ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第2話 父の襲来と英雄の影

「いやはや、やはりまどかの飯は最高だな!!わはははは!!!」

 

 ただいま我が兵藤家のリビングで異様な量の料理を平らげている大男……もとい俺、兵藤一誠の父である兵藤謙一は高笑いを上げながら愉快な調子でいた。

 口の中に食べ物をたくさん頬張っている姿には品など存在はしていなく、まさしく雄!!、というべきか。

 そんな父さんを遠目に見るグレモリー眷属とそして何故か少しばかり父さんを睨む母さん……母さん、そんな目を向けてあげないで!

 ちなみに俺は父さんの向かいの席で苦笑いをしながら父さんと向き合っていた。

 父さんが帰って来て丁度一時間ほど経過しており、父さんを初めて見た小猫ちゃんと黒歌以外の眷属メンバーは最初、口をポカンと開けて驚いていた。

 そりゃそうだろう―――だって、俺と全く似ていないんですもん。

 それは驚きの一つや二つ、当たり前と言うべきだ。

 

「でも父さん、今回は帰ってくるのが突然だったな」

「おお、我が息子よ!あの糞社長め、家族の元に帰りたい俺の心を無視してまた転勤とか抜かしたからな!辞表を突きつけてやったら泣いて休暇をくれたってわけだ!そうだ、俺と久しぶりに格闘でもするか?とことん付き合ってやるぞ!!」

「あははは……」

 

 ……っとまあ基本的に家族想いでとても良い父親と言うわけだ。

 俺が尊敬する人でもあるし、世界的企業の一社員が辞表を突きつけただけで泣いて止めるほど父さんは有能な人で、俺たちが有意義に生活できるのだって父さんの力がほとんどだからな。

 俺の大好きであり、最も尊敬する人が父さんだったりする。

 あまり会えないってのが寂しいけどな。

 

『がぁぁぁ!?ぐぅぅぅぬぅぅぅぅ!!!また、か!!また貴様なのか、兵藤謙一めぇぇぇぇえええ!!!!』

 

 ―――その時、俺の中でドライグが憤怒するっ!!

 この野郎、またなのかよ!!

 ……ドライグは自称、パパドラゴンを名乗る親馬鹿ドラゴンの一角だ。

 そりゃあ俺をもう本当の子供のように溺愛しているし、俺も尊敬している。

 だからこそ、ドライグは父さんを凄まじいほどにライバル視しているんだ。

 フェルさんや、ドライグを止めてくれないか?

 

『はい、面倒ですから嫌です。こうなったドライグは無視するのが手っ取り早いですよ、主様―――全く、いい加減認めれば良いものを。兵藤謙一は立派な父親じゃないですか』

『分かっておる!!分かっているからこそ、譲れないものがあるのだッ!!!俺は何年にも渡り相棒を見て、共に生きてきた!だからこそ―――パパドラゴンとして、この男には負けられぬ!真の父は俺だ!!!』

 

 ドライグは俺の中で何かカッコいいことを叫ぶが、当然のことながらそれは俺やフェル以外には届くはずもない。

 ……はぁぁぁ。つい溜息が出るほどおバカなドラゴンだな。

 

「んぐ、んぐ……んん……はぁ、美味いな!流石はまどかの料理は世界一だ!愛する妻の飯とはどんなものよりも美味―――しげふッ!!?」

「んもう!!恥ずかしいからやめてよ!!もうケッチーの事なんか知らない!!」

 

 叫び散らす父さんについ手が出る母さん……そう、母さんが唯一手を出す相手は父さんなんだ。

 母さんは父さん限定で恥ずかしがり屋で、こんな風に父さんに褒めちぎられると父さんの頭を叩いたり、照れ隠しに暴力を振るう事がある。

 ある意味で父さんにのみ与えられた特権みたいなものだな。

 

「こ、これも愛の鞭なのか!?ならば俺はまどかの全てを受け入れる!!!」

「もういやぁぁぁぁぁぁあああ!!!!」

 

 め、珍しい母さんのガチな叫びが家中に響く瞬間だった―――ちなみにこの父さんの暴走を止める役目は俺であり、俺は父さんにボディーブローを加えた後に背負い投げをするのだった。

 ………………10分後。

 

「はぁ、はぁ……イッセーも、腕を上げたなぁ……ってかお父さん、凄く体が痛いんだが」

「うん、だからさ―――いい加減学習しようぜ?ワザとやってたら本当に愛想つかされるからさ……」

「し、しかしならば俺の愛をどうやって示したら良い!?イッセーは俺の愛を受け止めてくれるのに何故、まどかは受け入れてくれない!!」

「いや、だから―――」

「俺は毎晩まどかを想いながら涙で枕を濡らしているというのにッ!!きっとまどかだって同じはずだ!!」

 

 …………………………言わないでおこう、毎晩22時に布団に入り、そのまま熟睡する母さんのことは。

 寝言で俺の名前を呼んだりしていることは。

 何故ならば父さんが血の涙を流すから。

 ―――っとまあこんな感じで騒がしい父だったりしているが、当の眷属の皆は未だに父さんに向かって訝しい表情をしているな。

 たぶん本当に俺の父さんと信じていないって感じだな。

 

「えっと、こんな感じで騒がしい父さんだけど、根はすごく良い人だからそんな不審がらないでも良いよ?」

「べ、別に不審がってないわ!は、初めまして、お父様!私はイッセーの所属しているオカルト研究部の部長で、今はこの家にホームステイをしているリアス・グレモリーと申します!」

「ひ、姫島朱乃です。以後お見知りおきをお願いしますわ、お父様」

「アーシア・アルジェントです!その、イッセーさんと仲良くさせて貰っていて、それと……その……あぅ」

「……塔城小猫です。イッセー先輩の後輩で、皆さんと同じく居候させてい貰っています」

「居候の迷い猫、黒歌ちゃんにゃん♪よろしくねぇ~~~♪」

「私はゼノヴィアと言う。それにしてもイッセーと全然似ていないな……」

「謙一さん、お久しぶりです!紫藤イリナです!今はイッセー君の家でお世話になっています!」

「ぎ、ギャスパー・ヴラディと申しま……うわぁぁぁぁぁん!!やっぱり怖いよォォォ!!」

 

 ……うわぁ。何かすごいカオスな空間となってしまった気がするのは勘違いではないんだろうな。

 っていうか挨拶も皆、個性だし過ぎでびっくりだよ!

 っていうかゼノヴィアに至っては酷い!

 尊敬の一文字すらない!そりゃあ元々あまり敬語を使う奴じゃないけども!

 

「わははははは!!ああ、知っているとも。まどかから話は当然聞いている!我が家を自分の家と思って暮らしてくれ!イッセーの仲間と聞いているから俺は大歓迎だ!!」

『は、はい!!』

 

 父さんの寛大な言葉に皆の目が光り輝く。

 そう、父さんはこんな感じで大らかな上にノリの良い人だから、あまり心配はない。

 良い意味で馬鹿な父さんは家の事も普通に受け入れたし、それにそれから今までの事を簡単に説明しても驚きはするも、特に疑うこともなかった。

 器がでかいからこそ、その会社の社長さんが泣いて止めるくらいだし。

 

『ぬぅぅぅぅぅう!!あの男め、また相棒の好感度を上げるなど……ッ!!羨ましい!!』

『……はぁ。結局ドライグは謙一さんが羨ましいだけなんですけどね』

 

 もうフェルからは溜息しか出てこないみたいだ。

 全く、フェルみたいに父さんのことを普通に受け入れたら良いのに。

 

「…………にしてもイッセー。かなりの美人がたくさん集まっているが、これはハーレムという奴なのか?」

「―――なっ!?何言ってんだよ、父さん!!」

 

 俺は突然の父さんの言葉に戸惑い、そう言い返した!

 いくらなんでも唐突過ぎる!

 っていうかなんでそんなことを普通に聞いてくるんだよ、この父親はぁぁぁ!!!

 

「いやぁ、男というものは罪深いからな!思春期ともなればハーレムに憧れるだろう?」

「憧れねぇよ!!」

「―――憧れないだとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!?」

 

 ―――いや、何で父さんが逆ギレしてんだよ!

 怒りたいのは俺だよ!

 

「何故イッセー!お前には俺の血が流れん!!どう考えても少しくらいは俺に似ても良いだろう!俺なんか全然女の子にモテないんだぞ!!お前は顔も良くて勉強も出来て、しかも人情に熱いだとッ!?どんな反則チートだ!!」

「父さんはもっと言動に気をつければモテただろうに!それに母さんと結婚できたから良いじゃん!!」

「それは…………まあ俺はまどかと結婚できただけで幸せ者だが―――って話を誤魔化すなぁぁぁ!!!」

 

 ……実を言えばドライグが父さんをライバル視しているのは、ある意味で同族嫌悪だったりする。

 言ってしまえば父さんとドライグって似ているんだよね。

 行動原理とか、俺に向けて来る感情とかほとんど一緒だし。

 っていうか父さんと俺の口論で母さんの顔がみるみるうちに真っ赤になっている!

 母さんが乙女の顔を見せるのは父さんが関わった時だけだから、これはかなりレアだったりする。

 

「親と子でどうしてそこまで差が生まれる!?まどかは俺にはすごく冷たくて、イッセーにはあり得ないくらい甘々なんだぞ!!そんなもの、許せるか!!俺は母さんと知り合って以来ずっとこんな感じだと言うのにぃぃぃ!!!」

 

 途中から父さんの私怨が入っているのはもう気にしないでおこう。

 っていうかさっきから父さんが号泣しながら俺の肩を揺さぶってくるのが、そろそろ本気で邪魔くさくなってきた今日この頃。

 …………ドライグさん、どうすれば良いと思う?

 

『殺せば良いと思う』

 

 ―――ドライグ、流石に即答でそれはないと思うよ!?

 ……まあちょっとばかし気を失ってもらうとしますか。

 俺は多少の挙動で俺の肩を掴む父さんの腕を薙ぎ払い、慣れた動きで一回転して父さんの背中へ移動。

 そのまま父さんの首裏めがけて手刀を喰らわせると、父さんは酒の飲み過ぎで倒れた時みたいにふらついて、そのままその場に堕ちるのだった。

 …………世界のため、犠牲は必要なのだ―――っという冗談はさて置き、俺は仕方なく父さんをソファーに寝かせる。

 恐らくすぐに目を覚ますが、まあ冷静さは取り戻しているだろう。

 そして俺は母さんたちの方を向くと―――

 

「あのまどかさん―――なんで、イッセーさんのお父様と結婚したんですか?」

「そ、その……言ってはあれですが………………流石にあれはまどかさんの好みなんですか?」

 

 ―――そこには母さんと父さんが何故結婚したのか本気で疑問に持つ眷属の皆と黒歌、イリナの姿があり、当の母さんは涙目だった。

 

 ―・・・

 ソファーの上で大きないびきをかく父さんを横目に、リビングでは母さんを中心にして眷属と黒歌、イリナがいた。

 俺が父さんを眠らしてまだ数分しか経っていない。

 

「それにしてもイッセーのお父様があれほど個性的な方とは思わなかったわ」

 

 部長が控えめにそう言うが、別に遠慮なくぶっちゃけても良いと思うんだ。

 俺も何で母さんが父さんと結婚したのか分からないし……まあ仲は何だかんだで良好だしいい夫婦とは思うけどさ?

 でも母さんの性質と父さんと性質はどう考えても結婚へと行きつかないと思うんだ。

 うん、ホントなんで結婚したんだろう。

 今となっては深い謎だ。

 

「もう、ケッチーの事なんて知らない……っ!」

「まあ、まあ。父さんだって愛ゆえの行動だしさ?」

「愛ならイッセーちゃんの愛だけで良いもん!!」

 

 ……先程から母さんの口調が子供のようになっているのは無視してあげよう。

 一切違和感がないのが恐ろしいところだけど。

 ってか嘘でも俺だけで良いとかはダメだろ!

 

「……でも本当にイッセーちゃんがケッチーに似なくて良かったよね……生んだ時に最初に安心したもの」

『…………………………………………………………』

 

 俺たちは割と真剣な声音に苦笑いをしながら無言で黙るしかなかったのだった。

 でも何だかんだ言って体つきとかは父さんの遺伝だと思う。

 結構筋肉が付きやすい体格だし、そんなに背は高くないものの、身体能力は良い方だ。

 父さんの体格はプロレスラーレベルな上に格闘技を学生時代は幾つもしていたらしいからな。

 それに小さい頃は良く取っ組み合いの闘いをしてきたほどだし……よくよく考えると、俺の今の戦闘スタイルの基本が出来たのはある意味で父さんが起因しているような気もしなくもない。

 父さんは馬鹿みたいにパワーが凄くて、俺に怪我をさせるたびに母さんにぶち切れられてたっけ?

 ……良い思い出だ。

 

『くぅぅ……どうすれば俺は奴を超えられる……ッ!!我は力の塊と称させた二天龍の片翼、ドライグ!そんな俺が高が人間如きに!人間如きにぃぃぃ!!』

『ドライグ、先ほどからあなたの発言はやられ役の台詞です。しかもかなり三下の』

『―――ぬぉぉぉぉぉん!!俺は、俺は何であの男に勝てないのだぁぁぁぁぁああ!!!』

 

 ……マジ泣きするドライグに内心、冷や冷やしながらも俺は溜息を吐いた。

 父さんが帰って来てから騒がしすぎだろ。

 ―――ともかく、父さんが帰ってきた理由はしばしの休暇。

 それと愛する家族の顔見たさってわけか。

 でも父さんはすごく誠実な人だし、責任感もあるから仕事を投げ出してはいないんだろうな。

 しっかりとやることをやってここに来たというべきか。

 

「……私の好みっていうか、そもそもケッチーは好みからはすごく外れてるんだけどね。言っちゃえば私の本当の好みはイッセーちゃんだし」

「うん、それは息子である俺に対する言葉じゃないよな?父さん、死んじゃうよ?」

 

 俺は母さんに割と真摯に言うが、当の母さんはポカンとした表情だった。

 ……そう言えば母さんと父さんの馴れ初めとか聞いたことがなかったな。

 今まで聞く機会もなかったし、そう思うとすごく気になって来た。

 っていうか母さんの学生時代の話も聞いたことがないし。

 

「ではどうして結婚したのですか?」

 

 すると朱乃さんが俺たちが最も聞きたいであろう質問をする。

 母さんは朱乃さんの言葉に少しばかり赤面するも、少し間をおいて溜息を吐いた。

 

「……馬鹿、だったからかな?―――ってその話はもうおしまい!!」

 

 母さんはそれだけ言うと子供のような立ち振る舞いで立ち上がり、そのまま照れ隠しのようにリビングから出て行くのだった。

 ……結局のところ、全くもって理解不能な訳だけど―――ちなみに時間は22時。

 母さんの普段の寝る時間だった。

 

「……まどかさんの新しい一面を見た気がするわ」

「そうですね……でも照れるまどかさんもすごく素敵でした!」

 

 少し驚く部長とアーシアのキラキラとした目がとても印象的だったのは別の話である―――と、その時だった。

 突如、どこからか携帯電話の着信音が鳴り響き、耳を澄ますとそれは部長の服のポケットから聞こえていた。

 部長はそれに気付いて俺たちに目配りをして、俺たちは今いるリビングから二階の俺の部屋に移動し、そして部長は携帯電話ではなく、魔法陣を展開した。

 先程の音楽は俺たちが家にいる時に流れる着信音であり、もちろんそれは母さんの前では話しにくい事柄ということを示しているんだ。

 つまりは―――悪魔関連の依頼。

 または命令みたいなものだ。

 部長は魔法陣を介して連絡を取り始めた。

 

「―――そう。分かったわ。ソーナ、貴方は学校の防護をお願い。そちらは私達でどうにかするわ」

 

 部長が何かに頷いていることと、連絡相手がソーナ会長であることで俺は大体の事を理解した。

 ……部長は魔法陣を消して俺たちの方を向き、そして

 

「―――皆、仕事よ」

 

 その言葉と共に俺たちの表情は真剣なものへと移行した。

 

 ―・・・

 俺たちは今、廃工場の前にいる。

 先程、連絡によって祐斗を呼び寄せ、駒王学園の制服を身に纏う俺たち。

 俺の腕には白銀龍帝の籠手(ブーステッド・シルヴァーギア)が装着されており、これには色々な理由がある。

 まず一つは俺の生命力が今は不安定な事。

 覇龍の影響で今は俺は体全身に物理的な負荷のかかる赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)は少しの期間だけ禁止されている。

 俺は別に大丈夫と言っているんだけどアザゼルの奴やオーフィスが口をそろえて使うなと言っているから仕方ない。

 従来の禁手ならともかく、俺の禁手は従来のものよりも格段に力の幅が大きいから、その分だけ体への影響が大きいんだ。

 だけど精神的な面では安定しているという理由で今はフェルの神器を基本ベースに使っている。

 そして何より、俺たちが今この場所にいる理由とは簡単に言えば―――この街に侵入した禍の団(カオス・ブリゲード)の殲滅だ。

 これは今に始まったことではなく、最近に至って良くテロ組織の奴らがこの街を小規模だが襲ってきている。

 三勢力が集まるここを襲うのはある意味で当然と言えば当然なんだけど、それを処理するのはこの街を任されている部長率いるグレモリー眷属、学校の防衛を任されているソーナ会長率いるシトリー眷属。

 後はアザゼルとガブリエルさん、イリナに俺の眷属候補である黒歌ぐらいというわけだ。

 ドラゴンファミリーの力、特にオーフィスの力なんかは大きすぎて街そのものを破壊してしまう恐れがあるから使えない。

 

「フェル、神器の禁手進行はどうだ?」

『はい。現状、主様がシルヴァーギアを禁手に至らせるまでの時間は10分ほど。それ以上の短縮は更なる進化が必要です。あと数分もすれば禁手に至るかと』

 

 禁手進行ってのは俺が創った創造神器を禁手に至らせるまでの時間を意味している。

 そんな簡単に言っていることだけど、これがまた凄まじい作業なんだ。

 フェルの言っている至らせるまでの時間は確かに10分ほどだが、これは俺が何もせずに至らせるまでの情報を神器に与え続けなければならない。

 つまりその10分間は俺は全くの無防備な上に何も出来ないんだ。

 そもそも創造神器を禁手に至らすこと自体が無理なことなんだけど、俺は以前のソーナ会長とのレーティングゲームでこの籠手を禁手に至らすことが出来た。

 それにより得た創造神器の至らし方と言うのが、俺が今まで得てきた知識、経験を元に神器に全ての情報を叩き込み、そして俺が禁手に至った原因。

 つまり匙との戦いの想いを鍵として禁手に至らす。

 これがまた難しいんだ。

 そして難しい上に禁手に至らすと精神的ダメージが蓄積されるというデメリットも存在する。

 だけどその代わりに従来の赤龍帝の籠手の禁手とは違い、非常に身体的影響が少ない禁手である白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)を行使できるという圧倒的なメリットがあるんだ。

 今回はそっちを使うため、悪いがドライグには静かにしてもらおう。

 もう少しで俺も安定するはずだからな。

 

『仕方あるまい。鎧は今の相棒にとっては負担が掛かり過ぎる。それに加え白銀の腕ならば一気に倍増の最大限のエネルギーを得ることが出来る上に、更に身体的な負担が少ないと来ている。極限倍増の数には限りがあるがな』

 

 ……鎧が長時間専用の力とするなら、腕は短期決戦用の爆発的な力だ。

 腕の一定間隔で埋め込まれている宝玉を一つ代償にすることで俺の出来る極限の倍増の力を一気に補充できるというノータイムラグが腕の利点にして美点。

 宝玉の数は片方12個の合計24個。

 解放時間は一つにつき2分という制限があり、連続使用で48分しか戦闘を続けることが出来ないというのが欠点の一つか。

 まあ宝玉を二つ以上同時に使うことも不可能なわけじゃないけど……それにこの神器にはまだ切り札と言えるシステムが残っているから大丈夫か。

 

「さぁ、行きましょうか」

 

 部長を先頭にして俺たちは廃工場の中へと侵入する。

 薄暗い工場の中にはいくつかの人影と気配を感じる……十数名ほどか。

 軽く目を凝らすと、その十数名は黒いコートを羽織っており、更には神器の香りがする。

 つまり―――

 

「―――英雄派、というわけか」

「その通りだ、赤龍帝」

 

 俺の呟きに言葉を返す男の一人―――英雄派の一人。

 英雄派は基本的に人間で構成されたテロ組織の一つであり、そのメンバーには名高い勇者の末裔や英雄の血族の者、神器を宿す者によって構成されている旧魔王派が消えて禍の団の現状において最大勢力だ。

 当然、ヴァーリみたいな一切テロ行為に興味を示さない変わり者のチームを除いての話だけど。

 トドのつまり、結局は英雄派の連中が最近、俺たちにちょっかいかけているってわけだ。

 つまり俺の仲間の敵であるということ―――例え人間であろうと、容赦はなしだ。

 

「部長、外に強固な結界を張りましたわ。これで外への影響はありません」

「ありがと、朱乃―――英雄派の方々。悪いのだけれど、ここで貴方たちには退場願うわ。ここに来てしまったのが運の尽きと思ってもらえるかしら?」

「ほう……それはこれを見てからにしてもらおうか!」

 

 すると男の声と共に俺たちの周りには黒い人型モンスターが囲み、そして今にも襲い掛かろうという殺気を放つ。

 ……なるほど、面倒だな。

 

「……一匹一匹は弱いですが、これだけ数がいれば面倒です」

「なるほどね。質で勝てなきゃ量で行け、ってことかにゃん?」

 

 黒歌と小猫ちゃんは仙術で敵の数を知ってそんな風に解釈したみたいだ。

 

「…………最前線はゼノヴィア、祐斗、イリナさん、小猫で相手の人型モンスターを食い止めて。中衛には朱乃、私が魔力戦で援護して、アーシアとギャスパーは後方支援。黒歌はイッセーと共に相手を叩いてもらえるかしら?」

「私とイッセーだけで良いの?リアスちん」

「この中で実力順に分けるとそうなるわ。基本的にイッセーと黒歌には相手の強いのを相手にしてもらい、こちらの殲滅が終わればそちらに援護する―――良い?」

『了解!!』

 

 ……今の俺たちにはそれと言った一定のフォーメーションはない。

 そんなものを用意していたら簡単に相手に動きを予測されるからな。

 だからこそ基本的に融通の利く俺と黒歌を主な戦力として、そこから相手の中心となる戦力を潰していく。

 言わば実践を生き抜くために臨機応変に戦うというのが俺たちの今の戦い方だ。

 グレモリー眷属と黒歌とイリナの戦いとは生き残るための手段。

 さて―――フェル、行くぞ。

 

「『禁手化(バランス・ブレイク)』」

 

 俺とフェルが同時にそう呟いたとき、俺の右腕の白銀の籠手は光り輝き禁手の予備動作を開始する。

 薄暗い廃工場の中はその光に照らされて明るくなり、そして俺の右腕の籠手は消えてなくなり、その代わりと言うように俺の両腕に極太の機械的なドラゴンの腕が装着されていた。

 一定間隔で宝玉が埋め込まれており、その一つ一つから凄まじいまでのオーラを放つ禁手。

 白銀龍帝の双龍腕(シルヴァルド・ツイン・ブーストアームド)

 多くの可能性を持つ、俺の力だ。

 

「じゃあ黒歌―――背中を頼むぜ」

「了解、主様♪」

『むっ……黒歌さん、わたくしの専売特許を奪わないください!』

 

 そんな軽口を交わす中、俺たちの方に攻撃を放つ英雄派の男!

 炎のようなものを放ってくるが、恐らくは神器によるものだ!

 すると黒歌は何やら呪文を呟くと共に背後にいくつかの青白い球体が浮かび始める。

 

「……にゃん、にゃん、にゃん♪炎を蹴散らせ、水の陣♪」

 

 黒歌は凄い上機嫌に指でその球体を操作して、炎にその球体を当てると、球体は状態を変化させる!

 球体は俺たちを包み込み、それはまるで炎から俺たちを守るようなドーム状のものに変わった。

 そして黒歌は残りの残った球体を上空に飛ばし、それをそのまま上空で破裂させて雨のようなものを降らせる……あれは確か妖術の類だ。

 しかも黒歌が今まで死と隣合わせの生活で得た実戦向きの妖術に仙術を織りなした、いうなれば妖仙術。

 

「相手を捕捉で水の蛇♪―――さてさて、イッセー。後でご褒美頂戴にゃん♪」

「……はいはい。んじゃあ行きますか」

 

 黒歌の行動はあいつの呪文のような歌にある―――ようはあの雨には相手を捕捉するための力があるということ。

 俺も詳しい力は分からないけど、この暗闇でしかも相手の力の存在も理解不能だからな。

 無難に相手の動きを察知できる黒歌の実戦向きな術だ。

 黒歌は現状では破壊力に欠けてはいるものの、こんな超一流の小技をいくつも持っている。

 恐らく悪魔化でその破壊力も得るだろうというのが俺の見解だ。

 ―――じゃあ行きますか。

 

「くっ!!赤龍帝には気をつけろ!奴のパワーは俺たちを一撃で―――」

「―――もう遅いぞ」

 

 俺は指示を出している英雄派の一人の前に一瞬で辿り着き、そして腕を振り上げる。

 その速度に奴らは反応することが出来ず、俺は腕を振り下ろして奴を殴り飛ばした。

 激しい金属音と共に殴り飛ばされる英雄派の男。

 そして俺の存在にようやく気付いた神器持ちの英雄派は同時に俺へと攻撃を仕掛けてきた。

 ―――っとそこに俺の後方からえげつない質量の破壊力抜群の魔力の塊を感じ、俺は直前でそれを避けた。

 部長だ。

 部長による後方攻撃により相手の英雄派は体勢を崩し、そして俺はその英雄派のみぞおちを殴る―――と共に宝玉の一つを砕き、中に眠る力を解放する!!

 

『Full Boost Impact!!!!!』

 

 この禁手においての倍増解放の音声と共に俺の力はタイムラグなしで一気に上昇し、小さな身体的負担が掛かるも、鎧に比べたら幾分マシだ。

 

「がぁぁぁぁあああ!!!?く、くそ!この俺が―――」

 

 何かを言おうとした英雄派に対し、俺は拳をめり込ませた状態を止め、そのまま殴り飛ばした!

 ゼロ距離からの解放と衝撃に相手は耐えることが出来ず、俺が殴り飛ばした男は辺りの物を消し飛ばしながらぶっ飛んでいき、建物の外に飛んでいった。

 ……恐らく、体の骨が何本も砕けた。

 動けないはずだ。

 

「お、おのれぇぇ!!赤龍帝!!!光の槍よ、奴を射抜けぇぇ!!!」

 

 ―――ッ!!

 俺の付近にいる男の一人が光の槍のようなものを手に出現させ、それを放とうとしていた!

 まさか……いや、堕天使はない。

 なら光関係の神器というのが妥当か―――アスカロンは赤龍帝の籠手に収納されているから出すのにタイムラグが生じる。

 となれば―――心配は要らないか。

 

「―――雷光よ!!」

 

 俺がそう思った瞬間、その男へと雷光が一瞬と言える速度で放たれる!

 それは朱乃さんから放たれたものであり、そして当の朱乃さんは堕天使の翼と悪魔の翼を展開し、これまで以上の質量を誇る雷光を全身に纏っていた。

 ……違う、手に何かがある。

 あれ―――雷光による弓の具現化かッ!?

 朱乃さんは弓らしきものの弦に手を添えて、更に弦を引く。

 それにより何もない手の中に雷光が集まり、そしてそれは小さな振動と共に最小限の雷光漏れで収まっていた。

 ……あれが朱乃さんの新しい力、雷光による弓と矢の遠距離弓撃。

 

「くっ!奴が堕天使と悪魔の血を引く巫女かっ!!汚らわしい!!」

「あらあら別にあなたに褒めてもらわなくても、イッセー君に褒めて貰えればいい―――ですわ!!」

 

 朱乃さんは次の瞬間、弦を離してそのまま雷光の弓矢による一撃を掃射した。

 雷光の矢はそのまま光の力を使った男の肩へと直撃し、そして―――彼にとっての地獄が始まった。

 

「……?痛く、ない?」

 

 …………うわ、すっごい勘違いしてるよ。

 これから始まる地獄を知らない方が今は幸せか。

 ―――俺は即座にその男から距離を取り、そして次の瞬間。

 バリリリリリリリリリリリィィ!!!………………激しい電撃音が俺の耳に届いた。

 

「ぎ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!?!!?」

「……あらあら。少し品がありませんわ!」

 

 ……朱乃さんは楽しそうに笑いながら、光の神器を持つ男へと距離など関係なく雷撃を放ち続ける。

 あれは―――恐らくは最初の光速で放たれた矢が距離が離れているのにも関わらず、雷撃を正確に放てる理由なんだろうな。

 仮説を立てるなら最初の矢が相手を貫くことで相手の位置をロック、そして遠距離から雷を放ち続ける。

 ……恐らくあの男は光の神器があるから光に対しての耐性を持っているだろうが、雷に関しての耐性はないだろう。

 っていうかあんな無差別に攻撃を受け続けるとは思いもしなかっただろうけど。

 それよりも俺が気になるのは、未だに雷光の矢が男の方に刺さり続けているところだ。

 しかも朱乃さんはあの矢を放つために大きな力を溜めこんでいた……となると、恐らくあの矢は強い一撃を持つほどのものなのだろう。

 例えば一撃で相手を行動不能にしてしまうような……でもそれなら朱乃さんが男に雷を放ち続ける理由はないと思う……けど朱乃さんだしなぁ。

 

「うふふ、うふふふふふふ!!あぁ、良いですわぁ……久しぶりに苦しむ顔……うふふ……」

 

 ……うん、間違いなく楽しんでいるだろう。

 だって顔が艶やかな上に頬が上気して真っ赤になっているんだからさ?

 これこそ味方には優しく、敵には容赦ないオカルト研究部の副部長、ってか?

 

「でも流石に数が多いか」

 

 俺はすぐさま異様な数の黒い人型モンスターに囲まれる……面倒だな。

 今回の極限倍増は身体能力に当てているから魔力は余り使えない―――これもデメリットの一つだ。

 宝玉一つにつき上げれる力は魔力か身体能力。

 当然、二つ使えば両方とも均等に倍増出来るけど―――仕方ない。

 

『Full Boost Impact Count 2!!!!!』

 

 ……これは新しい音声だ。

 宝玉は全部で24個。

 一つ使うごとに音声の最後にカウントが出て来るんだ。

 とにかく俺はそれを魔力の倍増に使い、そして―――白銀の腕に赤い魔力を纏わせ、その場で一回転の動きをしながら腕を振り回した。

 それにより俺の近くにいたモンスターは腕の攻撃力で薙ぎ払われ、更に少し離れたところにいる敵は腕の赤いオーラが乱れ撃ちのように放ち、消し飛ばした!

 これは仲間を信じてこそ出来る技だけど……そう思うのも野暮か。

 俺の放った魔力の乱れ撃ちは仲間が全員察知してくれて、それを完全に避けて避けた先の敵にぶつかる。

 アーシアはゼノヴィアが守り、俺は黒歌と背中合わせになった。

 

「イッセー、少し妙だと思わないかにゃ~?こんだけ倒しているのに未だにモンスターが減る気配はないどころが、次々に増えてく』

「……これも神器によるものなら、つまりそれに相応する誰かが隠れてモンスターを創ってるってわけか―――ギャスパー!!」

 

 俺は離れたところからギャスパーの名前を叫んだ。

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

 ギャスパーは少しビクッとしながらも敬礼をして立ち上がる。

 ギャスパーの足元には何かの計測器的なものがあり、そこから何かが表示されていた。

 

「あ、出ました!あの光の槍の神器は光攻撃系神器、青光矢(スターリング・ブルー)です!それとこの黒い人型モンスターを創るのは傀儡の黒人形(ダークネス・ドール&ドール)です!!」

 

 ギャスパーの足元にあるあの計測器はアザゼルの創った神器を判別するための装置のようなものだ。

 用は敵の力を分析し、それが神器だったらその能力やら特性を検索し、表示するというものだな。

 

「なるほど……どちらとも神器か―――黒歌、すぐに小猫ちゃんとそっちを当たってくれ」

 

 俺は黒歌に指示を出すと、黒歌は頷いて小猫ちゃんの所に向かう。

 仙術の使える二人はそのあの黒い奴の検索をしてもらう。

 今回の事は俺と部長は役割を分けている。

 俺は先陣に立って戦うのと、役割を指示する。

 部長は後方から細かな役割を指示し、更にどんな攻撃をしたら良いかを提案、周りに行使させる。

 

「祐斗!黒いモンスターはゼノヴィアとイリナさんに任せなさい!あなたはイッセーと合流して旧魔王派を叩いて!朱乃は私と一緒に随所で後方援護―――って早くその英雄派を倒しなさい!」

「……あらあら。お楽しみはこれからだと言いますのに―――仕方ありませんわ」

 

 すると朱乃さんは指をパチンと鳴らした―――既に光の神器の男は黒こげで戦闘不能。

 だが朱乃さんの合図のような指の音で次の瞬間、男の肩に刺さる矢が分解し、雷光が男を包み、そして―――バチン!!!

 とても力強い電撃の音と共に、男は完全に戦闘不能になった……あれ、初めからしてたらそれだけで戦闘不能になるだけの電圧だよな?

 ―――怖すぎるッ!!

 

「……あと数人だけか」

 

 俺は両腕を構えて、残りの英雄派を睨む。

 すると祐斗が俺の隣に立ち、そして相手を共に睨みつけた。

 

「……祐斗、俺が少し時間を創るからお前はエールカリバーを二振り創って戦え」

「それは相手を評価しての必要だからかい?」

「…………いや、もう面倒だから一気に終わらすためだ」

 

 俺がそう不敵に笑うと、祐斗も俺の真似をするように笑う。

 そして俺から一歩離れ、そして腕をクロスさせて言霊を言い始めた。

 

「不味い!あの騎士はエクスカリバーを創る者だ!!先に奴を片付けろ!!」

 

 するとその発言者である男から影のようなものが伸びて来て、そしてその影から先ほどまで目の前にいた他の英雄派が現れ、祐斗を襲おうとした―――っとその時、イリナが後方から光の剣を投げつけて英雄派の動きを止める!

 

「この天使である私を忘れて貰っては困るわ!イッセー君、木場君!!助太刀するよ!!」

 

 イリナは一対二枚の純白の翼に光を溜め、そしてそれを薙ぎ払うように英雄派に振るった。

 それにより祐斗に攻撃を仕掛けようとしていた二人は反動で飛ばされ、そして俺はそれを見計らって両腕の宝玉を二つ砕く!

 

『Full Boost Impact Count 3,4!!!!!』

 

 極限倍増を両方とも身体強化に回し、俺は瞬間移動のような速度で空中にいる二人に近づいて地面に向かって殴り飛ばすッ!!

 それにより殴った英雄派は地面にめり込み、身動きが取れなくなったところで俺は自前の魔力弾をめり込んでいる英雄派に放った。

 

「させるものかぁぁぁ!!」

 

 その瞬間、先ほど影を操っていた男は俺の魔力弾へと影を伸ばす―――あいつの神器は影を操る能力か……っ!!

 俺の魔力弾はその影に吸収され、姿を消す―――違う、消したんじゃない!!

 俺は自分の魔力の波動を感知し、その感知した方向を見るとそこにはアーシアの姿がッ!!

 

「やらせるかぁぁぁぁぁああ!!!」

『Full Boost Impact Count 5!!!!!』

 

 俺は極限倍増が終わっている故に更に宝玉を一つ砕き、更に騎士へと昇格してアーシアの防衛へと急ぐ!

 恐らくあの神器は影で飲み込んだものを任意の影に移動できる能力があるはずだ!

 直接的な力はない完全なカウンタータイプの神器!

 俺たちが苦手とするところの力だ―――だが流石に影に転移するまでに時間が掛かる弱点があるみたいだ。

 そう、神器は完全ではない。

 絶対にそれぞれの神器には弱点が存在しており、そこを突けばどんな力も無力化出来る!

 

「アーシア、こいつを受け取れェェェェ!!!」

 

 ―――俺は砕いた宝玉の中の極限倍増を集結させ、それをボールを投げるようにアーシア……の胸に輝く白銀の鈴と鍵がくっ付いているネックレスに放った!

 俺の極限倍増は何も自分だけの攻撃武器ではない!!

 これは他者へと倍増のエネルギーを送ることが出来る!

 更にフェルの力で創った神器が故に、元は俺の力で創ったアーシアの胸に輝く、今は力を失ってただのアクセサリーとなっている祝福する鈴の音鍵(ブレッシング・ベル・ザ・キー)

 それに俺の倍増によるエネルギーを与えると、一時的にその力を回復するんだ!

 そしてあの鍵の力は―――アーシアを傷つける存在からアーシアの身を自動的に守る音の防壁だ!

 アーシアの影からは俺の魔力が飛び出て来るも、それは音の壁による阻まれて塵となった。

 

「なっ!?」

 

 流石の影使いもこの事は予想外だったようで、素直に驚いている―――そんなところ悪いが、既に祐斗は準備万端だ。

 

「―――聖と魔、二つの聖魔によって二重の形を成す」

 

 祐斗は今ではすぐにでもエールカリバーを創ることが可能だ。

 だが時間を少し掛けることで今の祐斗はより本物のエクスカリバーに近い力を誇るエールカリバーを創ることが出来る!

 それは一定時間すると消えてしまう上に祐斗にしか扱えない剣だけどな。

 当然、エールカリバーは量産は絶対に出来ないらしい。

 ―――祐斗の手にある二振りのエールカリバー。

 

「君は僕が相手をしよう。今のイッセー君の攻撃を受け流したことから大体の力の範囲は見極めた。影で物体を飲み込むことがその力の絶対条件―――ならば君が反応できない速度を見せるよ」

 

 祐斗はエールカリバーを二本構えて、少し息を吸った。

 影使いは自分の体の周りに影を展開しており、恐らくそこから攻撃を受け流すようだけど……次の瞬間、祐斗は動き出す!

 

真・双天閃(エール・ツイン・ラピッドリィ)!!!」

 

 祐斗の言霊によりエールカリバーの能力は天閃の力に装填される!

 それにより祐斗の速度は二重に底上げされ、それこそ俺が今まで見たトップクラスの悪魔たちの速度にも引けを取らない神速を見せた!

 影使いは一切の反応が出来ず、そして―――祐斗の二振りの剣により斬り伏せられた。

 それにより地面に倒れ、そして俺たちは最後に黒い人型モンスターに囲まれる。

 

「……周りの人形はまだ消えない、か」

 

 今は黒歌と小猫ちゃんが仙術による捜索をしてくれているが、術者は一体どこにいるんだろうな。

 ―――そう思った瞬間、俺の耳に小猫ちゃんと黒歌の声が響いた。

 

「イッセーにリアスちん!敵の人形遣いはその男の影の中にいるにゃん!!」

「…………えい」

 

 二人の声は廃工場の上にある鉄格子の柵の所から発せられ、そして小猫ちゃんはその上の柵から飛び降り、かかと落としで男の影へと蹴りを放った。

 

「あだっ!!?」

 

 ……思ったより簡単にその術者は影の中から這い出て来て、そして小猫ちゃんはその男の顎を思い切り蹴り飛ばす!

 男は上空に浮かび、すると今まで俺たちを囲んでいたモンスターはその男の防衛に向かおうとした。

 

「―――消し飛びなさい」

 

 部長の冷徹な言葉が繰り出された瞬間、部長の手の平から小規模ながらも強力な滅びの魔力が放たれる!!

 それはモンスターを紙の如く消し去って行き、そして勢いを残したまま―――人形の神器の男を消し飛ばした。

 男は工場の壁に叩きつけれて意識を失う―――命が残ったのは運が良い。

 あのモンスターがあいつを守らなければ死んでいたからな。

 ……出来ることならこいつらは生け捕りにして、冥界に送りたいんだ。

 冥界で事情聴取をしないといけないらしいからな。

 これで全てを殲滅した、か。

 

「ふぅ……フェル、神器の解除…………っと、この歌声は」

 

 俺が白銀の腕を解除しようとした時、突如俺の傍から心地の良い歌が聞こえた。

 ……アーシアだ。

 アーシアの周りには碧色の綺麗なオーラが包んでおり、アーシアは以前俺に歌った癒歌を唄っている。

 ―――微笑む女神の癒歌(トライライトヒーリング・グレースヴォイス)

 回復の力を”歌”という形で歌うことにより体の傷を癒し、更には心までも癒す力。

 更にこの歌の効果範囲は、「この歌を心地良いと感じる者全員」だ。

 一件、これは相手すらも回復してしまうような力だが、実際にはそんなことはない。

 厳密に言えばその可能性はないのだが、俺たちと相対するテロ組織(・ ・ ・ ・)は禍の団。

 そう、テロ組織なのだ。

 要は俺たちを殺そうとする敵であり、この歌を心地良いと感じるはずがないんだ。

 当然、ヴァーリみたいな例外もあるわけで、でもこの歌を心地良いと感じる奴は大抵、その身に善の心を持っているということ。

 まずテロ組織にはそんな奴はいないだろうな。

 ……ともあれ、歌により俺たちが今回の戦闘で負った傷は見る見る内に消えていき、そしてアーシアが歌い終わる頃には全員が元の万全の状態になっていた。

 一度に歌の届く者、全員を回復することが出来るアーシアの禁手。

 ゲームでは恐らく、あまり機能しないかもしれないが実践においてこれほどの武器は中々ない。

 

「さて、後は倒した英雄派を冥界に送るだけだけど―――」

 

 ―――ぞくっ。

 その時、俺は何とも言えない悪寒に襲われた。

 なん、だ……この悪寒は―――そう思った時だった。

 

「―――ッ!!イッセー、今すぐそこから離れるにゃん!!!」

 

 突然、廃工場の底抜けの上の階にいる黒歌がそう叫んだと思うと、突如殺気をすぐ傍から感じた……っ!!

 俺はその場で後ろに飛ぶと―――今まで俺がいたところには、これまで見かけなかった少女の姿があった。

 ……ボサボサと整えられていない銀色の髪、まるで奴隷服のように何の模様もないボロボロの布に身を包む少女。

 手からは異様に鋭い爪が生えており、ズボンの類も相当なまでにボロボロだ。

 ―――俺が、気配すら察することが出来ない?

 

「失敗………………命令、遂行……」

 

 その少女の存在に気付いた俺以外の眷属はその少女から距離を取ると、少女はふらふらとした体つきで俺を見てきた。

 ―――これまで見たことのないほど光沢のない瞳だ。

 無表情、という言葉がオーフィス以上に似合う奴を初めて見た。

 その少女は半眼で俺を見ながら、そして次の瞬間、俺の視界から消えるッ!!

 

「は、速いッ!?」

 

 俺は何とか目でその少女を追うも、あまりにも速すぎるッ!!

 下手すれば祐斗よりも……いや、祐斗ですらも凌駕する速度だッ!!

 これはこの状態―――白銀龍帝の双龍腕を解除した状態では話にならない!!

 少女は俺の目の前に再びたどり着き、俺の腹部に鋭利な爪で襲い掛かる!

 ―――ドライグ、もう体の心配とかそんな場合じゃない!!

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 俺は瞬間的に籠手を出現させ、そのまま一気に鎧を身に纏う!

 それにより少女の攻撃は―――なっ!?

 その爪は堅牢な鎧を貫いている……ッ!?

 

「なん、だよッ!!うぉぉぉ!!」

 

 俺は少女の手を掴み、そのまま掴んだまま空中に投げ飛ばす!

 だけど―――少女は空中に魔力の壁のようなものを展開し、そのままそれを足場に神速で移動した!

 ―――正に、獣。

 あれは英雄派なのか!?

 しかもあいつは俺だけを狙って攻撃してきている……しかも無表情と来た。

 

「はぁ、はぁ―――ドライグ、こいつにはアクセルモードしか手がないぞ」

『……ああ。認めたくはないが、この者の速度はまだ本調子ではない相棒では追いつけない。アクセルモードで何とか出来る、っという具合か』

 

 フェルの力はまだ創造力が十分に溜まってないから使えない。

 それに今は赤龍神帝の鎧(ブーステッド・レッドギア・スケイルメイル)は使っている暇はない。

 ……すると少女は高速移動を止めて、先ほどの影の男が倒れるところに舞い降りた。

 腕には―――人形の神器の男!

 まさかあいつは奴らの回収に来たのか?

 でも近くに炎の神器の使い手と光の神器の使い手がいるにも関わらず無視している。

 ……まさか

 

「さっきの嫌な予感はお前じゃなくて―――そっちの神器使いの方か!?」

 

 俺は少女の近くにいる二人の神器使いを見ると、そこには何か変化が起き始めていた。

 影の方は黒いオーラを体中に包み、人形の方は幾つか人形が生まれている。

 ……まさか、この感じ―――禁手っ!?

 

「不味い、奴らが転送されるぞ!!」

 

 ゼノヴィアがそう叫んだ時、男二人の周りに見たことのない魔法陣が描かれる―――そして次の瞬間、男は二人とも姿を消した。

 

「…………なるほど、禁手に至りそうだったから、転送されるまでの時間を稼いでたってわけか……ッ!!」

 

 してやられた―――それに何より、この少女の実力が予想外だった。

 あそこまでの速度と、俺の鎧を突破するほどの鋭利な武器。

 人間なのか?だけど少なくとも悪魔の雰囲気はしない―――なんだ、あの少女は。

 

「……兵藤…………一誠。紅蓮……龍……身、宿す……者」

「……?」

 

 俺は少女を見ているうちに、呂律が回っていないところに疑問を持った―――この子はまるで、操られているみたいだ。

 あの瞳の光沢のなさ―――分からない。

 するとその時、少女は霧によって覆われた―――まさか、絶霧(ディメンション・ロスト)か!?

 

「……お前は何者だ!お前は何故、俺だけを狙う!!」

 

 俺は少女が消える前に何とか話しかける。

 だけど返答は帰ってこない……だけど少し経って口が少しだけ動いた。

 

「……メルティ…………アバンセ」

 

 ―――その言葉と共に少女……メルティ・アバンセは霧の中に溶け込むように消えるのだった。

 ……この空間に残る何とも言えない空気が流れる。

 結果的に相手の一部に逃げられたものの、英雄派の一端は確保できた。

 部長はその英雄派を冥界に送ると共に、今回の任務は終わる。

 だけど俺はこの時、二つの言葉を思い出した。

 ―――グレモリー眷属。一つだけ忠告しておこう……英雄派には気を付けた方が良い。旧魔王派とは違い、一筋縄では行かないはずだからな

 ―――くれぐれも、英雄には気をつけるっすよ、悪魔たち~……じゃ、アディオス♪

 ……ヴァーリとフリード。

 この二人の忠告が今になって俺の頭に焼き付いてきたのだった。


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