ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第10話 赤き想いと涙の怒り

 白龍皇……それは赤龍帝と対を成す、俺のライバルという存在だ。

 前代は俺の大切だった存在、ミリーシェ・アルウェルト……そして今代の白龍皇は―――ヴァーリ・ルシファー。

 以前に起きた三勢力のトップ陣を狙った禍の団のテロ活動で、アザゼルを裏切って俺と交戦し、俺に敗れた男。

 ―――そんな男、ヴァーリ・ルシファーは俺の視線の先……結界が張られてあった場所に大穴を空け、白い鎧を身に纏って悠然と空に浮いていた。

 先ほどガルブルト・マモンから放たれた大質量の魔力の塊は、おそらくヴァーリからの干渉でその力を失いつつある。

 俺はその一瞬を見逃さない。

 魔力の塊が失いつつ、ヴァーリを見ているガルブルトが黒歌から注意を逸らしている一瞬を狙い、俺は崩れそうな体を動かす!

 これはチャンスだッ!

 俺は数メートル離れる黒歌の元に駆け走る。

 と、それを境に俺の隣に同じように俺と走る存在…………先ほどまで魔力を奪われ、伏していた小猫ちゃんだった。

 

「……先輩……先輩はお姉さまを助けてください―――私は一瞬でも時間を作ります」

 

 そう言って、小猫ちゃんは獣の耳と尻尾を体から出現させ、俺よりも速い速度で動いたッ!

 恐らくは仙術……魔力の消耗で力は小さくなっているだろうけど、それでも現在の俺よりも速度は速い!

 小猫ちゃんは俺よりも早くガルブルト・マモンの近くに到着し、奴に掌底を放つ!

 

「ッ!?糞が、邪魔すんな!!」

 

 奴は小猫ちゃんへと乱雑に魔力弾を放とうとするも、小猫ちゃんはそれを読んだかのように奴の懐に入る。

 俺は小猫ちゃんが時間を稼いでいる間に黒歌の体を支え、そのまま黒歌を腕で背負い、そしてガルブルトに対して魔力弾を放った。

 

「ッ!!」

 

 奴はそれを察知したのか、小猫ちゃんに攻撃をしようとしているのを止めて防御態勢をとるのを確認すると、俺は黒歌と共に小猫ちゃんを回収し、ガルブルトから距離をとる。

 ―――ッ!

 傷が深いか……今の動作でかなりのダメージが俺を襲う―――でも、黒歌は救出できた。

 

「…………体の傷がひどいな、兵藤一誠」

「―――ヴァーリ……どういうつもりだ!」

 

 俺は俺の付近に舞い降りてきて、そう言ってくるヴァーリにぶっきらぼうにそう言った。

 

「俺は俺の契約を果たすためにここに来たんだ。けど来てみれば結界を張られていて、黒歌が囚われていたからな」

 

 ヴァーリは不敵な笑みを浮かべ、俺にそう言ってくる。

 ……そして鎧を解除し、懐から何かを取り出した。

 

「俺の目標であり、好敵手である君が死ぬのは頂けないな―――それでは助けた理由にはならないかな?」

 

 ―――それは瓶。おそらくは、フェニックスの涙。

 ヴァーリは瓶の蓋をあけ、そのままその涙を俺へと振りかけた。

 その瞬間、俺の体中の傷が塞がっていって、俺の体の負担がかなり低くなった。

 

「…………いや、正直かなり助かった―――ありがとう、ヴァーリ」

「………………不思議なものだ。以前は殺し合いをした人物に礼を言うなんて……だが不思議と心地良い―――それで、奴をどうする気だい?」

 

 ……ヴァーリはガルブルト・マモンの方を指さしてそう言った。

 奴の表情には……憤怒の表情。

 まるで自分の思い通りにならないことに対する怒りが体現するように、オーラを噴出している。

 

「お前は手を出すな―――黒歌、小猫ちゃん」

 

 俺は俺の手元にいる黒歌と小猫ちゃんから手を離し、地面から立ち上がる。

 黒歌の傷はかなりのものだ。

 恐らくヴァーリも涙を持ってないし……俺は即座にフォースギアを出現させる。

 

『Force!!』

『Creation!!!』

 

 一度の創造力を使用し、俺の胸の神器から白銀の光が現れ、そしてその光は瓶を形作る。

 癒しの白銀(ヒーリング・スノウ)、回復の神器を創りだし、俺はその中にある雪のような粉を黒歌に振りまいた。

 一時的な応急処置にしかならないけど、ないよりはマシだろう。

 

「俺は二人を絶対に助ける。そのために今はあいつ―――ガルブルト・マモンをぶっ倒す。後でちゃんと話は聞くから―――待っていてくれ」

「ご、主人さま……」

「先輩……!」

 

 二人に白銀の光が漂い、俺は二人に背を向けガルブルト・マモンに一歩近づく。

 

『Boost!!』

『Force!!』

 

 俺はブーステッド・ギアを発動し、神器から音声が流れる。

 

『―――許さん。何があろうと、俺は奴を…………二天龍と謳われた俺がここまで怒り狂ったのは初めてだ――――――相棒、今すぐあいつを倒すぞ―――そうでなければ俺の怒りは抑えきれんッ!!!』

『………………よくも主様を、主様を……主様を!!』

 

 二人のこれまで聞いたことのないような怒りの声が俺の胸に広がり、それと同調するように俺も怒る。

 フォースギアからはかつてないほどの白銀の光、ブーステッド・ギアからは今までで最も強く、力強い紅蓮のオーラ。

 

「―――俺は、お前を許さない」

 

 俺とガルブルト・マモンの距離はほとんどなくなる。

 籠手とエンブレムからは音声が鳴り響き、その音声はドライグとフェルの怒りの声のように辺りに響く。

 

「ようやく一緒になれた二人を傷つけて、殺そうとする―――何よりも俺とあいつらを離れ離れにしたお前を絶対に許さない!!!」

「ッ!!うっせぇんだよ、赤龍帝!!!何が許さないだ!!!お前をここで殺せば問題ねぇんだよ!!」

 

 ガルブルト・マモンは幾重にも悪魔の翼を展開し、手に魔力を包んで手刀で俺に襲い掛かる。

 

「―――たかが、自分のために動く奴に…………俺は倒せない!!!」

 

 次の瞬間、俺の二つの神器から莫大なオーラが噴出した!

 

『Boost!!!!!!』

『Force!!!!!!』

 

 そのオーラがガルブルト・マモンを吹き飛ばし、近くの木にあいつの体が衝突し、木々が倒れる。

 

「俺の想い応えろッ!!!―――禁手化(バランス・ブレイク)!!!!!」

 

 俺の怒号にブーステッド・ギアが赤く輝き、フォースギアが轟く。

 俺の体に次々に鎧の各所が装着されていき、そして俺は……

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を身に纏った。

 更に次はフォースギアが光り輝く―――まさかフェルがあの力を俺に使わせようとするなんてな。

 いいぜ……フェルがそう俺に訴えかけるなら、俺は――――――その気持ちに応えるだけだ!!

 

『Reinforce!!!』

 

 フォースギアがその音声を辺りに響かせる!

 それは神器の強化の音声。

 膨大な白銀の光がフォースギアから噴出し、そして俺の鎧を覆っていく。

 そして俺の鎧はその光に包まれるように変化していく…………鎧の各所が鋭角となり、更に宝玉の数も増え、そして―――

 

「禁手強化―――赤龍神帝の鎧(ブーステッド・レッドギア・スケイルメイル)!!!」

 

 俺は現在最強の形態となり、白銀の光に包まれながら奴を見る。

 

「そ、それが、コカビエルを一撃で倒した力かッ!?くそッ!!」

 

 ガルブルト・マモンはその瞬間、足元に魔法陣を描く。

 ―――そんなもん、既に気配で察知してんだよッ!!!

 

「うぉぉぉぉぉおお!!!!」

 

 俺は無限倍加が始まっていない状態でガルブルト・マモンに接近し、その場から逃げようとするガルブルト・マモンの顔面を拳でとらえる!!

 さっきからこいつは逃げ腰の雰囲気を醸し出してた―――夜刀さんの修行で俺は気配を何となく掴む力を得た。

 そうでなければ死んでいたから……だからこそ、俺はこいつを許せない。

 夜刀さんは人々を救い、善を尽くす優しいドラゴンだった。

 人々に不気味なんて呼ばれていた時も、そんな時でも誰かを守る優しいヒトだった!

 なのにこいつはヒトを傷つけ、傷つけ、傷つけ続ける!!

 

「がッ!!?糞が…………糞がぁぁぁぁ!!!!」

 

 ガルブルト・マモンは魔力弾を撃ち放つ。

 ―――そんな攻撃が、何の覚悟もない攻撃が

 

「そんなもんが、俺に喰らうわけねぇだろ!!!」

 

 俺はそれを拳で消し潰すッ!

 

「…………いくぞ、ドライグ、フェル」

 

 ―――その次の瞬間

 

『―――Infinite Booster Set Up』

 

 辺りに静けさを含む静かな音声が鳴り響く。

 それはこの力の本質―――嵐の前の静けさ。

 

『Starting Infinite Boost!!!!!!!』

 

 その爆音が響いた瞬間、俺は紅蓮と白銀のオーラを噴出させたッ!!

 音声はない―――なぜなら、永遠に倍増を続けるから。

 俺の体には負担が掛かり続ける……けど、俺は動ける!!

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

「ッ!!この下級がァァぁ!!!」

 

 ガルブルト・マモンは絶大な魔力弾を放つも、俺はそれを予見してそれを避ける。

 こんな分かりやすい動きで、俺が倒せると思っていたら大間違いだ!

 俺は乱雑な奴の攻撃を全て避け、そして倍増し続ける力を全て力に回す!!

 ―――魔力は既に俺の中にはない。

 あるにしても少しだけだ。

 だけどそんなものがなくても、俺はこいつをぶっ潰せる。

 俺は奴の懐に入り、そして

 

「喰らえッ!!」

「ッッッッッッッ!!?」

 

 奴の腹部に全力の打撃を放つ!!

 奴の腹部からはあり得ないような音が響き、だけど俺は手を休めないッ!!!

 何度も何度も、ガルブルト・マモンの体へと殺すつもりの打撃を放ち続けるッ!!!

 その度にガルブルト・マモンからは聞こえてはいけない体の叫びが響く……こんなもんじゃあ終わらせない。

 いや―――終われないんだ!!!

 

「がぁぁぁぁぁ!!!?……………………く、そ、……く、らえぇぇぇぇ!!!」

 

 俺と接近戦をするガルブルト・マモンから魔力を大幅に含んだ拳が俺の鎧の兜に放たれ、そして俺の兜が崩壊する…………こいつがここまでずっと魔力を持ち続けるのは恐らくは体質ゆえ。

 実力が拮抗している奴からもある程度は取れるんだろうな―――だけど、それがどうしたって話だ。

 魔力の才能なんてなくても戦える!!

 拳が握れる限り、あきらめない限り!!

 

「人は、何かを守るために戦えるんだッ!!!!」

 

 無限の倍増に耐えながら、俺は無限に強くなっていく拳でガルブルト・マモンの顔面を殴り飛ばすッ!!!

 ガルブルト・マモンはその瞬間、その衝撃で地面にたたきつけられ、更に地面には殴り飛ばした影響で奴を中心に大きなクレーターが出来た。

 奴は俺の一撃が大きすぎたのか、動きを一瞬止めてしまった。

 ―――その瞬間、俺は口元に龍法陣を発動する。

 口の中から火種が生まれ、俺はそれに向かい倍増の力を譲渡する!

 

『Infinite Transfer!!!!!!!!』

 

 倍増された火種は炎となり、そして劫火となる。

 全てを焼き尽くす劫火―――タンニーンのじいちゃんとの修行の成果だ!!

 

劫火の龍息(ヘルファイア・ドラゴンブレス)!!!!」

 

 次の瞬間、俺は地面に出来た大穴に向かって大質量の劫火を放った!!

 大穴に劫火が浸透し、劫火の海が出来る…………奴には確実に直撃した。

 ―――ッッッ!!

 …………その時、俺の体に嫌な音が走る……恐らく、今の俺の状態はあまりよくない。

 それを証拠に神帝の鎧を使っているのにも関わらず、出力がまだ微妙だ。

 

『違います、主様―――主様はこの鎧を支配し始めているのです。だからこそ、ここまで長く鎧を使い続けている―――奴を完膚なきまで潰しましょう』

『俺らの思いを一つしよう』

 

 ああ、そうだ。

 俺は再び、拳を握る。

 出力が微妙か…………なら――――――ッ!!!

 

『Infinite Accel Booster!!!!!!!』

 

 こいつが、おそらくはこの鎧の最高出力を引き出す音声ッ!!

 なるほど……俺の成長に合わせて、神器もまた進化しているってことか!!

 体への負担が激増した代わりに…………力の上限がそれ以上に上がった!!

 

「―――――うがぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」

 

 ……俺が先ほど放った劫火がかき消される。

 ―――そして先ほど殴り飛ばした男は、大穴の中心で魔力のオーラ全開で俺の方を見ていた。

 ……三大名家。

 恐らくこいつは消耗した状態でもここまで俺の攻撃に耐えれる実力を持っているんだろうな。

 だからこそ、こいつはディザレイドさんと共に三大名家なんて大層な二つ名を持っている。

 だけど

 

「俺は仲間を守るためなら、魔王や神様だって倒すって決めてんだ―――だからお前を倒すッ!!」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ――――――だまれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

 奴と俺が同時に動くッ!!

 俺の紅蓮と白銀のオーラは輝きを増し、その瞬間に俺の背中の発射口のようなブースターから二つの交じり合った光を放つ。

 それにより俺の速度は―――神速となった。

 

「こいつで終わりだ―――くそ悪魔ぁぁぁぁ!!!!」

 

 一瞬で俺は自分でも驚くほどの拳による連撃をガルブルト・マモンに放つ!!

 もうこいつには何もさせない!!

 こいつが放とうとする魔弾を全て霧散させるように攻撃をし、最後に極め付けと言いたいように空に向かいアッパーを喰らわすッ!!

 ―――もうほとんど力は残ってないんだろう。

 成す術もなく空中に浮くガルブルト・マモン。

 

「―――集結しろ」

 

 俺は手元に残り少ない全ての魔力を集中させる。

 無限倍増は次々とその拳の力と魔力を倍増していき、俺はガルブルト・マモンのすぐ上の空中に移動する。

 兜は先ほどの奴の攻撃で破壊されており、既に顔は外気にさらされている。

 …………俺は奴と目があった。

 

「く、そ……………………なん、で、てめぇは!!あいつ、と……同じ目を、している!!!なにが、そんなに、憤怒する!!?俺、は悪魔!自分の欲、に、素直になって…………なにが、わりぃ!!?」

「―――その考えが大間違いなんだよ、くそ悪魔!!お前はどんだけ足掻こうが」

 

 拳が紅蓮に輝く。

 ―――まるで、龍の逆鱗のように。

 

「救いたいって気持ちには、誰かを想う気持ちには――――――勝てないんだよ!!!」

 

 俺はこの身に宿る全ての力をガルブルト・マモンへと放つ!!

 全ての力を乗せ、想いを乗せ、全力で奴の体をとらえるッ!!

 空中から地面に向かって、奴をそのまま殴り飛ばすッ!!!

 ガルブルト・マモンはそのまま―――先ほどの大穴の中心へと、俺の拳の衝撃で再び落ちてゆき、そして

 

「だから、お前はディザレイドさんにも勝てない―――くそ悪魔」

 

 そのままガルブルト・マモンは穴の中で動かなくなった。

 

 ―・・・

「はぁ、はぁ…………流石に、あれほど赤龍神帝の鎧を身に纏えば……体が引き裂かれるか……」

 

 ……俺はガルブルト・マモンをぶっ潰し、そのまま黒歌、小猫ちゃん、ヴァーリのいるところに降りて行って、そのまま倒れる。

 上半身だけ起こし、何とか肩で息をするけどかなりきついな……

 体からは数か所だけど傷が出来てる……いくらあの鎧を使いこなし始めているって言ったって、あれだけ酷使すれば負担は大きくなるか。

 

「ご主人様!!」

「先輩ッ!!」

 

 俺の状態を見た黒歌と白音が俺に駆け寄り、抱き着いてくる……ったく、こっちは神器を作るのも一苦労なほどに消耗してんのに、甘えん坊な猫だな。

 

「もう、傷つかないでッ!!自分を……自分が死のうと、しにゃいでッ!!」

「……先輩ッ……せんぱ、い!!」

 

 ……小猫ちゃんは一度、俺の死に姿を見ているからか、俺の破れまくっている服を握りしめて泣いている。

 黒歌は分かっていたんだな……俺が命を掛けて守ろうとしていたことを。

 ―――情けないな、この二人を一番泣かせてるのは俺か。

 

「……ごめんな、黒歌、白音………………もう大丈夫だ。俺が、あいつをぶっ倒してやったから―――言っただろ?俺の大丈夫は、説得力があるって」

 

 俺は二人を抱きしめると、二人は更に泣いてしまう。

 おいおい……こりゃあなだめるのは一苦労か?

 

「―――俺の存在を、認知してもらっても良いかな?」

「……ヴァーリ」

 

 俺が背もたれに使っている木の付近で手を組み、もたれかかるように立っているヴァーリに俺は目を向けた。

 

「君はまた一段と強くなったね―――以前、俺を一撃で行動不能にしかけた技と、コカビエルを一撃で倒した力を一度に使うとは思わなかった。特に龍のオーラが極限まで達したのが凄まじいな」

「……そんなこと、どうでも良いだろう?」

「まあそうだな……俺の言いたいことは、君と更に再戦したくなった―――当然、真っ向から正々堂々。楽しく面白い戦いを」

「はっ……戦闘狂が…………」

 

 俺は鼻で笑うけど、やっぱりこいつがそんな悪い奴じゃないと思った。

 ……ホント、なんとなくの感覚だけど。

 

「……ってかあの結界、消えないんだな」

「あれか?あれは結界付近にいる存在の魔力を吸って回復していくものでね。俺も優秀な仲間がいなければ入ることも出来なかった」

「仲間、ねぇ……お前が仲間なんて言うとは思わなかったよ」

 

 俺はヴァーリに軽口を挟む。

 ってかあの結界、あいつが倒れても消えないのか。

 …………だけどたぶん、もうそろそろ解除されると思う。

 森の中におそらく、サーゼクス様などといった魔王クラスのオーラを幾つも感じる。

 今は術の解除に専念してるってところか?

 

「…………お前が黒歌を助けた理由はなんなんだ?」

 

 俺は一息つき、そしてヴァーリにそう問いかけた。

 

「……さっきも言った通り、契約なんだよ―――『黒歌の身を俺が保障する代わりに、俺の個人的な私情の手伝いを要請する』…………俺の目的のために黒歌の仙術が必要だったんだ」

「…………だから、助けたのか?」

「……何を言っている?黒歌を助けたのは俺じゃない―――君だよ」

 

 するとヴァーリは少し笑って黒歌の方を見た。

 

「悪いな、黒歌。俺は君との契約を破った。君の身は保障していないからね―――契約は破棄だ」

「……ヴァーリ」

 

 ……黒歌はヴァーリの方を見て、少しだけ涙をためる。

 こいつ…………まさか初めから……

 

「……ヴァーリ、答えてくれ―――もし、仲間に危険が迫ったら、お前ならどうする?」

「…………さぁ?まぁ…………危険を与える奴と戦ってみたいな」

 

 ……ははは!

 こいつ、分かってんのか?

 自分が…………遠まわしに仲間を守るって言っているのを。

 

「兵藤一誠。黒歌は禍の団(カオス・ブリゲード)には関わっていない。彼女の行動は全て俺の私情に対する補佐……俺をあの時、逃がす助けをしたのは脅されてたと言えば説明がつく―――君が保護してくれ」

「…………言われなくても、そうするよ」

 

 俺は未だ痛みの走る体を何とか立たせて、ヴァーリと同じ目線に立つ。

 

「お前は、オーフィスが組織を抜けると言った時……カテレア・レヴィアタンとは違いどこか嬉しそうな顔をしてた。どうしてだ?」

「……別に、大した意味はない……ただ―――チームの一人が、寂しそうなんて言っていたからな」

 

 ……それを聞いて安心した。

 俺はヴァーリの肩を掴んだ。

 

「―――ありがとう、ヴァーリ……少し、お前のことを勘違いしていたかもしれねぇな……」

「…………調子が狂うな。肩から手を離してくれ……」

 

 するとヴァーリは俺から目線を外して、背中を向ける。

 すると黒歌は俺の前に出て、ヴァーリに対し声をかけた。

 

「ヴァーリっ!!…………ありがとうにゃ…………ご主人様を助けてくれて……ありがとうッ!!」

「…………その男と戦うのは俺だからな。勝手に卑怯な手で負けてもらっては困るさ」

 

 ……ヴァーリは少し含み笑いをした。

 その時、辺りを取り巻いていた結界が解除された。

 その時、森の中から二つほどの影がこっちに向かって来て、そしてヴァーリの傍で止まった。

 

「あっれー?ヴァーリ~、もう赤龍帝ちゃんの戦い終わっちゃったの?あたし、見るの楽しみにしてたのぃ~~」

「そうだぜぃ?俺っちも久しぶりに見たかったのによぉ~」

「…………なぜ、お前たちがいるんだ?スィーリス、美候」

 

 そこには中華風の薄い甲冑を身に纏う、一度見たことのある確か孫悟空の末裔の美候。

 その隣に背がとても低く髪は薄い桃色、何か色々と出るとこ出てる女の子……だけど異様にふしだらな恰好女の子がいた。

 

「あ、ヤッホー!君がヴァーリが言ってた赤龍帝ちゃんか~~~……良い男だねぇ……おっと、あたしはスィーリス!サキュバスと人の身に生まれた異端児なりぃ~」

 

 ……サキュバスは確か下級の悪魔だったはずだ。

 ってことは、この子はヴァーリのチームの一員ってわけか。

 

「いやいや、お前を迎えに来たんだぜぃ?よくもまあ、魔王まで来てるここに来たもんだ!で?やっぱり黒歌はあっちに行くのかい?」

「……元々協力関係でしかないからな」

「へぇ……つまり、あの赤龍帝ちゃんが黒歌の…………ふふふ」

 

 ………………なんか、あのスィーリスって子が俺の方を見て舌なめずりをしてくるッ!

 その瞬間、俺は背筋に冷たいものを感じた。

 

「……スィーリス、ご主人様にそんな目を向けるにゃ!!ご主人様は私と白音のもの!!」

「…………ッ!!」

 

 すると黒歌と小猫ちゃんが俺の腕を掴んで、後ろに引っ張る!

 

「へぇ……人のものって、見ると欲しくなるのよね~―――あ、名前教えてよぉ、赤龍帝ちゃん!ヴァーリはこんな風に童貞臭い上に女に興味ないからねぇ」

「それは言い過ぎだぜぃ?さすがのリーダーも気にしてるかもしれないぜ?」

 

 ……ヴァーリを煽ってる!?

 なんてチームだ……白龍皇を煽るとか。

 

「……兵藤一誠」

「ほうほう、イッセーちゃんか……でも普通すぎるからイッちんって呼ぶね?―――あ、私、特異体質でエッチしなくても触れるだけで男から精力奪えるから、処女だよ?きゃー、きゃー、言っちゃった~~~」

 

 ……………………今すぐに説教してやろうか、この野郎。

 

「……どうでも良い、帰るぞ」

「へいへい……じゃあ魔王も来たことだし帰りますぜ!」

「えぇ、あたしもっとイッちんと話したいのにぃぃぃぃ……仕方ないなぁ」

 

 するとスィーリスはやれやれといった風に上空に桃色の魔法陣を展開し、それを三人が通過する。

 ……あれは本当に下級悪魔なのか?

 明らかに相当な魔力と―――神器の気配がする。

 しかもさっき言ってた特異体質…………流石はヴァーリのチームに入ることはあるってわけか。

 

「あ、それとヴァーリ~?あのキモい上に汚い男……がるぶっと・めもん?だっけ。あれ、なんか英雄派の奴らが回収していったんだけどぉ?」

「………………なに?」

 

 ……三人が光の粒子となりつつ転送しそうになるとき、スィーリスが突然ヴァーリにそう言った。

 ヴァーリもその言葉に納得のできないような表情になる……が、すぐに表情を変えて俺の方を見てきた。

 

「……俺の方で奴を調べておく―――またいつか戦おう、兵藤一誠」

「…………ああ、その時は敵同士だ―――ヴァーリ」

 

 ……そのまま三人はその場から消える。

 あいつらは敵同士……テロ組織に加担しているんだからな。

 ―――だけど、最後にスィーリスが言っていた言葉。

 俺が気付かないほど気配をなくし、ガルブルト・マモンを回収した存在がいる。

 …………英雄派。

 あいつが捕まらない限り、俺は油断できないな。

 ………………まあ今考えても仕方ない。

 とにかく今は……………………流石に限界だ。

 

「くそ…………全然力が入らねぇ……」

 

 俺はその場に倒れる。

 これはアーシアの特大の癒しオーラじゃないと治らないぞ……

 

「イッセー!小猫!!」

 

 ……倒れる俺と、その傍で俺を心配そうに見ている小猫ちゃんと黒歌の元に部長や他の眷属の皆が到着する。

 傍にはサーゼクス様やセラフォルー様、それにグレイフィアさんもいた。

 

「……これはひどい傷だ……アーシア・アルジェントさん、イッセー君の傷を治療してもらっても良いかな?」

「は、はい!!」

 

 ……サーゼクス様が俺の傍に来て、俺の傷を見るや否やアーシアにそう言って、アーシアは俺を治療する。

 いつもながらに、癒されるなぁ……

 

「………………………………」

 

 ……そして皆が黒歌の存在に気が付き、黒歌を見た。

 そして黒歌は俺の手をぎゅっと握る。

 

「大丈夫だ、黒歌………………俺の大丈夫は、本当に大丈夫だろ?」

「―――ホント……そうにゃ」

 

 ……黒歌はそう満面の笑みを漏らして、俺に頷いたのだった。

 

 ―・・・

「あぁ、いてぇ……アーシアの癒しオーラとフェニックスの涙でもダメなのか?」

 

 俺はグレモリー家のベッドの上で唸っていた。

 あの後、俺はすぐさま救護班によって保護され、まあいろいろ話をしないといけないことからグレモリー家の本邸に運ばれた。

 その時のティアやオーフィスの怒り方は半端なかったな。

 今すぐにでも俺をこうしたガルブルト・マモンを殺すとか言いそうな勢いだったし……

 まあそれを何とかなだめ、俺は治療を受けたんだけど、それにも関わらず俺の痛みはなかなか消えない。

 

「ご主人様は無理な力を全力で使ったから、体の神経に深刻なダメージを負っているにゃ……あんな無理な力を使えば当たり前よ」

「こりゃ厳しいな、黒歌」

 

 ……そして俺のベッドの傍には包帯をして傷の手当てをされた黒歌と、俺のベッドに突っ伏して眠る小猫ちゃんの姿があった。

 あれから既に数時間が経ってる。

 俺もさっきまでは寝てたんだけど、それまで小猫ちゃんと黒歌が俺の看病をしていたそうだ。

 部長や皆もここに帰ってきたいはずなんだけど、残念だけど今はまだパーティー会場にいる。

 パーティー自体は中止になったけど。

 どうやら向こうでも色々と説明をしなければダメなこともあるらしく、現在この本邸にいるのは、ここにいる俺たちだけだ。

 チビ共やオーフィス、ティアはどうやらメイドさんたちと共に俺の料理を作っているそうだ。

 

「小猫ちゃん、俺の看病に疲れて寝たのか?」

「うん……この子も魔力を奪われて、かなり疲労していたところで仙術を使ったから疲れで眠ったにゃ」

 

 ……あの時、小猫ちゃんがあの男の動きを止めてくれなかったら、俺は黒歌を救うことが出来なかったかもしれない。

 俺は幸せそうに眠っている小猫ちゃんの頭をそっと撫でた。

 

「……ご主人様が寝てる間に白音と色々話したにゃん。あれ以来、白音に何があったとか……白音の気持ちとか……たまに惚気られてイラついたこともあったけど」

「……ちゃんと話せたのか?」

「―――うん。本当にご主人様には助けられてばかりにゃん。初めて会った時も、今も…………ずっとずっと……」

「…………そう言えば、俺も言うのを忘れてたな」

 

 俺はふとあることを思い出し、黒歌をそっと抱き寄せた。

 

「―――ありがと、黒歌。小猫ちゃんから聞いたよ……昔、俺が疲れていた時に仙術を施してくれたって……あれがなかったらさ……俺はきっと強くなれなかった」

「…………ご主人さまは……罪作りにゃッ!……こんなに私を泣かせて…………ずっと、傍にいてくれる?白音と私の傍に……」

「当たり前だろ…………ずっと一緒だ!」

 

 俺はそのまま黒歌を抱きしめると、途端に俺の体にとても暖かい光が包んだ。

 それと同時に俺の体の、今まであった痛みがすぅっと消えていく……これは夜刀さん手作りの粥を食べた時と同じ……

 

「……仙術を使って、ご主人様の気の乱れを治して神経を正常に動かしたにゃん……これでもう大丈夫だわ」

「……ありがと、黒歌」

 

 俺はしばらく黒歌を抱きしめていると

 

「……イッセー君、もう良いかな?」

 

 ……その場に第三者の声が響いた。

 

「さ、サーゼクス様!?」

「にゃん!?」

 

 俺と黒歌は突然のことにびっくりする!!

 ベッドの脇には、サーゼクス様とグレイフィアさんがいた。

 

「いや、脅かせるつもりはなかったんだ。こちらは急いで魔法陣でここに飛んできたわけだが……取り越し苦労だったみたいだね」

 

 ……サーゼクス様は俺の体の状態を見てそう言うと、嘆息する。

 

「……少し事務的な話になるが、良いかい?」

「ええ……俺も聞かないといけないこともあるはずですから」

 

 ……サーゼクス様はあれからあったことを話し始めた。

 あれから調べたところ、俺が倒したガルブルト・マモンの姿はどこにもなかったそうだ。

 俺の提供した情報から鑑みた結果、恐らくはガルブルト・マモンは何らかの繋がりを禍の団と持っていたらしい。

 それを裏付けるように不明な取引の記録が存在していたそうだ。

 魔王様率いる眷属の方々がマモン家に突入したそうだけど、その時には既に家はもぬけの空……ではなく、それでは説明がつかない惨劇があったそうだ。

 ――――――マモン家の者が、ほぼ全員命を失う瀬戸際まで殺されかけていたらしい。

 その中で比較的傷の少なかったものから証言を得た結果、そのマモン家を襲った人物は特定できず、しかも見たこともないような力を使っていたそうだ。

 魔力ではなく、別の次元と言えるほどの力……ここはまだ調査中らしいけど。

 それと……三大名家のこと。

 

「……今回の件でガルブルト・マモンがこれまでしていた悪事や隠していた事実が全て漏洩したよ。彼は自分の家の者を口封じもしていたそうだ…………彼は家の中でも相当浮いていたとも言っていたね」

「……それであいつはどうなったんですか?」

「彼は最上級悪魔の称号を失うだろう……それは今度、また悪魔の中で会議を開くだろうが決定されている……そしておそらくは彼は禍の団によって回収されたことから、奴ら側についたことになる―――はぐれ悪魔、ということで指名手配されるだろう」

 

 ……それを聞いて安心した。

 でもまだ一番大切なことを聞いていない。

 

「それで…………黒歌はどうなるんですか?」

「…………そうだね」

 

 サーゼクス様は腕を組んだ。

 

「彼女のしたことは全て知っているよ……ただ、まさかあの時海外へ転勤させた家族が君の一家だとは知らなかった…………いや、兵藤という名で気付くべきだったかもしれないね―――彼女のことはおそらく、指名手配は解けるだろう。ただし、マモン家と由縁のあった家が彼女を排除しようと動くかもしれないが……そこは私や魔王がどうにかしよう」

「……ありがとう、ございます……あの時も、白音を助けてくれて……」

 

 ……黒歌はサーゼクス様に頭を下げる。

 そっか……ならもう大丈夫か。

 

「ならサーゼクス様……あの時ははっきりと言えませんでしたが、今の俺の気持ちを言います」

 

 俺はあの時……サーゼクス様が俺の部屋で王の駒を渡した時のことを思い出す。

 俺はあの時、受動的にサーゼクス様の言葉に頷き、『王』の駒を受け取った。

 だけど今は違う。

 

「俺は絶対に上級悪魔になります。そしてこの黒歌を俺の眷属にする―――そうすれば、赤龍帝の眷属なら誰も文句は言いません。だから、俺は絶対に『王』になります!!」

「……そうか。あの時とはまた瞳の強さが違う……その言葉、胸に刻んでおくよ」

 

 ……そう言うとサーゼクス様は部屋の中に魔法陣を展開し、その中にグレイフィアさんと入る。

 

「ああ、それとイッセー君。君の受けた傷は余りにもひどい。君が望むなら、ゲームを先延ばしにも出来るが……」

「はは……そんなの、必要ないですよ―――アーシアと黒歌の力で俺はもう元気ですから。絶対に勝ちますよ…………俺も悪魔になってようやく目標が出来ましたから」

「わかった……明日のゲーム、楽しみにしているよ」

 

 そしてサーゼクス様は魔法陣の中から消えていく。

 

「……ご主人様」

「あはは!そんな呼び方はもうやめろって…………俺はイッセーで良い。そっちの方が俺はうれしいよ」

「……わかったにゃ!イッセー~♪」

 

 ……すると黒歌は服を唐突に脱ぎ、俺に抱きついてくる。

 ってなんで脱ぐ!?

 

「ち、ちょっと待て!?黒歌!!どうして脱ぐ必要がある!?」

「えー?だって名前で呼んで良いんでしょ?だったらエッチしても問題なしにゃん♪」

「その考えは間違ってる!!ってかダメじゃん!!ダメに決まってんだろ!?」

 

 俺は大声でそう叫ぶと……

 

「ん…………姉さま、先輩は起きたのです……か……」

 

 ……するとどういうことだ。

 俺の叫びに小猫ちゃんが伏せて眠っていたのに、起きてしまい、そして裸の黒歌と俺を見ながら固まった!!

 ―――非常にまずい。

 

「…………ずるいです、姉さま。私も先輩の……赤ちゃん、欲しいです」

 

 あれ?

 小猫ちゃんが頬を真っ赤に染めて胸元のリボンを外し始めたぞ!?

 待て待て待て待て待て待て!!!!

 

「良いかにゃ?イッセー…………猫又は多種族との交尾で子供を作るにゃ…………っていうか私の疼きを沈めてにゃ~~~!!!」

「……優しく、してください……」

 

 …………そう、俺は忘れてたのだ。

 元来、黒歌は悪戯好きに加え、俺に対する甘え方が小猫ちゃん……白音よりも凄まじかった。

 

「うそ、待ってくれ!楽になったけど、まだ体動かないから逃げられない!?」

「にゃふふ……私が楽にしてあげるにゃ~!!」

「……ちっちゃいですけど……柔らかいです……ッ!」

 

 うお、こいつら、けが人の俺に跨ってきた!!

 ヤバい、襲われる!!

 

「嫌ァァァァァァァア――――――・・・」

 

 ……この後、この状況の中で部長や眷属の皆が帰って来て、ひと悶着あったことは言うまでもないだろう。

 

 ―・・・

『Side:三人称』

 

 ……冥界の奥地、誰も入ることのないであろうはずれの森にある廃墟。

 そこには数人の人影があった。

 一人は体中に包帯や薬品で治療を受けている悪魔。

 更にその付近に槍を持つ男と、黒いコートを羽織る眼鏡をつける男。

 悪魔―――先ほどまで赤龍帝と謳われる男と対峙し、そのまま無残にも敗れ去ったガルブルト・マモンは肩で息をしながら男たちを見ていた。

 

「はぁ、はぁ……糞が………………てめぇら、組織のどの位置のもんだ」

「俺は英雄派の者―――人間ですよ。三大名家のガルブルト・マモン殿」

 

 槍で肩をポンポンとしている学生服のようなものを着る男はガルブルト・マモンの質問に答える。

 すると槍の男の傍に立っていた恐らくは彼の部下の者だろう……その部下が彼に何か耳打ちをした。

 

「―――なに?マモン家の者がほぼ全て、死にかけだった?」

 

 男はその部下の言葉を聞いて眉間にしわを寄せる。

 と、そこでガルブルト・マモンは反応した。

 

「大方、俺を恨む悪魔、が……やったんだろうな…………」

「……そうでしょうか?悪魔だったら殺しても可笑しくないと思いますし、まだあなたには権力がある…………本家を狙い、家のものを皆殺しには出来ないはずですが……」

 

 槍の男は顎に手をやって何かを考え始めた。

 

「どうせ、権力は消える…………マモンにはまだ数人、俺が認めるレベルの強さの奴がいたはずだッ!!……それを潰した……だと……いったい、誰だッ!!」

 

 ガルブルト・マモンは少し焦るような表情をした。

 当然、それはマモン家を傷つけられたからではない。

 ―――戦争を生き抜いた悪魔だからこそある、第六感的なものが自分の危険を告げていたのだ。

 それは赤龍帝と戦った時とはまた違うもの。

 あるいはそれは―――本気の死の恐怖。

 赤龍帝は確かに彼を殺す勢いであったが、しかし命まではとらなかった。

 しかし彼が今感じる寒気は―――そう思った時だった。

 

「―――様!!敵影です!!何者か、が……―――」

 

 ……槍を持つ男の名前が廃墟に響いた瞬間、その男の名を呼んだ部下が力尽きたようにその場に倒れる。

 そして部下は黒い霧なのだろうか……そんな霧に包まれ、姿を見せなくなった。

 

「―――何か様子がおかしい。ゲオルク、今すぐ転移の魔法を頼む」

「了解した」

 

 ゲオルクと呼ばれた眼鏡をかけている男はすぐさま、槍の男を中心に魔法陣を展開する。

 そして槍を持つ少年はその槍を構えた。

 

「……何者だい?この廃墟の周りにはゲオルクに察知の魔法を掛けさせていた。それに反応しないもの……姿を現したらどうかな?」

 

 男は槍を構えると、その槍の先端に位置する霧の中から足音が聞こえた。

 コツ……コツ……その足音は静かに彼らに近づく。

 そしてその霧から何かが飛んできた。

 

「……先ほどの俺の―――一瞬のうちに俺の部下を瀕死にした、か」

 

 槍の男は薄く笑う。

 男の足元に飛んできたのは、先ほど霧に包まれた男であった。

 そして霧の中からの足音は続き、そしてその中より―――一つの姿が現れた。

 

「――――――ねぇ」

 

 ……その姿―――真っ黒な布のようなものを羽織り、顔も輪郭も見えない者が槍の男に話しかける。

 

「ここに………………悪魔はいない?」

「…………さぁね。居たら、どうするんだ?」

「そうだね――――――殺す、かな?」

 

 ―――次の瞬間、その黒い布の者から黒い霧が伸びてくる。

 槍の男はそれに気付いたのか、槍を輝かせ、その霧に対抗するように振るう……が、霧はそれすらも突破し始める。

 

「―――ッ!?この聖槍を突破するだと!?」

「ねぇ………………そこの悪魔、殺すから頂戴?」

 

 ……その者は一歩、槍の男に近づく。

 

「君は何者かな?俺の槍を突破するなんて、普通じゃないッ!」

『小僧、少し黙った方が良いよ』

 

 その時、その黒い霧を操る者ではない、別の声が響く。

 

『この子は今、憤怒しているからね―――まさかこのタイミングで起きるとは思わなかったけど…………邪魔をするなら、お前すら殺すぞ?』

「……何かは知らないが―――ゲオルク!!」

「分かっている―――曹操!」

 

 ……ゲオルクという男が槍の男―――曹操という男の名を呼んだ瞬間、魔法が発動し、そのままその場にいる全ての人物……

 霧を操る者以外が転送されていった。

 そして廃墟には一人、その姿だけが残る。

 

「あれぇ?消えちゃった………………あ~あ、全員消えちゃった」

『仕方ないさ……まだ力が2割も出せない(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)ようじゃ、当たり前だよ』

 

 廃墟に響く二つの声……それは余りに不気味だった。

 

「はぁ……せっかく表に出られたのにもう終わりかなぁ…………でも、どうして私はあんなに怒ったのかな?」

『さぁな……眠ると良いよ。君はまだ起きるべきではない』

「うん……どうして、私は赤龍帝が傷つけられるのを怒ったのかなぁ?……じゃあまた起こしてね?―――アルアディア?」

 

 ……そうしてその姿は黒い霧によって消えてなくなったのだった。

『Side out:三人称』


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