ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第4話 2匹の猫と女の子、助けます

 俺、兵藤一誠は転生してから8年という月日が経った。

 突然、何でそんなことを言うんだって?

 それは……そうだな。

 ―――この8年間、本当に辛かったんだッ!!

 俺は一人部屋が欲しいと言っても母さんは許してくれず、更に俺の唯一の良心であった父さんは単身赴任で外国に行ってしまって!

 期間は短いものの、それでも母さんを止められるストッパーがいなくなってしまったんだ!

 しかも母さん、俺に対してあり得ないほどの過保護なんだぞ!?

 精神年齢が実年齢と比例しているならまだしも、俺は一応もう心は大人なつもりだ……。

 でも母さんがそんなこと知る由もなく、お風呂に一緒に入らされる(強制)。

 俺は自分の体を鍛えたかったのに、遊びに行くと言えばついてこようとする、いつでも俺の隣にいようとする。

 ……本当に母さんの俺に対する愛情が凄かったです。

 でも最近は少しはマシになって、つい先日、母さんは俺に一人部屋をくれた。

 ものすごい渋々といった感じだったけど、俺がこの8年間で培った演技力でどうにか出来た。

 ……っていうか子供が演技を必要になる親ってある意味すごいな。

 とにかく、現在の俺がしている修行の内容とは、体に負担がかかり過ぎないくらいまで自分の体を痛めつけ、鍛えているくらいだ。

 長年、少しずつそれをしているおかげで赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)による倍増も八段階くらいなら何とか出来るようになって、無理をすれば更に倍加は可能なぐらいだ。

 禁手(バランス・ブレイカー)は出来ることは出来るんだけど、体のサイズからして30秒が限界で、しかもどんな弊害が起きるか分からないから、まだ試したことはない。

 しかも静止状態で30秒だ。

 つまり動けば一瞬で鎧は解除され、そのまま体も動かなくなる。

 っということでドライグに止められているって具合だ。

 

『当たり前だ、相棒。お前の大切な体を傷つけてまで強くなって欲しくはないさ、俺は』

「お前は俺の親父か?」

 

 ドライグが心の中から話しかけてくるのに対し、俺は声を上げた。

 

『正直、相棒と共に生きていると何故か父性が湧いてきてな。……とにかく、相棒がとても心配だ』

 

 ……そうなんだよ。

 俺が兵藤一誠に転生してからというもの、ドライグは異常に親らしい性格になっていた。

 元々、面倒見は良い方だったから納得だけど、ある時、俺がドライグの親父染みた台詞から”パパドラゴン”なんてあだ名をつけたら非常に気に入ってさ。

 

『パパドラゴン。……パパ―――良い響きではないか、相棒!』

 

 このように、少し性格が愉快なものになっているドライグだ。

 だけどドライグの存在は俺の中では確かに絶大で、ドライグは俺にとってもかけがえのない相棒だ。

 正直ドライグがいなかったら俺はこの8年間、無事では済まなかっただろう。

 

『それより相棒、さっきから余裕そうだがいったいどれだけの距離を走っているのだ?』

 

 そして今、俺は日課であるランニングをしている。

 まあランニングというよりかはマラソンに近いけど、今の俺に出来ることは体力づくりだからな。

 無理に筋肉なんかつけたら成長しにくくなるし。……っと、これはドライグの意見だ。

 

「途中で休憩を入れながらで、大体20キロくらいだよ。そろそろちょっと休憩するけど……」

 

 俺はドライグにそう告げると、走るのを止めた。

 近くに小さな公園があったから俺は公園に入ってベンチに座り、そして首に巻いているタオルで汗を拭う。

 

『普通の子供は20キロなんて走れないと思うがな。いくら速度が遅いからって、流石に肉体を酷使し過ぎだ』

「……だけどこれくらいしないとな。今は出来ることが走ることと、実際に神器を発動させて力を倍増させることしかできないからな」

 

 そう。……今の俺に出来ることはこのように限界まで走ることと、そして実際に神器を使うことだ。

 当然、誰かと戦うわけではない。

 体に負担をかけて限界まで倍増したら、溜まった力をリセットする。

 それを限界まで続け、倍増の限界値を少しずつ増やしているんだ。

 幸いドライグが前に言っていた通り、この体は前の俺の体とは比べ物にならないくらいに身体的な能力が高い。

 20キロ走っても体はまだ平気だからな。

 だから今の段階では倍増は最高、14段階までは可能だ。

 まあそこまで倍増したら、反動ですぐに倒れてしまうけど。

 実戦で使うとなれば大体2、3段階の倍増の解放が限界だと思う。

 

『いや、大したものだよ。……自分に才能があると分かっていても努力を怠らない。流石は相棒で俺の息子だ』

 

 まあ息子云々は置いておくとして、そうだな。

 俺は……強くならないといけない。

 じゃないとあいつはいつまで経っても現れないし、それに……もしかしての事態で大切な家族を守れないかもしれない。

 

『……フェルウェルのことか』

 

 俺がまだ赤ん坊の時、一度だけ俺の精神世界で姿を見せたドラゴン。

 神創の始龍(ゴッドネス・クリエイティブ・ドラゴン)ことフェルウェルは今よりも強くなり、自分を求めるようになったら再び俺の姿に現れると言った。

 俺の中のもう一つの神器の鍵はフェルウェルが持っているからな。

 

『だが奴の言った強さとは一体、どれほどのものなのだろうな。……あれほどのドラゴンだ。恐らく相当のスペックを誇る神器だろうな』

 

 ……ドライグがここまで言うのだが、実際にドライグは彼女を分析したらしい。

 なんでも二天龍の一角であるドライグでさえ、フェルウェルには及ばない可能性が高いと言っていた。

 それは彼女から感じ取れた重圧かららしいが、ドライグ曰く、単純な力は最強の二体のドラゴン。

 無限と夢幻を司るドラゴンに近しいものを感じたらしい。

 まあドラゴンについて、俺は詳しいことは分からないけどさ。

 

『まあそのことは良いさ。……相棒ならばいずれ、会うこともあるだろう』

 

 そんなもんか。……っとそろそろ帰らないといけないな。

 俺が時計を見ると、既に時間は4時半になりかけていた。

 俺が母さんから一人部屋を貰う時の約束で、絶対に17時には帰ってこいとのことだった。

 ここから家まで走って20分ってところだろうからまだ余裕だけど……

 

「にゃ~……」

「……ん?」

 

 その時、俺は不意に近くから今にも消えそうな猫の泣き声が聞こえた。

 普通ならそんなに気にならないと思うけど、でも余りにも声が弱々しそうな声だったから、気になって俺は辺りを見渡した。

 左右や遠くの方を見渡していると、目の前の草の茂みに猫が二匹……毛並みが綺麗な白い猫と黒い猫を見つけた。

 

「……もしかして、怪我をしてるのか?」

 

 俺は茂みにいる二匹の猫をじっと見た。

 ……黒い猫の方は大して傷ついていないが、だけど白い猫の足から血のようなものが出ていた。

 綺麗な毛並みに血が滲み、見るからにひどい怪我だ。

 黒い猫は白い猫を心配そうに泣きながら、周りをうろうろしている。

 

「ドライグ……どうにか出来ないか?」

『悪いな、相棒……。籠手には傷を直すなんて機能はない』

「そうだよな。……確かに傷は酷いけど、命に関わるほどのものじゃないし。それに黒い方も結構傷ついてるみたいだしな」

 

 俺はそう思うと、二匹の子猫の元に近づいた。

 

「―――にゃ!!!」

 

 ……すると、まるで俺を警戒しているように黒い猫が白い猫を守るように立ちふさがって、俺を威圧するように睨みつけてくる。

 守るように、じゃない。

 守っているんだ、この黒い猫は白い猫を。

 俺はその黒い猫の勇敢な姿を見て、不意にこの黒猫と自分が重なる。

 

「……大丈夫だよ。悪いようにはしないからさ、な?」

 

 俺はそっと、警戒している黒い猫の頭をそっと壊れ物を扱う感覚で優しく撫でた。

 黒い猫はその瞬間、そのクリッとした目をキョトンとさせて、俺の方をじっと見て来る。

 ……最初の方は警戒していた黒い猫は、少しすると緊張が解けたのか、力が抜けてその場にぐったりした。

 

「お前も限界だったんだな。そっちの猫を守るために……お姉ちゃんってやつかな?」

 

 俺は力なくぐったりしている黒い猫を手で抱える。

 すると黒い猫は俺の胸に頭を擦りつけるように頬ずりをしていた。

 

『相棒は動物に良く好かれるな。……最近では近所の番犬にすら懐かれているのだろうに』

 

 ドライグは何かを呟いているが、今の問題は黒い猫じゃなくて、この白い猫だ。

 生きてはいるけど、でも足からは血が出ているからそこから動けない。

 

「……何があったらこんな怪我をするんだよ。とにかく治療をしないと」

 

 俺は茂みに倒れている白い猫を黒い猫と同じように抱き抱えると、すると白い猫は焦点の合っていない目で俺を見ていた。

 

「絶対に助けてやるからな。……俺が言うから絶対だ」

 

 俺は抱えながら白い猫の頭を撫でた。

 

「にゃぁぁ……」

 

 すると白い猫から安堵するような鳴き声が聞こえた。

 白い猫は俺に体を委ね、そして静かに眠り始める。

 俺はそれを確認すると二匹に刺激を与えないようにゆっくりと歩いて帰るのだった。

 

―・・・

 …………俺は猫に負担をかけないように慎重に歩きながら帰った。

 当然帰る時間は門限をとうに過ぎていて、家に帰ったら母さんがすごい形相で心配してきたけど、俺の手元の猫を見ると大体のことを察してくれたようだ。

 幸い黒猫は白猫を守るために神経を使いすぎただけで怪我は特になく、白猫も歩くことはできないものの大きな傷ではなかった。

 俺は二匹の猫が泥などで汚れているのに気付いて、白猫の怪我の部分を意識しながらお風呂に入れた。

 二匹とも俺のことは警戒していないのか、特に抵抗しなかった。

 そして今は二人仲良く俺の手元で眠っている。

 

「イッセーちゃん、確かに猫を助けることは良いことよ?でもお母さんとの約束を破ったんだから、とにかく今日は一緒に寝ようね?」

 

 ちなみに俺は母さんの説教という名の願望を永遠と聞かされている。

 

「でもお母さん。白猫を助けるために仕方がなかったんだよぉ……」

 

 一応、母さんからしたら俺は子供だからな。……口調は子供のようなものにしている。

 

「良い、イッセーちゃん? 約束を破ったらハリセンボン飲ますとはよく言うけど、お母さんとの約束は『嘘ついたらお母さんと一緒におねんねする』なのよ?」

 

 ……母さんは相変わらずぶれないなぁ。

 ここまでの親馬鹿はなかなかいないと思う。

 あと、どんな魔法かは知らないけど、何で母さんは歳をとってないと思わせるほど見た目が変わらないんだろうな。

 本気で学生って言われても気付かないくらいの容姿をしてるから。

 この前なんか一緒に買い物行ってたら歳の離れた姉弟に間違われたからな。

 ……なお、母さんはそれに頷いて「可愛い弟です!」なんて言いながら抱き着いてきたというのは内緒だ。

 

『確かに相棒の母殿は若々しいな。……知っている限りでは昔とほとんど変わらないんじゃないか?』

 

 などとドライグも俺と同じ意見のようだ。

 結果的に、俺は猫の面倒をみると言って母さんを説得したけど、母さんは翌朝には俺の布団に潜り込んでいたのは言うまでもないのであった。

 

―・・・

 ……大体、それから数カ月過ぎた。

 俺は白い猫と黒い猫に何となく白音と黒歌という名をつけてみると、二匹はすごく尻尾を振って喜んでいた。

 白音の傷は既に癒えていて、あと二匹はものすごく俺に懐いてくれている。

 二匹を引き取ってから家にいる間はずっと俺の傍にいるからな。……とにかく、可愛いから俺も悪い気はしない。

 猫ってお風呂とか水の類のものが嫌いだと思っていたけど、案外そうではないらしく俺が風呂に入っていたら黒歌と白音は風呂場に突入してくるからな。

 ……それはともかく現在、俺は日課となっている走り込みをしてるんだけど、だけど今日はコースを変えていた。

 一応神社がある方向に一直線に走っていて、いつもより速度は速めだ。

 

『時にして相棒。何故、今日はコースを変えた?』

「今日は神器の訓練もしたいからさ。ほら、神社の近くにある裏山ってほとんど人が来ないから訓練しやすいんだよ」

『神器か。……最近はあの二匹も相棒の後ろをついてくるようになったからな。なかなか神器の鍛錬も行えん』

 

 そう。前まで家でも倍増の我慢稽古は出来るけど、あれからは白音と黒歌もいるからなかなか神器を出せないんだよな。

 二匹を引き取ってからはまだまともに神器の訓練をしていない。

 だから今日くらいは神器を使わないと、赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)に埃が被っちまう。

 

『相棒は毎日走っているからな。おそらくかなり身体能力は向上しているはずだ』

 

 まあ俺が走り始めたのって一人部屋貰ってからだからな。……大体数か月は走ってるか?

 まあ走り自体はもっと前からしてたけど、一応長距離はそれくらいからだ。

 速度はまだまだ遅いから今日は出来る限り速度を上げる傾向で走ってみよう。

 

「はぁ、はぁ……」

『とりあえず一度休憩しようか、相棒』

 

 それから大体30分くらい走った。

 体力的にはまだ大丈夫だけど、適度に休憩をはさまないと体を壊す恐れがあるとドライグが制止をかけてきたんだ。

 最近、ドライグが俺専属のトレーナーになっている気がするんだけど。……いや、それは昔からか。

 

『同じようなものであろう。―――しかし相棒、何か妙だぞ?』

「……妙ってのは、休日なのに人通りが全くないこの辺りのことか?」

 

 俺はドライグに言われて改めて辺りを見渡す。

 辺りはごく普通の平屋建ての小さな家が軒並みに並ぶ、多少都会に近いところである地域の中では田舎の部類に位置している。

 今日は朝からずっと走っているから、多分県を超えているんだろうな。

 流石に帰りは電車を使うけど。

 っとそれどころじゃなかったな。

 問題はこの人の気配が全くしないことだ。

 

『……魔力とは別の、何かの力を感じるな』

「別の力、か。なら……ブーステッド・ギア!」

 

 俺は腕に意識を込め、篭手の形を思い浮かべると、突如俺の左腕に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を発現した。

 一応、今のうちに力を溜めておこうというところだ。

 とはいっても今は走ったせいで少し疲れているため、何段階の倍増が出来るか分からないけどな。

 

『Boost!!!』

 

 10秒経ったのか、一度目の倍増を俺は確認する。

 

『相棒。……どうやら謎の力はあの家の庭から感じる』

「……やっぱりそうなのか」

 

 俺も大体の位置は察していた。

 ドライグの指摘した家は、周りと同じような平凡な庭のある家だ。

 見た目は特に変わりはないが、だがあの付近から魔力とは違う何かを感じる。

 俺は物音を立てないように静かに庭を見てみた…………ッ!?

 

「これは……何がどうなってるんだ?」

 

 俺の目の前に映るのは、異様に荒らされた庭だった。

 庭だけではない。

 縁側から見える家の中もあり得ないほどにぐちゃぐちゃに荒らされていた。

 室内は見えるだけでボロボロ、畳は大きく抉れ、タンスや家具といったもの散乱し……そして何より血が少し、散っていた。

 血自体もつい先ほど飛び散ったようで、明らかに普通じゃない!!

 

「誰がこんなことをッ!」

『Boost!!!』

 

 俺の声に応えるように、二段階目の倍増が行われる。

 そしてその時だった。

 

「駄目!その子に手を出さないで!!」

 

 ……女性の声だった。

 俺は縁側から室内に顔を覗かせると、そこには複数人の刀を持った男と、俺とほとんど歳の変わらない女の子を抱き寄せ、庇っている女性がいた。

 女の人は額から一筋の血を流しており、遠目から見ている限りではそれしか分からない。

 複数人の男は、二人を囲むように立っている。

 俺は観察するようにその二人の姿をじっくりと見た―――ッッ! 多分、あの女の人はあの子の母親だろう……。でもあの人の体のいたるところに、痣や切り傷があるッ!!

 

「まずはその子を渡せ。穢れし天使の忌子なのだ」

 

 男の手が女の子に伸びる。

 女の子の肩にその手が触れそうになったその時。

 その手を母親らしき女の人が払った。

 

「絶対に渡さない! この子は私の大事な娘です! あの人の大事な娘です! 絶対に、何があっても渡さない!!」

 

 女性は女の子を今一度、強く抱きしめる。

 女の子は……泣いている。

 

「貴様は黒き天使に穢されたか―――ならば致し方あるまい」

 

 すると、男は刀を引き抜き、そのまま真上に上げた。

 ―――なにを、している……ッ!?

 いったいその刀で何をしようとしているんだ!!

 

『Boost!!!』

 

 もう何回目かの倍増を知らせる音声が鳴るが、俺の耳には通らない。

 今すぐにでも俺の体は前のめりに動かせて、突っ込んで行きそうになる!

 俺はこの場では何も関係のない人間だ。

 だけど……だけど!!

 ―――思い出してしまう、大切な人が血まみれになってしまった光景を。

 あのときの光景と現実が重なった。

 そんなこと、絶対にさせてはいけない。

 たとえ見知らぬ人だとしても―――もう二度と、誰かが死ぬところなんてみたくないんだよ!!

 

「ドライグ……。行かせてくれ……ッ!」

『ともすれば危険と隣り合わせだ。相棒の体は子供、勝てる見込みはどうとも言えんが。……だがしかし!! 流石は相棒だ!!』

 

 ドライグはそう高らかに笑い、高揚した声音で続ける。

 

『その言葉を待っていたさ。この状況下、俺の知っている相棒なら何もしないはずがない!! いつも愚直に、無理だと思っていてもやろうとするのが相棒という男だ! ならば相棒、救って見せようぞ!! 最高の赤龍帝と謳われた相棒の力を!!』

 

 俺の相棒がそう言った瞬間、俺は室内に走り込んだ。

 拳を強く握り、足腰に力を込めて。

 そして―――

 

「やらせてたまるかぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!」

 

 俺は部屋いっぱいに届くぐらいの怒声で走っていく。

 俺の声に驚いたのか、刀を抜刀していた男も含めた全員が俺の方を見ている。

 良く見ると刀を抜刀しているけど、そんなもん関係ねえ!!

 目の前で殺されそうになっているのを見捨てるぐらいなら斬られた方がまだマシだ!

 

「解放だ! ブーステッド・ギア!!」

『Explosion!!!』

 

 その音声と共に体から力が湧き出てくる!!

 今まで倍増した全ての力が一気に解放され、一時的に俺の身体能力が何倍にもなった。

 体は子供だけど、でも戦える!

 

『相棒、この状態は持って2分間だ。その間に相手を屠るぞ!』

 

 ドライグの頼もしい声が聞こえる。

 ああ、2分もあれば十分だ!

 

「はあぁぁぁぁあああ!!!」

 

 俺は即座に先ほど、二人に刀を振りかざそうとしていた男へと駆け寄り、そのまま全力の拳を放った。

 

「な、なんだとッ!?」

 

 男は俺の姿を確認した瞬間、目を見開いて驚いたがそんなことは関係なしで殴りつけ、木の柱に叩きつけた。

 木の柱に衝突する男は激しい打撃により呻き声を上げて蹲る。

 そして二人の前に壁になるように立ちふさがるって男たちを睨んだ。

 

「なんだ、貴様は!?」

「黙れ! 人に簡単に刀を向ける奴なんかとは話すことは何もない!」

「こ、子供だと!?」

 

 よし!

 こいつらはまだ俺を子供だと思って油断している!

 

「はぁ!」

 

 俺は掛け声と共に油断している男たちに一発ずつ、全力の拳を叩きつけていった。

 男たちが縦横無尽に振るう刀を時には避け、時には神器で防ぎ、可能であれば武具を破壊していく。

 避けては最小限の動作で殴り、殴り、殴り続けた。

 ―――それを繰り返すたびに俺の体は悲鳴を上げる。

 体なんかとっくの昔に限界に近づいてきている―――でもここで屈したら、倒れたら俺の後ろの二人が死ぬ!

 それだけは絶対に、してはいけない。

 ……目の前で何かが死ぬのは二度と御免だ。

 

『無茶だ、相棒!! 力の使い過ぎだ!!』

 

 ……まだ二分経ったわけじゃない!

 たとえ限界を過ぎてだって戦う!

 ―――護るんだ。この二人を、この命に賭けてでも!!!

 俺はそのまま残りの男達に、本当に殺してしまうのではないかと思うくらいの拳を放ち続けた。

 

「はぁ……。くそ、しつ……こいッ!」

 

 だが子供の拳をいくら強化したとはいえ、何人かの男はまた立ち上がっていた。

 数にしたら3人くらい……しかも最初に殴った奴も立っていた。

 子供の体の俺には力に限界があるってことかよ……ッ!

 

『Reset』

 

 その音声とともに、俺の体から力が抜ける。……強化の制限時間が終わったのか―――だけど!

 

『Boost!!』

 

 再び、倍増の音声が鳴り響く。

 もう体は内部からボロボロで、口の中は倍増の負担がかかり過ぎたのか、血がにじみ出る。

 だけど俺は倒れそうになる体を奮い立たせ、地面に拳をぶつけて男を睨みながら言った。

 

「この二人を殺すな……ッ!」

 

 俺は籠手が装着されている左腕の拳を握り、まだ戦う意思があると示す。

 

「小僧。貴様が何者かは知らんが、わしを傷つけたことには死の報いを受けて貰うぞ……ッ!!」

「―――何が死の報いだ。この人たちが何をしたかなんて知らない。でも……殺すなんて絶対に……、絶対に間違っている!!」

『Boost!!!』

 

倍増の音声が鳴り響く。……その時、ドライグの焦っているような声が俺の耳に入った。

 

『無茶だ、相棒!! これ以上強化したら、本当に相棒は!!』

 

 ……まだだ。

 まだ戦える。

 まだ拳は握れる。

 まだ戦意だって消えていない。

 敵は目の前にいて、戦える自分がいるなら―――

 

「絶対に守ってみせるッ! 無茶をするとかそんなもの関係なく、絶対に!!」

『Boost!!』

『Explosion!!』

 

 三段階の倍増と同時にその倍増した力が全て解放される。

 多分倍増の数は足りないだろうな。……でも!

 

「頼む。今だけで良いから、もう少しだけ力を貸してくれ―――拡散の龍砲(スプレッド・ドラゴンキャノン)……ッ!!」

 

 全盛期とは比べ物にならないくらいひ弱な魔力弾を俺は強化して放つ。

 拡散の龍砲は魔力弾を発射と同時に操作し、弾丸を拡散させて広域に対して影響を与える俺の技の一つ。

 魔力弾は拡散して、室内のいたるところに当たる。

 そしてそのいくつかは男達に当たったのと同時に、俺の聞きたくなかった音声が籠手から響いた。

 

『Burst』

 

 力が抜ける。……これは転生前に何度か経験したことがある。

 神器の倍増に体が耐えきれなくなり、篭手の方が倍加を拒否する。……それがバースト状態。

 つまり神器の機能が停止した。

 ……俺はその場で膝の力が抜けた。

 

「だ、大丈夫?」

 

 女の子が母の腕から離れて、涙ながら俺の服の裾をつまんで聞いてきた。

 駄目だ、前に来たら!

 でも体が動かない―――まだ男はあと一人、残っているんだ!

 俺の弾丸により立っていた男は大半倒れたが、しかしまだ一人だけ血を流しながらも立ち続ける男がいる!

 最初に殴った、あの男だ!

 限界に近いだろうけど、それでも刀を一本振るくらいの力は残っている!

 手には刀……今更だけど、あの刀から嫌な空気を感じるッ!

 

『相棒!! しっかりしろ!! あれは妖刀だ!! 刺されれば、今の相棒では命を失う!』

 

 妖刀? ……駄目だ、あんなものを真っ向から食らえば子供である俺の命なんかたやすく摘まれる。

 それどころか目の前のこの女の子すら危険だ。

 ―――また、守れないのか、俺は。

 あの時と同じように。……ミリーシェを守れなかったときと同じように……?

 ……だったら何で俺は力を欲した! 守るためじゃなかったのか!?

 そうだ―――俺は護るんだ!!

 ならこんなところで諦めて……たまるか!!!

 

「よく、も……やってくれたな、小僧ぉぉぉぉ!!」

 

 男の表情は憤怒に包まれている。

 まあ、そうだろうな。……こんな子供に大の大人が何人もやられたんだ。

 

「やめて! この子に、手を出さないで!!」

「何を……して……」

 

 ―――女の子が手を横に広げ、俺の壁になるように俺を守っていた。

 瞳に涙を溜めて、それでも俺を守るように刀を持つ男の前に立ち塞がる。

 駄目だ……そのままじゃあ、君は!

 

「貴様……」

「この子は朱乃を助けてくれたもん! だから朱乃もこの子を守る!」

 

 目に涙を閏わせながら、女の子が俺を守ろうとする。

 でも男は刀の柄で女の子の頬を殴って地面に叩きつけるッ!

 ……何してんだよ、お前は。ふざけるな―――ふざけるなッ!!!

 

「なに?」

 

 俺は動かせるはずのない体を無理矢理動かせる。……ほとんど火事場の馬鹿力みたいなもんだ。

 ―――体が動かないんなら体を無理やり動かせろ。

 ―――力がないんだったら拳を握れ!

 命を糧にしてだって、それでこの子を守れるなら使え!

 二度と何かを失わないために!!

 

「まだ、だよ……ッ!!」

「……貴様は、何だ? おぞましく、恐ろしい……っ」

「さぁ、ね……じぶんでも、どうして、ここまでするかはわからない―――それでも護りたいと、思った。救いたいと、おもった」

『―――Boost!!!!!』

 

 ―――鳴るはずもない倍増の音声が鳴り響いた。

 

「だから、まだ戦えるんだ……ッ! あんたを、倒す!! だから―――応えてくれ、ドライグ!!!」

『Explosion!!!!!!!』

 

 ……籠手は次の瞬間、俺の想いに応えるように頼もしい音声を再び響かせた!

 

「な、なんだと!? お前はさっきまで!?」

「知らない……だけど応えてくれたから、それを受け止めなきゃな。じゃないと相棒に怒られちまう」

 

 息が絶え絶えになりながら言葉を紡ぎ、拳を構える。

 

「―――守ることに、理由なんていらない」

 

 俺はそして、男へと拳を懐に撃ち放つ。。

 殴った感触は自分では分からない、でも……男はその場に膝をついた。

 

『Burst』

 

 はは……もう一度倍増が出来たのは奇跡か―――もう一歩も動けない。

 

「が、ぁ……き、さまぁぁぁぁあああ!!!」

 

 ……男が刀を俺に振りかぶる。

 最後の力を振り絞ってってやつか?

 ……駄目だ、動けない。

 朱乃って言ってたっけ? あの子が目を見開いている。

 なんでだ…………? ―――そう思って、俺は視線を彼女が向ける方向に向けた。

 

「やらせ、ない!」

 

 ―――そこには、俺を庇って男の刃をその身に受けている、女の子の母親の姿があった。

 辺りが彼女の鮮血が散らばる。

 しかし彼女は、自分の傷を介さないで傍で俺を抱きしめるように崩れ倒れた。

 

「こんなに、子供なのに……。小さいのに……朱乃を、私を救ってくれて、ありがとうね……?」

 

 声が、出ない―――なんでだ、なんで助けるはずなのに助けられている。

 何でこの人が血を流して死にかけている?

 

『相棒は良くやった。一度はバーストしたのに、もう一度倍増してあの男を倒し、少女を救っただろう……』

 

 違う、この人も救わなきゃだめなんだ!

 この人を救わないと、きっと女の子もずっと深い傷を負う!

 

『無理だ、相棒。妖刀は妖怪を殺すための刀。その刃には呪いがある……それにあの傷ではもう』

 

 

 ―――助からない。

 ドライグは言葉に出さないが、暗にそう言っているようだった。

 ……まだだ。

 俺には無限の可能性があるんだろ?

 だったら俺にあの人を救わしてくれ、助けなきゃいけない!

 俺はあの人のことは何も知らない!でも死んでいい命じゃない!!

 それに女の子は泣いてるんだ!全く知らない子供の俺も助けてくれた!!だから死んだら駄目なんだ!!

 

「力を……救うための、力を……!! 守るための、力を!!」

 

 俺は鮮血で濡れ広がっている天井に手を伸ばした。

 それは俺が兵藤一誠になる前の、死ぬ間際の行動と重なった。

 違うのは血が俺のか、そうじゃないか―――俺は救いたいんだ!

 ……もう、二度と目の前で誰かが死ぬところを見たくない。

 ―――俺はミリーシェを救えなかった。

 俺はあのときみたいに、無力はもう嫌なんだ。

 覇の理とか、そんなものじゃない。

 もっと、優しい力が……ッ

 誰かを救えるような力を!!

 だからお願いだ―――応えてくれ!

 俺に、この人を救う力を!!

 

「こたえてくれぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 俺の叫びは、響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――――でしたら、主様の気持ちに応えましょう』

 

 …………それはドライグとは違う、声音だった。

 知らない声……、いや、違う。

 俺はこの声を知っている。

 この声は俺の中に存在するもう一匹の龍。

 ―――神創の始龍(ゴッドネス・クリエイティブ・ドラゴン)、フェルウェル。

 

『本当に救うべき存在を救う、救済の気持ちの強さ。……心が善の極地に達した時、わたくしは主様にこの神器を授けると決めておりました』

 

 フェルウェルは『故に』と続ける。

 

『授けましょう。わたくしが宿る神器。主様が望む力―――神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)を』

 

 すると、俺の胸の中心からプラチナのように光り輝く白銀の宝玉が現れた。

 それはエンブレム型のブローチのように機械的な見た目を形作りで、俺の胸に埋め込まれるように装着される。

 

『Force!!』

 

 その音声はブーステッド・ギアとは違う、フェルウェルのような女性の音声だ。

 そしてその音声は立て続けに何度か鳴り響く。

 

『Force!!』『Force!!』『Force!!』『Force!!』

 

 そして5回ほどの音声が聞こえると、俺の心の中からフェルウェルが話しかける。

 

『簡単にいえば、この神器は何かを創り出す神器です。それは主様が思い浮かべるものが神器となって具現化されます。当然限界は存在しますし、その神器は時間制限がありますけど―――とにかく、今すぐに力を使いましょう』

 

 俺はフェルウェルの言うとおりにすぐに動こうとするが、体はうんともすんとも言わない。

 ……腕で体を動かし、地を這うように、すでに虫の息の女性に近づく。

 近くで朱乃と呼ばれた少女が彼女の肩を揺らしながら泣いている。

 ……この子の涙を俺は見たくない。

 ―――この子を救いたい。涙を見たくない。

 ―――俺を護ってくれた人を救いたい。だから……ッ!!

 

「助けるための力を、貸してくれッ!」

 

『Creation!!!』

 

 その音声とともに……胸の宝玉が光に包まれながら俺の手元に来る。

 光が少しずつ晴れ、そして俺の手元には……神器らしき瓶が手元にあった。

 瓶の中に何やら粉のようなものが存在している。

 この人を救いたい……そう考えて出来たもの。

 

「大丈夫だ。……絶対に、救うから。君のお母さんは、俺が―――救ってみせるから」

 

 俺は女の子の頭に手をおいて、安心させるように優しくなでる。

 そして俺はその瓶を、女の子の母親に持たせて瓶の蓋を開けると、白銀の粉が彼女の周りを包んだ。

 そしてそれと同時に、俺の意識は完全に途絶えた―――・・・

 

―・・・

 目を覚ますと、俺は家にいた。

 普通にベッドで寝ているが、しかし体のいたるところが痛む。

 

「……ああ、夢じゃなかったのか―――ッ! そうだ……ッ! あの人はどうなって……ッ!!」

『大丈夫ですよ、主様』

『そうだ、相棒……。むしろ今は他人のことより自分のことを優先させろ』

 

 ……すると俺の心の中から、二つの声が響いた。

 ドライグとフェルウェル、二体のドラゴンの声が聞こえた。

 

『一応、主様の救った女性は無事です』

「一応?」

 

 俺はフェルウェルの言葉に首を傾げる。

 

『傷は完治出来たと思うが、妖刀の呪いは話が別だ。あれは長い年月をかけないと、消えないからな……。消えない可能性すらもある』

 

 そう説明するドライグは少し声を沈ませた。

 ……そうか、あの人を完全に救えたわけじゃないのか。

 

『沈まないでください、主様。あなたは出来る限りのことして、彼女は命を繋ぐことが出来たのです。そして主様がいなければ二人は死んでいた―――それよりもドライグがあり得ないほど心配していたのです。それを案じて今後は無茶はお控えください』

『当然だ。……それに聞いたこともないぞ、一度バーストになりながらも、更に倍増して力を解放するなんて』

「……ああ、無茶はした。でも助けれた。まあ、最後はフェルウェルのおかげだろうけど」

 

 それに完全には救えていない。

 あの人の呪いは、未だに残っている。

 

『相棒。呪いといっても、そんなすぐに死に至らしめるようなものではない。それよりも相棒は自分のことを考えた方が良い』

「そうだ……一体どうやって俺をここまで運んだんだ? それよりも、どれだけの間、眠ってたんだ?」

『……時間にして2日間、そしてここまで相棒を運んだのはフェルウェルだ』

 

 は?

 でもフェルウェルは魂の存在だろう?なんで魂なのに、そんなことができたんだ?

 

『ふふ。これはわたくしの力の一つなのですが、神器を小型のドラゴン化して私の意思で動くことが出来るのです』

 

 ……すげえ!! それってあれだろ? 独立具現型の力ってやつだよな?

 確か!

 

『全く……神器を創りだす神器に、独立具現型の力までとは―――これは神滅具(ロンギヌス)と認定されてもおかしくないだろうな』

 

 ドライグはぶつぶつ何かを呟いていた。

 

『とりあえずはお疲れ様です。主様の行動は確かに命を懸けたものでしたが、ですがそれによって救われた命も確かにあります。故にあなたは素晴らしい。わたくしの主として、何の遜色もなく、素晴らしい主様です』

「俺だって助けて貰ったよ。ありがとう!」

『いえ……それよりも主様。一つ、お耳に入れておきたい情報があるのですが』

 

 するとフェルウェルは少し苦笑していた。

 そして途端に廊下の方ですごい足音が聞こえた。

 ―――まさか!?

 

『流石は主様……ご察しの通りでございます』

 

 するとフェルフェルの声が消え、彼女は俺の心の深奥へと行ってしまった!?

 そしてドライグも同様だと!?

 お前ら、主である俺を見放すのか!!

 これから起こることを全部知っているのに、俺を放って!!

 それでもパパドラゴンか、この野郎!!

 

「いっせーちゃぁぁぁんんん!! うわぁぁぁぁぁん!!!」

 

 その泣き声と叫び声と共に勢いよく扉が開けられた。

 そこにいうのは目の下にすごい隈をつけている母、兵藤まどか。その人と母さんの後ろからすごい速度で俺の胸元へ飛び込んできた白音と黒歌だった!

 

「しんぱいしたんだからぁぁぁぁぁあああ!!!」

「にゃぁぁん!!」

「にゃん!! にゃんにゃん!!」

 

 そう言うと母さんは俺を抱きしめて、わんわんと泣いており、黒歌と白音は何かを訴えるように鳴き声を上げていた……泣かしたのは、俺か。

 

「ごめんなさい……お母さん」

「……ううん。無事ならいいの。帰ってきたら一誠ちゃんが部屋で倒れててびっくりしたわ。すごい熱で……でも平気でよかった」

 

 そして母さんは俺の頭を優しく撫でてくれる。

 俺はそれに心地よさを感じた……っのはホンの数秒だった。

 

「イッセーちゃんのためにご飯いっぱい作ったから、全部食べてね♪」

 

 …………その日、俺が見たのはやはり怒っているとしか思えないような、異様なほどの母さんの手料理であった。

 ただ二日間何も食べてなかったからそれを完食すると、嬉しかったのか母さんは更に料理を奮った―――その後日、俺は胃もたれに悩ませられる日々が続くのだった。





―追記―
7/5、誤字修正と描写を追加しました。

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