ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第7話 反撃開始

 ……俺は一人、雲の上で風に打たれていた。

 たくさんの情報が同時に入ってきて、怒りとか悔しさとか……色々な感情が入り乱れて、一度冷静になるためにここにいる。

 ――戦争派の子供たちのほぼ全ての情報は、フリードの持つ端末に記載されていた。

 例外的にハレとアメの情報はなかったものの、それ以外の子供の情報は事細かに記されている。

 

『想像していた異常に醜悪な連中だ。人体実験だけでなく、それを年端もいかぬ子どもに強要しているのだから、手の施しようがない』

「その通りだ、ドライグ――奴らは根絶やしにしないといけない。じゃないとこれから先、もっと多くの子供が犠牲になる」

 

 それだけは防がなくてはならない。

 

『――一番目の子供、検体名は1。名はメルティ・アバンセ。戦争派トップ、ディヨン・アバンセの娘であり、彼が最初に実験の対象に選んだ子供。その実験内容は合成獣実験。比較的安価で進められたからか、実験開始直後に精神に異常をきたす。心がなく、命令に忠実になった代わりに、嵌め手に滅法弱く、実戦では使いにくいと判断。能力は安定しているものの、爆発力にかける。一時的に英雄派に貸し出すものの、英雄派の曹操はワンに悪影響を及ぼす可能性があるため、管理は同士である安倍晴明に一任する』

 

『――二番目の子供、検体名は2。名はディエルデ。3の兄であり、唯一の家族である妹の安全を最優先にするところがある。実験内容は聖剣実験。彼は実質的な第二次聖剣計画を引き継ぎ、生まれた第三次聖剣計画の最高傑作である。元より強力な素養のあった聖剣の才能を更に実験により昇華、今世紀では最高クラスの才能を持つ。彼の運用は主に3を使うものとする』

 

『――三番目の子供。検体名は3。名はティファニア。2の妹である。2ほどの聖剣因子を持ち合わせていない上に気弱。実験内容は聖剣化実験。人間を聖剣化させるという前代未聞の計画であるが、魔法、魔術を織り込んだ術式により成功。彼女の身体と準伝説級の聖剣を一体化させた結果、元来の聖剣の凡そ27倍の出力になる。彼女を使うのは2であり、彼女は武器であり2に対する楔。決して彼が裏切らぬための枷である』

 

『――四番目の子供。検体名は4。名はメルリリア。元は8と同じ計画であったが、途中でリゼヴィム・リヴァン・ルシファーの介入により路線変更。実験内容は生命実験。リゼヴィム氏の用意した実験材料をふんだんに使った結果、これまでの実験で初めて、新たな生命体を創造に成功。その際、元のメルリリアの人格は完全に抹消され、新たな人格が付与される。これ以降、4のことはリリスと呼称。無限の龍神を初めとし、魔力、聖なる力、堕天使の光、神の魔力、数多のドラゴンの命、魔物……あらゆる生命を万の単位を消費し、生まれたリリスは天龍を完全に超える存在。成長すればドラゴンスレイヤーさえも手に入れ、真龍を殺す可能性を秘めている。現在はリゼヴィム氏に管理を一任する』

 

『――五番目の子供。検体名は5。名はクー・フーリン。孤児で英雄の血筋を引く子供を引き取り、生前の英雄・クーフーリンに近づけることを目的とする。実験内容は人体実験。

5が実験に積極的なこともあり、早期に低予算で完成させることに成功。最上級悪魔を屠る身体能力と元来の光の力は天使や堕天使のものとは一線を画すものであり、特に必中の槍、ゲイボルグを何度も扱えることが可能になる。派手さはないものの非常に優秀な駒であるものの、本人は飄々としており、何を考えているかは不明。現在は英雄派に移籍し、こちらの管理からは外れている』

 

『――六番目、七番目の子供。記載なし。双子の人間、ハレとアメ』

 

『――八番目の子供。検体名は8。名はドルザーク。スラム街で凡そ千の人間を殺したシリアルキラーの子供を保護し、実験を施す。実験内容は龍化実験。非常に凶暴な性格をしているものの、だからこそドラゴン属性との相性が良い。リリスと同様にドラゴンを封じた宝玉を体に埋め込むと同時に、ドラゴンの血肉を毎日10回与えた結果、その血肉はドラゴンのものとなる。更に食ったドラゴンの性質や能力を取り込む能力が発現。実験成功からあまり日が経過していないため、現状は戦力としては当てにならないものの、同じドラゴン属性を全て喰らう『ドラゴンイーター』の能力を持つ稀有な存在。時間が経つごとに能力が倍増していき、今後は赤龍帝を喰わせることでどのような変化をするか、興味深い検体である』

 

 ……全ての詳細を見て、端末を今すぐに壊したくなる。

 ――こんなことをするのが、人間だっていうのか? 人の自由を奪い、ただ自分たちの望みの戦力を生み出すことしか頭にない。

 

「……もう、後手に回るのは散々だ」

 

 俺は端末をしまって、通信を繋げる。その通信は俺の眷属や今回の共闘している味方に繋がっているもので、俺の声は全員に届いているだろう。

 

「――皆、聞いてくれ」

 

 俺は静かな声で、話す。

 

「戦争派はどうしようもない連中だ。ただ自分たちの欲望のためだけに動き、命というものを一切大切にしない存在だ」

 

 でなければ、リリスなんて存在を生み出さない。そもそも子供たちなんて存在を使うこともなかった。

 

「奴らに改心するなんてことは、絶対にない。奴らは放っておけば、何度でも同じことを繰り返す――異能を持ってしまった子供を傷つけ、殺し、私欲のために利用する。そんなもの、俺は認めやしない」

 

 誰からも声は帰ってこない。みんな、俺の言葉を待っているのだ。

 ――王の言葉。王の宣言を待ち続けている。配下として、それを忠実に従うために。

 ならば俺ははっきりと言わなければならない。これから先の戦いのことを、どのように奴ら向き合うのかを。

 ……俺は地上に向かって急降下する。雲を突き抜け、少しばかり明かりの灯る建物の方へと真っ直ぐ降りていく。

 そして地上付近で急停止し、そして――そこにいる皆を前に、口を開く。

 

「――敵は戦争派。そのトップ、ディヨン・アバンセの討伐だ。そして奴に自由を奪われている子供を救う。それを邪魔するものはどんなものでも敵だ。排除し、目的を果たし……この美しい北欧の地で起きた惨劇を、終わらせる」

『……っ』

 

 俺の発言にレイヴェルも、朱雀も、ティアも、フリードも表情が真剣なものとなる。

 その場にいないのは、黒歌。戦争派の攻撃で未だに意識が戻っていない――俺の仲間に手を出したんだ。その報いは、受けてもらわないといけない。

 

「――そうにゃん。私たちの手で、終わらせるの」

「……黒歌っ」

 

 その時、黒歌の声が響いた。いつも通りの声音に、俺はつい声のする方向を見る。

 ……黒歌は、アメに支えられながらその場に来た。

 

「ごめんね、心配させて。でもこの通り、もう動けるにゃん」

「……でも、お前、無理を――」

「いつも無理ばかりのイッセーが何を言ってるの――この状況、僧侶である黒歌ちゃんが動かなきゃ、誰が皆のサポートをするにゃん」

 

 黒歌はアメから離れ、二つ脚で自立する。

 ……その身体からは明らかな闘志が見え隠れし、覚悟の決まった顔をしていた。愚問だ。俺が信じなくて、誰が信じるっていうんだ。

 

「――仕掛けよう。戦争派を壊滅させる。そのために、もう小細工はなしだ」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

 

 ……鎧を身に纏い、言葉の意味を姿で示す。

 すると朱雀は宝剣を抜き、レイヴェルは炎の翼を纏い、黒歌は気を巡らせる。フリードも何だかんだですまし顔でアロンダイトエッジを担いだ。

 ……その時、ふと足音が響く。

 

「昇格して間もないにも関わらず、随分と王をしているではないか。流石だな、一誠よ」

「彼の本質は王道だ。それを体現して来たからこそ、王であるのだ。サイラオーグ」

 

 ――その顔ぶれを見て、驚きを隠せない。

 ……何故、この戦場にこの二人がいるんだ。もしもこれが増援というものだとしたら――これほどまでに頼もしい増援は、他にはない。

 

「――サイラオーグさん、ディザレイドさん」

 

 冥界切手の肉弾戦の覇者と言われる、二人の悪魔。

 若手最強の王とされるサイラオーグ・バアルと、三大名家最強で魔王になるべきだったディザレイド・サタン。二人が肩を並べ、俺たちの前に現れたのだった。

 

―・・・

 

「サタン家は自由に動ける数少ない貴族だ。故に君たちの危機を聞きつけて、こうして馳せ参じたというわけだ」

「俺は上層部からの命令でな。大方理由は、お前と同じだろうさ」

 

 ディザレイドさんとサイラオーグさんと合流した俺たちは、一旦自分たちの隠れ家に戻る。

 具体的な作戦を練るためだ。今、この場にいるのは俺とフリード、ディザレイドさんとサイラオーグさん……そして情報収集をしてくれているガルド・ガリレイさんだ。

 そしてガルドさんの収集してきた情報は、俺たちに好機がもたらした。

 なんとその情報は、奴らの行動の把握というとんでもないものだ。

 

「いやぁ、苦労したぞ。敵にバレナイように索敵し、なおかつ隠密に発信器をつけるなんて、爺さんがする仕事じゃない」

「だけどそのおかげで、敵の隠れる場所が割れた――敵の中枢は間違いなく、そこにいる」

「だけど敵さんもきっとそれは見越してるっすよ。敵のビビり度はすげぇもん。最悪の可能性は幾つも考えて行動しているでしょうね」

 

 フリードはそう指摘する。

 ……そう、油断は何一つ出来ない。フリードの言う通り、向こうが待ち伏せている可能性は否定できない。

 ――だけど俺は言った。

 

「小細工はなしだ。俺はそう言ったぞ」

「……つまり、圧倒的爆発力で一方的にぶっ潰すと――分かり易いねぇ」

「――今の我々の現状を鑑みるに、それが一番生存確率の高い可能性だな。俺としても、そっちの方がありがたい」

 

 サイラオーグさんは俺の意見に賛同してくれる。

 ……もちろん、状況に応じて対処する。その上での正面突破だ。それをするなら、まずは相手の大まかな戦力を考える必要がある。

 

「俺なりに敵の情報を分析してみました。それがこれです」

 

 俺は紙に敵の情報をまとめ、それを四人に見せた。

 ――敵の数は未知数だが、幹部クラスの実力者は割れている。

 まずは英雄派より晴明、ジークフリート、ヘラクレス、クー・フーリンの四名。

 戦争派よりはメルティ、ディエルデとティファニア、ドルザーク、そして未知数のディヨン。

 そして考慮すべきなのは――最強の邪龍、クロウ・クルワッハ。ティアの話によれば奴の実力は全盛期の二天龍を越えるほどのもので、戦況を大きくひっくり返す恐れがある。

 ……リリスの話を信じるならば、リゼヴィムはいない。しかし油断は出来ない。

 ――リゼヴィム対策としては、やはりディザレイドさんしかいないだろう。奴には神器は通用しない。しかも最上級悪魔としての魔力や実力付きと、厄介だ。前回は油断の末に一方的に責めれたけど、油断のないあいつの実力は未知数。

 ……俺たちの目的は、戦争派の撲滅だ。それ以外はショートカットでいい。

 ――俺の故郷をこれ以上荒らさせやしない。俺の大切な人たちがいる、この北欧は何があっても元に戻して見せる。

 

「……ふむ、不確定要素まで考察されている――不確定要素については、私が担当しよう」

「いいんですか、ディザレイドさん」

「無論だ。むしろこの中で最も経験値がある私こそが相応しい――それ以外は君たち任せになる。それだけは留意してほしい」

「もちろんです! ……敵の基本戦力は非常にひ弱です。でも、未知数が底知れない。そして何よりも、英雄派の動きも良く分からないです」

 

 ……そして、子供たちの動向も。

 子供たちは出来る限り保護の方向で考えをまとめている。しかし、子供の中で最も不確定要素なのは――ドルザークだ。

 奴はこの短期間で恐ろしいほどの成長を遂げている。不意打ちとはいえ、黒歌に致命傷を負わせたのは奴だ。

 ……ドラゴンイーター。喰ったドラゴン、もしくはドラゴン属性を自らのものとする。

 ドラゴンの力を有する赤龍帝眷属にとっては、最悪の相性だ。赤龍帝の俺を初め、数多くのドラゴンの力を有している朱雀、龍王であるティアも同様だ。

 特に俺の力を奪われた場合、奴の成長は想像できない。単純明快な倍増の力は、単純だからこそ分かり易く力を発揮するからな。

 

「今回の戦いは短期決戦。最初から全力で敵を叩き潰します。今からそれぞれの役割を決めます」

 

 ――俺は四人に役割を命じる。

 本来は最年長のディザレイドさんに任せるべきだろうが、今この場でこの一件を魔王様より賜っているのは俺だ。

 故に俺が導く。それが王の仕事だ。

 

「……問題ない。俺は今回はお前の指揮下にいろと命じられているからな――この場においての王は一誠、お前だ。この拳、お前のために使うと約束しよう」

「……よろしく頼む。サイラオーグ・バアル殿」

 

 サイラオーグさんは拳を突きだしてそう宣言するため、俺もそれに呼応して拳を合わせる。

 ……また強くなってるな、サイラオーグさん。拳を合わせただけですぐに分かる――既に最上級悪魔クラス以上の実力だ。

 いずれあるレーティングゲームが末恐ろしい――俺も負けちゃいけいけどだ。

 

「……対戦よりも共闘が先というのもむず痒いものだな」

「はは、同じことを思った――よろしく頼みます、皆」

 

 皆、頷いてくれる。

 ――そうして作戦は決まる。決行は深夜。

 そこから総力戦にて北欧の悲劇を終わらせる。

 

―・・・

 戦いが始まる前に、俺は自分の眷属のメンタルチェックのため、一人一人話しかけていた。

 

「というわけだ。皆、それぞれの役割を担ってほしい――といっても、状況に応じて動くことになるけどな」

「当たり前です、イッセー様。特に敵は不確定要素があり過ぎる――感謝します。私は自分の役割を全うします」

「固い固い、朱雀。……まぁ、なんだ。お前の思うようにすればいい」

「……ならばこそ、一つ、ぶしつけながら願いがあります」

 

 朱雀は俺を真っ直ぐに見据えて、とあるお願いをするのであった。

 

 

「……なぁイッセー。私の勘が、こう言っている――クロウ・クルワッハは必ず現れると」

「……ドラゴンの勘は、当たるよな――その時はお前に任せるしかない」

「そうだな。……そうだとも。龍王最強が、敗戦のままでは話にならない――しかも今は赤龍帝眷属の戦車だ。余計に頑張らないとな」

「程々にな」

 

 ティアは腕の一部をドラゴン化させるものだから、俺はそう言う。

 

「ところで、イッセー。一つ願いがあるのだが、良いか?」

「ティアもか? まぁ俺に出来ることがあれば聞くよ」

「むしろお前にしか願えぬことだ。もし聞いてくれたら、私は此度の戦場で目まぐるしい戦果を挙げることは間違いない」

「……オッケー、何でも言ってくれ。何でも叶える」

「そ、そうか! ならば聞いてくれ!!」

 

 ……ティアもまた、自分の願いを俺にぶつけるのであった。

 

 

 ティアの後はレイヴェルの所へと行く。

 初めての命の掛かった戦場を前に、不死鳥で死なないレイヴェルも怖いのだろう。手が震えていた。

 

「レイヴェル」

「あ、……イッセー様」

 

 俺は安心させるために、彼女の手を握る。

 ……俺の眷属になりたてで、いきなりこんな状況に巻き込まれるなんて、本当に申し訳ないと思う。

 ――だけど、それでもレイヴェルは俺と共に北欧に来てくれた。そのことが、俺はどうしようもなく嬉しい。

 ……守らないといけない。守護を冠する赤龍帝なんだから。

 

「少しは緊張、解れたか?」

「は、はい――イッセー様は今までもこんな戦いを何度も繰り返していたのですね。それを目の当たりにして、少し怖気づいてしまいましたわ」

「……怖いのは当然だ。俺だって何が起きるか分からくて怖い――それでもみんながいるから、戦えるんだ」

「……眷属泣かせとはこのことですわ。本当に、女心を分かっている王様だこと」

 

 レイヴェルは俺の方に体を預けた。これは……抱きしめるのが無難だよな。

 ……アーシアに申し訳ないけど、俺の眷属なんだ。よし……

 

「……あったかい。イッセー様の身体は鋼鉄のように硬いのに、鋼鉄とは違って温かいです」

「恥ずかしいからあんまり言うな。あと、帰って皆に言うのも禁止な? 後で面倒だから、俺とレイヴェルだけの秘密」

「……二人だけの、秘密ですね?」

 

 その言い方は止めろ、マジで。

 ――そうしていると、案の定というか……レイヴェルも他の二人と同じでこんなことを言ってきた。

 

「イッセー様、私のお願いを聞いてもらっても、よろしいでしょうか?」

 

 

……最後は黒歌だ。俺は黒歌のいる部屋に向かうと、そこには黒歌ともう一人。彼女の太もものを枕にして眠る、アメがいた。

黒歌はアメのことを、まるで小猫ちゃんをあやすように頭を撫でている。

――似ているもんな。どこか、小猫ちゃんとアメは。

 

「イッセー、女の花園に入るってことは、襲われる覚悟が出来ているということで、相違はないにゃん?」

「そう簡単にやられるほど甘い鍛え方はしてねぇよ」

「やるなんていやらしい♪」

 

 ……こいつはホントに、決戦前でもマイペースだな。

 

「……どうだ、身体の調子は」

「レイヴェルちんの涙のおかげで、完全回復……といいたいところだけど、魔力だけはまだ。でも悠長なことをしていられないからね。特にこの子にとっては」

「……ハレが今、どんな扱いを受けているかなんて、想像もつかないからな」

 

 ハレとアメだけの情報が知れなかったから、今彼女がどんなことになっているかも想像できない。

……ハレが連れ去られて数時間。今出来ることは、無事でいることを願うばかりだ。

 

「ごめん。俺が本調子だったら、少なくともこんな状況には――」

「謝らないの――創造の力が満足に振るえない。確かにイッセーの力は文字通り半減にゃん。だけど、それでもイッセーは出来る限りの最善を尽くした。 それでもこの状況は、イッセーだけのせいじゃない」

 

黒歌はそう話す。

 

「……最初から完璧な王様なんてこなせるはずないにゃん――失敗は成功で取り返す。ハレは私たちが必ず取り戻すにゃん」

「――悪い。少し感傷的になってた」

 

 俺は素直に頭を下げた。

 ……眷属のメンタルチェックどころか、自分のメンタルの方が不安定だった。

 ――度重なる急襲に、予想外の状況。自分の身動きが取れない状況に、責任を感じていた。それは感じなければいけないものだ。

 実際に戦場で一度のミスも許されない。それで命を落としてしまってもおかしくないから。

 

「……ね、イッセー。帰ったら一つお願いを聞いてもらっても良い?」

「お前もか――あぁ、もう、何でも言え。何でも叶えてやるよ」

「そう? じゃあ――帰ったら、私と白音と三人でデートするにゃん」

 

 ……意外と普通だ。むしろ一番普通であると俺は思った。

 黒歌に追求しようとするものの、黒歌は嬉しそうにニッコリ笑うだけだ。

 ――こいつがこういう時は、悪だくみは一切なく、純粋に楽しみにしているんだ。本当に、可愛いやつだよ。俺の飼い猫は。

 

「仕方ねぇなぁ。それに最近、小猫ちゃんの癒しが足りないって思ってたし、むしろ本望か」

 

 ……そういえば最近の俺は、あんまり癒し癒し言ってないことに気付いた。

 ――帰ったらアーシアと小猫ちゃん、チビドラゴンズに全力で癒されよう。そう心に決めた時だ。

 

「…………」

「アメ、起きたのか?」

「……ずっと起きてた」

 

 アメが黒歌の膝から起き上がり、俺の顔をじっと見つめて来る。

 そして……

 

「……話が、あるの」

 

 アメは未だ光灯らぬ目で、そう言った。

 

―・・・

 

 アメを自室に招きいれた。俺がベッドに座ると、彼女はその隣に座る。

 ……話、か。この状況で俺に話なんて、一つしかないだろう。

 

「……アメも、連れていってほしい」

「――ダメだ。あまりにも、危険すぎる」

 

 予想通りの言葉に、俺は用意していた言葉を突きつけた。

 ……実際に、危険だ。アメは非戦闘要員であり、アメを守りながら戦い抜くことは現実的に考えて危険である。

 それは彼女の命もそうであると共に、他の眷属の皆も同じだ。

 ――しかしそれでもなお、アメの視線は真っ直ぐに俺に向いている。

 

「って言っても、お前は聞く耳を持たないんだろうな」

「……え?」

 

 俺がそう返すと、アメは初めて呆気をとられた表情になる。

 ――確かに連れて行くのは危険だ。しかし今、この北欧に安全な地などない。つまり一人で隠しているところを狙われたら、アメはさらなる危険に見舞われるのだ。

 

「分かってるよ。俺だってお前の立場なら、聞く耳を持たないからな――分かった。アメ、君も一緒に連れて行く」

「……っ!」

「ただし――俺の傍から絶対に離れないこと。それを約束できるなら、一緒に来ることを許可する」

 

 ……アメは俺の約束に対して、頷く。

 ――彼女もまた、戦争派によって何らかの実験を施されているはずなんだ。だけどその前兆すら今のところない。

 ハレは空間を切断するという強力な神器を宿している。ならばアメは一体――

 

「……アメとハレの話を、聞かせてくれないか?」

 

 ……ふと俺は、そう尋ねた。

 少しでも彼女たちに対する疑問を解決したい。そのために、詳し話を聞きたかった。

 彼女が戦いに巻き込まれる前、どんな幸せな生活を送っていたのか。ハレとはどんな少女なのか。

 ……何より、俺は二人が知りたい。

 

「……ハレは、元々はとっても可愛い女の子だった」

 

 ……するとアメは、話し始める。少し前のことを、あたかも大昔のように話す。

 彼女たちにとって少し前のことは、もう戻ってこない過去のことなんだろう。そのことに心がいたくなる。

 

「お洒落に気を遣って、好きな人もいて――アメに特別優しい。……そんなお姉ちゃん」

「……そっか」

「……でもハレは、アメを守るために……男の子になろうとした」

 

 ――ハレの一人称は「僕」だった。

 強い言葉を使い、アメを守る時はいつも険しい顔で勇ましく、華奢な体に似合わぬ大きな剣を振るって敵を倒す。

 髪も短く、身体は傷が多かった。

 

「アメよりも長かった髪をばっさり切って、いつもアメの手を引っ張って……――ハレが、僕って言うたびに、アメは……っ。足手まといだって、思って……っ」

 

 ――アメは、琴線がプツリと切れたように、一筋、涙を流した。

 ……ずっと感情を押し殺してきたのだ。アメは、そうして現実と向き合っていた。

 何も出来ない自分に嫌気がさし、それでも大好きな姉と一緒にいたいから何とか生き抜いて……その度に心が曇って、笑顔が減っていったのだろう。

 ……まだ、年端もいかない女の子が、どうして笑顔を浮かべないのだ。

 ――それがどうしても理不尽に思えて仕方がない。

 

「――どうして、アメたちだけ、こんなに、苦しいの……っ? 何も悪い事してないのに、……ママも、パパも、誰も助けて、くれないの……?」

「…………」

 

 何も言葉が浮かばない。

 ――理不尽。この言葉は俺が最も嫌う言葉の一つだ。

 神様が勝手に作ったシステムのせいで、神器のせいで俺も随分と不幸な目にあってきた。

 ミリーシェが殺され、俺も死んで兵藤一誠として生まれ変わった時も、心の奥ではずっと理不尽に嘆いていた。

 どうして自分がこんな目にあうんだ、と。ふざけるな、と。

 ――そういえば、俺はそれでも腐らずに成長できたっけ?

 そんな思いを抱いている時、俺を救ってくれた人は……その人がしてくれたことは――

 

『――大丈夫、イッセーちゃん。泣き止んでよ~』

 

 母さんだった。

 

「アメ、ごめんな」

「……っ」

 

 俺はアメをそっと抱きしめた。

 ……ほとんど初対面で何をしているんだと、思われるかもしれない。

 だけど本当に辛いとき、俺はこうされて心が温かくなった。俺では役不足だと思う。アメが本当に望んでいるのはハレであり、俺ではないのだから。

 

「辛いことを聞いて、ごめん――嘘って思うかもしれないけど、俺は君の気持ちが痛いほどに理解できる。幸せを壊される苦しみを、どうしようもない現実を俺は知っている」

「っ」

「失った後の喪失感も知っている。それでも俺は今、こうして生きてる――絶対に君を、ハレに同じ思いをさせやしない」

 

 アメは、俺の胸の中で嗚咽を漏らす。

 俺の背中に手を回し、子供のように抱きしめてきた。声もなく泣くのは、彼女らしい泣き方なのかもしれない。

 

「アメに指一本たりとも、触れさせやしない。ハレをこれ以上、傷つけさせることも許さない。……約束する」

 

 言葉じゃ、信じられないかもしれない。

 だけど今、俺はそれを宣言しないと気が済まない。彼女の心を救う言葉は――少しばかり臭いけど、言おう。

 

「――必ず守る」

「おね、がい――ハレを、たすけてぇ……っ」

 

 ……その声を、泣き顔を見て思い出す。

 近頃、夢に出てきた子供のことを。彼女たちは常に助けを求めていた。夢幻の因子によって生まれた奇跡――それは必然だったのだ。

 グレートレッド、本当にあんたには感謝する。あんたのおかげで、何人も救うことが出来るのだから。

 

「……約束する」

 

 その決意の元――俺たちの最終決戦は始まる。

 

―・・・

『Side:三人称』

 

 戦争派の隠れ家は地下空間にあった。

 一時退却して態勢を立て直すため、戦争派と、その協力関係にある英雄派の面々は地下の一室で休憩していた。

 

「……戦争派も油断できないな。北欧の神に知られずにこのような空間を創り上げるなんて……」

「ゲオルクは、次元の狭間で創ったものを秘密裏に変換したんじゃないかって推測しているぜ」

 

驚きを隠せないジークフリートに、そう返答するヘラクレス。

……彼らもそれなりに消耗していた。特にジークフリートは、内心では安心は出来ていない。

何せ、自身の魔剣の一振りを先刻前に消滅させられたのだ。伝説級の魔剣を折るならまだしも、跡形もなく消すなど聞いたことがない。

……終焉の少女、エンド。曹操に話を聞いていた彼らも、初めて目の当たりにする「本物の化け物」であった。

 

「……晴明よぉ。そろそろ口を開いたらどうだ? お前、今回の件、結構重要な立場なんじゃねぇのか?」

「……俺は、禍の団として協力しているだけだ」

「曹操に黙って、だろ?」

 

 ヘラクレスは追及する。

 ――英雄派の真のトップ、曹操は戦争派の行動に疑問を抱いていた。何せ曹操は本気で人類最後で最強の槍になることを掲げているのだから。

 だからこそ、今回の一件では決して手を貸さないのだ。

 

「……あのリゼヴィムって野郎とも繋がってんだろ、お前――だんまりもいい加減にしねぇとぶっ殺すぞ」

「止めろ、ヘラクレス――晴明。君は奥で休んでおきなよ」

「……すまない」

 

 ジークフリートに牽制され、ヘラクレスは不満を抱きながらも一旦は落ち着く。

 晴明はジークフリートに言われて奥の部屋へと消えて行った。……それと入れ違う形で、室内にクー・フーリンが入ってくる。

 

「たっだいまー――およよ、晴明はどこー?」

「喧嘩、狸寝入り」

「あ、良く分かったよ。ヘラクレスぅ、あんまり晴明虐めちゃダメだよ?」

「うるせぇー!! お前らはいいのかよ!? あいつ、陰で何してるか――何されてるかもわかったもんじゃねぇんだぞ!?」

 

 ……仲間として、ヘラクレスはそれが見逃せなかった。

 するとジークフリートはふふっと微笑を浮かべた。

 

「あぁ、何がおかしんだ!? ジーク!!」

「いや――随分と誰かさんに似てきたなと思ってな」

「っ……。別に、変わらねぇよ」

「そうか。……もしくは、本当のお前がそれなのかもしれないな」

 

 悟ったように語るジークフリートに、ヘラクレスは嫌気がさしたのか……

 

「うるせぇ!! 俺、トレーニングルームで暴れてくるからな!!」

 

 そうして部屋から出て行ってしまった。

 それを目の前で見たジークフリートとクー・フーリンは顔を見合わせて笑う。

 

「……さて、クー。正直、僕は乗り気じゃない。君もだろう、それは」

「まぁ、ね。今回ばかりはぶっちゃけ、赤龍帝ちゃんの方に付きたいくらい」

「それをしたらこの組織にはいられなくなるからね――僕としては彼らと戦うこと。それだけが今の楽しみさ」

「あ、それは私も! ……あの黒猫野郎にはちゃんとリベンジ果たさないと、英雄の魂が許してくれないからね」

 

 ……変質か。彼らもまた、少しずつ変化していた。

 それは誰の影響か。兵藤一誠か。それとも長である曹操か――もしくはその両方か。

 

「……あはは、これは先手を取られたな」

「え、何言って――っっっ」

 

 ……突如、地下に響く不自然な揺れ。それは室内のインテリアを軒並み倒すほどの大きな揺れであった。

 更に扉の方からは土煙が立ち込めて、周りが見えなくなる。

 

「……急襲、かぁ。そういうのって敵役の僕たちの役目じゃない?」

「そうだね――さて、じゃあ仕事をしますか」

 

 そう言うと、ジークフリートとクー・フーリンは互いの武器を手に、室内を後にしようと扉を蹴飛ばした。

 ――そこにあるのは、空だ。

 地下何十層にもなっているシェルターに、大きな穴があいていた。それは紛れもなく強大な一撃によって開けられたもの。

 その穴の上空、月を背景に一つの影がいた。

 ……赤い鎧に禍々しくも美しいドラゴンの翼。その肢体には美しい白銀の光が纏わっており、オーラは絶大。

 

「――戦争派のトップ、ディヨン・アバンセに次ぐ」

 

 とてつもなく低い、兵藤一誠の声が響く。

 それと共に戦争派の謎の黒い生命体が彼へと向かうものの、それは二つの拳で掻き消される。

 サイラオーグ・バアルとディザレイド・サタンの拳だ。ただの拳圧だけで黒の軍勢を消し飛ばすその姿は正に力の象徴。

 そんな二人の中心にいる兵藤一誠は、言を続けた。

 

「今すぐに降伏し、そのおかしな実験を中断するなら命までは取らない。……もしも拒否するのならば――」

 

 ――その手の平に、魔王さえも打ち消すことが出来ないほどのオーラが集結する。

 創造の力で強化して生まれた神帝の鎧。それの力を一か所に凝縮することで放てる、彼の放つ最大級の一撃――紅蓮の龍星群。

 その強大な一撃は、半壊した堅牢な地下基地を、完全に崩壊させた。

 文字通り、地下基地には大穴が生まれる。最早基地としての役目を果たしてはいない。

 ……地下の最奥で、ディヨン・アバンセは嗤いながら兵藤一誠を見る。

 ――彼は宣言する。

 

「――お前たちを、根絶やしにしよう」

 

 ……ここに、北欧を舞台にした赤龍帝眷属と戦争派の最終決戦が始まった。

 




ということで7話。

――さて、このあとがきをお借りして一つお知らせ。
これまで話を更新しなかった理由の一つ、大学における卒業制作を実は公開しています。
それは「小説になろう」にて公開しております。
簡潔にまとめると、芸術系の専門高等学校の美術部を舞台に、様々な登場人物が日常を謳歌していくという「こころのいろ」というタイトルの物語です。
話の雰囲気的にはほのぼの、コメディーがあり、主人公とヒロインを中心に展開する群像劇です。
https://ncode.syosetu.com/n4219ek/」←URLです。
もし自分の個人の作品を読みたい方がいらっしゃるなら、ぜひ読んでもらいたいです。そして楽しんでいただけるならば幸いです

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