ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第8話 似た者同士

「若様、お似合いでございます!」

 

 ……俺、兵藤一誠は何故だかスーツを着せられていた。

 そりゃあもう高そうな、結婚式とかパーティーとかで着そうなしっかりとしたスーツ。

 それを俺に着せたグレモリー家のメイドさんは、まだまだ若いのか俺を見てキャーキャー言っているけど、こんなことになったのは経緯がある。

 今日は魔王様主催のパーティーの日……俺は朝起きると、なぜだかそこにはグレモリー卿がいて、そのまま流されるようにメイドさんに別室に連れて行かれたんだ。

 そんで成す術もなく着替えさせられ、髪型まで整えられた始末……こういうの好かないから後で髪だけはもとに戻そう。

 

「グレモリー卿……どうして俺は着替えるんですか?制服でもいいとアザゼルが言ってたんですが……」

「ははは。今回のパーティーは最上級悪魔の方々まで集まる大きなものだ。そこで制服とは恰好がつくまい……似合っているよ、兵藤一誠君」

 

 グレモリー卿はうんうんと頷いて俺をじろじろ見てくる……う~ん、そんなものか?

 

「とりあえず俺はもう行きます……ありがとうございました、色々と」

「赤龍帝殿にそう言われたらうれしいものだ……君の中のドラゴンに言っておいてくれ。あの時は失礼なことを言った、と」

 

 グレモリー卿はそう微笑みながら言うと、俺はそれを確認して室外に出る。

 ……そう言えば部長が今、この屋敷にソーナ会長たち、シトリー眷属が来てるって言ってたな。

 

「あー!!イッセーく~~~ん!!!」

 

 ……すると廊下の奥の方から何ともまあ騒がしい声が聞こえた。

 俺はそっちの方に振り返ると、そこには………………

 

「―――い、イリナ!?」

 

 ……そこには白い制服みたいな服を着た俺の幼馴染、紫藤イリナが長い茶色のツインテールをぶんぶん揺らしながら俺の方に走ってきていた!

 なんでイリナがこんなところにいるんだ!?

 

「やっほー、イッセー君!私とあえて嬉しい?嬉しいよね!?」

「う、嬉しいからちょっと引っ付くのやめろ!ってかテンション高過ぎ!?」

 

 俺は嬉しさのあまりか、俺の腕に抱き着いてくるイリナを全力で離そうとするが、一切離れねえ!?

 

「ふふふ、これぞ幼馴染の特権なのよ!すりすり~♪」

「いや、だから離れようか!?ってかそろそろ教えてくれよ!」

 

 俺は前と変わらずマイペースの愛すべき幼馴染を見ながらそう嘆息する。

 ってかなんだ、このテンションの高さは!そんなに会えないのが寂しかったのか?

 いや、俺だってちょっと寂しかったけども!

 なんか忙しいからって連絡も取れなかったときは不安だったけど!

 

「くんくん……イッセー君、また逞しくなった?」

「お前は犬か!……で?」

「あ、そうだったわ!はい、これ天界のお土産!」

 

 するとイリナは背負っていたカバンから温泉まんじゅう?と書かれた箱を俺に渡してきた。

 ……一発、殴っても構わないだろうか?

 

「イリナ、ちょっと歯を食・い・し・ば・れ?」

「い、イッセー君?そ、その拳は何なの!?う、嘘よね?幼馴染を殴るなんて!?」

「殴られたくなかったら答えろ?あ、あと温泉まんじゅうはありがと」

 

 ……だってまんじゅう好きだもん。

 

「えっとね?私はガブリエル様のお伴で冥界に来たのよ!それでガブリエル様がシトリー眷属の一時的なアドバイザーになったから、それで観光を……ほら?今まで冥界は私からしたら禁忌な場所だったからはしゃいじゃって……それで今日はガブリエル様に連れられてグレモリー家の屋敷に来たの!」

「なるほどな……とりあえず久しぶり。会わないうちに少し力をつけたようだな?」

 

 ……イリナは何も変わってないように見えるけど、明らかに身に纏う聖なるオーラが上がってる。

 天界で修行でもしたのかな?

 

「うん!ミカエル様の加護でちょっと光の力が上がったんだ!でも……イッセー君はそれ以上のようね」

「そりゃあ世界トップクラスのドラゴン4匹に毎日のように襲われてたから……うッ!思い出すだけで頭痛が!」

 

 ……うん、頭痛はしないよ、寒気がするだけで。

 

「うんうん、辛かったよね……はい、私の胸に飛び込んできて!」

「――――――イリナさん?誰が誰の胸に飛び込むのですか?」

 

 ……するとイリナの後ろから、少し背の高い女の人がイリナの頭を軽く小突いた。

 気配すらわからなかった!?そう思ってそっちを見ると、そこには真っ白い肌と真っ白い髪をした凄まじいほどの美しい人がいた。

 

「あ、ガブリエル様!?こ、これは違うんです!お、幼馴染が寂しそうだったから!」

「あら……あなたは幼馴染の殿方が寂しそうにしていたら誰でも、その身を投じて抱きしめると……ふふ、随分と惚れているのですね」

 

 ……とても柔らかくも、しかしながら少し厳しい言葉がイリナに飛び交う!

 待て……ってことはこの人―――この方が……

 

「ふふ……初めまして、赤龍帝。私は天界の熾天使の一角、ガブリエルと申します。よろしくお願いします」

「ひ、兵藤一誠です……グレモリー眷属の『兵士』です」

 

 俺は丁寧に挨拶されたから反射的に深く頭を下げてしまう……そうか、この人がアザゼルの言っていた女性天使最強の人。

 

「あなたの噂はかねがね聞いています……と言ってもそこのイリナさんやミカエルからですが……」

「えっと……あんまりイリナをいじめるのは控えてくださいね?そいつ、見た目の割にメンタルが豆腐ですから……」

「ひ、ひどいわ!イッセー君!!こんな敵地にあなたに会いにわざわざ来たのにそんな言葉!ああ、これも私への試練と言うの!?」

 

 イリナが天に祈りを捧げた瞬間、俺の頭に激痛が走るッ!

 この、バカ!悪魔にそれは毒って言ったろうに!

 

「こら、イリナさん。悪魔にとって天に祈りを捧げることは見ただけで激痛が走るのです。しかもイリナさんはのんびりと観光をしていたでしょう?」

「うぐ……ガブリエル様ぁぁぁ」

 

 ……めちゃめちゃ仲が良いな、この二人。

 なんていうか、年の離れた姉妹?でもガブリエルさんは普通に若い見た目だし、それこそ……姉妹?に見える。

 

「私はシトリー眷属の修行のアドバイザーを今回に限りしていたのです。一応はアザゼルからの依頼でしたが……」

「そうなんですか……それでどうです?シトリー眷属は」

「そうですね……異常なまでに成長したものはいませんが、しかしそれなりに全員が成長した、とでも言っておきましょう。それよりもあなたは大丈夫なのですか?聞いた話では、してしまえば3日で死ぬほどの修行をしていたと聞いたのですが……」

「…………まあ一応は。トラウマと恐怖はちょっと出来ましたけど……」

 

 俺はガブリエルさんからの気遣いを苦笑いをしながら答える。

 

「ふふ……ではあなたの力はゲームで見せてもらうことにします。イリナさん、そろそろ向かいますよ」

「は、はい!じゃあイッセー君、また今度ね!!」

「お、おう。じゃあまたな!」

 

 それだけ言うと、ガブリエルさんに連れられてイリナはどこかに行ってしまう……嵐のような人たちだったな。

 

「……また今度(・ ・ ・ ・)?………………まあいっか」

 

 俺は特に気にせずに廊下を歩いていく…………っとそこで見知った後姿を見つけた。

 駒王学園の夏服を着こんでるけど、あれは……

 

「久しぶり、匙!」

「……イッセー!久しぶりだな!!」

 

 俺が名を呼ぶと、俺と同じ『兵士』……匙元士郎は振り返って俺の近くまで近づいてきた。

 

「…………俺さ、大分修行したんだ」

「見たらわかるよ……相当腕を上げたな」

「……そりゃあ修行したからな―――だけどちょっと強くなってようやく分かった。お前のいる領域の遠さ…………分かっちゃいたけど、お前には全然届かない」

「―――で、そんな弱音を俺に吐きたいのか?」

 

 ……性格悪いな。

 わざわざ試すようなことを俺は匙に言った。

 

「は!そんな男じゃないことするかよ―――宣戦布告だ。俺はお前に憧れてる!そんじょそこらの憧れじゃねえ!お前を目標に、お前を超えるために頑張ってきた!!たとえイッセーが堕天使の幹部や白龍皇を倒せるとしても、俺はお前を倒して見せる!!!たとえお前が俺を眼中にいれてなく―――」

 

 俺は最後のセリフを言わせぬよう、匙の目の前で拳を寸止めするように放つ。

 

「眼中にない、とかは絶対にない―――お前は、俺がシトリー眷属で一番警戒している奴だ…………自分を卑下にしてんじゃねえ」

「………………悪かった」

 

 匙は素直にそう言ってくると、俺は拳を解いて匙の肩に手をのせた。

 

「宣戦布告、ありがたくもらうぜ。だからこそ言っておく―――ゲームでお前を倒す。完膚なきまで、俺の全力で」

「……そうこなくっちゃ、面白くないッ!」

 

 匙はニヤッと笑ってそう言った。

 

「俺さ……目標、が出来たんだよ」

「目標?」

「ああ……ソーナ会長が掲げた夢―――レーティング・ゲームの学校を創る。それは身分や差別のない、平等にゲームを学べる教育機関。それを会長から聞いたとき、感動してさ……それで俺は教師になりたいって思ったんだ」

「……教師、か」

 

 匙は真剣な声音でそう語る。

 

「会長の夢……惚れた女の夢をどうにかして叶えたい、って言ったら聞こえは良いんだろうけどさ。そんなことは会長には言えないけど…………でもだからこそ、俺は悔しかった。上級悪魔の奴らに会長の夢を笑われて、貶されて、汚されて……そんな奴らに見せてやりたいんだ。会長にそれだけのことをやってのける力があるってことを!」

「……あるだろうな、会長には。そんなことをやってのけるほどの能力、力が―――だからと言ってゲームに負ける気は一切ないけど」

「当たり前だ。ってか本気でやってもらわないと俺たちの評価も上がらねえよ」

 

 匙は苦笑してそう言った。

 会長はなんでこんなに思われてるのに気付かないのかなぁ……惚れた女か。

 そんなことを恥ずかしげもなく言えるお前は間違いなく男だよ。

 

「……と、ところでさ……イッセーはいろいろな奴に好意を持たれてると思うんだけどさ―――ぶっちゃけ、お、女を抱いたことはあるのか?」

 

 ……匙はそんなことを小さな声でこそこそと聴いてきた。

 ―――こいつも人並みに男だってことだな。

 

「そういうのは修学旅行でやれよ……俺に振るな!」

「だ、だってよ!お前、いろいろと眷属の子に積極的にアプローチ受けてるじゃん!俺だったらもう一人や二人、手を出しても可笑しくないんだよ!?」

「知るか!!えぇい、離れろ!!さっきの感動を返しやがれ!!」

 

 ……松田や元浜ほどではないが、こいつ…………結構ムッツリだったのかよ。

 まあ別にそれがいけないこととは言わないけど……

 

「……別に……そういう行為はしてない。っていうか中途半端な気持ちでみんなの好意を受け止めたら、その子が傷つくから」

「…………大丈夫だ。イッセーは誰も傷つけない!それに……お前だったら好かれてるやつ全員幸せに出来る気もするよ」

「だったらいいけど……そろそろ時間だ。いこうぜ」

 

 俺は時間を見ると、既にタンニーンのじいちゃんから受けた連絡で言われた時間になっていた。

 俺はそれを確認すると、そのまま屋敷の庭に向かうのだった。

 

 ―・・・

 庭に向かうと、そこには凄い圧巻の光景が広がっていた!

 庭に埋め尽くされるドラゴンの群れ……タンニーンのじいちゃんと同じくらいのドラゴンがいっぱいいた!

 じいちゃんの眷属はドラゴンなんだ……そう思っていると、空から見知ったドラゴンが来た。

 

「昨日ぶりだな、一誠」

「タンニーンのじいちゃん!」

 

 それはタンニーンのじいちゃんで、俺はじいちゃんに手を振る!

 

「十分と疲れはとれたか?」

「ああ、おかげさまで。今日はありがとうな?」

 

 俺はじいちゃんに挨拶をすると、じいちゃんは屋敷の大きな門に目を向けた。

 そこからは綺麗なドレスを身に纏った皆の姿……シトリー眷属の女性陣の姿もあるな。

 って匙は俺の横にはいなかったと思いきや、会長の方に行ってやがる!

 

「あら、イッセーも着替えたのね」

「部長はそのドレス、すごい似合ってますよ。それにみんなもめちゃめちゃ綺麗だよ」

 

 ……?

 何故だか知らないが、こっちまで歩いてきたみんなが少し顔を赤くする。

 

「一誠、そう言うセリフを真正面から言うのは凄まじいな。俺には出来ん」

「そうか?本音を言っただけだけど……」

 

 ……そう軽口を聞いていると、部長は一歩、俺とじいちゃんに近づく。

 

「タンニーン、イッセーの修行を見てくれて感謝するわ……それでソーナも会場入りしたいのだけれど……いいかしら?」

「構わんよ、リアス嬢。何、背中に魔力で結界を張ってある。特に衣装や髪の乱れは気にしなくて大丈夫だ」

 

 ……女性に気を遣うじいちゃん、マジ尊敬ものだな。

 ちなみに今回は流石にティアやオーフィス、フィー、メル、ヒカリは屋敷にお留守番だ……ティアはともかくオーフィスは連れていくことは出来ないからな。

 そして俺はじいちゃんの背中に乗り、外の皆もそれぞれ分かれて背中に乗る。

 かくして俺たちはドラゴンの背中に乗って会場に向かうのであった。

 

 ―・・・

 会場に到着し、タンニーンのじいちゃんとは一度別れて俺たちはパーティー会場に向かっていた。

 俺たちが下ろされた場所から会場は少し距離があり、グレモリー眷属は用意されたリムジンで移動し、そして会場の大きなビルみたいな建物に入っていく。

 周りは……森か?

 ここはグレモリー家の領土の端っこのときにあるらしく、深い森に囲まれた中にポツンと高層ビルが存在しており、何ともアンバランスな感じがするな。

 

「祐斗もスーツを着せられたんだな……」

「うん。君が着て僕が着ないわけにはいかないしね……それにしても似合ってるね、イッセー君」

 

 会場に向かいながらも祐斗と軽口を挟むと、部長が俺の隣に来た。

 

「全く……こういうパーティーはあまり行きたくないのよね……」

「そうなんですか、部長?」

「ええ……これ、若手悪魔のためとか言っているのだけれど、実際は他の有名家が顔合わせをしてお酒やらを楽しむ宴みたいなものなのよ。私はお父様やお兄様に連れられてこういうのに参加しているのだけれど……正直、男性の視線がね」

「部長は容姿が整っているから、殿方からいやらしい視線を受けるのですわ」

 

 すると前を歩く朱乃さんがそう説明してくれた。

 ……確かに部長みたいな綺麗な人を放っておくわけないよな。

 

「でも今回は助かるわ……男避けの祐斗や…………そ、その、い、イッセーもいることだし……」

「あら、リアス。言っておきますが、イッセー君には私がエスコートしてもらいますわ」

「…………聞き捨てなりません」

「ぼ、僕だってイッセー先輩にえ、エスコートされたいですぅ!!」

「は、はぅぅ!!ゼノヴィアさん!出遅れてしまいました!!」

「む、むぅ……これは別室に呼ぶか?」

 

 ……また始まったよ。

 本当に何回目だと言いたいほどの言い合い。

 ったく、勘弁してくれよ。

 そう眷属で仲良く?していると、会場に到着する。

 そして扉をくぐった先には……グレモリー家本邸以上の豪華で巨大な光景が広がっていた。

 既に他の悪魔の人たちがたくさんいて、部長の姿をじろじろと見ている。

 んん?視線が俺にも向けられているような気もしなくもない。

 

「おぉ……リアス様はまた一段とお綺麗になられた」

 

 ……などいう感嘆の言葉も部長は頂いているけど、こんな大人数の悪魔を前にうちの引き籠りは大丈夫なんだろうか。

 そう思って俺はギャスパーの方を見ると……

 

「……あれは動物、あれは動物……ただ動物、人型の動物…………」

 

 なんか呪文のように唱えてた!?

 って怖ッ!!

 アザゼルの野郎、ギャスパーにどんな修行をやらせたらこうなるんだよ!?

 

「…………ギャー君、ちょっと怖いです」

「小猫ちゃん……今度、めいっぱい優しくしてあげよう―――全てはアザゼルが悪いんだ」

 

 ……俺はお風呂の件、忘れてねえからな!アザゼルッ!!

 っと俺たちは会場の端のほうに向かい、一度落ち着いた。

 

「さてと……俺はどうするかねぇ……」

 

 俺は会場を見渡す……と、そこで見知った姿を目にした。

 パープル色のドレスに身を包み、豪華絢爛な金髪をツインロールにした女の子……以前、ライザーとのレーティング・ゲームであいつの僧侶をしていた少女のレイヴェルの姿があった。

 何やら他の悪魔に囲まれて困っている……まあかわいいから仕方ないか。

 あの子も上級悪魔だからこんな社交の場に出てこないといけないってわけか……

 仕方ないな。

 俺はそう思ってレイヴェルの方に近づいて行った。

 

「―――失礼、お嬢様。少しお話しでもよろしいですか?」

「だ、だからそういうのはお断―――!!ひ、兵藤一誠様!?」

 

 うんざりした顔つきで俺にそう言おうとしたレイヴェルは、俺の顔を見て驚いたような表情をしていた。

 その声のおかげで俺はレイヴェルに声をかけてたチャラそうな男どもから何か視線を貰う羽目になる。

 

「久しぶり、レイヴェル。前のパーティーのとき以来か?」

「は、はい……その度はあ、兄のお恥ずかしいところをお見せしまして……」

 

 レイヴェルはちょっともじもじしながらそんなことを言ってくる……奥ゆかしい子だなぁ……やはりあのライザーとは違う。

 っていうかさっきから俺に嫉妬に近い視線を送るチャラ悪魔が面倒だな。

 

「ちょっと待てよ。レイヴェル様は俺たちと話をしていたんだぜ?ってお前誰だよ!!」

「俺ですか?―――若手悪魔、リアス・グレモリー様の『兵士』、赤龍帝の兵藤一誠ですが?」

『―――ッ!!?』

 

 俺が名乗りを上げると、そのチャラい少年共はひどく驚いた表情となった。

 赤龍帝の噂がかなり広まっているって聞いてたから言ってみたけど、予想以上に効いているな。

 

「それでよろしいでしょうか?俺はそこにいるレイヴェルと話したいだけで―――別にお前らは要らないんだが」

「ッ!くそ!いくぞ!!」

 

 すると男たちはどこか違う場所に行く……一応、眷属の女性陣には何かあったら俺を呼んでくれって言っているから大丈夫だと思うけど。

 

「あ、あの……ありがとうございましたわ……兵藤様」

「あ、イッセーでいいよ。レイヴェルも大変だよな。ああいう奴がすぐ寄って。まあ可愛いから仕方ないけど」

「か、可愛い!?」

 

 ……お世辞じゃないけど、レイヴェルは顔を真っ赤にして手を頬にあててしまう。

 

「おや、レイヴェル様をお救いしようと思って来てみれば……これはこれは赤龍帝」

「……えっと、イザベラさん、だっけ?」

 

 すると次に片目を仮面で隠したライザーの『戦車』のイザベラさんが現れた。

 

「久しぶりだ。貴殿の噂はかねがね……レイヴェル様から伺っているよ」

「そうなのか?まあレイヴェルは文通をかわす仲だから……でも意外だな。ライザーを引きこもりにした俺と普通に接するなんて」

「そんなに低い女に見るのは心外だ。それにあれぐらいが丁度いい。ライザー様もいずれは…………出てきて……………………くれる…………はずだ!」

 

 ……ライザー、お前…………

 

「うん、とりあえず頑張れ!」

「うぅ……その言葉、胸に染みるなぁ……ライザー様、いつになったらあの豪胆な態度をお見せに……」

 

 あの武人肌のイザベラさんがこうなるほどなのか!?

 全く……どうしようもない男だな!タンニーンのじいちゃんやティアの火炎でも喰らわしてやろうか!

 

「ふぅ……それはさておき、レイヴェル様とは仲が良いようで安心したよ」

「当たり前だろ?こんな良い子が友好的に接してくれるんだ。仲が良いに決まっている」

「はは!そう言っているぞ、レイヴェル様?」

「あ、当たり前ですわ!もう、イザベラ!!からかわないでください!」

 

 ……この子を見てるのは飽きないな。

 

「まあまあ、レイヴェル……で、調子はどうだ?色々と大変そうだけど」

「……お兄様は引き籠ってもう結構経ちますから……全く、イッセー様がお兄様ならどれだけ……」

 

 レイヴェルは何かをぶつぶつ呟く。

 やっぱりあいつの妹も苦労するんだろうなぁ……あの野郎、もう一回殴って目を覚まさしてやろうか。

 

「ま、ストレス溜まったら俺にぶつけてきてもいいからさ。結構レイヴェルからの手紙、楽しみにしているからな!」

「―――な、な、な…………そ、それなら……あ、そうですわ!!」

 

 すると顔を再び真っ赤にしたレイヴェルが何かを思いついたような顔になる。

 

「イッセー様、私はこれよりお父様とお話がありますので失礼します!ごきげんようですわ!」

 

 ……それだけ言うとレイヴェルは風のように去ってしまった。

 

「……君はあれだな―――レイヴェル様を落としにかかっているだろ?あんなことを笑顔で言われたら……」

「……いや、別にそういうわけじゃないんだけど……ほら、レイヴェルってすごい達筆な字を書くし、それに話も毎回楽しいから……」

「ふふ……まあうちのレイヴェル様をよろしく頼むよ。あんな風なところはあるが、素直で純真無垢だから」

 

 ……イザベラさんはそう言うと、そのままレイヴェルの方に向かって歩いていくのだった。

 

「……嵐のような人たちだな」

「あ、イッセー!ちょうどいいところにいたわ。今から挨拶周りに行くわ」

 

 ……そして俺は突然現れた部長についていく、他の上級悪魔の人たちに挨拶をかわすこととなった。

 

 ―・・・

「部長も大変だなぁ……」

 

 俺は挨拶周りから解放され、そして今は室内の窓付近の方でグラスを持ちながら外を見ていた。

 俺の周りにはギャスパーとゼノヴィアがいる。

 先ほど、ギャスパーが例のチャラい男たちに捕まってたから助け、そのあとゼノヴィアの方に行ったところを一蹴されて泣いて帰ったらしい。

 全く、貴族のかけらもない馬鹿だな。

 

「お疲れ……っというにも疲れていない顔をしているね」

「ただ挨拶をするだけだったし、普段通りにしていれば大丈夫だったよ。まあ中に面倒な人もいたけど」

 

 一例では部長をいやらしい目つきで見てくる悪魔だけど。

 

「あ、あの……ゼノヴィア先輩、ぼく……」

 

 するとギャスパーは足元をもじもじしながらゼノヴィアの手を軽く引いた。

 

「どうした?ギャスパー」

「そ、その……お、お花を、ですね…………その……」

 

 ……ああ、納得した。

 要はお手洗いに行きたいってわけか……ギャスパーは心の中まで乙女だからなぁ……

 両性だけど。

 するとゼノヴィアは理解したような顔をして……

 

「トイレに行きたいのか?ふ、そんなのはっきりと言えば良いものを」

「こんのおバカぁぁぁ!!お前には乙女の心がわからんのか!!!」

 

 俺は空気を読めないゼノヴィアの頭を、ホントどこから出したんだろう……なぜか手元にあったハリセンで全力で叩く!

 その瞬間、ゼノヴィアは頭を抑えて蹲る。

 

「うぅ……こ、これは愛の鞭なのか?……私はイッセーのためにそんなものに目覚めないといけないのか?」

「お前は女心を知れ!……ギャスパー、人の目が怖いんだろ?俺が連れて行ってやるから」

 

 俺はこれまた蹲るギャスパーの手を取って、そのままホールの外にあるトイレに向かった。

 入口付近でギャスパーを送り、そして俺はその辺をブラブラすることにした。

 内装はグレモリー家本邸とよく似てるな。

 俺が辺りを見てそう思っていると、会場の方から誰かが歩いてきた。

 身長は俺を遥かに超えるほど高く、貴族服のようなものではなく、俺のようにスーツを着ている。

 髪は短く、黄土色?

 金色がかすんだ色で鋭い眼光……でも俺はその姿に少し見覚えがあった。

 どこでだろう……そう思った時、その男は俺の前で立ち止まった。

 

「―――なるほど、見ただけで分かった。君が彼の言っていた赤き龍を身に宿す者」

 

 俺の顔を見て、そう言ってくる……俺のことを知っている?

 

「えっと……どこかでお会いしたことがありましたっけ?」

「いいや、会ったことはない。が、聞かされたことはある」

 

 すると男は俺に向けて手を差し伸べてくる…………そこで俺はようやく、この人の正体に気付いた。

 

「も、もしかして貴方が……」

「そうだ……私の名はサタン――――――ディザレイド・サタンだ」

 

 …………その人は、いずれ俺が会いたいと思っていた人だった。

 

「……少し話さないか?兵藤一誠殿」

「は、はい」

 

 ……俺はディザレイドさんに連れられてトイレから少し離れた休憩スペースに行く。

 そこには誰もいなく、そして俺はディザレイドさんと向かい合うように座る……何とも、緊張するな。

 サーゼクス様とはこんなに緊張することはなかったのに。

 

「ふっ。そんなに肩に力を入れる必要はない。腹を割って話そうじゃないか」

「そ、そうですね……って言いたいとこなんですけど、どうにも緊張して……」

「私は最上級悪魔の身分ではないんだ。そこまで気を遣う必要はないぞ?これでも人と話すのは好きだ―――大抵の者に怖がられるんだがな?」

 

 ……意外とコメディーな人だった。

 俺もこの人と話をしたいって思ってたからな……なんて言うか、この人の話を聞いてみたいっていうか。

 

「さて、何を話そうか……そうだな、先に労おう―――功績は数々聞いている。堕天使コカビエル急襲と白龍皇の件、ご苦労だな。それ以外にもたくさんの者を救ってきたとアザゼル殿に聞いた」

「いえ……そんな労うとかを目的にやったんじゃないので……皆を守るためにしたんです」

「……世界に、その台詞を純粋に吐けるものはあまりいない。それゆえ、私は君と話したかったんだ」

 

 するとディザレイドさんは軽くネクタイを緩める。

 

「ははは。私……俺はこういう畏まったのは余り得意じゃないんでな。昔から俺はこんな社交の場は苦手なんだ」

「そうなんですか……少し、話を聞いてもいいですか?」

「ああ、いいぞ。いくらでも聞いてくれ」

 

 ディザレイドさんは爽やかな笑顔でそう言うと、俺は遠慮なく聞くことにした。

 

「……どうして、最上級という位を捨ててまで誰かを救おうと思ったんですか?」

「…………救おう、か。兵藤一誠。君にとって、救うとはどういうことだと思う?」

 

 するとディザレイドさんは俺にそんなことを尋ねてきた。

 救う……それは困っている人を救うこともあるだろうし、自分から動くことだろうな。

 俺にとっての救うは……守ることだ。

 

「守ること、ですか?」

「……それもある。しかし俺とは少し違うな―――俺にとって、救うとは誰かを想うことだ」

「想う?」

「そうだ。君の答えは当然正解だ…………今の悪魔の世界は変革してきていはいるが、未だに腐った部分―――身分による差別が存在している。そして差別をする者には大方、”想い”というものはない。自分が良ければ何でもいい、そんな考えを持つ者ばかりだ」

 

 ……俺はそこで前回の会合の際の老害どもを思い出す。

 たぶんこの人が言っているのはあんな類のことだ。

 

「俺が身分を捨てた当時、最上級悪魔はそんな者ばかりだった。そして俺はその中の一員……そのことが俺にはどうしても耐え難かった。想いも無き者達と同列に扱われるのもそうだが……奴らが行う差別的な言動が許せなかった。故に俺は身分を捨てた。腐った者に傷つけられる人々、子供……それらを守ろうと思った。それが結果的に誰かを救うことになった―――君にならば、わかるところもあるだろう」

「ええ……痛いほどに分かりますよ。俺だってあなたと同じ立場だったら……」

 

 ……俺は思った。

 この人―――ディザレイドという悪魔は、自分の利益、不利益を考えて動いていない。

 ただ己の信念を信じ、貫き、曲がったことを嫌って……そして誰かを守り、救う。

 俺はそんな俺の想いに正直、感動した。

 

「サタンは憤怒の一族……俺以外のサタン家はな、非常に野蛮な者共の集まりだった。少しのことで頭にきて、誰かを傷つける―――そんな環境で育って、俺は誰かを傷つけられることに憤怒した。言わば俺のこの人格を作ったのは家というわけだ…………皮肉だがな?」

「……そんなことないですよ。ディザレイドさんは、きっとそんな人たちに囲まれてなくても……きっと誰かを救えた人です」

 

 苦笑いをしながらそんなことをいうディザレイドさんに俺はついそう言ってしまう。

 それを聞いたディザレイドさんは再び薄く笑った。

 

「今は俺は冥界に小さい地域を領土に引き取った子供と生活している―――一応、妻と共にな」

「……奥さんがいるんですか?」

「ああ―――っと言っても、ベルフェゴール家の当主だった女だがな」

 

 ……当主同士の結婚ですか。

 ってか三大名家との婚約か。

 

「シェル・ベルフェゴールと言ってな……今は俺とシェルの娘がベルフェゴール家の当主だ。俺は身分を捨てているが未だに当主だからな」

「……もう、権力は要らないんですか?」

「要らん。そんなものなくても幸せで生きれる―――まあたまにこんなパーティーに俺を呼ぶ、変わった魔王もいるのだがな」

 

 ……それ、サーゼクス様の事だよな。

 そう言えばサーゼクス様に呼ばれたもの……前、アザゼルやガブリエルさんとの会合のときもいたそうだし、サーゼクス様と仲が良いんだろうな。

 ディザレイドさんとサーゼクス様、この二人はなんていうか、波長が合うと思うし。

 

「長々と話してしまったな……いつかうちの娘と会ってみないか?あいつは男に一切興味を持たないのでな……お前とも年はそう変わらん。どうだ?」

「えっと……まあまた機会があればということで……」

「そうか……お前ならばあいつも気に入ると思ったのだが……うむ」

 

 そんなにディザレイドさんの娘さんは男っ気がないのかな?

 まあ俺には関係ないけどな。

 

「……そろそろ良い時間か。俺はそろそろ帰るつもりだ。今日、このパーティーに来た理由は達成できたからな……良い時間を過ごせた。礼を言うぞ、兵藤一誠」

「俺もです。ディザレイドさん」

 

 俺は席を立つディザレイドさんに頭を下げて礼を言う……この人と話が出来てよかった。

 俺はそのまま歩いていくディザレイドさんの後ろ姿を見続ける……と共に隣に誰かが来る気配がしてそっちを見ると……

 

「久しぶりだな、一誠」

「……サイラオーグさん」

 

 そこには貴族服を身に纏うサイラオーグさんの姿があった。

 

「あの方とお会いしたのか」

「ああ……良い悪魔だな、ディザレイドさんは……」

「当然だ……俺は悪魔の中であの方を最も尊敬している―――俺が目標としているのは、あのお方だ」

 

 ……俺はそれを聞いて少し驚く。

 サイラオーグさんの目標としている悪魔……それがディザレイドさんなのか。

 でもある意味納得した……俺もそうだけど、サイラオーグさんとディザレイドさんはなんとなく似てる。

 志なんかは特に、だ。

 ホント、なんとなくだけど。

 

「あの方は本来、魔王になるべき方だった。それほどの力を持つ―――冥界で最も近距離戦闘において、無類の強さを誇るそうだ……言ってしまえば肉弾戦に特化した方…………それがディザレイド・サタンという悪魔だ」

「ああ……オーラから察したけど、やっぱりそうか……あんたと似てるな、サイラオーグさん」

「だからこそ、俺はあの方のようになりたい―――それはそうとまた力が増したようだな、一誠。今回はお前とは戦えないが、いずれは……」

「そん時は、真正面からぶつかってやる……まどろっこしいのは嫌いだからな」

 

 俺はそう言うとサイラオーグさんと拳をぶつける。

 軽く、コツンとあてるだけ……それだけでこの人の力が分かった。

 ―――また、力が上がっている。

 

「ではな、一誠。俺は『女王』を待たせているのでな……」

「おう……じゃあまた」

 

 そう言ってサイラオーグさんは俺が先ほどいたトイレの方向に…………あ!!

 やっべ!ギャスパーのことをすっかり忘れてた!!

 俺はそのことを思い出し、すぐさまギャスパーのところに向かおうとした!

 

 

 ――――――――――チリン………………

 …………その時、俺の耳に鈴が鳴るような音が聞こえた。

 俺はその音に足を止める……と共にある気配を感じた。

 

「……この気配…………俺は、知っている?」

 

 俺はあたりを見渡す……けどどこにも誰もいない。

 だけど気配はしっかりと感じた……あの気配は―――まるで、探してほしいと言っているように存在を相手に誇示する、猫のような………………ッ!

 

「まさか…………」

 

 俺はあることを思い出し、すぐさま歩む方向を変える。

 方向を―――この建物の出口へと。

 

 ―・・・

 俺は少し走りながらビルを出た。

 周りは森で囲まれているけど、俺はその森を全力で駆け走る。

 ……近くで、俺は一つの気配を感じた。

 修行して、ようやく身につけた気配の察知。

 夜刀さんは危機的状況下で無意識に仙術に限りなく性質が近いなものが発動したとは言ってたけど、そんなことはどうだっていい。

 ただ俺が感じた気配は―――懐かしいものだった。

 つい最近、感じたものだった。

 俺は森を無我夢中で走り抜く。

 走って、走って…………そして森にある一つの小さな空間にたどり着いた。

 ―――そこには、誰かいた。

 黒い着物、動物の耳のようなもの、尻尾……長い黒髪を簪でまとめ、空を高層ビルを見上げている少女を。

 

「―――にゃはは……どうしてこんなところに来れたのかにぁ?バレないようにしてたはずにゃのに……」

 

 俺がその空間に入ったことを確認したのか、その少女は俺の方を見ずにそう呟いた。

 そして俺の方に振り向く。

 …………その顔は、少し憂いに包まれていた。

 

「さぁ、どうしてだろうな。これは久しぶりと言えばいいのか?それとも初めましてって言えば良いのか?」

「……久しぶり、が正しいと思うにゃ」

「そうか。じゃあ……」

 

 俺は一歩前に出て、そしてその少女と真正面から目を合わせ、そして……

 

 

「久しぶり―――――――――黒歌」


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