ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
第1話 神器マニアと空元気なイッセー
俺、兵藤一誠は悪魔だ。
悪魔がすることと言えば、眷属悪魔として主様に忠誠を誓うことだ……それに加えて悪魔家業をこなすこと。
その悪魔家業なんだけど、俺の契約する人間には特徴がある。
それは大体が俺を月に何度も呼ぶという、リコールが多いということなんだ。
例えば天才画家の桐谷圭吾さんとか、発明家の博士とか、魔法少女を目指す「漢の娘」のミルたんとか……
まだまだ俺のお得意さんは多いけど、とにかくその類の人たちは俺を召喚すると必ず契約を結んでくれる。
それはともかく今、俺は大きな豪華なマンションの一室の前にいる。
ここの住人は最近、俺を良く召喚しては毎回契約を結んでくれる人だ。
とてもダンディーでカッコいいイケメンさんで、良い人だ。
とにかく、俺は部屋のインターホンを押すとすぐに扉は開けられた。
「やあ、悪魔君。よく来てくれたな」
「……毎回思うんですけど、俺は別に魔法陣から出れるんですよ? わざわざインターホンを押して来る必要はないと思うんですけど……」
「まあそうつれないことをいうな。さあ、入ってくれ」
俺は催促されて部屋の中に入る。
部屋はすごい豪華な内装をしていて、ソファーも最高級、しかも俺と遊んでハマったのか色々なゲームを取りそろえている。
この人が俺を呼ぶ時は大抵はゲームの対戦相手になる、晩酌のお供をする、話し相手になる……ってぐらいのことだ。
しかもそれだけで対価に見合わないものまでくれる始末だ。
ちょっと申し訳ない気持ちはあるものの、まあくれるものはもらおうって思っていたりもするんだ。
「それで今日は何をすればいいですか?」
「そうだな……新しくゲームを買ったから対戦しないか?」
するとその人はゲームケースが詰まれている山を俺にさし出してくる。
「こりゃまた大人買いしましたね」
「俺は一度熱中してしまったら全部集めたくなる性格でねぇ……俺の同僚はお前のコレクター趣味は異常だって良く言ってくるよ」
「へぇ……」
……すると、その男性は立ち上がる。
「ゆっくりしていきな。夜は長いんだからな―――なぁ? 赤龍帝」
「それもそうだな―――堕天使さん」
俺はそう言うと、少し笑って……12枚の黒い翼を展開している堕天使を特に警戒することなく見た。
「俺はアザゼル。堕天使の総督をしている。宜しく頼むぜ? 赤龍帝、兵藤一誠」
「そうだな……よろしく。堕天使の総督、アザセル」
…………それから30分後。
「あはははは!! いいぜ、赤龍帝! まさか俺と神器について語れる奴がいるなんてな!」
「いやいや、お前も相当に神器が好きなんだな! 俺も神器で語れたのは初めてだよ、アザゼル!」
―――俺達は、凄まじい勢いで打ち解けていた。
内容はそう、神器についてだ。
その前に言っておくと、俺はこいつが堕天使ということは最初から分かっていたんだけど、敵意は無いから放っておいたんだ。
話はそれたけど、俺達は神器のことで盛り上がっている。
そして俺はすげぇ感動してる……アザゼルは俺と同じくらい神器のことに関しては詳しくて、今まで俺が誰とも話せなかったことを話せるってのが最高に楽しい!
フェルの神器、
神器を創造する神器だからな……それで調べているうちに、俺は神器にすごく関心を持つようになったってわけだ。
「全く、近頃の若者はよ、自分の神器について何も知ろうともしやがらねえ! 宝の持ち腐れってのが一番ムカつくよな!」
「おぉ、分かってくれるか、アザゼル! 俺の周りにも何人か神器持ちがいるんだけどさ、使い方を見てるだけでむしゃくしゃするんだよ!」
……ちなみにアザゼルは酒が入っているから普段よりテンションが高い。
「それよりもお前、神器を複数持ってんだろ!? 見せてくれよ!」
「おお! 他ならぬアザゼルのためなら……フェル!」
『……主様』
フェルが呆れた声で俺の名を呼ぶけど、渋々といった風に俺の胸に神器が発現する。
俺はフォースギアで一段階創造力を溜めて、そして神器をアザゼルの前で創ってやった。
するとアザゼルは子供のようにきらきらとした目で俺の創った神器を見ていた。
「す、すげえ! お前すげえよ! 神器を創造する!? やばすぎんだろ! やべえ、興奮してきた! 他に何か創れるのか!?」
「ああ! ブーステッド・ギアなら複製出来るぜ?」
「おぉぉぉぉ!! なんて奴だ! よし、決めた―――お前は同士だ!」
「ああ、我が友よ!!」
……俺はアザゼルと手を握って友情を確かめる。
―――それは昨日の晩のことだった。
「冗談じゃないわ!!」
そして現在、俺は部室にて昨晩のことを部長に説明していた。
その説明を聞いて、部長はすごい怒りの表情を露わにしていた。
……部長が一番怒っているのは、簡易召喚陣が描かれているチラシの裏に書かれている感想だった。
『よぉ、リアス・グレモリー! 俺は堕天使の総督、アザゼルだ。お前の悪魔は最高だな! 俺は兵藤一誠、我が同士に感動しているぞ! なあ、ものは相談なんだかが、そいつを俺にくれないか? そいつと一緒なら俺は神器研究を更に進化できると思うんだ! な、いいだろ?』
……という具合で部長の怒り心頭だ。
「まぁまぁ、部長……別に俺は何もされてませんし……あ、ごめんなさい」
俺はポケットの中の携帯電話がなっているのに気付いて、急いで電話に出る。
相手は……
「おぉ、アザゼル。どうした?」
アザゼルだった。
そして部長の怒りは更に頂点に達し、部長は俺から電話を奪い取り、電話口に向かって大声で叫んだ!
「イッセーは私のよ!! 手を出さないでもらえるかしら!!!」
……そして、電話を完全に切って、すっきりとした顔をして俺に笑顔で携帯電話を返してきた。
「さ、イッセー。色々と聞きたいことがあるから、そこに正座しなさい」
「……はい」
……俺は部長のあまりもの怖さに素直に頷くのだった。
俺はそれから10分ほど説教され、ずっと正座をしながら反省をする。
確かに堕天使と分かりながら接触し続けて、挙句の果てには仲良くなってしまいましたじゃあ怒れられて当たり前だな。
俺は軽薄すぎたんだ。
『だから言ったんだぞ、相棒……自重しろと』
……そう言えばドライグはアザゼルと初めて会った時、最初に俺に警告してたっけ?
―――それはともかく、コカビエルとの一件から既に数日が経過した。
事件の翌日に部長は部員を全員集めて、これから起こることを説明してくれた。
それは一度、三大勢力のトップが集まり、三すくみの現状について話し合うという会談が行われるということ。
そして俺達グレモリー眷属は直接この件に関わっているということなので、事件に関しての詳細な説明をしないといけないらしい。
「全く……アザゼルは何を考えているのかしら。もうすぐ三すくみの会談があると言うのに。アザゼルは神器に異様に興味を抱いていて、神器所有者を集めていると聞くわ。イッセーも気をつけなさい」
「……はい」
ここで反論したら説教は更に続きそうだから素直に頷く。
ま、アザゼルに関しては本当に神器馬鹿だからそんなに警戒を怠ることはないと思うけど……少なくともあのコカビエルとは違うわけで。
それよりも今、俺はかなり眠い。
そりゃそうだ……アザゼルと夜が明けるまで神器の話で盛り上がってたんだからな。
おかげでかなり寝不足だよ。
「大丈夫ですよ、部長。イッセー君は『騎士』である僕が絶対に守ってみせますから」
……おい、祐斗。
お前、聖剣の一件以来、俺への態度が可笑しいだろ。
俺は部長に良い笑顔でそう言う祐斗にそう思った。
聖剣の事件からもう数日は明けているけど、一番変わったと言えば祐斗の俺に対する絡み方……それはもう想像を絶するほど酷いものだっだ。
朝、偶然会うとそこから日常会話をするんだけど、こいつは徐々に会話している距離を短くする。
更に頻繁に飯に誘うようになってきて、更に言えば帰りに遊んで帰ろうなんていう始末だ。
それだけならまだしも、顔は近いわ距離は近いわ……
そのせいで最近、俺と祐斗が一緒に歩いていると一部の女子が……
『きゃぁぁぁぁ!!! ゴールイン!!』
『鉄板なのよぉぉぉ!! 木場キュン×兵藤キュン!!』
『嫌いじゃないわ、嫌いじゃないわ!!』
……なんて言ってきやがる!
そもそもスタートすら切ってねえよ!!
鉄板も糞もねぇし、そもそも嫌いだわ!!!
「お、おい……少し気持ち悪いぞ、祐斗……」
「いやいや、君は僕を救ってくれたことだけじゃなく、僕の同士まで救ってくれた……君は僕にとってはもう掛け替えのない存在なんだ」
…… や め ろ !!
お前が話し始めてから部室の視線が全てお前へと行っていることを理解してんのか!?
小猫ちゃんなんか良い例だ!
今すぐにでもお前を狩ろうとしている野生の動物の目つきだぞ!
「僕は禁手化に至り、君に一歩近づいた……イッセー君の赤龍帝の力と、僕の聖魔剣―――もう何でもできるなんて気がするよ。そう考えると僕の胸は熱くなってね……」
――――――よし、窓から飛び降りよう!
『相棒!? なんてことだ! 相棒の心が、平穏な精神が欠落してしまった!! 医者だ! 誰か、医者を呼べ!! メディスィィィィィンン!!!』
『ドライグ、今すぐ私が自立歩行型になってドラゴンファミリーを呼んできます!!』
『こうなればオーフィスすらも呼ぼう! 相棒に癒しの全てを!!』
……いや、冗談だよ!? それぐらいの衝撃はあったってだけで、そもそも俺は窓から落ちたくらいじゃ死なないからさ。
「でもどうしたものかしら……堕天使の総督がイッセーに接触して、あまつさえイッセーを欲するなんて……しかも相手が相手だから手は出せないし」
あからさまに祐斗に触れない部長。
俺の精神が危うく崩壊しかけている最中、部長はそう頭を悩ませていた。
ちなみに他の部員は全員部室にいて、アーシアとゼノヴィアは自分たちの祈りを語り合っていて、小猫ちゃんは珍しく洋菓子を食べていて、朱乃さんは何故か編み物をしている。
朱乃さんの手際は良く、編んでいるのはマフラーかな? とてつもない長さだ。
―――ゼノヴィアはアーシアに謝罪をして、今では二人はとても仲が良くなったよ。
……どういう訳か、部室の中が趣味やらなんやらで埋め尽くされてるぜ!
「アザゼルは昔からそう言う男だよ、リアス」
……すると俺は一度聞いたことがあるような声が聞こえた。
俺達はその声が聞こえたほうを見ると、そこには今までいなかったはずの長い紅の髪をしたすごいカッコいい男性がいた。
―――魔王サーゼクス・ルシファー様。
まさかの魔王様のご登場だ!
「お、お兄様!?」
部長はその顔をみて目を見開いて驚いて、祐斗、朱乃さん、小猫ちゃんはその場に跪く。
アーシアは何が起きているのか理解できておらず、新米のゼノヴィアはきょとんとしている始末だ。
俺は他の三人の後に続いて跪こうとした時……
「いやいや、頭を上げたまえ。私は今日はプライベートで来ているのだよ。そんな畏まる必要はない。くつろいでくれて構わないさ」
……するとサーゼクス様は気さくにそう言ってくれた。
それで三人は頭をあげるけど、未だアーシアとゼノヴィアは何が起きているのか理解していないっぽいな。
俺はそう思って二人に近づいた。
「あの方は魔王様だ。アーシアは一度見ただろう?」
「は、はい……ただあまりにも突然のことで……」
アーシアはそう言うと、サーゼクス様に頭をペコペコ下げる!
なんか可愛くて、和む!
流石はアーシア、動作一つで俺を癒してくれる!!
「……なるほど、イッセーはアーシアみたいな子がいいと」
ゼノヴィアが何か唸っているけど、今の問題はサーゼクス様の突然の登場だ。
しかも良く見ると、サーゼクス様の後ろにはあの方の『女王』のグレイフィアさんがいた。
「やあ、我が妹よ。そしてまた会えたね? 赤龍帝、兵藤一誠くんにリアスの眷属達……会うのはライザ―君の一件以来かな?」
サーゼクス様は柔らかい笑顔でそう言うと、俺達の緊張が少し緩む。
「それにしても殺風景な空間だ。リアス、君はまだ若いんだからもっと可愛らしいものでもおいたらどうだ?流石にこの空間に魔法陣とはいささか……」
「……それよりもどうしてここに?」
するとサーゼクス様は一枚のプリントを出してきた……あれはまさか
「何を言っているんだ? もうすぐ授業参観だろう。これは兄として来なければならない理由だよ」
「そ、それを見せたのはグレイフィアね!? どうして黙っていたのに!!」
部長はサーゼクスさまの後に位置しているグレイフィアさんにそう言うと、グレイフィアさんはさも当然のように頷いた。
「サーゼクス様がこの学園の理事をしています故、私にも当然学園の情報は入ってきます。そして私はサーゼクス様の『女王』ですから、聞き耳を立てるのは当然かと」
「そうだ、リアス。たとえ魔王の仕事が激務であろうと、我が妹の頑張る姿は私的にも見たいものでね? 仕事を速攻で済ましてきたよ」
……ああ、この人はすごいシスコンだ。
もう見てたら分かるよ……そりゃあ妹の婚約をわざわざ俺に破らせようとするわけだ。
「ちなみに後から父上も来るらしいよ?」
「なっ!?」
ああ、部長が赤くなって驚いてるよ……こんな恥ずかしがっている部長を見るのは初めてだな。
思春期だから、親にあんまりそういうのに来てほしくないってやつかな?
俺は激しく部長に同意した。
かく言う俺も母さんに授業参観を黙っているからな!
「し、しかしお兄様は魔王ですよ!? 一悪魔を特別視するのは……」
「いや、これも仕事のうちなんだ。何故なら、三すくみの会談はこの駒王学園で取り行われるからね」
―――流石にその事実には驚きだ。
なるほど…・・・だからわざわざ魔王であるサーゼクス様がここにいるのか。
「それはこの学園でコカビエルが好き勝手しようとしたからですか?」
俺は先陣切ってサーゼクス様にそう尋ねる。
「ああ、その通りだ。何しろここには今代赤龍帝である君に、聖魔剣へと至ったらしい木場祐斗君、聖剣デュランダル使いに魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹がいる。更にそこにコカビエル、そして……白龍皇が襲撃してきたからね」
……白龍皇。
ここでまたその単語が聞かされるか。
「……だが私は思う。ここまで様々な力が入り混じって強者が来たのは、君が理由と思っているよ―――赤龍帝・兵藤一誠君」
……確かにそうかもな。
赤龍帝は、特にドラゴンは強者を引き寄せる性質を持っている。
今回のコカビエルが良い例だな。
その時、俺の近くにいたゼノヴィアが静かに立ち上がってサーゼクス様の方に向かって歩んだ。
「あなたが魔王か。私は聖剣デュランダルの所有者、ゼノヴィアというものだ」
「君のことは既に聞いているよ……よもや伝説の聖剣であるデュランダルの担い手がリアスの眷族になるとは、聞いた時は耳を疑ったよ」
「……先に言っておこう。私が悪魔になったのは、私を救ってくれたものがそこにいる赤龍帝・兵藤一誠がいたからだ。破れかぶれとはいえ、今までの敵側についたんだ……私は何より、イッセーや仲間のために力を振ろうと思う」
……ゼノヴィアはこういうけど、やっぱり少し支えなければいけない部分がある。
神の不在を知って悪魔になったとはいえ、ゼノヴィアは自分の精神は弱いと言っていたしな……イリナも言っていたし。
「ハハハ。リアスの眷属は面白いな。ならばそれでいい……リアスのために、君の思うがままに力を振るってくれ」
「無論そのつもりだ」
……サーゼクス様は部長に似ている微笑みをみせてそう言った。
「さて、小難しいのはこれで終わりにして世間話でもしようじゃないか。とはいえ、今はもう時間が遅くなりつつあるね。今から宿泊施設は空いているだろうか?」
確かに時間的にはもう9時を回ろうとしているからな。
探せばあるとは思うけど、時間がどうにも……と、そこで俺は一つ、思いついた。
「ならこういうのはどうです―――」
そして俺は、思い付いたことをサーゼクス様に言った。
―・・・
「こんな遅くにすみません。そして私の妹のリアスがお世話になっているようで……」
「いえいえ、リアスちゃんはとっても良い子なので!!」
……現在、サーゼクス様は我が兵藤家に来て母さんの料理を食べている。
俺が思いついたのは、うちにサーゼクス様を泊めてあげようということだった。
最初はどうであれ、今は母さんと部長はすごく仲が良いから、母さんも快くサーゼクス様のことを許してくれた。
「それにしてもおいしいです。流石は兵藤君の妹さんが作った料理ですね?」
…………。おっと、どうやらサーゼクス様は勘違いをしているようだ。
ここは流石、兄妹と言うべきかそれとも流石母さんの若々しさと言うべきか……当の母さんは目を丸くして驚いていた。
「えっと……私はイッセーちゃんのお母さんですよ?」
「…………。ん? いやはや、御冗談を。ははは!」
「信じられないかもしれませんが、事実なんですよ……サーゼクス様」
サーゼクス様はとても驚いている。
まあ母さんは普通に俺と同い年っていっても違和感がないからな……すると母さんは俺の方に詰め寄ってきた。
「ねえ、イッセーちゃん! これはやっぱりお母さん、まだ通じるってことなのかな?」
「……そうじゃないのかな?」
俺は苦笑いをしながらそう言うと、母さんは歳不相応に喜んでいる。
アーシアはそんな母さんを見て目を光らせているし……そう言えばアーシアは母さんに憧れていたな。
「……失礼しました、兵藤まどか様。うちの旦那様が失礼な事を……」
グレイフィアさんが母さんの前に立ってそう言う……って!!
『ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!?』
部長を除く全員がその事実を知って驚く声をあげた!
そりゃあまさかそうだよ!! グレイフィアさん、サーゼクス様の嫁だったの!?
そしてサーゼクス様はグレイフィアさんに頭を小突かれて、殴られた部分を押さえて悶絶していらっしゃる!
っていうかサーゼクス様のノリが軽い!? 俺が想い描いていた魔王像は厳格なものだったからギャップが激しい!
「それよりも少し宜しいでしょうか、兵藤まどか様」
「あ、まどかでいいよ? 私もグレイフィアさんって呼びますから!」
「……はい。なら少し教えていただいても宜しいでしょうか……どうしたら、そこまで綺麗さを保てるのでしょうか?」
……母さんの正体を知った人がまず、初めに通る道だ。
部長もアーシアも母さんのことを知ったら最初に聞いたのが、今グレイフィアさんが言った台詞だった。
「う~ん……私はイッセーちゃんを産んでから特に気にしてないからね―――とにかく、イッセーちゃんを愛してたらこうなった?」
「……なるほど。まどかさん、今晩、お話を詳しく聞いて宜しいでしょうか?」
「うん! 飲み明かそうね!」
……母さんはそんなにお酒は飲めないだろ。
まあとにかく、母さんとグレイフィアさんはなんか仲良くなったみたいだけど、代わりにサーゼクス様は放置されている。
「そう言えば兵藤一誠君。君のお父さんは……」
「父さんはずっと単身赴任なんですよ」
「……それは残念だね。ではまた次回の機会にしようか」
そう言って、サーゼクス様は母さんの方を向いた。
「私は今回、妹の授業参観を見に来たんですよ」
「……授業、参観?」
……母さんはその単語を聞いて、驚いていた。
サーゼクス様、何故……なんで今その話題を出すんですか!
「……イッセーちゃん? お母さん、そんなことは知らないけど……どういうことかな?」
「えっと……高校生にもなって、授業参観とか別に行きたくないかなぁ……って思いまして」
……実際の所、俺は部長と同じ気持ちだ。
母さんに来てほしくない……絶対に暴走するから!
「甘い……ケーキの生クリームなんかよりも甘いよ! イッセーちゃん! なんでそんな水臭いことを言うの! お母さん、カメラ五台持って絶対に行くからね!!」
「せめてそこは1台だろ! 5台あって俺の何を撮るんだよ!!」
「それは……うふふ」
「意味深な鼻笑いが怖いんだよぉぉぉ!!」
……母さんはとてもいつもどおりでした。
―・・・
「イッセー、私は貴方と……」
「イッセーさん……」
……部長とアーシアが瞳をうるうるとさせながら俺の部屋の前にいる。
ちなみに俺の横にはサーゼクス様がいて、どうやら俺と話がしたいらしく今日は俺の部屋で眠ると言ってきたんだ。
それで普段、俺の部屋で寝ている部長とアーシアは今日は俺の部屋で眠れないと言うことでこうなっている。
……ちなみに母さんとグレイフィアさんは今は部屋でお話をしているそうだ。
「悪いね、リアス。……今日だけは彼を貸してもらえるかな?」
「……わかったわ。イッセー、じゃあおやすみなさい」
「イッセーさん! 明日は私も絶対にイッセーさんのお布団で寝ますからね!」
そう言って部長もアーシアも自分の部屋に戻っていく。
そして俺とサーゼクス様は部屋の中に入っていくと、既にお客様用の布団が敷かれていた。
それからサーゼクス様と俺は部屋でのんびりとしている。
「君の周りは楽しいことが多いね……それはそうと、君のことはイッセー君と呼んで良いかな?」
「はい。皆そう呼んでいますから。……サーゼクス様」
「……コカビエルの件はご苦労だったね」
するとサーゼクス様は俺を労わる。
「でも報告を聞いて驚いたさ。あの記録に載るほどの堕天使であるコカビエルを、君は圧倒したそうじゃないか」
「……一応はそうですね」
確かに俺はあの戦いで一度も攻撃は受けていない。
あのレベルの奴が相手だと、一撃を受けただけでも致命傷だからな。
「君の事はライザ―君の時からずっと注目してはいたが……だが君は強すぎるね。悪魔になってまだ日は浅いのも関わらず、既に赤龍帝の力は禁手に至っており、しかもその身にはもう一つ……神滅具のレベルに達する神器を持つ」
「……そう、ですね」
俺はそう頷くしかない。
俺が今のレベルにいれているわけは、小さいころから力を高め続けたことと、何よりも前代の赤龍帝でもあるからだ。
転生前に得た知識と戦い方、そして転生後に手に入れたフェルの力と屈強な体……これが無かったら俺は今、生きてはいない。
確かに異質の強さって言われても不思議ではないだろうけどさ。
「……これは私の感想だ。君は確かに強い力を宿しているね。しかも君の周りには色々な力が交差している。ドラゴンの力、悪魔の力、聖なる力……様々なものが入り組んでいる。そしてそれは君を中心に動いていると感じるよ」
「……それがどうかしたんですか?」
「いやいや、ただ私はこんな存在が悪魔サイドに来てくれたことが誇りに思えてね……ライザ―君との一件以来、君のことは悪魔の上層でもたびたび話されている。故にまず、これを渡しておこう」
サーゼクス様はすると、俺に一つのチェスの駒を渡してきた。
「これは……悪魔の駒?」
それは赤いチェスの駒……
「上層部はどうしても君を悪魔サイドに置いておきたいらしくてね。私にこんなものを渡してきたよ。それは『王』の駒だよ。ただし、それはまだただの駒にすぎない」
「……つまり、これは見せかけの駒なんですか?」
「そう……それの意味は、君が近い将来に君が上級悪魔に昇格するかもしれないと言うことを示しているものだ。これは私も賛成してね―――いつかは本物の駒を渡そう。それは私が君を認めた証しとでも思っていてくれたまえ」
「……ありがとうございます」
俺は『王』の駒を握り締めてサーゼクス様にそう言うと、微笑みかけてくれる。
……上級悪魔か。
流石に考えてもいなかったな……もっと先になるとは思っていたけど。
目標でもなんでもなかったし、正直に言えば考えたこともなかった。
『だが相棒の実力を鑑みれば、妥当とも言えるな。下級悪魔が堕天使の幹部を圧倒するなど聞いたことがない』
『そうですね。主様は”王”が似合っています。私的には主様にはもっと活躍してほしいものですね』
どうやら二人は俺が上級悪魔になることは賛成のようだ。
「さて、これで政治が入り組んだ話は終わりだよ。ここからはプライベートの話……時にイッセー君、君は眷属の女の子たちをどう思う?」
「……それは異性としてでしょうか?」
「ああ、その通りだ……私は特にリアスをどう思っているか気になってね?」
……どう答えれば良いのか困るな。
眷属の皆か……アーシアは言わずもがな、癒しの存在で大切な存在だし、ずっと一緒だって言ったからな。
小猫ちゃんは妙に甘えてきたりしていて可愛いし、朱乃さんも優しくて俺を可愛がって来る。
ゼノヴィアなんか惚れたとか言ってるし……
それに部長だって朱乃さんと同じで可愛がってくれてる……みんな大切な仲間だ。
―――だけど、それ以上でも以下でもない。
「……仲間です。何があっても守ると決めています。ですけど・・・俺はそう言う目で、部長や皆は……見れません」
「……そうか。意外だったよ―――君の眼は、印象的だ」
するとサーゼクス様は俺の目をじっと見てきた。
真剣な瞳……まるで俺を見透かすような瞳だ。
「まるで何かに縛られるように生きている……自分が幸せになるのを拒んでいるような目だ。何故とは聞かないが、君は妹の眷属だからね。出来ることなら傷ついてほしくはない」
「……拒んでいるわけではないです。ただ俺は、俺の抱える問題を解決するまで、幸せを望む気はないです。今だって普通に幸せなんですから、これ以上は望みませんよ」
俺はサーゼクス様に出来る限りの笑顔を浮かべてそう言った。
するとサーゼクス様は少し悲しそうな顔をした。
……ダメだ、この人には薄っぺらい嘘は効かない。
調子がおかしい……白龍皇と出会ってから、やっぱり俺は冷静じゃない。
「……リアスや君の眷属は君のことを強いと思っているだろうね。だけど私から言わせてみれば―――君は危うい。イッセー君、君は……」
……するとサーゼクス様は途中で言葉を止める。
「いや、これ以上は言ってもどうしようもない。ただ君はもう少し周りを頼るべきだよ」
「……そうですね」
そう言って、俺は一人ベッドに入りこんだ。
―――やっぱり、魔王ってすげえな。
俺がやっとの思いで冷静に出来た俺の感情を、いとも簡単に崩してしまう。
俺は逃げるようにそのまま眠りに囚われた。
―・・・
『Side:木場祐斗』
僕、木場祐斗は現在、部室の中にいる。
部室の中にはイッセー君を除く部員全員がいて、当のイッセー君はサーゼクス様に誘われてどこかに行ってしまった。
昨日、サーゼクス様が現れてから次の日の朝で、今日は日曜日の休日だけど部員が集まっているのには当然、理由があるわけで……
「皆はもう分かっているかもしれないけれど、最近のイッセーはどうも調子がおかしいわ」
今、眷属の女性陣は最近のイッセー君の調子の悪さについて会議しているんだ。
もちろんそれは僕も感じたことだ。
どうもイッセー君はコカビエルの一件以来……もっと言えば白龍皇との邂逅から様子がおかしい。
「……傍から見たら普通ですが、明らかにあれは空元気です」
「そうですわね……体をくっつけた時の抵抗感がどこか少なくて、ちょっと物足りないですわ」
「……イッセーさん、朝のランニングでも少し調子が悪かったです!」
「悪いが自分は分からないな」
ゼノヴィアさんはイッセー君との付き合いがまだ僕達に比べて短いからね。
でも何となくは彼女も察してはいるだろうね。
とにかく、我が眷属では既にイッセー君はかけがえのない柱になっているのは確実だ。
だからこそ、皆イッセー君の心配をする。
「正直に言うと、あまり原因を追究するのは良い方法とは思えないわ」
「部長さんの言う通りだと思います! それにイッセーさんはあまり自分のことは仰らないので……」
流石はアーシアさん、おそらくこの中でイッセー君と一番距離が近い子だ。
傍でイッセー君を見ているから何となく察しているのだろうね。
「……ならイッセー先輩の悩みが吹っ飛ぶくらい、楽しいことをしましょう」
おぉ、小猫ちゃんがいつにもましてやる気だ!
小猫ちゃんはイッセー君のことが絡むと一層にやる気が起きるみたいだね。
っというより僕達は皆そうだ。
全員がイッセー君に一度は励まされたり、救われたりしている。
アーシアさんは堕天使の件で、部長は婚約の件、僕は聖剣の件で、ゼノヴィアさんは神の不在の時に励まされた。
未だ謎なのは小猫ちゃんと朱乃さんのイッセー君に対する想いだけど、僕の感覚だがこの二人のイッセー君への想いは相当なものだ。
ある意味、眷属で一番イッセー君に依存をしているのはこの二人だろうね。
「……夏で楽しいことと言えば海ですわね」
……だけど海に行く暇は今の僕達には無いはずだ。
明日には授業参観で、しかもそのあとに三すくみの会談が待ち構えているからね。
「……ならこの学校のプールというのはどうだろうか?」
……ゼノヴィアさんの発言で皆は目を見開いた。
これは盲点だった……確かに学校のプールなら楽しいと思うし、イッセー君のリフレッシュにもなるはずだ。
「ナイスよ、ゼノヴィア! そうね……。プールだったら最近はあんまりイッセーとの触れあいがないし、ちょうど良いわね!」
「プール……こうなれば、新しい水着を買いに行きますわ」
「………………水着なんて、ただの布です」
「はわわ! イッセーさんの好みが良く分かりません!」
……どうやら決まったようだね。
だけど小猫ちゃんだけが恨めしそうな目で部長や朱乃さんの方を見ていた。
「……そう言えば祐斗、そろそろ
「……もしや、もう一人のビショップですか?」
僕は部長の発言に少し驚く。
そう……本来、僕達の眷属にはもう一人、アーシアさんとは別の『僧侶』の駒を持つ下僕悪魔がいる。
これはまた何かが起きそうな気がするね。
そして僕はそのことにどこか楽しみを抱いている。
イッセーくんとあの子がどういう風に接しあうのか……僕はそれを考えた。
「とりあえずさしあたってはプールの使用許可をソーナに取りましょうか。決行は今日のお昼から! 各自、準備を怠らないように!」
『はい、部長!』
僕達は結束の強い声でそう言った。
……全く、イッセー君がいないと僕達は締まらないね。
だからいつものイッセー君に戻ってほしい、僕はそう思った。
『Side out:木場』