた。

 リアス先輩はもう学校に行くものと考えてたけど、どうやら勝手にお邪魔したことを母さんに説明するらしい。

 でも母さんは、すごく歳不相応にリアス先輩をふくれっ面でじと目で見ていた。

 ……確かにリアス先輩が妹と間違えるはずの容姿と反応だよ。

 

「イッセー? お母上はどちらかしら?」

「先輩をじっと見ているあの人が母さんです」

 

 俺は母さんを指差す。

 

「イッセー、私があなたをからかったからって、私をからかうのは止めてちょうだい? あんな可愛い子がお母さんなわけないじゃない」

「気持ちはわかりますけど、母さんです。本人に確かてみたら分かると思いますけど……」

 

 すると先輩は母さんの方に歩いて行った。

 少し観察するように母さんを見て、そして話しかける。

 

「イッセー君のお母様ですか?」

「そ、そうですわ! イッセーちゃんのお母さんの、兵藤まどかです!!」

 

 母さん!

 少し大人びた言葉遣いをしてるけど、結局子供じみてるぜ!

 

「……すみません、勝手にお邪魔して。……それで私は彼と一緒に学校に行きたいんですが」

「…………仕方ありませんね、行ってらっしゃい、イッセーちゃん」

 

 っ!?

 か、母さんが折れた!?

 あの俺のことになると頑なに頑固になることで有名な母さんが!?

 俺は信じられない状況に目を丸くしていると、先輩は俺の耳元で何かを呟く。

 

「あなたのお母様は貴方のことが大切すぎるらしいから、少し魔力を使わしてもらったわ……ごめんなさいね?」

 

 ……母さんの目は虚ろだ。

 魔力ってことは、母さんを洗脳した?

 いや、軽く認めさせただけだろうから洗脳って言葉は悪いか。暗示が妥当だろう。

 

「……行ってきます、母さん」

 

 俺は母さんにそう言いながら、家を出たのだった。

―・・・

 リアス先輩との登校は正直、居心地が悪かった。

 リアス先輩は学園のアイドルらしく、わざわざ歩くのを止める人もいるくらいだし、そんな先輩の隣で歩く俺は嫌でも目立ってしまう。

 先輩の問題じゃなく、周囲の問題だ。

 

「嘘、だろ? あの兵藤が特定の相手を……?」

「う、嘘よ! 兵藤君がお姉さまのオーラに!?」

「胸か! 私達にないのはおっぱいか!? 結局男の子はおっぱいが好きってことなの!?」

 

 ……どうでもいい叫びなんかも聞こえる。

 っていうか、俺の周りはどうして愉快な叫びをするんだろうな、不思議で仕方がない。

 とにかく、居心地の悪いまま俺と先輩は学校に着くと、校門付近で先輩は俺の方を振り返った。

 

「放課後、あなたのところに使いを出すわ。詳しいことはその時に話すことにしましょうね?」

「は、はい……」

 

 そうして先輩は三年の下駄箱の方へと歩いて行った。

 

「俺も行くか……」

 

 そして俺は教室に向かい、そして教室の扉を開いた。

 

「おっはよ~……」

「き、来たな!イッセー!!!!!」

 

 扉を開けると、そこには坊主頭の松田の姿が……なんか涙を流している。

 すると元浜は松田の後から自前のカメラを手に、負のオーラを纏いながら画面を見せてきた。

 そこには……今日の登校風景、つまりリアス先輩と俺のツーショットだった。

 

「どういうことだ、イッセー! いったい何があったらあの難攻不落! 誰にも堕とせないと言われた学園のアイドル、リアス・グレモリー先輩と登校できるのだ!?」

 

 ああ……こいつら、あの登校風景を見ていたのか。

 ならちょうどいい、面倒だし、それにこいつらに言いたいことがあったんだ!

 

「―――なあ、女の子の裸って実際はあんまり見れないよ……恥ずかしいしさ」

「「っっっっっっっっっ!!!!????」」

 

 俺の冗談交じりの台詞に戦慄したのだった。

―・・・

 そして時間はあっという間に放課後。

 ちなみに既に大学受験までの勉強を終えている俺は、適当に授業を流していました。

 さて、放課後になったということは、使いが来ることになってるはずだけど……

 

「やぁ、兵藤君」

「やっぱりお前か。来ると思ったぞ?」

 

 予想通り、木場が来た。

 だけど予想と違ったのは、こいつの後ろにもう一人、女の子がいたことだ。

 

「えっと……塔城小猫さん、だったっけ?」

「……はい、先輩。小猫って呼んでください」

 

 そうか?

 なら小猫ちゃんって呼ぼうか、なんか呼びやすいし。

 すると木場が目を見開いていた。

 

「……はは、びっくりだね。小猫ちゃんが一緒に行きたいって言うから何かと思ったら」

「……祐斗先輩には関係ないです」

 

 何かは分からないけど、とにかく俺は木場と小猫ちゃんと一緒について行った。

 廊下を歩くたびにどこからか声とかその他諸々を感じる。

 なんか視線を集めている気がするけど、気のせいか……?

 

「きゃ~! 兵藤君と木場君よ!」

「待ちなさい、あそこには塔城さんもいる……ということはまさか!!」

「三角関係!? まさか木場きゅんと塔城さんが兵藤君を取り合い!?」

「何故だ! なぜ兵藤ばかり!!!」

 

 ……気のせいじゃなかった。

 木場は苦笑いしてるし、小猫ちゃんは……?

 

「~~~~~~ッッッ!!!」

 

 なんか顔を真っ赤にして、それこそプチトマトみたいに真っ赤にして俯いていた。

 恥ずかしいんだろうけど……ま、いいか。そうしているうちに、旧校舎にたどり着いた。

 いつの間にか俺の隣に来ていた小猫ちゃんはどういうわけか、少しずつ近づいている気がするんだけど―――あの時のことを気にしているのか?

 まあこの子を庇って死んだんだけど俺はなんとも思っていない。

 っていうか死んだという事すらも謎だからな。

 むしろ小猫ちゃんがどこにも怪我がなくてよかった。

 

「部長、連れてきました」

「……来ました」

 

 オカルト研究部と扉のプレートに書かれた扉越しにそう言った。

 

「入ってちょうだい」

 

リアス先輩の声が聞こえる。

二人はその声を確認すると扉を開け、そして俺と木場、小猫ちゃんは部室に入っていった。

 

「兵藤君はここに座っておいてね?」

「ああ・・・あ、どうも」

 

 すると俺の座ったソファーの前の机にお茶が出された。

 日本らしい茶飲みで、それを置いてくれた女子生徒・・・あの時、リアス先輩の隣にいた人だ。

 ニコニコフェイスが印象的な先輩だな。

 

「あらあら、うふふ……構いませんわ」

 

 髪は黒で、艶っぽい。髪を後ろで結んでいて、すごいお姉さまって感じだな。

 なんかすごくニコニコしていて、手にはバスタオルを持っていて、そしてそのまま部室の中にあるカーテンのほうに歩いて行った。

 

「部長、バスタオルですわ」

「ありがとう、朱乃」

 

 するとそのカーテンから手が伸びて、バスタオルを受け取る。

 そしてカーテンが解放されると、そこにはバスタオルしかつけていないリアス先輩……

 だから服着ろよ!?

 そう思った瞬間、横から腕をひかれた。

 

「……み、見ちゃ、駄目ですッ!」

 

 ……そう言うと、俺の顔を腕で覆うように抱きしめてきた。

 その時、ほんのりと甘い香りとささやかな膨らみを感じるも、何とか冷静さを保つ!

 えっと……とにかく訳が分からないです。

 

「人見知りの小猫ちゃんが……あらあら、面白い子ですわね」

 

 なんか言っているけど、俺はそれどころじゃない!

 なんか抱きしめる力が強くなっているような!?

 それに小猫ちゃんのささやかな柔らかさが顔を通じて伝わってきて、割と限界なのですが……!?

 そう思った―――だけど……それは違った。これは――

 

「…………ごめん、なさいっ」

 

 ―――小猫ちゃんは、泣いていた。……たぶん、先輩達や木場は気付いていない。

 体を震わせてる……。やっぱり、俺が小猫ちゃんを庇って傷ついたことを気にしてたのか。

 

「俺は生きてるから、気にするなよ、小猫ちゃん」

「……でも」

「でも、じゃない! ―――君が無事で安心したよ。それで良いんだ」

「……ありがとう、ございます。先輩」

 

 そう言うと小猫ちゃんは俺から離れる。

 涙の跡はほとんど見受けられない。たぶんもう大丈夫だろう。

 そして気付くと、リアス部長は着替え終わっていて、そして部長席みたいなところに座っていた。

 

「ごめんなさいね、イッセー。昨日は貴方の家で寝てたせいでお風呂に入れなかったのよ」

「ああ、だからですか。……それで、その―――色々聞きたいことがあるんですが、まずは皆の名前を教えてもらえませんか?」

「そういえば自己紹介がまだでしたね。……私は姫島朱乃、三年生ですわ」

 

 姫島……朱乃?

 なんかどこかで聞いたような……そうだ、昔、そんな名前を聞いた覚えがある。

 いや、まあ今はいいか。

 昔のことだし、確信は持てないからな。向こうが気付いたら話そうと俺は決めた。

 

「兵藤一誠です、二年生です」

「ふふふ、礼儀正しいですわね。私のことは朱乃とお呼びください」

 

 朱乃さんはそう言うと、そのまま部長の隣に座った。

 俺はソファーに座って、木場はその反対側の俺と対面する形の席。

 そして小猫ちゃんは俺の隣だ……距離が絶妙に近いということは放っておこう。

 

「これで全員揃ったわね。イッセー」

「はい?」

「貴方をオカルト研究部に歓迎するわ。……悪魔としてね」

 

 ……やっぱりそうなのか。

 俺の中で今更ながら色々と合点が一致した。

 ここ最近の俺の状態・・・朝は気が重く、そして時間が経つごと。つまり夜に近づくごとに体の調子が良くなるという現象。

 部長の言葉を俺は素直に納得した。

 ―――拝啓、外国にいる俺達のために働いてくれている父さん。

 俺はどうやら……悪魔になったようです。

 

「……最初に、私たちは悪魔なの」

「ええ。流石にあれだけ何度も言われたら分かりますよ」

「じゃあ貴方や小猫を襲った存在は?」

 

 ……分かっている。

 あの存在を、俺は。

 

「堕天使。堕ちた天使、邪な聖なる力を持つ者」

「っ!」

 

 するとリアス先輩を含めた全員が驚いた。

 

「……どうして知っているのか、聞いてもいいかしら?」

「…………」

 

 俺は迷った。

 正直に言えば、俺はまだリアス先輩を信用しているわけではない。

 助けてくれたのは礼を言うしか他にないと思うけど、でもそれとこれとは話は別だ。

 俺は兵藤一誠になる前に何度も悪魔の醜い部分を見る機会があった。

 だからこそ、安易には信用は出来ない。

 だから本当のことを言ってもいいかどうか……ま、答えはすぐに出た。

 

「教えて貰ったんですよ。誰かは今は言いません、それで駄目でしょうか、リアス先輩」

 

 だから俺は曖昧な答えをリアス先輩に示した。

 部長は少しばかり眉間にしわを寄せるも、すぐに表情を直した。

 

「まあいいわ……あと私のことは部活中は部長と呼びなさい?周りに示しがつかないから」

「わかりました、部長!」

 

 俺は言い方を改めるように言う。

 部長が話が通じる人でよかった。さすがに実は俺、赤龍帝ですなんて言えないからな。

 赤龍帝はどの勢力からしてもまずい存在だと思うし、良くも悪くも赤龍帝は力を呼び込む象徴だからな。

 まだ隠しておきたい。

 

「それで俺は何で生きているのでしょうか?」

「……それは私の説明を聞いて貰ってから答えるわ。貴方は悪魔と天使と堕天使の争いは知っているかしら?」

「はい、その辺はもう聞きました。三勢力がただの消耗だけの戦いをしている最中、周りを顧みない馬鹿な二天龍が壮絶な喧嘩を起こして、三勢力が二天龍をぼこぼこにして神器に魂を封印した……。その代わりに三勢力ズタボロ―――これで良いですよね?」

「え、ええ……貴方に教えてくれた人が誰か、すごく気になるけど大体は合っているわ。それであなたが生きている理由かしら?」

 

 俺はドライグとフェル受け売りの情報を話すと、部長は顔をひきつらせながら頷く。

 今の俺の言葉の端々には色々苦言が組み込まれているからな。

 特に「ただの消耗戦」とは無駄な戦いっていうのを意味していたりする。

 

「ええ……俺は確か、あの時に変態堕天使に腹部を刺されて死んだはずなんです。助けてくれたのは部長なんでしょう?」

「そうよ。ほとんど瀕死だった貴方に悪魔の駒(イ―ビルピース)を与えて私が下僕として悪魔に転生させたわ」

「……悪魔の駒?」

 

 俺は聞きなれない単語を聞いて、つい同じ言葉を復唱した。

 すると部長はその言葉を待っていたというように、席に置いてある赤いチェス盤の駒を一つ取り、そしてそれを俺の方に向けた。

 

「簡単に言ってしまえば、特定の存在を悪魔に転生させる物よ。上級悪魔に持たされ、それで眷属を作る……いわば自分だけの少数精鋭の軍隊を作ると言えば良いかした?」

 

 ……ドライグの受け売りだけど、悪魔は永遠に近い命がある代わりに出生率が非常に低いと言っていた。

 だから予想では悪魔の存在自体を増やすための制度か?

 特定の存在……恐らくは人間だろう。

 その人間を悪魔に転生させて、そして悪魔の勢力の力を拡大化していこうって考え方なら、ある意味では合理的かもしれないな。

 それを部長に聞くと、頷いた。

 

「あなた、本当に賢いわね。本当ならびっくりして話についていけないんだけど……」

「……まあ母さんとかがあれですし、衝撃的なこととか異常関連には慣れてるつもりです」

 

 騒がしいからな、母さん。

 それに前世の記憶もあるものだから、ちょっとの事では驚かないつもりだ。

 部長もなんか苦笑いしてるし。

 

「……イッセー、あなたは何で堕天使に殺されたのか、知っているかしら?」

「さぁ。……馬鹿にされたからじゃないですか?」

「ふふ、まあ堕天使は短気だけど、実際には違うわ。小猫から聞いた話から考慮して、あなたには神器(セイクリッド・ギア)が宿っているわね?」

 

 ……流石にそれくらいは既に知っていたか。

 ただ俺の神器の強さや重要性までは認識していないだろう。……まさかこんな付近に神滅具があるなんて普通は考えないからな。

 とりあえず俺は部長の言葉に頷いた。

 

「なるほど。……神器のことはちゃんと認識しているのね」

「一応は。それで一つ聞きたいのですが……どうして小猫ちゃんは襲われていたんですか?」

「……小猫が堕天使に襲われたのは本当に偶然よ。どうやら堕天使は貴方のことを嗅ぎまわってらしく、どういうわけか小猫はイッセーの名を聞いた瞬間、魔力を微量に出しちゃったみたいなの」

 

 なるほどな、それで堕天使に存在がバレたのか。

 

「堕天使はそもそも、貴方に近づいて貴方を殺そうとしていたみたい・・・自分たちの脅威になるかも知れないから。でも実際に貴方と話して理解したわ」

「……あいつは俺を危険因子と言っていました。なるほど、大体分かりました」

 

 神器を手にしたものの末路、か。―――何も変わって無いな、人ならざる力を持つただの人間が不幸になる。

 ―――昔から、何一つ変わらない。糞喰らえな現実だ。

 

「イッセー?」

「あ、すいません……部長」

 

 俺はつい頭に血が上り、考え込んでしまった。

 そうだ、今こんなこと考えても仕方がない。

 今はミリーシェのことは考えず、今の状況を考えろ。

 堕天使は俺を狙った、その過程で小猫ちゃんが悪魔だと気づき、そして小猫ちゃんを襲撃。

 そして割って入った俺を最終的に殺した。

 

「イッセーが小猫の助けに入ったというのは驚いたわ。助けに入ったということは、つまり……」

「ええ、俺は神器を使うことが出来ます」

 

 俺の言葉に小猫ちゃんを除いた全員が驚いた。

 

「……見せて貰えるかしら。実際、私も今の状況(・ ・ ・ ・)がわからないのよ・・・」

 

 部長は少し、興奮気味に言う。

 どういうことだろう。……俺の神器は知らないはずなのに、何でそんなすごいもの見たいというような表情をしているんだ。

 

「……こればかりはすみません。実は俺の神器は今、絶賛使用不能らしいですから。そもそも使えたらあんな堕天使に殺されませんし、瞬殺で倒せます」

「随分、自信があるみたいだね?」

 

 すると木場が不敵に笑う。

 

「そりゃあ小さいころから鍛えているからな。……俺の神器が少しはマシになったら戦おうぜ、木場」

「それはいい提案だね」

 

 すると木場からなかなかの殺気が発せられる。

 ……なるほど、経験から力量は分かった。多分少し強いとは思う―――でも負けることはまずないだろう。

 木場の体の頑丈さ、纏っているオーラから察すると、恐らくテクニックタイプの速度重視か?

 大体の仮説を立てた。

 

「とりあえずもう一度、自己紹介すると、僕は木場祐斗。悪魔だよ」

「……塔城小猫、悪魔です」

「あらあら、うふふ……姫島朱乃。悪魔ですわ」

「そしてリアス・グレモリー。……あなたの主でグレモリー眷属の『王』で悪魔よ。仲良くしましょう、イッセー?」

 

 ……そうして俺の肩書が増えたのだった。

 駒王学園二年オカルト研究部部員兼、新人悪魔。

 そうして俺は悪魔の世界に足を踏み込んだのだった。


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