ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

18 / 138
第3話 修行と想いと新しい戦い方の模索です!

 部長とライザーの野郎との、未来を懸けた『レーティングゲーム』が10日後に決まったその翌日。

 俺達は満場一致で自分達を鍛えようということになった。

 ちなみに修行場所は人間界のある山奥で、そこにはグレモリー家の別荘があるらしく、更にそこはその場所のほとんどがグレモリー家の所有地らしい。

 だから多少暴れても大丈夫だろうと勝手に想像する俺だ。

 ちなみにここで一応言っておくが、鍛錬と言っても様々な種類がある。

 一つは俺が好んでよくやる、体を痛めつけまくって体の性能そのものを鍛える修行。

 基本的に俺はそれだ。

 でも短期間で強くなろうと思うなら、体を強くするのは不可能だ……ということ今回の鍛錬合宿は主に戦闘に慣れる主軸で動くと部長はまず宣言した。

 …………そして今、俺達はその別荘まで徒歩で向かっている!

 

「ふぅ……意外ときついものだね、イッセーくん」

 

 明らかに重いであろう大きなリュックサックを持つ木場は、爽やかな汗をかきながらそう言ってきた。

 既に歩き出して2時間ほどだ。

 ある程度までは電車で向かい、そしてそこから徒歩で基礎体力をつくる鍛錬。

 ちなみに俺は木場より大きな荷物を持っているわけだけど、更に部長と朱乃さんの荷物すら持っているという、なんか罰ゲームで荷物を持たされる小学生みたいな気分だ!

 

「……アーシア、大丈夫か?」

 

 俺は少し小さいが、それでも重量のある荷物を背負うアーシアにそう尋ねると、少しばかり疲れているようだがまだまだ元気なアーシアがそこにいた。

 

「はい!イッセーさんと毎朝走っていますから!」

 

 ……そう、アーシアは悪魔になって俺の家に住み始めてから毎日の俺の日課に付き合おうようになった。

 初めは少し走るだけで息が切れていたけど、最近ではその効果か、少しずつ体力がついてきた。

 それのおかげか、アーシアの神器を扱う技術も上がってきていて、俺はアーシアは実はすごい努力家ってことを知ってたりする。

 ……するとひときわ大きな荷物を背負う、小猫ちゃんの姿が俺たちを横切った。

 

「…………イチャつくのは目につきます、イッセー先輩」

 

 小猫ちゃんは俺をじと目で睨んできて少し怖い……そして何より怖いのは俺の二倍近くの荷物を持っていることだ。

 これは部長の命令なんだけど、『戦車』の特性は力と防御だからな……これくらい、わけないか……

 

「…………イッセー先輩、別荘に着いたら頭を撫でてください」

 

 ……最近の小猫ちゃんは非常に甘えん坊なのであった。

 

「……一応、僕は騎士だからこういうのは苦手なんだよね」

「アーシアが頑張ってるんだぞ!お前はもっと気合いを入れろ!」

 

 俺は弱音を吐く木場の後頭部に軽くチョップを入れると、木場はその場に倒れそうになる。

 俺はすかさず木場を支えると、木場との距離がとても近くなった……ってマジで近い!

 

「あ、ありがとう……イッセーくん」

 

 顔とか顔との距離が非常に近い!?

 しかもこの野郎、乙女みたいな態度で顔を逸らしやがった!

 最近、お前のこんな態度のせいで一部女子から『兵藤×木場は鉄板!!』なんか言われてんだぞ!?

 

「…………やっぱり祐斗先輩は敵」

「あうぅ……もうライバルが多いです!」

 

 …………アーシア、少なくともこいつはライバルはないから。

 俺は心の中でそう呟くと、すると前方にいる部長と朱乃さんが俺達に手を振ってきた。

 

「もうそろそろ到着だからもうひと踏ん張り、頑張りなさい!」

「あらあら、うふふ……男の子の汗を見ると拭いたくなってきますわ……」

 

 ……そういえば、朱乃さんが俺への態度を変えたのは何でだろうな。

 ―――なんて、察しはついているのに何言ってんだろ。

 でも俺からは聞かない。

 一応、確信があるわけでもないし……俺が昔、朱乃さんを救ったって確証なんてないからな。

 それに今更昔のことを穿り返して「俺って朱乃さんを助けたんですよ」みたいなことを、したり顔で言おうなんて思わないしな。

 …………さて、じゃあ気合い入れていきますか!

 俺はそう意気こんで、部長達の元に駆け足で向かうのだった。

 

 ―・・・

 

「ここは10日間、私たちが合宿を行う別荘よ」

「……部長、これは別荘と言うより屋敷です」

 

 ……俺の視線の先には、本当に漫画とかに出てくる位、大きな屋敷のような建物があった。

 しかも周りにプールとかも見えるし、今さらながらグレモリ―家のすごさを身に感じるんだけど、それよりも俺は辺りの環境に関心していた。

 俺だけじゃない……俺の中のドライグやフェルもだ。

 

『これは良い場所だ。人は結界で入ってこれず、更に自然も多い。人間界では最高クラスの修行場所じゃないか?』

『ええ……特に空気が良いです。これは学校を休んでまで来る意味はありますね』

 

 ……そう、俺達は学校を休んでまでゲームに備えるつもりだ。

 俺は既に大学受験の勉強まで終わらせているから、出席日数の10日くらい休んでも成績に何も問題はない。

 幸いなことに、母さんはしばらくは父さんの所らしいから、修行に専念できる!

 

『本当に今さら何だが、相棒は修行が趣味になってきていないか?』

 

 強くなれるんだぜ?

 鍛えれば守る力も強くなるじゃん!

 それなら例え辛いことだって、俺は耐えて頑張れる!

 

『……相変わらず、さすがは主様です』

 

 俺は相棒達にそう評価されつつ、部長に案内されて別荘の中に入っていく。

 別荘の中は良く掃除されていて、埃一つなかった。

 そして俺と木場は一つの部屋に案内されて、そこで修行できる格好になるように言われて着替えることにした。

 

「…………イッセー君の体、すごい鍛えられているね。普段は服に隠れて分からなかったけど、体一つで女の子を落とせそうだね」

「笑顔だけで落とせるお前に言われたくないさ……馬鹿言ってないでさっさと着替えろ」

 

 そして俺と木場は着替え、そしてそのまま部長が指定した別荘の中庭に向かうのだった。

 ―・・・

 

 ~レッスン1~ 木場との剣術訓練

 

「ッ!」

 

 木場が俺へと正確な剣戟で切り込んでくる!

 ちなみに俺と木場は部長に言われるがまま、互いに木刀を持って剣術の訓練をしていた!

 俺は神器を使うことを禁止されている……理由は神器なしでどこまで戦えるということを理解するためだ!

 

「……甘いぞ、木場!!」

 

 俺は木場が踏み込んできたのと同時に木刀を横なぎに振るう!

 

「くっ!!」

 

 木場は回避は不可能と悟ったのか、木刀を両手で持って鍔迫り合いで俺の攻撃を避けようとするが……甘い!

 俺は全力の力を持って、木場の体ごと木刀で後方に飛ばした!

 

「ッッッ!!…………まさか神器なしで僕の動きを見極めるなんて……イッセー君、君はパワー馬鹿じゃなかったのか!?」

「残念ながら俺は元々生粋のテクニックタイプだ!!」

 

 俺は木刀を裏手に持ち替えて、木場に剣戟を繰り出そうとする!

 才能がなかったからテクニックを磨くしかなかったんだ!

 まあそれも過去の話なんだけどさ。

 

「そこ!隙だらけだよ!」

 

 木場は俺が裏手に持ち替えた一瞬の隙を狙って俺に木刀を突き立ててくるけど……引っかかったな!

 俺は木場の一撃を紙一重でかわし、そのまま木刀を普通の持ち方に変える。

 俺に紙一重にかわされた木場の体は前かがみ気味になっていて、俺は木場の隙だらけの後頭部に軽く、木刀を振りおろした。

 

「…………僕の負けのようだね」

 

 木場は負けを認めたように木刀を地面に置いて、その場に尻もちをつく。

 

「木場。正直お前の速度に関しては俺も目で追いつくのがやっとだ……でもお前の動きは単調すぎる。いや、教科書通りと言ってもいい。だから予測が立てやすいし、しかも簡単な罠に引っ掛かる」

「……その点、イッセー君は本来、剣を使って戦わないのに剣で戦い慣れている僕に普通に勝ったよね。少し自信をなくすよ」

「ああ、そんなもの失くしてしまえ。自信は時にして慢心と同義だ。常に最悪の事態を考えねえと、命がけの戦いで生き残れないぞ?」

「…………君に言われると、説得力があって困るよ」

 

 木場は苦笑いしながら、俺が差し伸べた手を掴んで立ち上がる。

 

「それにしても末恐ろしいよ。速度で圧倒している僕に知恵と頭脳で倒して、しかもテクニックタイプの戦士なのにパワーまで備えているなんてね……まさにオールラウンダ―。僕達の眷属はパワー重視の人が多すぎるから助かるよ」

 

 木場は俺の肩を掴んでそう言ってくる。

 

『まあ相棒は元々は魔力皆無の赤龍帝。その魔力の無さを頭脳と戦い方のみで歴代最高クラスの赤龍帝になった男だからな…………テクニックタイプの極みとも言える』

『しかも転生してからは魔力不足は大幅に解消され、更に悪魔化でそれがもっと大きくなった……火力と技術を兼ね備えた赤龍帝です』

 

 ……ま、そういうことだ。

 木場は当然、弱くなんてないし、むしろ鍛えれば誰よりも才能を持っているはずだ。

 だけどこっちはあいつ(・ ・ ・)と一緒になるという夢のために、死にもの狂いで修行して、力を手にした。

 

「……イッセー君の剣術は何なんだい?あんなもの、僕は見たことがないんだけど……」

「ああ、裏手に変えるあれか?その場のノリだよ」

「…………その場で即席で考えて行動するか。僕には到底、出来ないことだね」

 

 …………そこにはほんの少し、落ち込んだ木場の姿があった。

 一応、なんかごめんな?

 

 ―・・・

 

 ~レッスン2~ 朱乃さんとの魔力訓練

 

「魔力と言うのは体から溢れるオーラを流れるように集めるのです……ってイッセー君に言っても出来るかしら?」

「……まあやっぱり神器を介した方がやりやすいですけどね」

 

 俺は木場との訓練を終え、次はアーシアと共に朱乃さんに魔力の訓練をしてもらっている。

 俺の場合、堕天使と戦っていた時に戦うための力が一時的になくなったから、仕方なく魔力の基本的な使い方はマスターした……つもりだったけど、やっぱり甘かった。

 

「あらあら……イッセー君は意外と不器用ですわね」

 

 ……俺は魔力の球が大きくなり過ぎて安定しないでいる。

 普段、魔力に加減なんかしないからな……単純な魔力を小さな球体にするのが出来ずにいた。

 すると横にいるアーシアの手元には小さな緑の魔力を集中したものを出している!

 おぉ!さすがアーシアだ!飲み込みが早い!

 

「あらあら、アーシアちゃんは魔力の才能があるのかもしれませんね……これはイッセー君は個人レッスンが必要ですわね」

 

 ―ゾクッ……

 ……朱乃さんがなんか、久しぶりにお姉さまオーラで俺にそう悪戯な瞳で言ってくる!

 個人レッスンが嫌な響きに聞こえるのは俺だけか!?

 

「だ、だ、大丈夫です!俺だってやれば!!」

 

 俺は魔力を掌に集中する!

 そうだ、魔力を嫌々に加減しようとするからうまくいかないんだ!

 だったら全魔力を解放してやる!

 

「は、はわ!イッセーさん、すごい魔力です!」

「さすがですわ、イッセー君。魔力の放出を抑えるのを止め、あえて全て解放して抑えることへの集中を魔力の調整に向けることで形を成させる。それでこそ、私の……」

 

 ……よし!

 俺の考えは間違ってなかった!

 魔力を全解放したら途端に魔力球が安定して、球状になっている!

 少し大きいけど次第点だろう!

 俺は朱乃さんの方をみると……ってなんか顔が上気して最近の朱乃さんの乙女の表情になってる!?

 とにかく!

 俺とアーシアは魔力の基本を学んだのだった。

 

 ―・・・

 

 ~レッスン3~ アーシアへの神器授業

 

 ……まあ神器に関しては部長より俺の方が詳しいからな。

 ということで、俺はアーシアと二人で神器についての鍛錬をすることにした。

 

「いいか、アーシア……まず基本だ。神器はどんな力で力を発揮する?」

「イッセーさんを想う気持ちです!」

 

 ……断言するアーシア。

 

「……質問を変えるか。神器が新しい力を発現する時、何が必要になると思う?」

「イッセーさんを大好きと想う気持ちがあれば良いと思います!」

「ああ、もう!俺からまず離れよう、アーシア!」

 

 アーシアが何度も俺に告白まがいのことを言ってくる!

 アーシアのことだから全部本気なんだろうけどさ……さすがに何度も言われたら恥ずかしい!

 

「でもイッセーさん。私の力はイッセーさんを想った時の方がすごく調子が良いんですが……」

「……そうだよ、あながちアーシアの答えは間違ってないよ? 間違ってないけどさ……」

 

 俺はぶるぶつと呟くと、アーシアは首を傾げた。

 

「それでイッセーさん。ずっと気になっていたことがあるのですが……」

 

 するとアーシアは俺の腕を見つめながらそう呟く。

 

「イッセーさんのその左腕にはすごい神器が宿っているんですよね?確か、神滅具?」

「……そう。神をも殺す13種の神滅具(ロンギヌス)の一つ、赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)だな」

 

 俺はこの合宿中、神器を出すことを禁止されているから説明だけする。

 

「10秒ごとに所有者の力を相乗していく能力を持つ……けど使うにはすごい体と精神力が必要だから、最強の神器と言うわけではないよ。それに俺の中にはもう一つ、神器があるしな」

「……えっと、謎のドラゴンが封印さえている神器ですよね?」

「ああ……神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)。15秒ごとに創造力を溜めていき、それで神器を創ったり、神器の性能を上げる”強化”っていう力を持つんだ。強化に関しては今は禁止されてるけどな―――その禁止をしているのが俺のもう一人の相棒、フェルってわけだ」

「はわわ……すごいです、イッセーさん―――その力で私を助けてくれたんですよね?」

 

 ……するとアーシアは俺の手を握って、優しく握り締めてくる。

 その手の温もりは、人間だったころと何も変わらない、アーシアの清い心の現れなんだ。

 

「私はイッセーさんと一緒にいるためだけに悪魔になりました……そんなことをしてしまうほど、向こう見ずなことをしてしまうほどイッセーさんは素敵な男性です!―――だからこそ、部長さんがあんな、お、女の人にいかがわしいことをする人と無理やり結婚させられるなんて間違っていると思います!」

 

 ……アーシアには珍しい、少し怒った表情だった。

 若干の俺に対する評価が高すぎるかもしれないけど。

 ああ……アーシアの性質は仲間にも優しいことだったな。

 本当に優しい子だよ、アーシアは。

 

「ああ。俺だってそんなの許せないし、許さない……だから俺達で絶対勝つ。だからアーシアも神器の使い方に慣れよう。なに、アーシアは才能の塊だから大丈夫だよ」

「…………はいッ!」

 

 アーシアは満面の笑みでそう言うのであった。

 

「じゃあまずは回復の力の拡散と縮小をやってみようか」

「はい!」

 

 そして俺とアーシアは神器の特訓をするのであった。

 ちなみにアーシアはコツをつかむのが早く、回復のオーラを一つに凝縮して瞬間回復の速度を上げることに成功するのであった。

 

 ―・・・

 

 ~レッスン4~ 小猫ちゃんとの格闘鍛錬・・・

 

 ……本来、俺は小猫ちゃんと森で格闘技能の訓練を行うはずだった。

 そのはずなんだけど……

 

「にゃ~~~♪」

「……あのね、小猫ちゃん。俺達は本来、格闘の訓練をやらなきゃだめなんだけどさ」

 

 ……現在の小猫ちゃんの状態は、森で俺が地面に胡坐をかいて、そして俺の太ももを枕にしながら小猫ちゃんの頭を俺が撫でているという、修行が全く関係ない状態である。

 簡単に言えば膝枕をしながら頭を撫でてあげているんだ。

 そしてなんでこんなことをしているかと言えば……最近の小猫ちゃんの甘えん坊スタイルが発動しただけなんだけどな。

 小猫ちゃんは俺にすごく懐いてくれていて、俺が頭を撫でたりするとまるで尻尾があるみたいにお尻をふりふりして喜んでくれるんだ。

 何故だか保護欲が生まれ、俺的は眷族の中ではアーシアに並んで俺を癒してくれる存在でもある。

 

「……いいですか、先輩。イッセー先輩の膝は私のです」

「……もう小猫ちゃん専用で良いから鍛錬しようよ!」

 

 ……鍛錬が開始したのはそれから10分のことだった。

 ちなみにそうするために俺は別荘に帰った後、部屋で頭を気が済むまで撫でると言うことになってしまったのは別の話だ。

 

「・・・・・・ッ!!」

 

 鍛錬を始めたと途端、小猫ちゃんは先ほどと打って変わって真剣そのものになる。

 放ってくる拳は鋭く、力強い。

 

「……当たって、くださいッ!」

 

 でも俺はその全てを見切って避ける。

 確かに当たればかなりのダメージは予測できる……けど小猫ちゃんの攻撃は木場と同様、単純かつ直線的だ。

 目で追える速度を見切れないわけがない。

 ……それに

 

「ッ!……さすがに小猫ちゃんの拳を受け止めるのはつらいね」

「……ッ!?」

 

 何も受け止められないわけではない。

 掌にまだ慣れないけど小さな魔力を集中すればある程度のダメージは軽減されるし、それに悪魔の身体能力でも何とかできる。

 

「…………驚きました。昇格もしてないのに『戦車』の私の拳を受け止めるなんて」

「それだけ小猫ちゃんの攻撃は効率よく放てていないってことだよ」

 

 小猫ちゃんも木場同様、才能は十分にあるはずだ。

 特にどっちも駒の性質に合っていると思うし……まあ小猫ちゃんはまだ体が小さく、腕のリーチも短いから仕方ない気もするけど。

 

「……先輩はどうして私に攻撃しないのですか?」

「ん?俺は生粋のテクニックタイプの人間だからさ……一番好きな攻撃がカウンターなんだよ」

「…………意外です。イッセー先輩はパワー重視の人と思ってました」

「……やっぱ皆、そう思っているんだ」

 

 ……まあ皆が俺の力を見たのは堕天使との戦いの時の、レイナーレに放した”強化”込みの打突だからな。

 あれを見たら俺の性質がパワーと思うか……

 だけど俺の本領は相手を観察して対処法を考察する観察眼と自負している。

 

「まあ木場から言えば俺はオールラウンダーらしい。また他の奴が言うには技術と力を有しているらしいぜ?」

「……イッセー先輩はどうしてそんな力を?」

「…………守るため」

 

 俺は小猫ちゃんの質問に真剣に応える。

 

「守る対象は曖昧だけどさ……助けを求める人は助けるつもりだ。特に仲間は命を賭けてでも必ず守る。小猫ちゃんがもし助けを望んでたら、俺はこの手で必ず守るよ―――少なくとも、この手の平で覆える大切を俺は全部守りたい」

「……ッッッ!!」

 

 ……すると小猫ちゃんは顔を真っ赤にして俺から顔を逸らした。

 そして何か、ぶつぶつ呟いている。

 

「……こ、殺し文句はダメです……イッセー先輩に言われたら我慢できなくなります。そもそもそんな台詞を真顔で言える人は先輩ぐらいしか―――もう、知りません!!」

 

 途中の方は全く聞こえなかったけど、最後の方を小猫ちゃんが叫んで殴りかかってきた!?

 しかもこれまでにない速度と精度だ!!

 力を集中できている上に、的確に俺の中心線を狙って来てやがる!!

 

「…………他の人にそんなことを言えないようにしてやるです」

 

 …………こうして非常に動きのよくなった小猫ちゃんと俺は格闘訓練を続けるのであった。

 

 ―・・・

 

 ~レッスン5~ 部長と基礎訓練……だけど

 

「……っと思ったけど、イッセーに関しては基礎の体は誰よりも出来ているのよね」

 

 ……部長は俺の上着を脱がせた挙句、そう言って嘆息した。

 じろじろと俺の体を見てくるのは何とも言えないけど、なんか納得しているみたいだ。

 

「ちょうど良いわ。イッセー、貴方の普段の体づくりを教えて貰えるかしら?」

「えっと……毎朝のランニング20キロ。最近はアーシアが一緒でしたから10キロに減らしましたけど、アーシアも今では俺と同じ距離を走ってますね。最近ではティアとの戦闘訓練。主に神器の訓練をしてます。以前は魔物を相手に戦ってたんですけど……」

「…………なるほど、それは私が指示した内容じゃ物足りなかったかしら?」

 

 部長は申し訳なさそうに言ってくるけど、実際はそんなことはない。

 確かに力量で言えばティアの方が何倍も凄いけど、例えば木場は鍛錬の途中で考えを変えて今までとまるで違う攻撃方法で俺に攻撃してきた。

 小猫ちゃんは動きが良くなって手間取った。

 戦いで突然、劇的に何かが起こって予想外な事が起きるからな……そういう相手と戦うことも修行としては十分だ。

 小猫ちゃんの攻撃も、木場の攻撃も一発は最後に当てられたし。

 まあその分、やり返しはしたけれども。

 

「俺の修行は自分にとにかく、過酷なことをやらせるだけですからね。だから少し効率が悪いところがあります。部長の修行内容も悪くないですし、どっちが良いとかはあんまり言えませんね」

「……どちちも利点があると言う意味なら助かるわ」

 

 部長は安堵のような表情をしていた。

 

「…………神器なしで、祐斗と小猫を圧倒。今やイッセーは眷属にはなくてはならない存在ね。―――そう、私にとっても……」

 

 部長は、何故か悲しそうな表情で呟くのだった。

 

 ―・・・

 

「うまいぞ、アーシア!」

 

 俺達は今、修行を終えて晩御飯を食べている。

 ご飯は当番制で、今日はアーシアの当番になったんだけど、さすがはアーシアだった。

 最近では母さんに教えられて上手になっているとは聞いたけど、まさかここまでとは……

 俺はアーシアが作ったカレーを食べながら、思った。

 

「はい!愛情が最高のスパイスと聞いたもので、イッセーさんを想いながらつくりました!]

 

 な、なんて屈託のない笑顔で君はそう言うんだ!?

 全く自分の気持ちに疑いを持たないアーシア!

 ほんと、すごい笑顔だ!

 癒される!!

 

「…………最近のアーシア先輩は危険です」

「あらあら……そうですわね」

 

 すると俺の隣でカレーを食べている小猫ちゃんと朱乃さんが何とも言えない表情をしていた。

 すると小猫ちゃんは俺の耳元まで顔を近づけて何かを言ってきた。

 

「……ご飯を食べ終わったら、私の部屋に来てください」

 

 ……鍛錬をするために結んだ約束だった。

 ま、別に良いけどね。

 すると突然、部長はご飯を食べる手を止めた。

 

「……イッセー、あなたは今日一日、修行をしてみてどう思った?正直に答えて貰えるかしら。もちろん変な遠慮はいらないから」

 

 ……部長がそう言うなら、言わせてもらおう。

 

「現状のあらゆる面を総合して、俺が一番強かったと思います」

 

 ……自惚れ。そう聞こえるからも知れないけど、悪いけどこれは間違いなくそうだ。

 下手に謙遜して一番弱いとか抜かしたら、それこそ皆に申し訳が立たない。

 確かに専門的なところでは朱乃さんの魔力の使い方、木場の剣術、小猫ちゃんの力。

 それぞれ俺より勝るところはあるとは思うけど……でも総合評価をすれば俺は間違いなく一番だ。

 それがドライグやフェルウェルの意見。

 過去の経験から戦闘慣れしている俺に分があるってわけだ。

 

「……そうね、貴方は間違いなく、この眷属の中の誰よりも強いわ」

「……ええ。正直、僕はかなりまいりました。僕の速度についてきて、しかもパワーだけでなくテクニックの方が秀でている、万能タイプのオールラウンダー……厄介とかそんなレベルではないです」

「…………1時間の修行の合間に先輩の体に触れたのは一度だけでした」

「ただの魔力合戦なら、私は一瞬で負けてしまいますわ」

「神器についての理解がすごかったです!」

 

 ……皆は俺と一緒に修行したことに対する感想をそれぞれ言う。

 

「とにかく、イッセーは眷属の中では頭一つ飛びぬけているわ。戦闘センスはもちろん、自分を追い込めるほどの覚悟と根性、回転の速い頭脳による瞬間的な見極め、そして神器を使った戦術……正直、イッセーは『王』が一番、向いていると思うわ」

「……部長、俺ほど『王』に向いていない人間はいません。だって俺は」

 

 ……そこで俺は言葉を濁す。

 言って、しまってもいいのか?

 俺の本質を、仲間に……でもこれ以上は自分を隠したくない。

 これを隠したら、俺は……俺達は勝てなくなるかもしれない。

 

「俺はすぐに冷静さを失くします。例えば仲間を傷つけられた、それだけ頭の中には傷つけた相手をぶっ潰すことしか頭になくなる……だから俺は『王』にはなれません」

「イッセー……それは優しさというのよ」

「優しさだけで戦いに勝てるなら、『王』は誰でもなれますよ……優しさだけで誰かを救えるなら、どんなにいいことか……ッ」

 

 俺はボソッと呟くように言う……誰にも、聞こえてないはずだ。

 

「イッセー?」

 

 すると部長は首を傾げて俺の名を呼ぶ。

 

「―――な、なんでもないです!とにかく、今はライザーに勝つことが最優先です!だから俺の出来ることは何でもするつもりです!」

 

 俺は重くなった空気を払うようにそう大声で言った。

 ……そうだ、今はそれを考える場合ではない。

 戦いは10日後……もう10日もないんだ。

 

「……そうね、ならまずはお風呂にでも入って今日の体の汚れでも落としましょうか」

 

 部長は話題を転換してくれた。

 すると、何故か俺の方を見ながら、部長が悪そうな顔をしている……って何、その顔!?

 

「イッセー、一緒にはいる?ここは露天風呂だから、それに日本には裸のお付き合いって言葉があるのでしょう?」

「そ、それは間違っていませんけど間違ってます!!そもそも男女で一緒のお風呂なんか皆、嫌に……」

「なら聞いてみましょうか」

 

 すると部長は女性陣の方を見る……そして束の間の沈黙。

 

「わ、私はイッセーさんと裸のお付き合いをしたいです!」

 

 アーシアぁぁぁああ!!?

 暴走する子だとは思ってたけど、君はここまでの子だったのか!?

 

「あらあら……イッセーくんのたくましいお背中を流してみたいですわ。是非、色々とお世話したいですわぁ!」

 

 朱乃さんも部長のノリに乗らないで!?

 

「……イッセー先輩と、お風呂ッ!」

 

 顔を真っ赤にして頭から煙を出す小猫ちゃん、可愛いけどせめて嫌がってね!?

 っていうか何でここまでみんな積極的なんだ!?

 こうなりゃ!

 

「おい、木場!さっさと男二人で裸のお付き合いだ!」

 

 俺は呑気に紅茶を飲んでる木場の腕を無理やり引っ張った。

 

「い、イッセーくん……困るよ、そんな強引に……」

「ああ、うるさい!とにかくついてこい!!」

 

 俺はそう叫んで木場を連れて風呂に向かうべく、その場から退散しようとする……すると後方より声が聞こえた。

 

「…………祐斗先輩は、敵です」

「うぅ……イッセーさんは私の体より、木場さんの体のほうが良いのでしょうか……」

「あらあら……祐斗くんにはお仕置きが必要ですわね」

 

 ……部長は苦笑いしていて、そして俺に手を引かれる木場は途端に顔が青ざめていった。

 

「……イッセー君。茨の道って、あるんだね」

「何言ってんだか……さっさと行くぞ」

 

 俺はとほほ、と唸っている木場を連れて、そのまま露天風呂に行くのであった。

 

 ―・・・

 

「ふぅ・・・さすがは温泉。体が休まるな~・・・」

 

 俺は即座に体を洗って温泉に入る。

 湯加減は最高で、俺は脚を伸ばして欠伸をしてみる……温泉は脚を伸ばせるから好きだなぁ……

 

「温泉は日本の文化だよ、イッセー君」

 

 すると俺に遅れて入ってきた木場がそう言ってくる……まさしくそれだな。

 俺が転生して一番感動したのはご飯のおいしさと、そして温泉だ。

 いやぁ、素晴らしいの一言だった!俺はこんなことを知らずに昔、生きてきたのだと思うと自分は人生を損してきた気持ちになった!

 

「珍しく意見があうな、木場……あぁ、癒されるぅ」

「そう言えばイッセー君は癒しの言葉をよく使うね?」

「……まあアーシアが身近にいるからな。俺はあれほどの癒しの存在を知らない……最近では小猫ちゃんが俺の癒しの存在になりつつあるけど」

 

 小猫ちゃんを愛でると、心が安らかになるしな!

 

「でも最近、アーシアさん関連でイッセー君、よく叫んでないかい?」

「それを言うな、木場……ッ」

 

 ……アーシアが非常に積極的なのは良いんだけど、それで最近は遠慮がなくなってきている。

 もちろん俺に対して遠慮なんかは要らないんだけど……いいんだけども!

 アーシア=癒しの方程式に、更にそこにアーシア=癒し=トラブルとなっているのが最近だ!

 ……その分、癒されてるから良いけども……さっきから癒しって言葉が連呼だな。

 

「……イッセー君はいつから神器に目覚めていたんだい?」

 

 すると木場は興味津津と言ったように俺にそう言ってくる。

 

「生まれた時から……って言ったらどうする?」

 

 俺は冗談交じりに言ってやる……嘘は言ってないぜ?

 実際、そうだし。

 

「……確かに生まれた時から力を持っているなら納得できるんだけどね……イッセー君の強さは」

「……強さってものはな、そんな簡単なもんじゃねぇよ」

 

 強さがあっても、出来ないことなんて山ほどある。

 逆に弱さしかなくても出来ることは少しはある……矛盾しているよな、強さも弱さも力だなんて。

 

「……君を見ていると、本当に僕と同い年かと思うことがあるよ。それに君の強さはまるで、長年戦乱の中にいたかと思えるような強さだ」

「…………」

 

 少し驚いた。

 木場がそんなことを言ってくるとは……割と核心をついた木場の言葉に俺は素直に評価する。

 

「……星、か」

 

 俺は露天風呂から空を見上げる。

 都会から離れたところだからか、星が非常に綺麗に見ることが出来る。

 

「木場、絶対に勝とうぜ……じゃないと部長が焼き鳥に奪われる」

「はは……あのライザーに啖呵を切れる君は、僕には眩しいね」

「―――俺は暗いよ。眩しさなんか、存在するわけがない」

 

 ……木場は俺の言葉を聞くと、不思議そうな顔をしていた。

 

「僕は先に出ているよ。イッセー君はどうする?」

「俺はもう少しのんびりしとく」

 

 そう言うと木場は温泉から出て脱衣所に出た。

 

『相棒、少しばかり口が軽くなってはいまいか?』

 

 ……ドライグは木場がいなくなってか、俺に話しかけてきた。

 

「ま、そうかもしれないな……気分だよ、気分」

『……相棒は、まだ気にしているのか?』

 

 ……まだ、か。

 ああ、そうだよ……俺はあの時(・ ・ ・)のことを忘れない。

 忘れてはいけない。

 

「ドライグ、俺はもう”覇”は捨てたつもりだった……でも捨ててないんだ。だから俺は……」

『相棒……確かに相棒はあの時、最後の最後で覇を求めた。だがそれであの者―――白龍皇ミリーシェが死んだわけではない』

 

 …………分かっている、さ。

 ああ、なんで俺はこのことを思い出してしまったんだろう……いや忘れたくないからか。

 今は、じゃない。

 今も、そのことは考えるべきではない。

 今は部長を救う、助ける……それだけを考えよう。アーシアの時と一緒だ。

 

「……そう言えば、小猫ちゃんとの約束があったな」

 

 ……それを思い出して俺は温泉から出ようと思った。

 ―――……どこかで、俺は予想していたかもしれない。

 だが何でだろう……確か、この別荘には男は俺と木場しかいないはずだ。

 なのに、脱衣所には人の影のシルエットが3つほどあった。

 男子風呂に、3つの陰……しかも体の曲線は妙に滑らか。

 ああ、そうだ……こんなことをするのは……

 

「あらあら……偶然ですわね?今から私達もお風呂に入ろうと思っていたところだったのですわ」

「イッセーさん!お背中、お流ししますね!」

「…………先輩の膝の上に座ってお風呂、入りたいです」

 

 ―――最後の最後で俺は絶叫したのであった。

 ―・・・

 

 あれから俺はボロボロになりながらも3人の要望に出来る限り応えることになり、更にそのあと小猫ちゃんの部屋に言って1時間ほど膝枕させられた挙句、小猫ちゃんは眠りにつき、その後に部屋に戻ろうと思ったところをアーシアに捕まり、その後はアーシアの部屋で世間話をしていた。

 そして今は俺は気分転換に別荘の外を散歩している。

 なんか、室内にいたら次は朱乃さんに捕まりそうな気がしましたのでね……

 すると俺は部長を発見した。

 部長はテラスの方のベンチで座りながら本を読んでいるようだった。

 俺は部長の元に近寄っていくと、部長は俺のことに気がついたのか、本を閉じて出迎えてくれた。

 

「あら、イッセー……まだ起きていたの?」

「……部長?」

 

 部長は眼鏡をかけて、寝巻らしき赤いネグリジェを着ており、幾つも重ねられている本を横にして椅子に座っている。

 

「あ、これのことかしら?」

 

 すると部長は俺の視線に気がついたのか、眼鏡を指差して説明してくれた。

 

「何かに集中したい時にこれを掛けると集中できるの……単なる願掛けね。人間界にいるのが長いから、人間の風習になれたのかしら」

 

 部長は苦笑いをしながらそう言うと、俺の視線は部長の手元の本に行く。

 ……レーティングゲームに関しての資料か?

 

「部長、それは……」

「……正直、こんなものを読んでも気休めにしかならないんだけどね」

 

 部長は本のカバーを指でなぞりながら、自信なさげにそう呟く。

 

「……部長は、ゲームに勝つ自信がないんですか?」

「…………正直、勝てるかどうかと言われれば、難しいわね」

 

 ……らしくもない、弱々しい声だった。

 部長のいつもの威風堂々としたものじゃない―――もっと不安で、そんな気持ちに押し負けそうな声だ。

 

「普通の悪魔なら、資料を呼んである程度は対策を練れるかも知れない。でも相手はフェニックス……そう、不死鳥(・ ・ ・)なのよ」

「……死なない、鳥」

「ええ。あなたも知っている通り、不死鳥とは聖獣として有名だわ。どんな傷でもその涙は癒し、殺しても死なない永遠の鳥、不死鳥……そしてその能力と悪魔のフェニックス家は同じ力を有している」

 

 部長は本の一冊を積み上げられている本の上に更に重ねる。

 

「つまりライザ―は死なないのよ。攻撃してもすぐ再生する。彼のレーティングゲームの戦績は10戦2敗……その2敗は懇意にしている家への配慮だから実質無敗。既に公式でタイトルを取る候補として挙げられているわ」

「不死鳥の王……そんなの反則級に無敵ですね」

「ええ。正にその通りよ。フェニックス家はレーティングゲームが始まって一番、悪魔の中で台頭してきた一族・・・」

「死なないから、負けない……単純で分かり易い強さですね」

 

 俺は嘆息する。

 たとえ、あいつに力がなくても不死鳥の性質からあいつは負けることがない。

 そんな相手に、まだ学生の部長に、この賭けをしろって言うのはあまりにも仕組まれているな。

 初めから部長が婚約を嫌がるのは分かっていて、それで最後は勝てるはずのないレーティングゲームで決めさせる。

 これはまるっきり……

 

「ハメ手―――チェスではスウィンドル。初めからライザーが勝つように仕組まれているのね」

 

 ……それでも部長は、戦おうとしている。

 何でだ?

 負けることが分かっているなんて、そんなのは言い訳だ。

 でも部長はそんな勝負でも諦めようとしない。

 

「部長は、どうしてこの縁談を破棄したんですか?ライザーの問題はともかくとして……」

 

 自由じゃない恋愛なんてしたくはないなんてことは分かってる。

 ライザーの性質を垣間見て、あんな野郎とくっつこうなんて気持ち、普通は持つなんてありえない。

 だけど悪魔の発展的な意味だけで言えば、フェニックスとグレモリーの婚姻は間違ってはいないはずだ。

 互いに強力な力を持つ家系、その二つの家から生まれる新たな命のポテンシャルは計り知れない。

 ……それでも部長は自分の意志を通す。

 例え仕込まれた勝てない戦いだろうと。

 

「……私はリアス・グレモリー―――でもね、誰も私を”リアス”とは見てくれないの」

 

 ……部長は淡々と話し始める。

 

「どこまで行っても、どこに言っても私は”グレモリー”としてみられるわ。名家のご令嬢、グレモリー家の次期当主。もちろん、自分がグレモリーということは誇りよ。でも、せめて自分を愛してくれる人には、”リアス”と見られたい…………接してほしい。それだけよ」

「…………」

 

 そっか……部長は誰よりも当たり前の幸せを望んでいるだけなんだ。

 一人の女として、好きな人に愛されたい、恋したい。

 家とかそんなもの関係なく、年相応の恋をして、結婚したい。

 この人は……そんな当たり前の心を持った人なんだ。

 そう思うと、俺は……

 

「ライザーを倒す方法はないんですか?」

「……理論上存在はしているわ。一つは圧倒的力で押しつぶす。もう一つは何度も何度もライザーを殺し続ける。前者は魔王クラスの力、後者はそれだけの体力と精神力よ」

「つまりフェニックスは、不死身だけど精神や心までは不死身じゃない……だから心を圧し折れば勝てるんですか?」

「ええ……神クラスの一撃なら、一瞬で体の全てを滅ぼすことは可能とは思うけどね。でも残念ながら私にはそんなものはない」

 

 部長は立ち上がって空を見る。

 

「私の小さな夢よ。誰か好きな人と結婚する。笑顔で毎日を過ごして、他愛のない話をして、キスをして、子供を作って―――だけど、それすらかなわないかもしれない……戦うからには勝つつもり。でももし無理な時は私は……」

 

 部長がその言葉を言おうとした時、俺はつい部長の手をギュッと握った。

 ……体が勝手に動いたんだ。

 だけど今、俺の心がそうしろと命令した。

 今、彼女を離してはいけないと。

 部長は俺のそんな行動に驚いているが、俺は構わずに手を強く握って部長と目を合わせた。

 

「……俺が、部長を自由にします」

 

 ……俺は部長にそう断言する。

 ここまで部長のことを知ったんだ。これで何も考えるなって言った方が難しい!

 それに俺は……

 

「俺には部長のお家事情も、悪魔の事情もあまり知っていません。でも、俺にとって、グレモリーの名はどうでも良いんです―――俺を助けてくれたのはグレモリーじゃない……リアス部長です!」

「……イッセー」

「それに俺は死を見たことのない馬鹿には負けませんよ。それに部長をあんな奴には渡さない。俺は部長を……リアスという一人の女の子を助けたいです」

 

 ……俺は言いきると、部長は少しだけ、瞳に涙を溜めていた。

 そしてすぐに笑顔になった。

 

「イッセーが皆から好かれている意味が少し、分かった気がするわ……そんなこと、真正面から言われたら、ね?」

 

 部長はそう言うと、本を持ってその場に立ち上がる。

 

「おやすみなさい、イッセー……それとありがとう。貴方の言葉で、私は戦えるわ」

「はい!」

 

 そして部長はその場から居なくなる。

 部長は最後は笑顔を見せてくれた……今はそれでいい。

 あとは俺の仕事だ。

 

「ドライグ……俺の言いたいことは分かるな?」

『……魔王に匹敵するほどの一撃。そんなもの、禁手しかないと言いたいところだな』

 

 ああ……あいつを倒すにはあれだ。

 ―――赤龍帝の鎧(ブーステッドギア・スケイルメイル)

 赤龍帝の力を鎧として顕現した、全てを倍増して敵を討つ力。

 

『だが正直、あれが間に合うかどうかと言えば……不安の一言だな』

「……なら、俺は禁手には期待しないよ」

 

 そう……そんな間に合うかも分からないものに縋るわけにはいかない。

 今、禁手を使った魔王クラスの力が出せないとなると、ならもう一つの可能性は”強化”による赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)赤龍神帝の篭手(ブーステッド・レッドギア)にすること。

 でもあれでも一撃では勝てないだろうな。

 

『連発も出来ませんから、そうですね』

 

 ……フェルの言うとおり、あれによる1秒毎の倍増と、倍増した力の発動は数回しかできないし、それが全て効果があるとは限らない。

 仮にそれで仕留められなかった時のことを考えると、新しい戦い方が必要だ。

 

「……さてと、課題は出来た。不死鳥を殺す戦い方か―――面白い。やってやる……そして部長を助ける」

 

 決意は出来た。

 後はそれに向けてがむしゃらに突き進むだけ。

 俺はいつだって……そうしてきたんだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。