ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第6話 明らかになる真相

 ――エンドは自分がミリーシェだと、そうはっきりと俺に言った。

 散らばるミリーシェの欠片の多くを持っている、限りなくミリーシェに近い個体。彼女がミリーシェの転生体であるのならば、確かに辻褄は合う。

 エンドが俺に拘る理由、最初に合った時に覚えた既視感。

 彼女の悪戯な口調は、どこかミリーシェを彷彿とさせるものがあるのも事実だ。

 

「あれれ、意外と反応が鈍いなー。愛するミリーシェちゃんとの再会だよ? こう、抱き着いてきたりするものかと思っていたよー」

「……混乱してるんだよ」

「そう? ……私にはそうは見えないなー――まだ納得してない。そう顔に書いてあるよ?」

 

 ……ずばりと俺の考えを言い当てるエンド。

 確かにお前の言う通り、良く分からない奴の言葉を全て鵜呑みに出来るほど、俺には余裕はない。

 とにかくエンドには不可解な点が多すぎる。ただ、一つ言えることは……こいつは俺よりも確かな情報を持っているってことだ。

 そして何より俺に決して姿を見せようとしない。これが一番の疑問だ。

 

「あ、ちなみに私が素顔を見せないのは自信がないからだよ? だってミリーシェの時と今とでは顔のレベルが雲泥の差があるんだもん。おっぱいはあの時よりも遥かに大きいけど……」

「そんなこと聞いてねぇよ!! ……ともかく、お前のその発言を今は信じることは出来ない。だけど、全部嘘とも思えない」

「……まぁそれでいいよ。結局イッセーくんは私のところに来るって信じてるからね」

 

 不敵に笑うエンドは上機嫌なのか、鼻歌を歌いながら俺の近くに寄って来た。

 ……だけどエンドの行動によって俺とフリードは逃げることが出来た。そう思うと少しだけ感謝しないとダメだよな。

 

「理由はなんであれ、助かった。一応ありがとうとは言っておく」

「ふふふ~、いいよいいよ――あぁ、幸せ。大好きな君とこんなに近くで話せるなんて、夢のようだよぉ」

 

 ……なんていうか、やり難いな。

 ――だけど悠長なことはしていられない。少なくとも現状、問題はマシにはなったとはいえ、仲間とは分裂してしまっている。

 エンドの考えが分からない以上、この最大のイレギュラーであるこいつを放ってはおけない。だから俺は依然として仲間と合流することは出来ないってことだ。

 

「……俺はやらないといけないことがある」

「知ってるよ~。戦争派でしょ? あいつらを終わらせるなんてイッセーくんなら簡単だよ――あれだったら私がやっても良いよ? 君の敵は全部終わらせるから」

 

 エンドは黒金のオーラを放出し、曇りない笑みを浮かべてそう言った。

 ――言動と行動が合わなさすぎる。やっぱりこいつは危険だ。こういう後先を考えない辺りは本当にミリーシェを見ているみたいだな。

 

「お前の力は不明確過ぎる。だから下手に介入されたら溜まったもんじゃねぇよ」

「ひっどいなぁ~――まぁ良いや。私はいつも通り傍観するだけにしようかな……ってあれれ?」

 

 ……するとエンドは何かが俺たちに近づいてきたのに気付いたのか、そちらを見て驚いた。

 俺もそちらを見ると、そこには――リリスがいた。

 

「……イッセー、みつけた」

「り、リリスまでここに来るのか」

 

 ……最悪だ。エンドだけでも手一杯なのに、敵の最大戦力までもが俺の元に来るなんて。

 ――どうすりゃいいんだ、これ。

 

『下手に逃げたら余計に状況が悪くなりそうだな。だがリリスからもエンドからも今は敵意を感じられないぞ』

 

 ……だけど逆に俺も動けないということだ。そんでもって、俺が動けないってのが今、一番の痛手だよ。

 

「目的はなんだ、リリス」

「もくてき……イッセーをしりたい」

 

 ……リリスはそう言うと、俺の腕をギュっと掴む。

 ――なんだ、これ。いや、なんの状況だよ、これは。

 

「――なぁに羨ましいことしてるのかなぁ? ね、リリスちゃん」

「……おまえ、まえにあった、へんなりゅう」

 

 ……こいつら、面識があるのか。

 そう言えば旧魔王派の一件の時にアザゼルが二人を見たと言っていたのを今になって思いだす。

 

「――消すよ、君」

「むり」

『主、流石にこの化け物をどうこうはまだ無理よ。見たところ、オーフィスに限りなく近い力を感じるわ』

 

 エンドの胸元からアルアディアの声が響く。

 ……しかし、依然としてフェルは起きないな。対極の存在がすぐ近くにいるのに、どうしてまだフェルは起きることが出来ないんだろう。

 ――いつまで心を閉ざしているんだろう。

 

「ま、別にムカつく感じじゃないからいいけどさぁー――で、イッセー君。創造のドラゴンは元気?」

「お前たちのせいで絶賛育児放棄中だよ」

『私たちのせいにするのは言いがかりよ。勝手に嘘を付いて、それがバレただけでしょう?』

「それが言いがかりなんだよ。……勝手なことを言うな。お前が思っている以上に俺はフェルを信じているんだよ」

『――肝心のフェルウェルがそうではなかったようだけれどね』

 

 ……痛いところを突いてきやがる。

 とりあえずエンドのことは今は良い。今は……

 

「リリス、俺はどうしたら良い? 俺はどうしても助けたい人がいるんだ。だから今すぐにでも行動したい」

「……たすける? だれを?」

「――この戦場で泣き続けている人を、だ」

 

 俺はハレとアメを思い出して、拳を強く握る。

 ……一体あの子たちはどこにいるんだ。それを思い出してどうしようもない気持ちになった。

 

「……ハレとアメ、か――いいよ、手伝ってあげる」

 

 ――するとエンドは突然、そんなことを言ってきた。

 ……どういう風の吹き回しだ? 

 

「どういうつもりだよ。お前にとってはどうでも良いことだろ?」

「ん? ……ま、気分だよ。それに個人的に戦争派は気に入らないから、間接的に嫌がらせをしてやろうと思ってねぇ――始創と終焉の共演。ちょっとテンション上がらない?」

「……知らねぇよ」

 

 少しだけそれも良いなと思ったことは絶対に教えない。

 ……でも、話していると余計に自然体になってくるな。なんか、エンドと話していると照れくさいというか、どうにも反発心が出てくる。

 ――まるで昔、ミリーシェと話していたときのように……。

 

「リリス、とりあえず今、お前は俺の敵ではないんだな?」

「たたかおうとは、おもわない」

「それだけ聞ければ十分だ――すぅ」

 

 俺は息を吸い込む。

 ……仲間の魔力の質は覚えている。この戦場はあまり大きいものではないから、大体の場所は把握できるはずだ。

 ――ティアと朱雀、レイヴェルは基地の近くにいる。恐らくは俺の救出に来たんだろう。

 だけどそこには黒歌はいない。基地の近くで待機しているはずの黒歌がいないとなると――まさか緊急事態があいつにも起こったのか。

 俺は連絡用の魔法陣を展開し、黒歌に通信を繋げようとするが……繋がらない。

 

「通信が繋がらないってことは、あいつは今、一人で戦っているのか?」

 

 ……何か嫌な予感がする。

 俺はすぐさま魔力感知のセンサーを最大まで広げる。

 

「んん~――なんか、気配感じるなぁ~」

 

 ――すると今まで俺の隣で浮かんでいたエンドが、一目散にとある方向に飛んでいく。

 それと同時に俺は黒歌の居場所を突き止めた。それは、エンドが向かっている方向。

 ……偶然か、それともあいつが俺よりも早く感知したのか。それは分からないが、俺はリリスを連れて同じ方向に飛んでいく。

 

「――うわぁ、ひっどいなぁ」

「エンド、何を言って――」

 

 エンドが宙で立ち止まり、何かを見ながらそう言っていた。俺はエンドの見る方を見て――息をするのを、忘れた。

 

「く、くろ――黒歌ぁ!!?」

 

 俺はすぐさま地上に降り立ち、黒歌の方に走っていく。

 ――黒歌は倒れていた。身体中から血を流し、瀕死の状態の彼女の元に駆け寄る。

 ……なんでだ、どうして黒歌がこうなる。こいつの実力は下手な最上級悪魔でも負けないようなレベルなんだ。

 どうして……

 

「黒歌、しっかりしろ!?」

「――い、っせー……ごめん、にゃん……」

 

 ――消えそうな声の黒歌。俺はすぐさまフォースギアを展開し、創造力を用いて回復の神器を幾つも作り出す。そしてそれを黒歌に使いながら彼女の話を聞いた。

 

「……何があった。どうしてお前がこんな……っ」

「……ゆだん、したにゃん。まさか、あいつが……あんなきりふだを、もってるなんて……」

 

 ……ダメだ、これ以上黒歌を話させてはいけない。今の黒歌には俺の力じゃ応急処置にしかならない。

 少なくともレイヴェルの持つフェニックスの涙でないと、完治は無理だ。

 

「……だけど、この子だけ……まもれたよ」

「――まさか、アメ?」

 

 ――黒歌は認識阻害の術を自分のすぐ傍に掛けていた。それが解けると、そこには俺が探していた双子の片割れ、アメが倒れていた。

 ……息はある。気を失っているだけなんだろう。

 

「ごめん……ハレの方は、さらわれたにゃん……。アメは、まぼろしでなんとかかくせたの――ごめん、ちょっとだけ、ねむるにゃん」

「――ああ、今はゆっくりと休め」

 

 黒歌は力尽きたのか、俺の腕の中で眠る。

 ……傷は塞がったから一命は取り留めている。俺は黒歌を木陰に寝かせると、次はアメの傍に寄る。

 彼女の頭を自分の太ももの上に乗せ、状態を確認した。

 ――するとパチリと目を開けた。

 

「……赤い人」

「なんの覚え方だよ、それ――大丈夫か?」

「……うん」

 

 アメは虚ろな目をしながらそう言うと、そっと起き上った。

 

「……何があったか、教えてくれるか?」

 

 俺はそう尋ねると、アメは頷いた。

 

―・・・

 

 アメから事情を聞き、状況を把握できた。

 黒歌は戦争派に追われていたハレとアメの救出した。そしてそこに現れたのが、おそらくはディヨン・アバンセとメルティだ。黒歌は二人を庇いながら戦うも、敵の奇策に破れてしまった。

 つまりはこういうことらしい。その結果、ハレとアメはディヨンに連れ去られそうになるも、寸前のところでアメだけは幻術で隠すことに成功した。

 その結果が今の現状である。

 ――今の俺といえば、先ほどの状況から少しばかりマシになっていた。先ほどまで俺の近くにいたエンドが、突然姿を消したのだ。その結果、俺にぴったり引っ付くのはリリスだけだ。

 ……状況がよくないのは変わらないが。

 

「……アメ、悪いがお前が何を言おうと今は俺の保護の下にいてもらう。内心は安心できないと思うが、ハレは俺たちが必ず救うから、今は俺に従ってくれ」

「……うん」

 

 アメは沈んだ声でそう頷いた。

 ……俺は黒歌を抱きかかえ、他の仲間と合流すべく、戦争派の基地からはかなり距離のある小屋に腰を下ろしていた。

 まずはティアと連絡を取るため、魔法陣を彼女に繋げると――途端にティアの大声が響いた。

 

『い、一誠ぃ!? お前、無事なのか!? フリードから事情は聞いた、今からお前を救出に』

「救出は大丈夫だ。どういうわけかエンドは消えた――代わりにリリスが俺の近くにいるんだけど……」

『……やはりお前のところに向かっていたか』

「なるほど。リリスに関してはティアも心当たりがあったってわけか――ともかく一度合流しよう。リリスに関してはそれから考えたほうが無難だ」

 

 俺はティアとそう言葉を交わし、通信を切った。

 ……そして一旦落ち着くために、深くため息を吐いた。

 

「……疲れてるの?」

「あ? ……まぁな。事態が色々と起きすぎて――でも安心しろ。落ち着いたら、次はすぐにハレの救出に向かうから」

「……ありがとう」

 

 ……アメが頭を下げる。

 ――元はといえばこれは俺たち側の問題だ。人間の世界で平和に日常を過ごす彼女たちはただ巻き込まれているだけ。

 ……だからこそ、俺が救うのは当たり前のことだ。

 俺はそう思ってアメの頭をそっと撫でる。

 

「……変態?」

「――お前、結構言うな。違うからな? これは癖みたいなもんだよ」

 

 ……こういう行動は控えるべきなのか。一瞬そう考えてしまう。

 ――俺はリリスの方を見る。リリスは俺にぴったりとくっつきながら、じっと俺を見つめていた。瞳が淀んでいるからか、異様に居心地が悪い。

 

「……お前は見ているだけでいいのか?」

「……もんだい、ない」

「そうかよ――こういうところはオーフィスにそっくりだけど、あいつの方が最初から遠慮なかったよ」

 

 ……オーフィスも今回の件に参加したがっていたが、あいつレベルの力となると隠密もくそもないからな。ティアはその辺は非常に器用だから力を隠せているけど、オーフィスの場合は垂れ流しだからな。

 

「……おねえさま?」

 

 すると、リリスはオーフィスの名前に反応した。

 

「意外だな。オーフィスに興味があるのか?」

「……おねえさま、リリスのオリジナル。イッセーはおねえさまといつもなにをしてる?」

「なにをって、オーフィスとの戯れといえば……休日、膝の上に乗せてお菓子を一緒に食べて、テレビを見る。庭でフリスピーを遣って遊んだり、チビドラゴンズとオーフィスを連れて遊園地に行ったり、水族館に……って、言われてみれば休日のお父さんかよ」

「……おかし、フリスピー、テレビ、ゆうえんち、すいぞくかん……」

 

 リリスは非常に興味深そうに俺の言った言葉を羅列していた。

 ……そうか。リリスもこんな当たり前のことさえも知らないんだ。だからこそ嫌に思い出すな、オーフィスと最初に出会った頃のことを。

 

「オーフィスもな、最初は何も知らなかったんだ。ジュースの缶の開け方も知らないくらい無知でさ――でも仲良くしていくと、段々ロボットみたいな表情が豊かになっていったんだ」

「……イッセーは、たのしかった?」

「まぁな。あんな友達は初めてだったし、俺と触れ合うことで心が生まれているみたいだったよ。……だからあいつが自分で決めて、俺の元に来てくれたときは嬉しかったな」

 

 禍の団の象徴ってだけのリーダーだったオーフィスは、三大勢力の和平会談の時に自身の脱退を宣言した。それで自身の力を半分にして、その半分を禍の団に謙譲した――そしてその結果、生まれたのがリリスだ。

 リリスがどのようにして生まれたのか、俺は知らない。だけど多分、まともな方法ではないんだろう。あのリゼヴィムが関わっているんだからな。

 

「……リリスは自分がどうやって生まれたのか、知っているか?」

「……しらない。リゼヴィム、おしえてくれない」

「知りたいか?」

「……分からない」

 

 ……駄目だ。俺はリリスをどうしても敵だとは思えない。

 ――オーフィスと同じ見た目と性質がリゼヴィムに利用されているとしか、思えないんだ。

 

「――イッセー、きにいった」

 

 ……するとリリスは、俺に抱きつく。

 俺は突然の彼女の行動に疑問を抱いていると、すぐにリリスは俺から離れた。

 

「な、なんなんだ?」

「……きょうは、もうかえる」

 

 するとリリスは小屋の出口の方に向かった。

 

「イッセー、またくる」

 

 ――リリスはそう言い残すと、風のように俺たちの前から姿を消したのだった。

 ……リリスにしろ、エンドにしろ。本当に何を考えているのか分からない。

 

―・・・

 

 ――それから程なくして俺たちはティアたちとの合流に成功した。

 俺たちは隠れ家を変え、ティアの龍法陣を頼りにしつつ比較的安全な場所を確保して、一息ついたというのが今の状況だ。

 黒歌の処置は無事に済み、今はレイヴェルが看護してくれている。黒歌が自然に扱っている仙術の影響かどうかは俺には分からないが、気の回復が早く恐らくあと数時間もすれば復活するだろう。

 そして俺はといえば、アメと二人で対面していた。

 目的はアメに詳しい話を聞くためだ。先程の小屋でおおまかなことは聞いたとはいえ、やはり情報は不十分だ。

 

「……ハレは元々気絶していて、黒歌が一人で二人を守っていたってことか――黒歌を奇襲した敵については覚えているか?」

「……アメもすぐに気絶したから……ごめんなさい」

「いや、謝らなくていいよ――黒歌の目覚めを待つしかないってことか」

 

 ……俺は一息つく。

 状況は好転しないのは確かだけど、これまで戦争派に拘束されたりエンドやリリスと出会ったりと、心臓に悪い状況が続いていたからな。

 一度落ち着いて冷静さを取り戻したい。だけど、アメの心情を考えたらそんな悠長にしてもいられないのも事実だ。

 

「……悪い。もう少しだけ俺たちに休む時間をくれないか? 今のまま突っ込んでも、勝ち目があるとは思えないんだ」

「…………アメに、選ぶ権利ないから」

 

 ……アメはどこかの虚空を無表情に見つめ続ける。双子の片割れが戦争派に連れ去られて、彼女なりに思うところはあるだろう。

 だけど取り乱しもしない――たぶん、この子は自分が何も出来ないと思っているんだ。

 この状況を打開する力がないから、そんな自分に絶望している……俺にはその表情が、そのように見えた。

 

「……どうして、猫の人はアメなんかを守ったんだろ」

 

 ――ポツリとアメはそう呟いた。

 ……その発言の意味はもちろん分かる。自分に価値がないって思っているんだろう。

 だけど、その考えはダメだ。その考えだけは絶対にしてはいけない。

 

「……少し外で話そうか」

「……わかった」

 

 俺はアメにそう提案すると、アメは特に考える素振りを見せずにそう頷いた。

 ……俺とアメは仲間に断りを入れてから外に出る。今は龍法陣による隠ぺい工作でこの場所は知られていない。だから少しくらいは外に出ても問題はないと考えたわけだ。

 ……俺とアメは近くの木陰に腰を下ろす。

 

「なぁ、アメ。さっきなんで黒歌が自分なんかを守ったかって言ったよな?」

「……うん」

「……あいつだって、どちらとも救いたかったんだと思う。だけど状況がそれを許さなかったから、だからあいつは自分に受ける最善を尽くしたんだ――だからお前はそれを言ってはダメだ。ハレを守り切れなかったことを責めてもいい。だけど、自分を蔑ろにしたら、あいつが傷ついてまで守った意味がなくなっちまう」

 

 ……ハレとアメのことを最も気にしていたのは、他の誰でもない黒歌だった。

 きっと、自分と二人を重ねていたんだろう。

 ――昔、黒歌と小猫ちゃん……白音は二人と同じような状況下にいた。私利私欲のためだけに動く者達のせいで傷つけられる毎日。逃げて逃げて、懸命に逃げて戦い続けた日々を思い出して、一種の同情を抱いていたんだと思う。

 

「……黒歌にも妹がいるんだ」

「……妹?」

 

 ――俺がそう話すと、アメは興味があるのか反応した。

 

「ああ。あいつらの昔っていうのが、二人と同じような状況だったんだよ――だから黒歌は自分たちと二人を重ねているんだ。……俺も、自分と重なって見えたからこうやって助けたいって思っているんだ」

「……同情」

「ああ――同情して悪いか? 同情もなしに救える人がいるんなら、それはもう聖人だよ。……残念ながら俺は悪魔だからさ」

「――悪魔なのに、打算的じゃないんだね」

 

 ……アメは少しだけ、笑みを浮かべてそう言った。

 ――神器を宿しているから理不尽に巻き込まれる。そのせいで本当に大切な人と離れ離れになってしまった。その経験は俺にもある。

 ……エンドが本当にミリーシェなんだとすれば、あいつがこの子たちを助けるのに手を貸すって言ったのも繋がる。

 

「……別に信じなくても良い。だけど、俺は君たちを救ってみせる。俺や俺の仲間を信じるのは、救われてからで良い」

「……一つだけ、お願いを聞いてほしい」

「なんだ? 言ってみろよ」

「――ハレを、助けてほしい」

 

 ……アメは俺の手をギュッと握って、今にも泣きそうな表情で俺にそう言ってきた。

 

「……猫の人が言ってた。あなたは、迷惑とかそんなことを関係なく、困ってたら助けてくれるって……だからお願い、ハレを」

「――ハレとアメ、必ず救ってみせるよ」

 

 ――断言しよう。俺は必ず、この戦場で涙を流し続けている二人を守ると。

 ……いつもなら俺がこう恰好をつけたら相棒たちが騒ぎ経つんだけどな。ああ、感傷に浸る場合じゃないないのにな。

 

「……よし、じゃあ今からの話は未来の話だ――アメとハレにはこの状況を抜け出したら、生きていく術はあるか?」

「……ない。アメたちの両親は……アメたちを捨てて逃げて、すぐに死んじゃったから」

「――だったら、それも俺がどうにかする」

 

 ……俺はアメの頭に手をそっと置いて、安心させるように出来る限り柔らかい声でそう言った。

 

「もちろん環境は変わってしまうかもしれないけど、そこは俺たちがサポートするよ。後はそうだな、言語は……猛勉強だ」

「……どうしてそこまで、親身になるの?」

 

 ……ほんっと、なんでだろうな。俺もどうしてハレとアメをこんなにも放っておけないのか、理解できない。

 もちろんこれが二人ではない別の人物であったとしても、救おうとは思うはずだ。だけど、自分が引き取るとかそういう気持ちにはならない……と思う。

 だけど最初から思っていた。一目見た時から、俺は――

 

「――なんでか分からないけど、他人には思えないんだよ、二人が」

「…………なに、それ」

 

 俺がそう言うと、アメはまた微笑む。

 ……初めて彼女が心から笑ったように、俺の目には映った。

 

「――そろそろ相手に好き勝手にやられるのは性分に合わねぇな」

「お? その台詞、待っていたっすよ?」

 

 ……すると俺のすぐ近くでフリードの声が聞こえた。

 

「フリード、お前……盗み聞きか?」

「ははっはー、大丈夫っすよ。イッセーくんの恥ずかしい台詞なんて、一切聞いておりませんのよ、私はぁ~」

「――歯を食いしばるか?」

「……イッセー君の拳は少しばかりバイオレンスだから、遠慮しとくッス」

 

 フリードは手をひらひらとさせると、懐からタブレットのようなものを取り出した。

 

「……無事、解析は終わったから呼びに来たんすよ。イッセー君の推測通り、こいつには中々機密情報が記載されているっす」

「そうか……中身は確認したのか?」

「ま、ちょっとだけね――ただ、たぶんそこのアメちゃんとハレちゃんのことは記載されていないね。何故か六番目と七番目の子供たちの欄だけが空欄なんすよ」

 

 フリードはタブレットを操作しながらそう言う。

 ……だけど戦争派は二人を追っていたってことは、確実に何かがあるんだ。アメにも奴らの目的があったはずだけど――神器の目覚めは感じないのが現状だ。

 俺は創造の神器を宿しているからか、神器に対してはかなり敏感だから分かることである。

 

「……でもイッセーくん、こいつを見るならそれなりに覚悟はいるっすよ」

「……見ないと、何も始まらないからな」

「――見たら戦争派を何が何でも一匹残らず消さないと気が済まなくなるよ」

 

 ……俺はフリードからタブレットを受け取る。

 そこには項目欄が1~5、そして6と7を抜いて8まである。

 確かメルティが一番目で、ディエルデとティファニアが二番目と三番目、クー・フーリンが五番目で、ドルザークが八番目。

 クー・フーリンの話では実験の成果順で番号になっていると言っていた。

 ……つまりハレとアメも、ドルザークよりも以前に何かしらの実験をされているはずなんだ。なのに二人は家族と普通に暮らしていたと言っている。

 二人についての疑問はまだ残るけど、今はまずは俺たちの知らない四番目を――

 

「――ちょっと待てよ、これって……っ」

「そういうことっす。……どうしてあいつがこの戦場に現れたか、ホントに疑問だったんすわ。気まぐれにしては、時期が悪すぎる」

 

 ……俺は四番目の項目を押して、その画面を注視する。

 そこに映るのは――先ほどまで俺が顔を合わしていた幼い双眸だった。違うのは現在よりも目に光が灯っていることのみ。

 ――実験検体番号(フォー)、メルリリア。別称は……

 

「――リリス」

 

 ……八人の子供たちの最後の一人は、オーフィスの片割れで禍の団のトップである、リリスであった。

 

 

 

 

 

 

 

「……上層部の考えそうなことだ。全く以て虫唾が走る――だが今回に関しては感謝させてもらおう」

 

 ――北欧の地に、一人立つ男がいた。

 それは彼が普段着ている貴族服ではなく、戦闘に興じる際の彼の隆々として筋肉を余すところなく表現するぴっちりした服を着る長身の大男だ。

 そしてその隣に立つのは、その男よりも更に大きく、歴戦の覇者と言わんばかりの傷を負う、迫力のある大男。

 二人は並び立って目の前を見つめ続ける。

 

「奴らの好きにはさせない。すまないな、若手の君にこのような願いをするなんて」

「何を仰っているのですか――兵藤一誠は俺がいずれは戦う好敵手。むしろ俺を誘ってくださった事に感謝こそすれど、謝罪される謂れはございません」

 

 ……二人は向かう。ただ一つ――この戦場で八方塞がりの赤龍帝眷属の援護に。

 ――北欧を舞台にした人間たちによる暴挙が終戦を迎える。この血で血を洗う災厄の戦いを終わらせる、最終決戦の火ぶたは切って落とされた。

 

「――行こう、サイラオーグ」

「はい――ディザレイド・サタン様」

 

 ――冥界の新世代の肉弾戦の覇者と旧世代の覇者の参戦。

 赤龍帝眷属の反撃の開始である。




※ディザレイド・サタン→初登場第5章第8話
オリキャラなので一応書いときます



少し急ぎ足気味ですが、第6話です!
先日ツイッターでも言ったんですが、ここしばらく更新できないことと更新速度が遅いのは、僕が一次創作に没頭していたからです。
実は結構昔から一次創作には手を出していて、自分にも目標みたいなものがあってそれい邁進する年にしようというのが現状なんですよね(今は敢えて何かは言いません。時が来たらお話します)。
だからこれから第10章を一気に書き上げようかと思いますが、それが済むとまたしばらくは更新できない可能性があります。だけど絶対に帰ってくることは約束します。
お気に入りが3000超を越えて、少なくとも僕の作品を楽しみしてくださる読者様がいるということをしっかりと分かっているので、どうか最後までついてきてほしいです。
……長くなりましたが、それではまた次回の更新でお会いしましょう!

Ps
長いこと放置していた文章構成を全て修正しました! 第0章から現在まで、全て改行などを改めましたので、かなり読みやすくなったと思います!

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