ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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番外編7 チェンジ・ザ・イッセー!!

 俺、兵藤一誠はとんでもないほどの恐怖体験を今しがた、受けていた。

 

「……許すまじ。我、許すまじ」

「イッセェェェェェェ!!!!どこに逃げたぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 ―――世界最強のドラゴンと、龍王最強のドラゴンに追いかけられると、生死を賭けた鬼ごっこ。

 そう、これが行われる所以となった出来事はつい先日に遡るのだった―……

 ―――…………3日前。

 

「うし、これで―――終わりだ!!」

「…………ふ、不覚です。私が、負けるなんて……」

 

 その時、俺は家の居間で小猫ちゃんと共にゲームをしていた。

 大画面で行われる格闘ゲーム。

 かなりのゲーマーである小猫ちゃんはこのゲームを極めていて、俺も最近かなりやりこんでいるおかげで今回は勝てたってわけだ。

 ……ロキとの戦闘が終わり、2週間が過ぎた。

 時が過ぎるのはすごく早くて、俺はこの二週間で何故か冥界に二度出向き、冥界の歴史やら言葉やらを叩きこまれたりした。

 そして偶にの休日にということで、俺の癒しの双門、小猫ちゃんとゲームをしているというわけだ。

 ―――膝の上に乗せながら。

 

「……でも、珍しいですね。イッセー先輩が、自分から私を膝の上に座らせるなんて……」

「そっか?結構な頻度で可愛がっているつもりなんだけど、な?―――よし、次はシミュレーションゲームしようぜ!」

「…………なんか、嬉しいような虚しいような―――でも、近くで甘えられるから良しとします。にゃん♪」

 

 小猫ちゃんははにかみながら可愛く微笑んだ!

 うぉぉ……か、可愛い!

 流石は俺の癒し双門!

 

「んにゃ?あれ、イッセーが白音を甘やかしてる…………これはチャンス!!」

 

 すると今起きて来たのか、黒歌がほぼ上半身裸の状態でリビングに現れる!!

 おいおい、いくらこの家に男が俺しかいないからってそりゃねぇだろ!!

 俺は小猫ちゃんを床に座らせ、急いで自分の着ていたワイシャツを黒歌に羽織らせた。

 

「……くんくん、にゃふふ~♪イッセーの匂い、すごい~」

「…………匂うならひん剝くぞ」

「あ、良いにゃ~♪そのまま犯してくれても構わないよ?」

「うん、丁重にお断り申し上げる―――朝ごはん、ベーコンエッグで良いか?」

 

 俺は黒歌の言葉に対し、満面の笑みで拒否してからそう尋ねた。

 

「……ぐす。最近、イッセー調子良すぎにゃん!にゃによ、その満面の笑み!!」

「俺の純粋な笑みだが?」

「―――ちょっとは動揺してよ~~~~~!!!!」

 

 黒歌が喚くも、悪いが俺にはもう色気攻撃なんて利かない!!

 俺は紳士だからな!!

 ……ともかく

 

「鰹節をふんだんに使った味噌汁あるけど―――」

「―――イッセー、私、あなたに一生付いて行くにゃん。もう愛してるにゃん!!」

 

 ―――我が猫は、非常に扱い易いのだった。

 俺は黒歌の頭を手櫛をするように優しく撫でると、机の上に母さんが作ってくれたおかずと、俺の作った味噌汁を置く。

 最近は料理に興味を持ってるから、結構母さんと一緒に料理をしているんだよな~。

 ってか最近の俺の好奇心は異常なくらいだ!

 休み時間、クラスの友達が校庭でサッカーとかしてると参加したくなるし、お洒落とかにもかなり興味があるんだよな。

 だからリアスとか朱乃さんとかに色々アドバイスを貰いながら色々集めたりしている。

 ともかく今は……

 

「……イッセー先輩、頭を撫でて―――はにゃ!?」

「あはは、可愛いなぁ~!小猫ちゃんは!!」

 

 とりあえず頬を膨らませている小猫ちゃんで遊ぼうと決心するのだった。

 うん、昔からそうだけど俺の猫たちは異常なほど可愛いってもんだ!!

 ―・・・

 

 昼、俺は祐斗とギャスパーと共に街中にある公園にいた。

 

「ギャスパー!真の男が外を怖がってどうする!!」

「な、なら僕は女の子で良いです!!」

「―――馬鹿野郎!!」

 

 俺はポカン、とギャスパーの頭を軽くはたいた。

 ギャスパーはそれで頭を抑えて俺を上目遣いで見てくるが、知ったことか!

 

「良いか、ギャスパー。お前は男でもあり女でもある―――だがお前、完全に女じゃねぇか!」

「だ、だって女の子ならイッセー先輩と、その……夜の情事ってものを……」

「―――よし、今からにんにくをふんだんに使ったラーメンを食いに行くぞ」

 

 ……そう、昼はギャスパーの対人恐怖症を克服するために、街に繰り出したんだ。

 こいつは放っておいたらずっと家にいやがるから、それの予防策としてだな。

 それについてくるのが祐斗。

 誘っていないのに、知らぬ間に情報を聞きつけ、そして僕も一緒に行って良いかな、なんて聞いてきたから承諾したんだが……

 

「―――それでイッセー君、僕は常々、前に君にすっぽかされた映画を見に行きたいと思っていたんだよ」

「いつの話をしてんだよ。それって俺が悪魔になりたての時の話だろ?」

 

 ……妙に、こいつの距離間が近い気がして仕方ない。

 ってか祐斗、戦闘時とか普段は分からないけど色々と覚醒してんだよな。

 ―――すっかり忘れていたが。

 

「とりあえずギャスパー苦手克服プログラムに乗っ取ろう―――ラーメンを食いに行って、それからホラー映画だ」

「い、いやぁぁぁぁぁぁ!!にんにく、怖いぃぃぃぃ!!!ホラーはもっとダメですゥゥゥゥゥゥ!!!!」

「ぎ、ギャスパー君?僕たち、ある意味でホラーの類の存在だけど……特に君なんて、吸血鬼だよ?」

 

 祐斗の的確なツッコミがギャスパーに炸裂する!

 しかしギャスパーの喚きは収まらなかった。

 

「こ、怖いものは怖いですぅぅぅ!!!そんなものは目を逸らしていても―――」

「―――怖いものから目を逸らしていたら、いつまで経っても逃げ続けるだけだ」

 

 俺はギャスパーの肩を掴んで、ギャスパーと同じ目線でそう言った。

 

「俺は前に進んだ。だからギャスパー!お前もいつまでも逃げるのは止めようぜ?」

「い、イッセー先輩……―――ごめんなさい、僕、大馬鹿野郎でしたッ!!」

 

 するとギャスパーは俺の手を掴んで、カッと目を見開く!

 力強い目だ!!

 

「イッセー先輩!僕、逃げません!!イッセー先輩の雄姿を思い出して、僕だってなんだってしてみせます!!!」

「―――良く言った、ギャスパー!!じゃあ行くぞ!!」

「はい!!!」

 

 俺とギャスパーの声が一緒になる!

 その光景を見ている祐斗は苦笑いをしており、そして俺は言った。

 

「―――あ、それとそのラーメン屋は元吸血鬼ハンターがしている店らしいからな」

「へぇ、そうなんです、か……………………………………え?」

 

 俺の何気ない言葉にギャスパーは表情を失う。

 だがこいつは言った―――逃げないと。

 裏は取れた。

 さぁ、行こうか。

 

「よし、レッスン1!苦手な存在を複数前にしてどれほど冷静でいられるか!!ギャスパー、行くぞ!!」

「い、い、いやぁぁぁぁあああああああああ……―――」

 

 ギャスパーは俺に引っ張られながら、断末魔をあげる!

 俺はそれを構わず引っ張って行くのだった。

 

「……ホント、何なんだろうね。さっきのシリアス」

「気にしない方が良いと思うよ?」

 

 俺は祐斗の苦笑いにそう言うのだった。

 ―――ラーメン屋前に到着。

 その頃にはギャスパーは白目を剝いている。

 だが目を逸らしてはいけないと感じ、俺はギャスパーの頬を軽く捻った。

 

「あ、あぁん……っ―――あれ?ここは……はッ!!」

「いや、今の喘ぎ声は何なんだよ!?」

 

 俺はギャスパーの不意打ちについツッコんでしまうが、ギャスパーはそれどころではないようだ。

 目の前のラーメン店―――更にはこの距離から匂うにんにくの匂いにやられていた。

 

「こ、こうなれば停止の力を使って―――あ、イッセー先輩だから無理だ、あはは~~~…………うぇぇぇぇぇんッ!!」

「諦めろ、ギャスパー…………さぁ、新境地へ行こうぜ」

 

 俺たちはそう言いながら、ラーメン屋に入って行った。

 ―――その内装は凄まじいものだ。

 

「へい、らっしゃい―――三命様でよろしいかね?」

「……なんか、ニュアンス間違ってない?」

 

 俺は店の店主と思わしき、見るからに怪しそうな人物にそう言った。

 真っ黒なコートに首元には十字架。

 手には何故かニンニクに糸を通した腕輪みたいなものをつけていて、目つきが鋭い。

 正に歴戦の覇者と呼ぶにふさわしいヒトだ!

 

「へい、こちらのテーブル席へどうぞ……」

 

 テンションのやけに低いおじさんは猫背の状態で俺たちを席に案内する。

 なお、現在ギャスパー。

 

「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや……」

 

 ……壊れちゃった。

 なお祐斗は―――

 

「あの人、間違いなく相当の剣使いだね。身のこなしからして間違いない―――一度、剣を交わしてみたいものだよ」

 

 ……剣馬鹿だった。

 ともかくこのままじゃあ埒が明かない!

 

「へい、お客さん……こちら、我が店の名物―――吸血殺しのにんにく聖水ラーメンになりやすぜ……」

「……それは僕たちにも効きそうな物だね」

 

 祐斗がおじさんの見せて来た禍々しいほど赤いラーメンを見て、そう言った。

 ……だがギャスパーはもっと足りないものがある。

 苦手うんぬんよりも更に―――食べる量が極端に少ないんだ。

 

「ギャスパー、お前の普段のお昼ご飯は何だ?」

「へ?あ、えっと……サラダと、お水と、お魚です」

「―――女子か、馬鹿野郎!!」

 

 俺はどこからか出したハリセンで、ギャスパーの頭を叩いた。

 ……どこから出したんだろう。

 まあ良い!

 

「年頃の男子がそんなでどうする!!」

「だ、だから女の子―――いえ、何もないです。だからそのハリセンを下してくださいぃぃぃぃぃ!!!」

 

 ギャスパーは俺のハリセンを見て、すぐにそう慌てふためいた。

 

「ともかく、ギャスパーはこんなに細いんだ。もっと食べないといけないだろ?」

「だ、だったらイッセー先輩のご飯を食べたいなって……」

「―――甘ったれるな!!」

 

 ……俺は自分でも気付いている。

 ―――今日の俺は、テンションが異常に高いということを。

 

「苦手なものを好きなものにする。これはとても素晴らしいことだ―――ならば、俺の後輩を名乗るのならばギャスパー……俺はお前がそれを出来ると信じている」

「い、イッセー先輩……ッ!!僕、間違っていました!!」

「……あはは。このやり取り、さっきも見たような気がするよ」

 

 既に空気と成り果てた祐斗は再度苦笑いで応えるも、俺の(ハート)は止まらねぇ!

 俺は店主を呼んだ。

 

「……へい、お客さん。ご注文はお決まりに―――」

「―――店長、こいつに裏メニュー……『吸血砕きの生血とんこつラーメンギガ盛り』を頼む」

「……それは随分と挑戦的でございますね……少々お待ちを」

 

 店長は引き笑いをしながら厨房へと姿を消す。

 ……するとギャスパーは恐る恐るといった風に話しかけた。

 

「……えっと、生血とか、ギガとか―――そもそも吸血砕きって何ですか?」

「ふふ。安心しろ、ギャスパー」

 

 ギャスパーはその言葉に顔を綻ばせる。

 表情がパァァッと明るくなり、俺に抱き着こうとしたその瞬間だった。

 ―――いつの間にか、ギャスパーの目の前に超巨大なラーメン皿が置かれていた。

 

「……骨は、拾ってやる」

「ぷ、くすすす……ッ!!ダメだよ、もう笑うの我慢できない……!」

 

 祐斗の野郎がお腹を押さえて笑うのを我慢するが、だが俺はギャスパーを想ってここに連れて来た。

 

「う、嘘、ですよね~♪い、イッセー先輩が僕を見放すなんて、そんな」

「……ちなみにこれは完食したらタダ、しなければ一万円だ―――食わなきゃ、今度本気で修行だからな」

 

 ……そう、ここの代金は俺が持っている。

 だから―――食えなきゃ、許さない!

 そうして俺企画によるギャスパー強化計画は進んでいくのだった。

 ―・・・

 

 午後三時頃。

 ギャスパー強化計画を終えた俺は駒王町の隣町にある花園に来ていた。

 理由と言えば―――

 

「あ、イッセーさん!こっちです~~~!!」

「やっほやっほ~!!イッセーくん!!」

「ふむ……花を愛でるのも、偶には良いか」

「何を言うの、ゼノヴィア!イッセーくん的にはお花の似合う女の子が好みのはずよ!!」

 

 ……教会トリオ&ヴィーヴルさんに誘われたから。

 今日はなんていうか、仲間からのお誘いが集中して時間ごとに割り振って皆と遊ぶってことになっている。

 夜は夜で予定が入っていて、何ともまあ……忙しい一日だ。

 っていうかヴィーヴルさん、あなたは元々隠居しているのではないのですか!?

 俺はそう思いつつ四人に近づいていった。

 

「お久しぶりです、ヴィーヴルさん!」

「うんうん!一週間ぶりだよね!!」

 

 ……そう、実はヴィーヴルさんは出会ってから結構な割合で内に来ているんだ。

 大抵は夜刀さんと一緒の時が多いんだけど、夜刀さんは結構忙しいヒトだ。

 三善龍のリーダー格の夜刀さんが中々自分の相手をしてくれないということで、ヴィーヴルさんは良く兵藤家に遊びに来る。

 もしかしたら俺の知らないところで内に来ているかもしれないな。

 

「で?どうして俺を呼び出したんだ?」

「あ、それは私から説明するわ!」

 

 ……するとイリナは突然挙手をして、そう言った。

 

「実はね、この花園の園長と私、知り合いなんだけど……どうも最近、花の調子が悪いそうなのよ!」

「花の調子が悪い、か……確かに思った以上に花は咲いていないが……」

 

 うぅ~む……だけどそれじゃ俺が呼ばれた意味が分からないな。

 

「だから今回、アーシアさんとヴィーヴルさんっていう癒しコンビと、その行動源のイッセー君に来てもらったってことなの!」

「行動源って……まあ困っている人がいるなら、それを率先して助けようとする―――イリナの美点だな!」

 

 俺はイリナのそういうとこが気に入り、つい頭を撫でてしまう。

 ……それを見た御三方がジト目になったが。

 

「な、なんか撫で方が今まで以上に優しくなった?―――は、不味い!!」

 

 するとイリナはすぐさま俺から距離を取り、深呼吸をする……あ、そういえば忘れてた。

 

「すぅ~、はぁ~―――よし、まだ私は堕ちないわ!!」

「そんなことで堕天するほど、天使って大変なんだなぁ」

 

 俺はイリナを見ながらそうしみじみと思うのであった。

 

「その点、悪魔の私はイッセーと性交することが出来るから問題ないな―――どうだ?グラッと来たか?」

「うん、そんなんでグラッと来たなら、俺今頃何人の女を抱いてるんだろうな」

 

 俺はゼノヴィアの後頭部に軽くチョップを入れ、そうツッコむ。

 

「……むぅ。中々イッセーは手厳しい―――ところでアーシア、イッセーとはどこまで進んだのだい?」

「へ?」

 

 するとゼノヴィアは突如、アーシアに話を振った!

 あ、あの野郎!!

 まさかアーシアに話を振るとは思わなかった!

 

「い、一応キスと……この前、お風呂に突撃してお背中を御流しして……あ、それと毎朝イッセーさんが起きる前にキスを―――」

「ちょ、アーシア!?最初と真ん中のはさておいて、起きる前に何してんの!?」

 

 俺はいきなり知らされた新事実に驚愕の色を隠せないッ!!

 っていうか俺の起きる時間ってかなり早いけど、それより早く起きるなんて信じられないぞ!!

 そしてアーシアが最近、とっても大胆だ!

 

「あ、これはオフレコでした……えへへ」

「―――可愛いから許す」

 

 俺はあざとく舌をペロッと出すアーシアを見て、即答するのだった。

 

「ちょ、ちょっとちょっと!!さ、最近の子はそんなに進んでいるの!?わ、私だってまだキスも何もしたことな―――はわわわわわわッッッ!!!」

 

 するとヴィーヴルさんが盛大に慌てふためき、そして自爆する。

 ……ああ、夜刀さん。

 貴方が何だかんだでヴィーヴルさんの面倒を見る気持ち、今の俺なら分かるよ。

 ―――このヒト、すっごい可愛い!

 俺はヴィーヴルさんと視線を合わすようにしゃがみ込み、そして……

 

「―――スピードって、ヒトそれぞれだと思うんですよ。貴方には貴方なりの速度がある……だからそんな恥ずかしがらなくても良いんですよ?それにそれだけヴィーヴルさんが穢れのない、綺麗なヒトってことなんですから!」

「…………や、優しい……うぅぅぅッ!夜刀君、私に意地悪ばっかりするから、最近そんな真っ直ぐ優しくしてくれる人なんていなくてぇぇぇッ!!」

「俺で良ければいつでも話を聞きますよ。だってヴィーヴルさんも俺の家族なんですから!!」

「……うんッ!で、出来れば従姉が良いなぁ~……なんて、えへへ」

 

 ……年齢不詳とはこのこと如何に。

 このヒトは確実に俺たちよりも長い年月を生きているはずなのに、普通のヒトよりも純粋で綺麗な心の持ち主だったのだった。

 

「……そう、これが最近のイッセー君ポリシーなのよね~……異様に優しいというか、距離感が近くなっというか……」

「これが自分の問題をどうにかして、前に進んだイッセーということか」

「でもそのおかげで……ふふ」

 

 背後から聞こえる三人の声。

 ―――俺はあの戦いの後、仲間の皆に包み隠さず全てを話した。

 あの時、ミリーシェに再開したことや守護覇龍のこと。

 シトリー眷属の皆にも俺の全てを伝え、一番最初に反応したのは匙。

 ―――ヒトってあんなに涙を流しながら、熱くなれるものなのかってのを垣間見た瞬間だったな。

 匙は根っからの熱血漢だから、俺の話を聞いて号泣し、その後ご飯を奢ってくれた。

 ……ああ、あの会長が惚れたのが良く分かるぜ!!

 

「ともかく、さっさとボランティアを終わらせようぜ!花を元気にするなら、その神器を即座に創れば良いだろ?」

『花を元気にする神器―――実にロマンチックで、優しい神器です』

 

 フェルはノリノリのようだ―――確かに、最近は物騒な神器だったり、挙句性欲を抑える神器なんてものも創っていたからな。

 小猫ちゃんの発情期の時は焦ったってもんだ。

 

「よくよく考えれば、ここに癒しの力を持つ三人が集まったってことよね?それはそれですごい気がするわけよ!」

「確かにアーシアは言わずもがな、ヴィーヴルも三善龍の一角で癒しの龍、イッセーに至っては癒しの神器自体を創り出せるわけだしな」

「……そう言っても、やっぱり二人の癒しパワーには遠く及ばないからな―――まあ物は試しだ」

『Force!!』

 

 俺は即座にフォースギアを展開し、創造力を溜める。

 ……さて、どんな神器構造にしようか悩むな。

 癒すだけなら癒しの白銀(ヒーリング・スノウ)で事足りるけど、でもあれは傷を癒す神器。

 花と言えば……そうだな、水と太陽。

 栄養が通れば花も元気になると思うが―――そうだな、例えばアーシアとヴィーヴルさん。

 二人の癒しパワーがこの花園全体に届けれるような、しかもそれを増幅させるものを創れればいけるか。

 

「……よし、工程完了。んじゃ手っ取り早く神器を創るか」

『Creation!!!』

 

 俺は少ない創造力で神器を創る。

 形は輪上の銀色の光。

 特に名前は決めておらず、ただ光輪が伸ばした範囲に与えられた効果を付加するものだ。

 要は影響範囲を広げられる神器。

 ……白銀の光輪(スターランジ・リング)ってところか。

 俺はそれを人差し指でクルクルと回し、空へと放つ。

 建物として存在している花園に白銀の光輪が広がっていき、そして建物全体を包み込んだ。

 後は俺の手の内にある白銀の球体に癒しパワーを注げば、それで完了って手筈。

 

「良し、アーシアにヴィーヴルさん。ここに回復オーラを放ってくれ」

「は、はい!」

「り、りょーかいだよ!!」

 

 するとアーシアによる碧色の回復オーラが、ヴィーヴルさんによる橙色の回復オーラが混ざり合っていく。

 ……っとここで俺という調味料を入れてみるか。

 

『Boost!!』

『Transfar!!!』

 

 俺は篭手を瞬時に展開、倍加してそれを二人のオーラに譲渡した。

 すると回復オーラの大きさは跳ね上がり、そして―――花園に幻想的な碧色と橙色の光が旋律のように舞っていった。

 ……綺麗な光景だ。

 煌びやかな色とりどりの花弁と、煌め碧と橙の織りなす芸術のような光景を前にちょっと感動を覚える!

 

「流石、癒しの二人のすることは一味違うよな」

「そ、そんなことないですよ~……ふふ」

「え、えへへへ……とってもとっても嬉しいな!そんな風に言って貰えて―――やっぱり変わったよね……」

 

 アーシアとヴィーヴルさんがはにかむように恥ずかしがり、ヴィーヴルさんは何かをボソッと呟いた。

 ……変わった、か。

 それは俺に対して言っているのかは分からないけど、ただ俺の考える通りなら―――変わったんじゃなくて、変えることが出来たんだよ。

 決して自分の口からは言わないけど。

 ともあれ問題だった花の不調はこれにて解決、時間が余っちまった!

 

「―――よし、どうせだから偶には花園で茶話会と洒落込もう!ちゃんとお菓子は用意して来たからさ!」

「す、すごいわイッセー君!ここまでの気の遣いよう!!出来る男って感じがするわ!」

「だ、だが色々な種類があるがお金は大丈夫か?なんなら私も少しは出すが……」

「まあ気にするなって―――予想外にあいつが頑張ってくれたからな」

 

 ―――星となったギャスパーよ。

 祐斗に担がれながら勝者の美酒を浴びた戦士よ。

 …………ぶっちゃけ、あれを完食できるとは思っていなかったよ。

 俺は今は亡き盟友を想い出し、十字を切る―――ってイッテェェェェェェッ!!!?

 

「うぉぉぉ、自分が悪魔だってこと忘れてたッ!?」

「い、い、イッセーさんが私みたいなことをするなんて!?」

「お、お茶目なところもあるんだね!!」

 

 ―――そこ、関心してる場合じゃない!!

 ってか本気で痛いッ!!

 ……俺は初めて、聖書の神を少し恨んだのだった。

 

「………………んん?」

 

 俺はふと目を横目で送った。

 そこにはこの花園に合わない恰好をしている男性が一人、巨大な花のブーケからこっちを覗いている。

 頭には麦藁で出来た帽子、恰好は和の服装でこっちの様子を伺っていた。

 ―――ご丁寧に仙術で気配を消して。

 そして何より驚くべきことがもう一つ。

 

「……チビドラゴンズも一緒になって何やってんだよ!?」

 

 ―――チビドラゴンズは少女モードになって、しかも際どいクノイチの恰好をして、こちらを見ていた!!

 俺は即座に座席から立ち上がり、ドスドスと夜刀さん達の方に歩いて行く!

 

「おぉ、イッセー殿!奇遇でござるな!!拙者、ここに花を愛でに来―――」

「―――いくら夜刀さんでも、俺、怒りますからね?どうしてチビドラゴンズがこんな卑猥な恰好しているんですか?」

 

 夜刀さんの肩を掴み、そう問いただす俺。

 目はおそらく光を失っているだろう。

 だが俺は問いたださなければならない。

 ―――俺には役目があるんだ。

 

「―――絶対に、この三人をティアのようなドラゴンにはしないッ!俺はこの三人を可憐で、強く誇り高いドラゴンに育てるっていう役目があるんだ!!」

「にひひ~!にぃちゃんが可愛いだってさ!メル、ヒカリ!!」

「兄さんにそう言ってもらえるなら、わざわざこんな格好した甲斐があるね!」

「……私の考え、グッジョブ」

 

 可愛い三人はさておくとして―――さあ、尋問を始めよう。

 

「お、落ち着くでござるぅぅぅ!!!チビドラゴンズ殿は自らこれをして」

「俺が三人をそんな教育をしているとでも思うんですか?ねえ?」

「め、目が据わっているござる!目を覚ますでござるぅぅぅ!!」

 

 夜刀さんが懇願するも、悪いが今日の俺は止まらない!

 

「……でも流石にあれは止めるべきっしょ?」

「まあ……メル達が夜刀さんにここに連れて来てもらうよう頼んだわけだし」

「でも……にぃにが私達のために怒ってくれるのは……良いっ」

「「分かる!!」」

 

 ……どうやら三人は俺を止めるつもりはないようだった。

 ならば―――

 

「さあ夜刀さん……お話(お説教)の時間ですよ」

「せ、拙者は無実でござるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

 ……本日何度目というほどの断末魔が響くのだった。

 ―――実は俺はほとんど怒っていなく、ただ夜刀さんを弄りたかったというのが本音だったりするのだった。

 ―・・・

 

「ともあれ、無事拙者の冤罪を晴らせて良かったでござる!」

「ま、初めから知ってたんですけどね~」

 

 それから10分後、茶話会に夜刀さんとチビドラゴンズが加わることになった。

 チビドラゴンズは既に幼女モードになっている。

 最近では少女モードも耐久時間が長くなって来たようだけど、やはりまだ幼女モードが安定するそうだ。

 

「もうもう!どうして夜刀くんがいるの!?」

「それは当然、家族在りしところに拙者がいるというわけでござる―――何せ、拙者はイッセー殿の従兄であるが故」

「……夜刀君、ホントイッセー君のこと大好きだよね」

「当然でござる!!」

 

 夜刀さんは胸を張って、はっきりした声でそう頷いた。

 ……このヒトほど自分に素直な人を俺は見たことがないな。

 言葉には嘘偽りはなく、ただ真っ直ぐなヒトって感じだ。

 

「拙者、感動の極みでござる。あれほど禍々しかった覇の力を、あれほどまでに優しい力に昇華する―――正直に申すと、あの時のイッセー殿こそ善龍の名に相応しい。そう思うのでござるよ」

「……ありがとうございます。その言葉は素直に受け取ります!」

 

 ……心情の変化だな。

 今の俺は嫌に素直で、ある意味で夜刀さんに近い気がする。

 やっぱり胸の閊えがマシになったっていうか、ミリーシェとの再会が俺を前に進ませてくれたってところだ。

 それに新たな希望が生まれた!

 それが今の俺の調子の良さだと思う。

 

「……さて、では拙者はこの茶を一杯貰い、すぐに立ち去るでござる」

 

 すると夜刀さんはカップに入ったお茶を飲み干し、そのまま立ち上がった。

 ……どうしたんだろう。

 もっとゆっくりしていけば良いのに―――そう思った時、悟ったように夜刀さんは俺に言葉をかけた。

 

「―――拙者、当面の間は京都の方に出向くでござる」

「…………京都、ですか」

 

 俺は夜刀さんの言葉を反復するようにそう呟く。

 

「やはり善龍という看板は安心感があるのか、拙者のところに来る依頼が殺到しているのでござるよ。それに―――ディン殿の情報も、京都の方から入ってきたでござる」

「「ッ!!!」」

 

 その言葉に俺とヴィーヴルさんが驚いた。

 ……ディンといえば、今は亡き三善龍最後の一角。

 誰かを救うため、自らを犠牲にした優しいドラゴンの名だ。

 

「ディン殿は魂を神器に封じ込められ、その存在を残したでござる。その神器は未だ発見されておらぬが、それを京都の妖怪がそれらしき影を見たと申しているのでござる」

「……それで行くんですか?もしかしたらあなたを呼ぶためのデマカセかもしれませんよ?」

「―――それでも、愚直に進むしかないでござるよ。それはイッセー殿が拙者に教えてくれたことでござる」

 

 すると夜刀さんは俺の頭に手を置き、そしてくしゃくしゃにするように撫でて来た。

 

「……優しき赤龍帝よ。お主はその優しさを貫き、守護の道を辿るでござる。イッセー殿にはそれが一番似合っていて、何より―――そっちの方が、拙者は好きでござる!」

「……はい。俺は皆を護るために戦います」

 

 ……だからあなただって護って見せる。

 あの時、俺が死にそうになっていた時……俺を護ってくれたから。

 ―――そして夜刀さんはヴィーヴルさんの方を向いた。

 

「……ヴィーヴル殿。当分は拙者は京都に篭るでござる。故にヴィーヴル殿とは会う機会がないでござる―――でも、もう大丈夫でござるね」

「夜刀くん……」

 

 夜刀さんは嬉しそうな笑みを浮かべ、ヴィーヴルさんの頭を撫でた。

 ……夜刀さんにとって、ヴィーヴルさんはある意味で妹みたいな存在だもんな。

 この二人の関係を見ていれば分かる。

 ……言葉なんて二人には要らないんだろう。

 夜刀さんは特に何も言わず、頭を撫でると俺たちに背を向ける。

 そして―――風のように消えていった。

 

「……イッセーくんとは違う意味で、あの人もカッコ良いよね。なんか、優しさを体現したようなドラゴンだもの」

「そうだな。故に三善龍という名を付けられるのだろう―――イッセーと相性が良いのは、きっと二人が似ているからだと思うよ」

「ふふ……そうですね。どっちもとっても優しいです!」

 

 教会トリオは俺たちを見ながら、そんな会話をしていた。

 ……俺もあの人の背中みたいに、大きくなりたい。

 そう思わせてくれる夜刀さんって、やっぱりまだまだ敵わないな。

 俺はそう思っていた。

 ―・・・

 

 茶話会が終わり、時は夕方。

 俺は部長に呼び出され、今度は駒王学園オカルト研究部部室に来ていた。

 何で呼び出されたのかは聞いていないけど、まあ悪魔関連のことだろう!

 俺はそう理解して、部室の扉を開い―――

 

「お帰りなさいませ、ご主人様♪私にします?やっぱり私にします?それとも―――わ、た、し?」

「朱乃!結局それって全部食べられるじゃない!!ずるいわ!!」

「……………………はぁぁぁぁ…………」

 

 ついに大きなため息を吐く俺。

 そりゃそうだ―――呼び出された理由がこれかよ!?

 

「―――どれもお持ち帰りしませんから!!それとリアス!!ズルいってなんだよ、ズルいって!!はい、そこ!!勝手に腕にくっ付こうとしない!!」

 

 俺は朱乃さんの問題発言に的確にツッコミ、更にリアスに指摘、そしてその好きにくっつこうとしている朱乃さんにデコピンを一つ放つ。

 ……このお姉さま達は問題児だな。

 

「うふふ……私とイッセー君の仲ではありませんか。互いの全てを分かり合っているのですから♪」

「過去の話ですよね?ってかこれで呼び出したんなら俺、帰りますよ?」

 

 俺は面倒になって魔法陣を展開するが、すぐさまリアスはそれを止めに入った!

 

「ちょっと待って、イッセー!流石にそれは冷たくないかしら!?」

「そうですわ!ちょっとくらいお姉さま達に構ってくれてもいいものと思いますわ」

「……じゃあちょっとだけですよ?」

 

 仕方ない。

 こうなってしまえば、さっさとお姉さま方を満足させるような演技をするしかない。

 何分、俺は小さい頃から演技が得意である。

 ―――子供の演技をずっとしてたからな。

 俺はすっとリアスの懐に入り、そして彼女の顎に手を当て、くいっと顔をあげさせる。

 そして吐息の音が聞こえるほど顔を近づけ、真っ直ぐリアスを見た。

 

「へ?い、イッセー」

「……リアスが、こうしろって言ったんだよ?ほら、顔を逸らさないで」

 

 ……もうとことんまでリアスを追い詰めてやろうと心の奥で決心し、俺は目を逸らそうとするのを遮る。

 リアスはみるみる内に顔が真っ赤になり、俺は極めつけというように頭を撫でた。

 

「ちょっと恥ずかしがってるリアスの方が俺は可愛いと思うよ?ほら、今みたいに」

「………………ごめんなさい、やっぱり恥ずかしいからやめて……ッ!!」

「いや」

 

 離れようとするリアス、離そうとしない俺。

 リアスには悪いが俺を乗り気にさせたそっちが悪い!

 俺はリアスを弄るようにからかい続けること五分―――リアスは涙目で、上目遣いでこちらを睨んでいた。

 だけどその目つきは全然怖くなくて、普段のギャップ差のせいかむしろ可愛かった。

 俺はそれでついつい頭を撫でてしまうと、リアスは何も言えなくなった。

 ……すると俺に近づいてくる朱乃さんの影が一つ。

 

「―――ずるいですわ。私でも遊んでくれないと……」

 

 朱乃さんはそんなことをプクッと頬を膨らませて言ってくる。

 ……朱乃さんって確かドSだよな?

 

「あのですね、朱乃さん。あなたは人を苛めることが大好きな、ドSなはずなんですが……」

「……朱乃って言ってくれないと嫌ですわ。リアスはリアスって呼んでいるのに……」

 

 ……なるほど、朱乃さんの不機嫌な理由はそれか。

 正直部長をリアスって呼ぶのも微妙に違和感が残っているからな。

 だけど確かに不公平って感じるかもしれない。

 今のところ俺が敬語を使うグレモリー眷属は朱乃さんだけだからな。

 ……そうだな。

 

「うん、じゃあ今日から朱乃って呼ぶことにする」

 

 ……まあ違和感は何とか慣れるしかないとしてだ。

 そろそろ俺が呼ばれた理由というものを教えてもらいたいところだな。

 

「なに、あの変則的な飴と鞭は……もしかしたら朱乃並にイッセーてドSなんじゃ……」

「うふふ……リアス、そろそろイッセー君に教えてあげてよろしいんじゃないですか?」

 

 朱乃はリアスに耳打ちするようにそう言うと、リアスはハッとしたような顔をしていた。

 

「あ、忘れてたわ!彼女を外で控えさせて―――」

「―――ひどいです!!あんまりです、ずっと外で放置するなんて!!」

 

 ―――すると窓の外からバン!っという音と共に姿を現す一人の女性。

 女性教師が着ているようなパンツスーツで身を包み、背が高くきらきらとした銀髪の美女。

 ………………えぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!?!?!?!?

 そこには見知った姿があったのだ。

 

「あ、お久しぶりです!イッセー君!!あの戦いぶりですね!!」

「ろ、ロスヴァイセさん!!?なんであなたがこんなところにいるんですか!?」

 

 驚きでしかない!

 なんたってロスヴァイセさんはあのオーディンのお付きのヴァルキリー!!

 事件が終わっているのにこんなところにいるのはいくらなんでもおかしいってもんだ!

 あれか?この人がいるってことはロキを倒したから、次の神様が攻めてくるってか!?

 

「また神様の襲撃ですか!?なら俺、何度だって守護覇龍を使って―――」

「あ、それは違いますよ?だって私は自分の意思を持ってここにいるのですから」

 

 ……するとロスヴァイセさんは俺の言葉の真意の意味を取り汲んだようにそう言った。

 ―――自分の意思でここにいる?

 俺はそれを考えていると、ロスヴァイセさんは語り始めた。

 

「……私はオーディン様に自ら辞表を出して来たのです」

「―――え?」

 

 ……正直、信じられなかった。

 あの仕事に誇りをもってヴァルキリーをしていたロスヴァイセさんが、まさか自分から辞表を出したことに。

 ……って待てよ?

 彼女は今、フリーってわけだ。

 ならなんでここにいるんだ?

 ……俺が答えに近づこうとしたその時、ロスヴァイセさんは話し続けた。

 

「……あの時、私は…………いえ、私たちは境地に立たされていました。ロキの猛威でイッセー君は倒れ、みんな傷ついて前線は崩壊し、絶望でした―――その時、その絶望を払い去ったのは一度は倒れたはずのイッセー君でした」

 

 ロスヴァイセさんは思い出すように話す。

 その表情は頬が赤く染まっていた。

 

「私はあの優しい力……紅蓮を見たときに決めたんです―――あなたを私の勇者(エインヘリヤル)にしたいと」

 

 ―――勇者。

 それはヴァルキリーが生涯を尽くして見つける、自身が仕えるべき存在のことだ。

 それは悪魔である俺には似合わない単語で、そして彼女の言っていることの意味は……

 

「……だから私はあなたの傍で戦いたいがために…………悪魔になりました」

 

 ―――その背中には悪魔の翼が生えており、それがロスヴァイセさんが悪魔になった証拠だった。

 ……半神であるヴァルキリーが俺たちの仲間になる。

 だけど少し複雑だった。

 

「それで……悪魔になって、後悔はないんですか?」

「ええ、ないです」

 

 ロスヴァイセさんはきっぱりと断言する。

 

「こう、私の女の勘といいますか……それが反応したのです!だから後悔なんてありませんし……イッセー君の活躍を間近で見れるんですからこれくらい安いものです!」

「……本当にもう、あなたといいリヴァイセさんといい無茶な人なんですから」

 

 俺はロスヴァイセさんのおばあちゃんの顔を思い出し、苦笑いを浮かべる。

 ……リヴァイセさんが聖剣計画の生き残りの子供たちを引き取ると言ったとき、彼女は躊躇わずに俺の願いを聞いてくれたんだ。

 自分にかかる負担なんてお構いなしに自分のやりたいことを、正しいと思ったことを行動する。

 ……そっくりだよ、やっぱりこの二人は。

 

「……俺は勇者なんて大層なものにはたぶんなれないです。でも……あなたが俺を注目してくれるなら、期待して一緒にこれからも戦ってくれるというなら―――これからよろしくお願いします!」

「……ええ!このロスヴァイセ、どこまでもあなたのために、グレモリー眷属のためにこの腕を振るうつもりであります!!」

 

 ロスヴァイセさんは笑顔でそう言うと、すると背負っていた大きな包みを下した。

 それは細長い何かで、何故か神聖なものを俺は肌で感じる。

 

「えっと……その重そうなものは何なんですか?」

「あ、これですか?これはですね―――オーディン様が退職金として特別に下さったグングニルのレプリカです♪」

「へぇ、グングニルのレプリカですかぁ~――――――……は?」

 

 俺はどうやら聞き間違いをしたようだった。

 ……んん?

 よし、もう一度聞いてみよう。

 

「えっと……退職金に何をいただいたんですか?」

「ええ、グングニルのレプリカです」

「「「…………………………………………………………」」」

 

 ……リアスと朱乃、俺の心が一つになる。

 目を合わせると、その眼には信じられないという言葉が書いてあるかのような表情だ。

 グングニル―――それは北欧の主神、オーディンが使った時大勢の中級悪魔、上級悪魔を一投放っただけで全滅に追い込んだ、神投槍・グングニル。

 一度だけ見たことはあるけど、その神々しいオーラはロキの神炎剣・レーヴァテインを超えていて、それを投げると莫大な威力を放ち、しかも最後は手に戻ってくるというよう性能の武具だ。

 ―――レプリカとはいえ、それを普通は一介のヴァルキリーに渡すのか!?

 

「とはいえ、やはりレプリカですからね。力は本物の10分の1程度らしいです。この槍の機能はほとんど同じですが、出力が圧倒的に弱いそうなので、それを北欧式魔術で補えば……あ、すみません。昔からの癖で……」

「い、いえ……まさかそんな贈り物をされてここに来ているとは思っていなくて……」

「ええ……よく『戦車』の駒一つで足りたものだわ」

 

 ……ヴァルキリーが駒価値5で悪魔に転生できたのか。

 本来は神格持ちは悪魔にはできないはずなんだけど、ロスヴァイセさんは半神だから大丈夫だったのだろう。

 ―――ともかく、これで俺たちの眷属は全ての駒が揃ったわけだ。

 

「滅びの魔力を有した『王』リアス・グレモリー、伝説の堕天使の血を引く雷光の使い手『女王』姫島朱乃、聖魔剣の『騎士』木場祐斗、デュランダル使いの『騎士』ゼノヴィア、猫又の『戦車』塔城小猫、半神ヴァルキリーの『戦車』ロスヴァイセ、吸血鬼のハーフで停止の力を持つ『僧侶』ギャスパー・ヴラディ、絶対の癒しの力の『僧侶』アーシア・アルジェントに―――全てを守る守護の赤龍帝の『兵士』兵藤一誠、か」

 

 ……すると部室の扉の前にアザゼルとガブリエルさんがいた。

 ガブリエルさんの傷は既に完治しており、今は職場に復帰している。

 アザゼルは後処理がなかなか終わらないと嘆いていたけど、この様子じゃあ終わったんだろう。

 っていうかあんな長台詞をよく噛まずに言えるもんだな。

 

「これでようやくグレモリー眷属も完成したというわけですか……これはまた、凄まじい眷属ですね」

「まあ名前を並べれば伝説の力、または未知の力を携えた眷属だからな」

 

 アザゼルはどこか誇らしげな表情でそう言った。

 

「……期待してるぜ。お前たちがレーティングゲームでどれほどの活躍をするとか、どんな戦い方を見せてくれるとかよ。当然、俺は全力でサポートするからな」

「―――アザゼル、私のサポートするシトリー眷属だって十分に未来性のある眷属です。今回の件で匙君は鍛えがいのある力を得ましたから、私が徹底的にテクニックを鍛え上げます」

「……グレモリーは力だけじゃないぜ?木場やイッセー、それに今回でテクニックタイプのロスヴァイセすらも加入した」

「それ以外がパワー一辺倒じゃないですか?」

「「…………………………………………」」

 

 何故かにらみ合いになるアザゼルとガブリエルさん。

 この二人って大抵は言い争いになったり、険悪なムードになるよな。

 昔何があったかは知らないけど。

 ともかくだ―――

 

「よろしくお願いします、我が勇者!」

 

 ……ものすごく心強い人が、俺たちの仲間になったのだった。

 ―・・・

 

 夕方が過ぎ、夜に差し掛かった時間帯。

 俺は一人単身でとある家に向かっていた。

 普通の住宅街にある一軒家。

 そのインターホンを押すと、すぐに扉が開いた。

 

「―――あ、イッセー君!!いらっしゃいだよ!!ささ、入って入って!!」

 

 ……俺個人の友人であり、今年が受験生であるバイト中学生こと袴田観莉。

 俺が行きつけとなっている喫茶店で働いている天真爛漫な女の子で、俺が家庭教師をしている女の子だ。

 俺はリビングからすぐに部屋に通され、用意されている椅子に座って一息つく。

 

「ん?どしたの、イッセー君。なんか疲れた顔をしてるけど」

「今日はなかなか多忙な一日だからな!ちょっと疲れが今になって出たんだけど―――って今は観莉の勉強が最優先だ!!」

 

 俺は元気を出すようにパンッ!っと頬を叩き、気合を入れる。

 すぐに観莉に笑顔を送り、すると観莉は不思議そうな表情で俺を見ていた。

 

「……イッセー君、どこか変わった?」

「変わったっていわれれば変わったし、元々そうだといえばそうだな……うん、やっぱり何も変わっていないよ」

「……へぇ。なるほど~―――でも、表情が一時より随分と良くなって明るくなったよね!」

 

 観莉はうんうんと頷きながら納得するように表情を綻ばせた。

 ……まあ確かに覇龍関連でずっと俺はおかしかったからな。

 それでいろいろな人に迷惑をかけたし、実際に俺も死にかけた。

 …………今、俺がそれほどまでに変わったって言われることは良いことだよな。

 

「―――ほら、馬鹿言ってないでさっさと勉強始めるぞ!」

「ぶーぶー!ちょっとはお話させてくれてもいいじゃん!!最近、全然会えなかったんだから観莉ちゃん、寂しかったんだよ?」

 

 観莉はあざとく上目遣いで目を潤ませて、さらに手まで握ってそう言ってくる。

 ……最近これが流行っているのか?

 まったく、そうだとしたら俺も舐められたもんだ。

 何度も何度も同じ手が通用する俺じゃない!

 ロキとの戦いだって同じ手は二度も通用はしなかった!

 残念だった、観莉!!

 

「―――少しだけだぞ?ほんとに少しだけだからな?」

 ―――俺の意思は豆腐のように弱かった。

 …………30分後。

 

「でね?店に来たお客さんが何時間も居座るから、流石に私も怒ったんだけどね?」

 

 ……自分でも反省はしているよ。

 だけど思った以上に観莉との会話は盛り上がり、好きな漫画の話を語り、揚句の果てには観莉の愚痴すら聞いている俺。

 ―――女の子のうるうるな上目遣いは卑怯だと思うんだ。

 あんなの無視できる男っているのか?

 特に観莉や小猫ちゃん、アーシアの上目遣いっていうのは何だろうな……こう、保護欲と掻き立てるんだ!

 一生愛でたい気持ちになるっていうか……ともかく、そろそろ勉強を始めなければ。

 

「ふぅ~、あ、そういえばこの前、ショッピングセンターにフィーちゃんとヒカリちゃんとメルちゃんに似合いそうな服が売ってたよ?」

「―――店と値段を教えてもらえるか?」

 

 ―――こんなところでシスコンを発動してしまう俺であったのだった。

 ……更に1時間後。

 

「―――チェックメイト」

「うわぁぁぁぁん!!イッセー君強いよ!!手加減してよぅ、もう!」

 

 ―――俺たちはチェスをしていた。

 勉強を教えるために来たのに、全力で一戦交わっていた。

 

「悪いな、俺は勝負事には手加減はしない主義なんだよ」

「うぅ~……これちょっと自信あったのにな~……」

 

 真剣に凹む観莉を見て、少し罪悪感を抱く俺。

 ……でもわざと負けるのは許せないし、なんといえば良いのか。

 ―――難しいな、こういうの。

 …………………………………………うん?

 

「なあ観莉さんや」

「なぁに?イッセー君や」

 

 俺がそう尋ねると、乗ってきた観莉がそう返す。

 

「俺って今日、何しにここに来たっけ?」

「え?私とお家デートのためじゃないの?」

「………………メールの内容、見せようか?」

 

 俺は携帯電話を操作し、先日観莉と交わしたメールを見せた。

 そこには……

 

『おっす、イッセー君!

 うちのお庭に雑草が生えてきた今日この頃なんだよね~。

 ……ちがうちがう、それを言いたいんじゃないんだった!

 でもたまにはこんな変なメールも良いよね♡

 ―――でさ、実は折り入って頼みがあるんだよね。

 とつぜんで悪いんだけど、また勉強を教えてほしいの!

 しつれい極まりないんだけど、実はイッセーくんがいなきゃ勉強が捗らないだよね(´・ω・`)

 よろしくね♪ 観莉より』

 

 っという文面。

 どこにも不思議な部分はなく、俺はそれを観莉に見せると観莉は少し悪戯な表情をした。

 

「あ、もしかして気づいてない?このメール、最初の文字だけ縦で読んでみてよ♪」

「は、縦?」

 

 俺は観莉に言われ、携帯電話の画面を見る。

 そこには―――

 

「おうちでーとしよ……………………おい」

 

 俺は全てを理解して、観莉の頭をガシっと掴む。

 巧妙だった。

 そう、無駄に巧妙だったんだ。

 こんなことを考える時間があれば勉強すれば良いものを、彼女はただこれがしたかったために時間を削った。

 ―――さあ、説教の時間だ。

 

「なあ、観莉?今の俺の顔、どんな顔に見える?」

「え、えっと~……とっても優しくて、お兄ちゃんって感じかな!?」

「へぇ、そうなんだ~。はははは」

「「はははははははははははははは」」

 

 観莉が真似るように笑う。

 俺も笑う。

 彼女の表情は冷や汗を掻いたように青ざめており、俺は手を外さない。

 

「―――さて、じゃあ言い訳を聞こうか」

「―――ごめんなさい!許して、イッセーくぅぅぅぅんん!!!!」

 

 観莉は間髪入れずに情けなく謝ってくるが、これはお仕置きが必要さ。

 ああ、実に悲しいよ―――まさか、ギャスパーの二の舞を作ることになるなんて。

 

「……プロレス48手と関節技48手、それか精神崩壊術のどれが良い?」

 

 俺は笑顔でそう言うと、観莉は顔を引きつかせる。

 そして……

 

「わ、私のベッドで初体験48手なんて、ど、どうかな?てへ♪」

「―――そうかそうか……ははは」

 

 俺はそう表情を歪めながらふざけたことを申す彼女をベッドに放り投げ、そして―――

 

「―――何か言い残すことはあるか?」

「え、えっと……や、優しくしてね?」

「……ううん不正解。正しくは―――さようなら、だ!!!!」

 

 ……この後のことは言うまでもない。

 ―――その後、彼女を見たものはいなかった。

 

 ―・・・

 

「ははは、むしゃくしゃしたものがなくなったな!!」

「うぅぅ~……もうお嫁にいけない……穢された……主に関節を……」

 

 関節技48手を掛け終え、ベッドの上でぴくぴくしている観莉。

 途中から叫び声が凄まじいことになったけど、まあ一軒家だし大丈夫だろうと安直な考え方をしていたりする。

 ともかく肉体でのお説教は済んだし、そろそろ勉強を始めよう―――っと思って時計を見た。

 ……時刻午後9時。

 ―――俺の携帯電話が怖いほど鳴り響いていた。

 

「はぁ、はぁ……でも痛いのに、ちょっと体のしこりが消えたんだよね―――もしかして、私、新しい世界の扉を開いちゃった?」

「ごめん、今はちょっと黙ってて」

 

 心の中で勝手に目覚めてろ、と思いながら冷や汗を掻きながらディスプレイに表示されている人名を確認する。

 ………………兵藤まどか。

 電話は鳴り終わり、俺は着信履歴を見た。

 

「―――不在着信86件……」

 

 ……全力で怖かった。

 怖かったけど、俺はその数字に戦慄する。

 ―――プルルルルルルルル

 

「……イッセー君?出ないの?さっきからずっと鳴ってたけど……」

「…………観莉、お願いだから電話中は黙ってろよ?」

 

 俺は観莉に釘を刺し、通話ボタンを押す。

 そしてスピーカーに耳を当て、そして―――

 

『―――どうして電話に出てくれないの?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇんぇねぇねぇねぇねぇんぇねぇ―――……』

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃいい!!!?」

 

 ……恐怖の余り、情けない声をあげて電話を強制的に切ってしまう。

 ―――なんだ、この恐怖。

 今までの敵なんて目じゃないほどの恐怖。

 俺はそれを今、抱いていた。

 ……凄まじい恐怖を目の前にした瞬間っていうものは、他の思い出したくない恐怖を思い出してしまうことが実はある。

 なぜこんなことを言うかといえば―――単に俺は思い出してしまったんだ。

 

「―――あ、やばい。今日、オーフィスとティアが帰ってくる日だ」

 

 ……邪龍狩りを終えた我がドラゴンファミリーの二人が、帰ってくるのが今日。

 そして―――夜刀さんとタンニーンの爺ちゃんですら狼狽した俺の過去を、俺はいまだに付き合いの長い二人に一言も伝えていなかった。

 そしてそのことをチビドラゴンズは知っている。

 しかもさらに言えばチビ共は俺に懐いている。

 つまり俺のしたことを全てティアに話すだろう。

 ……そう、全て。

 つまり自分たちですら知り得ていないことを第三者の口から語られる。

 ……それをあの二人が許すだろうか?

 ―――結論、許さない。

 ……それと共に俺の電話は再び音を鳴り響かせる。

 

「……イッセー君、今日、うちに泊まる?お父さんとお母さん、今日は帰ってこないし―――それに顔が、すっっっっっっごく!!帰りたくないって顔をしてるよ?」

「よ、よく分かったじゃないか、観莉……だけどな?―――男には、目を逸らしてはいけない時間ってもんがある」

 

 俺は立ち上がり、携帯の通話ボタンに手を掛ける。

 

「そう、それが今この時なんだ。俺はこの問題から逃げたら、たぶん一生後悔する……………………命的な意味で」

「そ、そうなんだ!!なんか分からないけどかっこいいよ!イッセー君!!」

「そうだろ!!」

「うん!!!」

 

 ―――俺は通話ボタンを押す。

 そう、まず最初に母さんに謝り、そしてその場にティアとオーフィスがいないことを確認しよう。

 そして念入りに彼女らに説明をし、納得してもらうんだ。

 母さんの叱咤なんて甘んじて受けよう。

 ……よし、計画は完璧だ。

 あとはこれを実行するのみ!!

 さぁ、俺の平和な一日への第一歩を踏み出すために!!

 

「―――もしもし母さん!?ごめんな、すぐに帰るからとりあえず今、そこにオーフィスとティアはいるかな!?いないんなら俺が帰ることはできれば隠しておいて!!これは母さんにしか頼めないことなんだ!!!」

 

 ……俺は母さんが許してくれる言葉の術を知っている。

 こういえばほぼ間違いなく母さんは許してくれるし、叱咤も相当に減るだろう。

 完璧だ!!

 俺は失敗はしな―――

 

『―――もしもし、一誠。この声、聞き覚えがあるな?んん??随分と可笑しなことをぬかしたな?うん?』

『……我、激おこ。イッセーイッセーイッセーイッセーイッセー―――イッセー』

 

 ―――前提から間違っていたんだ。

 そう、考慮していなかったんだよ。

 …………ティアとオーフィスが電話の主って可能性を。

 そしてこの瞬間、俺は唯一穏便にことが済む可能性を失った。

 ―――そしてこの後、俺に襲ってくるのは正に地獄……そのものだったのだ。

 ―・・・

 

『Side:アーシア・アルジェント』

 私、アーシア・アルジェントはイッセーさんが大好きな恋する女の子です。

 そんなイッセーさんなんですが、最近変わったと学校中で有名になっているのです。

 

「兵藤君って良いと思わない?優しいし、運動もできるし、顔だって木場君並じゃないけど整っているし、人望も厚いし!!」

「それは私も思った!なんか、木場君の陰に隠れた逸材っていうか、むしろ最近は兵藤君ファンが急上昇してるんだって!!この一週間で!!」

 

 ……そんな会話が聞こえてくる通り、最近のイッセーさんは特に女子生徒の皆様に人気が急上昇しているんです!

 理由は簡単で―――イッセーさんが知らずの間に敷いていた壁が、なくなったことが原因だと思います。

 元々誰にでも優しかったイッセーさんですが、最近では誰にでもある程度心を開いて、すごい笑顔を見せるようになったんです。

 それを私やほかの眷属の皆さんは嬉しくも思いますが、やっぱりちょっと嫉妬しちゃいます。

 私は席でゼノヴィアさんとイリナさんと一緒にご飯を食べながら、会話を交わします。

 

「イッセー君人気がすごいよね~……やっぱり、あのことが原因なんだろうけど」

「まあもともと影人気はあったからね……お、この卵焼きは上手いな!これはアーシアが作ったのかい?」

「へ?あ、それはイッセーさんが作った卵焼きです!」

 

 ……最近ではイッセーさんは何にでも好奇心をもって行動しています。

 私とまどかさんと一緒に朝ごはんを作ったり、いろいろなスポーツに手を出したり、アザゼル先生の研究のお手伝いをしたり……本当に様々なことをなさっています。

 ……イリナさんの言ったあのことっていうのは、イッセーさんが死にかけていた時にあった奇跡のような出来事のこと。

 死んだミリーシェさんと神器を通じて再会し、そして自分を受け入れたこと。

 イッセーさんはそのことを何一つ、包み隠さずに話して下さいました。

 笑顔で、嘘偽りのない晴れやかな表情で。

 ……嬉しかったです。

 心の底から、涙が出るほどイッセーさんの笑顔が嬉しかったんです。

 あれほど自分を嫌っていたイッセーさんが、自分を好きになろうとする姿を見たら……嫉妬なんて起きませんでした。

 むしろ感謝をしていました。

 ミリーシェさんに、心の底からの感謝を。

 こんな風に思ってしまう私は、独占欲というものが少ないのでしょう。

 私は一生イッセーさんの隣で愛していられるなら、他の人がいても構わないと考えるようになっています。

 イッセーさんは否定するでしょうが、やはり私は皆さんに幸せになってほしいのです。

 もちろん私も幸せになりたいですが……

 

「……ところでアーシアは何とも思わなかったのかい?イッセーの元恋人のミリーシェという子が、イッセーの背中を押して立ち直らせたことについて」

「あ、それは私も気になってたの!やっぱりイッセー君に一番近いアーシアさんでも、思うところはあったのかなって」

 

 するとゼノヴィアさんとイリナさんはそう尋ねてきました。

 ……なかったといえば、嘘になるでしょう。

 もちろん私がイッセーさんの問題をどうにかしたいという願望はありました。

 でもそれは私にはどうすることもできませんでした。

 ……だけど

 

「―――私は、イッセーさんが心から笑えるようになったので……嬉しいです。私はそれだけで、イッセーさんが本当の笑顔で接してくれるということがどうしようもなく嬉しいんです!」

「……敵わないな、アーシアには」

「まさに正妻オーラってものかしらッ!!凄まじいわ!!」

 

 ゼノヴィアさんとイリナさんはそんなことを言うので、私は可笑しくなって少し笑います。

 するとどこかに行っていたイッセーさんは教室に戻ってきて、そして私の傍に寄って……

 

「―――アーシア!今日の放課後、買い物して帰ろう!今日はお菓子を一緒に作らないか?」

「―――はい!!」

 

 ―――屈託のない、満面の笑みを浮かべてそう言ってくれるのでした。

 私はその笑顔を見て、なお思いました。

 ……そう

 

「やっぱり、私はイッセーさんが大好きです……ずっと……ずっと……」

 

 ……私は呟くようにそう言うと、イッセーさんは少し困った顔をした後にいつも通り頭を撫でてくれます。

 ―――その手の温もりは、いつも通りとても温かいものだったのでした。

 

『Side out:アーシア』

 ―・・・

 

 ……三日にも及んだ地獄の鬼ごっこを潜り抜け、ティアとオーフィスとのマジ戦闘を行い、やっとの思いで説得を果たせた今日この頃。

 俺は一人ぼうっと黄昏ていた。

 黄昏……その単語は今回の戦いのキーワードだったな。

 ロキは黄昏のためにオーディンを襲い、そして俺たちと死闘を繰り広げた。

 あいつが正しかったとか、そんなことは言わない。

 ……だけどあいつは北欧のことが大好きだったんじゃないと俺は思った。

 じゃなきゃオーディンの爺さんが他神話の神と繋がるってだけで、こうも凄まじい戦いを起こそうとは思わなかったはずだ。

 ―――あいつはあいつなりの意地で、俺は俺の想いで戦っていた。

 ……だからかな?

 ―――俺はあいつが、心の底から嫌いになれない。

 あいつは俺の仲間を傷つけ、最悪な手だって使いまくっていた。

 だけど自分の子供が傷つけられたりしたときは確かな怒りを見せていて、ある意味であいつは人間味のある神様だった。

 ……俺は思う。

 神様ってものは完璧じゃない。

 むしろ不完全だ。

 強大な力があり、思惑がある……だから神は争い、神は黄昏のために戦を起こす。

 ……聖書の神が神滅具を創った理由は、そこにあるんじゃないかな?

 聖書の神は何よりも平和を望んでいたはずだ。

 だからこそ最後の最後まで戦い、命を落とした。

 神は最後で最悪の敵になる『神』……これを滅するために神滅具を創った。

 ……矛盾しているのかもな。

 平和を望んでいるのに、危険になる神を排斥するために神を葬る力を人間に託した。

 その人間は神よりも不完全で、だけど―――どの種族よりも、可能性を秘めた存在だ。

 完璧ではない神は、同じ完璧ではない……だけど無限の可能性を秘めた人間に最後の力を託した。

 ……それはきっと、聖書の神が完璧ではなかったから。

 ―――俺はずっと完璧を演じ続けようとしてきた。

 弱い自分を隠すために強くて完璧な自分で偽り、生きてきた。

 ……だけど完璧じゃなくても良い。

 今回の戦いで、俺はそれを理解できた。

 俺は思うんだ。

 

「……むしろ、完璧を追い求める人生の方が楽しいよな」

 

 ……そう思っているから、今の俺は何でもできるって思っているのかもしれない。

 ―――考えてみればあの時、俺が最初に覇を求めた時だ。

 ドーナシークにアーシアが囚われ、頭に血が昇り覇を求めた。

 その時、俺は確かに聞いたんだ―――ミリーシェの声を。

 その時の俺はまだ白龍皇の宝玉を手に入れてはおらず、その時は空耳と思った。

 だけど……あれももしかしたら何かに繋がっているのかもしれない。

 ……………………もし、俺があの時覇を求めていたらどうなっていたんだろう。

 そう考えると、寒気がするほどに怖い。

 もう絶対にないけど、でも……

 ―――考えるのは止そう。

 

「―――おい、イッセー!これは未曽有の開発だ!!ボケっとするなよ!!」

「あ、ああ……悪い、アザゼル」

 

 俺はアザゼルに話しかけられ、ハッとする。

 今、俺はアザゼルの研究室でアザゼルの開発を手伝っていた。

 

「ったく、こいつはお前の神器の力があっての試みだ―――ともに完成させようぜ」

「ああ、そうだな」

 

 何を作っているといえば、それは誰もが夢に見るもの。

 ……つまり

 

「―――タイムマシン、それは誰しもが一度は望む素晴らしいものだ!!」

「ああ、その通りだ!!―――あと一息だ、もうちょい気張ろう、アザゼル!!!」

 

 ……馬鹿らしい日常だ。

 こんな平和な日常を、俺は望んでいる。

 だけどまあ俺は赤龍帝だから、それは叶わないだろう。

 ……だから今は、今だからこそ

 ―――こんなバカみたいで、でも楽しい日々を心から楽しもう。

 ……そう、思うのであった。

 

 

 ―――放課後のラグナロク……了

 

 

 

 

「―――あ、そういえばお前の上級悪魔の昇格が決まったぜ?」

「―――軽ッ!?なにタイムマシンのついでみたいに言ってんだよ!?それ、ありえないほど重要なことじゃねぇか!!!!!!!!!」

 

 ……とにかく、馬鹿な日々は続く―――……




ってことで第7章を締めくくる番外編でした!

いやぁ、今回はマジで話を書くのが楽しかったです!

実質、これって一日で書いてるんですよね(笑)

今まで陰鬱とした空気は一転、一気におバカな日常をお送りしました!

まあ今回はイッセーが如何ほどに変化したか、または周りからの評価がメインでした。

それと・・・まあ次章関連をちょいちょいと。

それとめちゃめちゃ昔にあった伏線の回収ですね!

・・・では次回からは第8章。

―――っと、ここでイチブイ風の次章宣伝です!

次回はコラボ回となってますが、れっきとした続き物の話です!

どんな話になるかは今回の番外編でヒントが隠されてます!!

それでは不肖ながら・・・どうぞ!






―――は?な、なんで俺が二人も!?

―――俺・・・じゃない、よな。ったく、ほんとに



――――――俺の日常は暇しないってもんだ。


第8章『平衡世界のダブルヒーローズ』


男の浪漫は女と酒・・・・・・そしてタイムマシンだ!!―――堕天使の総督、アザゼル

彼の目は誰よりも純粋な研究者の目だった。


やっほ、イッセー君!!この前はいきなり帰ったけど大丈夫だっ・・・・・・ってえぇぇぇぇぇええええ!!!!?!―――バイト少女兼受験生、袴田観莉

何の関係のない彼女は、何故か騒動に巻き込まれる!


先着二名でイッセー先輩と過去旅行ツアー・・・・・・本気を出すときが来たようです―――『戦車』塔城小猫

グレモリー癒し双門こと彼女は珍しく饒舌であった。


過去に戻る、ですか・・・私は今が大好きなので、大丈夫です!―――女神、アーシア・アルジェント

最強の癒しの少女は悲しげながらも満面の笑みだった。


私、最近百円均一の店を発見したんです!!だからそこで品を集めて過去で困らないようにしましょう!!―――ヴァルキリーの戦車、ロスヴァイセ

何故そこまであなたは残念になってしまうのか、残念で仕方ない


まあ今回は譲るにゃん♪私、今を生きる女だから・・・っていうか眷属候補をいろいろ探るにゃん♪―――赤龍帝眷属『僧侶』候補、黒歌

彼女のテンションは誰よりも高かった。


まあ行ってらっしゃい、1週間後に帰ってきて話を聞かせてね?―――王、リアス・グレモリー

意外に簡単に引き下がる部長なのであった。


と、とりあえず血を吸ってもいいですか?僕、疼いて・・・はぁ、はぁ―――両性吸血鬼、ギャスパー・ヴラディ

彼女?のせいで彼は貧血を頻繁に起こしていた


・・・やはり最後のライバルは小猫ちゃんですか。ならば尋常に―――じゃんけんで勝負ですわ!!―――雷光の巫女、姫島朱乃

彼は昔、自分を助けてくれた彼の雄姿を見るために本気で勝ちに行く(欲望全開)


僕、気になるんだ・・・・・・イッセーくんがオルフェルくんだった時の姿が―――聖魔剣の使い手、木場祐斗

―――イッセーは本気で感情矯正の神器を創ろうか、全力で迷っていた。


・・・我、お勧めしない。イッセー、行かないで―――無限のロリカワ、オーフィス

彼女の上目遣いは彼の決心を鈍らせる。


お土産、出来ればうまいものを頼む―――脳筋騎士、ゼノヴィア

―――無理です。


い、イッセーくんが私としか遊んでいなかったあの頃・・・・・・あぁ、ダメ!!考えるだけで堕天しちゃうぅぅぅぅぅ―――性と聖を彷徨う天使、紫藤イリナ

・・・彼女はいい加減、堕天してもおかしくない。


―――んん!?ちょ、なんかおかしいぞ!?おい、アザゼル!!これ絶対おかしいって!!?―――好奇心旺盛系赤龍帝、兵藤一誠

異変に気付くが、時すでに遅しだった。



―――彼は予想もできなかった。

―――まさかこんなことになるなんて。




い、イッセーがふ、二人・・・!?―――スイッチ姫、リアス・グレモリー

その状況を彼女は汲み取ることすらできなかった。


・・・えっちじゃない、イッセー先輩・・・ですか―――学園のマスコット、塔城小猫

その表情は意外なほど物足りない表情だった。


・・・素晴らしい肉体だね。これは鍛え方を教えていただきたい―――超脳筋騎士、ゼノヴィア

―――何故か彼女に関しては人物像が一致した。


し、神聖だわ!!私にはあの神器が神聖と感じるの!!―――自称日本人&天使、紫藤イリナ

・・・自称といわれる割には的を射たセリフであった。


―――素晴らしい!!紳士な赤龍帝!!こんだら赤龍帝ばい、おんどれがなるん目標だっぺ!!―――田舎育ちの百均ヴァルキリー、ロスヴァイセ

余りもの感動のあまり、方便が出まくりな残念な人であった。


・・・ちょっと野性味が足りませんわ―――どS、姫島朱乃

どうやら別世界の彼には興味はない様子であった。


こ、怖いですぅぅぅぅ!!!ドッペルゲンガー、こわいですぅぅぅぅ!!!―――気弱な吸血鬼、ギャスパー・ヴラディ

・・・・・・随分と自分の世界の彼女はたくましくなったとしぶしぶ思う彼だった。


―――強い、強すぎるッ!!なぜ、君と僕たちでここまでの差があるんだッ!!―――綺麗な騎士、木場祐斗

彼は自分たちとの差を垣間見て、苦虫を噛む。


ちょっと調べさせろ、イッセーセカンド―――マッド・サイエンティスト、アザゼル

どこの世界も彼の探求心は同じなのだろう。


お前、誰なんだよ!?やっぱり最近の事件は全て、お前の仕業なんだろ!?―――おっぱいドラゴン、兵藤一誠

仲間のために自らを省みない子供たちのヒーローは、ただ目の前の謎に挑む


俺、か・・・じゃあ今はこう名乗るぜ―――オルフェル・イグニール―――赤龍帝、オルフェル・イグニール

取り戻したその名前と共に、彼はある意味でタイムスリップを果たす



―――それは突如起きた非日常。

―――あり得るはずもない共演。

―――だが、それは決して共演などではない。





壊す・・・壊す壊す壊す壊すkkkkkkkkkkkkk―――ぐぁぁぁぁぁああああああああ!!!!―――闇色の鎧を纏う男

・・・その闇は今まで見たどれよりも黒く、おぞましいほどの黒だった。


―――あの人を、倒してください。そして・・・助けて、くださいッ!!―――謎の女性

彼の前に現れた謎の女性は、悲痛な願いを彼にぶつける。



―――すげぇ・・・すげぇよ!!あんたは何があってもあきらめず、絶対に守る!!なら俺もあんたを見習うぜ!!だから一緒に戦おうぜッ!!!―――真紅の赫龍帝、兵藤一誠

―――お前のその馬鹿さ加減を少しは見習うことにしたよ―――それを踏まえて、あいつをどうにかするぞ!!―――紅蓮の守護希龍、兵藤一誠


―――二人の兵藤一誠が交わるとき、戦いは終焉へと近づく。



―――突如現れる闇の存在。

―――それにより街は危機に侵される。

―――だけどそれに立ち上がるのは決まって



―――ヒーローだ。

『平衡世界のダブルヒーローズ』―開幕―




「・・・でもなんかさ、俺はあいつを本当の敵とは思えないんだよな。ほんと、なんでかしらないけどな」





―――これはあり得たかもしれない、可能性の物語である。







兄龍帝?全てを守る守護覇龍?―――うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんん!!!!!!!どうしでぇぇ!!どうしてお前が俺の相棒じゃないんだぁぁぁぁ!!!!―――乳龍帝・ドライグ


お、おっぱいドラゴン、だと・・・ふざけるな、二天龍にそんなふざけた名前の者などおらん!!認めんぞ、俺は何があろうとぉぉぉぉ!!!!―――父龍帝・ドライグ


・・・性欲のゴミです。主様と同じにしてもらっては困ります、死んでください―――創造のマザードラゴン、フェルウェル


―――――――――格の違いに、ドライグは泣いた。

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