ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第9話 外道神父の瞳に映るもの

 フリード・セルゼン。

 元々は教会の悪魔祓い(エクソシスト)であったが、悪魔を狩ることに至上の喜びを得て、同時に自身の邪魔をする他の悪魔祓いを傷つけたことで教会を追放されたはぐれ悪魔祓い。

 俺の知っている限りでは堕天使レイナーレに従ったり、堕天使コカビエルやバルパー・ガリレイと行動を共にするなど、本当に迷惑としか言えない男だ。

 喜怒哀楽が激しく、変なしゃべり方をして、それなりに因縁が深い奴でもある。

 ―――そんな男が、俺たちの前に立ち塞がっていた。

 手には聖剣……しかも相当のオーラを放つ聖剣だ。

 下手すればあれは俺のアスカロン、ゼノヴィアのデュランダルと同レベルのものかもしれないと思われるほどの威圧感がある!

 剣の形状は特におかしい部分はない。

 フリードの身の丈ほどの大きな剣ではあるが、フリードはそれを縦横無尽に振り回し、そして少し格好つけたポーズをとって俺たちに剣先を向けてくる。

 

「―――さぁて、僕ちんの相手はどなたかなぁ?って、分かりきってるでござますけど!!ぎゃははは!!」

「……イッセー君、彼はディオドラの眷属ではない―――ここは確実に仕留めて」

「―――いや、俺がやる」

 

 俺は、聖魔剣を創り出し動こうとする祐斗に静止を掛けた。

 それに祐斗は驚いたように反応するが、俺にはこのふざけた野郎にいくつか聞かないといけないことがある。

 ―――ヴァーリのチームの一員、アーサー・ペンドラゴンの言っていた話だ。

 アーサーはこのフリードと一戦交えたらしく、そして剣越しにフリードの性質をなんとなく汲み取ったらしい。

 ……剣には凄まじい覚悟と、そして相反する迷い。

 アーサーはフリードからそんなものを感じ取ったと言っていた。

 それの正体を俺は知りたい……少なくとも俺は知らないといけない気がするから。

 俺は籠手からアスカロンを再び抜き取り、眷属の皆よりも一歩前に出る。

 神帝の鎧の無限倍増は今は停止させているが、すぐにでも倍増を開始出来るようにし、そして鎧の兜を収納し、フリードと顔を合わせた。

 

「これこれはイッセー君じゃあぁりませんか!本当にお久だねぇぇ―――元気してたぁ?」

「ああ、元気だったよ―――お前も相変わらずのようでな」

 

 世間話のように言葉を交わす俺とフリード。

 だけど俺はフリードと再び相対してようやく実感した…………こいつ、まるで以前とは別物のようなレベルの覇気を発してやがる。

 以前とは比べ物にならない……実際の実力は見たことはないが、あのアーサーを以て”卓越された戦士”と言わせるほどの実力を今のこいつは誇っているのだろう。

 ……さて、どうするべきか。

 

「あ、イケメン君もお久だね~~~―――でもこの眷属で僕ちんを相手に出来るのはそこのイッセー君だけなもんでごめんなさぁぁぁい♪あ、でもこの前のゲームのエクスカリバーもどき?今はエールカリバーだっけ?あれは良かったっすよ?一本くださいな♪」

 

 何を考えてるかは分からないが、隙があまり感じられない。

 こんなふざけた口調なのに、今のフリードには下手に近づくことが出来ない、か……ったく、万年やられ役はどこに行ったんだか。

 

「あ、今、万年やられ役とか思ったしょ?ひゃひゃひゃ!!正解正解♪この堕ちた神父、フリード・セルゼンは最悪の進化と魔改造により無駄に強くなったんですよぉぉぉ―――さぁ、そろそろやろうか?イッセー君♪」

「そうか―――行くぞ。ドライグ、フェル」

 

 フリードは聖剣と思われる剣から何やらオーラのようなものを纏わせ、俺に対し不敵な笑みを見せる。

 

『Infinite Booster Re start!!!』

 

 俺は即座に神帝の鎧の無限倍増を再開させると、そのような音声が流れる。

 アスカロンを握り、そして―――背中の噴射口から放たれるオーラと共に神速の速度でフリードへと突撃をした。

 フリードと俺の距離は一瞬でなくなり、俺のアスカロンはフリードに斬撃を加え―――

 

「ざぁんねぇんでっした♪」

 

 ―――フリードの軽薄な言葉と共に、俺は何かに一閃された。

 俺の前にはフリードの姿はなく、そして俺の鎧の腹部の部分は……完全に切断された。

 鎧は腹部の部分のみが綺麗に斬られており、つまりそれはフリードが俺の速度を見切って斬撃を放ったということ。

 ……俺は信じられなかった。

 

「―――こいつは、やべぇな」

 

 俺は冷や汗を掻く。

 ―――あまりにもフリードの今の動作が不気味だった。

 まるで全てを予測し、俺の攻撃を軽々と避けてカウンターのように俺に攻撃を放った。

 俺の体には傷はないが、堅牢な鎧を切り裂くほどの攻撃力と、俺の速度に対応するあいつ自身の速度も上がっている。

 

「おやや?まさかイッセーくん、僕ちんを見誤ってんじゃねぇの?あひゃひゃひゃ!!―――以前の俺様と思っていたら、死ぬぜ?」

 

 フリードは剣を俺に向けて、そう断言する―――あぁ、確かに油断していたかもしれないな。

 見誤っていた、っていうのも正しい。

 今のは神器の性能に救われたけど、二度目はないと考えた方が良い。

 何せ奴の攻撃は俺の鎧を突破する威力がある。

 ……俺の今の性質に合わせ、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)は比較的従来の鎧よりも防御力は低めだ。

 それは俺の相手の攻撃に対する被弾率の低さによるものもあるけど……それでもただの聖剣では俺の鎧は突破できないほどの最低限な堅牢さはある。

 だけどそれを突破したフリードの聖剣―――やはりただの聖剣ではない。

 

「やっぱり気付かれちゃうか!ひゃは!そう、この聖剣はそんじょそこらの聖剣ではないのであぁぁぁる…………いや、そもそも聖剣という括りにして良いかもわかんねぇ代物でありんす♪」

 

 フリードは剣を舞うように振るい、そしてまた決めポーズを取った。

 

「―――聖剣・アロンダイトというものをご存じ?」

「聖剣・アロンダイトだとッ!?」

 

 ……フリードの発言に驚愕の声を漏らしたのは、俺たちの戦いを見るゼノヴィアだった。

 ゼノヴィアはその名に聞き覚えがあるのか、フリードの剣を見る。

 

「ゼノヴィア、知っているのか?」

「ああ……アロンダイトとは聖王剣と謳われるコールブランドを家宝とするペンドラゴン家に代々仕えていた者が所持していた伝説の聖剣……だった物だ」

「だった?」

「……アロンダイトを所持していた者はペンドラゴン家に同じように仕えていた戦友の一族を殺してしまい、その罰としてアロンダイトを所持していた者は処刑され、魔剣に堕ちたアロンダイトは完全に壊された。遥か昔の話だよ」

 

 ゼノヴィアがそう説明すると、するとフリードはゼノヴィアの説明を聞いて拍手をしてまた高らかに笑った。

 

「解説ありがとうござんす―――そう、聖剣・アロンダイトはこの世にはもうそのものは存在しない……しかぁし!この剣は壊れたアロンダイトの破片を全て集め、とある最高のはぐれ錬金術師によって新たなる力を篭められて生まれ変わったのでぇぇぇす!!!―――名付けてぇぇぇ、聖堕剣・アロンダイトエッジ。そしてこのフリード・セルゼンは堕ちた聖剣に選ばれた所有者というわ・け♪」

「アロンダイトエッジ……堕ちた聖剣、ね」

「そう、堕ちてるんすよ……お似合いっしょ?堕ちた神父と堕ちた聖剣。故に、そう!故に俺はイッセー君と戦える力を得たんですよぉぉぉぉ!!!」

 

 そう叫ぶとフリードは凄まじい速度で俺へと迫ってくるッ!!

 あんな馬鹿デカい剣を持つとは思えないほどの軽快な動きに俺はアスカロンを構えて迎え討つ!!

 フリードはアロンダイトエッジを横なぎに振りかざし、俺はそれをアスカロンで受け止める!

 が、フリードの横なぎの一閃はフェイントで、フリードはそこから異様な反射速度でターンをしながら一回転し、そしてその勢いと共にアロンダイトエッジで俺の体を一閃しようとする!

 

「アロンダイトエッジ、その一の力!!所有者との相性の良さによる身体の魔強化でっさ!!!」

「チッ―――フェル」

 

 俺は小さくそう呟くと突如、鎧から音声が流れた。

 

『Infinite Accel Booster!!!!!!』

 

 それは神帝の鎧の最大出力を発揮するための音声であり、俺の全ての能力が一気に爆発するッ!!

 出来ればここでこれはしたくなかったけど、仕方ねぇ!!

 アロンダイトエッジの能力がまともに判明しない限りは、あれに斬られるわけにはいかねぇんだ!

 俺は振りかぶられるアロンダイトエッジを拳で弾き、そして神帝の鎧の推進力でフリードから距離を取る……が、フリードの追撃は止まらなかった。

 フリードはゼノヴィアがするように聖なるオーラの斬撃波を放ってくる!

 

「ほらほらほらほらぁぁぁ!!」

「マジかよ―――断罪の龍弾(コンヴィクション・ドラゴンショット)!!」

 

 俺は即座に魔力弾を創り出し、それに滅力を付加した断罪の力を加える。

 そしてそれを斬撃波に対し相殺するために放つ……も、やはり相性が悪いかッ!

 斬撃波は聖剣による聖なる物で、しかもあのアロンダイトエッジは恐らくゼノヴィアのデュランダルとも引けを取らないスペックだ。

 対する俺は自身の魔力によるもの―――相性が最悪だ。

 倍増の力で凄まじい勢いで強化されているものの、根本の部分で弱点を突かれることで俺の攻撃はかき消された。

 ―――ならドラゴンによる力で勝負だ!!

 俺は口元に小さな火種の龍法陣を描き、そして口内に火を溜める。

 

『Infinite Transfer!!!!!』

 

 そして倍増の譲渡を口元の火種に使い、火種を炎―――タンニーンのじいちゃんの炎のような爆炎へと強化する!!

 そして即座にそれを弾丸のように放つ!!

 大規模の火炎放射ではなく、小回りの利く爆炎の小さな弾丸の連射だ!!

 

「わお、めちゃめちゃ炎だねぇぇぇぇ……じゃあこっちも連発で!!!」

 

 するとフリードは俺の爆炎の弾丸に対抗するように何度も聖なる斬撃波を放つッ!!

 ったく、どんだけパワーアップしてんだよ!

 確かに初めて遭遇した時から慢心はありまくりだったけど戦いに関しての才能は結構なものだった!

 だけどこの強さはただの人間にしたらあり得なさ過ぎる!!

 それだけアロンダイトエッジの力が強大と言いたいのか!?

 

「さぁぁぁて……これでイッセー君の炎にも対抗できるってことを証明しちゃったよぉぉぉぉ!?さぁ、次は何だ?ゲームの時にしたあの新しい禁手ちゃん?それとも鎧を解いての身体強化ですかぁぁぁ!?」

 

 ―――強い。

 これは認めるしかない。

 フリード・セルゼンの力は強く、俺の攻撃にも対応を示しているほどだ。

 当然、速度も攻撃力も俺の方が断然上だ。

 だけどあいつはまるで予知の如く俺の攻撃を避け、更に要所要所で俺の弱点なことを何度も何度もしてくる。

 俺が今まで戦ってきた強者のような大技のようなものはなく、たぶん大規模な技は持ち合わせていないはずだ。

 ―――だけどそれを補うほどの小技、応用テクニックがある。

 以前あった油断は消え、その剣からは凄まじい殺気と威圧感。

 鬼気迫るものを俺は感じた……なるほど、アーサーの言っていたことは正解ってわけか。

 ……こうなると俺の大技はほとんど当たらないと思った方が良い。

 俺の神帝の鎧は絶大過ぎる力はあるが、小回りは利きにくいというのが唯一の弱点だ。

 出力が大きすぎて今のフリードがしているような小技が作用しにくいという弱点がある。

 ……俺は神帝の鎧を解除し、元の姿となる。

 

「ほぉ、ほぉ……鎧は捨てて次はオーバーなんちゃら?良いね、良いねぇぇぇ……確かに実際の身体能力はイッセー君の足元にも及んでないから、正解っちゃ正解でござる、ござる♪」

「……ござる、ね」

 

 俺はその口調でふと夜刀さんのことを思い出し、懐に閉まっていた無刀を出した。

 刀身なき刀……夜刀さんが俺へと贈ってくれた最高の刀だ。

 この状態でも俺はフリードに速度も攻撃力も勝っている。

 だがフリードの、謎のような攻撃に対する回避力と予測不能の動きで今の俺は翻弄されているんだ。

 ―――落ち着け。

 今考えることを考え、ある情報を全部集めて、最善の方法で戦うんだ。

 俺が今までしてきたことは無駄じゃない、きっとあの力の正体に気付くことが出来るはずだ。

 自分を卑下にするな……俺は強い。

 だから勝てる―――そう考えると俺の頭がクリアになっていく。

 

「―――顔つきが変わったねぇ……さぁて、じゃあそろそろ本気で来いよぉぉぉぉ!!!」

 

 フリードは乱雑に聖なる斬撃波を無作為に放ってくる。

 乱雑そうに見えて、あいつのあれはただの囮で、フリードは相当の速度で俺に近づいてきた。

 俺は斬撃波の軌道から離れ、そしてアスカロンを強く握った。

 

「―――唸れ、アスカロン。龍を活かせ」

 

 俺は小さくアスカロンにそう告げると、アスカロンは俺の言葉に従うようにその刀身から激しいオーラを噴出させ、フリードへと襲い掛かる。

 そのオーラはまるでドラゴンのようだ。

 しかしフリードはそこには既にいなく、俺からも距離を取っている―――俺もそこでようやくあいつの回避力の真意が分かった。

 

「なるほど、フリード。ようやくお前……アロンダイトエッジの力の一端が分かったよ」

「……マジっすか?」

「ああ、大マジだ―――今まで俺が使ってきた技の大体はゲームやら戦いで見せてきたから、それはお前によって研究されて回避されていたと思っていたけど、どうやら違うようだな……今のアスカロンによるドラゴンの弾丸は、今まで祐斗にしか見せていない。それをお前はまるで知っていたかのように―――予知したかのように避けた。つまり」

「…………おいおい、適応力がありえないでしょ?この短時間でアロンダイトエッジ最高峰の力を見抜くとか、マジで勘弁してほしいわぁぁぁ―――アロンダイトエッジ、第二の力は未来予知なんでした♪」

 

 フリードはふざけた感じでウインクをし、目元でピースをする。

 だけどその能力は本当に恐ろしいッ!

 

「まあ実際には未来予知じゃなくて気配察知―――アロンダイトはそもそも、魔剣に堕ちた聖剣。要は聖剣の性質と魔剣の性質、その両方を兼ね備えたもの。アロンダイトは元々大きな破壊力ではなく小回りの利く聖剣でしたからねぇぇ……故に聖なる力と魔なる力、そしてアロンダイトそもそもに宿る気配察知の力が相まって、聖魔の超気配察知が成されるのよ。だからほとんど予知とお・な・じ♪特にイッセー君には相性の悪いものってことだぜ!」

 

 ……恐らく、アロンダイトエッジはこの時代だからこそ生むことの出来た聖剣だ。

 聖書の神の不在のバグにより祐斗が聖魔剣を生み出したように、聖堕剣・アロンダイトエッジを創り出したその最高のはぐれ錬金術師って奴もバグを突いてこの剣を創ったんだろう。

 この聖堕剣・アロンダイトエッジは恐らく祐斗の創る聖魔剣以外で世界で唯一、人の手によって創られた聖魔剣だ。

 純粋な聖剣ではないが故の強さがあるのはそれが由縁なんだろう。

 

「ま、これを俺にくれたあの爺ちゃんはここまでのスペックは予想していなかったらしいじぇ?何せ、これは所有者と認めなければ相手を殺すような代物だからねぇ」

「―――ったく、そんなものに選ばれたのか。お前は」

「ああ、そのトーリ!!おかげで俺様、悪魔以上の身体能力も手に入れて、君とまともに戦える力を得たんでござんす!ついでにこの剣には若干の龍殺しの性質もあるからね?」

 

 ふざけたスペックの聖剣だこと。

 恐らく、アロンダイトの小回りが利く性質を受け継いだおかげで色々な能力が付加されてんだろうな。

 聖魔の予知と多少の龍殺しの性質、人間を悪魔と対等に戦えるほどの身体強化と俺にも十分通用する聖なるオーラの攻撃。

 ……応用力を誇る聖剣だ。

 俺の鎧を斬れることの出来た理由は龍殺しの性質と聖なるオーラが相乗効果を生んだからだろう。

 ともかく言えることは、あの聖剣は確かにすごい。

 だけどその聖剣と同調し、使いこなすフリードもすごいってことだ。

 

「アロンダイトエッジは色々な聖剣魔剣が詰め込まれて創られたって、俺にこいつを授けた爺ちゃんが言ってたのよ、これが。さてネタ晴らしは済んだし―――そろそろ殺すよ?」

「…………………………それは、お前の本音か?」

 

 ―――俺はフリードにふとそう呟いた。

 俺が戦いの最中、そんなことを呟いたのは気分ではなくて、もちろんアーサーの言っていたことが原因でもある。

 …………フリードからは確かに殺気はする。

 本気で戦っているのは確かだ―――だけどアーサーの言う通り、今のフリードの剣からは迷いのようなものを感じた。

 それはあまりにも理論的なものではない。

 感覚的なもの……だけど確かだ。

 

「―――はぁぁぁ!?何言ってちゃってんですか、あんちゃんは!ひゃははははは!!馬鹿じゃねぇの?この外道神父様が、イッセー君を殺すつもりはない?……なわけねぇだろ、バァァァァァカ!!!!」

 

 するとフリードは激情するかのように素早い速度で俺へと近づき、そしてアロンダイトエッジを一直線に一閃する。

 俺はそれをアスカロンで受け止め、アスカロンとアロンダイトエッジが激しい金属がぶつかり合う音を立てながら、ギリギリと鍔迫り合いをする。

 

『Boost!!』

 

 籠手からは通常の状態になっているから10秒ごとの倍増がされ、更にそれを繰り返していく。

 俺は至近距離にいるフリードになお話し続けた。

 

「お前と剣を交えたアーサーという聖剣使いが言っていた―――お前の剣には覚悟と迷いがあるってな!!」

 

 俺はフリードの体ごと力任せに剣で薙ぎ払うと、フリードは勢いに負けて吹き飛ぶもののすぐに体勢を整えて再び俺と剣戟を続ける。

 

「はぁぁ!?この俺様に迷いも糞もねぇよ!!覚悟?知るか!!」

 

 フリードが剣を振るい、俺はアスカロンを振るう。

 刃と刃は激しくぶつかり合う。

 フリードはアロンダイトエッジの能力から俺の攻撃を何となく察知しているのか、俺はあいつに決定打を与えることは出来ないものの、俺は反射神経と経験でフリードと交戦した。

 未来予知は確かに違うみたいだな。

 ただの気配察知……だけどその精度が高くて俺の大技、力技は全て見切られてしまう。

 だから小回りの利くこの形態で、小回りの利く武器で戦うしかない。

 フェルのフォースギアは後々のために残しとかないと俺の精神力が持たないから使えない。

 だから―――アスカロンとこの無刀、籠手の力だけで戦う!!

 

「お前は何で禍の団にいる!お前はバルパー・ガリレイのしたことを嫌悪したはずだ!!」

「気の迷いに決まってんだろ、バァァァァカ!!俺はフリード・セルゼン!!最悪最低の外道神父様だぁぁぁ!!!」

 

 フリードは俺へと距離を取り、小さい動作で聖なる斬撃波を放つ。

 龍殺しの力があるのなら、籠手で防御するのは危険だ。

 俺は今まで使っていなかった無刀に意識を集中する。

 ……無刀は俺の魔力のオーラに反応して、俺の魔力を媒介としてそれを凝縮、刃にすることで初めて刀身を宿す刀だ。

 だけど魔力ならばそれはあの斬撃波によって阻まれる。

 ならば―――アスカロンの聖なるオーラを使う!!

 

「―――唸れ、アスカロン!!」

 

 俺はそう叫ぶと、アスカロンから莫大な聖なるオーラが噴出し、そしてそれは龍の形となり無刀へと吸い込まれる。

 フリードによる斬撃波は俺のすぐ傍まで来ている!

 さぁ、行くぞ―――無刀・聖者の刃!!

 

「―――もう、俺にはそいつは利かない」

 

 ―――俺は無刀から生み出される真っ白な刀身で聖なる斬撃波を切り裂いて、そう言った。

 無刀からはブゥゥゥン、という振動音が聞こえ、聖なる力を漏らさぬように無刀によって制御されている。

 ……無刀は俺に最も合っている剣かもしれないな。

 

「おいおい、次々に攻略とかマジで勘弁ッ!!―――でも、負けるわけにはいかねぇんだよぉぉぉぉ!!!」

 

 フリードは切り裂かれることを分かってるはずなのに、縦横無尽に聖なる斬撃波を放ちまくる!

 俺はそれを全て見切り、居合切りのように無刀・聖者の刃でそれを次々に切り裂いて無力化する。

 

「目くらましだぜ、イッセーくぅぅぅんん!!」

 

 ―――するとフリードは軽やかな動きで最短距離で俺に接近した。

 恐らくあの斬撃波は囮で、俺へと近づくことが本当の目的……俺が以前、コカビエルにした戦法と同じだな。

 だけどあの時のコカビエルと俺とでは違う!!

 

「唸れ、アスカロン!その刃に宿れ!!」

 

 俺は言霊を言うように叫び、アスカロンはその刃に莫大な聖なるオーラを纏ってフリードの振りかざすアロンダイトエッジと再び刃を合わせる!!

 アロンダイトエッジは鋼色のようなオーラを刀身に纏わせており、恐らくこれは攻撃的な力だろう。

 アスカロンとアロンダイトエッジで鍔迫り合いをする俺とフリード。

 その時―――俺のアスカロンとアロンダイトエッジは突如、互いに光を放ちながら輝き始める。

 

「なんだ、これは―――共鳴してるのか?」

 

 俺はそう思いながら、しかし鍔迫り合いをする力を緩めない!!

 ここは力で圧倒するため、籠手に溜まった倍増の力を解放しようとしたその時だった。

 

『―――俺が、あいつらを救わないとダメなんすよ。だから爺ちゃん、そいつを俺にくれ……それで助けてみせっから』

 

 ……突如、俺の頭に何かの光景のようなものが垣間見えた。

 そこには優しそうな老人と、目元に傷のないフリードの姿があり、フリードはらしくない苦笑いをしながらそう言った。

 

「―――くッ!!?」

「これは……」

 

 俺は今の光景を見て、少し考え込むとフリードは突如、俺から距離を取った。

 頭を手で押さえて、目を見開いて驚愕と言うべき表情をしている。

 

「……今のは、いったい……」

「フリード・セルゼンなのか?」

 

 ……その光景は俺以外の周りの皆にも見えていたらしく、各々が少し戸惑ったような顔をしていた。

 って言っている俺も少し戸惑っている。

 ―――聖剣と聖剣が共鳴したと思ったら、あんな光景が見えた。

 

「―――ひゃははは!!アロンダイトエッジ、第3の能力!!相手に嘘の光景を見せて動揺させる精神破壊!!見事に引っかかったっすねぇ!!」

「…………違う。今のは、アロンダイトエッジの力じゃない」

 

 俺はフリードの言葉が嘘であることを見抜いた。

 …………今のフリードは少し焦ったような表情をしている。

 まるで知られたくなかったことを知られたと言いたいかのように、ただ嘘を吐いて誤魔化した。

 そんな風にしか見えなかったんだ。

 

「んなわけねぇでしょうが!!さぁ、もっとやり合おうぜ!イッセーくん!」

 

 フリードは未だ動揺を隠しきれないように俺に剣を振るって来るも、俺は先ほどと同じようにそれをアスカロンを受け止めた。

 

『―――選ばれなくても、一時的にはアロンダイトエッジは使えるってことだぜ?ならこんな命くらい、あの辛気臭い餓鬼共にやるよ、やるよ♪』

『―――フリード君!君は分かっておるのかね!?あの実験場には恐ろしい数の堕天使や悪魔がいるのだ!何も関係ない君が関わって死んだら、それこそあの子たちが!!』

『―――ひゃははは!…………俺を救ったのはあの餓鬼共っすよ?飢え死にそうだった俺に自分たちの少ない飯を分け与えた馬鹿共っすよ?―――キャラじゃないけどね?俺に初めて優しくした馬鹿共を仕方ねぇから救っちゃうんだよね』

 

 ……そこには、優しげなフリードの表情があった。

 今の今まで見せたことの無いような表情―――何かを守るために覚悟を決める、一人の戦士の姿。

 軽薄な口調で、ふざけた態度で……だけどそのしようとしていることは正しいこと。

 何かは知らない……でも間違ってはいないことを。

 その一瞬の光景はそれを物語っていた。

 

「―――んだよ、どうしてこんなもんが流れるんすか、アロンダイトエッジ!!!!」

 

 ……フリードはとうとう、聖剣にそう叫ぶが光景は止まらなかった。

 流れるのは外道神父であるフリードではなく、小さな何人かの子供のために血を流しながら、傷つきながら戦うフリード。

 複数の堕天使、悪魔に対し勇敢に戦う男。

 そして―――子供たちを救って、笑みを溢すフリードの姿だった。

 ……アスカロンとアロンダイトエッジの共鳴のような輝きは次第に消え、そしてフリードは急いで俺から再び距離を取り、地面に剣を刺して頭を抑える。

 その額からは一筋の汗が流れ落ち、そしてフリードは俺を睨みつけてきた。

 

「……そうか。お前から感じた覚悟はあの子供たちを救う覚悟のようなもの。迷いは禍の団そのものだったんだな」

「―――分かったような口を聞くな!!」

 

 ―――フリードから放たれる怒号は、いつものようなふざけた口調ではなかった。

 本気で怒り、本気で自分の想いを訴えるようなもの。

 フリードは……あのフリードが怒っていたんだ。

 

「ああ、分からない。だけどたった一つだけ分かることがあるとすれば……今の事が本当のことだってことだけだ」

 

 フリードにそう言うと、あいつは目は更に厳しいものになる。

 その目は、瞳は何かに囚われるような強迫観念を受けるように闘争心をむき出しにし、アロンダイトエッジを再び抜き去って俺に攻撃を加えようとするも、フリードの動きは止まる。

 まるで先ほどの光景を見られたくないように、動くことを止めた。

 俺のアスカロンがあいつのアロンダイトエッジと刃を交えればまたさっきのような現象が起こるとでも思っているんだろう。

 

「フリード。お前は何を背負っているんだ?お前は本心でディオドラに従っているのか?あんな顔をしていた―――誰かを守ろうとした男が、何でディオドラに……禍の団になんているんだ!」

「………………うるさい―――あんたに何が分かる!?あんな糞悪魔に、糞組織に身を投じないといけない俺の何が分かるんだよ!!」

 

 ……フリードは目を見開き、ようやく本音を怒鳴るという形で言う。

 これが本当のフリード・セルゼンと言う男の顔なんだろう。

 不安で、今にも潰れそうな表情……今まで溜めこんできた想いをぶちまけるようにフリードは一方的に叫ぶ。

 ―――ここでフリードのことを気にせずにあいつを倒して、アーシアを救いに行くことは簡単だ。

 だけどもし仮に、俺がここでこいつを見放してしまったら、アーシアはどんな顔をするだろう。

 眷属の皆は、どう思うだろう。

 ……何より、俺は見捨てたくない。

 確かにフリードは今までろくなことをしていない。

 レイナーレの時だってアーシアを傷つけた。

 恐らくたくさんの罪を犯してきたはずだ……だけどそれが見捨てて良い理由にはならない。

 だから―――

 

「オーバーヒートモード、始動―――」

 

 俺は内に秘める魔力を全身に過剰供給し、更に籠手に溜まる倍増の力を解放し二段階で身体能力を強化する。

 アスカロンと無刀・聖者の刃を構え、そしてフリードを睨んだ。

 

「お前が何を考えているのか、何と戦っているのか……そんなことは俺には分からない。だけどお前の想いが正しいことはなんとなく分かる―――だから目を覚まさせる」

「うるさい!!―――くそがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 フリードは鋼色の聖なるオーラをアロンダイトエッジから噴出させ、鬼気迫る勢いで突っ込んでくる。

 速度は今まで一番速く、祐斗のそれと同等を誇り、俺はそれに対抗するように地面を踏み蹴った。

 あいつは俺の動きを読むだろう……だけどこのモードは既に読むだけでは通用しない!

 反応すらも出来ない速度で、しかもオーラの噴出が最小限に抑えれている!

 このモードは鎧とは違い、俺のオーラは悟られにくいからな!

 俺はアスカロンでアロンダイトエッジと剣戟を繰り広げ、その間に逆にフリードの動きを予測する。

 あいつは俺の動きを聖なるオーラと魔なるオーラで読んで動いているのなら、俺は裏を突けばいい。

 わざとオーラを噴出し、俺は動くような仕草を取った。

 フリードはそれを察知して、俺の行動を読んだようにアロンダイトエッジを瞬間的に俺の懐に刺そうとする―――俺はアスカロンを限界を超える筋力で振るい、その突きを薙ぎ払って投げ飛ばすも、力の余りアスカロンは俺の手から離れ、アスカロンと共にアロンダイトエッジは俺とフリードから離れたところ地面に突き刺さった。

 そして俺は武器を持たないフリードに無刀・聖者の刃を突きつける。

 

「ははは…………やぁっぱ、強いねぇ、イッセー君は……さぁ、心置きなく殺そうぜ?代わりに殺してくれたらこのペンダントをやるからさ?」

「……ロケットペンダント、か」

 

 フリードは自分を嘲笑うように嘲笑すると、服の中に隠れていたロケットペンダントを俺に見せてそう言った。

 ……死んで、それで何かが解決する。

 俺はそれを認めない―――だから

 

「―――目を覚ませ、この馬鹿野郎ッッッ!!!!」

 

 俺は無刀を持つ反対の手……左腕の籠手でフリードの頬を捉え、殴り飛ばした。

 フリードはその場に倒れ、長く伸びた髪が目元まで掛かる。

 表情は見えず、ただ殴られたところを抑えていた。

 ただ俺が殴った影響でフリードの首元に掛かっていたペンダントは俺の足元に落ちており、そしてロケットは開いてその中の写真が俺の目に映った。

 ―――先ほどの聖剣同士の共鳴で俺たちが垣間見た、フリードが助けたと思われる小さな少年少女。

 そこにはその少年少女に囲まれながら皮肉気な表情ながらも、どこか楽しげなフリードの姿があった。

 子供たちは満面の笑みでフリードを囲んで遊んでおり、フリードもそれに文句を言いたげな表情であるが、渋々と言った風に相手をしている。

 ……俺はそれを握り締めてアスカロンとアロンダイトエッジが突き刺さるところまで歩いていき、二本の聖剣を抜き去ってフリードの元に行く。

 俺がアロンダイトエッジを握ると、聖剣は俺を拒否するように俺の手を焦がすが、俺はそれを我慢しながらフリードの傍に聖剣を刺した。

 

「……お前が死んだら、この写真に写る子供たちはどうなる。こんなにも笑っている子供たちが、どんな顔をすると思っているんだ……俺は事情なんか分からない。だけどお前がこの子たちを大事に思っていることだけは分かる―――どうなんだ、フリード!」

 

 俺はフリードにペンダントを放ると、それはフリードの体に当たって地面に落ちる。

 フリードは呆然としながらそれをじっと見ると、大事そうに拾ってペンダントを握り締めた。

 

「こんなの演技だ……こいつらに向ける笑顔も、糞喰らえだ……こいつらを救ったのも気まぐれ、こんな糞餓鬼ども……なんか……助けたくなんか……ッ!!」

 

 フリードはペンダントを強く握り、歯ぎしりをしながら悔しそうな表情で俺を見上げた。

 

「―――助けてくれよ、こいつらを!!どうしようもねぇ、救いようのねぇ俺を優しいだの、ありがとうだの、大好きだの言う糞餓鬼どもを救ってくれよ!!お前だったら出来るんだろ!?今、俺をここで殺して、こいつらを……糞悪魔共から救ってくれよ……ッ!!」

「…………話してくれ。一体、お前に何があったんだ」

 

 俺は籠手も聖剣も、全ての武装を解除してフリードにそう問いかけた。

 フリードの目は絶望で染まっている―――だったら俺が出来ることは絶望を終わらせて、希望を始めるだけだ。

 だから俺が…………希望になる。

 俺がフリードにそう言うと、他の眷属の皆も警戒をしながらも俺とフリードの元に近づいてきた。

 

「……さっき、あんたらも見た光景は事実だ。あれはバルパーの糞爺が計画していた計画―――第二次聖剣計画の被験者だった餓鬼だ」

「ッ!!」

 

 聖剣計画の言葉に反応したのは、実際にその実験に参加させられていた祐斗だった。

 

「俺があの餓鬼共と出会ったのは、前のコカビエルさんやら何やらの後のことですわ……傷を負って、俺が最初に向かったのはバルパーの隠れ家だった所。家族も居ねぇし、頼る奴なんか居ないっすからねぇ……そこで俺は第二次聖剣計画というものを知ったんですわ」

「第二次聖剣計画……それはいったい……」

「それは想像はつくっしょ?特にイケメン君なら……そりゃあもうひどいもんすわ。命など無視して現存するどの聖剣よりも強い最強最悪の聖剣、そしてその使い手を創り出すっていう人権無視のもの……が、当初の俺はそんなものに首を突っ込むつもりなんてなかったん……だけどなぁ―――今までやってきた馬鹿らしい行動の贖罪でも取りたかったんすかねぇ。俺はその実験の施設の付近まで足を運んでいたんですわ」

 

 ……フリードは語り続ける。

 懐かしむような声音で、淡々と……俺たちはそれを固唾を飲んで黙って聞いた。

 

「当然、生きていくための金も何もなく、付近に近づいた時には既に腹はペコペコ……そんで、倒れた―――そんな時、この糞餓鬼共と出会った」

 

 フリードはペンダントに写る子供たちを俺たちに見せながら、そう言った。

 

「知ってる?こいつら、一日一食しか与えられない上に過酷な実験を受けてるんだぜ?それなのに、貴重な飯を俺に与えて挙句『死にそうなのを見るのは辛いから』なんて言うんだぜ?―――ホント、今まで俺がしてきたことが馬鹿みたいに思えたのですわ、マジで」

「……フリード」

 

 俺があいつの名を言うと、フリードは儚く笑っていた。

 ……そもそも、何でフリードはそんな道に堕ちたんだろう。

 そもそも悪の心しかない奴は、いつまで経っても、どんな好意を受けても治らないもんだ。

 だけどこいつはこんな気持ちを抱くことが出来た―――誰かを大切に想える気持ちを。

 だから俺は思った……フリードがはぐれになったのには、実は何か理由があるんじゃないかと。

 フリードは続ける。

 

「そいつらに与えられた自由は一日10分も無いもの……しかもその自由時間すらも計画のための事だった。そんな中、あいつらはその与えられた時間を笑顔で過ごす―――騙されていることすらも分からずに…………第二次聖剣計画は力の小さな堕天使やはぐれ悪魔によってバルパーが死んだ後でも続けられていた。どいつもこいつも最凶の聖剣使いを創り、それを洗脳して自分たちの武器を増やそうとしていたのが本音……そんな真実を知った俺は、ある馬鹿な爺さんと出会ったんすよ」

 

 それがあの時の光景でフリードと会話をしていた優しそうなおじいさん。

 フリードで言うところのはぐれ錬金術師ってやつか。

 

「その爺さんは一度は闇に染まった爺さんだったそうですわ。元々は聖剣の錬金術師だった爺さんは、それによって教会を追放され、そしてようやく自分が過ちであることに気付いた―――そう、その爺さんは第二次聖剣計画で自分の過ちに気付いたんですわ」

「やはり、か」

 

 するとゼノヴィアは一人、反応する。

 ゼノヴィアは元々は教会出身の聖剣使いだ。

 何かその爺さんのことを知っているんだろうけど……するとフリードは話し続けた。

 

「名はガルド・ガリレイ……バルパーの弟っすわ。デュランダル使いなら知ってるっしょ?」

「ああ……兄に影響され、聖剣に対して間違った解釈をした結果、悪に堕ちたとして教会を追放された者だ。確か教会が誇る最高の錬金術師だったはずだが……」

「そう。その爺さんはバルパーに唆され、間違った道に進んでしまった爺さんでねぇ……第二次聖剣計画の存在を知った―――第二次聖剣計画で創られていた聖剣っていうのはエクスカリバーの姉妹剣として有名な、今は既に壊れて存在しない聖剣ガラティーン……しかも神の不在を良いことにそれを最悪な強化を強行し、聖魔剣なんてもんにしようとしていたらしいぜ……結果的にガルドの爺さんは第二次聖剣計画の被験者の子供を救おうとして自身が創った聖堕剣・アロンダイトエッジを使って計画そのものを壊そうとした…………が、それも叶わなかった」

 

 フリードはアロンダイトエッジを軽く撫でながらそう話す。

 ……フリードはさっき、アロンダイトエッジは所有者だと選ばなければ持つ者を殺すほどの聖剣と言っていた。

 だからその爺さんはアロンダイトエッジを使う事すら出来なかったんだろう……だから子供たちを助けられなかった。

 そしてこの話の続きは、さっきのフリードとガルド・ガリレイの会話の光景に繋がっているんだろう……そしてフリードはアロンダイトエッジに選ばれて、そしてその力で子供たちを救い、そしてその時に取った写真がさっきのペンダントに埋め込まれていた写真。

 ―――フリードはそこまで語ると、次は悔しそうな顔つきになった。

 

「餓鬼共は救えた……確かに第二次聖剣計画は糞堕天使共と悪魔共を皆殺しにして、この俺が潰した。聖剣ガラティーンの結晶も処分して、あいつらは普通の子供のように暮らせるはずだった―――なのに旧魔王派の糞悪魔共は餓鬼共を拉致して、人質に取ったんだよッ!!」

 

 ―――フリードは地面を拳で殴ると、地面はフリードの怒りを表すようにヒビが生まれた。

 怒りと悔しさ、虚しさや悲しさ……それが全て詰まったようなものだった。

 

「どうしようもねぇんだよッ!!帰ってきたら、餓鬼共は一人残らずいなかったんだッ!!ガルドの爺さんも居ねぇし、そんな時に……ディオドラの糞野郎が俺の前に現れた……」

 

 ―――大体の話が俺には理解できた。

 禍の団はフリードとアロンダイトエッジの強さに目を付けた。

 人間でありながら数多くの悪魔、堕天使を屠ることの出来るほどの強さを持っているんだ……例え旧魔王派でもその強さは今回の件で使えると判断したんだろう。

 俺の見立てでは上級悪魔を殺す程の力を今のフリードは有している―――聖なるオーラと魔なるオーラを察知し、相手の行動の大体を読むことが出来るんだからな。

 だけど、だからって―――人質に取るなんて汚い真似をするとか、ふざけんな!!

 何が真の魔王だ―――本当の魔王なら、真正面から衝突して、暴君であろうがその強さを見せつけろよ!!

 ……俺は心の中でそう思った。

 

「ディオドラの糞は禍の団に加担する悪魔サイドの裏切り者だ……あいつは餓鬼共の命が惜しかったら、僕の計画の手伝いをしろなんて言ってきた―――拒否したら、あの餓鬼共は殺されるんだぜ?これが俺の今までしてきた贖罪であったとしても、それだとしてもッ!!!―――見捨てるなんて、出来るわけねぇだろ……なぁ、イッセー君よぉぉ……」

「……あぁ、そりゃそうだ。お前が命を賭けて守った子供たちなんだ―――見捨てるなんて出来るわけないよな」

 

 俺は脆く崩れるフリードを見つめてそう言う。

 ……フリード・セルゼンという男は間違った男だ。

 今まで数多くの者の命を奪ってきた悪人でだろう……きっとこいつを恨む人も少なくないはずだ。

 俺だってこいつが今までしてきたことを許すなんてことは絶対にしない。

 ―――だけど俺は認める。

 フリードが子供たちを救ったことは、決して間違いなんかじゃない。

 例えそれが贖罪なんだとしても、誰かを守ろうとする気持ちには嘘なんてない。

 それは俺が誰よりも良く分かっていることだ。

 

「何で、黙ってあいつらを救ってくれねぇんだよ……あんたはヒーローだろ?何でも救って、誰でも笑顔にしちまう奴だろ!?なのに何で―――俺みたいな野郎を救おうとするんだよ!!」

「…………ああ。確かに俺は今まで色々な人を救ってきたと思う……謙遜じゃなく、本当に……だけど俺は自分をヒーローとか、正義の味方とか思ったことはない」

 

 そう、誰かにそう言われようとも俺は一度も自分がそうであると思ったことはない。

 

「俺が救えるのは俺の手の平で収まる、本当に数少ない人だけだ。人ってもんはそんなものなんだよ―――誰かを救える力のある奴でも、何もかもを救えるなんてことはない」

 

 それは俺がずっと自分で経験したことだから。

 助けようと思って、でも力が足りずに死なせてしまったこともあった。

 失ってしまったこともあった。

 ……だけどそれを背負って、また何かを守るために俺は戦うんだ。

 失った奴を忘れないために……護れなかった大切な奴ならそう言うから。

 

「俺は第二次聖剣計画なんてものは知らなかった。でもお前は知っていた。子供たちはお前でしか救うことが出来なくて、そしてお前は子供たちを救った―――フリード、お前は何も間違っちゃいない。間違っているのは悪魔だ」

 

 俺はそっと、フリードに手を差し伸べた。

 

「―――俺はお前を許さない。きっとこれからもずっとだ。たくさんの命を奪ったお前を、許すことはきっと出来ない……だけど正しいことをしようとして、でもそれを踏みにじられて苦しんでいるなら……俺はお前に力を貸す。俺が子供たちを救うんじゃない―――お前が子供たちを救うんだ」

「………………餓鬼どもは旧魔王派の糞どもに捕えられている」

「それでも何もしないよりはマシだ―――フリード、お前はお前が一番望むことをしよう。俺はそれに手を貸す……お前が贖罪を望むなら……きっと、その子供たちと一緒に居てやることがお前の贖罪だ」

「……………………ひゃははは―――ホント、イッセー君は甘いんだよ……そんなに俺の状況は甘くはない。捕えられてる時点で、そんなもんは希望観測でしかねぇってわけだけど―――あぁぁぁ、白けた。何が悲しくて死んでイッセー君に救ってもらおう作戦を考えたんだか……最初からお前なんてあてにするんじゃなかった」

 

 フリードは憎まれ口を叩きつつ―――俺の差し伸べた手を掴んで立ち上がった。

 

「ああやこうや考えるのは俺様のキャラじゃなかったよねぇぇぇ♪良いぜ、良いぜ―――イッセー君の口車に乗ってあげるよぉぉ?」

「いつものふざけた口調で安心した」

「ひゃははは!!ホント、お前馬鹿じゃねぇの?もうお人好しのランク超えてるだろ…………旧魔王派共は考えればどいつもこいつも戦闘、戦闘で餓鬼共の監視もお留守になってるかもだからねぇ―――しゃーねーから、救ってやるか♪」

 

 フリードはアロンダイトエッジを力強く握ると、剣は喜ぶかのように光り輝く。

 ……アロンダイトエッジは、もしかしたら自分と同じ性質の宿主を求めていたのかもな。

 堕ちて魔剣になりながらも聖の文字を失わない聖剣と、堕ちてもなお改心して何かを守ろうとした男。

 フリードとアロンダイトエッジは相性が抜群の聖剣だったからこそ、俺も手こずったんだろうな。

 

「待て、フリード・セルゼン。君にはいくつか聞かなければいかないことがある」

 

 すると俺たちの隣を通り過ぎようとするフリードに、ゼノヴィアがそう語りかけた。

 

「あぁん?」

「……先ほどのお前が倒したとされるディオドラの『女王』。外傷こそ大きいものだがあれは確実に死なないように手加減されていた。君はもしかして、イッセーとあの『女王』がまともに戦えば、彼女が死ぬと分かっていたからわざと戦闘不能にして命だけは守ったんじゃないか?」

「………………ま、顔なじみのよしみでね」

 

 ―――顔なじみ?

 どういうことだ、と俺がフリードに言おうとした時、ゼノヴィアは俺を遮って話し続けた。

 

「そうか。ここまで聞いてようやく確証が持てたよ―――ディオドラの眷属は、私が知る限りでは『戦車』『兵士』『女王』、この者達は元教会の聖女だ」

『―――なっ!!!!?』

 

 俺たちはゼノヴィアの発言に驚愕の声を上げたッ!!!

 元教会の聖女だって!?

 ………………おい、待てよ。

 ゼノヴィアは『戦車』との戦闘の後、ディオドラは想像を絶するほどの外道かもしれないと言っていた。

 そしてディオドラの眷属のほぼ全ては元教会の聖女―――俺はそれらの単語を当てはめ、考えた結果……異様なまでの怒りを覚えた。

 

「……フリード・セルゼン。君は教会でも有名なエクソシストだった。有能な戦闘センスや光力の強さは目を見張るものがあり、若き天才とまで言われていた…………そんな君が、理不尽な悪魔狩りや身内のエクソシストをも傷つけるほどの傍若無人になったのは突然のことだと聞いている」

「………………まあ、一応は話しておいた方が良いっすよねぇ―――ま、あの『女王』ってのは俺の所属していた正統派の教会で俺とコンビ組んでたシスターさんなんですわ。まあ俺も若気の至りってもんで、結構慕ってて、あのシスターさんラブだったんだけどねぇ…………ある日、あのシスターさんは悪魔に唆されて悪魔に籠絡され、そして教会を追放されたんだよ」

 

 フリードは昔を思い出すようにそう話す…………ここまでの話を聞いて、俺の予想が正しいということを俺は理解した。

 そう、ゼノヴィアの言う通り、ディオドラは―――最悪の悪魔だ。

 

「まあ、俺が教会を追放された一番の理由は、追放されたあのシスターさんを悪く言う同僚と喧嘩して、そいつを勢い余って殺しちまったことなんですけどねぇ……ここまで言えば分かるっしょ?―――全部、ディオドラの仕業だよ」

 

 フリードはそう言った。

 

「待ちなさい……ディオドラの仕業?それってつまり」

「おうよ……ディオドラの趣味ってもんは糞みたいなもんでよぉ……信仰心の強いシスターや聖女を籠絡し、それを堕として犯しまくり、自分の物にするってもんなんすよ」

「―――ッ!!!」

 

 俺たちはそれを聞いて、殺気立った。

 たぶん皆もその言葉を聞いて分かってしまったんだろう―――ディオドラの本性と過ちを。

 

「……先ほど私が倒した『戦車』は私が所属していた教会の末端にいた非常に信仰心の深いシスターだった……話しか聞いていなかったが、悪魔に唆されて追放されたと聞いていたよ―――予想していたとはいえ、まさかこれほどの悪党とはッ!!」

 

 ああ、その通りだ。

 ディオドラ・アスタロトと言う男は最悪の悪魔―――下種、外道なんて言葉じゃあ物足りない。

 鬼畜、畜生……いや、それ以下の存在だ。

 

「あの糞悪魔はそういう奴なんですわ―――アーシアちゃんもあの糞悪魔に陥れられた被害者の一人。ディオドラの言う『運命』ってやつはあいつの仕込んだシナリオで、アーシアちゃんはそれに見事に嵌り追放された……これが俺の知る真実―――あいつの大誤算はアーシアちゃんをイッセー君が救ったってことだったんだけどねぃ」

 

 フリードはそれを言い終わると、俺の方を見てきた。

 その目には嫌悪感のようなものと、覚悟のようなものがある。

 

「……俺が言えることじゃないのは分かってるんだけどねぇ?―――あの野郎をぶちのめしてくれよ、グレモリー眷属方。俺は今から餓鬼共を助けに行くからさ?俺の分まで―――あいつをぶん殴ってね?」

「ああ、任せろ―――そろそろ、俺も限界なもんでな………………ッッッ!!!」

 

 俺の体からは突如、意識もしていないにも関わらずオーラが爆発する。

 ……不思議な感覚だ。

 怒りで頭が爆発しそうなのに、意識は妙に鮮明だ。

 

「……アーシアちゃんはきっとあの糞悪魔に真実を告げられているかもしれないよ?あいつは堕とした奴にそう言って、その悲しみや苦しみの表情を見て快感を得る糞野郎だよ?アーシアちゃんは絶望……」

「―――大丈夫だ。例え真実を知らされても、アーシアは絶望はしない……アーシアのメンタルを舐めるなよ?アーシアはあんな野郎には屈しない……俺が信じろって言ったんだ。きっと、俺を信じて待っているよ」

「…………何でしょうねぇ。イッセー君の大丈夫は異様な説得力があるのは―――じゃ、俺様、この場でおさらば!!はい、チャラバ!!」

 

 するとフリードは懐から小さな玉のようなものを取り出し、いつかの時にしたように閃光弾で辺りを輝かせながらその場から消える。

 ……相変わらず派手なのが好きな奴だな。

 

「……イッセー?さっきからあなた―――いいえ、何でもないわ」

 

 すると部長は俺に何かを言いかけて、だけどそれを言うのを止めた。

 俺はそれを確認すると、一人神殿の奥へと歩み始める。

 ……俺は気付かなかった。

 だってあまりにも俺の心が静かだったから―――まるで嵐の前の静けさのように、静かだったから。

 気付かなかった―――俺の体が、今までにないほどのどす黒い紅蓮のオーラを噴出していることに。

 俺たちは神殿の奥へと歩く。

 そして―――ようやく辿り着いた。

 

「―――よう、糞悪魔。待たせて悪いな…………さて、覚悟しろ」

 

 神殿の奥には何やら機械仕掛けの装置のようなものがあり、そして辺りの風景はいたるところに何かに抉られた様な傷があった。

 柱は何本か折れ、地面には削られた跡、そして―――装置によって手枷を付けられたアーシアと息を荒くしてアーシアを睨んでいるディオドラ。

 俺はアーシアを見る。

 その目は力強さが帯びており、ディオドラを拒否するように睨んでいる姿だ。

 涙の跡はない。

 でも―――体にはいくつかの火傷の跡のようなものがあった。

 

「あぁ、何だ、もう来たんだね―――丁度いい、僕の心をここまで掻き乱したアーシアを絶望させるために君を殺すよ!!!赤龍帝!!!!!」

 

 ディオドラは何かに怒るように、そう叫ぶが俺はそんなことどうでも良かった。

 そう、あんな奴、どうでも良い。

 だけど―――アーシアが傷を負っている……ということは、あいつはアーシアを殺すつもりで他人からの借り物の力を使い、そしてアーシアに渡した神器の防御力を突破するほどの攻撃をしたってことだろう。

 辺りの光景はそれの証明―――あれ?

 何で俺、こんなにも冷静なんだろう。

 俺はふと、自分の体を見た。

 ――――――そこには自分でも驚くほどの紅蓮のオーラを放つ、俺自身がいる。

 ああ、そうか―――俺はとっくの昔に我慢の限界だったんだ。

 ただあまりもの怒りに頭が体に追いつかず、そして頭だけは冷静だった。

 そうか、そうか……………………………………なら、話はとても簡単だ。

 

「アーシア。助けに来たよ」

「イッセーさん…………はい!信じてました!!」

 

 アーシアはほんの一瞬、怯えたような顔をするも、すぐに俺に笑顔を見せ、俺も出来る限りの笑顔を見せる。

 そう、それだけで良い。

 アーシアに笑顔を向けるだけで良い。

 

「黙れ、赤龍――――――」

 

 ディオドラは全ての言葉を言い終わることなく、一瞬でアーシアの傍から消えた。

 何故?

 簡単だ―――俺が殴り飛ばしたから。

 顔面を、その拳で……あいつを殺すつもりで。

 

「ディオドラ―――――――――お前、もう生きている必要はないだろ?」

 

 もう、抑える必要はない。

 後はただ、この悪魔を

 

 

 

 

 ――――――ぶっ潰す。


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