ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
真っ暗闇の中、俺は神経を研ぎ澄ましていた。
呼吸を規則正しく行い、目を閉じて暗闇の世界でほぼ無心でいる。
手には以前の修行の後で夜刀さんに貰った刀身なき刀、”無刀”……未だに一度も使った試しはないけど、夜刀さんはこの刀が自分の傑作の刀って言っていたからな。
っというわけで俺は今、家の地下にあるトレーニングルームで精神統一と刀の力を試していたりする。
……わけだけど、どうにも力が上手く発動しないんだよ。
振るって何かが切れるわけじゃなく、特に何か超常現象を起こすわけでもない。
ただ刀身の無い刀があるだけだ。
「さて、これはいったい何なんだろうな」
本日は休日。
朝の日課をアーシアと共に終え、俺はこうして軽く鍛錬をしている最中だったりする。
後でアーシアや眷属の神器持ちが集合するらしく、本日は神器鍛錬の日ということになっている。
っというのも、俺は日によって鍛錬の内容を色々と変えているんだ。
例えば休日なんかの暇なときは神器関連、平日は短い時間で質の良い結果を生む実践。
時には神器を使わずに祐斗とバトルしたり、聖剣の可能性を確かめる、仲間同士の連携の練習……などなど。
連携は主に俺は小猫ちゃんとギャスパーのチームの連携をとっているんだ。
以前のゲームではこのパーティーはかなり安定した力を誇っていたし、それに未だに不完全なギャスパーの面倒や、力にブレのある小猫ちゃんを黒歌と一緒に支える……っていう後輩組の面倒は俺が最近は見ている。
後輩共曰く、俺は面倒見が良いから頼りたくなるらしい。
……とにかく、今は一人で無刀の力を試しているんだ。
「夜刀さんの傑作なんだから凄い刀とは思うんだけど……どう思う?」
『そうですね……夜刀の事ですから、主様にただの刀を与えるとは思いません。それに刀身のない刀が主様には合っている、ということを考えると……』
『誰も傷つけない刀、ということになるな』
だけどそれじゃあ矛盾しているよな。
刀は誰かと戦うための武器だ。
それを誰も傷つけないための刀なんて矛盾している。
「つっても、今の状態じゃあ何も進まないな。さっきから色々試してはいるけど……ものは試しだ」
俺は籠手を出現させ、手の平に小さな赤い球体を浮かべる。
俺の魔力の才能は半分以上は魔力弾に対する能力付与に注いでいる。
だから魔力弾が拡散したり、膨大したり、貫通したりと言った様々な能力を得られるんだ。
自分の頭で魔力弾のプロセスを思考し、それを実行するから力以上に頭を使う技ではあるけど。
「―――なるほど、無刀ってのはそういう事か」
……俺は赤い球体と無刀が共鳴を起こしているのを見て、納得した。
俺の出した赤い魔力による球体……今はシンプルな
単に破壊力と滅却力が上がっている、どちらかと言えば部長の魔力に近い性質を持つ魔力弾だ。
流石にあのレベルの再現は出来ないけどな。
……無刀にその魔力弾の球体は入っていく。
そして再び訪れる静寂、その少し経った瞬間に無刀からはあり得ないほどの赤いオーラを噴出させて、本来は刀身があるはずの部分から丁度良い長さの赤い刀身が現れた。
それは辺りに激しく炎のようなオーラを巻き散らかせていて、その質は恐らくは……断罪の龍弾。
つまりこの無刀とは
「俺の魔力弾を吸収し、その性質をこの刀に一時的に付与し、オーラによる刀身を生む、か」
俺は一振り無刀を振ると、その刀身から波動のように斬撃が飛ぶ。
それを俺は壁に衝突する直前で消した。
……この刀はかなり凄まじいレベルの物かもしれない。
『自身の魔力と性質を刀に付与し、そこから莫大な刀身を生む刀。無刀とはそういう意味ですね。何もないという無から刃を生み、刀にする。だから無刀』
「ああ―――無刀・断罪の刃ってところか?」
俺は適当に今の力をそう略称した。
そう考えるとこの無刀は結構な戦力になる。
神器なしでも相当な戦闘も出来るだろうし、これで神器以外の武器もそろってきたな。
―――魔力弾に対する能力付加という性質変化、今までにはない状態となった聖剣アスカロン、過剰魔力供給によるオーバーヒートモード、そしてこの無刀。
俺の目標は神器なしで最上級悪魔と渡り合うかそれ以上だ。
色々と力を伸ばす可能性はあるはずだから、後はどれだけ努力して、ひたすら突っ走るかだな。
俺はひとまず無刀を腰の辺りに帯刀し、そしてトレーニングルームの脇にある休憩スペースで軽く水分を取った。
朝起きて日課を済ませてから数時間、ここで自主トレーニングをしてたからな。
流石に気疲れくらいはする。
『それにしても相棒。今更だが最近は特に力に対する探究心が高まったようだが、やはりアーシア・アルジェントの一件が原因か?』
「……まあ、最大の理由はそれだ。でもそれだけじゃない。そもそも俺が一度、殺されて悪魔になったのは神器の不調によるもの。しかも全部自分の責任だ―――神器なしでも戦える、それは俺にとっては必須な事柄なんだよ」
いつ何時、神器が封じられるかも分からない。
もし仮に神器なしで戦うときが来るのなら、それに用心しすぎることは絶対にないからな。
っと、そろそろ神器組が来る頃だな。
神器組で今回の鍛錬に参加するのはアーシア、ギャスパー、祐斗。
それとゼノヴィアが追加で参加するそうだ。
ゼノヴィアは祐斗と剣戟での修行が目的らしい。
……数分後、俺の元にメンバーが揃うのだった。
―・・・
「行くぞ、木場!!」
「望むところだ、ゼノヴィア!!」
現在、神器組の鍛錬が開始して既に1時間ほど経過していた。
ギャスパーは今まで通りの神器の扱いに慣れるためのアザゼル仕込みの修行内容。
連続で掃射される柔らかいソフトボールの中にごく稀に含まれる強烈な爆発玉を見分け、停止させるという集中力と適応力を含ませる修行をしている。
祐斗とゼノヴィアは見ての通り、激しい剣戟。
アーシアは俺からアーシアの神器に関してのレクチャーを受けていた……と言いつつ、俺は恥ずかしくてアーシアの顔を直視できない。
……理由は簡単で、今日の朝にアーシアから満面の笑みで「大好き」って言われたからだ。
何度も言われてはいるけど、今までのものとは重みが違ったというか……アーシアの気持ちが俺の胸に届いた。
嘘偽りのない純粋な言葉に俺は未だにドギマギしているんだ。
……集中、集中。
ここは悟られないように、冷静かつクールに行かないと。
最近アーシアに一本取られることも珍しくないからな。
「じゃあアーシア。アーシアの神器は完全なるサポートタイプのもの。その回復力はおそらく現存するどんな神器よりも高い。これは確実だ」
「はい!」
アーシアから心地よい言葉が響く。
さっきからニコニコと俺の考察を聞いているみたいだけど……何がそんなに楽しいんだろう。
とにかく続ける。
「現在のアーシアは十全に神器を使いこなせてる。体力面も問題ないし、あとはメンタル面も問題はないはずだ。つまりある意味では今のアーシアの
「えっと……自分では戦えないところ、でしょうか」
「ああ。基本的なアーシアの性格上、誰かを癒しはするけど傷つけは出来ない。故に神器とは相性抜群だ。なら少なくともアーシアは自分の身は自分で最低限守れるようになれば更なる進化が出来る―――戦うんじゃなく、自分を守ることならアーシアも出来るはずだ」
アーシアは俺の言葉を手元にあるメモ帳に書きながら納得していく。
ここまでは神器というよりアーシアの可能性の話だ。
「神器には禁手っていう奥の手がある。例えば俺の『赤龍帝の籠手』は『赤龍帝の鎧』、祐斗の『魔剣創造』は『双覇の聖魔剣』っていった様にな。だけど前者と後者とでは別物だ……何か分かるか?」
「えっと……木場さんの神器の禁手は普通じゃない、ですか?」
「そう。祐斗の聖魔剣は従来の魔剣創造とはかけ離れた進化をした。これは亜種の禁手って言われる。つまり神器は持ち主によれば従来の禁手とは違う進化が可能なんだ。これは俺やアーシアにも可能性はある」
「……私もイッセーさんと一緒に戦えるってことですか?」
「ああ。アーシアの『聖母の微笑み』の禁手はおそらく、今の状態とは余りかけ離れることはない。大体は今の力の大幅な上昇に加え、新たな能力が加わるくらいだ―――アーシアは恐らく、このまま行けば従来の禁手とは違う方向に進化するよ」
……アーシアは元々は聖女で、そこから悪魔になって以降、様々なことを経験している。
色々な人とあって、たくさんの事が劇的に変化しているだろう。
母さんやリヴァイセさんとの出会いもそれの一つ。
様々な劇的な事が繰り返され、そして決め手となる想いが爆発したとき、神器は禁手に至る。
その決め手は知らないけどな。
「とりあえずアーシアの強みは通常よりも高い魔力の才能、あとは魔法関連による自身の防御とかだな。神器の安定はもう問題ない。これからはそれをどうにかすれば更に強くなれるはずだ」
「魔法や魔術、ですか……頑張ってみます!」
「良い返事だ―――向こうもそろそろ終わる頃か」
俺はそう呟きながらボールを連続掃射されているギャスパーを見た。
ギャスパーの眼光は赤く光り、そして俺はそのボールを見る。
20球近く撃たれるボールの中に7球ほど爆発弾が紛れており、ギャスパーはその球をきっちり7球とも停止させ、更に小さなコウモリに変化してその球を無力化した。
……成長しているな。
「お疲れ、ギャスパー」
俺はジャージ姿で床にぺたんと座り込むギャスパーの方に歩いていき、タオルとドリンクを渡した。
ギャスパーは今のが堪えたのか、肩で息をして俺の方を上目遣いで見ている。
「先輩、出来ました!もっともっと強くなるですぅ!!」
「おう、意気込みは十分だ。あの速度の球を7球も見極めれるなら今後のゲームにも制限なしで参加できるはずだ」
「はい!次はもっと皆さんのために戦いたいです!」
ギャスパーは満面の笑みでそう言うと、俺の首筋を軽く触ってくる……まさかこいつ、ここで?
「その……血を吸っても、良いですか?さっきからその……イッセー先輩から直接吸いたくて……」
「………………………………………………………………ゼノヴィアに殺されるから後でな?」
俺は遠い目をしながらアーシアの厳しい目線に耐えると、祐斗とゼノヴィアの方に目線を向けた。
ゼノヴィアはデュランダルを出来る限りオーラを抑えるように祐斗と剣戟しており、当の祐斗は聖魔剣を二本構えて対抗している。
祐斗の聖魔剣はおそらく耐久重視の聖魔剣。
あのデュランダルと打ち合えるのはそれが理由だ。
「やるね、ゼノヴィア―――聖と魔、二つの聖魔によって形を成す」
すると祐斗の手元の剣が消失し、更に聖なるオーラと魔のオーラが祐斗の手に集中する。
それはすぐに剣の形になって行き、そして完全に剣となった。
「ソード・バース―――行こう、聖魔剣・エールカリバー」
祐斗の呟きでその聖魔剣―――エールカリバーは激しいオーラを放つ。
「それはエクスカリバー・フェイクじゃないのか?」
「元々の名前はそうだけど、今は違うさ―――この剣には僕の仲間の想いが、応援をしてくれる優しい想いが詰まっている…………だからこれは偽物なんかじゃない」
「エールカリバー……良い名前だな、木場」
ゼノヴィアはデュランダルを構え、好戦的な目つきとなる。
「そう、これはエールカリバー。僕の新しい力で、そして―――想いだよ」
祐斗とゼノヴィアは同時に動き出す。
祐斗は耐久タイプの聖魔剣を捨て、そしてエールカリバーでゼノヴィアと交戦。
二人の騎士の速度と速度がぶつかり合った。
「
「くっ!更に速度が上がるようだね、木場!」
祐斗はエールカリバーの天閃の力により、速度が底上げされる―――だけどあの速度、あの剣の性能は完全にエクスカリバー・フェイクを大幅に上回っている。
祐斗は北欧旅行で自分の仲間たちと再会し、ようやく新しい一歩を進み始めた。
エールカリバーの名前を変えたのも、その現れだ。
……未だなお進化を続けるな。
俺もウカウカしては居れない。
「だが木場、変わっているのはお前だけじゃない―――デュランダル!!」
するとゼノヴィアは光のオーラをデュランダルから放つ。
そのオーラはまるで爆発したかのように放たれ、そしてその光はゼノヴィアの手元で球体となって―――って!?
「デュランダルは暴君だ。力を制御しようものならすぐさま爆発的なオーラでそれを拒否し、逆に垂れ流しにすれば余り強さはない。だから私はそのオーラをギリギリまで溜めて、それを放出して大きな塊のオーラにしてみたわけだ」
「……えっと、うん。それは分かるよ。だけどね?悪魔にとって聖なる物は命取り―――」
「分かっているよ」
ゼノヴィアは満面の笑みでそう言うが、実際には全く笑っていない。
オーラはすごい殺気を覆ったままゼノヴィアの思うが儘に彼女の上空を回っており、祐斗は冷や汗を掻いていた。
「流石の私もお前の発言には頭を悩ませたよ―――お前を今、断罪してやる。私は惚れた男を男に取られるような趣味はないんでな!!」
「でもそれは洒落にならないと思うんだけど!?」
すると祐斗はすぐさまゼノヴィアから距離を取る。
……なんでだろう、今のゼノヴィアは凄まじく頼りに思える!
思えばゼノヴィアはいつも俺を困らせてばかりだったのに、最近はすごく良いじゃないか!
あの時の執事服も似合ってて可愛かったし!
「私はデュランダルを支配するのではなく、協力してもらうことにしたよ。何故かは知らないが、もう他人のように思えなくてね―――喰らえ、私たちの敵!!」
ゼノヴィアはデュランダルを大きく振りかぶり、そして
「
その光の球体は祐斗を襲うのだった。
―・・・
「あ、あ、あ、あは、あははは…………流石の僕も死を覚悟したよ……そうか、僕が目指す道とは茨なのか……」
祐斗は半分壊れた状態で半笑いしながらエレベーターに乗って上へと来ていた。
ゼノヴィアはやり切ったようにツヤツヤしている―――一応、死なせないための考慮はしていたらしく、祐斗はあの上空からの聖なるオーラの落雷の衝撃波だけで済んだ。
体に傷はないもののジャージはひどい有様だ。
とはいえ助けは出す気になれない―――学校でのあの仕打ちに比べたら。
おかげでまた変な噂に信憑性が付いたからな。
でもあのゼノヴィアの新技、相当なポテンシャルだ。
広範囲における落雷のような聖なるオーラの放射。
しっかりと操作も出来るみたいだし。
しかもデュランダルを今まで以上に扱えていた……俺のアスカロンと同じような現象が起こっているのかな?
とにかく、俺たちのレベルは日に日に上がっているわけだ。
「さて、じゃあそろそろ昼飯にでもしようか」
今日は母さんや他の眷属はそれぞれ用事があるって言っていたから今家には誰も居ない。
だからこうして暴れていたわけだ。
にしても昼か……みんな修行で疲れているみたいだし、久しぶりに俺が作るか。
俺はリビングに入り、特に模様のないシンプルなエプロンをつけて台所に行き、冷蔵庫の中身を確かめる。
普段は母さんは俺をキッチンに入れないせいか、俺はあまり料理をする方じゃないんだけどな。
一応、ある程度は出来る。
兵藤一誠になる前は一人暮らしだったからな。
親が小さい頃に死んだ俺はミリーシェのところに一時的に預けられて、ある程度自立できるようになってからは一人暮らしだった。
母さんや部長、アーシアや朱乃さんほど上手には出来ないけどな。
「ふむ……エプロン姿のイッセーか。これは中々レアだな」
「あうぅぅ!凛々しいです!イッセー先輩!!」
何故か関心するゼノヴィア&ギャスパー。
っていうかこの二人は意外と良いコンビだな。
結構二人で行動するのも多いし、結構強い信頼関係なのかもしれない。
っと適当な雑談を踏まえて俺は手ごろな料理を作る。
材料は余りなかったから手軽に簡単オムライスにして、それを人数分作って皿に並べた。
大体30分くらいか?
もう12時は過ぎている。
「そう言えば小猫ちゃんと黒歌、オーフィスは買い物行ってるけど朱乃さんとイリナはどこ行ったんだ?」
「えっと……朱乃さんは確か女を磨きますって言ってまどかさんに付いて行ったんですが」
俺の問いにアーシアは答えてくれる。
……もしかしてイリナは
「あいつ、まだ寝てんのか?」
「起きてるわよぉぉぉ!!!」
おっと!?
突如俺の後ろから音声が響くと思うと、そこには寝間着に翼を生やしたイリナが居た。
若干涙目でちょっと怒った顔をしているけど……
「ど、どうした?」
「私、悲しいわ!イッセー君が起こしに来てくれると思ってウキウキしながらベッドで寝たふりしてたのにどれだけ待っても起こしてくれないんだもの!幼馴染を起こすのって重要なイベントじゃないの!?」
「そ、それは女の子が男の子を起こすものじゃないかと……」
ギャスパーは恐る恐るそう言うが……
「知ってるわよぉぉ!!でもイッセー君起きるの早いんだもん!!5時半起床で6時からアーシアさんと二人ランニングって何よぉぉぉ!」
「どう、どう……ほら、イリナのためにオムライス作ったから」
「ホント?嘘、イッセー君って料理も出来るの!?………………ってちっがぁぁぁうぅぅぅ!!」
イリナのノリツッコミが炸裂するも、それを見ている他の皆は苦笑いしている。
……はぁ、仕方ないか。
イリナに気にかけてなかった俺も悪いし、それにイリナの分のオムライスがないからな。
俺は冷蔵庫の中身を見ると―――
「やべ、卵がねぇ」
……結果論、俺はチキンライスを食べることになりました。
あと余った鳥で即席焼き鳥を作ってイリナをあやした上にデザートまで作るという面倒なお昼となったのだった。
―――20分後
「今戻ったわ。色々と話さないといけないことがあるから、先にご飯を作るわ…………え、イッセーの手料理を食べているの!?ズルいわ、皆!!」
帰ってきた部長に事態の説明をし、二度手間を食ったのだった。
―・・・
現在、俺たちはきっちり駒王学園の制服を身に纏って冥界に来ていた。
理由は単純明快、先日、部長からある事を聞かされたからだ。
それは―――冥界のテレビ出演のオファーだった。
何でも若手悪魔の特集をするらしく、それで各若手悪魔がほぼ全てオファーを出され、俺たちもそれに参加するべくここに来ている。
ということで冥界のテレビ局の待合室で待っている俺たちなんだけど……ギャスパーは大丈夫だろうか。
最近ではかなり度胸がついてきて学校に行くのも何とか出来てるし、眷属間では遠慮もなくなっては来ている。
だけど流石に冥界全土に放送されるテレビに出演するからな。
俺はそっとギャスパーを見てみると……
「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ―――人はもの、とるに足らない置物、置物、置物……よし!」
「…………前々から思ってたけど、アザゼルにどんな修行を課せられたんだよ、お前」
俺は軽くギャスパーの後頭部をチョップして嘆息する。
どうやら考え過ぎだったようで、ギャスパーも方法はどうであれ成長しているということにしておくか。
俺は気分転換に待合室に置いてある一つの雑誌を手に取ると……
「おお、部長の特集されてるな。リアス・グレモリー姫特集か……やっぱり冥界でも人気があるんだなぁ……」
俺は興味深く雑誌のページを捲っていく。
その中にはレーティングゲームのことが載ってあったり、かなり面白い内容だった。
レーティングゲームの上位ランキング陣の情報とかも載っている。
そして俺は真ん中のページまで来た時、衝撃を受けた。
「―――え?なんで俺が鎧姿で写っているの?え?」
俺はそのページを開けたまま雑誌を地面に落とす。
俺の異変に気付いた眷属の皆は一斉にそのページを見る―――そこには、一面全て俺が赤龍帝の鎧と白銀龍帝の双龍腕を装備した状態で写ったいた。
しかも器用にマスクを取っ払っていた終盤戦の画像で、更にそこには俺があの時言ったセリフが事細かに書かれている。
記事には『今、子供に爆発的な知名度を挙げるリアス・グレモリーの兵士!!赤龍帝兵藤一誠に迫るッ!!』と書かれているが―――一切迫られてねぇよ!!
なにさらっと嘘を付いているんだよ!!
「……まさかイッセーの特集が既にしているは思っていなかったわ―――ん?情報提供者、ティアマットって隅に小さく書かれているわよ?」
「―――あんのバカヤロォォォォ!!」
俺はそう叫ぶのだった。
叫んだら幾分か冷静になったな……とりあえず読んでみようか。
「……あまりイッセー先輩の良い所を書けていません。私ならもっと先輩の良い所を書ける自信があります」
「僕も小猫ちゃんの意見に賛成かな?ちょっとこれはお粗末だね―――処分しよう」
「あらあら、私の意見と合いましたね……そんな出来損ない、燃やした方が良いですわ」
小猫ちゃん、祐斗、朱乃さんの意見が同調されて小猫ちゃんが空中に本を投げ、祐斗が切り刻み、朱乃さんが燃やす―――って
「勝手に捨てたらダメでしょ!?」
「大丈夫よ、イッセー。雑誌の一つや二つ、そんなことでは怒られないわ―――むしろこんな未完成なものを載せる記者が悪いの」
「イッセーさんの魅力をしっかりと書いていないなんてダメだと思います」
アーシアの顔だけ笑顔も怖いことで、皆この記事に少し怒っているようだった。
……そんなに俺のことをしっかりと書けていないのが駄目なのか?
っていうかティアが情報提供者な時点でまともな情報が行かないと思うんだけど。
「とにかくそろそろ時間だわ。行きましょうか」
部長は慣れている様子でそう言うと、ソファーから立ち上がってそのまま歩き始める。
俺たちはそれに続いて歩いて行って、そして収録スタジオまで魔法陣でジャンプした。
今回はサイラオーグさんや他の若手も呼ばれているらしいから、後でまた会えるかもしれないな。
そして目的地に到着すると、俺たちの前に背がすらっと高い真面目そうなスーツを着た男性がお辞儀をしながら立っていた。
「お待ちしておりました、グレモリー眷属の皆様。そしてお初にお目にかかります」
「あら、丁寧なお出迎えありがとう。確かあなたは冥界第一放送の有名な……」
「ええ。不肖ながらも局アナをさせて頂いています。この度は我々のオファーをお受けいただいてありがとうございます」
深々と男性は頭を下げ、そして仕切り直しという風に手元にある資料に目を通した。
「今回の特番は若手悪魔の方々の特集です。前回のレーティング・ゲームの視聴率は過去の若手の試合を大幅に上回る超高視聴率を叩きだしましたものです。その勝者であるグレモリー眷属の方々にはかなりの質問などをすると思いますが……」
「構わないわ。ただ……一応ギャスパーへの質問は極力抑えてもらえるかしら?この子、今は何とか安定しているけど大勢の見知らぬ人の前では……」
「承知しております。ギャスパー様には眷属に対する想いを一言二言ほど言っていただくので大丈夫です」
そして次々と打ち合わせが進んでいく。
どうやら今回は部長を中心としたインタビューで、ちょくちょく俺たちにもそれが回ってくるらしい。
それを男性は説明するのだが……
「それから姫島朱乃様、木場祐斗様。このお二方にも結構質問が行くと思いますのでよろしくお願いします」
「ええ、わかりましたわ」
「はい」
朱乃さんと祐斗は快く頷いた。
でもなんでこの二人なんだ?そう思っていると、男性は俺の想いを汲み取ったのか、話しかけてきた。
「前回のゲームから姫島様と木場様の人気が上昇しているのです。姫島様は男性人気、木場様は女性人気――――――ところであなたはあの兵藤一誠様ですか?」
「え、ええ。そうですけど……」
「そ、その……私情でまことに申し訳ないのでございますが…………私の娘があなたの大ファンなので、サインを貰ってもよろしいでしょうか?」
「…………………………はい?」
俺は男性の突然の申し出に情けない声を漏らした。
いや、だってさ―――ファンって何?
俺、別にアイドルとかそんなものじゃないしさ?ファンなんているはずが……
「この色紙にお願いできますか?ご無礼承知の上ですが、娘に泣き頼まれまして……」
「いや、別に大丈夫です!そんな申し訳なさそうにしないください!サインくらいで!!」
俺は反射的に色紙とペンを受け取り、自分の名前をスラスラとそれっぽく書いてみる……うん、様にはなっているはずだ。
それを男性は受け取るとまた深々と、さっきよりも深々と頭を下げた。
―――どうなっているのだろうか。
「失礼しました。それでですね、兵藤一誠様。あなた様には誠に申し訳ございませんがオファーが一つではないのです」
「……えっと、それは」
「実はこのテレビのオファー以外にも雑誌と極秘のオファーがありまして―――前回のゲームのことを覚えていらっしゃいますか?」
すると男性は俺にそう尋ねてきた。
前回のゲームといえば、俺は匙と戦ったり、チビドラゴンズを召喚して一緒に戦ったり、新しい力が発現したり―――……え、まさか
「ご察し頂けたのならば幸いです。あの時のゲームもこの冥界第一放送で放映していたのですが、あのゲームは冥界中のお茶の間に流れていまして。他人目から見ても兵藤一誠様のご活躍、言動、そして力の覚醒。どれをとっても一言、『カッコいい』というのが同意見で」
「…………結論、お願いできますか?」
「はい。実は冥界の市民層……いえ、貴族層の若い子供の世代においてあなたは今、社会現象クラスの大人気になっているのです。試しに我々で兵藤一誠を知っていますか?という質問を子供にしたところ、1000人中の全員が知っていたほどです」
男性が少しウキウキしながら話してくれる。
たぶんそれはあのゲームの後の事柄も理由なんだろうな。
「更にあなたの使い魔の小さなドラゴンの言動は冥界中の子供に衝撃を与えまして―――あんなお兄ちゃんが欲しい、なんてことも相まって冥界の子供から兵藤一誠様は『
お、おぉぉぉぉ……あの時のフィーたちの全国放送はそんな現象を引き起こしていたのか!?
兄龍帝・お兄ちゃんドラゴンって……誰のネーミングだよ。
これはあれか―――諦めて吹っ切れるしかねぇのか!?
俺は助けを求めるべく眷属の方に視線を送ると……
「ふむ……惚れた男が子供に大人気。誇るべきか」
「そうですね。イッセーさんが遠くに感じますが、心はいつも近くにあります!」
「あらあら……兄龍帝。良い響きですわ―――私も彼の妹になってみたいですわ」
「主としてイッセーは誇りね。ふふ、イッセーが有名になるのは自分のことのようで嬉しいわ」
……おや?ゼノヴィア、アーシア、朱乃さん、部長は結構受け入れてるみたいだよ~?
何故か俺よりも喜んでいるぞ!?
「……でもちょっと寂しいです。先輩が皆の先輩になるなんて……」
「あうぅ……イッセー先輩が有名になったら、先輩の周りに人がいっぱい集まるですぅぅぅぅ!!」
「これは子供人気だけじゃないと思うね。おそらく僕と朱乃さんと同じように男性女性人気もあるはずだ―――ライバルが増えて困るよ」
くそ、後輩達はあんなだし祐斗はもう帰れよ!この野郎!!
今の俺に無駄な視線を送るな、この野郎!!
『兄龍帝……お兄ちゃんドラゴン―――ついにこの次元まで到達したかッ!!流石はわが相棒……否、我が息子よ!!』
『ふふふ……可愛い息子がここまで立派になるなんて―――もう感無量とはこの事です。誇り、そう誇りなのです!!もうわたくしは主様に一生ついていきます!共にお兄ちゃんドラゴンとして冥界の子供たちに希望と夢を見せてあげましょう!そう、お兄ちゃんドラゴンなのだから!!』
ドライグゥゥゥ、フェルゥゥゥ!!?お前たちの口調がもう爆発して考えれないほどお父さんとお母さんになってるぞ!?
帰ってこい!
普段の威厳ある二人に戻れ!!
『戻る必要などない!!相棒、現実を受け止めるのだ!!良いではないか、兄帝!!』
『最高にカッコいいです!!お兄ちゃんドラゴンになりましょう!!』
あぁん、もうなんでそんなに賛成的なんだぁぁぁ!!?
後々の苦労を考えたら!俺の頭が割れる!!
もう叫ぶしかない!いや、叫ばずにはいられない!!
「なんでこうなったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺はスタジオ全域に伝わるほど大きな声で叫ぶのだった。
―・・・
「では質問を変えましょう。木場祐斗様。あなたにとって眷属とは何ですか?」
「僕の大切な、掛け替えのないものです」
そんなこんなで俺の叫びとは裏腹に収録が始まる。
俺は若干げっそりしながら椅子に座っていた。
俺への質問は未だに飛んでおらず、今は部長中心でたまに朱乃さん、祐斗に質問が回っている。
ギャスパーへの唯一の質問は既に終わり、ギャスパーは今は安堵しているようだけど、俺の心は安堵しない。
―――もう兄龍帝のことは諦めて受け入れた。
そうしないと逆にしんどそうだから。
俺はこの収録の途中で別スタジオで何かの収録をするらしく、たぶんもうそろそろだ。
ってことはそろそろ俺への質問が来る頃だろう……そう考えている時だった。
「ところで兵藤一誠様。あなたは今、冥界の子供の間で大人気となっているのですが、貴方にとって戦いとは何ですか?」
……まさかの質問だった。
これ、応えなきゃダメか!?
でもここで変なことを言えば部長の顔に泥を塗るんだろうな。
ならここは―――
「仲間を、困っている人を、助けを望んでいる人を、好きな人を……誰かを守ることが俺の戦いです。俺にとっての戦いというものはそんなものです。ありきたりなことだと思いますけど、俺はそれを元に戦っています」
「そうですか、誰かを守ること。ならばもし冥界の子供が脅威に晒されていたどうしますか?」
「そんなの決まってます……命を賭けてでも守ります。そのための赤龍帝ですから―――あ」
つい自然と俺は答えてしまった。
何も考えないで、普通に答えてしまった今この頃―――なんであんなことを言ったんだろう。
……ま、いっか!
うん、もう平穏は諦めたから大丈夫!
俺、強い子だから!!
どんとこい、子供の純粋な目!!
そう思っていると、どうやら俺にスタジオ移動のサインが来た。
「実に兄龍帝らしいお言葉、ありがとうございます。それではこれより前回のゲームの名シーンを抽出したダイジェストをお送りします」
ここで一度、別枠で制作したシーンを流すらしく、俺はそこで別室へ移動することになったのだった。
ちなみにその内容は一つは雑誌の小さなコラム記事の取材と、あと一つはとあることに対する収録だったのだった。
―・・・
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……疲れたぁぁぁぁぁ……主に、精神が……」
俺は楽屋のソファーでぐったりしていた。
あのダイジェストは大体20分の長さで、俺はその間にすごい速度で色々やらされてた。
とにかく疲れた。
「ところでイッセー。極秘のオファーって何だったの?私も教えてもらっていないんだけれど……」
「ああ。それは放送までのお楽しみと情報漏洩を防ぐために黙っててって言われているんで、一応黙秘しておきます」
「そう?なら楽しみにしているわ」
部長は俺の言葉を察してくれたのか、特に気にすることなく頷いてくれた。
……確かにしんどかったけど、結構楽しくもあったから俺も本放送が楽しみだ。
ってことで楽屋でひと段落ついている俺たちだ。
さっきの収録は皆もきついものがあったのか、結構疲れた表情をしている。
にしても俺は子供に大人気っていうのは本当だったんだな。
実はさっきの会場には一般悪魔もいて、例えば祐斗と朱乃さんが質問されると黄色い声援をされるように、俺の質問になった時、子供から「おにいちゃんドラゴン!!がんばってぇぇぇ!!」とか「きょーりゅーてー、へんしんして!!」などなど。
そんな可愛い声援が届いたんだ。
流石にあそこで禁手になるわけにはいかなかったけど。
ともかく、意外と子供からの声援は心地の良いもので、兄龍帝には特に否定感はないな。
最初は突然のことで驚いたが。
―――コンコン。
その時、俺たちの楽屋の扉からノック音が響いた。
部長はそのノックを了解すると、扉は開けられた。
そこには……
「久しぶりだな、リアス。それとリアスの眷属」
「イッセー様はいらっしゃいますか?」
貴族服を身に纏ったサイラオーグさんと金髪縦ロールで少し気合の入った服装のレイヴェルの姿があった。
「あら、サイラオーグとレイヴェルさん?」
部長はその二人の登場に驚いていた。
当の俺たちも驚いている。
確かレイヴェルはお兄さんの一人がテレビ局で働いているらしく、それが理由で来てついでに俺たちに会いに来たんだろう。
レイヴェルのお兄さんとかに関しては以前からの文通で聞いていた。
サイラオーグさんは俺たちと同じで出演のオファーだろうな。
「俺は単にお前たちに労いの言葉を言いに来たんだ。とりあえずは良きゲームだった。お前たちには不利なゲームだったのにも関わらず、かなりの善戦をしていたと言っておこう」
「ありがとう。でも貴方も圧倒的だったわ―――でも、これ以降のゲームで当たることになっても油断はしないことね」
「言われなくともそうする。お前たちにそんな余裕をかましているほど俺は馬鹿ではないのでな」
部長とサイラオーグさんの好戦的な視線が飛び交う中、するとレイヴェルは俺の方に近づいてきた。
一度、上品に一礼して
「お久しぶりでございます、イッセー様」
「おう。前のパーティー以来か?」
「はい!あの時はお助け頂いてありがとうございますわ」
なんかいつにも増して丁寧な言葉遣いだな。
「ふむ。先ほどここに来る途中でフェニックス家のご息女とお会いしてな。ついでだから一緒に来た」
「へぇ、そうなんだ。っとサイラオーグさんも前回のゲームお疲れ様―――おかげで俺もかなり焚きつけられたよ」
「はは。それは俺も同様だ―――お前とは小細工なしの、ただ純粋な力と力のぶつけ合いをしたいものだ。楽しみにしておくぞ、一誠。この拳、お前とぶつかり合うその時まで鍛えておこう」
サイラオーグさんは拳を俺に突き出し、俺はそれに応えるように拳と拳をぶつける。
サイラオーグさんは不敵な笑みを浮かべつつ、その場から離れる。
「今回はこれくらいだ。あまり長居はする気はない―――それともう少ししたらベルフェゴール家の当主がそちらにも来るはずだ。どうやら若手悪魔にあいさつ回りをしているそうだからな」
サイラオーグさんはそれだけ言うと、楽屋から離れていくのだった。
……あの男は相変わらず、男の俺から見てもすげえ男だな。
またその重圧は大きくなっていた。
―――にしても、ベルフェゴール家の、確かエリファ・ベルフェゴールって女性悪魔だっけ。
ディザレイドさんとその妻のシェル・サタンという三大名家のサラブレッドで、その強さは現状でも女性悪魔のトップに迫る新世代のホープと聞いている。
顔とかは未だ非公開で部長ですら知らないけど。
……っと、レイヴェルのことを忘れてたな。
「それでレイヴェルはどうしたんだ?それに手に持っているそのバケットは……」
「あ、そうでしたわ。グレモリー眷属の皆様で、よろしければケーキをお召し上がりください。確か文通でお話しした通り、私の特技はケーキ作りなのですわ」
レイヴェルはそう言うと、後ろ手で持っていたバケットを俺に渡してきた。
そこには店で売っているような美味しそうなチョコケーキがあり、すごく良い香りがする。
「おお、すげぇうまそうだな!ありがと、レイヴェル!」
「い、いえ……その、それと前回のゲームを拝見しましたわ。とても素晴らしいゲームでした。私たちと争っていた時が嘘みたいなレベルで驚きましたわ」
「そう言ってもらえるとありがたいわ、レイヴェルさん。それとケーキは後でありがたく頂くわ」
部長は何故か少しムスッとした感じでそう言う……まああまり触れない方が良いか。
「……その、実は私、上級悪魔として勉強するために近々、人間界の方に留学することになったのですわ」
「そうなのか?」
俺はレイヴェルに再度そう尋ねるとレイヴェルは頷いた。
そう言えばレイヴェルはライザーみたく下級悪魔を上から見ないせいか、忘れていたけど上級悪魔だったな。
「それでもし宜しければそうなった時、色々と助けていただいてもよろしいでしょうか?そ、その……構わないのであればの話ですわ」
「ああ、喜んでサポートするよ」
俺がそう言うとレイヴェルは表情が見る見るパァッと輝いた。
でもすぐさまその表情が戻り、そしてコホンと咳払いをした。
「ありがとうございます!それでは私はこの辺りで失礼しますわ。それでは御機嫌よう」
レイヴェルは優雅に一礼すると、室内から出て行った。
それで俺たちは再度、肩から力を抜くのだった。
「……先輩はフェニックスのあの子に良い顔しすぎです」
「そ、そうか?いや、文通で色々話をしているから割と仲が良いんだけど……」
小猫ちゃんは少しムスッとした顔で、ほっぺを膨らましている。
―――可愛いと思ってしまった俺は罪なのだろうか?
それと同様にアーシアや朱乃さん、部長もそうなっていた。
意外とゼノヴィアが何も反応していないな。
「ところで部長。エリファ・ベルフェゴールがここに来るってサイラオーグさんが言ってましたけど……」
「……ええ、私も初耳よ。ただ若手悪魔に挨拶回りをしているらしいから、そろそろ―――」
……その時、再びドアが控えめにコンコンと二度鳴った。
だけど扉は開かず、恐らくはこちらから開くのを待っているんだろうか。
ってことはおそらく、そのエリファ・ベルフェゴールさんがここに来たのかな?
「イッセー、お出迎えしてもらっても良いかしら?」
「はい」
俺は部長にそう言われ、扉に近づく。
そしてドアノブを捻り、そして扉を開けた。
「どうぞ。エリファ・ベルフェゴール様ですか?」
俺は扉が完全に開いていない状態でそう話しかけると、その突如、声が響いた。
「―――ええ。私がエリファ・ベルフェゴールです。突然の来訪、申し訳ないですね」
…………………………え?
何だろう、この今の声を聴いた瞬間に俺の頭に過ったものは。
まるで信じられないような、絶対に聞こえるはずのないものが聞こえた気がした。
その声は余りにも澄んでいて、俺が知っているものとはあまりにも話し方、トーンの低さは違う。
だけど声音は―――一緒だった。
扉は開かれる。
俺は反射的に一歩下がり、そして扉は完全に開かれて俺はその少女の姿を見た。
「お初にお目にかかりますわね―――私の名はエリファ・ベルフェゴール。三大名家と称された偉大な父と母を持つ、ベルフェゴール家の当主ですね」
その髪の毛は腰を超えるほど長く、ふわっとした金髪。
まつ毛が長く、そして瞳は少し優しげで、大人っぽい雰囲気に少し子供っぽさが残る美しさ。
清楚な白いドレスチックな私服を着ている。
「―――な、なんで…………嘘、だろ……どうして」
信じられなかった。
信じたくなかった。
だって俺の目の前には居たからだ。
だってその姿は俺が未だなお想い続ける、大切な存在だったからだ。
「あなたは赤龍帝殿ですね!ゲームでのご活躍、私は不肖ながらあなたのファンに―――どうしたのですか?兵藤一誠?」
―――――――そこには、生前のミリーシェの姿をした少女が居た。