ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第2話 夢の中 ~愛し合った赤と白~

 夢を見ていた。

 ……俺は確か、母さんに抱かれて温かさに包まれながら眠っていたはずだ。

 それを認識した瞬間、俺の頭の中には一人の女の子の笑顔が広がる。

 ―――忘れることなんか、出来ない。

 そう、これはあいつとの……大切な存在で、大好きなあいつとの記憶だ。

 ……ミリーシェ・アルウェルトとの、忘れることの出来ない大切な……記憶だった。

 

―・・・

 

「オルフェルはミーのこと、好き?」

 

 ミリーシェ・アルウェルト。……この子は俺の生まれながらの幼馴染であり、色々なことがあって恋人になって、そして……絶対に守りたかった女の子だ。

 薄い金色の綺麗な髪と、ふわっとした髪質が特徴で、一見するとどこか幻想的な絵本の中に出てくるようなお姫様みたいな容姿。

 そしてこの風景は確か……そうだな、本当に子供の頃のことだ。

 二人で丘を登って、すごく広大な草原を手を繋いで歩いた。

 特別性は一切ない、ホントに日常的な事だろう。

 だけどとても大切な、記憶だ。

 

「好きってなに?」

「えっとね……。お母さんが言ってたけど、好きは好きらしいよ?」

 

 小さな俺はミリーシェの言葉を理解できずにそう聞き返して、ミリーシェは若干自信がないのか首を傾げてそう返す。

 

「よく分からないよ」

「だからえっと……もう!」

 

 あはは、そうだったな。……ミリーシェはよくわからないからってあの時、6歳の年齢で俺にキスしたんだよな。

 実はファーストキスだったりしたっけ? 今更だけど……

 

「……ミー?」

「チューしてもいいって思えるのが、好きってことだよ?」

「なら僕も……」

 

 俺はそのままやり返しのようにミリーシェにキスしたっけ? あの時のミリーシェは顔を真っ赤にして、それからキスの勝負みたいなことをした記憶がある。

 互いに長い時間、キスをし合うっていう馬鹿げた遊びを。

 今から考えてみれば恥ずかしいし、今では絶対出来ないようなことだけど……でも今でも思い出せる確かな記憶で、そして大切な思い出だ。

 

「ミーはさ……僕以外にキスしたい人はいるの?」

「んっとね・・・お母さん!」

「そうじゃなくて……家族以外で!」

「……むぅ〜! そんなのいるわけないよ~!」

 

 ミリーシェは頬を膨らませてたっけ?

 今思えば、あれはミリーシェを軽い女のように言ったっけか?ホント、女の子って男より成長が早いよな。

 

「ミーがチューしたいって思うのはオルフェルだけだよ~・……。他の人なんか、絶対嫌だもん……」

 

 そう言うと、ミリーシェは泣きだした。

 本当に悲しそうに……。

 すると夢の中の子供の俺はミリーシェを上から覆いかぶさって、そしてびっくりした顔をしているあいつを放って、そのままキスをした。

 

「……僕だって、ミー以外にはこんなことしないもんっ!」

「オルフェル……」

 

 本当、この時の俺の積極性はすごいな。いくらミリーシェが泣きそうになっているからって、こんなの今ではもう出来ない。

 ……きっと子供ながらにミミリーシェのこんな表情を見たくなかったんだ。

 本当に好きだったから。

 

「だったらミー達は恋人さんだね?」

「恋人?」

「うん! 恋人はね、好き好き同士の人がカップルになって、キスして、それで夫婦になるんだって!」

「夫婦?」

「そ! お父さんとお母さんになるの!」

「でも……僕にはお父さんもお母さんもいないから、分からないや」

 

 そう、俺にはこの頃には既に父さんも母さんもいなかった。

 俺が生まれて少し経って、二人揃って交通事故で死んだということを、俺の両親と友達だったミリーシェの両親から教えて貰った。

 覚えてはないけど、俺の誕生日にプレゼントを買いに行っていたらしい。

 俺はその時はミリーシェのところに預けられて、ミリーシェと遊んでいたらしい。

 

「……だったらミーがオルフェルの家族になる!」

「家族? どうやったらなれるの?」

「結婚! 結婚したら私たちは家族になってね! そしたら子供が出来てね! お父さんとお母さんになって! 皆、幸せ!!」

 

 ミリーシェは手を万歳にしてそう笑顔で俺に言ったっけ……でもそれで俺は確かに救われたよ。

 

―・・・

 

 景色はまた変わる。

 風景と体格から鑑みるに、14歳くらいか?

 当然、学校に通ってる。ミリーシェも一緒で、何故か小学生のころからクラスも、席の位置も変わらなかったっけ?

 この時は確か……そうか、ミリーシェと学校の屋上でたまたま会った時か。

 

「あれ? オルフェルはココでなにしてるの?」

 

 俺は屋上で風に当たりながら夕日が落ちる様をこの時、見ていた。

 夕暮に夕陽に照らされる街を一望できるこの屋上。

 この風景が好きで、俺はいつも天気のいい放課後は屋上で寝て、そして夕方になったらこの夕日を見るのが日課だった。

 

「わぁ! 綺麗!!」

 

 ミリーシェは目をキラキラと光らせて屋上の柵を掴んでそう叫ぶ。

 

「綺麗だろ? ここ、俺のお気に入りなんだよ」

「もう、オルフェルって意地悪だよね! こんな綺麗な場所、知ってるなら何で教えてくれなかったの?」

「ここは俺だけの場所! っていう我が儘かな? ……まぁ、ミリーシェだったら別に良いんだけどさ」

 

 俺は最後の方をごまかすように小さく呟いたけど、それはミリーシェには聞こえていた。

 

「ッ! ……ふふ、もう。嬉しいこと言ってくれるよね♪」

 

 ミリーシェは少しはにかみながら、腕にくっ付いてきた。

 夕日の色のせいで、この時のミリーシェの頬の色は俺には分からなかった。

 それは向こうからしたら俺も同じ。

 たぶん、俺の顔は真っ赤に茹で上がったタコみたいに赤面していただろうな。

 

「オルフェルってクラスの他の女の子にもそんなこと言ってるの?」

「……言ってないよ」

「うっそだぁ! 言わなきゃオルフェルが女の子に好かれるはずないのに、……っ!!」

 

 するとミリーシェは突然、口元を押さえる。

 この時の俺は何も分からなかったけど、後から聞いた話はこうだ。

 単純に、俺のことが好きな女子がいて、ミリーシェがそれを少し嫉妬していた、というところだ。

 

「……オルフェルは、もしもだよ? もしも……女の子に告白されたらどうするのかな?」

「……絶対に付き合わない。好きでもない人とは一緒になれないよ」

「だ、だったら! もしオルフェルがすごく気になっている人が告白してきたら!? 付き合っちゃうの!?」

 

 ミリーシェはすごく焦ったような表情で、必死に俺の服を掴んでそう追求してくる。

 鬼気迫ると言っても良いほどの剣幕。当然、当時の俺はそんなミリーシェの気持ちは露知らずであった。

 

「……なぁ、ミリーシェは何を焦ってるかは知らないけどさ? ……俺が気になる人なんて一人しかいないよ」

 

 俺はミリーシェの言葉の真意も彼女の想いもいざ知らず、そんなことを言っていたよな。

 今思えば女心の一つも知らない馬鹿だった。

 

「……そっか、いるんだ~。……気になる人。あはは、あたし、馬鹿みたい……ッ」

 

 ひどく落ち込んでいたっけ、この時のミリーシェ。

 たぶん、すごい勘違いをしてたんだと思う。

 力なくミリーシェは俺の服を掴む力を弱めると、ミリーシェはそのまま後ろへと体を後ずさりをする。

 つまりは……低い柵の方へ体を吸い込まれるように後ずさったんだ。。

 

「っ!!」

 

 ミリーシェは案の定、足を滑らせて柵から落ちそうになる。

 ミリーシェは何の抵抗もなく、柵を越えてそこから地面へ落下しそうになるところを、この時の俺はあいつの腕を掴んで止めた。

 既にミリーシェの体は柵を越えて、俺はその体を腕だけで支えていた。

 

「なに、してるんだよッ!!」

「あれ? 何で私……でもいいや。オルフェルには好きな人がいるんだもんね。……だったら私はもう……」

「何言ってんだよ!? 今の自分の、状況が! 分かってるのか!?」

「分かってるよ? ……危ないから早くその手を離して、オルフェル―――オルフェルまで落ちちゃうよ?」

 

 ミリーシェは諦めているのか、体をぷらんとさせるから、余計に体重がかかって腕に負担がかかる。

 自分一人の力では無理だった。

 

「俺が離したら、ミリーシェが落ちるだろ!」

「別にいいでしょ……? オルフェルが隣にいない人生なんか、あたしにとって意味ないもん」

「うるさい! お前が死んだら……」

 

 俺はこの時、初めて本気で怒っていた。

 自分の命を捨てようとするミリーシェと、彼女をこんな風にしてしまった自分自身を。

 涙を流して無理やり笑顔を見せてくるミリーシェの、こんな表情を見て、俺は双方に怒っていたんだ。

 そしてその時、初めて自分の幼馴染のミリーシェの弱さを知った。

 ミリーシェは一人で何でも出来て、他人から好かれていて、何でも出来る強さばかりを持っていた。

 俺もこいつのことを強いとばっか思ってた。

 そんな自分に一番……俺は本気で怒っていた。

 

「お前を守ることが出来ないじゃないか! 俺とミリーシェは本当に家族になるんだろ!? 小さい頃に約束しただろ!? だったら何でお前は諦めてんだよ! 何に諦めてるんだよ!!」

 

 ここで更にずしっと腕に負担がかかった。

 

「お前が死んだら、誰が平気って言ったんだよ!お前がいない人生なんて俺にとっても意味がないんだ!」

 

 俺はこの時、心の底から思った。

 ……こいつを守れる、力が欲しい。

 こいつの脆さを、儚さを……ミリーシェの弱さも強さも全てを支える、覆うような力が欲しいと―――守るための力が欲しいと。

 

「俺の中には初めから、お前がいない時間なんて存在すらしてないんだよ! ミリーシェが死んだら俺の気持ちはどうなる! 俺の中のミリーシェを想う気持ちはどうなるんだよ!!」

「なに、言ってるの? だってオルフェルは……」

「だってじゃない! 俺は…………、俺は!!」

 

 俺は喉が潰れるくらい、学校中に響き渡るような大きな声で、叫んだ。

 

「ミリーシェのことが呆れるくらい!! ―――どうしようもなく好きなんだよ!!!」

 

 その時だったな……あいつとの出会いは。

 

『Boost!!!』

 

 ……その時、突然聞こえた機械的な音が響いた瞬間、俺の手の甲には緑色の輝きが生まれ、その音とともに俺の中に流れる力は大きく感じた。

 腕の負担が突然消えて、そして俺は余りある力でミリーシェを持ち上げ、そのまま抱き寄せて地面に倒れる。

 

「……心配させないでくれよ。ミリーシェは俺の……大切な人、なんだからさ」

 

 ……恥ずかしいな、本当に。

 俺はずっと、小さいころにミリーシェとの約束をずっと覚えていたんだ。

 だからずっと、あいつのことを自分の女と思っていた。

 そしてそれはミリーシェも同じだった。

 ただの勘違いだったんだ……俺の気になる人を、ミリーシェは他の他人と思っていたんだろうな。

 そして俺はミリーシェを抱きしめた。

 

「好きだ、ミリーシェ……。俺の、恋人になってくれ……ッ!」

「……うん!」

 

 ミリーシェは力なく、だけどしっかりとした笑顔で俺に体重を預けながらそう呟く。

 そして程なくして俺は気付いた。

 

『ほう……今代の俺の相棒は随分と恋溢れるようだな』

 

 声が聞こえた。

 普通の人には出せないような、圧倒的な威圧感を放つ畏怖を抱くような声であり、威風堂々とした声音。

 そしてこの時、俺は初めて自分の左手を見た。

 そこにはそれから、俺が運命を共にする相棒……

 手の甲には緑の宝玉がはめ込まれ、そこから赤い機械の龍の手のような篭手が左腕に装着していたのだった。

 つまり……

 

『俺の名は赤龍帝・ドライグ。これからお前と共に戦う、二天龍の名だ』

 

 ドライグとの出会いだった。

 

―・・・

 景色が随分変わるな。

 追憶ってやつか?

 っとこの風景は……ああ、真実を知って、そしてもう修行だったか。

 これは確か17歳のころだな。

 

「ドライグ! これって本当に強くなるのか!?」

『当たり前だ。……今までの赤龍帝の何人かはココで修行したものだ』

 

 その時、俺が来ていたのは冥界……つまり悪魔が住まう世界の一歩手前にある化け物クラスのモンスターが出現する地域だった。

 本来、人間が立ち寄る場所ではない。

 そんな場所に俺が来ていた理由は単純明快に修行のためだ。

 

『Boost!!!』

「よし! これで15回目の強化! くらえ!!」

『Explosion!!!』

 

 俺はその音声と共に溜めた倍増の力を解放し、極大の魔力弾を目の前の三つ首の化け物にくらわせた。

 ……ドライグから聞いた話では、俺は歴代赤龍帝の中では最弱に部類するほど弱いらしい。

 赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)での強化なしでは満足に魔力弾すら撃てないほどの魔力のなさ、神器と出会った既に2年経っているにも関わらず、満足に神器の奥の手であり切り札……

 禁手(バランス・ブレイカー)に至っていないほどに。

 

『仕方ないさ、個人差が出る。……それに相棒の冷静力と頭の良さは歴代赤龍帝の中でもトップクラスだぞ?』

「結果が出なければ同じだよ。……俺は弱い。だから努力するしかない。じゃないとあいつには一生、追いつくことすらできない」

『……訂正しよう。相棒、お前は歴代の中で最もの努力家であり、執念深い男だ。ならば行こうか、相棒!!』

「ああ!!」

 

 ……その時だった。

 ―――その時、俺の胸の中で何かがドクンと波打った。

 その瞬間に異様な高揚感が身体中を駆け巡り、何故か力が異様に湧いた。

 

『……まさか―――ははは! 驚いたぞ、相棒! お前は最高だ!! さあ、努力が報われる時だ、相棒ッ!!』

 

 俺はドライグが何を言っているのか、分からなかったが、次の瞬間に理解した。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 次の瞬間、俺の身に全身が真っ赤な鎧の赤龍帝の篭手の禁手……

 赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を纏っていた。

 途端に俺の体から力が湧く。

 これが……バランス・ブレイカーか? ……と、この時は思った。

 

『聞いて驚け、相棒。……今の相棒の体はこの鎧を1カ月毎日、装着していても解けないほど、強固なものになっている!』

「それはすごいことなのか?」

『ああ。これが努力の結果というものか―――なまじ才能がないことは悪いとは言えないな……』

 

 すると周りの木々から俺の体を堂々と越す大きさの化け物どもが襲いかかってくる。

 

『さあ、相棒。お前を歴代最弱と嘲笑った者共に見せてやろうか―――歴代最高の赤龍帝の力を!』

「ああ、行くぞ!!」

『BoostBoostBoostBooutBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』

 

 ッ!?

 なんて強化の数だ、と俺は思ったよ。

 10秒ごとに倍増の力が、一気にあり得ないほど短縮したんだから。

 そして俺の体からは途端に力が溢れてくる。

 

「くらえ! 拡散の龍砲(スプレッド・ドラゴンキャノン)!!」

 

 能力付加。

 魔力の才能のない俺が唯一得意だった、魔力弾にプロセスを叩きこんで独特の能力を身につけさせる技。

 俺は掌から出した極大の魔力弾を幾重にも生み出し、魔弾が拡散する要領で、極太の魔砲を放った。

 全ての弾丸は化け物へと当たり、それまで一匹を倒すのに苦労した化け物を、何十匹も同時に屠ったのだ。

 

『そうだ。それが相棒の力だ。……そして至ったことに俺は嬉しく思うぞ、相棒』

「……サンキューな、ドライグ」

 

 ああ、これは俺が初めて禁手化(バランス・ブレイク)した時の記憶か。

 確か、2年もの月日を費やし鍛え上げたおかげで、常人では耐えることのできない禁手に耐えることのできる体が出来上がったって言ってたっけ?

 ドライグは俺の努力を一番、評価したみたいだけどな。

 そして、また景色が変わる。

 

―・・・

 

「ねぇ、オルフェル」

「ん? なんだよ」

「あたしたち……ずっと、一緒にいれるよね?」

「当たり前だろ? 俺とミリーシェは結婚して、子供を作って、家族になって―――ずっと一緒にいるんだよ」

「……そっか。うん、そうだよね?」

「ああ、そうだ―――だから、全てを終わらせよう。赤と白の宿命を」

 

 …………ああ、これは思い出したくなかったな。

 でも俺の心に深く刻み込まれている。

 そうだ……これは、俺の愛するミリーシェとの、避けられない戦い。

 これで全てを終わりにして、幸せを掴み取るって二人で決めたこと。

 結末はもう思い出したくもない。

 ―――これは白龍皇ミリーシェ・アルウェルトとの最初で最後の戦いだ。

 この後、俺たちは―――




今回の話の続きを先に知りたい方は、第三章番外編に掲載している番外編3「追憶のオルフェル」をお読みください。

ちょうどこのミリーシェとの戦いについての詳しい内容が描かれています。

―追記―
2014 5/4 誤字修正&描写を少しだけ追加しました!


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