ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
「我、目覚めるは―――」
『さあ、行こう!』『前に進もう、兵藤一誠!!』
歴代の先輩たちの、活気づいた声が響く。
前の呪文の時のような悔やむような言葉も、憎しみも、今はもうなかった。
「優しき愛に包まれ、全てを守りし紅蓮の赤龍帝なり!」
『そうだ、全てを守るが貴殿らしい!』『守護こそ、本懐!』
紡ぐ、俺だけの呪文を。
随分と遠回りしてしまったのは俺が弱かっただからだ。
「無限を愛し、夢幻を慕う―――!」
『嗤うのはもう止めた!!』『憂うのなど詰まらない!それを私たちはあなたに教えられた!』
無限の龍は俺の大切で、夢幻の龍は俺に大切なことを教えてくれた。
それだけじゃない。
「我、森羅万象、いついかなる時も―――」
『そう、限界などない!』『それはあなたがずっと証明した!』
……俺は色々な人に支えられて、でもそれを心から信じて身を任せていなかった。
―――そんな自分を、もう卒業する。
「笑顔を護る紅蓮の守護龍となりて―――!!」
『ああ……行こう。全部守るために―――行こう、兵藤一誠!!』
つまり俺の言いたいことは一つ。
ってかもう言ってるよな。
……行こう、全てを護るための第一歩を踏むために!
「「「「「「「汝を優柔なる優しき鮮明な世界へ導こう―――ッ!!!」」」」」」」
「『これが俺の出した答えだ!!』」
―――それは紅蓮だ。
俺は紅蓮に包まれ、何かを装着していく。
紅蓮の鎧……だけどそれは覇龍ではなく、禍々しいものじゃない。
鮮やかな紅蓮。
包み込むように俺の全身に鎧が纏われていく。
俺の両手には宝玉が幾つも埋め込まれた、鋭角なフィルムの赤龍帝の籠手が装着されており、胴回りには薄い鎧。
必要最低限の鎧が解除されて、兜も消え去っていた。
まるで騎士のような軽装で、でも圧倒的な防御力を俺は感じている。
―――何でも出来る。
何だって……守れるッ!!
『Juggernaut Guardian Drive!!!!!!!!』
―――その音声と共に、鎧からは辺り全体を覆い尽くすように紅蓮のオーラを噴出させていた。
周りには知らない間に赤いドラゴンがおり、それは俺と赤い糸のようなもので繋がれている。
……さっきまで倒れていたのに、力が溢れている。
『あ、相棒……?な、何が起こっている?相棒は奴によって、砕かれたはずでは……それにこの姿は、一体……』
『あ、主様!何が起こっているのです!?それに周りの赤い龍!あれはまさしく!!』
「―――ああ。俺の覇龍だよ」
―――心の奥から困惑するドライグとフェルを安心させるために、俺はそう言った。
『何故―――何故貴様が立っているのだぁぁぁぁあああ!!!!』
……すると、フェンリルの姿をしたロキが、そう叫んだ。
まあそうだよな。
あそこまで瀕死になっていた奴が、いきなり生き返って自分の邪魔をしているんだ。
そりゃあ焦って、怒鳴りつける気持ちも分かる。
「……アーシア、ありがとう。アーシアが俺を癒してくれたんだろ?」
「イッセー、さん?」
俺は傍にいるアーシアの頭をそっと撫で、笑みを浮かべる。
「いつもありがとな!―――ごめんな、一瞬でも諦めて」
「……ッ!!い、イッセーさ」
「はい、涙を流すのはそこまでだ!」
泣きそうになるアーシアの頭を更に撫でまわすし、俺は泣かせないようにする!
アーシアの涙なんてもう見たくない。
俺は……笑顔にするんだ。
「大丈夫。俺はもう自分を見失わないし、迷わない―――俺の大丈夫は、本当に大丈夫だからさ!!」
「―――はい……ッ!!はいッ!!!」
アーシアはくしゃくしゃな顔で、でも笑顔を作ってそう頷いた。
「―――ロキ。言っとくけど、今の俺は負ける気がしない」
『黙れッ!!今の貴様はただ軽口を叩けるだけだ!!動けるものか!!』
ロキはそう言うと、すぐさま自身の前の巨大なドラゴンを乗り越えて他の皆を襲おうとした。
「―――来てくれ、守護龍!」
……俺がそう言霊を漏らすと、部長たちを襲おうとしていたロキの動きが再び止められる。
―――そこには、新たに生まれた赤いドラゴンがいた。
足元には魔法陣が描かれており、それは俺が生み出したもの。
『こ、これは―――まさかグレートレッドの力が含まれている?そうか、夢幻の性質と赤龍帝の性質、そして相棒の想いが一つになって生まれたこの力は―――』
「そう―――
……それが俺の出した答え。
全てを護る、護るための覇龍だ。
「随分、ドライグにもフェルにも迷惑をかけたよな―――ごめん、もう迷わないから。だから、俺と一緒に戦ってくれ!」
『…………俺も、ダメだな。一瞬でもお前のことを疑ってしまうなど―――そうだなッ!相棒が、こんなところで終わるはずがないッ!!!』
『ええ、ええッ!!わたくしたちは共に永遠に戦い続けますッ!!何があろうと!!』
……じゃあ、証明しよう。
「さぁ、行こうぜ―――ドライグ、フェル!」
俺はロキの方に走っていく。
速度は特に速くはない。
だけど肩の力が抜け、体が嘘のように軽かった。
『貴様がいなければ―――だが我を止めることは出来ぬ!何があろ』
ロキの言葉が最後まで続くことはなかった。
なんたって―――俺のよって殴り飛ばされたからだ。
こいつは油断している。
鎧が軽装になり、俺が脆弱になったと。
だけどな、違うんだよ。
俺は自分の身を包む殻を捨てて、皆を守るために使っている。
―――俺は殻を破ったんだ。
その殻を破ったこの拳が、力が……弱いはずがない。
「言っただろ?もう負ける気がしないって」
『ならば―――貴様の仲間を全て殺してくれるわぁぁぁ!!!』
ロキは自分の影から無数の魔物を生み出し、それを放った。
魔物はあらゆる方向から仲間たちを殺そうと動く。
「だから言っただろ……紅蓮の守護覇龍は、護るための力だって」
……だけどそれは叶わない。
何故なら俺の生み出した赤いドラゴンが全ての魔物の攻撃を受け止めていたからだ。
魔物はまず赤いドラゴンをどうにかしようと攻撃するも、当のドラゴンは動じない。
……紅蓮の守護覇龍は、俺が怨念を受け止め、グレートレッドの力を貸してもらって初めて発現した力。
ほんの少しの夢幻の力を赤龍帝の倍増の力で倍増し、俺の思い描く守護のカタチにした。
それが―――ドライグの姿をした守護龍。
そして夢幻の力は俺が諦めない限り、夢を抱き続ける限り消えない!!
『な、なんなのだこれは!?ふざけるな!!』
ロキは周りを殺すことを諦めたのか、単身で俺へと向かってくる。
「……今なら、お前も使いこなせる気がする―――俺と一緒に戦ってくれ、ミョルニルの小槌」
俺は右腕に装着されている紅蓮の籠手にそう問いかけた時だった。
―――迸る、あり得ないほど綺麗で威圧感を放つ雷。
腕は羽根のように軽く、俺の腕に雷が覆った。
「……アスカロン、俺の想いに応えてくれるよな?」
更に左手にあるアスカロンを引き抜くと、アスカロンから莫大な聖なるオーラが噴出した。
俺は背中に生える誇り高きドラゴンの翼を靡かせ、空を駆ける。
『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?!??!』
俺はアスカロンと速度でロキに光速の斬撃を連続で加え、そして―――
『Boost!!!!!!!!!』
激しい倍増の音声が鳴り響き、一気に力が湧くッ!!
勢いのままロキへと蹴りを放ち、そしてロキはそのまま空中に浮く!
「放て……ッ!!神の……雷!!!」
俺は右腕を振り下ろすと、雷が宙に浮くロキへと放たれるッ!!
ロキはそれを防ぐ術はなく、ただ雷が直撃した。
バリリリリリリリリリリリリリリィィィィィン!!!!!!
……激しい雷撃音と、激しいロキの叫びが辺りを覆った。
『何故、だ……何故、貴様は……こうも、我の邪魔が出来る……ッ!!』
巨体を何とか起こし、傷だらけのロキが立ち上がる。
フェンリルの眼は俺へと向けられており、俺はその視線を捉える。
……まだ、諦めていない目だ。
「……お前のその執念深さ、諦めの悪さは素直にすごいと思うよ」
……俺は一度、諦めてしまったから。
こいつは一人でも諦めない。
「……でも俺が諦めないのは、仲間がいるからなんだ。仲間が俺を信じて、こうしてずっと守ってくれていた。だから俺は―――諦めないんだよ」
『だま、れ……集まっていなければ何も出来ない輪の力如きで、この神が…………降されてたまるかぁぁぁあああ!!!!!』
ロキは決死の覚悟というように、ドシンドシンと足音を鳴らしながら向かってきた。
……俺は即座に守護龍を思い浮かべる。
―――仲間を一か所に集めてくれ。
そう念じた瞬間、守護龍は俺の後ろに皆を抱え、光速で移動した。
「……ロキ。お前は絆を肯定していると言ってたな」
ロキが応えずとも、俺は語り続ける。
「―――だけど、信じている割にはさ…………お前、一人ぼっちじゃねぇか」
……もう終わりにするよ。
『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』
……鳴り響くのは赤龍帝の倍増の音声。
だけどそれは俺の元からではなく、皆を護っていた守護龍からの音声だ。
守護龍は魔物の攻撃から皆を守っていたから傷だらけで、その傷が誇り高い。
護るために刻まれた傷……その傷、痛みを俺が晴らしてやる。
「ど、ドラゴンが……赤い光塊になっていく?」
祐斗がそう言葉を漏らした。
……皆を守っていたドラゴンは赤い光となり、そしてその光は俺の元に集まる。
―――護るためには敵を倒す力がいる。
護るのに誰かを傷つけなければならない……それは確かに矛盾だ。
覇が嫌いなのに、護るためには覇がいる。
俺の力は確かに矛盾だ。
だけど―――その矛盾を俺は受け入れたんだ。
紅蓮の守護覇龍は、そんな俺の想いを具現化したもの。
仲間を護る守護龍は戦わず、ただ皆を護るんだ
傷ついても、傷ついても。
ただ護りたいから、護る。
「……護る龍と、護る力―――それが紅蓮の守護覇龍の答え。大切なものを護るために、その脅威を取り除く圧倒的な力を纏わせる力」
守護龍の光は全て俺の中へと入っていき、そして…………
突如、俺を覆う激しい紅蓮のオーラ。
弾け飛ぶようにバチバチと音を鳴り響かせ、俺は構える。
……体の負担は、ある。
だけどそれ以上にさ―――体が軽いんだ。
だから…………何でも出来る!!
『Guardian Drive Boosting Explosion!!!!!!!!!』
―――守護覇龍の爆発的力を解放し、俺は動いた。
その音声と共に俺の籠手は三周りも大きくなり、ロキに一瞬で近づいた。
『これは―――』
『ああ、こいつは―――完全なる赤龍帝の力との融合だよ』
俺の声はくぐもった声になる。
俺の声と、オルフェル・イグニールの声が重なったような声。
俺はロキの顎から拳を殴り上げ、更に雷を含ませた右腕でストレートを放つッ!!
それによりロキは再度空中に浮くも、ロキは魔法陣を描いてそこから魔物による弾丸を放った。
『そんなもの、俺たちには利かない。魔物だろうが、神様だろうが―――俺の大切を傷つけるのなら、ぶっ潰すッ!!』
俺はそれを全て極大の拳で蹴散らすと、宙に浮かぶロキの傍で拳を握りなおす。
『―――だからここがお前の……ラグナロクだ!!!』
『―――ッッッッッッ!!!!?!!?』
ロキはその違和感に気付いたように空中でくるっと一回転し、俺から背を向ける。
そして逃げるように魔法陣を描く。
『こんなところで、我が消えてしまうかッ!!貴様のような化け物に―――』
ロキはすぐさま逃げようとした―――が、それは叶わなかった。
それを邪魔したのは俺ではなく……こいつが馬鹿にし続けた、俺の仲間だった。
「逃がさないですわ!!」
「ここまでのことをしておいて、逃げれると思うなッ!!」
朱乃さんとバラキエルさんが雷光を放ってロキの動きを止め、ロスヴァイセさんが魔法陣を展開しロキの魔法陣に干渉。
更に他の皆が莫大な魔力弾を放ち、魔法陣は壊れた。
『……はぁぁぁぁぁあああ!!!!!』
俺は動きの止まるロキの目の前に移動し、そして―――その顔面を全力で殴り飛ばした!
ロキはそれにより怯み、そして俺は瞬時に後方に移動し―――両手の手の平をロキに向ける。
俺の纏う紅蓮のオーラを全て両手の平の前に集める。
目の前には綺麗な紅蓮のオーラが球体となって集まり、そしてそれは宙に浮かぶ。
『―――
―――俺はそれを殴りつけた!
球体にはヒビが生まれ、そして…………次の瞬間、超極大の赤い魔力砲が放たれた!!
今までの俺の放ってきた魔力砲のどれとも比べることの出来ないほど、強力な一撃!
白銀の流星群よりも極大で、明らかな破滅力を持っているッ!!
それほどに守護龍の負った傷は大きい。
……守護龍を傷つけたつけは払ってもらうぜ。
―――次第に紅蓮の魔力砲は守護龍の形となってロキに向かって行き、そして
『う、そだ……ここまで、穢れ、くつじょくを、味わったという、ものを―――聖書の神よ……何故、貴殿は、こんなものを創った…………そうか、貴殿は……こうなることを初めから分かって……』
『…………ああ、そうかもな。だからお前はここで終わる―――神滅具は神を滅ぼす。それが―――お前の終焉だ』
そして―――ロキは紅蓮の一撃に飲み込まれ、倒れたのだった。
―・・・
『Side:木場祐斗』
―――本当に、どうしてイッセー君はこうも優しいんだろう。
僕たちはイッセー君の力を目の当たりにして、ただ茫然とその綺麗な紅蓮の様を見ていることしか出来なかった。
僕たちを護る紅蓮の龍、そしてロキと最終決戦に望み、そして……今しがた、それを倒したイッセー君を。
そのオーラ、力は最上級悪魔すらも超えている。
正に―――二天龍。
それを今の彼は、彼らしい力で体現していた。
紅蓮の守護覇龍。
それはイッセー君にぴったりの力で……何より今のイッセー君にはもう迷いがないように見えた。
活き活きしている……それも合っているけど、僕はこう感じた。
「……ただいま、皆!」
―――これが、イッセー君の本当の笑顔だと。
イッセー君は薄い鎧のような装甲を身に纏った状態でそう言うと、満面の笑みでそう言った。
その表情は晴れやかで、安心できて……僕の瞳から涙が出て来た。
僕は、嬉しかった。
一体、あの一瞬で何が起きたのかは分からない。
……でも、今はこの言葉を掛けよう。
―――ありがとう、と。
僕達はそう言って、イッセー君を笑顔で迎える。
…………その時。
――――――夜が明けたように、朝焼けの太陽が僕たちを照らしたのだった。
―・・・
『Side:三人称』
深い森の中、ただ一人、這いつくばるように移動する歪な少女がいた。
「ふふ、うふふふ……ッ!!すごい、お父様を倒すなんて……素晴らしいわ、素晴らしいわ!!!!」
……傷だらけの様子で、ただ歪んだ笑顔を浮かべる悪神ロキの娘、ヘル。
つい先程まで赤龍帝・兵藤一誠とその仲間たちと戦っていた魔物だ。
―――そんな彼女だが、実は自身の父が倒されたことに喜んでいた。
「あんな素敵な殿方、初めて……そう、彼を食べたい……!彼を、兵藤一誠をこの身に宿せば、どれほど幸せでしょう!!うふ、ふふふふ!!!」
……それは歪んだ感情だった。
「その、ためにも……ゴホッ!!……早く死んで、生き返らないと……」
ヘルは歪んだまま、森を抜けるとそこには湖があった。
………………しかし―――
「あ、やっと来たんだぁ~~~……待っていたよ?泥棒猫さん♪」
―――そこには、真っ黒なマントのような布に身を包んだ少女の姿があった。
その胸元には機械的なデザインのネックレスが飾られており、口元だけが歪んで見える。
「……あなたは何?それに泥棒猫って……」
「え?泥棒猫でしょ?―――だって、私の物を奪おうとするんだからね♪」
……ヘルは、ぞくっと背筋が凍る。
彼女は今、命の危険を察知したのだ。
死んでも蘇るヘル―――そんな彼女が初めて感じた、死への恐怖。
「でも私、今凄く機嫌が良いんだぁ~♪だから二度と彼の前に現れないことを約束するなら、ここは見逃してあげても良いよ?」
「―――ふ、ふざけないでッ!!そんなこと、私がするわけ」
「―――へぇ……そっか」
黒いマントの少女は、カツッ……一歩、ヘルに近づいた。
「ねぇねぇ、アルアディア……こいつ、私の良心を踏み躙ったよ?」
『そうね……ま、どちらにしても消すのでしょう?』
……胸元に輝く機械に埋め込まれた宝玉から、音声が鳴り響く。
ヘルは動けなかった。
何故なら―――自身の周りに、黒い霧のようなものに包まれていたからだ。
「わ、私は死んでも死なないわ!!だからお前なんて、直ぐに生き返って―――」
「あ、ごめんね?私の
『Force』
……静かな音声が森を包む。
その瞬間、黒い霧は一瞬で少女の手元に集まる。
「そう、例えば―――あなた、もう実は終わっているんだよ?」
「何を言って―――」
……ヘルはその時、初めて気付いた。
―――自身の体の半分が、ない事を。
傷口はない。
ただ―――存在そのものが、消失しているような感覚だった。
「あなた、死んだら蘇るんだよね?でも残念~♪」
『Demising!!!』
……その音声と共に、黒い霧は何かを形作る。
それは―――何色にも染まらない、黒い鎌だった。
実際には黒の中に金色が混じった黒金の鎌。
それを少女はヘルの首元に添えた。
「―――これはね?死じゃなくて……終焉なの」
「やめ―――」
……その願いは叶うことはない。
少女はその鎌をまるでナイフでステーキを切るように容易く……振るった。
「……だぁ~め♪」
……ヘルはそのまま―――どこにもいなくなった。
「ふぅ~……ふふふ、ダメ、にやけるのが止めらない♪」
『……そう、そういうこと―――思い出したのね?』
「うん、そうだよ。アルアディア」
少女は笑いながら、頭まで被っているマントを、頭の部分だけ脱ぎ去った。
「―――オルフェル・イグニール……ううん、イッセー君は私のものなんだから♪だから……早く一緒になりたいね♪」
『……ああ、そうだね―――ミー』
少女が脱ぎさったと共に風が吹き荒れ、少女のさらさらとした茶色の髪が靡く。
―――その愛称を知る者など一人しかいなかった。
『Side out:三人称』
「終章」 おかえりなさい
……俺は気付くと、草原にいた。
草原の真ん中で、寝転んでいる俺。
……そっか、俺はあの戦いの後、限界を突破して倒れたってわけだ。
そりゃそうか。
危険性はなくなったとはいえ、紅蓮の守護覇龍を満身創痍の状態で使ったんだからな。
……さて、ここにいるのはきっと―――あいつだな。
「―――なんだよ、ミリーシェ」
「あ、ばれてた?あはは!」
……するとひょっこりと姿を現すミリーシェ。
俺は立ち上がり、ミリーシェと対面した。
「まず最初に―――頑張ったね、オルフェル。私達が振り回された力を昇華させるなんて……」
「それもこれもお前がいたからのようなものだけどさ……な、ミリーシェ。少し教えて欲しいことがあるんだ」
「うん、いいよ♪オルフェルの聞くことなら、何だって応えてあげる!!」
ミリーシェは胸を張ってそう言うと、俺は尋ねた。
「……俺さ、この世界で
俺はミリーシェに疑問をぶつけた。
俺はエリファ・ベルフェゴールというミリーシェの生前の姿をした人と出会っている。
そしてミリーシェは今回の件で俺の前に姿を現している。
「……まあ、オルフェルは鋭いから気付くよね~♪」
そう言った時だった。
―――ミリーシェの姿が、薄くなり始めていた。
「み、ミリーシェ?おい、お前、なんか―――」
「当たり前でしょ?だって私は
……残留思念。
それは俺の中にいた怨念と同じような存在で、それの指す意味は…………未練。
「そう。私はオルフェルを一人ぼっちにしてしまった後悔から、残留思念として微かに白龍皇の宝玉の中にいた。アルビオンですら、私の存在に気付かないほど微弱に……」
「それがグレートレッドの力で強くなって……」
「うん。だからオルフェルが前に進んでくれたから、未練はなくなったんだよ」
……ミリーシェはすっきりしたような顔をしながら、でもどこか悲しそうな顔をする。
「……消え、ちまうのか?」
「うん。だってそんな顔のオルフェルを見てたら、もう……ね?」
「……俺の知ってるミリーシェは、そんな簡単な女じゃなかったぞ?なんたって嫉妬の化身なんだからな」
「むぅ~……人を化け物みたいに言って!」
軽口を挟む俺たち。
……だけどミリーシェは確実に存在が希薄になっていた。
「……私達の問題って、実は全然解決してないんだよ」
「ああ」
「―――私は確かに存在してる」
……ミリーシェは決心をするように、そう宣言した。
「憶測だけど、たぶん私たちを引き裂いた存在は私を幾つかの要素としてバラバラにしたの。だから私そっくりな存在がいたり……私の残留思念が残っていたり、ね」
「……そっか。通りで、ずっと俺のことをオルフェルって呼ぶわけだ」
俺はミリーシェの言葉で、違うことが分かった。
このミリーシェは彼女の言う通り、残留思念でもあるだろう。
だけどそれ以上に―――
「お前の要素は残留思念じゃなくて―――たぶん、記憶……だよ」
「……記憶?」
「ああ。記憶……俺たちの大切な記憶だ。記憶の中の俺はオルフェルであり、兵藤一誠ではない。だからミリーシェはずっと俺をオルフェルって呼んでいるんだ」
「……ああ、なるほど!そっか……私は、記憶だったんだ」
……俺とミリーシェの存在はこの世界から抹消された。
オルフェル・イグニールとミリーシェ・アルウェルトは初めからこの世界にいなかったことになっている。
……そっか、こいつは大掛かりだ。
明らかに―――何か、でっかい影が隠れているんだ。
「ホント、許せないよな―――だけど俺は諦めないぞ?せっかくミリーシェとまた会えるって思ってたのに、これでさよならは嫌だからな!」
「……たぶん、私達の想像を絶するほどの敵が、まだ潜んでいると思う。そいつは私達を見て、たぶん笑っているんだよ」
「……俺たちを玩具みたいに壊して、また直して壊そうとしている、か―――上等だ」
……ならそんなことを俺はさせない。
俺たちをどうにかしようってもんなら―――俺が逆にそいつをぶっ倒してやる。
「……俺はさよならなんて言わないぞ?もしミリーシェの推測が正しくて、お前の欠片がバラバラになっているのなら―――全部集めてやる」
……エリファさんに関しては、どうとも言えないけどな。
まあ俺が好きなのはミリーシェの容姿じゃなくて、ミリーシェという存在だから。
「……うん。だから私は安心できるんだ♪」
ミリーシェの姿が……なくなる。
届くのは声だけで、ミリーシェは光になって―――消えていった。
「ああ、きっとまた―――会えるさ」
俺はそう呟き、そのまま目を瞑る。
……そろそろ起きて、帰らないとな。
俺を待ってくれている人がいるんだし。
「……サーゼクス様。俺、何となくわかった気がするよ。あの時、貴方が言っていた君にとっての幸せって―――」
ホント、あなたと同じだったってことを。
―・・・
『Side:アザゼル』
「……何とかなったようで正直安心したぜ」
「まあそうだね。だが……正直なところ、私も驚きを隠せない」
俺、アザゼルはサーゼクスと対面しながら会話をしていた。
事の次第……って言っても、俺も実際にこの目で見たわけではない。
だが結果として―――ロキは降され、北欧にてしかるべき処置を受けることになったんだ。
だが問題はその過程だ。
「……紅蓮の守護覇龍、か―――彼はようやく真の赤龍帝になれたと考えても良いのかな?」
「ああ、それで問題ねぇ。実際に見たガブリエルとバラキエルが口を揃えてあいつを褒め称えてたんだ―――過去未来現在、覇龍を昇華させた奴なんていねぇよ」
……実質、イッセーはロキを二度も倒したそうだ。
一度はロキ単体を、あいつの持つ全ての力を用いて。
二度目は禁術を用いて子フェンリルとヘルの肉体の一部と融合した、実質的な強さは跳ね上がったはずのロキを、先ほど言ったあいつの覇龍を使って。
……これは凄まじいことだ。
正直、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。
確実に犠牲が出ることを覚悟していてのこの作戦だったのに、蓋を開ければこちら側の死者はゼロ。
―――いや、実際にはイッセーは死の淵に立ったそうだが。
「彼は……今はどうしている?」
「今は駒王学園の保健室で眠っている。なんでも、傷はアーシアとヴィーヴルの癒しパワーでなんとかなったそうなんだが、予想以上に守護覇龍ってのがあいつの精神と体力を削ったようでな」
「だが神を倒すその力―――まさに二天龍、というところか」
……神を滅ぼすことの出来る神器、それが神滅具と呼ばれる力だ。
ロキは確かに生きてはいる―――だけど、殺すことも出来たんだ。
つまりイッセーは神滅の境地に手を伸ばせるほどの領域に足を踏み込んだってことだ。
赤龍帝の怨念を晴らし、昇華した紅蓮の守護覇龍。
あいつらからも話を聞いたが、どうやらグレートレッドやらの力が関連しているらしい。
……つくづく、あいつはドラゴンに気に入られるな。
それだけじゃねぇか。
あいつはドラゴンに限らず、色々な人種を惹きつける。
それは味方のみならず、時には敵すらも。
「だが問題はまだまだあるぜ―――何せ、経緯はどうであれあいつは神を降したんだからな」
「…………」
サーゼクスは無言で頷く。
―――そう、あいつは結果的に自身の力のみで奴を倒した。
それまで仲間の援護はどうであれ、最後は皆を護ってロキを倒したんだ。
……それを高が下級悪魔がやった。
これは神の間でもすぐに伝わる。
んでもって、神って奴らは好戦的な奴が多い。
神をも倒す下級悪魔、と知れば興味を持ってイッセーに接触するという可能性も拭えない。
……つまり、大きな権力であいつを護る必要があるんだ。
―――っと、サーゼクスは微笑んでいた。
「アザゼル。私は前、彼がガルブルド・マモンとの一件で話さなかったか?―――彼が上級悪魔になるための条件を」
「ッ!?…………なるほど、そういうわけか」
要は、今回の一件で兵藤一誠という存在の重要性は悪魔側も重々理解したってことだ。
神を倒す可能性を秘めた下級悪魔、しかも倒したことでどうしても権力による保護が必要になってくる。
悪魔サイドの手の内に収めておく意味合いと、神があいつに対して宣戦布告しないがための保護……ああ、確かにこれなら上も説き伏せる事も難しくないはずだ。
それに何より、神の進撃……特に狡猾で厄介な悪神ロキを下したのは大きい。
「今、リアスや眷属で今回の件をまとめている。その報告書が仕上がり次第、私は上に掛け合う予定だ」
「やけに急ぐな、サーゼクス―――って、そっか。お前は」
俺は納得した。
それは俺も同じこと。
単純に……
「……あいつが王として戦うところを見ていたい、ってとこか?」
サーゼクスは何も言わず、微笑みを浮かべるだけだった。
―・・・
……俺が目覚めて最初に見た光景は駒王学園の保健室の天井だった。
時刻は既に7時を回っていて、日付は変わっていない。
ただ体が異様に重い……たぶん、守護覇龍の影響か?
それ以上に昨日の戦闘が響いているんだろう。
……俺は状態を起こした。
するとそこには―――
「……すごい光景だな、おい」
……パイプ椅子に座り、俺のベッドにもたれ掛かって眠っているアーシア、リアス、朱乃さん、ヴィーヴルさん。
更に地べたにはダンボールの中に入って眠っているギャスパー、壁にもたれ掛って眠っている祐斗。
更にベッドの上では小猫ちゃんが俺の裾をキュッと握って眠っており、夜刀さんがその場で胡坐をかいて眠っている。
俺の隣のベッドでは匙が眠っており、その傍には会長。
ゼノヴィアとイリナは保健室のソファーの上で眠っていて……っという風に凄まじい人口密度だ。
……そうか、戦いが終わったんだもんな。
つい先日まで、死ぬ思いをしながら戦っていたなんて、嘘みたいなほど平和だ。
「……うん、出来る限り皆を起こさないように……」
俺は恐る恐るベッドから這い出て、近くに掛けてあったブレザーを着る。
戦いで衣服が破れたりしてたから、新調したのかな?
「……ふぅ―――護れた。ホント、すごい回り道したけどようやく……だな」
俺は保健室の扉の方に歩く最中、天を仰いでそう渋々思った。
……あの時、父さんと母さんと向き合っていなければ俺は今回の戦いで死んでいただろう。
自分のことを仲間に話していなければ、そもそもミリーシェは俺の前に現れなかったのかもしれない。
紅蓮の守護覇龍もそもそも奇跡みたいな偶然が重なって生まれた力で、俺一人ではどうすることも出来なかったものだ。
……ありがとうな、ドライグ、フェル。
『案ずることはない。我らは相棒と共に進むと決めたのだからな』
『それが邪道であろうと、王道であろうと、修羅道であろうと……この心は、想いは主様と一緒にあるのですよ?今回の無茶ぶりに関しては後日、改めてお説教をしますが』
……ああ、今度何があったかを全部話すよ。
俺はそう思い、室内から出ようとした―――その時だった。
「歩くにはまだネコストップをかけるにゃん♪」
「……ネコストップってなんだよ」
俺は後ろから話しかけられ、振り返る。
そこには身体中に包帯や湿布などで処置された黒歌がいた。
「ま、アーシアちんが限界に近いし、それに私は仙術で自然治癒を促進できるからねぇ~」
「そっか」
俺は黒歌の言葉に安心して、その頭をそっと撫でた。
「………………ね、あの時からずっと思っていたんだけど―――イッセー、何か変わったにゃん?」
「あの時って……ああ、紅蓮の守護覇龍を使ったときか」
俺は黒歌の言葉の意味を理解した上で、黒歌に返答する。
「変わったかと言われれば、正直何も変わっていないぞ?ただ―――まあ、今は何でも出来る。そんな気がするだけだ!」
「………………なんか、やっと一つ肩の荷が降りたって言うべきにゃん」
黒歌はそう言いながら微笑み、俺の肩に手を置いた。
すると途端に肩から温かいオーラを感じ、俺はそれを仙術と理解する。
「いつものことだけど、お世話になるな。黒歌の仙術」
「むふふ~、イッセーのしたことに比べれば大したことないにゃん♪」
黒歌はそういうと、俺を抱き寄せる。
……その肩は震えていた。
「……後で、たぶん他の皆からも言われると思うにゃん……ッ。だから、先に言っておく―――私、言ったにゃんッ!自分が死のうとしないでって!!」
「……ああ、あとで全部受け止めるよ」
……また泣かしてしまった。
俺ってつくづく最低だよな―――だけど、最低のままではいたくないな。
俺はそう思い、黒歌を強く抱きしめた。
「……大丈夫。俺はここにいる―――な?前にも言ったけど、俺の大丈夫は」
「―――説得力がある、にゃん……うん、ホントにその通りにゃん」
黒歌の肩の震えは消え、俺は抱きしめるのを止めて黒歌の頭をポンポンと撫でた。
「……さて、俺は先に帰っているよ」
「うん。皆が起きない内に帰った方が良いにゃん。あ、それとヴァーリが伝えて欲しいことがあるって」
すると黒歌は苦笑いをしながら、そして―――
「『全く、君はいつも俺を振るい立たしてくれるッ!!まさか覇龍を昇華し、更に神を倒すほどの力を見せつけてくれるとはッ!!流石は我がライバルだ!!!ならば俺も相応まで力をつけて、君に再び挑戦することを誓おう!!君と俺は友達ということだが、友なら決闘位しても良いだろう!?』……っということをつらつらと聞かされた私の身にもなれにゃん……」
「……あいつ、なんか敵って感じが一切しないよな」
黒歌が肩をガクリとおとすのを見て、俺は同情するのだった。
……あいつ、本当に祐斗と同じ道に進もうとしないよな?
俺、男にモテるのは却下だぜ?
……俺は真摯にそう思いながら、帰路へとつくのだった。
―・・・
……俺は家の前に到着し、玄関の取っ手に手を添えた。
………………正直、ここにこんな風に帰ってこれるとは思わなかった。
治療でだいぶ体がマシになったとはいえ、今は歩くのが精いっぱい。
今すぐにでも横になりたい気分だ。
…………でも俺は、早くこの家に帰らないといけない。
だって約束したんだからさ。
父さんと母さんと。
「……はは。何自分の家に緊張してるんだよ―――いつも通り、ドア開けたら待ってくれてるんだろうな」
その光景が容易に想像できて、俺は肩の力を抜いて。
そっとドアノブを捻り、家に入った。
「―――ほら、言ったでしょ?ケッチー……イッセーちゃんは絶対に戻ってきてくれるって」
「―――分かっていたさ。俺たちの可愛い息子が、俺たちを置いて帰ってこないはずがないだろう?」
……ドアを開けると、そこには既に父さんと母さんがいた。
二人は心の底から俺の顔を見て安心したような表情となり、ホッと一息ついていた。
……ホント、この二人には心配させっぱなしだよな。
だからこそ、今度たくさん謝ろう。
だけどそれはまた今度だ。
今はただ、満面の笑みで、屈折なんてない想いでこれを言わないと。
「―――ただいま。父さん、母さん!!」
「「―――おかえりなさい!!!」」
俺の言葉に父さんと母さんは満面の笑みで、そう応えてくれた。
―――本当に右往左往の日々だった。
精神が乱れまくりで、色々な人に支えられて…………でもやっぱり前に進めた一番のきっかけはこの二人だ。
俺の大切で大好きな、父さんと母さん。
そうだな、この二人とはまだまだ一緒に居たい。
…………サーゼクス様。
俺、分かったよ。
あなたが体育祭の時、俺に言ってくれた言葉の意味。
幸せの意味。
さっきはあなたと同じ意味って思ったけど、でも俺の心からの気持ちを言うよ。
俺にとっての幸せ。
それは守護覇龍の呪文の中にも入っていた言葉。
…………大切な人の笑顔を護って、それでさ…………
―――自分も笑顔で生きていきたい。
……それが俺の幸せだ。
今は心からそう思った。