ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第6話 友達を助けます!

 ―――パシン!

 ……室内に、乾いたその音が響き渡った。

 その音の源は俺であり、今、俺の頬は赤く染まっていた。

 そう、俺は部長に本気の平手打ちをされたんだ。……部長の表情は、本気で怒っているようだった。

 あの後、俺は一人でアーシアを助けに行こうとしていたけど、電話での一件の後、一日中俺を探し回っていたらしい木場に公園で発見され、そして近くに堕天使が瀕死の状態でいることに気付き、無理矢理に俺を部室まで連れてきた。

 そして俺は部長に事の顛末を話し、アーシアを救いに行くということを伝えると、それを止められた。

 それでも何度も食い下がらずに言っていたら最後は頬を殴られたんだ。

 

「何度言ったら分かってくれるの!? イッセー、あなたがしようとしていることはほとんど自殺行為よ! ……どちらにしろあのシスターのことは救えないわ」

 

 ……部長が怒るのは分かる。

 あんなに自分の眷属を大切にする部長だ。……でも!

 俺はアーシアのことを諦めることなんてことだけは出来ない!

 だから―――

 

「すみません、俺はこれだけは譲るわけにはいきません」

 

 俺は自分の意見を、考えを全て包み隠さずに言った。

 

「これは貴方だけの問題じゃないの! 私や他の部員に被害が及ぶ可能性だってあるの! 貴方の主は私よ! 主として、眷属を危険に晒すことなんてできないわ!」

「……それは俺が、悪魔だからですか?」

「……そうよ、悪魔になったからには、私たちのルールを守ってもらうわ」

 

 部長は俺を睨みつけながらそう言ってくる。

 ……悪魔ってことが、それが俺を止めている原因なら俺は―――

 

「皆に迷惑をかけたくありません。……だから俺をはぐれにしてください」

「「「「ッ!!?」」」」

 

 その場にいる全ての人が、俺の発言に目を見開いて驚いた。

 

「はぐれはどの勢力からも殺されるべき対象でしょう。……だったら、俺がはぐれになってアーシアを救えば誰の迷惑にもかかりません」

「ふざけないで! あなたは私の大切な眷属で下僕よ! イッセー、どうして分かってくれないの!?」

 

 部長だって、譲れない部分があるはずだ。

 眷属を守り、愛し、一緒に戦う・・・それが部長のやり方なんだろうな。

 確かにそれはすばらしいことだ・・・状況が許せば、俺だって部長のために一緒になって必死についていく。

 でも・・・俺にだって譲れないものがある。

 例え悪魔になったんだとしても、俺はアーシアを―――誰かを見捨てるなんてことは絶対に出来ない。

 

「アーシア・アルジェントは俺が人間のころに知り合った友達です。だから部長。……俺は友達を見捨てません。何があっても」

 

 俺はこれだけは絶対に、たとえ神様でも、魔王様でも譲るつもりはない!

 友達を守るのは、友達の役目だ!!

 俺はアーシアに友達だって豪語したんだ―――助けに行かなくて、何が友達だ……ッ!!

 

「イッセー、貴方は素晴らしい性質を持っているわ。……だからこそ、貴方を失いたくないの!」

 

 部長はいつになく悲しそうな目をする。

 それは部長だけじゃない。

 小猫ちゃんだって、俺の顔を見ながら不安そうな表情をしているし、木場だって心配そうな顔で俺を見ている。

 朱乃さんも今日に至ってはいつものニコニコ顔じゃなくて真剣そのものだ。

 ……本当に、悪魔と思えないような良い人たちだよ。

 悪魔も捨てたもんじゃない、それが俺が駒王学園に入って悪魔に対する評価だった。

 悪魔だって人を傷つけるだけじゃない、少なくともこの学園の悪魔は人間に優しいはずだ。

 

「それにあいつらはアーシアの中の神器を使って、儀式という単語を行っていました。もしかしたら、放っておけば・・・」

「……儀式、ですの?」

 

 すると俺の顔を真剣に見ていた朱乃さんが突然、そのような声を上げる。

 すると朱乃さんは部長に何かを耳打ちすると、途端に部長は表情を険しくする。

 

「私と朱乃は大事な用事が出来たわ。今から席を外すわ」

「部長!」

 

 俺は部長に食ってかかろうとした。

 しかし部長の声がその場の俺を遮った。

 

「一つ言っておくわ、イッセー。……あなたの駒である『兵士』の駒は何も最弱ではない。一たび駒がチェス盤の敵地の最奥まで行けば、『兵士』は『王』以外のどの駒にもなれるの。そしてそれは戦闘においての敵陣―――つまり私たち悪魔にとっての敵陣(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)にね」

「……昇格(プロモーション)

 

 俺はチェス単語でそれを知っていた。

 つまりそのシステムは悪魔の駒にもあるってことか。

 

「あなたは下っ端なんかじゃないわ。『兵士』だって、チェックすることが出来るの。祐斗、小猫。イッセーを宜しく頼むわ」

 

 そう言うと、部長は部室から朱乃さんと共に部屋から出て行こうとする。

 そして俺はそこでようやく・・・部長の本心に気付いた。

 

「……部長。俺は悪魔ですけど、ただの悪魔じゃないです―――俺は、ドラゴンです」

 

 部長は俺の言葉があまり聞こえていないのか、少し怪訝な顔をして部屋から去っていった。

 そして残された俺、木場、小猫ちゃん。

 二人は俺をじっと見ている。

 

「……俺は行くよ。部長から許可も貰ったことだし」

「あはは、やっぱり気付いたみたいだね」

 

 木場は悟ったようにそう言った。

 

「そう、部長は敵地において昇格条件に出した。……つまり部長は悪魔にとっての敵陣―――つまり教会を敵地と認めたということだね」

「……つまり、暴れてこいという、許可」

「ああ、その通りだ。……だから邪魔はしないでくれ」

「邪魔なんてしないさ」

 

 すると木場は、部室に置かれてあるチェス盤の何も置かれていないところに『兵士』の駒と、そして『騎士』の駒を置いた。

 

「部長は僕と小猫ちゃんに言ったはずだよ。兵藤君をよろしく、と」

「…………先輩は一人で無茶しちゃうダメな子です。私がイッセー先輩と一緒に行ってあげるです」

 

 すると小猫ちゃんもチェス盤に『戦車』の駒を置いた。

 

「木場、小猫ちゃん」

「……人の中と書いて、仲間です」

「そうだよ―――それに兵藤君。君にはからかわれた恨みもあるからね」

 

 二人は不敵に笑みを浮かべたり、悪戯な表情を浮かべながらそう言った。

 でもありがとう、二人とも。

 

「じゃあお願いだ―――俺と一緒に、友達を助けてくれ!」

 

 ……二人は静かに頷いた。

 

 ―・・・

『Side:リアス・グレモリ―』

 

「それにしても部長。……イッセー君達を行かせても良かったのですか?」

 

 私……リアス・グレモリーの隣には、私の『女王』である朱乃がいる。

 私と朱乃は現在、ある森に来ていた。

 

「ええ。それにイッセーの本当の力、私は常々見たかったのよ」

「……変異の駒を三つ消費」

 

 そう・・・朱乃の言うとおり、イッセーを悪魔にする時に信じられないような現象が起きた。

 突如変異の駒になった私の『兵士』の駒の三つ、更に残りの兵士の駒を全てつぎ込んで、私はイッセーを悪魔にすることが出来た。

 単純計算で兵士23個分の価値。

 彼の中に、一体なにがあるのか私は気になった。

 

「それもあるし、それに単純に堕天使共を許せないのよ」

 

 そうしていると、木々の上から黒い羽のようなものが落ちてくる。

 私はそれが堕天使のものであるとすぐに気がついた。

 

「あらあら、うふふ……。思ったより早い到着ですことですわ」

「……貴様らか、ドーナシークを瀕死にまで追いやり、身柄を拘束した悪魔は!」

 

 良く見ると、そこには二人の堕天使がいた。

 どちらとも性別は女。

 

「ええ、私の下僕が貴方達の仲間を吹き飛ばしたらしいわ―――でも命は残ってるから良いじゃない」

「黙れ! 悪魔風情か!! どうせその下僕もドーナシークの油断をついたに決まってる!!」

「そうそう~! えっとなんだっけ? 兵藤一誠だっけ? あんなきざな男にドーナシークが普通に考えて負けるわけないじゃ~ん? 見かけ倒しだし? 守る守る行って結局守れないし弱いし? 挙句敵も殺せない偽善者! きゃははは!!!」

 

 ……この堕天使、今、なんて言ったのかしら

 イッセーが、見かけ倒し? きざな男? 弱い?

 ……………………偽善者?

 その言葉が頭に広がった瞬間、私の怒りは頂点に達した。

 

「とにかく貴様らは死ね! 悪魔が!!」

「そうよ! あたしとカラワーナの光の槍で死んじゃいな!!」

 

 堕天使が、私と朱乃に光の槍を幾重にも打ち込んでくる。

 ―――そんな脆弱な力で、私を殺そうというのかしら?

 

「……あらあら、うふふ―――怒らせる相手を間違ったようですわね」

 

 朱乃が一歩、私から離れる……ええ、良く分かってるわね、朱乃。

 

「お前達が私の可愛い下僕を語るな」

 

 ……堕天使の光の槍が、私の魔力で完全に消滅した。

 

「な!?」

「う、うそ!!?」

 

 堕天使の表情は青ざめていて、そして私は堕天使に向けて手の平を向け、照準を定めた。

 

「……私の可愛いイッセーを馬鹿にしたわね。その報い、万死に値する―――消し飛べ」

 

 そして私は自分における全力の魔力を放出した―――・・・

 

『Side out:リアス』

 ―・・・

 

「あの、兵藤君……本当にいいのかい?こんな堂々と」

「構わない。どうせ向こうは俺が来ることは分かってるはずだ。それにここの見取り図なら捨てておけ。俺は昔、ここに何度か遊びに来たことあるから必要ない」

 

 来たことあるさ。……幼馴染である紫藤イリナの親に誘われて、あいつと一緒にここで遊んだ記憶があるくらいだ。

 

「…………にゃ、えい」

 

 俺の隣の小猫ちゃんは教会の門を殴り壊した。……俺がやろうと思ってたんだけどな、それ。

 

「……やったもん勝ち、です」

 

 まるで心を読んだかのように小猫ちゃんは俺にVサインをしながら無表情でそう言う。

 まあ誰がやっても同じか。

 

「さて……。早く出てこいよ、フリード・セルゼン」

「おお!? まさか俺っちのことを覚えててくれたんでありますか~?」

 

 俺の応答に応えるように姿を現す白い影。

 ……相変わらず、軽い口調だな。

 俺達の目の前には、物陰から体中、包帯で巻かれている白髪のイカレ神父、フリード・セルゼンが現れた。

 

「随分とボロボロだな」

「だぁぁぁぁれのせいでこうなったか、わかってるっすようねぇ!?」

「知るかイカレ神父。……それにあんまり時間がないんだ。さっさと消えろ」

 

 俺は一歩前に出て、イカレ神父に本気の殺意を向ける。

 今回は、邪魔するなら容赦はしない。

 もう油断するのはごめんだからな。

 

「あらあら……こりゃ恐ろしい殺意だこと―――っつーかさぁ? イッセークンはどうしてあんな糞堕天使の女に殺されちゃったのかなぁ? 明らかにあんなのより強いじゃん?」

 

 ……イカレ神父の言葉で、小猫ちゃんの表情が軽く曇る。

 そうだ、小猫ちゃんはそのことをまだ気にしてるんだ!

 

「ああ、俺様、ひじょ~~に優秀でありんすから、別にあの堕天使はどうでも良いんすわぁ……って言ったら見逃してくれるっちゃ?」

「……ああ、いいぜ。お前が俺の邪魔をしないんならな」

「「!?」」

 

 俺の言葉に木場と小猫ちゃんが驚愕といったような表情を浮かべる。

 

「どうした? 早く行くぞ、木場、小猫ちゃん」

 

 俺は率先して、前に行こうとする。……その前に小猫ちゃんにあることを耳打ちしてから。

 

「じゃあ行かせてもらうぜ、イカレ神父」

 

 俺が神父の横を通った瞬間だ。

 神父は突然、奇声を上げた。

 

「ひゃははは!! 君はアマちゃんだからアーシアちゃんを助け―――ぐほ……ッ!!?」

 

 ふん。……イカレ神父の声は最後まで言えない。

 何故なら突如、現れた小猫ちゃんに鳩尾を『戦車』の馬鹿力で殴られた後に、そのまま顎の下からアッパーされたんだからな。

 イカレ神父は小猫ちゃんの殴打に耐えきれず、そのままあの時と同じように教会のガラスを突き破って、そのまま外に飛んで行った。

 

「……先輩、どうでした?」

「ああ、ナイスタイミングだ、小猫ちゃん」

 

 俺は小猫ちゃんの頭を軽く撫でると、小猫ちゃんは嬉しそうに体を震えさせた。

 

「え? ねえ、兵藤君? あれ、小猫ちゃん?」

 

 ……腰に剣を帯剣して、すごいやる気みたいだった木場は何が起きたのか分からずに右往左往している。

 俺が小猫ちゃんにお願いしたことは、俺があのクサレ神父の隣を通った瞬間、あいつをぶん殴れってことだった。

 あいつの性格を考えたら裏切ることは目に見えてるし、現に仮にも自分の上司をあんな風に言う奴が、約束を守るとも思えない。

 

「何してんだ、木場。……行くぞ」

 

 俺は小猫ちゃんとともに教会の奥。……いや、アーシアがいる教会の地下まで急いだ。

 アーシアの優しい神器の感覚は俺は肌で感じることが出来る。

 今行くから―――だから待っていてくれ、アーシア!

 

 ―・・・

 教会の地下に俺たちはたどり着いた。

 薄暗く、薄気味悪い。

 そして俺達は教会地下の最奥付近にままでたどり着いていた。

 その道中、木場は突然、俺に話しかけてきた。

 

「兵藤君、恐らく今から向かうところには神父が多くいると思うんだ」

「……大がかりな計画らしいからな。それで?」

「ああ。……僕たちは神父を引き付ける。だから君はすぐにアーシアさんを救い出してくれ」

「…………いいのか?」

「大丈夫だよ、心配しなくても。……それに僕は個人的、神父の類は好きではないからね」

 

 木場は恨んでいるような目つきで、そういうと腰の帯剣を掴む。

 そのことに深くは追及はしないが……そうだな、俺も一つの決心をするか。

 

「……いい加減、隠すのは止めるか」

 

 俺は自分の中の、未だ力を思う存分に使えない神器を発現した。

 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)

 今まではまだ完全にグレモリー眷属を信頼していないという点から、様子見として神器の使用は抑えていた。

 だけどそんな甘っちょろいことはもう言っていられない。

 

『Boost!!』

『Force!!』

 

 二つの神器から、同時に二つの音声が響いた。

 それと同時に俺の力は倍増され、更に創造力が溜まる。

 

「……兵藤君、それは一体?」

「……詳しいことは帰ったら話す」

 

 俺は木場にそう言い、前に進む。

 そして、俺たちは教会の最奥まで到着し、そして覚悟を決め、最奥の部屋の門を開けた―――ッ!!

 ―――見つけた!!

 祭壇の上で、キリストのように十字架に体を磔にされているアーシアを!

 そして、その傍にいる……堕天使、レイナーレをッ!!

 

「……思った以上に早いわね」

 

 良く見ると、悪魔払いの大群がいた。

 儀式、アーシアを拘束―――何だ、何でアーシアを拘束する必要がある?

 そもそも儀式とはなんなんだ。

 引っかかる、何か、分かりそうなんだ。

 アーシアを持っているモノは―――回復。

 ……悪魔すらも回復することのできる、優しい力だ。

 ―――嫌な予感がした。

 俺はその予感に従って、木場と小猫ちゃんに向かって叫んだ!

 

「木場、小猫ちゃん!! 神父の相手を頼む!!」

「ああ、そのつもりだよ!! 光喰剣!!」

「……先輩の、お役にッ!!」

 

 木場と小猫ちゃんが神父に攻撃し、祭壇への道をつくってくれる。

 祭壇は階段のように長く、そして俺は疾走した。

 何が起きているかも、起こるかもはっきりとは分からない……でも!

 

『Boost!!』

『Force!!』

 

 何度目かは覚えてない倍増と創造力が溜まる。

 このままでも俺の身体能力は高まっているんだ!

 不調だからって関係ねえ!

 俺は祭壇を登る階段の途中でアーシアの名を叫んだ!!

 

「アーシアァァ!!!」

「……イッセー、さん?」

 

 ……今まで目を瞑っていたアーシアが俺の存在に気付く。

 

「……ほんっと! ヒトをわざわざいらつかせるガキね!!」

 

 だけど、俺の前にあの堕天使が舞い降りた。

 両手に光の槍。

 そして俺を囲む多くの神父。

 

「あともう少し何だから、邪魔しないでもらうわ!」

「……あともう少しとか、どうでも良いんだよ! アーシアを返してもらう!!」

 

 俺は堕天使レイナーレの懐に瞬間的に入った。

 篭手は溜めた力を解放すれば20秒も待たずにバーストしてしまう。

 だったらただの肉体強化での肉弾戦だ!

 堕天使レイナーレを含む神父共は俺に向かって光の剣やら槍を振るって来るが、俺はそれを全て避けつつ、拳でいなしながら戦闘を続ける。

 その戦いに少なからず、敵も動揺を隠せていなかった。

 

「ッ! 予想している速度を上回っている!? なんで……何で私の槍が当たらないの!?」

 

 ああ、避けてるからな!

 死を覚悟した戦いもしたこともない堕天使が!

 戦いの「た」の字も満足に知らないど素人が自分に酔ってんじゃねえ!!

 それに何より!!

 

「アーシアに手を出してんじゃねぇぞ!!」

 

 俺は堕天使の槍を篭手で打ち砕き、そしてそのまま懐に拳の弾丸を放った。

 レイナーレはそれでその場に蹲りそうになるが、翼を織りなして後方に飛び、体勢を整える。

 

「が……ッ!? ……強いわね、あなた。まるで最近悪魔に転生したばかりの人間とは思えないわ―――でも残念ね」

 

 ……すると、レイナーレは突如、翼を織りなして空を舞う。

 傷だらけのレイナーレは、アーシアが磔にされている祭壇の傍に降りて……そして彼女の手にそっと触れる。

 ―――それは次の瞬間だった。

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」

 

 ―――アーシアの悲鳴が聞こえた。

 何かを喪失することに恐怖するようなアーシアの悲痛な悲鳴。

 そうしている時だった。

 アーシアの胸に……あの優しい緑の光が灯ってる?

 ―――途端に頭の中で最後のピースがはまる感覚に囚われた。

 儀式、回復の力、拘束、そして―――あの光。

 …………そういうことか!

 あいつらの目的は!

 

「ふざけるな―――ふざけるなよ、レイナーレェェェェッ!!!!」

『Explosion!!!』

 

 俺は篭手の溜まった力を解放し、そのまま周りで俺の行く手を遮る神父たちを魔力弾で蹴散らし、祭壇の頂上に到着する。

 そしてバーストを引き起こさない間に祭壇を壊す!!

 じゃないと、アーシアが―――死んでしまう!!

 

「間に合えぇぇぇぇえええ!!!」

 

 俺は倍増した全ての力を拳に込めて、そしてアーシアのいる祭壇を拳で完全に破壊し、そして祭壇から落ちるアーシアを抱きとめた。

 

「い、イッセー……さん」

「アーシア!? 大丈夫だ、こいつなんかに、お前の優しい力は渡さない!」

 

 ……こいつらの目的は、アーシアの神器だ。

 神器とは人に与えられた人ならざる力。

 いわば魂、心臓と同じようなものなんだ。

 つまり堕天使レイナーレの目的は、アーシアの中に存在している悪魔でも関係なく傷を癒してしまう神器を抜き取り、自分のものとすること。

 どういう原理かは分からないし、どうでも良い。

 ―――だけど神器を抜き取られた人間がどうなるか、こいつは分かってるんだろう!?

 俺はその事実を理解すると、目の前の女に更に怒りが芽生えた。

 

「……褒めてあげるわ。あの人数の敵を相手に、よくもまあここまで来てアーシアを手に取れたわね―――でも残念ながら手遅れよ」

「何を言ってんだ。……アーシアはもうこの腕の中にいる!」

 

 俺はアーシアを強く抱きしめて、拳を握った。

 アーシアを取り戻した今、こんな下級堕天使を倒すことは造作もない。

 俺はアーシアから離れ、最後の決戦に身を投じようとした―――その時だった。

 

「い、いやぁ! ……いやぁぁぁぁ!! イッセーさん、イッセーさん……ッ」

「……なんで」

 

 ―――アーシアの胸から、淡い緑の光が抜け落ちるように離れた。

 そしてその光は……静かにレイナーレの元に行く。

 

「ふふふ……。あははははははは!!! これよ!! これぞ、私が長年求めてきた力! 至高の存在になるための !最高の!!」

「やらせるか!」

 

 俺はアーシアを置き、レイナーレがあの神器を自分の中に入れる前に倒そうとする。

 まだいける!

 届け、俺の拳!

 

『Burst』

 

 倍増の解放は限界を迎え、力が一気になくなる―――だけど止まるわけにはいかないんだよ。

 例え神器が限界を迎えていようが!

 

「関係ないんだよ!!」

 

 力は消える! ……でもやるしかないんだ!!

 拳を握り、足で地面を蹴り飛ばし、歯を食いしばって戦うんだ!

 

「邪魔よ」

 

 光の槍が俺の体を抉る―――いてぇよ、でも身体の痛さは!!

 

「プロモーション、『戦車』!!」

 

『戦車』の防御力で我慢しろ!

 

「まだよ!!」

 

 堕天使は、俺に何度も槍を放つ!

 こうしている間にも、アーシアは傷つく。

 神器が持ち主を離れるのは、魂が離れるのと同義だ!

 だから放っておいたらアーシアは死んでしまう……だから俺がこいつを神器を取り込む前に倒す!

 神器がレイナーレの中に入ってしまう前に、こいつを屠る!

 

「アーシアの力を……返せぇぇぇ!!!」

 

 俺の拳は……そのまま一直線にレイナーレの頬を貫いた。

 レイナーレはその衝撃に耐えきれず、祭壇の壊れた十字架に激突する。

 そして俺は、その場に浮遊している緑の光を手に取ろうとした。

 

「―――ふふふ……残念でしたぁぁぁぁ!!!」

 

 ――――――指先が触れた瞬間、アーシアの淡い光が……―――消えた

 

「あははははあははははは!! すごいわ!! 致命傷の傷がみるみる治る!! これが聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)の力!!」

「……アー、シア?」

 

 ……俺はおぼつかない足取りでアーシアの元まで歩いて行く。

 アーシアは、息絶え絶えとしていた。

 

「イッセー、さん……怪我してますよ?」

 

 アーシアは俺の頬の傷に手をかざす……でも何もおきない。

 ああ、そうか……俺はまた―――守れ、なかった。

 

「―――あ、あ、あぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」

 

 俺は頭を掻きむしり、自分の過ちに叫ぶ。

 また、俺は助けれなかった……ッ!!

 護るって、言ったのに!!!

 自責の念に囚われている……その時、アーシアの冷たい手が俺の頬を包んだ。

 

「イッセーさんの、せいじゃないです……」

 

 アーシアは精一杯の笑みを見せながら、そう呟く。

 ―――俺はアーシアをもっと安全な場所に置くため、アーシアを抱き上げてそのまま祭壇を駆け降りた。

 恐らくはレイナーレだろうな・・・堕天使が俺へ光の槍を撃ちこんでくるが、俺はそのまま走り去る。

 

「兵藤君……。いや、イッセー君! 君はその子を連れて早く上へ!」

「……ここは私たちが食い止めます、イッセー先輩ッ!」

 

 ……二人は俺がアーシアを救えたと思っているんだろう。

 アーシアを安全なところに連れて行かせようと、道を作った。

 

「……ああッ! 頼むッ!!」

 

 俺はそう言うしか……なかった。

 

 ―・・・

 俺は、教会の聖堂の椅子の上に、アーシアを寝かしている。

 息はまだある・・・諦めてたまるかっ!

 

「アーシア! 大丈夫だ!! まだ俺にはこれが!」

 

 一度、篭手と一緒にリセットされてるけど、フォースギアも数回の創造力は既に溜まってる!

 俺は胸元のフォースギアに手をやり、すぐさま頭の中で神器の工程を思考する。

 回復の力! 前にアーシアのおでこの傷を治した神器だ!

 

『Creation!!!』

 

 音声が鳴ると、俺はいつかアーシアや、女性を助けた白銀の粉の入った瓶を出した。

 想像力に比例して回復の粉の量はかなりある……これなら!

 

「イッセー、さん……」

「俺はアーシアをきっと助けてみせる! アーシアは絶対に生きれる!! ―――なのになんて顔をしてんだよ、アーシア! お前は助かるんだ! 絶対に、助けるんだ!!」

 

 俺は瓶の蓋を取り、多量の白銀の粉を振りまいた。

 ―――でも…………本当は分かってた。

 神器を抜かれたのは怪我じゃない……魂を抜かれたのと同種。

 神器を抜かれた人間は、死ぬ―――

 

「アーシア! お前にはまだまだ教えたいことがあるんだ! なのに何でお前が諦めてんだよ!」

 

 嘘つきだ、俺は。

 自分だって察してるのに、気休めしかいえない。

 弱い、俺は弱い。どうしようもなく―――

 

「私は…………少しの間でも、友達が、出来て、幸せ……でした」

 

 ―――頭の中に、アーシアと過ごした時間が次々に映し出される。

 初めて会ったとき、ちょっと見惚れたこと。

 二回目にあってお茶目さを垣間見せて、その次にあったときは敵なのに俺を庇ってくれた。

 その次なんてデートまでして―――全てを楽しんで、初めてハンバーガーを食べて喜んで、映画を見て感動して赤面して、自分のことを話してくれて……っ!!

 本当に少しの時間だ……だけどアーシアの優しさは、笑顔は! こんなところでなくなっていいはずが、ないんだ!

 

「何言ってんだ! 少しの間だじゃない! ずっとだよ! アーシアと俺は!」

 

 もう自分が何を言っているのか分からない。

 涙があふれる、止まらない、目の前で苦しんでる女の子を救えない。

 

「また遊びに行くんだ! 次はさ、カラオケとかボーリングとか! 俺も友達も呼ぶからさ! 俺の幼馴染なんて絶対にアーシアと仲良くなれるからさ!! だから!!!」

 

 こんなところで消えて良い命じゃないんだッ!!

 辛い想いをしたアーシアを、その辛さを忘れるくらい楽しい思い出を一緒に作ってあげたいんだッ!!

 それだけ、なんだ……ッ!

 一緒に笑顔でいて、俺を癒して……楽しい時間を過ごしたい!

 ―――たった、それだけの願いなのに、どうしてそれが叶わないんだよ!!

 

「わた、しのために……泣いて、くれるん、ですか?」

 

 アーシアは、俺の頬を優しく・・・撫でた。

 

「こんなにも、良い人が……私の友達。……もしイッセーさんと、一緒の国に生まれ……一緒の学校に通えたら―――」

「―――通うんだよ! 毎日俺と一緒に登校してさ! ごはん食べて! 一緒に帰って!! 俺、母さんに行ってアーシアを俺んちに住めるように説得するからさ! だから!!」

 

 何でだ……何でこんなに優しい女の子が……ッ!! こんな理不尽が、どうして起こるんだ!!

 ダメだ、俺がこんなことを思っちゃだめなんだ!!

 俺は、俺はッ!!!

 

「イッセー、さん―――ありがとう……私なんかのために、泣いてくれて……」

「……アー、シア?」

 

 俺はアーシアの声音がどんどん小さくなっていることに気がついた。

 

「助けてくれて……ありが、とう……っ」

「違う! 俺は助けれてなんてない!! だって何も出来なくてッ!! 君を、君をッ!!」

 

 俺は泣きながらそう言っても、アーシアは・・・首を横に振る。

 

「いいえ……救われ、ました。……今もこうやって、私の傍にいてくれる、イッセ……さん―――今まで私の傍にいてくれた人なんて、いなかったんです」

 

 ……アーシアの俺の頬を触る手が、離れた。

 その落ちそうになる手を、俺は強く握り締める……ッ!

 

「初めて、だったんです。……あんな本音、言ったの。……それ、を……自分のことみたいに、聞いてくれて……泣いてくれて―――私は、救われたんです……ッ!」

「アーシア……」

「ああ、主よ。……あなたは、最後に……私に、とても大切な、思い出を……くれたのです、ね?」

「違う……違うんだ、アーシアッ」

 

 ……何も考えることすら出来なかった。

 自分の言っている言葉すら理解できなかった。

 涙で顔がぐしゃぐしゃになって、アーシアの頬に俺の涙が・・・零れ落ちる。

 

「あたた、かい……嬉しいです、イッセー、さん―――こんなわたしを、大切に想ってくれて……」

「大切だ・・・アーシアはッ!! 俺の大切な人だッ!!!」

「……ありがと、イッセー、さん―――それだけで私は、幸せ……なんで、す」

 

 ―――アーシアの力が抜ける。

 目を瞑る・・・まるで安らかって言いたいように、穏やかに。

 

「おねがい、します……もう、泣かないで。……イッセーさんは、えがおでいて……?」

「無理だよ、そんなのッ! 君がいないのに、笑えるわけがないだろ!?」

「だめ、です……そしたら、私……未練で、お化けに、……なっちゃい、ます」

 

 冗談めかすアーシア・・・体は、確実に冷たくなっていた。

 

「ね、イッセー、さん……もし私が生まれ、変わったら……その時、もし近くに貴方がいたら……」

「ああ―――ああッ!!」

「―――きっと、とても、幸せなんでしょう……っ」

 

 声が気薄になる。

 

「あは、は……ダメ、そんな夢物語。……絶対に、無理……です、よね」

「―――無理じゃ、ないッ!!」

 

 ……もう俺に出来ることなんてない。

 だからこんなデマカセしか、言えない。

 でも、それでもアーシアが笑顔でいてくれるなら―――

 

「きっと、きっと! 大丈夫、だよ? 俺がきっと、君を幸せにして、みせる!」

 

 こんな言葉、気休めの嘘だ。

 でもアーシアはそんな嘘でも、笑顔になった。

 

「あり、がとう……!」

 

 

 

 次第にアーシアの声が、優しい声音が……小さくなる。

 そして…………―――最後に、聞こえた。

 

「――――――――大好き、です」

 

 その声と共に・・・・・・アーシアの鼓動が、止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら……もしかしてアーシア、死んじゃった?」

 

 ……声が、聞こえた。

 

「あらあら、怖いわねぇ。……見てよ、この傷。ここに来る間に君のところのナイトにやられたのよ」

 

 呆然とする俺は、その存在に目を向けることは出来なかった。

 

「でもアーシアの素晴らしい治癒の力があれば瞬間で治るわ。……本当に素晴らしい力」

 

 守れなかったのは、俺が……俺が弱かったから、中途半端だったから。

 命を摘むことに躊躇して、そもそも力を使わなかったから。

 全部全部、全部!!

 俺が―――

 

「―――いつまで、寝てんだよ……ッ」

 

 俺は呟く。

 堕天使にも聞こえてるのだろうか、俺を怪訝とみている。

 

「ドラゴンが、なに呑気に寝てんだよ……」

 

 自分が悪いのに、当たるように呟く。

 守れなかったのは、俺のせいなのにッ!!

 

「いつまで、そうしているつもりだよ……ッ!!」

 

 だけど……

 

「応えろ……」

 

 こんな自分を大好きと言ってくれたアーシアに・・・情けない姿は、見せれない……ッ!!!

 

「応えろ……ッ!」

 

 だから俺は泣きながらでも、前に進まなくちゃいけない!

 

「応えろ…………ッ!!」

 

 だからッ!!!

 

「―――応えろぉぉぉぉぉ、ドライグ、フェル!!!!!!!!!!」

 

 叫び、名を呼ぶ!!

 目の前の害悪を倒さなきゃ、あの二人に顔向けできねえ!!

 ―――一緒に…………俺と一緒に戦ってくれ!!!

 ……俺は心の奥底に眠る存在に、そう叫んだ―――

 

 

 ―――――ようやく、わたくしを頼ってくれましたね

 ―――――ならば共に優しき赤龍帝の道を進もうか、相棒

 

 

 ……耳に通り過ぎる二つの声音。

 その声音が響いた瞬間、俺の脳髄で変化が起こる。

 体が勝手にビクンと振動し、目を見開かせた。

 ―――力が、体の奥から溢れるように満ちてくる……ッ!!

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』

『Force!!』『Force!!』『Force!!』『Force!!』『Force!!』『Force!!』

 

 まるで今まで流れを止めていたダムみたいに、俺の中に力が溢れる。

 怒りと悲しみ……その二つを現すように音声が鳴り響き、俺はその場に立ち上がった。

 

「な、なに……!? この音声は、なんなの!?」

 

 ……レイナーレは、こちらを化け物を見るように見ていた。

 

『……相棒、ずっと相棒の中で動きがとれなかったのだ。すまない』

『主様。申し訳ございません―――あの少女は……』

 

 ドライグとフェルは、ひどく落ち込んだ、低い声でそう謝って来た。

 ……確かに言いたいことはある。

 今すぐにでも涙が出そうなくらい、辛いよ……ッ。

 だけど今は―――あの子が大好きと言ってくれた自分を、感傷的に責めている時じゃないッ!!

 きっとそんなことをしたらアーシアに怒られる!

 ……だから今は―――歯を食いしばって、無理をするんだッ!!

 

『……相棒―――ああ。ならば俺は相棒に相乗りします。……涙するときも、怒るときもッ!!』

『それがわたくしたちの、罪ッ!!』

 

 ……俺は拳を突き立てる。

 今の俺は……あいつからどんな風に見えているのかな。

 まだ立ち上がる馬鹿か? それとも頭の狂った化け物か?

 ―――それとも、自分を殺そうとする殺人者か?

 

「な、なによ、これ……なんで、ま、魔王クラス? いえ、それ以上の魔力が!?」

「……うるせぇよ。そんなことはどうだっていい―――ただな、一つだけはっきりしてる」

 

 俺は思う……もっとだ、こいつを二度と立ち上がらせないようにするにはもっと力がいる。

 

『Boost!!』

『Force!!』

 

 違う、半端な量じゃねぇ……もっと、もっとだ!!

 神器は、想いにって力を変える。

 なら叶えろ、俺の想いを!!

 あいつを、一撃で沈める―――圧倒的強さを!!!

 

『Force Gear Movement New Stage!!!』

『―――Created Force Gear Over Ability!!!!!!』

 

 ……俺の胸の白銀の神器が、眩く光る。

 それでいい、応えろ!

 

『Reinforce!!!』

 

 ―――音声とともに、俺の胸から生まれた神器の白銀の光は、そのまま俺の左腕の籠手に吸い込まれ、俺の籠手は赤と銀の光に包まれる。

 螺旋のようにとぐろを描く二つの光は俺を包み、その空間全てを包み込んだ。

 

「―――お前が、アーシアを殺したんだ……ッ!!」

「な、何なのよ!!」

 

 堕天使は、俺に槍を撃つ……避ける必要もない。

 

「なんで……何もしてないのに光が消えるのよ―――ッ!!?」

 

 槍は、俺に届くよりも遥か前方で消失する。

 

「神器強化……赤龍神帝の籠手(ブーステッド・レッドギア)

 

 ―――神創始龍の具現武跡(クリティッド・フォースギア)の新たな力、『強化』。

 それは神器の性能そのものを桁違いに上げてしまう、神器の『強化』の力。

 それによって俺の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)はその性質を大きく変えた。

 ……どれほどの力かは分からない。

 だけど一つだけ分かることがあるとすれば―――あいつを倒すのに、十分ってことだ。

 

『さあ、行こう―――相棒の大切なものを奪った奴を、屠る一撃を』

『その拳に怒りを込めて!!』

 

 次の瞬間、一気に俺の篭手から音声が鳴り響いた!!

 一秒ごとに『Boost!!』の音声が流れ、それとともに俺の力が次々に倍増する!!

 力は際限を知らないように、狂ったように増えていき、俺はレイナーレに一歩、近づいた。

 

「い、いや……ッ! そんなの聞いてない!! 高が龍の手が、何で!!?」

 

 ……レイナーレは、翼を広げてその場から逃げようとする。

 俺はその動きを先読みし、そして先回りして背後に回る。

 

「逃がすわけ、ねえだろ」

 

 俺は奴の翼を乱暴に掴む。

 そのままその薄汚い黒い翼を抜き千切り、相手の痛みも気にしないまま地面に放った。

 

「ぎゃぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!」

 

 薄汚い絶叫が響くもそれを無視して、俺は拳を握る。

 そして未だなお、倍増を続けている籠手の力を解放する。

 

『Over Explosion!!!!!』

 

 力が今までとは段違いのレベル倍増の解放。

 本気で禁手を使っているのと、変わらないほどの力を感じた。

 

「わ、私は至高の!!!」

「―――黙れ。お前が至高ならなッ!!」

 

 俺はレイナーレが話せないように首を勢いよく掴み、そして―――

 

「―――そもそも堕ちてねぇんだよッ! 吹っ飛べ、糞堕天使野郎ォォォォォォォ!!!!!!!」

 

 俺の拳は、一直線に堕天使レイナーレの腹部に入る!!

 直後、俺の耳に通るおぞましいほどの打撃音、骨が完全に砕ける音ともに、辺りは地震のような揺れが起きる。

 レイナーレを抉る俺の拳は徐々に地面の状態を変化させ・・・

 そしてレイナーレをそのまま、地面へと叩きつけると、レイナーレは床を突き破ってそのまま、あっという間に先ほどの地下へと叩きつけられた。

 ……そしてレイナーレはピクリとも動かなくなった。

 ―――それを確認して、俺はその場で天を仰ぐ。

 力の停止もせず、ただ起きた現実に囚われる。

 

『……相棒』

『主様・・・』

 

 二人の声が、俺の耳に嫌に響く。

 ―――俺のすぐ真下の地面に、大粒の水滴が留め止めもなく落ちる。手でぬぐって、それは止まりやしない。

 ……ああ、分かってるさ。……アーシアの仇は、倒した。

 もう、俺に出来ることは何もない―――だからさ?

 もう、良いだろ……もう―――泣いても、良いだろッ!

 

「アー、シア……。あの野郎をさ、倒したよ? ……くそ、どうしてだよ―――なんで、こうなるんだよッ!! なんで、なんで……―――」

 

 ―――俺は、アーシアの傍で泣くことしか……出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――泣か、ないで……イッセーさん

 

 ……その声が、聞こえるはずのない声が聞こえるまでは。







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