ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第4話 開始と直前のドラゴンです!

 10日間の修業期間を果て、俺達は色々な事をした。

 俺の場合は毎日の日課であるランニングを2倍に増やし、更に3日に一度、ティアとの鍛錬。

 更に神器の応用を考えて神器の性質を再認識するためにドライグやフェルと相談をしたり、小猫ちゃんと木場との実践訓練。

 おそらく禁手(バランス・ブレイカー)は間に合わないことを想定して、禁手化に変わるライザーを倒すための戦法とかも思いつき、恐らく、俺が今までしてきた修行の中では最も効率的で、効果的な10日間だったと思う。

 小猫ちゃんと木場は戦いに少しは慣れた様子で、これなら心配は少ないだろうと言えるくらいに強くなっているはずで、アーシアは神器による回復の速度が著しく上がったはずだ。

 部長とは戦術の話をして、朱乃さんとは魔力の集中なんかを習ってみた。

 …………そして今、俺は自分の自室にいる。

 ゲーム開始は今日の夜。

 今はまだ夕方で、陽はまだ明るい。

 

『相棒、すまないな。禁手がまだ間に合わなくて……』

「気にするな。それに……禁手がなくても戦えるよ」

 

 俺はそう言うと、すると次にフェルが出てきた。

 

『しかしまさかあんなことを思いつくなんて……正直、主様には驚きました』

「……まあ何度か試して見たから大丈夫だとは思う。調整に関しては今回は戦いの中で神器を調整するさ」

 

 そう……俺が見つけた神器の新しい可能性は正直、これからの俺の戦い方を大きく広げてくれるものだ。

 まだあまり連発は出来ないけど、伸びる可能性は大きい。

 

「それにしても……すごい暇だな、この時間」

 

 俺は制服に着替えている。

 部長曰く、ゲームは正装でするらしく俺達の正装は制服ということになった。

 動きやすいし、別に運動能力に問題はない。

 

「ああ、暇だ…………暇つぶしにアーシアで癒されるか」

『暇つぶしの癒しなど聞いたことがないぞ、相棒』

「……分かってるよ、冗談だ。アーシアは道具じゃない」

 

 そんなことをしたら、俺はあの焼き鳥やろうと同じになっちまうよ。

 …………っ?

 なんか今、形容しがたい大きさの何かを感じたんだけど……

 まるで無限のように力が存在する、湖のような感覚。

 まるで俺を観察するような雰囲気を感じる。

 

『……まさか。いや、奴がこんなところにいるはずが』

『ですがドライグ。私も一瞬、感じました……今の波動はまさしく―――ドラゴン』

 

 二人は何を言っているんだ?

 無限の感覚とドラゴン…………まて、俺はその組み合わせを知っている。

 そんな存在、どこの世界を見ても一人しか存在しない。

 俺は急いで、さっき力を感じた方を見た。

 それは窓の外でしかも……俺の家の前にいた。

 

「……まさか今日会えるなんてな―――無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)!」

 

 俺は世界最強クラスのドラゴンの登場に心を躍らせた!

 その存在は、俺は転生前から聞かされていた。

 戦いたいわけではなく、俺は単に伝説の存在と話してみたかったんだ。

 世界の敵になるわけでもないのに、その存在が危ぶまれ、あらゆる勢力からその力を危惧されているドラゴン。

 俺はすぐに部屋を出て、玄関へと向かう。

 そして扉を開け、そこにいる存在へと視線を送った。

 

「……はじめまして、伝説のドラゴン」

 

 ……そこにいたのは、至って普通の女の子だった。

 ゴスロリの黒いヒラヒラの服に、真っ黒な髪、真っ黒な瞳……どこか神秘的な想像を膨らませるほどの無表情。

 小猫ちゃんと似ているようで、似ていない。

 その少女から湧き出る力は、でも本物だ。

 例え俺が持てる力を全て出し切っても傷一つ付かないであろう、そのオーラ。

 

「……我、伝説のドラゴンじゃない。我、名はオーフィス」

 

 すると無限のドラゴン……オーフィスは訂正を促せるような発言をした。

 なるほど、オーフィスにもドライグやフェルと同じでちゃんとした名前があるんだな。

 これは失礼なことをした!

 

「……オーフィスがこんなところにいる理由は分からないけど、ここではなんだ、どこかで話そうぜ」

「……なぜ?」

「俺がオーフィスと話してみたいからさ。俺はオーフィスに興味がある、オーフィスだって興味があるから俺の所に来たんだろ?―――だったら会話しよう!その方が楽しそうだろ?」

「…………それは楽しそう。我、ドライグ、ついて行く」

 

 ……ドライグって言うのは恐らく俺のことなのか?

 ってことオーフィスは俺のことを赤龍帝と分かってここに来ているってことか。

 とにかく俺は靴を履き替え、明らかにただの美少女にしか見えないオーフィスと並んで歩く。

 そして少し歩くとそこには公園があり、既に夕方と言うこともあり誰も公園にはいなかった。

 

『……相棒、なぜそいつと普通に話せる。いや、話そうと思う。そいつは世界で最高クラスに危険なドラゴンだ』

『主様の危機管理能力ならば、わざわざ二人きりになろうとなど……』

 

 ……悪いな。でもなんか感覚的にこいつは放ってはおけないんだ。

 なんていうんだろ……ドラゴンの癖にさ、こいつは鎖でつながれている感覚が何となくするんだ。

 それに先入観に囚われて、初対面の相手を否定するって方がおかしい話だよ。少なくともオーフィスからは敵意のようなものは感じない。

 だから少しの間、俺に任せてくれないか?

 

『『………………』』

 

 二人は押し黙るけど、これは了承ということで受け取る。

 そして俺はオーフィスをベンチに座らせ、そして公園の外にある自販機で適当なジュースを買って一本をオーフィスに渡した。

 

「……これ、何?」

 

 オーフィスは俺から手渡されたジュースの缶を不思議そうに見ながらそう尋ねてくるけど……そんな普通の物のどこが不思議なんだろう。

 

「それはジュースっていうんだ。飲み物だよ」

「それは、お菓子よりおいしい?」

「……同じくらいはおいしいんじゃないか?」

「ならば、我、ジュース、飲む」

 

 そう言うとオーフィスはジュースを飲もうとするんだけども……プルタブの開け方が分からないらしい。

 なんか非常に首を傾げている。

 ……プルタブに苦戦する世界最強の存在もなかなかシュールだな。

 

「開けるから貸してくれ」

 

 俺はオーフィスから缶ジュースを貸してもらうと、そのままプルタブを開けてオーフィスに渡す。

 オーフィスはそれを不思議そうに見つめながら、そのままジュースを飲んだ。

 

「……これは、お菓子とよく合いそう。我、気に入った」

「まあ合うと思うよ?」

 

 俺は驚いているオーフィスを見て苦笑しながら自分のジュースを飲む。

 なんていうか、気の抜けたドラゴンだよ。

 

「……それで、なんで世界最強のオーフィスがこんなところにいるんだ?」

「…………我、ドライグに会いに来た」

 

 ……するとオーフィスは俺をじっと見つめてそう言ってくる。

 俺を?それともドライグを?

 

『……オーフィスよ。どういうつもりだ?』

 

 するとドライグは俺の手の甲から宝玉から声を周りに聞こえるようにして、そしてオーフィスに話しかける。

 

「我、会いに来たの、龍、じゃない……人のドライグ」

「……俺はドライグじゃなくてさ、兵藤一誠っていう名前があるんだ。イッセーって呼んでくれ」

「なら、イッセー、会いに来た」

 

 ……オーフィスは素直に俺の名を呼ぶ。

 あれ?思ってたのとこいつはなんか違う。

 なんか、オーフィスは純粋っていうか……何でも受け取ってしまうそうな、そんな感受性を見受けた。

 

「俺に?なんで……」

「我、少し前に瞬間的、圧倒的なドラゴンの力を感じた。それ、グレートレッドの力、似ていた」

「……ああ、強化した神器の力か」

 

 恐らくそれは堕天使との戦いの時の赤龍神帝の篭手(ブーステッド・レッドギア)の一撃のことなんだろうな。

 まああのドラゴンの名前を頂戴しているくらいだから、そりゃあ少しは力が似通っても不思議ではないか……そう、真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)の名を。

 

「でも、違った。イッセーの力、グレードレッドのもの、まるで違う。感じたことのないドラゴン、そして力に、悲しみ、怒り、苦しみ、想い。色々混ざった力。でも、温かなドラゴンの、波動」

「……そんなに、分かったのか?」

「……イッセー、何者?何代かの赤龍帝、我、見てきた。でもイッセー、どの赤龍帝とも違う。力、求めてない。でも力、手に入れようとしてる……何故?」

 

 ……オーフィスはどこまで分かっているんだろうな。

 何もかも、俺のあの時の一撃で分かったのならば、こいつはどれほどの純粋なドラゴンなんだろう。

 いや、そこまで分かっても何も分からないほど、このドラゴンは無垢なのか。

 

「守るため、救うために力を欲する。それが俺の掲げる赤龍帝の真髄だ」

「……守る、赤龍帝?」

「ああ。助けを求める人を助ける。仲間を命がけで救う。それが俺のしたいこと……俺はさ、優しいドラゴンって呼ばれたいんだ。最高の赤龍帝。そんな二つ名を、欲しているんだ」

「……イッセー、優しいドラゴン。我、認める。イッセー、歴代最高の赤龍帝」

「……いや、そいつは誰かにつけて貰うじゃダメなんだ―――皆に認められて、自分が自分を認めないとなれない」

 

 オーフィスは俺の手を握りそう言ってくるが、俺はそう返す。

 ……オーフィスの真意は何なんだろう。

 

「我、イッセーに頼みたい。助け、望む」

「助け?」

「うん。我、静寂を手に入れたい」

 

 オーフィスは無表情のままそう言う……どういうことだ?

 

『相棒、そもそもこのオーフィスとグレートレッドというドラゴンは、この世界では生まれていない。この2匹……いや、奴も入れれば3匹は次元の狭間で生まれたドラゴンだ』

 

 奴?

 

『わたくしのことです、主様』

 

 するとフェルが俺の胸より宝玉となって、オーフィスにも聞こえるように話しかけてくる。

 

「……誰?」

『わたくしは神創の始龍(ゴッドネス・クリエイティブ・ドラゴン)のフェルウェル……歴史から名を消された、始まりのドラゴンです』

「我の、敵?」

『いえ……それにしても静寂を求める。ですが貴方は確かグレートレッドに……負けたはずです』

 

 ……フェルはどこまで知っているんだ!?

 ―――って、知っていて当然か。

 フェルは次元の深奥に永久ともいえる長い時間、神器の中に封印されていたんだからな。

 詳しい情報源がどこからかは知らないけど、フェルが嘘を付くなんてことはない。

 

『そして貴方はグレートレッドのいる次元の狭間を追放された。だからあなたは……』

「故に我、静寂を求める」

 

 ……静寂、か。

 俺はそんなもの考えられない。

 静寂とか、一人とか……そんなの悲しすぎて俺には無理だ

 

「イッセー、我、グレートレッドを倒したい。でも我、一人では不可能。故に、イッセーの力、貸して欲しい」

 

 ……オーフィスは本気だ。

 この目は本気でそう言っているんだ……だったら俺はどうするべきだ?

 助けを求めるオーフィスを、俺はどうしたいんだ。

 救いたいか?……いや、違う……それ以上に俺は―――

 

「……オーフィス、お前には友達っているか?」

 

 この()の友達に、なりたい。

 

「友達?」

「ああ。仲のいい友人のことでさ……仲良く話したり、一緒に遊んだり。こんな風に相談したりする存在。そんな存在、いるか?」

「……我、そんなものがいたことない」

「……なら俺はオーフィスと友達になりたいな」

 

 俺はオーフィスの髪を撫でてそう言うと、オーフィスは目を見開いていた。

 

「相談されたからな……そのことは、今日の俺の戦いを見てから決めてくれ」

「……戦い?」

「ああ……今日さ、俺の大切な仲間があるやつに奪われそうになっているんだ。だからその大切な仲間を助けるために俺は戦う。だから見ていてくれ。俺の戦いを」

 

 ……陽は、暗くなっている。

 あと数時間もすれば俺達は戦いになるだろう……だからそれを見てオーフィスには分かってもらいたい。

 戦う理由が、自分だけの利益のためだけじゃないことを……仲間のために戦う価値を。

 

「……我、イッセーの戦い、必ず見る」

「ああ……とりあえずは俺はオーフィスと友達になりたい。それについての返答が欲しいな!」

「……友達、なると、何に、なる?」

「そうだな。とりあえずいつでも一緒に居れる。それと今みたいに相談に乗れるし、助けることも出来る。何より―――笑顔でいれる」

 

 俺はそう言うと手を差し出す。

 

「?」

「これは握手だよ。友達になるための、簡単な契約?」

「……それは、是非、契約する」

 

 そういうとオーフィスは俺の手を握りしめた。

 そして俺は、一人家へと向かったんだ。

 オーフィスは俺を見送るようにその場に佇んでいた。

 その表情は一番最初に見たときの、無機質なものではなく……どこか嬉しそうな微笑みを浮かべていた。

 ―・・・

 

『主様。なぜ、わざわざオーフィスにあんなことを……』

 

 俺は再び自室に戻り、椅子に座って時間を待っていた。

 そうしていると俺の中のフェルは俺に、先ほどの俺の行動について聞いていた。

 ……そう聞かれてもな、実はあまり理由なんてものはないんだ。

 強いて言うなら……

 

「何となく、オーフィスは放っておけなかったんだ」

 

 そう言うことだ。

 あいつは良い意味でも悪い意味でも純粋なんだ。

 言われたことを何でも信じてしまうような危うさと、何でも純粋な気持ちで捉える純粋さを兼ね備えている気がした。

 だからあいつを見てると放っておけなかった……たとえ、最強クラスの力を持っていても、あいつが夢幻でも無敵とは俺には思えなかった。

 

『……この世界広しといえど、どれだけ探してもオーフィスを守りたいと思うのはお前だけだと思うよ、相棒』

「……皮肉だな。でも悪いけど譲らない」

 

 ああ、譲らない。

 それにオーフィスは既に俺の友達だからな。

 そうしていると、俺の扉を控えめにトントンと叩く音がした。

 

「……アーシアか?」

「は、はい!その……」

「ああ、入っていいよ」

 

 俺はアーシアにそう言うと、アーシアは俺の部屋の中に入ってくる。

 俺は部屋に入ってくるアーシアの姿を見て、素直に驚いた。

 なんたってアーシアは……初めてあった時と同じ、シスター服を着ていたからだ。

 

「あはは……部長さんが一番、良い服を着てきなさいと言われたもので……悪魔が修道服なんて、変、ですよね?」

「……全然、むしろその服はアーシアしか似合わないよ」

 

 アーシアは不安げな顔だったから、俺は素直な感想を言うと、アーシアは嬉しそうな表情になった。

 ……アーシアは良く表情に現れる子だもんな。

 

「……怖いのか? 今から、戦うことが……」

「…………はい。正直、部長さんの未来の掛かった戦いと思うと、どうしても怖くて……だから、一緒にいても、いいですか?」

 

 俺は頷くと、俺はベッドに腰掛けてアーシアは俺の隣に座る。

 そして俺の腕をからめて、ぎゅっとしてきた。

 

「……イッセーさんがいてくれたら、大丈夫です」

「ああ。俺がいる限り、あいつの好きにはさせないさ。そのためにこの10日間、死に物狂いで修行したんだからさ」

 

 ……ああ、負けないさ。

 アーシアだって、部長だって、小猫ちゃんに朱乃さん、木場だって頑張って来たんだ。

 それに……オーフィスだって見てる。

 皆の想いを無駄になんかしない。

 

「皆で勝つ。あのライザ―をぶっ倒して、みんなで明日は笑顔で入れたらいいな」

「……はい!」

 

 アーシアは先ほどのような気弱な声ではなく、気合いを入れたはっきりとした口調でそう言った。

 

「それはそうと……イッセーさんは先ほど、急いでどこに行っていたんですか?」

「う~ん……そうだな。新しく出来た友達とお話、かな?」

 

 俺は少し言葉を濁してそう言うのであった。

 そしてしばらくの間、俺達はじっとその場で座って話をするのだった。

 

 ―・・・

 

 日付が変わる寸前の0時にさしかかる前の11時40分ほどの時間帯……

 俺とアーシアを含めたグレモリー眷属の皆はオカルト研究部の部室に集まっていた。

 顔合わせは半日ぶりか?

 小猫ちゃんは拳に皮のオープンフィンガーグローブを付けて、木場は帯剣している剣をじっと見ている。

 部長と朱乃さんはさすがと言ったほど落ち着いていて、アーシアは俺が傍にいるからか、比較的に落ちついていた。

 

「木場、小猫ちゃん。戦う前から肩に力が入っててどうすんだよ。そんなんじゃ些細なミスをすんぞ!」

 

 俺は冗談交じりに二人の肩を叩くと、二人は驚いたように俺の顔を見てきた。

 

「……そんなに顔に出ていたのかい?」

「いいや……ただ他に比べて戦闘準備が入念過ぎたからやま勘で言った。ま、正解だったから良いだろ?」

「…………確かに肩に力が入り過ぎていたのかも知れません」

 

 そう言うと、二人は少しだけ肩の力が抜けたように溜息を吐く。

 

『……相棒、どうやらオーフィスは本当にこの試合を見るようだ。先ほどから小さく、こちらの様子を観察している奴の波動を感じる』

 

 ……そっか。

 ならいい、あいつには俺の戦いを見て貰いたい。

 自分の目的だけじゃなく、誰かのために戦うことを。

 

「……皆様、準備はお済なりましたか?」

 

 ……すると試合開始の10分ほど前に銀色の魔法陣が展開され、その中からグレイフィアさんが現れた。

 そしてグレイフィアさんが俺達を少し目を見開いたように見てきた。

 

「……たかが10日で随分と変わられましたね。お嬢様、私の立場上申し上げにくいのですが…………頑張ってください」

「……ええ。最善はつくさせて貰うわ」

 

 そう言うとグレイフィアさんは部長から視線を外し、そのまま部室の真ん中に立った。

 

「ちなみに、このゲームは魔王であるサーゼクス・ルシファー様も見ていられます」

「お、お兄様が!?」

 

 …………え?

 今、部長……魔王様をお兄様って言った?

 

『……例の先の戦争で先代の魔王は全て死んだそうです。それで新しい魔王を作るべく、悪魔の強者を魔王にしたのではないでしょうか?』

 

 なるほど……それなら部長のお兄様が魔王で、しかも名前が違うことも納得だな。

 ルシファーの名を受け継ぎ、そして魔王となったのが部長のお兄様、サーゼクスさんってことか。

 ルシファーは名前ではなく役職……魔王が役職って言うのはなかなか新しい発想だな。

 

『なるほど……リアス・グレモリ―が当主なのは、兄が魔王になったからか』

 

 ドライグも納得しているようだった。

 

「では皆様、この魔法陣の中にお入りください」

 

 グレイフィアさんは部室の真ん中に魔法陣を展開させる。

 そして魔法陣の中に入ると、次の瞬間、魔法陣が光を出し始める。

 

「これにより皆様を先頭フィールドにご案内します。それでは、ご武運を……」

 

 そして次の瞬間、俺達は光に包まれながら転移していった。

 ―・・・

 

 目を開けると、そこは何の変哲もない今までいたはずの部室だった。

 転移をしたはずだけど……

 

『皆様、この度、フェニックス家とグレモリー家の試合に置いて、審判役を任せられましたグレモリー家の使用人、グレイフィアと申します』

 

 ……するとアナウンスのような音声で、どこからかグレイフィアさんの声が聞こえた。

 

『この度のレーティングゲームの会場として、リアス・グレモリー様方の通う、駒王学園の校舎を元にしたレプリカを異空間に用意させていただきました』

 

 ―――異空間って、もしかしなくても……

 

『ああ……相棒の思うとおり、次元の狭間だろう』

 

 ……そっか。

 俺は一応、部室の窓のから外の風景を見てみる。

 …………悪魔の魔力って恐ろしいものだな。

 学校そのものが俺の視線の先にはあって、空は何とも言えない色で覆われていた。

 

『両者、転移された場所が本陣でございます。リアス様は旧校舎、オカルト研究部部室、ライザー様は新校舎の生徒会室でございます。『兵士』は互いの敵地に足を踏み込めた瞬間、昇格を可能とします』

 

 ……つまり俺が新校舎に入ればその瞬間に昇格できるってことか。

 分かりやすいな。まあ俺は今回の戦いで『兵士』の性質はあんまり関係ないけどな。

 

「全員、耳に通信機をつけなさい」

「……通信機?」

 

 部長の言葉に俺は少し首を傾げる……っていうか通信機ってもしかして、この光の球のことか?

 俺は部長の周りで浮遊するいくつかの球体を見ながらそう思った。

 

「通信機と言っても、魔力を介した物よ。この光を耳に入れれば、仲間間で会話が出来るわ」

 

 そう部長が説明してくれると、俺は部長に言われるがまま、光を耳に入れる。

 

「……準備は完了だわ」

 

 部長は席を立ち上がる。

 それと同時に校内にグレイフィアさんの声が響いた。

 

『それでは0時になりました。開始の時間となります。制限時間は人間界の夜明けまで。ゲームスタートです』

 

 ……そして校内に鐘の音が鳴り響く。

 それはゲームの開始時間と暗に告げているようだった。

 

 ―・・・

 

「さて・・・じゃあまずはどう攻めるかを決めましょうか」

 

 ……元々、俺の考えていた試合とは短期決戦の攻防を入り組んだ超大戦と思っていたんだけど、10日間である程度、俺はゲームを理解した。

 部長と戦術を考えていたのもあるんだけど、それ以上にレーティングゲームは面白い要素がある。

 悪魔をチェスの駒として動かし、最後は『王』をチェックメイトする……

 単純だけど、それゆえに面白い。

 それがレーティングゲームだ。

 

「……イッセーと私は戦術を考えたわ。でもそれのいずれも型にはまりすぎている気がする―――イッセー、どう思う?」

「はい……確かに色々考えはしましたが、結局は臨機応変に戦場で戦わなければなりません。だからこそ、まずは俺はここ以外に自分達の領域を増やそうと思いましたが……」

「……それの場合、長期戦になるわね」

 

 ……その通りだ。

 人数がフルでそろっているならまだしも、長期戦では俺達は不利すぎる。

 向こうは全部で15人、全てがそろっていて、更に王であるライザ―は不死身。

 やるなら短期決戦しかない。

 

「……体育館を仮にライザー達に取られてしまうと、こちらは不利になるわ」

「体育館はチェスで言うところのセンター……先に取られたらこっちは不利ですね」

 

 木場はそう言うと、俺は考える。

 長期決戦は不利だから避ける、でも体育館を占拠されたらまずい。

 体育館は比較的こちらの旧校舎側にあって、そこを占拠されたらこちらに手が出し放題だ。

 特に『兵士』は8人全員がこちらの校舎に入ると全員、『女王』になる恐れすらある。

 …………危険だ。

 

「…………なら部長、逆の発想をしましょう」

「逆の発想?、…………ッ!」

 

 すると部長は何かに気付いたようだった……よし、部長も俺と同じことを考えたようだ。

 

「……イッセーの考えることは驚きね。ならまずはこちらの校舎に近づけない小細工をしなきゃいけないかしら……朱乃」

「はい、部長」

 

 朱乃さんは納得したような表情で、部室から出ていく。

 おそらく、部長は朱乃さんに旧校舎をカモフラージュするための幻術を用意するようなことを指示したんだろうな。

 

「祐斗と小猫は森にトラップを。恐らく、ライザ―は最初にこの校舎に『兵士』をいくつか投入するはずよ。その際にこの校舎への道は森よ」

「はい、部長」

「……わかりました」

 

 小猫ちゃんと木場は朱乃さんと同じように部室からいったん出ていく。

 

「……部長、体育館には俺と、もう一人誰かで向かった方が良いと思うのですが」

「そう考えていたわ。そうね、『騎士』は正直、室内よりも室外での戦闘の方が向いているわ……機動性があるもの。ならここは小猫かしら」

 

 ……妥当なところだ。

 小猫ちゃんの防御力と攻撃力は室内の方が生かせるはずだ。

 

「……全く、イッセーの使いどころは多すぎて逆に困るわ……祐斗の言ったオールラウンダーっていうのは伊達じゃないわね」

「それで?恐らくは部長の考えることと俺の考えることをは同じだと思うんですが……」

「そのことは後でいいわ。それよりも……こっちに来てここに寝なさい」

 

 ……すると部長は俺を自分の太ももの所に指差して、そのまま寝なさいと言ってくる。

 ―――なんでだ?

 俺がそう尋ねようとした時、部長はそれを見越して話しを続けた。

 

「この戦いは貴方が要なの。だからイッセーには体を休めて貰わないと……」

 

 ……そして俺は言われるがまま、部長の太ももに頭をのせ、ソファーに横になった。

 

「むぅ~~………………」

 

 アーシアが嫉妬めいた視線で涙ながらに俺を睨んでくる!

 予想はしてたけどアーシア!そんな目でお兄さんを見ないでくれ!

 

「……くすくす。相変わらず、面白いわね。イッセーは」

 

 ……部長はそう言うと、俺の頭を優しく撫でてくる。

 ――――――すると、俺の中で何かが外れた気がした。

 

「ぶ、部長、これは……」

「……貴方を悪魔に転生させる際にね、貴方の力はあまりにも大きすぎたの。だから私はたかだか人間がそんな力を持って転生したら、体が持たないと判断し、貴方の力をいくつかに分けて封印したのよ……杞憂だったけどね」

 

 ……つまり、部長は俺の中に存在する封印を解いたってことか?

 だから俺は力が溢れている。

 

「とは言っても、既にいくつかの封印が貴方の力に耐えきれなくなって壊れていたんだけどね?全く……すごいわ、イッセー」

 

 ……堕天使の時の神器の覚醒によるものだろうな。

 とにかく、俺の中の縛りはなくなったってことか。

 これならあの力(・ ・ ・)も、もっと使えるかもしれない。これは嬉しい誤算だ。

 

「……あなたが悪魔に転生出来たのは今さらながら奇跡でしょうね。変異の駒を3つも使っても転生できない23個分の『兵士』……最強の『兵士』よ、イッセーは」

 

 最強の『兵士』、か……良い名前だ。

 優しいドラゴン、最高の赤龍帝、最強の兵士……全く以て大層な名前が並ぶな。

 

『だが事実だ。それに俺も心地が良い……相棒の力が近くで分かる』

『主様、今すぐあなたと共に戦いたいです』

 

 はは……二人は既にやる気満々だな。

 かく言う俺もやる気が俄然、湧いてきたよ……それはそうと、何か知らないけどアーシアが頭を押さえているんだが。

 

「うぅ……部長さんがそんなことを考えていたなんて!私はそれなのに部長さんに嫉妬を抱いたなんて―――ああ、主よ、罪深い私に、ひゃう!!」

 

 ……アーシアは神に祈りをささげ、そして激しい頭痛に見舞われる。

 アーシア、俺達は悪魔なんだからさ?

 神に祈ったらそうなるんだよ……俺は切にそう思った。

 

『部長、僕と小猫ちゃんの準備、整いました』

『こちらもですわ、部長』

 

 ……木場と朱乃さんの声が通信機から聞こえる。

 なら俺の出番か。

 

「朱乃は旧校舎の屋根で待機、祐斗は相手の『兵士』を森で警戒しながら待機しておいて……そして小猫はイッセーと合流、そして体育館に向かいなさい」

 

 その言葉で俺達は同時に了承する。

 

「さあ……グレモリー眷属を怒らせたらどうなるか、フェニックスに分からせてあげましょう!」

 

 それは宣戦布告としてはありがたいほど、意気の入った声だった。

 ―・・・

 俺は体育館付近で小猫ちゃんと合流し、そのまま裏口から体育館に入る。

 俺達は舞台袖で相手がいるかどうか窺っていて、そして小猫ちゃんは俺の服の裾を掴んでいた。

 ちなみに俺は部長にあること……それはライザーが考えそうな作戦をいくつか予想して教えておいた。

 真実かどうかは分からないけど。

 

「……ま、隠れていても意味はないか。小猫ちゃん、敵さんのお出ましだ」

「…………イッセー先輩は潔いというか、勇気があると言うか。でもそこがカッコいいです」

 

 ……小猫ちゃんにそう言われたのは初めてだな。

 そう思いつつ、俺達は舞台の真中に立つと、すでに体育館の中心にはライザ―の眷族の数人がいた。

 チャイナドレスの女の子、ブルマ姿の双子の女の子、そしてライザ―の命で俺を襲った棍棒を持ったミラっていう女の子だ。

 

「こんにちは、グレモリー眷属の下僕さん……っとあなたでしたか。あのライザー様に喧嘩を売った殿方」

「どちらかと言ったら売られただよ。―――俺は兵藤一誠。リアス部長の下僕にして唯一の『兵士』…………そう言えば、この前は悪かったな、ええっと……ミラちゃん、だっけ?襲ってきたとはいえ、少し怖い目にあわせて」

「……べ、別に気にしてませんので……!」

 

 ん?

 なんか妙に顔が赤いっていうか……って小猫ちゃんが俺の脇腹をつねってきて地味に痛い!

 

「……全く、天然で戦闘中に女の子を口説かないでくださいッ」

「く、口説いてないよ!?小猫ちゃん!」

 

 俺は小猫ちゃんに食いつくと、小猫ちゃんは相変わらず俺の裾を握っている。

 

「私はライザー様に使える『戦車』、シュエランよ」

「『兵士』のイルで~す!」「ネルで~す!」

 

 双子の女の子とチャイナドレスの女の子がそう言って自己紹介してくる。

 

「……レイヴェル様があまり傷つけるなと言っていたけど、残念だけど貴方達はココで退場よ」

「……こ、この前の雪辱……は、晴らします!」

 

 未だ顔が赤いミラちゃん……なんでだろ?

 ま、どうでもいいか。

 とりあえず、舐めた口を聞いてくれたおかげで俺の中のドラゴンが怒り心頭だ。

 

『よし、5秒で地獄送りだ』

『主様、最初から全開です!』

 

 それは飛ばし過ぎ!?

 ……まあ最初は様子見も兼ねて行こうか。

 

「小猫ちゃん、俺達のデビュー戦だ。いくぞ!―――いいか、ライザーの下僕!俺たちグレモリーを易く見てると、思いがけない痛手を被ることになるぞ!」

「…………はい!」

 

 そして俺と小猫ちゃんは相手の方に向かって舞台から飛び降りて、そのまま向かって行った!

 

『Boost!!』

 

 そして俺は篭手を出現させ、戦いの狼煙のように篭手から音声が鳴り響くのであった。


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