ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第15話 砕かれる希望、生まれる奇跡

 無理をしている自覚はあった。

 この身を犠牲にしてでも奴を倒すと決めた。

 最後まで戦い抜く……それはドライグにもフェルにだって譲れないこと。

 たぶん、それは彼女も理解している―――理解している上で、俺は頬を叩かれた。

 

「こんなに酷い傷でッ!!どうしてもっと早く私を頼ってくれなかったんですか!?イッセーさん……ッ!!」

 

 ヴァーリに押し出され、俺はアーシアと共に剣によるシェルターの中にいた。

 ご丁寧なことに中から外は見えないようになっており、感覚で外には防御魔法陣を展開しているんだろう。

 ……そこで俺は最初に傷をアーシアに見られ、頬を叩かれた。

 鎧で隠していた俺の傷は致命傷こそないものの、確実に命を削るレベルの傷だった。

 

「……アーシアに怒られたのは、これが初めてかもな」

 

 でも俺は何故か嬉しかった。

 当然叩かれたことが嬉しいわけじゃなくて……ちゃんと怒ってくれたことが、何でか無性に嬉しかった。

 アーシアは俺を癒すため碧色のオーラを照らしながら、涙を溜めながら怒り続けた。

 

「イッセーさんはいつもそうですっ!一人で無理して頑張って、怪我をして!満足そうな顔をして……ッ!!」

「……今の俺って、そんなに満足そうな顔をしているのか?」

 

 俺は軽口を叩くように薄く笑みを浮かべながら、そう呟いた。

 ……満足なんてしていない。

 現にまだロキは健在で、大きな傷を負わすことは出来たけどまだまだ戦いは終わっていないんだ。

 

「……でも、そんなイッセーさんだから好きになったんです―――だから、心配させないでくださいね」

「あはは…………それは難しい相談かもな」

 

 涙を浮かべながら満面の笑みを浮かべるアーシアに、俺は苦笑いをするしかなかった。

 俺の傷はアーシアの力により確実に癒えてゆき、血は止まる。

 ……俺はそこでアーシアの顔を見た。

 

「…………人のこと、言えないだろ」

 

 俺はアーシアの頭を軽く小突いた。

 アーシアは途端に「きゃっ」と声を上げるが、俺は構わずにアーシアの額に自分の額をくっ付けた。

 すると俺の額には異常なほどの熱を感じる……明らかな高熱だ。

 

「俺がアーシアの状態に気付かないとでも思っていたのか?それだけ神器を行使し続けたそうなるに決まってる……特に禁手を込みで使っているアーシアに負担が掛からないはずがないんだよ」

「は、はぅ……ご、ごめんなさい」

 

 アーシアは途端に声音が弱くなり、いつものような弱気な声に戻る。

 ……神器は精神によって力が変動する。

 精神が強ければ強いほど、神器はその力を発揮する……その反面、発揮すれば発揮するほど体に対する負担も大きくなるんだ。

 例えば俺の使う神器、赤龍帝の籠手は肉体にダメージが掛かり、神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)は肉体でも特に頭に凄まじい頭痛が走る。

 アーシアはその後者タイプの神器ってことだ。

 

「……アーシアも俺も、皆それくらい必至じゃなきゃこの戦いを生き残れない―――アーシアは皆の生命線なんだ。だからこそ、倒れられたら困るんだぜ?」

 

 俺は胸にフォースギアを顕現し、少ない創造力で即座に神器を創る。

 

『Creation!!!』

 

 それは俺の創る回復系の神器、癒しの白銀(ヒーリング・スノウ)

 俺は瓶の蓋を外し、中にある白銀の粉をアーシアに振りかけた。

 するとアーシアの頬の赤みが薄くなり、表情もかなり安定したようだ。

 

「でもありがとう。正直、アーシアが無理しないと今頃俺たちは既に負けているからさ」

「…………はい」

 

 アーシアの頭を撫でながらそう言うと、彼女の頬はこれでもかというほどに真っ赤に染まり、そして微笑む。

 ――――――ズキッ!!!!!

 突如、俺の頭に激しい頭痛が木霊した。

 

『……神器の酷使による影響です。心身共に既に限界に近いのですよ、主様は』

 

 ……分かっている。

 でも限界ってもんは意外と越えれるものなんだ。

 俺はそれを匙に教えて貰った。

 諦めなければ、食らいつけば見えてくるものがある。

 それにアーシアの癒しオーラでかなりマシになったしな!

 

「……アーシア、今から俺はめちゃくちゃ無理する。今までしたことないほどの大技を連発する」

「止めても、止まらないんですよね?」

「ああ。止まらないよ……絶対に。でも俺が傷ついてもアーシアが癒してくれる。アーシアが傷つきそうになったら俺が守る―――だから俺は無理できる」

 

 俺は立ち上がる。

 腕には二つの巨大なドラゴンの腕。

 左右に24個の白銀の宝玉が埋め込まれていて、一つ割ることで俺の得ることの出来る極限の倍増エネルギーを瞬時に発動でき、身体的に負担も少ないもの。

 数に限りがあること以外に弱点のない力だ。

 それを今回はあえて違う方法で使う。

 正直に言えば効率的な力を非効率な上に、考えもなしにする。その対価は、計り知れない。

 吉と出るか凶と出るか。

 

「見せてやろうぜ、フェル―――白銀の流星を、あの野郎に」

『ふふ……ええ、主様』

 

 フェルは俺のしようとしていることを理解したのか、少しばかり微笑を洩らした。

 

「……信じてます。私はそう、決めましたから!」

 

 アーシアは背中越しにそう言う。

 ……俄然、やる気が出て来た!!

 俺は両腕に意識を集中させ、更に辺りの魔力や威圧感を肌で感じる。

 狙うはフェンリル……そして奴に対して決定打を与えるほどの力。

 

『Full Boost Impact Count 2,3,4,5,6,7!!!!!!!』

 

 俺は腕に埋め込まれている宝玉を六つ砕き、極限倍増のオーラを解放する。

 でもそれは俺に纏わせるのではなく―――魔力を少し注ぐ、球体として宙に浮かした。

 宝玉の使い捨ては本当はしたくない上に、こんな大技不意打ちじゃなきゃ通用はしない……だけどこの一撃は確実にフェンリルに通用する。

 

「行け……白銀の龍星群(ホワイト・ドラグーン)

 

 球体を空に向かって放つと、俺たちを守っていた剣のシェルターは消し飛び、防御魔法陣は内側から瞬間的に崩壊する。

 そして弧を描くように白銀の流星は曲がり、そして狙い定めた方向に全てが直撃した。

 全ての壁が取り除かれ、そして俺の遠い眼前に映るのはロキ。

 その付近にいたフェンリルは全ての流星をまともに食らい、煙に囲まれながら影は大地に背をつけていた。

 

「良くもやってくれたな、ロキ。ここからは、こっちのターンだ」

「ッ!!貴様ぁッ!!!」

 

 ……初めてロキが怒りの表情を露わにした。

 俺だって同じ気持ちだぜ?

 何せな―――

 

「……仲間傷つけられて、無理せずにいられるかよッ!!ロキ!!!」

 

 俺の視界に広がる傷ついた仲間たち。

 それを前にして怒りを抑えることは到底できない!

 

「フェンリル!何をしている、早く奴を殺せ!!」

 

 ロキは倒れるフェンリルにそう命令すると、フェンリルは即座に立ち上がって動こうとした。

 だけど俺はその動きを予期して更に三つの宝玉を砕く。

 

『Full Boost Impact Count 8,9,10!!!!!!!』

 

 それを先ほどと同じように直線的な流星を一発、更に二発を空に放ち曲線を描く。

 三方向からの同時攻撃だ。

 

「舐めるなッ!!我が息子の力を!!!」

 

 フェンリルはその流星を器用に三発全て躱した………………本当に、予想通りに。

 ―――グォォォォォォォォォォォオオッッッ!!?

 ……俺の耳には、予想通りの狼の叫び声が聞こえた。

 

「馬鹿な……ッ!?このような小賢しい芸当をッ!!」

 

 ……至ってシンプルな話だ。

 魔王サーゼクス・ルシファー様は魔力を極め、自由自在に縦横無尽に魔力弾を操作するといわれている。

 もちろん俺にはまだそんな芸当、出来るはずがない。

 だけど最初からルートを決めていれば、似たようなことは簡単に出来る。

 俺はフェンリルが流星を避けるのは分かっていた。

 だからこそ、ロキの近くにいるオリジナルのフェンリルではなく、他の皆に襲おうとしている子フェンリルを狙った。

 そして俺の狙い通り子フェンリルはそれぞれ一発ずつ流星を直撃し、更に残り一発は魔物の残党を屠る。

 

「やっとお前から余裕が消えたな、ロキ」

 

 俺は腕を構える。

 ……既に俺の体は限界に近い。

 鎧の神帝化は出来たとしても瞬間的で、そもそも神器の禁手化も最後一度しか出来ないレベルだ。

 だけどこの腕は違う。

 既に10個を砕いてはいるけど、まだ14個残っている。

 これを使った流星の魔力砲は親フェンリルすらも血だらけにしていて、子フェンリルに至っては直撃した部分が抉れているほどだ。

 

「我が……我のラグナロクがここで終わってたまるものか!!」

 

 ロキはそう叫びながら単身で俺へと向かってくる。

 ……ここが正念場だ。

 

『Full Boost Impact Count 11,12,13,14,15!!!!!!!』

 

 俺は更に5つの宝玉を砕き、それを球体として辺りに纏わせながら走り出した。

 籠手からアスカロンを引き出し、両手で構える。

 ロキの後方よりフェンリルも体勢を整えて動き出そうとしているのを確認するが、下手には近づかせない。

 

「良いのか、ロキ。今フェンリルが俺に近づけば、至近距離で流星を放つぞ。至近距離からならいくらフェンリルでも巨体のせいで弾丸が確実に当たる!」

「ならば我が手で直接葬る!」

 

 ロキはオリジナルのレーヴァテインを手に振りかぶるも、俺はそれを片手で持ったアスカロンで受け止める。

 だがロキは更に空いている方の手で魔法陣を展開しようとする仕草を見て、俺は即座に懐から無刀を掴み出し、更に無刀に浮かぶ球体を纏わせる。

 

「放て、無刀・銀龍の白星刀」

 

 長く伸びた白銀の刃はロキの手元の魔法陣を貫き、更にロキの甲を貫く!

 それによりロキは苦渋の表情になった。

 

「お、のれぇぇぇ!!!」

「言っただろ!俺がお前を倒すって!!」

 

 ロキの右腕はもう使い物にならない。

 俺は纏っている白銀の球体の一つをアスカロンに纏わせると、聖剣のオーラは枷を外れたように極大になった。

 ……ッ!!

 俺の身すらも焦がしかねない聖剣のオーラ。

 だけどその力は神剣の神々しいオーラを圧しているッ!!

 

「冗談ではないッ!!我の力が高が悪魔にッ!!聖剣に、神器なんぞに負けてたまるか!!!」

「お前はその自尊心で負ける!!俺はお前を倒して―――明日を掴むんだ!!!」

 

 俺はアスカロンを振りかぶると、ロキはその威力に負けて宙に浮かぶ。

 ……明らかにロキの動きが怠慢になっている。

 これが今までの戦闘による影響なんだとしたら、ここでこいつを確実に…………狩る!!

 

「ロキ!お前という個体は俺たちという集団には勝てない!!」

「ッ!!?」

 

 アスカロンと無刀による二刀流と、白銀龍帝の双龍腕による流星式魔力砲。

 魔力砲でフェンリルを牽制し、二刀流でロキと接近戦を行う。

 これが今できる最善だ!

 

「滑稽で、仲間を信じようとしないお前は『俺たち』には勝てないんだ!!」

「そんなもの、ただの幻想だ!!」

 

 自らを戒めるように叫び、剣を振るう。

 俺は仲間を信じようとしなかった。

 失うのが怖いから、自らを犠牲にしてでも守ろうと……救おうとした。

 それは今でも間違っていないと思う―――間違っていたことを気付かせてくれたのは父さんと母さんだ。

 家族は例えぶつかり合ってでも分かり合わなければならない。

 それは仲間の間でも言えることだった。

 仲間だからこそ、ぶつかり合って理解し合う。

 自らを曝け出し、自らを話して自らを知ってもらい、相手を想う。

 ……俺はずっと、一方通行だった。

 他人を分かろうとして、他人を知ろうとして、他人を曝け出させ―――自分は自分の殻にこもっていた。

 俺の中に確かに存在する闇……怨念ともいえるあのどす黒い自分を克服しようともしなかった。

 

「砕け散れ、赤龍帝!」

「ッ!!利、くかよぉぉぉ!!!」

 

 ロキの拳が俺の懐に抉りこむが、俺は負けじとロキを蹴り上げ、そして浮かんでいる白銀の球体を壊し魔力砲を放った!

 

「はぁ……はぁ―――来いよ、悪神ロキ。神滅具の意味を、力をその身に刻み込んでやる」

「粋がるなよ、赤龍帝!我は貴様などには負けぬ!!フェンリルゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

 

 ―――アオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

 ロキの叫びと共に警戒していたフェンリルは光速で動き出し、瞬間的に俺の前に到達する。

 ……この時を、待っていた!!

 

『Harf Dimension!!!』

『DividedivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!!!!!!』

『Capacity Divide!!!!』

 

 ―――連続で鳴り響く白龍皇の神器から発せられる音声。

 それはすなわち初めて(・ ・ ・)見えた勝機だった。

 ロキは失念していた。

 そもそも自分が初めに戦っていた存在を。

 

「―――言っただろう?俺を忘れて貰っては困る、と」

 

 ロキの死角に浮かんでいたヴァーリが、そう言いながら手をフェンリルの方に向けていた。

 先程鳴り響いた音声はおそらく、ヴァーリの全力。

 全てを半分にするハーフディメンション、度重なる半減の力、そして容量を半減にするキャパシティー・ディヴァイド。

 幾ら強大なフェンリルとはいえ、俺による白銀の流星砲で弱っているんだ。

 だからこそ……半減は確実に奴を蝕んでいた。

 フェンリルの大きさは半分になり、力は半減に半減を重ね、奴の魔力の受け皿という容量が半減したことにより魔力が暴走していた。

 ウォォォォォォォォン…………そんな弱い遠吠えを上げながら俺に遅い掛かろうとしていたフェンリルは完全に動きが遅滞し、目視出来るレベルになった。

 

「ば、馬鹿なッ!?我がフェンリルに白龍皇如きの力が通用するなどあるわけが……―――ッ!!」

「そう。その慢心こそがお前の失念だ。俺は言ったはずだぜ?お前は自尊心で、慢心で俺たちに負ける。お前という個々の存在が俺たちに敵うはずがない」

「……本当ならば覇龍を使ってフェンリルをどうにかする予定であったけど、まさか覇龍なしでこうも上手くいくとはな―――スィーリス、ルフェイ」

 

 ヴァーリは突如、スィーリスとルフェイに呼びかけるた。

 すると途端に切り裂かれたグレイプニルが蠢き、そして一時的に弱体化したフェンリルを再び拘束した。

 そしてフェンリルの周りに魔法陣が描かれ、そしてそれと共にフェンリルの姿が消える。

 ……まさかこいつ、この戦いに参加したのはこれが狙いか?

 

「協力感謝するよ、兵藤一誠。出来れば俺も覇龍は使いたくないものでね……礼と言ってはなんだが、最後までここで援護させてもらおう」

「―――終わった気でいるなよ、三下が……ッ!!!」

 

 ……ロキの表情が憤怒に染まる。

 それはフェンリルを奪われたのが理由か、そうでないかは分からない。

 ―――二匹の子フェンリルがロキの付近に瞬間的に現れた。

 

「仮に親であるフェンリルが消えようが、貴様たちでまともにフェンリルと戦えるのは既に貴様たちだけだッ!!三善龍も、元龍王も、堕天使も天使も我が最高の息子に傷つけられ、瀕死だ!」

 

 ……確かにタンニーンの爺ちゃんも夜刀さんもフェンリルの一撃をまともに喰らって今はフェニックスの涙を使って回復中だ。

 残りの涙も数は少なく、明らかにアーシア一人の力では間に合わない。

 バラキエルさんもガブリエルさんも傷ついて、グレモリー眷属も消耗し過ぎてフェンリルの相手は出来ないだろうな。

 ……だけどそれは向こうも一緒だ。

 子フェンリルは俺の流星をまともに受けて傷を負っていて、ヘルは部長たちによって封じられている。

 当のロキも既に満身創痍。

 

「……神がどうしたっていうんだよ」

「……なんだと?」

 

 ロキは俺の言葉に怪訝な顔をする。

 

「お前は昔、最強の龍の言葉を聞かなかったのか?二天龍の言葉を忘れたのか?」

 

 ―――神如きが、魔王如きがドラゴンの決闘に口出しするな。

 昔、ドライグとアルビオンが全勢力に向かって放った言葉。

 それは身勝手で、自己中心的……だけどそれだけの威圧感を持つ言葉だった。

 

「黙れ―――二天龍の力などに振り回されるだけの貴様たちに、我が負けるはずがない!!」

「仮面は剥がれてるんだよ―――それにな、俺たち(・ ・ ・)は赤龍帝の力にも白龍皇の力にも振り回されない」

 

 ……とはいえ、ここからは賭けだ。

 あいつの言う通りこの状況、劣勢は俺たちだ。

 既に皆は満身創痍で、当の俺もほぼ限界に近い。

 ヴァーリだって鎧を維持して戦うのが精いっぱいで、アーサーやヴァーリ、スィーリスなどといったヴァーリチームのメンツも既にどこかに転送したフェンリルの方に行ったんだろう。

 この場にはいない。

 だからこそ、俺は最後の賭けに出るしかない。

 相手は冷静さを欠如し始めたとはいえ、あの狡猾な神だ。

 チャンスは一度だけだ。

 

「残る相手は二匹の子フェンリル。そして魔物の残党にロキか」

「なんだヴァーリ、自信がないのか?」

 

 俺は動き出そうとする最中、ヴァーリにそう軽口を叩く。

 するとヴァーリは薄く笑い、首を横に振った。

 

「君こそ最後まで油断しないことだ。相手はあのロキなのだからね」

「……ああ」

 

 …………ああ、覚悟を決めるぜ。

 無理も承知で行くしかない。

 今ある駒を全て使って、奴を

 

「……倒す!!」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 ……行くぜ。ドライグ、フェル。

 俺は鎧を身に纏い、動く。

 ロキはフェンリルを二匹連れて動き出し、レーヴァテインを握って魔法陣を幾重にも展開する。

 

『Full Boost Impact Count 16,17,18!!!!!!』

 

 俺は両腕の白銀の宝玉を3つ砕き、二つを砲撃としてフェンリルに放ち、一つを自分の身体強化に使う!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!』

 

 更に鎧により力を幾重にも倍増し……ッ!?

 体が……軋むッ!!

 

「そのような見え透いた罠!我が見抜けるわけないであろう!!」

 

 ロキはフェンリルに流星を避けさせるのではなく、自ら防御魔法陣を展開してそれを防ぐ。

 ……あれは反射の性質を加えた魔力砲。

 フェンリルが避けたところを反射して不意を突く技だが、一度ロキに対してあれを放っていたから予想された。

 子フェンリルの一匹が俺に鋭い爪で引き裂こうとするが、俺はそれをアスカロンで迎える。

 爪による一撃を剣で受け流すように避け、更にフェンリルの懐に入って全力の拳を放つッ!!

 フェンリルは体をほんのわずか後ろに後退させることで直撃を避け、更に死角からロキが魔法陣を展開していた。

 ズガガガガガガガガガンッ!!!……機関銃のような魔力弾が乱雑に放たれ、俺の鎧は幾分か吹き飛ぶ。

 

『相棒。もう既に鎧の修復の力は残っていない。ここからの直撃は負けと理解した方が良い』

 

 ……ああ、肝に銘じておく。

 俺は消し飛んだ肩の装甲を抑えていると、辺りから魔物の残党が俺へと襲い掛かった。

 

「くそ……ッ!!邪魔だ!!」

 

 俺はそれをアスカロンで薙ぎ払うも、途端に目の前から脅威が迫る!

 ロキは瞬時に俺へと近づき、レーヴァテインを振るった!

 反応が遅れたッ!!このままじゃ―――

 

「―――はぁぁぁぁぁあああああ!!!」

 

 ……その時、俺の前に瞬間で祐斗が立ち、エールカリバー二振りでロキの斬撃を受け止めた。

 

「い、今だッ!!イッセー君!!!」

「下級悪魔がぁぁぁぁぁ!!」

 

 祐斗はレーヴァテインの力に押され、体から軋むような音を響かせながら叫んだ。

 奴の一撃を避けるのではなく受け止めるなんか、祐斗のタイプでは得策ではない。

 ―――この好機、逃すものか!!

 

『Full Boost Impact Count 19,20!!!!』

 

 俺は宝玉を二つ砕き、白銀の流星をロキへと放った!

 祐斗にギリギリ当たらないように調整し、ロキは驚異的反射速度でそれを察知するも、完全に出遅れる。

 両サイドからの流星がギリギリのところで脇腹を抉り、反動で後方に吹き飛んだ。

 

「弱体化したフェンリルなど既に俺の敵ではない」

 

 ……そんな涼しげな言葉と共に、ヴァーリと戦っていた子フェンリルがロキと同じ方向に吹き飛ぶ。

 その灰色の体毛は血だらけになっていた。

 ―――ウォォォォォォォォォン!!!!!

 ……狼の怒号が、俺の付近で聞こえる。

 確かに速度は速い。

 だけど例えどれだけ速度が速くても動きが単調であれば、予測は簡単だ。

 

『Full Boost Impact Count 21,22,23』

 

 俺はフェンリルが迫ると感じる方向に宝玉を二つ砕き、流星を。

 そして自身の強化に一つ砕く。

 一定時間の間、極限の倍増エネルギーをタイムラグなしで手に入れられる禁手。

 少しの魔力で極大な流星のような魔力砲を放てる力だ。

 その一撃は親フェンリルにも通用した、一歩間違えれば地形を完全に変化させてしまうほど。

 曰く―――

 

「極めれば、二天龍にも届く一撃だ……消え去れ、フェンリル」

 

 フェンリルは白銀の光に飲まれ、そして俺はそこに入っていく。

 そして流星に包まれるフェンリルを視界に捉え、そして―――宝玉によって強化した体の全てを用いて、殴り飛ばした。

 ドゴォォォォォォォン!!!……激しい破壊音と共にフェンリルを地面に叩きつける。

 

「―――こんなもの、嘘だ……スコルとハティが本物に劣るとはいえ、こうも容易く破れるなど……」

 

 ……俺とヴァーリに蹴散らされた子フェンリル。

 既に大した動きは出来ず、そしてロキは倒れた子フェンリルを呆然と見ながらぶつぶつと何かを呟いていた。

 

「……悪いな、兵藤一誠。俺もそろそろ限界に近いようだ」

 

 ……すると俺の隣に降り立つヴァーリは、途端に鎧を解除した。

 白龍皇の翼を展開し、傷だらけの体を晒しながら肩で息をする。

 

「……正直に言えば、タンニーンや夜刀神が奴らを削っていなければどうなるかは分からなかった」

 

 ……つまり正真正銘、残るはロキだけだ。

 そして最後の戦力も俺だけ。

 鎧もかなり削られ、体が剥き出しの部分も多い。

 腕の宝玉は残り一つ。

 

「……まあ良いか」

 

 ……するとロキは途端に考え込んだ表情が急変し、憤怒の表情が消えた。

 そこにどこか不気味さを感じ、俺は構える。

 

「確かに貴殿たちには驚かされ放題だ。よくもまあ我を追い詰めたもの……だが忘れてはならぬ。我はまだ健在であると。満身創痍なのは認めようぞ―――だがそれは貴殿とて同じ。既に貴殿の腕には、あの厄介な流星を放つための宝玉は一つしかないではないか。砕かれた鎧の装甲は修復もしないのは既に限界近い証拠。ならば絶望するのは些か早計であろう?」

「……さぁな」

 

 ロキが述べることに特に言う事はない。

 奴なら簡単に見抜けることだらけだ。

 

「……我は幾つも奥の手という物を隠している。何故だか分かるか?」

「狡猾だからだろ?」

「それもある……だが事実は違う―――実際には臆病であるからだ」

 

 ロキはなお余裕を見せる。

 ……なんなんだ、この違和感。

 追い詰めている状況で、なお追い詰められるこの危機感。

 

「我は狡猾で手札が多くなければ他の強大な神には勝てぬ。オーディンなど良い例であろう?あれほどの強大な力を前にすれば、同じ神でも臆病になるものだ」

「……そう話している間に、何かしているんだろ?」

「ふふ……どうであろうな?だが正直、我も困った―――まさかフェンリルを全て失う羽目になるとは」

 

 ロキは腕を組み、溜息を吐くように下を向く。

 ……何がしたい、こいつは。

 

「だが収穫もある―――怒りはしたが、これほどまでに我を追い詰めた貴殿に深い敬意を持とう。賞賛を与えよう……絆というものも、力だと言うことを認めよう」

「だからってお前を見逃さない」

「ああ、そうであろう……我が貴殿であれば、そうする。だがしかし、貴殿は忘れはいまいな?」

 

 ロキは指を天に向け、そして……指を鳴らした。

 

「―――我は自らの子を愛し、絆で結ばれているということを」

 

 ……途端にロキの周りにどす黒いオーラが包まれた。

 あのオーラ―――俺はすぐさまヘルを抑えていたリアスたちの方を見た。

 そこには……

 

「あ、がぁぁぁぁッ!?い、きが……出来、な――――――」

 

 …………リアスたちに拘束されていたはずのヘルが、突然苦しみ出して息の根が止まっている姿があった。

 

「……あぁ、くそ……忘れてた……お前が意味もなく話し続ける意味がないよな」

「ははは。だが全て本心である。なぁ?ヘルよ」

 

 ……ヘルの状態が変わる。

 肉体は黒い液体に変わり、その場でうねうねと蠢く。

 

『うふ、ふふふふふふぅぅぅ……♪ありがとぉ、おとぉさまぁ♡おかげでへる、げんきになれましたぁぁぁ♪』

 

 ヘルは呂律が回らない声音ながらもリアスたちに襲い掛かるッ!!

 蠢きながら魔物を生み出した。

 

「そっちの方から殺せるなんて反則にゃんッ!!」

「でもそう弱音を吐いている状況ではないです!今まともにあれを相手に出来るのは私達だけです!」

 

 黒歌は焦るように魔物を仙術で無効化しつつ、ロスヴァイセさんは全方位型の幾重もの魔力弾を放ち続ける。

 

「既にまともな戦闘可能なのは私達とイッセーだけよ!私達でヘルを抑えるの!」

 

 部長は滅びの魔力でヘルへと攻撃をするも、ヘルは液状化しているからかそれを体内に吸収する。

 ……ああなってしまえばまともな一撃は喰らわない。

 ―――そうか、ロキの目的は意識を俺に向かわせること。

 奴にとって俺の最後の宝玉はそれほどまでに脅威なのか。

 

「このままでは貴殿の仲間は全滅であるな。回復役の悪魔も既に満身創痍。回復が明らかに遅れている」

「……かもな」

 

 つまりロキはヘルに襲われている皆を助けるために、俺に宝玉を使わせようとしているってわけだ。

 アーシアも頑張っているけど、やはり回復は間に合わない。

 フェンリルに傷つけられた傷はそれほどまでに深い。

 魔物を屠る力は残っていても、強大な敵と戦う力はないんだ。

 ……行くぞ。

 

『Full Boost Impact Count Final!!!!!!!』

 

 俺は最後の宝玉を砕き、それを白銀の流星としてヘルに光速で放った。

 流星はリアスたちを襲うヘルを捉え、四方八方に液体が飛び散る。

 そこからヘルは蠢くも、ダメージが予想より大きいのか液体が集結するのが余りにも遅かった。

 

「ははははは!流石に甘いな、赤龍帝!見捨てれば確実に我を殺せたものを!!だがその甘さこそが貴殿だ!!」

 

 ロキはレーヴァテインを両手で握って俺へと向かい来る。

 

「終わりだ、赤龍帝よ!!!」

 

 そして俺の目の前に到来し、そしてその強大な剣を振り下ろした。

 俺はそれを両腕で受け止めるも、刃は腕の装甲を切り裂き始める。

 ………………終わった―――

 

 

 

 

 

 

 

「……最後の最後で、勝ち急いだな。ロキ」

 

 そう………………俺は最後の賭けに

 

『Full Boost Impact Count Over!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 ―――勝った。

 

「な、なんだとッ!?これは!?」

「……24個の宝玉がこの禁手の切り札じゃない。これの切り札は全ての宝玉を使い切った後にある(・ ・ ・ ・)!!」

 

 白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)は使い勝手の良い禁手だ。

 24回分の最強クラスの一撃を放てるほか、体の負担も少ない。

 ……だけどこの禁手は一つ、裏システムがある。

 それが―――極限を超える倍増。限界突破の倍増。

 …………超過倍増。

 24個全ての宝玉を使い、更にこの神器が壊れることで発動する身体の影響を無視した倍増。

 それこそが俺の最後の賭けだった。

 

「はぁぁぁぁぁッ!!!限界なんて、超えてやるッ!!!」

 

 俺は完全に腕が壊され、剥き出しになって手でレーヴァテインを握った!

 今まで感じたこともない倍増の重圧。

 それと共に感じたこともないような圧倒的な破壊力をこの身に感じるッ!!

 今にも体は砕けそうで、倒れそうになる。

 

「は、なせぇぇ!!!」

「はっ!!余裕ぶってた割には必至じゃねぇかッ!!だけどな!!」

 

 ……レーヴァテインからキシッ、と音が響く。

 それと同時に俺の鎧が解除され、左腕に赤龍帝の籠手が展開された。

 右手でレーヴァテインを掴み、そして―――左手の籠手でそれを殴り砕いた。

 

「もうここがお前のラグナロクだ!!一人で勝手に―――」

 

 籠手がミョルニルによる雷を纏わせる。

 

「―――黄昏ていろ!!」

 

 その拳で―――ロキを殴り飛ばすッ!!!

 ロキは神の雷を直撃し、俺はなお殴り込む!!

 地面にロキを叩きつけ、更にめり込ませるように拳を圧し続ける!

 雷鳴は鳴りやまず、拳は未だに重いままだ。

 ……ミョルニルは俺を真に認めていないんだろう。

 それでも力を貸してくれるのは……俺の想いに応えてくれているから。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉおおおッ!!!!??!!?これが……我のラグナロクのはずが……ないッ!!!」

 

 ……ッ!?

 ロキは何か魔法陣を描く!!

 もうそれに対処する時間はない!

 このまま体が限界を迎えるまで―――押し通す!!

 

「終わりだ!!悪神ロキ!!!」

「終わ、らぬッ!!我が、こんなところで……!」

 

 雷に包まれながら、ロキは俺の腕を掴んだ。

 俺の拳を遠ざけようとするも、俺は更に押し続ける。

 

「この拳は止まらない!!」

「ッ!?」

 

 ……雷鳴は終わる。

 俺はその反動でクレーターの出来たそこから吹き飛び、地面に背から打ち付けながらそのまま倒れる。

 

「はぁ……はぁ―――これがお前の終焉だ……ロキ」

 

 俺は―――そう言い放った。

 

 ―・・・

 

『Side:木場祐斗』

 ……その瞬間を僕たちは見ていた。

 イッセー君の拳が、ロキを貫き倒す一抹を。

 今までで最も重く、最強の拳が奴に勝利した光景を。

 僕たちはその瞬間、何も言葉を発することが出来なかった。

 だけど……次の瞬間、僕たちグレモリー眷属は同時にイッセー君の方へと走り出した!

 その場に倒れるイッセー君は体中から血を流し、神器は全て解除されていた。

 肩で息をするイッセー君を囲むように寄り添い、アーシアさんはイッセー君の頭を自分の太ももに乗せて回復を開始する。

 

「イッセー……貴方って人は本当にッ!!」

「本当にやってしまうなんて……ッ!神を下して、皆を守るなんて……カッコよすぎますわッ!!」

「……ホント、とんでもないことだぞ、イッセー。私は君の仲間で居られたことがここまで嬉しく思えたことはない……っ!!」

「うぇぇぇぇん!無事でよがったでずッ!!」

「……ズルいです、先輩……ご主人、様……ッ!」

 

 皆、イッセー君に寄り添いながら涙を流したり、心配したりする。

 アーシアさんはイッセー君の手を握って何も言わずただ涙を押し留め、笑顔を作りながら治療していた。

 ……すごいよ、本当に。

 本当に君は遠いよ―――でもその遠さが、僕は無性にうれしい。

 

「……良かった……皆を、守れ――――――ッ!!?」

 

 イッセー君が何かを言おうとしたその時だった。

 …………イッセー君は突如、目を見開いた。

 

「に、逃げろッ!!今すぐ、俺から離れろ!!!」

「い、イッセー君?どうしたんだい?もう戦いは終わって―――」

 

 僕は最後まで言葉を言うことが出来なかった。

 イッセー君は突如、上体を起こして僕たちに向かって魔力による衝撃波を放ったッ!!

 それにより僕たちはイッセー君の元から吹き飛ばされた。

 

「ど、どうしてイッセーくん!いったい何が―――」

 

 ……僕の言葉に彼が答える必要はなかった。

 何故なら僕は見てしまったからだ。

 

「……ごめん―――俺、皆と一緒に……帰れそうにないや」

 

 悲しそうな笑顔と共に―――灰色の何かに噛み砕かれ、血潮を僕たちに浴びせるイッセー君がそこにいた。

 その何かは勢いよくイッセー君を僕たちの方に投げ捨て、僕たちはそれを呆然と見る。

 

「い、イッセー……さん?」

 

 アーシアさんの呆然とした声が響く。

 ……何故だ。

 何故イッセー君が血まみれで、倒れている?

 どうして―――奴がいるッ!!!

 倒したはずだ!

 イッセー君が身を挺して降したはずだ!

 

『ゆる……さぬッ!!!我の邪魔をするのは、許さぬ!!!!この身を穢しても、貴様たちを殺してやるッッッッ!!!!!』

 

 ―――そこには巨大なフェンリルと、その頭部に融合している歪なロキの姿があった。

 ……だけどそれを僕たちは気にすることが出来なかった。

 

「どうして、眠ってるんですか?ねぇ、イッセーさん?起きてください……起きて、帰りましょう?ねぇ―――ねぇ、イッセーさん!!どうして起きてくれないんですか!!いつもみたいに大丈夫って言ってください!!なんで目を開けてくれないんですか!?いやぁぁぁぁ!!!イッセーさん!!!イッセーさん―――!!!!!」

 

 アーシアさんは虚ろな目でそう叫ぶ。

 おもむろに回復オーラを照らし続け、涙を流し続けた。

 ……嘘だ―――嘘だッ!!

 どうして……どうしてイッセー君がこんなにならなくちゃいけないんだ!!

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁああ!!!ロキ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」

 

 僕は叫ばずにはいられなかった。

 

『ふははははははは!!!!!我が身を穢し、下種に落としてまでのこの快楽!!!心地よいぞ!!赤龍帝ェェェェ!!!!!』

 

 ……僕たちは怒り狂うようにロキへと乱雑に攻撃を放つ!

 今まで僕たちを呆然と見ていたバラキエルさんやガブリエルさん、夜刀さんやタンニーンさん、黒歌さんやヴァーリに至っても怒り狂うようにロキに襲い掛かる!!

 殺してやるッ!!

 あいつを、切り刻んでやるッ!!!

 

『無駄だ!既に瀕死のフェンリル二匹の肉体と完全に同化し、ヘルの体の一部までも加え、合成獣となった我にはそのような攻撃―――効かぬわぁぁぁ!!!』

 

 奴の足払いで僕たちは吹き飛ばされる―――奴の視線は未だ、イッセー君にあった。

 

『ははは!ダメではないか!今、赤龍帝を癒してしまえば完全には殺せぬ!!我が愉悦の邪魔をするなよ!!!』

「破綻しているッ!!お前の目的はオーディンではなかったのか!?」

『そんなものどうだって良い!!もうそいつを殺せれば我は、我はぁぁぁぁぁ!!!!!』

 

 頭が二つとなり遅い掛かるロキは辺りに形の定まらない歪な魔物を生み出し、イッセー君の元に行く!

 ……今ならまだ間に合う。

 アーシアさんが今、イッセー君の治療をしている今なら、彼の命を救える!!

 僕たちグレモリー眷属はイッセー君を守るように立ちふさがる。

 皆、一度はイッセー君に救われている……だから命だって賭けられる!

 ……絶望は、僕たちの目の前まで迫っていた。

『Side out:祐斗』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ああ、死んだのか。

 懐かしいな、この感覚……何も感じなくて、全部が全部、どうにだって良くなってくる感覚。

 本当に、懐かしい。

 思えば俺って、いつも大切な時に大切な何かを守れないよな。

 ミリーシェだって守れなかったし、それ以外になんだっけ。

 ……ああ、数えきれないな。

 ホント、色々な人と出会って別れて……悲しんで涙を流して。

 ふざけんなよって言いたくなる。

 でもそれだってどうでも…………どうでも……

 

 

 ―――良くない、決まってるッ!!!!!!

 ふざけんじゃねぇ!

 なんでこんな理不尽が許されなきゃならない!

 どうして守ろうとして、守れない!

 大切な人達がたくさんできたんだ!

 失いたくない人がたくさん生まれたんだ!

 やっと前に進めるのに、どうしてこうなるんだよ!!

 諦めなくない!

 俺に出来た、初めての欲なんだ!

 死にたくない!!

 もっと皆と笑顔で暮らしたい!!

 生きていたい!!

 こんな中途半端で、誰も幸せに出来ない……俺だって幸せになりたい!

 復讐だって、ミリーシェのことだって……何一つ解決していないッ!!

 俺が死んだら……たぶん、色々な人を不幸にしてしまう。

 俺のことを大切って言ってくれる人を、泣かせてしまうのは嫌なんだ!

 ……違う。

 ―――ダメなんだ。

 誰かを不幸にすることはダメだ。

 大丈夫って言ったんだ!

 だから!!

 ………………諦めるしか、ないのかな?

 だってもう、どうしようもない。

 ミリーシェを失って、死んだ時だって何も出来なかった

 ただ悲しんで、懺悔して……何も変わらなかった。

 

 

『―――……フ……ル』

 

 失った先には絶望しかなかった。

 

『―――……えて、……の?』

 

 ……でも今回は、少なくとも救えた気がする。

 

『―――ダメ……だか……いつ……は、あた……なん……から!』

 

 ……だからたった一つだけ、お願いだ―――皆は生きていてくれ。

 俺はもう戻れない。

 だから……せめて最後は笑顔でいてくれれば嬉しい。

 

『―――あ……?きこ……て……のかな?』

 

 ………………なあ、教えてくれよ……ミリーシェ。

 俺、どこで間違えたんだろう。

 ……なあ―――

 

「ミリーシェ……ッ!!!」

 

 …………そう、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

『―――本当、君はあたしがいないとダメだよね~』

 

 ―――聞こえるはずのない、声。

 

『そんなに泣いて、悲しんで……諦めて―――私の好きな君は、そんな泣き虫じゃないよ?』

 

 ―――だってもういないんだから。

 

『あ、やっぱ今の嘘!!どんな君でもあたしは大好き!!もう監禁して、一生一緒にいたいくらい!!』

 

 ―――諦めたのに、どうして聞こえてくるッ!!

 

『……諦めたのは嘘―――だって、ずっと君は後悔していたんだから。だから嘘だよ。あたしが保障する…………このあたし、君を想って幾億年!!だからね♪』

 

 ……何もない空間に光が指す。

 次第に辺りは景色に覆われる。

 色は青、緑。

 その風景は昔、俺と彼女がいつも遊んでいた何もなくて、広大な草原。

 そしてそこに佇む一人の少女。

 それは懐かしいようで、最近見たような顔。

 でもやっぱり―――涙が止まらなかった。

 

「あ!!また泣いてる!ご、ごめんね!?泣かせるつもりなんてなかったんだよ!?ホントホント!!神様に誓って……あ、神様はもう死んだんだっけ?あはは!!」

「……ああ、お前の言う通り俺は泣き虫になったよ。ホント、お前がいなきゃ何にも出来ないよ」

 

 袖で涙を拭おうとも、止まらない。

 ……止められるはずがない。

 

「―――うん!だから■■■■■にはあたしが付いてなきゃ駄目だよね♪」

 

 ノイズが走り、その名を聞くことが出来なかった。

 だけど―――その温もりは本物だった。

 その温もりを俺は抱きしめた。

 温かくて、柔らかくて……もう二度と触れられないと思っていた温もり。

 それは

 

「―――ミリーシェっ!!!」

 

 ―――俺の大好きな、ミリーシェの温もりだった。


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