ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
『Side:アーシア・アルジェント』
私、アーシア・アルジェントがディオドラさんに連れ去られてから、結構な時間が過ぎました。
私はディオドラさんに連れ去られ、まず最初に鎖を解かれてから良く分からない装置に繋がった枷を付けられ、そして当のディオドラさんはゲームを上から眺めるように空中にモニターのようなものを出現させて見ていました。
最初の方は当然、私の大切な仲間を嘲笑いながら見ていたのですが、その様子が変わったのはゲームが始まってすぐの事でした。
……小猫ちゃんとギャスパーさん、ゼノヴィアさんの圧倒的な戦い。
ディオドラさんの眷属の皆さんは手も足も出ず敗退し、そしてその後に続く部長さんたちの戦いもすぐに終わりました。
―――その姿を見て私は少し涙が出ました。
嬉しかったんです……私のために戦ってくれる皆さんが、どうしようもなく大好きで。
だからこそ、私も戦わなくてはなりません。
イッセーさんが、皆さんが戦っている姿を見て私はそう思いました。
……っと、その時でした。
「ははは。全く、あいつらは本当に役に立たないね―――ま、結局は僕に堕ちた聖女じゃあそんなものってことかな」
「―――今、何と言いましたか?」
私はディオドラさんの言葉を聞き逃しませんでした。
―――僕に堕ちた聖女?
その言葉を言った時のディオドラさんの顔は気味が悪く、今すぐにでも逃げ出したい気持ちになりました。
するとディオドラさんは私の方を同じような顔で見てきて、そして近づいてきました。
「ああ、そうだね……丁度良い頃合いだ―――あんな神父崩れの屑でも、時間稼ぎくらいにはなるだろうから」
ディオドラさんがモニターを見ながらそう言うと、そこにはイッセーさんとフリード神父の姿がありました。
お二人が戦っている光景が広がっており、あのイッセーさんが押されていましたが……今はそのことが頭に入ってきませんでした。
「アーシア。僕はね?君が好きなんだよ―――もう、聖女なんて位を堕とさせて、ぐちゃぐちゃにしたいくらいね」
「………………何を、言っているんですか?」
私は近づいてくるディオドラさん―――その男から離れるために動こうとしますが、枷で繋がれているため動けません。
そして言葉を続けるその男は気持ち悪い笑みを浮かべながら……話し始めました。
「君は騙されてたんだよ、僕に!僕はね、信仰心の強いシスターとか聖女とか、そんな女の子を堕ちていく姿が大好きなんだよ!そしてその表情が溜まんなくてねぇぇ……僕の眷属の僧侶の男以外は全員僕が堕としたシスターや聖女なんだよ」
「じゃあ……私があなたを助けたのは……」
「そうだよ―――全部全部、僕の計画さ。考えてみれば分かるだろう?あんな教会に悪怪我をした悪魔が現れるわけないじゃないか!なのに優しい君は面白いほど僕の思い通りに僕を治療し、そしてそのまま追放された……最高だったよ!!君のあの時の表情!!涙も出ず、呆然と絶望する君は!!―――なのに、君はどうしてあのゴミのような赤龍帝と出会ったんだろうね」
―――その男の話は、私にとってとても悲しいものがありました。
私が追放されたのも、あんな目に遭ったのも、全てはこの悪魔のせいです。
でも…………私は悲しさよりも、怒りの方が強かったのです。
「イッセーさんを悪く言うのは止めてください―――イッセーさんは、あなたのような人とは違いますッ!!!!」
―――私にとって、イッセーさんを馬鹿にされることの方が嫌でした。
イッセーさんのことを何も知らない人に、私の大好きな人を馬鹿にされることが耐えれませんでした。
だから私は声を荒げてそう言いました。
「―――その顔、どうして涙を見せてくれないんだい?君にとって神様を信じる信仰心は未だに残っているはずだろう?それを僕が奪ってあげんたんだよ?なのに―――どうしてまだそんな強い瞳をしているんだ!!!」
その男は私に近づいてきました―――息を荒げて、怒り狂うように。
「もう良い!!君はここで僕が徹底的に犯して、絶望させてあげるよ!!どうせ赤龍帝は手を出していないんだろう!!だったら君の処女は僕が奪って君を僕の物に―――」
その男が私に触れようとした―――その時でした。
チリン…………そのような音が響いて、私の周りに綺麗な白銀の膜のようなものを展開しました。
美しい、綺麗なイッセーさんの力……良く見ると、それは私の胸元にあるイッセーさんが私にくれたネックレスから白銀の光が放たれ、私を覆っていたのです。
―――イッセーさんはいつも私を守ってくれます。
優しい表情で、自分も一人では耐えきれない何かを抱えているのに……それなのに笑顔で誰かを助け、時には誰かを叱って奮い立たせ、そして最後は皆を守ってしまう。
私が神の不在を知った時も私を抱きしめてくれました―――だから、私はここで一人泣いて、この男の思うがままになりたくはありませんでした。
男の手は白銀の膜によって跳ね返され、その触れようとした手からは何かが焦げるような煙を上げていました。
「……はっきり言います―――私は、貴方が嫌いです」
私は自分の意志をはっきりとその男に示しました。
普段ならこんなことは何があってもしないでしょう……誰かが悲しむ顔なんて見たくないですから。
でも私は言わなければなりません。
―――グレモリー眷属として、イッセーさんを想う一人の女の子として。
「な、に……言っているんだい?」
「嫌いです。イッセーさんを馬鹿にするあなたが、人の想いを簡単に踏みにじるあなたが―――嫌いです」
私がそう言うと、その男はフルフルと肩を震えさせる。
……魔力が体から湧き出て、それは怒っているようにも見えました。
―――でも、自分の本心は曲げたくないです。
私はその男の話を聞いても、全然悲しくありませんでした。
確かに教会を追放された時は心が潰れそうになるくらい辛かったです。
毎晩のように泣いて、泣いて……そしてそんな時にイッセーさんに出会いました。
もしも……もしもこの男に騙され、そして悲しい想いをした眷属の皆さんがイッセーさんと出会っていれば……きっと幸せになれたはずです。
助けてくれたはずです。
―――私はそこで気付きました。
私が真実を知って、それでも悲しくなかったのはイッセーさんを悪く言われたことに対する怒りだけじゃなくて……その眷属さんたちが自分の事のように思えて、彼女たちのことを想うと怒ってしまったから。
そして―――イッセーさんを信じているから。
「私はグレモリー眷属の『僧侶』、アーシア・アルジェントです!力なんてないです。いつもイッセーさんや皆さんに守られてばかりです―――だけど戦います。例え力が無くても、あなたを心の底から嫌うことで戦います!!」
「……うるさい」
「私はあなたの言葉になんて屈しません!絶望だってしません!泣いてあげません!!―――それが私に幸せをくれたイッセーさんに対する気持ち―――私は、イッセーさんを愛していますから」
その想いが重くたって構いません―――きっと、イッセーさんは苦笑いをしながら、それでもありがとうと言ってくれるから。
私はイッセーさんに包まれているから……この白銀の膜のような光のように。
「うるさい!!何が赤龍帝だ!!何が愛しているだ!!何故君は僕の物にならない!!なぜそこまで強く居れる!!ふざけるなふざけるなふざけるなぁぁぁぁぁ!!!」
その男は辺りに向かって魔力のようなものを放つと、それは私の方にも飛んできました。
それは白銀の膜によって防御され、それを見た男は更に目を充血させて鬼気迫る様子で私を見ました。
「薄汚いドラゴンが僕の邪魔をするなぁぁぁぁ!!!僕は、僕はアスタロト家のディオドラ・アスタロトだ!!!」
その男は怒りながら次は集中的にすごい量の魔力を塊で私に放ってきました……ッ!!
その風圧で私は飛ばされそうになりますが、イッセーさんのお守りの力で何とか踏み留まるも、その威力に負けたのか私の服の左腕のところの一部が吹き飛んで、私の体に少しひどい火傷のようなものが生まれました。
―――痛い。だけどイッセーさんに包まれているから気になりませんでした。
「ははははははは!!どうだ!!あの男の力なんて僕の力の前では無意味!!アーシア、分かるだろう!?僕の方が君を幸せに出来る!!気持ちよく出来る!!だから」
「―――無理です。イッセーさんはあなたなんかには負けません!!もう……遠慮なんてしてあげません!!!」
私には戦う力はありません。
だから私の本当の戦いは、この男の言葉に負けないこと。
自分の気持ちを曲げないこと。
想いを……言葉であの男にぶつけることです。
「うるさい!!僕の思い通りにならないなら―――死んでしまえばいい!!!」
「死んであげたりなんてしませんッ!!私は……イッセーさんと幸せになるんです!!」
その男から放たれる魔力の塊の攻撃はお守りが護ってくれますが、それを超える力は全て私の体を傷つけていきます。
……だけど屈したりしません。
眷属の皆さんは日が経つごとに強くなっています……私には確かに戦う力は皆無です。
でもイッセーさんは私を眷属一の努力家、いつも頑張っている頑張り屋さん。
いつも俺を癒してくれる優しい子……色々な言葉を私に向けてくれます。
だから私はイッセーさんに、自分の強さを見せるために―――戦います!!
「黙れぇぇぇぇ!!!汚いドラゴンに汚染された汚いアーシアなんて!!」
「―――汚いのは、あなたです!!!」
……私がそう言った時、その男は動きを止めました。
私の方を呆然と見て、目を見開いていました。
「私達、シスターにとって……信仰心とはとても大切なものでした。確かに神様はもう死んでいます……だけどあなたは平気でその信仰心を踏みにじり、大切な想いを壊して嘲笑う―――汚いのはあなたです!」
……私が言いたいことを全て言い終えると、その男は息を乱しながらも私をひどく呪うような目で睨みました。
私はその目に負けないように、じっと拒絶を示すようにその男を睨みました。
―――その時、その場にイッセーさんたちの姿が見えました。
「―――よぉ、糞悪魔。待たせて悪いな…………さぁ、覚悟しろ」
イッセーさんがそう言うと、その男はイッセーさんを睨みました。
イッセーさんはふと私の姿を見たり、辺りを見渡した後にもう一度、その男を見ました。
―――その光景を私はもう二度と忘れることはないでしょう。
「あぁ、何だ、もう来たんだね―――丁度いい、僕の心をここまで掻き乱したアーシアを絶望させるために君を殺すよ!!!赤龍帝!!!!!」
―――私はあんな姿のイッセーさんを見たことがありませんでした。
「アーシア。助けに来たよ」
いつも優しく、笑顔のイッセーさんが
「イッセーさん…………はい!信じていました!!」
―――私も一瞬、怯えるほどの紅蓮と呼ぶべきオーラを出しながら、今までにないほど怒っているその姿を。
声は、表情は優しいものでした。
そう……私に向けるものは。
イッセーさんは私に優しい表情を見せてくれるから、私もイッセーさんに出来る限りの笑顔を見せました。
イッセーさんはそれを笑顔で返してくれました。
「黙れ、赤龍―――」
その男はまたイッセーさんに暴言を吐こうとしたのでしょう……ですが、それは叶いません。
―――イッセーさんは信じられないほど無駄のないような綺麗な動きで、ですが信じられないほど激しい一撃をあの男に与えたからです。
聞こえてはいけない打撃音が聞こえた後、イッセーさんは地面に激しくバウンドをしながら倒れるあの男に静かに言い放ちました。
「ディオドラ―――――――――お前、もう生きている必要はないだろ?」
その一言は普段のイッセーさんを知っている人からしてみればあり得ないほどの低い声音でした。
―――ディオドラ・アスタロトという悪魔は、怒らせてはいけない人を怒らせてしまいました。
優しいドラゴンと呼ばれて慕われて、最高の赤龍帝とドライグさんやオーフィスさんに称される私が知る一番優しい人。
そんなこの世で一番怒らせてはいけない人を―――怒らせてしまったのでした。
『Side out:アーシア』
―・・・
ディオドラは呆気なく俺に殴り飛ばされた。
俺は特に力を強化したり、魔力を使っていない。
そう―――黒歌を助けた時にあった、まるで体のリミッターが外れたような感覚だった。
「イッセー、私たちも戦うわ!!あんな外道をあなた一人が―――」
「部長たちは、そこで見ていてください」
俺は全員でディオドラを叩こうと言う部長の言葉を遮り、後ろを少し振り返りそう言った。
皆の気持ちは痛いほど分かる―――だけどこれは俺の我が儘だ。
皆を……あの屑悪魔に触れさせたくない。
だから俺は一人であいつと戦う―――完膚なきまで、二度と転生なんてできなくなるくらい。
「安心してください―――俺がぶっ潰しますから」
俺がそう言うと、皆は俺を見て一瞬ビクッとしながらもそれ以降は何も言わず、そして俺は一歩前に出てディオドラを睨む。
奴は俺に殴られた影響で地面を大きく削りながらも、上半身を上げながら殴られたところを抑えている。
―――もう、限界だ。
「ドライグ、フェル……俺ってさ―――こんなにも怒ることが出来るとは思ってなかったんだ」
『そうだな―――ああ、そうだとも。優しい相棒はいつも誰かを守り、想う』
『故に我らは主様をお慕いし、そして共に力を合わせています―――あの悪魔を、消しましょう』
ドライグとフェルの言葉を受け取り、俺は二人の怒りの分まであいつを―――ディオドラ・アスタロトを
「潰す」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』
『Reinforce!!!』
俺は即座に
再びの神帝化―――いかに俺の肉体が強化されているかを物語っているな。
「立て。そこの糞悪魔」
「赤、龍帝ッッッ!!!!!」
するとディオドラは不意打ちのように俺へと膨大な魔力弾を放った。
―――なんだ、それ。
俺は不意に落胆し、手の平をその魔力弾に向けた。
魔力弾は俺の手の平へと直撃し、辺りにはその影響で煙が舞う。
「ははははは!!!なんだ、それは!!!見かけ倒しだね、赤龍―――」
「はぁぁ……防御も要らないな、これ」
……俺は高笑いを起こすディオドラに現実を突きつけるようにそう呟き、手の平から魔力弾をディオドラに放った。
一直線の、一切の力を込めてない最低クラスの威力しかない弾丸。
しかしそれはディオドラの腹部を貫いた。
「ガハッッッ!!??!な、に?」
「―――来いよ、上級悪魔」
「だ、黙れぇぇぇぇぇ!!!!」
ディオドラは俺へと向かい乱雑に魔力弾を放ちながらも近づいてきて、接近戦に持ち込もうとした―――俺は魔力弾を同じ魔力弾で全て相殺し、更に近づいてくるディオドラの懐に一瞬で辿り着き、更に胸倉を掴んで地面に叩きつけたッ!!!
地面に叩きつけられたディオドラはそのままバウンドをし、更に空中に浮くのを見て俺は連射型の魔力弾を放つ!!
ドガガガガガガガガッッッ!!!!……機関銃のようなその弾丸は全てディオドラに直撃し、更に後方にディオドラは飛んで行くも、俺はそれを神速で追いついた。
「なんだ、それは!!なぜ僕の攻撃がぁぁぁ!!!」
「―――何故?そんなのも分かんねぇのかよ、この糞悪魔!!!!」
俺は喚くディオドラを空中で掴み、更にディオドラを上空にぶん投げた!!!
それに成す術もなくディオドラは空中で無防備に浮かび、俺は空中で足蹴りの乱舞を放ち、神殿の柱にディオドラを叩きつけた!!
―――神帝の鎧も必要ない。
無限倍加も必要ない。
そもそも神器がこんな奴相手に必要なのか?
そう思うほどに……ディオドラ・アスタロトは弱かった。
「―――ドライグ、フェル。力を全て解除だ」
俺は鎧を解除し、一歩ずつディオドラに近づく。
―――フリードの戦いは小回りが利くという面から鎧は使わなかった。
それはフリードが強かったからこそした行動であり、決して慢心でも油断でも手加減でもなかった。
相応の戦い方、より適した戦い方……だけど、こいつにそんな敬意は必要ない。
「悪いな。こいつはお前たちの力を使うことも俺は拒否する―――二人の神器にすら触れさせたくない」
俺はそう言うと、二人は何も言わなかった。
「なにを言っているッッ!!僕を舐めるなぁぁぁぁぁ!!!!!」
ディオドラは馬鹿の一つ覚えのように魔力弾を放った。
一つの大きな弾丸―――だけど一切の脅威はなかった。
覚悟の無い一撃、敬意を払う意味もない。
「―――お前には慢心をしてやる価値もないッ!!!!」
俺はその魔力弾を―――拳で払い消した。
「ディオドラ・アスタロト。お前は俺を怒らせた―――お前には神器も何も必要ないッ!!俺がこの拳で―――消し飛ばす」
俺は体に魔力を過剰供給し、一気に身体能力を上昇させた。
―――オーバーヒートモードを始動させ、そして俺の身体能力は過去最高レベルに上昇する。
俺は一瞬でディオドラの元にたどり着くと、その首を思い切り掴んで締めた。
「がぁッ!?」
「なぁ、ディオドラ。苦しいか?―――アーシアはもっと苦しかった!!!」
手をぱっと放すと、俺は両腕に力を込めてディオドラの顔面を何度も殴り、殴り、殴り飛ばしたッ!!!
俺の体からは紅蓮のオーラが湧き出て、ディオドラは魔力弾を行使しようとするもそれをさせない。
「お前に騙されて!!魔女と呼ばれて!!優しいアーシアを傷つけた!!!ふざけんじゃねぇ!!!―――ふざけてんじゃねぇぞ、ディオドラァァァァァ!!!!!!」
俺は拳に魔力を篭め、ディオドラを殴り飛ばしたッ!!
柱は完全に折れ曲がり、ディオドラはぐったりしながらもすぐに立ち上がり攻撃をしようとする。
「僕は上級悪魔だ!!!お前のような汚い赤龍帝に誰が!!!」
「―――雑魚が粋がるんじゃねぇよ!!!!」
俺はディオドラの口元に魔力弾を放つ!!
ディオドラはそんな直線な攻撃も避けれず、口から血を吐き出した。
「何が上級悪魔だ、何がアスタロトだ!!!お前がアガレスに勝てたのも!!」
俺はそんなことはお構いなしにディオドラに近づき、そして腹部を殴る!!
「全部他人からの借り物じゃねぇか!!!お前に上級悪魔の資格はない!!!」
何度も何度も殴り飛ばす!!
例えこいつの体が限界を迎えようが、俺は殴ることを止めない!!
何だって―――こんな奴がアーシアを傷つける!!
何だってこんな奴が何も悪いことをしていない、聖女やシスターを不幸にさせる!!
フリードがようやく手に入れた大切なものを、護りたい存在を、贖罪の気持ちを踏み躙る!!
「リアス部長も、ソーナ会長も、サイラオーグさんもお前なんかとは違うッ!!眷属を大切にし、大きな想いを胸に抱いて戦っている!!―――そんな誇り高い上級悪魔を名乗るな、ディオドラ・アスタロト!!!!」
サイラオーグさんは自分に才能がないから、その体を鍛え抜き、バアル家の次期当主に返り咲いた!!
ソーナ会長は自分の夢を笑われながらもその信念を貫き、ゲームで俺たちを苦しめた!!
リアス部長はそんな会長の想いに応え、今もなお絶え間なく努力を続けている!!
俺の知っている上級悪魔とこんな屑悪魔を一緒にされることなんて―――許せるわけがねぇ!!
「黙れ、下級以下の分際で!!!この僕にッ!!!」
「―――いつまで勘違いしてんだよ、ディオドラァァ!!!!」
俺はいつまでも喚くディオドラの顔面を完全に捉え、そして殴り飛ばしたッ!!
殴り飛んだディオドラは柱を何本も何本も貫きながら飛んで行き、俺はそれを追い越して再びディオドラを同じ方向に殴り飛ばす!!
「お前には誇り高き上級悪魔を語ることすらおこがましい!!下級悪魔に手も足も出ない時点でお前は―――終わってんだよ」
俺は地面に倒れるディオドラに近づきながらそう言った。
「痛い!痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!!どうして僕の攻撃が効かない!!禍の団の新たな蛇を貰って力を絶大なまでに上げているのにどうして!!」
ディオドラは前方に幾重もの防御魔法陣を展開し、防御に徹しようとした。
―――鼻で笑ってしまうな。
そんな紙のような魔法陣で―――
「俺を止められると思うなよ、三下」
俺は拳を振りかぶる。
足腰で上体を安定させ、そして―――拳を振り下ろした。
魔力を込めた俺の拳は幾重もの魔法陣をそれこそ、紙のように貫き、そして―――完全に防御魔法陣を消し飛ばした。
「ひっ!!」
ディオドラはその光景に一瞬、怯えるような顔をしたが俺の怒りはそれにより更に膨大する。
―――今まで、お前の行動にお前の眷属はそんな表情をしていたはずだ。
なのにこいつはそれを笑った。
嘲笑い、傷つけ、それを何度も繰り返した。
そんな奴が―――他人を平気で傷つけて自分が傷つくのが怖い奴は
「俺が潰す―――これは俺たち全員の怒りだ!!!」
ディオドラの顔面を捉え、地面に叩きつける。
その度に地面にはヒビが生まれ、それでも俺はぶつける拳の力を緩めなかった。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
―――俺の叫びに呼応するように、俺の中のアスカロンは勝手に光り輝く。
籠手は紅蓮のオーラを発し、フォースギアは白銀の美しい光を放つ。
無刀は俺に力を使えと言うように震え、俺の魔力は俺の全てに応えるように最善の力を与えてくれる。
仲間は俺に、勝て!!と言う風な視線や声援を送り、アーシアは―――祈るように両手をギュッと握って、俺を見ていた。
―――手加減なんてしない。
今までこいつがたくさんの人を傷つけ、絶望させてきたのだから、俺がこいつを絶望させる。
例えばそう……自身にある力を使わず、ただの悪魔としての力だけで戦って負ける情けない上級悪魔として。
心と体―――全てへし折る。
俺は地面に埋没していくディオドラの胸倉を掴み、そのまま引き上げて奴の顎を捉えてアッパーを放つ!!
それに対抗できずディオドラは上空に上がるも、反抗のように空中に何かを浮かべた。
それは円錐状の魔力の塊で、その鋭い先は俺へと向いていた。
「死ね!!お前なんて死んでしまえ!!」
ディオドラはその魔力弾を俺へと放つ―――そんな単調な魔力の使い方で、俺は下せない。
「
俺は手元にいくつかの魔力球を生み、そしてそれを狙いを定めて放った。
それは次第に弾丸となり、そして―――拡散するように状態を変化させ、ディオドラの全ての魔力技を消し飛ばした。
しかも余った拡散した弾丸は更に拡散し、そして幾重もの魔力弾はディオドラへと直撃した。
「ディオドラ、立てよ―――まだまだ終わらせない」
俺は柱に埋没するディオドラに近づく。
……近づこうとしたその時、俺の付近で幾重もの剣が地面から返り咲いた。
俺はその剣―――
そこには何も言わず、ただ黙ってそれを使ってくれと言っている祐斗の表情があった。
それだけじゃない。
俺の近くにデュランダルが飛んできて地面に突き刺さり、更にギャスパーのコウモリの分身体が一匹飛んでいる。
小猫ちゃんは仙術による身体的向上の温かいオーラが届き、部長と朱乃さんからは小さな魔力の塊……滅びの魔力と雷光の光が浮かんでいた。
「―――ああ、そうか。皆も、俺に力を貸してくれるってわけか」
俺はそれを見ながら薄く笑い、ゼノヴィアのデュランダルと祐斗の聖魔剣……一本だけ圧倒的な存在感を示す聖魔剣エールカリバーを握る。
デュランダルとエールカリバーは輝き、更に俺の中のアスカロンも喜ぶように輝きを見せた。
エールカリバーには滅びの魔力が、デュランダルには雷光が覆い、そしてギャスパーのコウモリはその場から動こうとするディオドラの足を停止させた。
「なっ!?足が動かない!?」
「―――
俺は焦るディオドラにエールカリバーの能力を天閃に変換し、それを神速で投剣する。
その剣はディオドラの頬を掠め、そこから滅びの魔力の影響で普通よりも大きな傷を負った。
俺は一歩ずつディオドラに近づく。
「ぐがぁぁぁぁぁぁ!!!!……ならばこれで―――」
ディオドラは更なる悪足掻きをしようとするも、俺はもう片手のデュランダルを一閃し、そこから聖なる斬撃波を放つ。
わざとあいつへの直撃は避け、あいつの腹部へと斬撃波が掠った―――途端にディオドラは雷光と聖なるオーラの影響で、激しく血が噴出した。
斬撃波はディオドラの腹部を掠るとそのまま神殿を貫いていき、そして神殿の外まで斬撃が届いたように音を神殿内に響かせた。
「はぁ、はぁッ!!ちくしょぉぉぉ……僕が……偉大なるアスタロトの僕がぁぁぁ!!!」
「―――偉大なのは魔王だけだ。お前は害悪でしかない」
俺はディオドラの前に到着し、デュランダルをその場に突き刺して奴の胸倉を掴んだ。
―――その時、
更にフォースギアからは自動的に神器強化の光が放たれ、更に籠手はそれにより
籠手からは際限がなくなったように一秒ごとに『Boost!!』という音声を流した。
『―――すまない、相棒。俺も知らぬが、神器がお前と戦いたいという思いからか、勝手に動いている』
『わたくしもです―――主様。もう、決めましょう』
……そうか。
わかったよ―――決める。
「ディオドラ・アスタロト。お前は幾人もの人を傷つけ続けた―――俺はお前を許さない」
『Over Explosion!!!!!!』
重ね続けられた倍増は一気に解放されるも、その力は俺に一切の負担を掛けない……違う、俺が負担に思わないんだ。
これは負担なんかじゃなく―――俺の拳に宿る全員の重さだ。
それは負担なんかじゃない。
「止めろ……っ!!どうして僕の思い通りにならない!今まで僕はうまくやってきたのに!!誰も僕を咎めない!!僕は何も間違ってなんかいない!!なのにどうしてアーシアは真実を知っても平気でいる!?何でお前はそこまで僕を邪魔できる!!僕は―――」
「思い通りになんかさせない!お前は何も間違っていないんじゃない!!―――お前は全てが間違っているんだよ!!そしてお前は二度と間違いに気づくことはない!!アーシアは強い!!お前なんかよりも何倍も、何倍も!!だから―――俺がお前をぶっ潰すッッッ!!!」
俺の拳はディオドラの頬を捉えた。
俺の周りには風が吹くように振動し、その度にディオドラの傷ついた体は壊れていく。
そして俺は―――ディオドラを完全に壊し、そのまま皆がいる方に殴り飛ばした。
ディオドラは狙い通り眷属の皆のいる方にバウンドをしながら倒れこむ。
身体中の骨は折れるか、所々で砕けているだろう。
生きてはいる―――いや、わざと生かした。
俺はゼノヴィアのデュランダルを握り、そしてゼノヴィアにそれを返してディオドラを上から見下げた。
……情けない姿だった。
全身から血を流し、情けなく涙や鼻水を垂らしながら泣いている。
―――こいつに、死は甘すぎる。
「イッセー……この男を殺そう。君が殺すことに躊躇するのは君の優しい性質だろう―――私がその役を変わる」
するとゼノヴィアはギラギラとした目つきでディオドラを睨みながら、俺から受け取ったデュランダルをディオドラの首元に添えた。
―――放っておいたら間違いなく、こいつはディオドラを殺すだろうな。
「ゼノヴィア―――こいつは今まで数多くの人を不幸にして来た……そんなこいつには死なんてものは甘すぎる」
俺はゼノヴィアの肩に手を置き、デュランダルを持つ手に俺の手をそっと添えた。
「お前がこいつに触れることだって嫌だ―――こいつには、罪を償ってもらう」
「つ、み……?」
ディオドラは助けを乞うような目でなお俺を見る……そんな目を見て、俺はすぐにでも殺したい気持ちに駆られるが、それを我慢して睨みつけた。
「お前は永遠に表の世界には戻って来れない。上級悪魔の地位は当然消え、死んだ方が良いという地獄を永遠に味わい続ける―――お前は、お前が傷つけて来た者たちに償え。その永遠をかけて、下級以下の下種となって……ッ!!」
「…………………………そんなもの、僕が……」
「申し開きなんて聞かない……ッ!!俺は今すぐにでもお前の心臓を貫き、殺したい気分なんだッ!!―――誓え、ディオドラ」
俺はディオドラの胸倉を掴み、声を荒げる。
「二度と俺たちに、俺の大切な人に近づくなッ!!お前が傷つけた人たちに償え!!それでももし、お前が誰かを傷つけたとしたら、俺は―――お前を地獄のような殺し方で、殺してやる!!」
ディオドラに対し、恐怖を抱かせるほど低い声音でそう言うと、ディオドラは俺の言葉に何度も何度も頷いてその場に蹲った。
俺はディオドラから乱暴に手を離し、そして近くにあった柱を思いっきり殴った。
―――怒りが……消えないッ!!!
でも、ここで俺が感情的になってディオドラを殺せば……きっと、残されたあの糞悪魔の眷属は更に不幸になる。
あの眷属がディオドラに従っていたのは恐怖もあるだろうけど……それ以上に、あいつに騙されていたとしても想うところがあったからだ。
だから俺は殺さない―――どれだけ殺したくても、殺さないんだッ!!
「―――アーシア」
俺は感情を整え、未だ枷で拘束さえているアーシアの方に行って体を屈め、同じ目線でアーシアの頭を撫でた。
アーシアの傷が消えていないのはきっとアーシアを拘束するこの装置が神器の力を発動させないからだろう。
俺の渡した神器は拘束の類には効力を発揮しなかった……またはこの装置が俺の神器すらも突破したかどちらかだろう。
枷で拘束されてもこの神器が作用したのは、恐らくはアーシアの魂に根付いた神器ではなく俺の創造神器だから―――イレギュラーな神器だからだろうな。
「イッセーさん…………胸を、お借りしても良いですか?」
「ああ……アーシアは泣いて良いよ」
俺がそう言うと、アーシアは俺の胸へと抱き着いた。
―――真実を聞いて、平気なわけがない。
今までの苦しみを突きつけられて、平気なわけがない。
アーシアは声には出さず、だけど肩を揺らしながら俺の胸元を涙で濡らす。
強い子だ……違うな。
強くなった。
俺はアーシアを出来る限り優しく抱きしめた。
―――アーシアを二度と離さない。
俺はアーシアを抱きしめながら、何も言わず…………ただそう思ったのだった。
「アーシア。帰ろう、俺たちの家に」
「はいッ!!」
俺の言葉にアーシアは顔を上げて、涙を拭いながら笑顔でそう言うのだった。
俺はそれを確認すると、アーシアを拘束していた枷を外そうと―――
「……なんだ、これ―――枷が、外れない?」
―――アーシアを拘束する枷は外れなかった。
俺はあまりにも突然なことで驚くも、その時、俺は枷に繋がる装置が目に入る―――まさか、これは
「ディオドラ、答えろ―――この装置は何だ!!」
俺は枷を壊すため力を加えながらも、ディオドラに向かって叫ぶように言った。
ディオドラはその言葉に一瞬、体をビクッとさせるも俺の方を向いて小さく呟く。
「……それは禍の団の神滅具保持者によって生み出された装置型の固有結界。それは物理的なものでは何があっても外れることはない―――アーシアの能力が発動しなければ、ね」
「どういうことだ」
するとディオドラの傍にいた祐斗は聖魔剣を出現させ、鬼気迫る目つきでディオドラに剣を向けながらそう言った。
するとディオドラは更に続ける。
「その装置は機能上、一度起動させると停止するにはその枷に繋がれたものの力を発動しないと停止しない」
「……神滅具保持者によって創られたと言ったな。つまりこれは上位神滅具の一つ、
「……そうだよ。これは確かに絶霧だが、実際にはそれを大きく上回るもの―――
―――ッッッ!!?
バランス・ブレイカー、だと!?
「
「……装置の能力と発動条件を答えろ」
祐斗がそう問いただすと、ディオドラは淡々と答えた。
「……発動条件は僕か、その関係者の合図、もしくは……僕の敗北か死亡。能力は―――枷を繋いだ者、すなわちアーシアの力の増幅、及びその
―――反転、だと?
俺はその単語を聞いた瞬間、頭に血が上るのと同時に嫌な考えがよぎった。
アーシアの力は絶大な回復力……それを増幅し反転ということは、絶大な回復力が殺傷力に変わることを意味している。
……反転。
ソーナ会長とのゲームの際、シトリー眷属の数名が切り札として使った性質を反転させる力。
俺の倍増はゲームの時、半減に変えられて一時的に俺は戦闘が出来なかったほどの力だ。
つまり―――ゲームがこの計画の強行の原因となっていたのかよッ!!
「―――ふざけんな……そんなことが、そんなことがあってたまるか!!」
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』
『Reinforce!!!』
俺は鎧を身に纏い、この日、三度目の神帝化に体の限界を感じつつ拳をアーシアに繋がれた枷や装置に放つ!
仮に籠手よりも上位の神滅具だとしても、フェルの強化の力で鎧は神滅具の位を大幅に超えている!
俺は神殿が振動するほどのオーラを纏った、恐らくディオドラにぶち当てていたら一撃で終わっていたであろう拳を装置に放つ!!
―――それでも、生まれた傷はほんの少しだった。
「くそ!!フェル!!もっと神器を強化しろ!!」
『……無理です。神滅具の強化は一度に一回しか出来ませんッ!!それに今の主様は溜まっている創造力の相当数使って強化しています!!それで装置を破壊出来ないとしたら……』
フェルから放たれる言葉に、俺は信じられずに何度も何度も装置を殴った。
でも少しの傷しか生まない装置―――俺の力じゃあ、どうにもならないのか?
「……発動の効果範囲はこのフィールド内と観客席だ」
「なっ!!ディオドラ!!あなたはその意味を分かってこの計画に参加していたの!?そんなことをしたら全勢力のトップ陣が根こそぎやられることになる!!!」
部長はディオドラの胸倉を掴んでそう激昂する。
ディオドラの話を聞いた眷属の皆は同時に枷を外すために攻撃を始める。
……だけど俺の神帝の鎧の全力でも、ほんの少しの傷しか生まなかったんだ。
ディオドラの言う通り、この力は物理的な攻撃では破壊出来ないんだろう。
物理的に………………―――物理的には?
「……イッセーさん。術者である私を殺せば、装置は―――」
「―――大丈夫だよ、アーシア」
俺は何かを覚悟するように、しかし悲しそうな顔をするアーシアの頭をそっと撫でた。
その行動に驚いているのはアーシアだけではなく、その場にいる全員。
「言っただろ?俺がアーシアを必ず救って見せる―――命に賭けても、アーシアを守る」
「何を、言って……?」
アーシアが何か言おうとするけど、俺はアーシアの唇を人差し指で当てて何も言わせなくする。
……ドライグ、フェル―――ちょっとだけ、無茶をするよ。
『―――まさか、主様……む、無茶です!!あなたは何をしようとしているのか理解しているのですか!?』
『フェルウェル―――相棒を信じるしかない。もう、それしか方法がないだろう』
ドライグは全てを悟るようにそう言葉を漏らすも、フェルは納得のいかない声音を更に上げ続ける。
―――俺がしようとしているのは至極簡単だ。
今の俺は神帝の鎧で無限のように力を倍増し続けている。
フォースギアは幾つか創造力を使ったが、未だに10回分ほどの創造力が残っているはずだ。
物理的には、確かに装置は破壊できないだろう。
いや、間接的にだって難しいかもしれない。
―――ならば、俺は破壊しない。
この結界を創った術者が全く予想もしないような方法でアーシアを救う。
―――神滅具の力を解除する神器を創ってやる。
例え、俺の精神力が壊れようとも……アーシアを救ってみせるッ!!
『Infinite Transfer!!!!!』
俺の鎧から無限倍増によりフォースギアにエネルギーが譲渡される。
フォースギアからは狂ったように白銀の光が乱れるかのように暴走し―――がぁぁ⁉頭が……割れるくらい痛いな……ッ!!
「あぁ、がぁッ!!?!?!??」
「イッセー、さん?―――イッセーさん!!?」
アーシアは俺の異変に気付いたように俺の手を握る。
心配そうな表情だ―――だけど、この表情を笑顔にしてみせる。
―――構築しろ。
装置の形状は枷、それが装置に鎖で繋がれ、そこから装置がアーシアの力を反転させ、暴発させる。
枷、だからこそ枷を外す術がある。
足りない創造力は倍増し続けることで何段階にも強化しろッ!!
神滅具を解除させる神器の形は鍵―――俺はふとアーシアの胸元に輝く鈴を見た。
装置は次第に動き始めている―――一から神器の設定を考えたら、間に合わない。
なら既存している創造神器を活用するしかない……ッ!!
「ごめん、アーシア―――少し借りるな」
俺はアーシアから鈴の神器を返してもらい、それをギュッと握る。
―――神器は、俺の想いに応えてくれる。
神器創造の媒体となるのはこの守護の神器、白銀の護鈴。
これは何重にも重ねた創造力で生み出した神器だ。
これを元に、アーシアを護るために力を創り換えるッ!!
白銀に輝く鈴は光を輝かせながら次第に分解されて行き、俺の胸元のブローチからは神々しいまでの白銀の光が俺の体を覆う。
―――時間が経つにつれ、意識は朦朧とする。
そりゃそうだ……何度も赤龍帝の鎧を神帝化し、アーシアに渡した守護の神器も創ったんだ。
精神力が、いつ壊れてもおかしくない。
だからこそフェルは俺の行動を止めようとした……その危険性を知っているから。
……だけど、さ。
アーシアを護るってことは、アーシアを笑顔にするってことはきっと、俺が傍にいないと成り立たない。
それが自惚れだとしても、俺はそれを信じている。
アーシアを護りたい想い、アーシアを大切に想う気持ち。
―――なぁ、
俺はこの命をほとんどお前にやっても良い―――だから、アーシアを助ける力を俺にくれ。
俺は……アーシアと―――ずっと一緒に居たいんだ!!!!!
「俺、の……想いに―――応えろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
俺は体中から嫌な汗を掻きながら、空に向かってそう叫んだ―――その時、フォースギアは輝く。
乱れるように光を放っていたのが嘘のように静かになり、白銀の光は俺の手をとぐろが巻くように覆った。
激しい頭痛はする―――だけど、その光は俺の気持ちに応えるように。
『Covert Creation!!!』
―――力を、創り換えた。
俺の手の平には守護の鈴が次第に形を変えていき、小さな鍵のような形となる。
その鍵には鈴のようなものがついていた。
「はぁ、はぁ…………
俺はその鍵をアーシアを拘束する枷へと近づける。
だけど力が抜けるように倒れそうになった―――だけどアーシアはそんな俺を、抱き留めた。
俺の体を、涙を流しながら抱きしめた―――ああ、そうか。
俺が泣かしたのか……じゃあ、後でお詫びをしないとな。
俺は震える手で、意識も消えそうな状態で枷に鍵を近づけた。
「神滅具に、創られたものよ……我、消えゆることを……命ず―――消え去れ、アーシアを苦しめる者よ」
―――鍵は美しい鈴の音を奏でるように白銀を光を放ちながら枷に纏わりつく。
ズガガガガガッ!!!ギャガガガガッ!!!……そんな激しい轟音を辺りに響かせた。
装置は白銀の光に浸食されるように、包まれる。
―――確かに
だけどだ―――俺にはドライグしかいないわけじゃない。
フェルがいる、仲間がいる……例え俺だけの力ではお前に勝てなくても、皆が合わされば―――
「てめぇの思惑は……ここまで、だッ!!!」
どんな奴にも負けない!!
―――ガチャッ……俺がそう思った時、何かが解錠されるような音が辺りに響く。
そう―――アーシアを拘束する、枷が外れた音。
その音が響き、アーシアの胸には再びその神器が機能を失ったように輝きを失い、ネックレスのように首元に添えられた。
「だから、言っただろ?アーシアは……俺が助けるって」
「はいッ!はいッ!!イッセーさん……イッセーさんッッッ!!!」
アーシアは止どめなく涙を流しながら、枷が外れた状態で俺に抱き着いた。
俺の服を、俺の体を痛いほどに握り涙を流す。
眷属の皆は一瞬、信じられないような顔をするもそれに気付き、俺とアーシアの方に近づいてきた。
ゼノヴィアは俺とアーシアに抱き着き、彼女もまた涙を流す。
部長も少し目線をそらしながら涙を拭い、朱乃さんも笑いながら涙を流していた。
あぁ……俺は改めて思った。
この、優しい眷属を……俺は心の底から大好きと想う。
もう、信じよう―――俺の全てを、この皆に打ち明けよう。
俺が経験したこと、前赤龍帝だったことを……全部、打ち明けよう。
きっと皆は俺を受け入れてくれる。
笑顔で迎えてくれる。
そして俺たちは初めて―――本当の仲間になるんだ。
さしあたってはアーシアに言おう……俺にこんなことを決心させてくれたアーシアに。
それから皆に言って、黒歌に言って、オーフィスに言って、ティアに言って、アザゼルに言って―――俺の大切な奴全員に話そう。
母さんにも、父さんにも……
「アーシア、皆―――帰ろう」
「はいッ!!イッセーさん!!」
アーシアがそう力強く応えると、皆も涙を浮かべつつ頷いた。
俺は立ち上がり、アーシアに体を支えてもらいながら歩く。
ははは……まさか俺がアーシアにこんな風に支えてもらう日が来るとはな。
アーシアは俺を支えるのを一人でやるって聞かないし……さぁ、早く安全なところに行こう。
皆はアーシアの想いを汲み取ってか先に前を歩き、時たまにこっちを見て笑顔を見せる。
装置は完全に俺が無効化した。
もうアーシアを傷つけることはない―――もう、ないんだ。
「イッセーさん……大好きです」
「ああ……俺もアーシアが――――――」
大好き、と言おうとした。
―――――――――突如、俺は異様な量の魔力を感じた。
それは神殿を取り囲むように、神殿の中に突然現れ何かを一気に放つ。
それは……魔力の塊。
それは後方を歩くアーシアと俺へと放たれ、俺はほとんど無意識にアーシアをそこから突き飛ばした。
俺は無秩序に魔力弾を次々と当てられ、体中から血を噴出させる。
「なん、だ―――お前らはどれだけアーシアをッッッ!!!」
俺の視線の先には悪魔の姿が数百という数あり、そして俺は倒れながらその先の魔力が他と段違いの男二人を見た。
――――――その時、何かが眩く光り輝く。
それは光の柱で…………………………は?
「偽りの魔王の妹、汚物同然のドラゴン、堕ちた汚き聖女―――死に行くのは当然という事だ」
男の言葉は俺の耳には入らない。
だけどその光の輝きを見た時、俺は不意にある光景が頭に過った。
―――ミリーシェが、黒い影に突然、殺された時の光景。
「アー、シア?―――アーシアァァァァァ!!!!?」
俺はアーシアの名を叫ぶ。
アーシアがいたはずの所には光の柱があり、光の柱は消えていき、そしてそこには―――アーシアの姿はなかった。
「貴方はまさか!!旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウス!!」
「その通りだ、偽りの魔王の妹―――リアス・グレモリー」
「我らは真の魔王だ」
……その言葉が俺には聞こえなかった。
「そんなことどうだって良い!!アーシアはどこだ!!私の友達をどこにやった!!!」
「ふん―――あぁ、あの光の柱に吸い込まれた者は次元の狭間へと転送される。死んだのだよ、あの娘は」
「き、貴様ぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ゼノヴィアはデュランダルを振りかぶり、そして飛んで悪魔共に斬撃を放とうとする。
だけどそれは幾重もの魔力弾に阻まれ、そしてゼノヴィアはそれに直撃して地面に落下した。
―――アーシアが……死んだ?
あんな笑顔で、優しくて、いつも誰かを癒してくれる子が……死んだ?
―――――――――ドクン。
そんな音が俺の胸に響いた。
「なんでだよ―――なんで、アーシアを!!!」
「分からぬか、汚物塗れの赤龍帝よ―――堕ちた聖女の転生悪魔など、生きる価値がない。せめてもの情けで偉大なる私の手で殺したのだ―――あの娘も幸せだろう」
―――幸せ?
幸せだと?
『いかん、相棒!!この感じは!!!―――フェルウェル!!今すぐに相棒から分離してグレモリー眷属に言え!!
ドライグの声も聞こえない。フェルの行動もどうでも良い。
何も聞こえない。
―――何も、聞きたくない。
「―――あははははははははははははははははははははは!!!!!!!」
狂ったような笑い声が響く。
「―――あぁあ、何だそれ…………あはははは!!そんなことのために……そんなことのために!!!!」
どす黒い感情が俺を支配する。
そうだ――――――簡単だ。
「簡単な話だよな―――全部、壊せば良いんだ」
何も考える必要はない。
『相棒、それがお前の本懐なのか!?覇を欲することの間違いをお前が一番良く―――そうか。分かっているからこそ、か。お前はきっとアーシア・アルジェントをアルウェルト―――ミリーシェと同じくらい、無意識の内に想っていたのだな』
ドライグの声が聞こえる。
俺は何も考えない―――ドライグの言葉も、聞きたくない。
『俺はお前を止められない―――相棒、聞こえぬかもしれぬが覚えていてくれ…………お前は俺の大切な相棒ということを』
俺はドライグの言葉を……聞かなかった。
…………あるじゃないか―――簡単に全てを破壊する力が、”覇”が。
こんなことを考えるのは本当に俺なのか?―――もう、それだってどうでも良い。
だから―――
「我、目覚めるは―――」
俺は意識を閉ざした―――頭の中で最後に残ったのはアーシアの笑顔だった。