ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第7話 涙なんか、似合いません

 ……ゲーム終了から既に丸二日が経った。

 ゲームは俺達、グレモリー眷属の敗退、そして俺を除くすべての仲間はリタイアしてしばらくの間は治療に明け暮れた。

 俺はゲームが終わって皆が治療を受けているところに行った。

 部長はその時はまだ意識はなく、祐斗も動けない状態で、朱乃さんも相当の傷を負ったらしく治療をしていて、アーシアは未だに目を覚まさない。

 そして動くことが出来たのは小猫ちゃんだけだった。

 小猫ちゃんはアーシアと自陣の部室にて、彼女から治療を受けていたらしいけど、そこに相手の女王の奇襲に掛かり、そのまま退場したらしい。

 ライザーの件は、部室に戻る最中に襲撃を受け、そのまま新校舎にまで連れて行かれ、部長との交渉の道具にされた……それを小猫ちゃんを泣きながら教えてくれた。

 ……小猫ちゃんの特性は防御と攻撃を司る『戦車』

 でもいかに体が丈夫でも……小猫ちゃんの心は弱かった。

 自分がライザ―に捕まったせいで、部長があいつの元に行ってしまった。

 それに加え、自身が味わった恐怖。

 自分のせいで負けた、と。……泣きながら、謝ってきた。

 でも違う……誰が悪いとかそんなことを考える必要はない。

 小猫ちゃんにとっても誰にとっても今回のゲームは初めてだった。

 それを初めから完璧に出来ることなんか、無理に決まっていた。

 少なくとも最善はしていて、不測の事態を対処できなかっただけなんだ。

 初めは俺も自分を責めた……俺が小猫ちゃんを戻さなければ、部長をもっと離れた場所に置いておけば……だけどそんなことは俺達の眷属は誰も思っていない。

 皆が極限状態で戦っていた……誰かが誰かを責めることなんか、この眷属ではありえない。

 ……だから俺は自分を責めるのを止めた。

 俺の責任はあるけど、一人で感傷に浸って、独りよがりで自分に酔っているわけにはいかない。

 ……俺は今、謹慎状態にあった。

 理由は単純……これは祐斗からのグレイフィアさんへの要望だった。

 ―――今のイッセー君を放っておいたら、ライザー・フェニックスを殺してしまうかも知れない。

 ……その通りだった。

 祐斗は俺のことを理解して、先に先手を打ってくれ、俺は軽い監視の中で謹慎をグレイフィアさんから言い渡された。

 俺はそれを素直に聞き、そして2日間はずっと家にいる。

 どうやらアーシアの回復が思った以上に遅いらしく、アーシアはグレモリー家経営の病院に昨日まで入院していて、今は部屋で休んでいて、俺はまだ目を覚ましたアーシアとあっていない。

 俺の家には木場と小猫ちゃんが一度、顔を出しに来た。

 現状報告と、部長と朱乃さんについてのことを俺はその時に聞いた。

 …………どうやら婚約の発表の日取りが決まったらしく、二人はそれで冥界に行っているそうだ。

 ―――今、俺は部屋のベッドで横になっている。

 いつもと同じ天井を見つめる。

 

『…………相棒、どうするつもりだ?』

 

 ……どうもこうも言う必要がない。

 なにしろ、部長の婚約発表は……今日だ。

 俺は未だに謹慎……つまりフェニックス側も、グレモリー側も俺には来てほしくないってことか?

 それとも後から連れていくとか……どんな魂胆かは分からないけど、やることはずっと前から決めている。

 

『……主様。わたくしには主様のお気持ちが痛いほど分かります。怒りがあるのにずっと仕舞い込んで苦しんでいる。いえ、溜めこんでいる』

 

 ……そうだよ。

 勝手に一人で怒って物に当たっても仕方がない……それに

 

「皆を守れなかった、そんな自分にもムカついてんだ」

 

 ……俺は拳を握る。

 ―――それと同時に、俺の部屋の中に一つの気配を感じ取った。

 まるで無限の力が体現しているかのような存在感……真っ黒な髪に真っ黒なひらひらとしたゴスロリ風の服、そして黒い瞳。

 ……最強のドラゴンであり、俺の友達であるオーフィスがそこにはいた。

 

「……我、イッセー、会いに来た」

 

 オーフィスはそう言うと俺のベッドに腰掛けて、俺に一つの缶ジュースを渡してきた。

 

「この前の、お礼。イッセー、一緒に飲もう」

「……それもそうだな」

 

 電気も付けず、月明かりだけが俺の部屋を照らす。

 俺はオーフィスのジュースを開けて、自分のもあけて一気にそれを飲み干した。

 

「……オーフィスはさ、この前の俺の戦いは見たか?」

「見た。我、イッセーの雄姿、目、焼きつけた」

 

 ……するとオーフィスは少し瞳に光が灯ったような目をしていた。

 まるで子供のような目。

 こんな顔をこいつは出来たんだな。

 

「……ごめんな、負けちまって。がっかりしただろ?」

「…………」

 

 するとオーフィスは首を左右に振った。

 

「イッセー、真っ直ぐだった。いつも、どんなときも、諦めなかった。力も満足に振るえない、ずっとおさえこまれてる、でも強かった。カッコよかった。こんな気持ち、初めて。誰かのために戦う、悪くない、思った」

「……そっか。ならさ、答えを教えてくれ。俺に本当にグレートレッドを倒してほしいのか?」

「……我、静寂は今でも望む。でも、我、初めて静寂以外、興味、出来た」

 

 するとオーフィスは俺の手を握ってまっすぐと、その混沌とした目の奥にかすかに光があった。

 

「我、イッセー、興味ある。気になる。イッセー、我が知らないこと、教えてくれる。我を友達、言ってくれる。故に我、イッセーと共にいたい」

「……友達だからさ、いつでも俺の所にこいよ。静寂が欲しいならさ、たまに里帰りしてまた俺の所に来ればいいさ―――一人ぼっちなんてさ、寂しいから」

 

 ……俺はそう言うと、オーフィスは俺をじっと見つめてくる。

 

「……イッセー、まだ諦めてない。でも、ゲーム、負けた。なのになぜ?」

「まだ終わってはいないさ。俺が諦めると思うか?」

「思わない。我、友のイッセーの力になる」

 

 するとオーフィスは手をぶんぶんと振りまわした……最強のドラゴンは天然だ。

 思った事を口にするほどの天然、そして赤子のような子だ。

 ……オーフィスのおかげか?

 やっと腰を上げることが出来る。

 

「ありがと、オーフィス。でもな、今回は俺だけで十分だ」

 

 俺はオーフィスの頭を撫でると、オーフィスは不思議そうな表情をしていた。

 

「……我、何故か心地いい。イッセー、我に何を?」

「頭を撫でただけだよ。嫌だったか?」

「……我、この心地よさ、好き。故に更に望む」

 

 ……少し小猫ちゃんと似てるか?

 でも俺はオーフィスの願いを聞き届けて少しの間、頭を撫で続けた。

 そしてオーフィスは少しすると俺の手から離れていく。

 

「……我、すること、出来た。我の静寂、気付いた」

「そっか。なら行ってこい。オーフィスはオーフィスのやらなきゃいけないことをして、そんで苦しかったらまた俺を頼ってくれ」

「……我、必ずここに戻る」

 

 ……そう言うとオーフィスは風のように消えていく。

 オーフィスのいなくなった部屋に俺は立って、そして顔を強く叩いた。

 

「……目が覚めた。ドライグ、フェル、待たせたな」

「―――それは私にも言って欲しいぞ、一誠」

 

 ……すると俺の耳に聞いたことのある威厳のある女性の声が響く。

 ―――そう言えば、ずっと忘れてた。

 レーティングゲームでは本人が悪魔のいざこざに興味がなくて出ないと言って、俺もあまりにも反則級過ぎて出すのを断念した、彼女を。

 

「……ティア」

「全く……数日間、私を放って何をしていると思えば、まさかオーフィスがいるとは肝を冷やしたぞ」

 

 ……ティアはいつも突然、俺の部屋に現れる。

 彼女はそれを龍王の力だと言っていたけど、真偽のところは分からないな。

 すると彼女の傍には俺の最近の癒しの一端の、チビドラゴンズがいて俺に抱きついてきた。

 

「おぉ……少しこいつらも強くなったか?」

「ああ。もう少ししたら人間に化けれるんじゃないか?こいつらは人で言ったら3歳くらいだからな」

 

 ティアはそう言うと、俺の頭を突然、撫でてきた。

 

「この際、何故オーフィスがいたのかは聞かん。だが風の噂で一誠が根性無しの不死鳥に卑怯な手で負けたと聞いてな」

「……負けたけど、それはゲームの中での話だぜ?」

「それは暗に―――実戦なら負けない、と言っているようなものだぞ?……しかし許せんな。正々堂々と戦わないなど、この国での武士道に反する!」

 

 ……まあ悪魔だから武士道もないだろう。

 

「ふ……それで一誠、どうせ答えは決まっているのだろう?」

『ティアマット、それは当然であろう。相棒を誰だと』

「ドライグ、私は一誠と話しているんだ、出てくるな」

 

 ティアは話そうとしたドライグに対して、その一言を浴びせてぐうの音も出なくさせる。

 ……あのドライグが冷徹な一言で押し黙った!

 

『ティアマット。主様は当然、自分が何をすべきか分かっていますよ』

「さすがは一誠だな。ならば今回は私が力を貸そう」

 

 するとティアは、人間の姿のまま背中にドラゴンの翼を展開した。

 

「安心してくれ。直接的な介入はしない。そうだな、タクシーでもしようか」

「……サンキュー、ティア」

 

 俺はティアが伸ばしてくる手を握り、握手をする。

 

「では私は一度戻る。呼ぶ時は魔法陣で呼んでくれ」

 

 そういうとティアはチビドラゴンズを無理やり俺から引き離して、そのまま魔法陣から消えていく……魔法陣!?

 ……あいつが突然現れる意味が何となく分かったような気がした。

 

「……そして本命のお出ましか―――ったく、今日は客人が多いな」

 

 ……すると俺の部屋の何度も見た、銀色のグレモリー家の魔法陣が現れる。

 つまりはグレイフィアさんだろう。

 

「……思っていたよりかは、落ち着いているようですね」

「ええ……祐斗からの配慮のお陰で」

 

 俺は数日ぶりに顔を合わせるグレイフィアさんと同じ目線で話す。

 

「……もう知っているのですか? リアスお嬢様のことを」

「ええ、知ってます。全て祐斗達から聞きましたし、俺の謹慎はまだ解かれていないですから想定も出来ていました」

 

 グレイフィアさんは俺の方をじっと見てくる。

 

「……それであなたはどうするつもりです?お嬢様の結婚を静かに見守るか、それともここで静かにしているか」

「……悪いですけど、俺は諦めが悪いんです」

 

 ……俺はグレイフィアさんの話を途中で折って、そしてグレイフィアさんに笑顔を見せる。

 

「俺は何があっても諦めません。たとえ敵が神様でも、魔王様でも……腕が消し飛んでも、剣が刺さって死にそうになっても―――絶対に諦めることだけはしません」

「………………」

「だからこそ、部長のことも諦めません。もしグレイフィアさんがここで俺を止めるのなら、俺は死を覚悟してでも止まらない。俺は約束しました……だから」

 

 俺は前に進みます……そうグレイフィアさんに何の躊躇いもなく言った。

 途端にグレイフィアさんは口元に手を当てて、そして…………笑みを浮かべた。

 

「……ふふふ」

 

 グレイフィアさんは可笑しそうに笑う。

 はじめて見る、この人の笑い。

 公私を完璧に分けているであろう、この人が今は『女王』の顔のはずだ。

 なのに何で……

 

「さすがです、兵藤一誠様。もしもあなたが弱音の一つでも吐こうものなら、サーゼクス様から叩いてでも目を覚まさせろと言われたのですが……どうやらとんだ検討違いだったのですね」

 

 するとグレイフィアさんはポケットから一枚の魔法陣を取り出し、俺に渡してきた。

 

「あなたは面白い方です。本来、お嬢様の下僕として見合わない実力を誇るのに、一番大切に思うのは仲間、力に決して溺れず、自分の気持ちに素直に突き進む」

「…………」

「長年、多くの悪魔を見てきましたが、あなたのような人は初めてです。がむしゃらに突き進んで、自分の想いを信じる。サーゼクス様も、そんな貴方だったから私にこれを授けたのでしょう」

 

 ……俺は魔法陣の書かれた紙を見る。

 なるほどな。

 やっぱりグレイフィアさんは……

 

「サーゼクス様も本来、こんな婚約は望んでいませんでした。彼は妹を誰よりも大切に思う。ですが魔王である身、自分の権限だけで実家とはいえ、グレモリー家に肩入れすることができませんでした……」

「……そんなこととは思いました」

 

 ……だって、あまりにもグレイフィアさんはこちらに友好的だったから。

 俺とライザーの一触即発の時もこの人はライザ―のみを理屈に付けて非難した。

 それに何より―――俺たちに10日という猶予を設けた。

 部長への大切に思う気持ちがあったんだろうな。

 公私を分けるこの人でもそんな一面があることに俺は苦笑した。

 

「これはサーゼクス様からの一言です……『妹を救いたくば、会場に殴りこんできなさい』―――そしてその魔法陣は婚約会場へと続く魔法陣です……ッ!?」

 

 ……俺はその魔法陣を破り捨てるのを見て、グレイフィアさんは相当驚いていた。

 確かに気持ちは嬉しい……でも、俺は

 

「気持ちはありがたく受け取ります。ですが、俺は、俺と俺の仲間の力だけで部長を救います……ですから場所だけを教えてください。あとは自力で向かいます」

「……本当に面白い方です」

 

 そしてグレイフィアさんは冥界にある婚約会場の場所を俺に教えてくれた。

 ティアは冥界のことには詳しいらしく、おそらく場所を教えれば連れて行ってくれるだろう。

 それに魔法陣を簡単に使うことも出来るようだし……

 

「……それでは私はこれで失礼します」

「あ、グレイフィアさん。ちょっと待ってください」

 

 俺はグレイフィアさんが魔法陣で消える前に、一つだけ言いたいことがあった。

 

「なんでしょうか?」

「一つ、魔王様にお伝えしてほしいことがありまして」

「……伝えましょう。仰ってください」

 

 グレイフィアさんは少しだけ微笑み、俺の言葉を待つ。

 そして俺は、遠慮なしに言いたい言葉を伝えた。

 

「会場で、面白いものをお見せします―――赤龍帝の本当の力。それを惜しみなく」

「……それは楽しみです」

 

 そしてグレイフィアさんはその場から魔法陣により消えていく。

 俺はそれを確認すると、その場から勢いよく立ち上がった。

 

「あともう一人……よし」

 

 そして俺はそのまま自室で眠っているアーシアの部屋に向かった。

 

 ―・・・

 俺が静かに扉を開けると、アーシアは上半身だけベットから起こして、夜の空を見ていた。

 アーシアが起きているのを俺はその日、初めて見た。

 

「……アーシア」

「ッ…………イッセーさん」

 

 ……意識のあるアーシアと顔を合わせるのは2日ぶりだ。

 アーシアは今すぐにでも泣きそうな顔をしていて、俺がアーシアの傍に近づくと、そのまま俺の腰に抱きついて泣きだした。

 

「イッセーさん……私はなんて非力なんでしょうっ!何もできなかったんです……誰かを癒すことも、守ることも……相手に攻撃されて、あっさりリタイアして……っ!!」

「……ああ、アーシアは非力かもな」

 

 俺はアーシアを抱きしめながらそう言う。

 

「皆、今回のゲームは後悔だらけだろうな。皆そうだよ……俺だってそうだ。だけど俺は誰も責めない……あのゲームで頑張って無かった奴なんかいない」

「……イッセーさん」

「アーシアは今回の苦しさを、これから役立たせればいい。だから今回のことは俺に任せろ」

「―――ッ!?もしかして…………なら私も!」

 

 アーシアは立ち上がろうとする……そりゃ、そうだよな。

 アーシアの性格を考えたら、自分も何かしたいと思いたくもなる。

 だったら俺はアーシアの気持ちを踏みにじらない!

 

「ああ……二人で一緒に、部長を助けに行こう。部長の婚約発表はあと数時間もすれば始まる。急いでシャワーを浴びて、急いで用意してくれよ?」

「はい!!」

 

 そう言うとアーシアは笑顔で俺にそう言ってくる……皆、涙なんか似合うはずがない。

 アーシアだって、小猫ちゃんだって、朱乃さんだって…………部長だって。

 だからこそ、俺は行く。

 決着を着けに、大切な主を救うために。

 ―・・・

 

 数十分後、俺とアーシアは家の屋根の上にいた。

 アーシアと俺は制服に着替え、そしてまだふらついているアーシアの体を腕で支える。

 そして俺は悪魔の翼を展開させて、そして空へと急上昇していった。

 ……さすがに伝説のドラゴンをあんなところで召喚するわけにはいかないからな。

 そして俺とアーシアは人は目視することすらできない高度まで上がると、俺は巨大な魔法陣を展開させる。

 

「……我の名において、応えろ―――馳せ参じたまえ、龍王ティアマット!!」

 

 ……俺の声と共に、魔法陣から静かに黒と白の美しく神秘的な見た目をしているティアがドラゴンの姿で現れた!

 相変わらずの美しさとでかさだ!

 そしてその傍らにはチビドラゴンズもいる!

 

「一誠、随分と待ちくたびれたぞ」

「え、えっと……こんにちは、ティアマットさん」

 

 アーシアは流暢にティアに挨拶をすると、ティアは少し笑う。

 

「アーシアよ。私のことはティアで良い。一誠が気に入っているお前ならば許そう」

 

 ……そして、俺はティアの背中に飛び乗る。

 

「ティア、目的地は冥界の婚約会場だ。分かるか?」

「誰にものを言っている?急ぐのだろう……少し飛ばすからしっかり掴っていろ!!」

 

 そしてティアは真正面に巨大な龍の文様をした魔法陣のようなものを展開させる!

 やっぱり、ティアは魔法陣を持っていたのか!?

 それともドラゴン特有のものなのか?

 どちらにしろ、それが転移するためのものであるということは分かった。

 俺はティアの体にしがみつき、そして……冥界へと向かうのだった。

 

 ―・・・

 

『Side:木場祐斗』

 

 僕、木場祐斗はリアス部長の婚約会場にいる。

 僕だけじゃない。

 ドレスを着こんだ小猫ちゃんに和服姿の朱乃さん。

 僕もスーツを着込んで会場の一角にいた。

 既に上級悪魔の面々が会場にいて、話をしたり、ごちそうを食べていたりする人もいる。

 

「……この前のゲーム、拝見させていただきました」

 

 ……するとそこには同じ駒王学園の生徒で生徒会長、そしてシトリー眷属の『王』、ソーナ・シトリー様がいた。

 

「ソーナ会長」

「……正直、納得できない部分も多いです。ですが負けは負け。それはおそらく、誰よりもリアスが分かっているでしょう」

「あらあら……さすがは幼馴染が言うことは違いますわね」

 

 ソーナ会長は実際にあのゲームを見ていたのか、僕たちに対してそう話しかける。

 それに対し朱乃さんはいつも笑い声でそう言った。

 ……朱乃さんがあの『女王』に負けたのは、どうやらフェニックスの涙を使われたかららしい。

 一度は追いつめ、魔力が尽きたところを涙で回復され、そしてそのまま敗北。

 逆に言えば涙さえなければ負けることはなかったというわけだ。

 

「あのゲーム、私は素晴らしいものだと評価します」

「…………お気遣いはありがたいんですが、でも大丈夫です」

 

 小猫ちゃんはそう言う。

 彼女はイッセー君に慰められたからもういつもの調子が戻っていた。

 ゲームの終了してすぐの小猫ちゃんは、それはもう後悔と恐怖の圧力で自身を見失っていたからね。

 すると、僕達に近づいてくる人影があった。

 

「……グレモリー眷属の皆様、少し宜しいでしょうか?」

「確か貴方は……」

「お兄様の眷属で『僧侶』のレイヴェル・フェニックスですわ」

 

 ……そこには金髪のツインロールの髪形をしていてる、紫色のパーティードレスを着ているレイヴェルさんの姿があった。

 

「それで……どうしたのですか?」

「……その、この前のゲームのことを謝りたくて―――兄の蛮行、謝罪申し上げます」

 

 ……すると彼女は僕達に頭を下げてくる!?

 どういうことだろう。

 するとレイヴェルさんは頭を上げて、話し始めた。

 

「……お兄様は『王』として勝利を求めました。ですが私はあれが……お兄様の最後の行為がどうしても許せませんの。だから兄に代わって、妹である私が謝ろうと思いまして……」

「あらあら……いいですわ、そんな頭を下げないでください」

「…………ゲームはゲーム。もう割り切りました」

 

 するとレイヴェルさんは少し、安堵の表情となった。

 彼女は相当、緊張していたみたいだね……これだけの眷属に面と向かって頭を下げれるこの子の芯の強さ。

 正直、あのライザ―・フェニックスの妹とは思えなかった。

 ……僕は相手の『女王』と相打ちになり、そしてリタイアして治療を受けている最中、イッセー君のそれまでの戦いを見ていた。

 唖然としたよ。

 紅蓮と白銀の二つの篭手で、あのフェニックスの不死身さに傷をつけていたんだから。

 あの強さ……イッセー君が神器を使ったら、僕では相手にならないだろう。

 神器を発動したら僕を軽く超える速度を体現し、攻撃力は恐らく、僕達眷属では断トツのトップだ。

 これにまだ”強化”の力があるんだ。

 彼は底が見えない。

 だからこそ、僕は憧れてしまう。

 

「……それで、兵藤様はいらっしゃらないのでしょうか?」

「「………………」」

 

 レイヴェルさんはイッセー君の名を出すと、顔を赤くする……ということはもしかして―――

 すると小猫ちゃんは途端にじと目で彼女を見ていた!

 やっぱりそうなんだ!!

 ―――――それにしてもイッセー君か。

 ああ、そうだね……この場には確かにいない。

 

「今、この場にはいない…………でも心配はいらないさ」

「そうですわ……うちのイッセー君は、最後まで自分を突き通す人ですわ」

「…………その癖、それが他人を救うためだけっていう反則級の優しさの持ち主です」

 

 ……僕達の気持ちは同じのようだ。

 そしてその時、あの男……ライザー・フェニックスが炎に包まれながらという派手な演出で会場に登場した。

 

「冥界に連なる貴族の皆様!お集まりいただき、大変うれしく思います……この度、皆様に集まっていただいたのは名門、グレモリー家の次期当主、リアス・グレモリーと、私、ライザー・フェニックスの婚約という、歴史的瞬間を共有していただきたいからでございます」

 

 ……この会場で、貴方の暴挙を見た人は少ないだろう。

 だけど言わせていただく―――貴方は怒らしてはいけない僕達の『兵士』を怒らせた。

 その意味をあなたは未だに理解していない。

 だからそんな恐れもない表情をしている。

 未だ鼻高々というべき態度を取っている。

 ……僕と小猫ちゃんはイッセー君の元を一度だけ尋ねた。

 だけどその一度きりで、それ以上は彼の元には近づこうとしなかった。

 それは―――彼の姿を目の当たりにしたから。

 今まで見たことがないほど怒っていて、でも僕たちの前では笑顔でいてくれる彼の姿を見たくなかったから。

 

「ではご紹介しましょう!わが妃!リアス・グレモリ―!」

 

 ……グレモリーの魔法陣がライザー・フェニックスの隣に浮かび、そして少しして、ウエディングドレス姿の部長が現れた!

 …………そしてそれと同時に――

 ガォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!

 ……そのような激しい怒声が鳴り響いた。

 

「な、なんだ!?」

「このおぞましいほどの咆哮……まさか!」

 

 会場が騒がしくなる。

 ああ、これは間違いない―――ドラゴンの、咆哮!

 そしてこんなことを出来る人は僕は一人しかいない!!

 僕はそう思って、会場の入り口を見た瞬間だった。

 

「部長ォォォォォォォ!!!」

 

 兵士を殴り飛ばし、扉を粉砕して僕達が待ち望んだ男……兵藤一誠が、アーシアさんや3匹の小さな龍、そして人間の姿をした龍王、ティアマットと共に現れた。

『Side out:木場』

 

 ―・・・

 

 ……俺が部長の姿を確認して、部長の名を叫ぶ!

 二日間、ずっと見ていなかった部長の姿!ウエディングドレス姿だ!

 

「い、イッセー!?」

「貴様!ここをどこだと思って!」

 

 うるさい!!

 俺はあいつの言葉をさえぎる!

 

「俺は駒王学園、オカルト研究部で部長の下僕!赤龍帝、兵藤一誠だ!!」

 

 俺は会場に響くくらいの大声で叫ぶ!

 どうせなら派手にやってやる!

 

「リアス・グレモリー様はお前には渡さない!!―――卑怯者のお前に彼女を任せられねぇ!!」

「き、貴様!?何を言って!?」

「―――心も想いも全部ひっくるめて俺のものだ!!!」

 

 会場が俺の声によってざわざわと騒がしくなる!

 

「警備員!その者を取り押さえろ!!」

 

 ……すると、突然、俺達の周りに甲冑姿の警備員みたいなやつらが襲いかかってくる!

 

「……イッセー君!ここは僕達に任せて!」

「…………さっきの言葉は後で言い訳を聞くです」

「あの言葉、私にも言ってくださらないかしら?」

 

 ……ッ!

 木場と小猫ちゃんと朱乃さんが俺を襲う警備員にそれぞれの武器で抗戦する!

 俺を守るように!

 

「ぎゃう!!」「ぴき!!」「めぃ!!」

 

 ……俺の可愛い使い魔のチビドラゴンズのフィー、ヒカリ、メルがそれぞれ炎と雷と光速による体当たりで警備員と交戦する!

 

「では一誠、私はアーシアを守ろう」

 

 ティアはアーシアに近づいた警備員を指パッチンで地面にめり込ませた!!

 

「……ありがとう!!」

 

 俺は皆に背を向けて、そのまま部長とライザーの元まで走る。

 

「これはいったい!?」

「リアス殿!いったいどうなっているのだ!!」

 

 周りがざわつく中、俺はひときわ目立つ赤髪の長い男性が、ちょうど部長に近づいて行くのを見た。

 ……部長と、似ている。

 

「私が用意した余興ですよ」

「さ、サーゼクス・ルシファーさま!?」

 

 貴族の一人が慌てた表情と声で、その名を呼んだ。

 ッ!! つまりあの人が部長のお兄様で、そして……魔王。

 

「サーゼクス様!このようなご勝手は困り」

「……いいではないか、ライザーくん」

 

 ……サーゼクス様はライザーの言葉を止める。

 俺はその様子を見て、立ち止まった。

 

「この前のゲーム、拝見させてもらったよ。しかしゲーム経験もなく駒も半数に満たないリアス相手に、随分と興味深い妙手を使ったそうではないか」

「ッ!!…………それはサーゼクス様、貴方様はあのゲームを白紙に戻せと?」

「いやいや、そこまでは言っていない。魔王である私がどちらかに肩入れすることは不可能だ」

 

 するとサーゼクス様は俺の方を見てきた。

 

「ならばサーゼクス、お前はどうしたいのだ?」

 

 ……すると赤髪のダンディーチックな悠然としている男性がサーゼクス様に話しかける。

 恐らくは、部長の父親。

 近くには部長に似た女の人もいるから間違いないだろうな。

 

「……聞けばそこの少年は今代の赤龍帝の力を有しているそうではありませんか。ドラゴンとフェニックス。私はその戦いがみたいのですよ……それにそうしなければそこの彼は止まりませんよ」

 

 ……サーゼクス様がそう言うと、会場の視線が俺に集まった。

 ああ、その通りだよ。

 そして場は静かになり、部長のお父様やお母様や会場は黙りこくる。

 

「兵藤一誠君、どうやらお許しが出たそうだ。もう一度、君のあのドラゴンの力を見せてくれないか?」

「…………そのつもりできましたから―――ご期待通り、お見せします」

 

 そして俺はライザーを睨みつける。

 あとはこいつだけだ。

 

「……いいでしょう。このライザー・フェニックス、これを最後の試練として迎え入れましょう!!」

「勝負は成立……ならば兵藤一誠君、君は勝った場合の代価は何がいい?」

 

 ……サーゼクス様が俺にそう言ってくると、途端に周りが騒がしくなった。

 

「サーゼクス様!たかだか下級悪魔にそんなことを!」

「お考え直しください!」

「黙れ」

 

 ……サーゼクス様の低い声が響く。

 

「下級であろうと、上級であろうと悪魔は悪魔だ。こちらは頼んでいる身、ならばそれ相応のものを出さなければ……それで君は何を願う?絶世の美女か?それとも爵位か?」

 

 ……そんなもんは自分でどうにでもなる。

 そんな目先の欲望なんて、どうだって良い。

 だから俺は即答する……自分の気持ちを!

 

「部長……リアス・グレモリー様を返してください!こんな馬鹿げた婚約は白紙に戻す―――それだけが俺の願いです」

「いい答えだ。ならば勝ったらリアスを連れて行きたまえ」

 

 ……サーゼクス様はどこか嬉しそうな笑顔でそう言うと一歩下がる。

 そして俺はライザ―の前に堂々と立つ。

 

「……この前の言葉、忘れていないな?―――決着を着けるぞ、ライザー」

「いいだろう、小僧……お前にフェニックスの力を分からせてやろう!」

 

 ……決まった。

 俺はライザーから離れ、部長の隣に行く。

 俺は自分の胸に神器を出現させブローチ型の埋め込まれている神器に手を当てた。

 ―――そして神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)を部長の方に投げた。

 

「フェル。分かってくれるな?」

『はい』

 

 すると神器は自立歩行型の小型の機械ドラゴンとなり、部長の傍に舞い降りた。

 

「それは俺の相棒……お守りとして一緒に見ていてください」

「で、でもこれはあなたの……」

「大丈夫です―――俺は赤龍帝ですから」

 

 俺は部長の言葉を最後まで聞かずに後ろを振り向く。

 そこには笑顔の仲間の姿があった。

 俺はそれ以上何も言わず、そして急遽、用意された戦闘フィールドに繋がる魔法陣から転送された。

 

 ―・・・

 

『Side:リアス・グレモリ―』

 

 ……私はイッセーに何も声をかけることが出来なかった。

 ただ、彼の背中を見守るだけ。

 そして今、イッセーは戦闘フィールドの中心で立ち尽くしていた。

 

『……主様のことが気になりますか?』

 

 ……初めて声を聞く、隣にいる小さな小型の機械的なドラゴン。

 彼女がイッセーが入っていた創造のドラゴン、フェルウェルという存在らしい。

 そして私の周りには朱乃、小猫、祐斗がいて、少し離れたところにイッセーの使い魔である小さな3匹のドラゴンを肩と頭に乗せるティアマットの姿がいた。

 そして皆、スクリーンからイッセーの姿を見ている。

 

「だってあの時のイッセーの力は貴方によるものでしょう?なのに貴方はここに……」

『確かにツイン・ブースターシステムは、わたくしの力なしでは無理です。ですが、あなたは主様を少し、見くびってはいませんか?』

 

 ……見くびってなんていない。

 彼は私の眷属で最強の存在。

 本来なら私の下僕には不相応な実力を持っていることは既に理解している。

 現にゲームでもほとんど傷を負わずに最後まで戦い続けた。

 

『……はっきり申しますと、主様は悪魔になってから本気と言うものを一切、出してはいません』

「「「ッッッ!!?」」」

 

 ……私達はその言葉に驚く。

 イッセーが、あれでも本気じゃない?

 

『……言い方が悪かったですね。主様はその時にだせる全力は出しています。そもそもの問題は主様が悪魔になってから力を制御されました。それでも戦い方を見つけ出し、ゲームではあの臆病者を倒すほどの戦い方を考えました』

 

 ……このドラゴンは、怒っている。

 静かな声音からは信じられないほど、静かに。

 自らの主との戦いから卑怯な手で逃げた、ライザーに対して。

 

『見ていれば分かります。貴方の眷属である主様の力がなんなのか……その性質がどれほど優しいものなのか』

 

 ……私はそう言われて、イッセーの姿をみた。

 ―――その背中はあまりにも頼もしかった。

 

『Side out:リアス』

 

 ―・・・

 

 戦闘フィールドの中心辺りに俺とライザーは立ちすくんでいる。

 今は開始の合図を俺達は待っていた。

 神器もまだ発動していない。

 

「……小僧。俺はお前を認めよう―――お前があの力を使えば、正直、手がつけられん」

 

 ……こいつは恐らく、俺の二つの篭手によるツイン・ブースターシステムのことを言っているんだろうな。

 

『試合、開始してください』

 

 ……男性のアナウンスと共に、俺達の雰囲気は変わる。

 

「ならば俺はお前があれを使う前にお前を倒す……俺は勝たなくてはならない!我がフェニックス家には敗北の二文字は認められんのだ!!!」

 

 ライザーはそう言って、不死鳥の炎の翼を羽ばたかせる。

 ――――お前はただ、プライドだけで部長を傷つけたんだな。

 そんな薄っぺらい言葉と、看板を張るにしては逆に泥を塗るような行為。

 矛盾の塊。

 そんな半端者が、俺の大切な仲間を傷つけた。

 

『……ライザ―・フェニックス』

 

 ……ドライグがあいつにも聞こえる声で威厳ある声を鳴り響かせる。。

 

『貴様は確かに、王としては正しいことをしたのかもしれん…………だが、貴様はこの世界で一番、怒らせてはいけない存在を怒らせた』

「ど、どこからこの声は聞こえる!?誰だ!?」

 

 ……焦る、ライザー。

 でもドライグの威厳のある声は止まらない。

 

『それはドラゴンでも、ましては俺でもない…………優しい赤龍帝だ。貴様が怒らせたのは兵藤一誠という男だ。誰よりも優しき者の、逆鱗。そしてこの者の中に存在するドラゴンの逆鱗に触れたお前には――――――地獄の苦しみを味あわせよう』

 

 途端に、俺の中で何かが始まる。

 体中から魔力が湧き出て、俺の体は赤い魔力で覆われる。

 

「な、なんだ……この、肌を焦がすほどの濃密度な魔力は!?」

 

 ライザーは業炎を俺へと放ってくる。

 でも今の俺はそんなものを気にしている暇ではなかった!

 懐かしい…………懐かしくもあり、待ち望んでいた力。

 ずっと制限され続け、やっとこの日、復活を果たすことの出来る力!

 

「行こう、ドライグ!」

『応ッ!!あの者に、ドラゴンの力を!!」

 

 俺とドライグの想いが一つになった時、俺の篭手の宝玉が赤く光輝く!

 いくぞ、ライザー・フェニックス!

 俺は踏ん張り、空を駆ける!

 

「『禁手化(バランス・ブレイク)!!!』」

 

 俺の体が赤い光に包まれる!

 そして篭手から音声が流れた!

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 それと同時に、俺の体に次々に鎧が装着されていく!

 ライザーの炎はそれによって無効化し、形作られていく。

 全ての鎧を装着し、そして俺は地面に舞い降りた!

 

「これが赤龍帝の籠手(ブーステッドギア)禁手(バランス・ブレイカー)―――赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)だ!!」

 

 俺は空に浮かぶライザーにそう言い放った!

 

「ば、バランス・ブレイカーだと!?」

 

 ライザーは驚愕な表情になっていた。

 ……神器の奥義とも言える最強の切り札、禁手化。

 神滅具の意味がここにあるほどの力だ。

 

『相棒……調整は完璧だ。今の相棒の能力なら、いくらでもこいつを使いこなせるだろう』

 

 ……ああ、可笑しいくらいにさっきから力が溢れてくるよ!

 人間の時とは比べ物にならないほどのものが!!

 

「いくぞ、ライザー!!!」

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 懐かしい限界を外れた、一瞬の倍増!!

 現状でも十分なほどの大きな力が、更に倍増した!!!

 

「初手だ……避けないと、それで終わりだ!」

 

 俺は倍増した魔力を全て、腕で覆い抱えることが出来ないほどの大きな魔力球として地面に浮かせる!

 

「くらえ!!」

 

 俺はそれを殴り飛ばすと、途端にライザーへと体の面積よりも遥かに大きな魔力砲が撃ち放たれた!

 

「ッ!!?」

 

 ライザーはそれをギリギリで避けた……つもりでいるんだろうな。

 

反射の龍砲(リフレクション・ドラゴンキャノン)

 

 魔力砲が地面にぶつかる瞬間、俺は魔力砲を操る!

 魔力砲はまるで反射するように屈折し、次の瞬間にライザーの胴体を貫いた!!

 

「がぁぁぁぁああ!!!?」

 

 ライザーの表情を苦痛に包まれる!

 腹部はすぐさま、フェニックスの能力で再生されるが……関係ない!

 

「うぉぉぉぉぉぉおおお!!」

 

 俺は鎧の後ろから魔力を噴射させてライザ―に高速で近づく!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

「なんなんだ、お前は!!不死の俺に何故、傷をつけることが出来る!!」

「そんな理屈、どうだっていい!!」

 

 倍増した力を全て拳に集中!

 そして一瞬で俺はライザ―の腹部へと撃ちこんだ!!!

 

「俺がここでお前に放つ拳は、全部お前を殺すためのものだ!傷つけられた仲間、皆が流した涙!!無駄にしてたまるかよ!!」

「ッッッッッッ!!!???」

 

 ライザ―はそのまま地面へと衝突するように落ちていく!

 まだだ……お前はまだまだ終わらせない!

 

『ああ、相棒……不死鳥は何度も絶望を味あわせないと死なない。故に』

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

 倍増した力を全て解き放つ。

 普通の篭手で言えばエクスプロージョン……解放の力だ!

 背中の魔力噴射口、足、腕、全てから魔力が放出される……全ての能力を均等に倍増―――倍増!!

 

「フェニックスを、舐めるなぁぁぁぁああ!!!!」

 

 ライザーは極大の炎を光速で放つ!

 

「……そんな炎じゃ俺の鎧は貫けない!!」

 

 俺は避けない!

 こいつの攻撃じゃあ、俺の魂を込めた鎧は敗れるわけがねえ!!

 俺は炎の中を防御もせずに駆け抜ける。

 体中が焼かれるように痛い、でも!

 部長の痛みはもっと大きなもんだった!!

 それなのに俺が弱気を吐けるわけがねえ!!

 

「吹っ飛べ!ライザ―!!」

 

 炎を潜り抜け、俺はライザーの顔面に何度も、何度も拳を入れる!

 腹部、脚部、あらゆるところを殴り続ける!

 時折、こいつが極炎を放ってくるが、気にしない!

 熱くても、こいつに地獄を見せるまでは!!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

「集結しろ!!」

 

 拳に倍増したオーラを全て纏わせる。

 そしてすかさず、ライザ―の顔面を拳で撃ち抜いた!!

 ――――――ッ!!

 

「な、なにぃ……ッ!!?」

 

 ……ライザ―が突然、急いだように俺から離れる。

 ―――俺は今の一撃、確かにあいつを捉えた感触があった。

 それを証拠にあいつの再生は……明らかに速度が遅くなっていた。

 それはつまるところ……奴の限界を意味している。

 だけど、まだ足りない。

 まだ火力が全然足りない。

 あいつを倒すのに、殺すのに―――何回も殺し続けるなんて温い考えはしない。

 俺が欲するのはあいつを完膚なきまで、二度と再生できないほどの力。

 そして俺には―――それ可能にする可能性がある!

 

「―――ドライグ、神器はさ…………想いに応えてくれるよな?」

『ああ。応えてみせよう、相棒の想いに!!』

 

 ……俺は加速したい。

 あの時、俺が部長を救えなかったのは遅かったから。倍増をする速度が、彼女に駆けつける速さが足りなかった。

 ……今でも倍増は枷が外れたように早く出来るだろう。

 ―――だけどまだ足りない。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!』

 

 まだだ、こんなもんじゃ足りない。

 こんなものでは、本当に必要なときに何も守れられない!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBBBBBBBBBBBBBBB!!!!!!!!!!!!』

 

 違う、もっとだ―――もっとだ!!!

 

『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB―――――――』

「―――弾けろ、ブーステッド・ギアァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

 倍増の音声が小刻みになり、俺はそれと共にそう叫んだ。

 俺の鎧は激しい『赤』に包まれており、そしてその形態を変化させる。

 背中の噴射口は更に大きくなり、鎧が煙を噴射する。

 そして―――

 

『Accel Booster Start Up!!!!!』

 

 ……次の瞬間、倍増の速度が加速する。

 

「な、に―――」

 

 俺はライザーの元に刹那で近づき、目にも留まらぬ速度で奴の生命機関を的確に抉るように殴った。

 喉、心臓、肺、膝、脳……あらゆる箇所を連打するように殴りつけ、そして蹴り飛ばす。

 鎧からは力が倍増に倍増を重ね、音声すら追いつかないほど力が高まっていった。

 そして俺はその力と共に…………そこで俺を恐怖する目で見ているライザーへと歩いて行った。

 

「木場とは木刀で撃ちあった。小猫ちゃんとは格闘訓練を何度もした。朱乃さんとは魔力を、アーシアとは神器の使い方――――そして部長とは!正々堂々、お前を倒す作戦を考えた!!」

 

 俺はライザーのもとへと一瞬でたどり着き、そして一発腹部を殴る!

 

「なのにお前は!」

 

 更にもう一度!

 

「勝ちにこだわって、部長を傷つけた!! 俺の仲間を幾度となく傷つけた!!」

 

 気が遠くなるほど、殴り続けた。

 ライザーは再生を続けるも、次第に再生が無くなっていった。

 そして蹴り飛ばすと、ライザーは地面に倒れるが、すかさず立ち上がる。

 ……表情は、絶望だ。

 

『相棒……もう決めよう』

 

 ドライグがそう言う……ああ、そろそろ限界だ。

 ライザーは顔面がクシャクシャになるほど傷ついていて、既に戦意はほとんどなかった。

 倍増を止め、力を全て左腕に溜める!

 鎧も全て解除して、全てをあいつに……ライザ―に!!

 

「や、止めろ!貴様、分かっているのか!?この婚約は悪魔の未来のためのものだ!!お前のような何もしらないガキが、どうこうしていい問題ではないんだ!!!」

「……そんなこと、承知の上だ。そんな事情、今は何の関係もない」

 

 俺はライザーの胸倉を掴み、そしてライザーを宙に投げた。

 成す術もなしにライザーは宙に浮かび、俺は構える。

 

「今ある問題はそんな大それたことじゃない。本当に、些細なことだ」

 

 左腕は激しい紅蓮のオーラに包まれ、俺の出す魔力に鎧がついて来ず、鎧の兜が崩壊する。

 

「部長はな……お前にやられて、全く似合わない――――涙を流していた!!泣いてたんだ、部長は!!小さな夢も諦めて、お前みたいなやつの女にされることが嫌で!!仲間を守ることが出来なくて!!泣いてたんだ!!!」

 

 篭手の宝玉が光輝く!

 

「―――そんな部長は、言ったんだ。助けてって」

 

 その輝きを全て拳に込めて、ライザーに一歩、近づいた。

 

「俺たちと、眷属の皆とずっと一緒にいたいってさ。そんな小さな願いだ。それを俺は守る―――歯ぁ食いしばれ、ライザー」

 

 ―――駆ける。ライザーの落ちてくる袂まで、奴をぶっ倒す一撃を繰り出すために。

 

「俺がお前を倒す理由は!!」

 

 ライザ―の懐に踏む込む。

 拳を強く握り、足で上半身を支え、左腕を振りかぶる!!

 

「それだけで、十分だッッ!!!!」

「―――――ッッッ!!!!?」

 

 落ちてくるライザーの腹部に、確かな俺の拳が抉り込む。

 相手の中心線に向かって、抉り込むように撃つ!

 力は一切、緩めない!

 

「だから、俺は何があろうと負けない―――お前の負けだ、ライザー・フェニックス」

「ば、かな……こんな、ことが……」

 

 ――――――そしてライザ―は、膝から地面へと倒れこみ、そのまま動かなくなった。

 俺はライザーに背を向けたまま、そう言い放つ。

 すると俺の中のドライグは俺に話しかけて来た。

 

『……素晴らしい一撃だった。相棒、お前の勝ちだ』

 

 ああ……行こう。

 ―――皆の元へ。

 

 

 

 

「終章」 紅のキス

 

 

 俺は部長の元にひざまずく。

 体はいたるところ火傷だらけ……でも大したことはない。

 

「言ったでしょ、部長?―――約束通り助けました」

「イッセー……あなたって……ッ!!」

 

 ……部長は俺の顔を見て涙を瞳に溜めながら、頬を赤く染める。

 そして俺は、部長の傍にいた、部長のお父様とお母様に頭を下げた。

 

「ご無礼、失礼しました……ですが自分は間違ったとは思っていません。だから約束通り、リアス様は返してもらいます―――ただ一つだけ。もしまた同じようなことをしようとお考えなら、俺はまた同じことを繰り返すだけです」

「「…………」」

 

 ……二人は黙ったままだった。

 そして俺は部長と仲間を連れて、そのまま会場の外へと出た。

 そしてそこには、レイヴェルの姿があった。

 

「……悪いな、兄貴をぶっ飛ばして」

「いえ……あれほどのことをしたのですわ。あれで反省するでしょう……今は眷属の者に傍について居させていますわ」

「……なら、あいつが起きたら言っておいてくれ―――文句があるならいつでも俺の所に来い。真正面から、いつでも戦ってやるってな」

「―――はいッ!」

 

 レイヴェルはそのまま、会場の中に戻っていく。

 そして俺は会場の外で部長の手を握って、二人で立つ。

 周りで木場や、じと目の小猫ちゃん、朱乃さん、ティア、チビドラゴン、自立歩行型の機械ドラゴンのフェル。挙句、会長までが俺に意味深な視線を送ってくる……ったく、本当にいい仲間たちだよ。

 

「……ティア」

「分かっている。一誠」

 

 ティアは溜息を吐きながらそう言うと、次の瞬間に姿が大きなドラゴンとなった。

 俺と部長はティアの背中に乗り、そしてそのあとを続くように……とはいかなかった。

 

「行きなよ、イッセー君。残念ながら、部長の御供は君だけで十分なようだよ」

「……なら、部室で待ってるぞ!祐斗、小猫ちゃん、朱乃さん、アーシア!」

 

 そしてティアはそのまま上空へと飛ぶ。

 チビドラゴンズのフィー、メル、ヒカリは疲れたのか、眠っていて、現在はティアが腕で抱きかかえて飛んでいた。

 

「……バカね、イッセー。そんなに傷だらけになって、私のため何かに……」

「なんか、じゃないです。部長だから、助けたんです」

「ッ!!」

 

 ……部長は顔を真っ赤にして、俺から視線を外してしまう。

 

「もうっ……イッセーってそれ、わざとなのかしら……」

「?」

 

 何を言っているのか分からなかったけど、部長は俺の首に腕を巻きつけたまま、抱きしめてくる。

 

「でもありがとう、イッセー……でも今回は破談になったかもしれないけど、また次の婚約が来るかもしれないわ」

「大丈夫です。何度来ても、俺がこう言ってやります―――『部長を自分のものにしたいなら、まずは俺を倒せ』……って言って、もし突っかかってくるようなら全力で潰します!!あ、さっきの台詞は忘れてくださいね?あの場で大げさに言って、ド派手にことを進めようとしたので」

「それは、無理な相談ね―――なんたって………………んっ」

 

 ―――――何が起きたか、俺には最初、分からなかった。

 俺の唇に、冷たい、でも暖かくて柔らかいものが当たる。

 それは数秒、ずっと続く。

 そう、俺は……部長とキスをしていた。

 

「……だって、あなたは私を本気にさせてしまったんだから」

「え……は?な、何がおきて……って何を言って……」

「……だから、その……私があなたにキスしたのよッ!日本ではファーストキスは女の子は大事にするものなのでしょう?だからあなたにその……あげたのよ―――責任、とらないと後がひどいんだからね?」

 

 …………俺の脳内は、真っ白になる。

 

『うがぁぁぁぁぁぁぁああ!!?リアス・グレモリー!!貴様、よくもわが息子のぉぉぉぉ!!!』

『許しません!!許しません!!!高々上級悪魔の分際で!!キイィィィィィィ!!!』

 

 がぁぁぁああ!!?

 俺の中のドラゴンがあまりのことで叫んでいる!?

 

「おい、一誠!!お姉さんの上で何をしている!?私はそんな風にお前を育てた覚えはない!!」

 

 俺もねえよ、育てられた覚えは!!

 

「……うふふ。あなたは本当に素敵よ。それに私の全てはイッセーのものなんでしょう?――――こんな素敵な男の子、私は逃がさないわ」

 

 部長は満面の笑みでそう言うと、大変なことになっている俺に抱き着いてくる。

 ―――まあ、いっか。

 部長の笑顔を見れたら、それで。

 ずっと暗かった部長の笑顔を見れて、俺は肩に力を抜く。

 ……キスは驚いたし、たぶんここから滅茶苦茶大変だと思うけど。

 

「それと私、イッセーの家に住むことにするから」

「へぇ……―――えぇぇぇぇえええ!!?」

「当然よ……イッセー、貴方は私のイッセーよ」

 

 …………ああ、もう俺の女難は消えないようだ。

 ―・・・

 

 あれから部長は悪魔の交渉術を使って母さんを説得した。

 理由としては、まさかの親が無理やり許嫁を決めて、俺がそいつをぶっ飛ばしたという割と真実を告げて、それによって母さんが俺を褒めて、テンションが上がった母さんにノリでお願いして、そしてノリで了承された。

 そんなところで頭を使わないでくださいよ!

 まあその同居の決定の際に、母さんから与えられた試練に部長は四苦八苦し、中々同居に至れなかったという裏話も存在しているが……

 ……ちなみにアーシアは部長を妙にライバル視している。

 部長の言うところ、アーシアの方が私よりも7歩先にいると言っていた。

 まあ詳しい意味は分からないけど。

 ちなみにライザーは生まれて初めて敗北と恐怖により、寝込んだとレイヴェルが苦笑いをしながら俺の家までやってきて言っていた。

 ……何はともあれ、こうしてライザーとのいざこざは幕を閉じた。

 グレモリーとフェニックス間で色々とまだ交渉みたいなもので、グレイフィアさんはとても大変らしいけど。

 …………例えば、また部長を泣かせる奴が現れたとしよう。

 その時は、俺はまた今回みたいにそいつをぶっ倒す。

 無理してでも、体を張ってでも。

 なんでそこまでするかって?

 そんなもの、決まってる。

 ―――それは、グレモリー眷属が……仲間がそれほどのことをしたいと思うくらい、大切な存在だから。

 ……理由なんてそれだけで良い。


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