ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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番外編9 後編 天空龍王大決戦

 ティアマットというドラゴンは、俺にとっては本当に親しみやすくて、ここぞという時に頼りになるドラゴンだ。

 部長とライザーの一件の時も、コカビエルの一件の時も、修行の時も、旧魔王派の信仰の時も……今回の修学旅行の時だってティアは何度も助けられた。

 本当は祐斗たちを救ってくれてありがとうと言いたいのに、ティアと俺は戦う。

 この遥か上空、真正面からの真剣勝負。

 いつも訓練とは違う、本気の戦いだ。

 ティアは初めから巨体で美しいドラゴンの形態で、俺は初っ端から赤龍帝の鎧を身に纏った臨戦状態。

 ……だけど俺たちは已然として、その膠着状態から動き出すことができなかった。

 ―――俺は動けない。何故なら、ティアから感じる圧倒的パワーに一切の隙がないからだ。

 一度懐に入れば、速攻で勝負が決まってしまうような気すらもしてしまう。

 良く俺は最初、こんなドラゴンを相手に恐れることなく襲い掛かったもんだ。今考えてもあの頃はがむしゃらだった。

 ……だけど、相手のティアも動かない。

 それはつまり―――俺もあの時とは違うということを、ティアも認識してくれているんだろう。

 それがどうしようもなく嬉しいって感じてしまう辺りが、俺も単純だよな。

 

『ティアマットの本気か。……見るのは生前ぶりだ―――相棒、心してかかれ。あいつは俺の全盛期に何度も食いかかってきたドラゴンだ』

「あぁ、分かってるさ―――最初から分かってる。ティアがすごいことくらい。それでも俺はあいつにお灸を据えるって決めているんだ」

 

 俺は肩を回し、拳を強く握る。拳を握ることでカシャンと金属音が鳴り響き、俺は背中の噴射口より紅蓮のオーラを撒き散らした。

 それが翼のように粒子を生み、空を赤く染める。

 ―――俺の持つ手札は赤龍帝として力を十全。

 創造の力は制限付きで、恐らく神器の強化を一度することが限界だろう。

 神器創造は最低限のものが限界で、ましてや神滅具創造はまず不可能。

 その時点で白銀龍帝の双龍腕の選択肢が消える。

 ―――対する敵は龍王最強にして、あの真龍グレートレッドを以て「天龍の二歩手前」といわしめる強大なドラゴン。

 ……面白れぇ。

 とどのつまり、純粋に赤龍帝と龍王の戦いってわけだ。

 ヴァーリじゃないけどさ―――ワクワクするぞ、ティア!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!』

 

 鎧の各所より倍増の音声が鳴り響き、俺は溜まった倍増のエネルギーを全て身体能力に変換してティアに近づく。

 まずは赤龍帝従来の肉弾戦だ!

 

「ティアぁぁぁ!!!」

 

 瞬時に懐に入り、その拳をティアに勢いよく振るう。ドゴォっという打撃音が空中に響き渡る。

 ―――次の瞬間、俺の横腹に衝撃が走った。

 俺の横腹にあるのは……尻尾ッ!

 ティアの尾が俺の身体を薙ぎ払い、俺を後方に圧し飛ばす……ッ!

 兜のフェイスより血を軽く吐くも、ティアの追撃は留まらないッ。

 距離が離れたことで遠距離からのブレス攻撃がティアから放たれる。

 白と黒の混じったブレスは凄まじい威力、速度で俺に迫り、俺の鎧の各所を粉砕する。

 ……龍王は、魔王に匹敵する。

 その龍王でも頭一つ以上の実力を持つティアは、もはや神にも勝る。

 天龍の二歩手前ってのは本当だ。それほどのものを俺はこの一瞬で感じた。

 ……俺の拳は確かにティアにまともに入った。それでも多少の傷しか生まれていない。

 ティアは、低い声で声を掛けてくる。

 

『―――出し惜しみなんてつまらない真似をするな。お前の手札の多さは私が一番良く理解している。その全てを受けきって、お前を叩き潰してやる』

「―――望む、ところだぁッ!! 息吹け、守護飛龍(ガーディアン・ワイバーン)!!!」

 

 ―――俺はドラゴンの翼を羽ばたかせ、紅蓮に輝かせた羽から十一の赤い光が浮かぶ。

 その赤い光はティアの攻撃で散らばった俺の鎧の破片を吸収し、次第に形に成す。

 ……その大きさは初めて使った時よりも倍以上に大きくなっているほど。二メートルを超すワイバーンは俺を囲むように隊列を組む。

 ―――ティアを相手に、剣戟は意味をなさない。

 あいつとは肉弾戦の、純粋なパワーとテクニックを駆使した戦いでないと意味がない。

 ……小細工なんてあいつには通用しない。

 ならば真正面からあいつとぶつかってやる!!

 

「行くぜ、ワイバーン!!」

『アルジ、マモル!!』

『アイテ、タオス!!』

 

 俺が勢いよく飛び立つのに対し、ワイバーンは俺を囲みながら追従する。

 ティアも俺のこの力を見るのは初めてだからか、多少の警戒をしていた。

 ……俺は移動している最中、すぐさま自身の力を倍増し続ける。

 更に……

 

『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』

 

 ワイバーンからより一〇秒毎の倍増も行われ、それぞれの倍増のエネルギーがワイバーン自身にプールされていく。

 ―――全体的な力を考えれば俺がティアとまともに対抗できるのはこのワイバーンを使った戦闘と神器の強化による鎧の神帝化だ。

 オーバーヒートモードも、鎧のアクセルモードも、ティアに対しては対抗策にはなり得ない。

 俺はアスカロンの龍殺しのオーラを左腕に込め、ティアと正面から戦闘を再開する。

 ティアは翼を織りなして俺の体をなぎ払おうとすると、俺はすかさず自身の配下であるワイバーンを盾にして防御する。

 ティアもワイバーンの強固さは予想外だったのか奥を取り、さらに俺は溜まった倍増の力を10分割し、全てを均等にワイバーンに譲渡した。

 

『Transfer!!!』

 

 譲渡された倍増のエネルギーによりワイバーンたちにプールされていた倍増は底上げされ、ワイバーンは俺の前に出て口を開け、そこより主砲のようなものを覗かせる。

 そこには俺の魔力を元に生まれたオーラが漏れていた。

 ……ワイバーンの真骨頂は、俺の与える小さな魔力を倍増させて強大な一撃に昇華されること。

 いわばワイバーンたち一匹一匹がそれぞれ『赤龍帝』なんだ。

 俺は防御に使ったワイバーンを一匹連れて、再びティアに近づく。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!!!』

「ティア、これでもお前は、余裕ぶれるか!?」

「……ッ!」

 

 ティアとの距離がほぼゼロの状態から、ティアの肢体に殴り飛ばすように放つ拳。

 左腕には龍殺しの力を、右腕には魔力のオーラをまとわせて連続型の正拳突きをティアに対して放つ!

 ドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴドゴッッッ!!!と、ティアの体より鈍い打撃音が空を包んだ。

 流石のティアもこの攻撃をまともに受けきるのは分が悪いと感じたのか、その強靭なる腕で俺を逆に殴り飛ばす。

 ワイバーンは俺の盾になるようにティアの拳と俺の間に入るも、ティアの一撃で致命傷を受け、地面に落ちていった。

 それでも衝撃を殺しきることはできず、俺は兜から血を吐き出しながら殴り飛ばされる。

 ―――だけど俺がいたのはあくまで時間稼ぎだ。

 俺が戦っている間にもワイバーンはティアを倒すための一撃を溜め続け、俺がティアからはなれた瞬間に放つ!

 

「一斉掃射ぁぁぁ!!!」

『『『『『『『『『『カシコマリ!!!』』』』』』』』』

 

 俺がワイバーンの照準からはなれ、それぞれのワイバーンより各種違うブレスが放たれる。

 極限まで高められたそのブレスは例え龍王だろうがただでは済まない!

 こいつは白銀の龍星郡、紅蓮の龍星郡に匹敵する一撃―――飛龍達の豪放(ワイバーンズ ダウントレス)

 速射、重射、透化、爆撃、断罪、拡散、爆発、切断……更にそれらを組み合わせた複合魔力砲がティアを襲う。

 ―――しかし、それも束の間だった。

 

『肝を冷やしたぞ。知らない間に、新しい力を手に入れていたみたいだな』

「……そっか。そうだよな———龍法陣。お前にはそれがあるもんな」

 

 ―――ティアの周りには、ドラゴンかドラゴンの力を持つものでしか扱うことのできない龍法陣による円陣は浮かんでいた。

 ティアの体にはいくつか傷があるものの、特に致命傷を与えていなかった。

 防御系龍法陣。いくつかの種族の防御系の技を見たことがあるけど、あれほど強固なものを俺は他に知らない。

 少なくとも龍星系の魔力砲撃はフェンリルやロキですら有効だったんだ。

 ……手札の多さと知能の差。ティアは俺に取ったらフェンリルよりもやりにくい。

 ティアの手札の多さは龍法陣を始めとして数多い。

 一々超一級の技を使い、龍法陣でこちらを詰ましていく―――純粋なパワータイプでもあり、純粋なテクニックタイプでもある。

 どちらかといえばパワー寄りだ。

 

『……だが、お前を相手にするのであればドラゴン形態は多少、分が悪いな』

 

 ティアは自身の周りに巨大な龍法陣を展開し、その中を通っていく。するとティアはドラゴン形態から人間形態―――翼を、尻尾を、爪を、牙を生やした龍人形態になった。

 まるで夜刀さんのような形態。

 ……しかし力が小さくなったとは到底思えない。

 むしろ小さくなったことで凝縮されているようにも感じる。

 ……白と黒の龍人は、牙を生やした口を開いて、俺に話しかけた。

 

「龍法陣には大まかに分けて、三つの種類に分けられる。一つが防御系で、もう一つがこのような変身系。最後が攻撃特化の攻撃系―――普通はどれか一つないし二つだが、私は例外だ」

 

 ―――ティアが両腕の白黒の龍法陣を展開し、それを両腕に掛ける。

 その瞬間、ティアの腕が極太のものとなり、更に一瞬で俺の前に現れた……ッ!!

 

「―――私は全てを最高水準で扱える。ドラゴンで最も、龍法陣を扱えるドラゴン。それがティアマットというドラゴンだ!」

 

 そして容赦なく、俺の懐に拳を振るう!

 それによりものの一瞬で粉々になる俺の鎧っ!!

 ……速度と打撃力が先ほどまでと段違いすぎるっ!!

 ワイバーンを出している間、俺の中の守護力によって鎧は従来よりも堅牢なものになるってのに、ティアはそれをものの簡単に破るっ!

 しかも今の速度は―――夜刀さんにも匹敵する!!!

 

「―――だけど、負けてられねぇんだよ!!」

 

 ―――今こそ、ずっと続けてきた努力を他の誰でもないティアに見せるときだ。

 俺の戦いの修行相手であり、ある意味で戦闘においての師匠の一人でもあるティアに、俺のこれまでを見せないといけない。

 ……俺は、紅蓮の円陣―――龍法陣を描いた。

 

「―――イッセー、お前……ッ!!」

「ああ、そうさ。俺も、ずっとお前のそれに憧れてたんだ。俺はドライグとの同調率が異常に高く、魔力の質がドラゴンのものに変質してしまった。だからこそ、俺も龍法陣を使える。……本当はお前との修行で気づいていたんだけどさ、驚かせたくてずっと黙っていた」

 

 ……それを今、使う。

 しかし俺の龍法陣の才能はティアのような天賊の才能ではない。

 本当に一点集中の、しかも扱えるものが異常に少ないもの。

 俺の力の本質を表しているように、俺の力は攻撃型と防御型の融合型―――

 

「俺の龍法陣の才能は攻防複合型―――できることは二つ。強靭な肉体を作り出し防御力と忍耐力を異様に高くして赤龍帝の力に耐えられる肉体へと強化すること」

 

 ―――実は無意識にずっと使っていたんだ。

 そうでなければ無限倍増にも、他の身体的負担の多い各種の技に耐えられるはずがない。

 ……俺は龍法陣により今一度、肉体を超強化を果たす。

 更にもう一つ、俺が唯一使える龍法陣を展開した。

 ―――バチッ、ズンッ。

 俺の鎧が、内部からの筋肉の膨張に耐えきれずにプレートが外れて地上に落ちていく。

 その姿を見たティアは、驚きの表情で俺を見ていた。

 

「―――身体の一部分にドラゴンの力を全て集中させ、一撃を必殺に高める円陣。『破龍の激震』。今しがた私が使ったそれの究極の円陣だ。……全く以て、お前は極端だよイッセー。持つ円陣はたったの二つだが、その一つがお前に最も必要なもので、もう一つが必殺の究極。……だがそれで勝てるほど、甘い考えはしていないな?」

「もちろんだ。この必殺はただ強者に対するものだ。お前はただの強者じゃない―――だけど俺は赤龍帝だ。他のどの赤龍帝とも違う、独自の進化を重ね続けてこれまで生き残ってきた。……それが自分一人で得たものではない。お前やドライグ、フェルや仲間、先輩達や……」

 

 俺は言葉を区切り、肥大化した腕を胸元に持っていき、拳で胸元を叩いた。

 

「―――大好きな奴らが俺の傍にいて、支えてくれたから得たものばかりだ。だから俺はそんな大好きな奴らをこの手のひらで護る」

「……私には、お前の助けなど必要ない」

「―――お前になくても、俺には必要なんだ」

 

 ……俺の言葉にティアは目を見開いた。

 

「ティアは本当にすごいよ。俺はいつもお前を相手にしていて、どんな強者よりもお前を強く感じていたんだ。俺がどんな新技を見せても、どんな新しい力を見せてもティアはいつも攻撃的にそれに対処した。さっきの一撃だって、俺の中では上位クラスの一撃なのに、お前はそいつを苦もなく防いだ―――この龍法陣も、俺の戦いの根本も、全てお前と出会ったことで進化した」

 

 俺は拳を構える。

 俺を囲むワイバーンもそれを真似するように同じ体勢を取った。

 

「―――ティア、俺はお前を必ず倒す。ドラゴンファミリーが足枷なんて絶対に言わせない。だって俺はこんなにも強くなれたんだから」

「……お前と、私では見ている高みが違うんだ」

「―――違わないさ。だって俺は、この手で何者の手からも大切を護るって決めているんだから」

 

 クスリと笑い、拳をティアに向けて放つ。

 たったそれだけで拳圧でティアの頬に傷が生まれた。

 ティアはその傷を押さえて、俺を見る。それを見計らって俺はティアに言い放った。

 

「―――お前が何よりも大事にしていたものを護る。そのためにお前を倒す。覚悟しろ、最強の龍王、ティアマット」

「―――望む、ところだ!!」

 

 ―――そのとき、ティアが初めて笑った。

 ―・・・

 ティアとの戦いは第二ラウンドに突入する。

 第一ラウンドは、俺は通常形態+ワイバーンで応戦し、ティアはドラゴン形態で応戦した。

 対する第二ラウンドはその進化系の状態で俺たちは戦闘していた。

 俺は龍法陣により俺という全てを極限まで強大化した肉体状態に、ワイバーンと鎧を纏った状態。

 そしてティアは龍人態にあらゆる属性の強力な龍法陣を扱い、俺を追いつめる状態。

 地力の差でティアは俺を圧倒するも、瞬間的火力の大きさで俺はティアを追いつめていた。

 ……いわば両者、引くことも押されることもない互角。

 いや、はっきりいえばどちらとも最強といえる力はまだ使っていない。

 ティアは未だに本領を発揮しておらず、対する俺も奥の手である神帝の鎧を残している。

 守護覇龍を使えない状況での俺の切り札は変わらず神帝の鎧なんだ。

 ……近距離での激しい攻防の中、俺とティアの極太同士のドラゴンの腕が交差する。

 それにより俺たちは激しく後方に押し戻され、それを理解してすぐさま俺は手元に極限まで溜め込んだ倍増のエネルギーの溜まる球体を浮かばせ、それを殴り壊す!

 

紅蓮の龍星群(クリムゾン・ドラグーン)!!!」

 

 俺は魔力を濃縮した上に倍増した流星を放つと、ティアはそれを相殺するためといわんばかりに口を大きく開け、そこから白と黒の混じるブレスを放つ。

 更にそのブレスの向かう先に龍法陣による円陣が展開されており、それを通過すると更にそれは強大化して、俺の流星を相殺した。

 ―――真正面から流星を力技で止められたのは初めてだった。

 

「―――まだまだぁぁぁ!! イッセーぇぇぇ!!!」

 

 ティアは俺の前に守り浮かぶワイバーンをなぎ払いながら俺に近づく、拳を顔面へと向かって降るってくる。

 ―――この馬鹿みたいなパワーを前に、中途半端な力は不要。それはつまり、この戦いにおいてフェルの力による創られる神器は決定打にならないことを意味している。

 例えフェルが万全であろうと、状況はあまり変わらなかったんだろうさ。

 だから言い訳はしない―――今持てる力を全てティアにぶつける!!

 

「―――二段階目!! アクセルモード!!!」

『応ッ!!』

 

 俺は倍増速度を更に加速させるアクセルモードに移行し、ティアを迎え撃つ!!

 拳を受け流し、拳を放つも受け流される。

 かと思えばティアに一撃が当たれば、すかさずティアは俺に攻撃を当ててくる。

 ―――とんだ、負けず嫌いだ。

 俺も、こいつも!!

 

「ワイバーン、囲め!!」

「ッ!!」

 

 ティアは俺だけを見ていたため、自身と俺を包囲するワイバーンに気づいていなかった。

 俺は一瞬の隙が生まれたティアの顎を下から殴り上げ、ティアを怯ませる。

 その瞬間、ワイバーンの十の砲門より放たれる、ティアを拘束するための砲撃。それは魔力でできたロープのようにティアの身体をぐるぐるに拘束した。

 ティアはすぐさま龍法陣でそれらを弾け飛ばそうとするが、すかさず俺は背中の翼を羽ばたかせてティアの傍に飛び寄った。

 倍増のエネルギーを全て左腕の肥大化したドラゴンの腕に込め、更に龍殺しの力を込め―――ティアの拘束するそれごと、ティアを殴り飛ばす!!

 この一撃はティアもまともに当たったのか、口から血反吐を吐き出した。

 だけど―――笑っていた。

 

「―――良いぞぉ!! イッセー(ドライグ)!!!」

「もっと来いらティア!! 全部()にぶつけやがれぇ!!!」

 

 ティアの龍人形態は更に進む。

 もはや下半身は完全にドラゴンのものとなり、それにより更に身体能力が跳ね上がっている。

 戦う時間に比例して、ティアの勢いと強さは右肩上がりに上がり続けていた。

 

『変わっていない、ティアマットは。思い出せばあいつはいつも俺に挑むとき、後先を考えずに真っ向から挑んでは破れ、しかし次ぎ合うときには更に何かを得て強くなっていたものだ』

 

 それがティアの強さ―――生粋のバトルジャンキー(戦闘狂)で、負けることを許さない。

 そうか……。ティアは俺たちと離れたくないんだ。

 だけどその願望に邁進することなく、己のプライドが今の道を選択させてしまっている。

 ―――孤高に自分を高め、天龍の頂まで上り詰めたクロウ・クルワッハ。

 ある意味でドラゴンを完全に体現したあいつを、ティアは羨んでいる。

 だからこそティアはあいつに勝つために、昔と同じように自分を高めようとしている。

 ……でもあいつは知らないんだ。

 そうすることでしか強くなれないなんて、勘違いをしている。

 ティアは気づいていない―――この戦いを通して、これまでの俺との修行を経て、自分自身がどんどん強くなっていることに。

 ティアは本来、ここまでのテクニックはなかった。

 だけど俺との修行で俺はティアから強大な力の運用効率や戦い方を教わったように、ティアも小細工に対する対処を覚えた。

 ―――ならば俺は勝つことで、ティアに彼女の強さを教える。

 そのための一撃は―――この手にある!!

 

「―――ワイバーン!!」

 

 俺の一言でワイバーンの四匹ほどが俺の身体に引っ付き、そしてそもそもが機械型であるワイバーンは俺の身体に合体するように装着される。

 両腕に一匹ずつ合体変形し、俺の両腕をより機械的で仰々しいものに変化させた。

 更に残りを翼に装着させる。

 ―――ワイバーンは装着可能な機械飛龍。

 言ってしまえばこれはワイバーンの切り札なんだ。

 一度装着したワイバーンは装着限界時間を過ぎれば消え、しばらくは呼び出すことはできなくなる。

 だけど鎧とは別個で倍増を重ねるこいつは、ある意味で白銀龍帝の双龍腕の代用として使える。

 この戦いで唯一フェルの力でティアに通用する力の代用。幾度なく俺の助けになったあの力の代わり。

 

「―――機械仕掛けの赤龍帝。これも面白い発想だけどな、イッセー!! それが私に通用するか!?」

 

 まるで試すようにわざわざ俺に近づくティア―――第一ラウンドはある意味、全てを攻略されたから俺の負けだったのようなものだ。

 だけど今回は―――ティア、お前の負けだ!!

 

『All Full Boost!!!!!!!』

 

 アクセルモードに、既に何十段階と倍増を重ねたワイバーンを四匹、更に残りの六体からは倍増の力が俺に対して譲渡される。

 それら全てをこの左拳に集結させ、向かいくるティアに向かって―――絶対の拳を、放った。

 

「―――ッッッ!!?!!?」

 

 ティアはその余りもの拳の威力に、それを全て堪えることができず、雲間を突き抜けて地上へと落ちていく。

 更に俺は追い打ちをかけるように翼に合体したことで生まれた翼の砲門をティアに向けて、そこより流星クラスの魔力砲を続けざまに二発放った。

 ……地上からは、ティアが墜落したところから煙が浮かぶ。

 俺の鎧に合体したワイバーンは全て崩壊し、更にこれまでの戦闘で限界がきたのか、残りのワイバーンは二体を残して全て崩壊する。

 ……俺は浮かぶワイバーンを引き連れて、ティアが落ちたところに向かった。

 その最中、俺たちの戦いを心配そうに見守るオーフィスやチビドラゴンズが目に入る。

 ……大丈夫だ。心配しなくても、あと少ししたらちゃんとティアを連れ戻す。

 ―――たぶん、次が最後。

 この最強の龍王と繰り広げた戦いは、次にティアが立ち上がったところで最終ラウンドに突入する。

 そのとき、俺は初めてティアの本気を初めて見ることができるだろう。

 俺が地上に降り立つと、そこは俺とティアが最初に戦ったことで生まれた、大きな山のクレーターだった。

 そのクレーターの中心に、座り込んでいるのは傷だらけのティア。

 その身体からは俺と同じように夥しい血が流れており、ティアは少し苦笑していた。

 

「―――ははは、油断したよ。ああ、そうだ。忘れていた。イッセー、お前は意外性が実は高いんだったな」

「……そうだよ。勝つためには必要だったからさ」

「そうだろう―――それでも私は負ける訳にはいかない」

 

 ……ティアは重い腰を上げて、立ち上がる。

 その目には今だ戦意が強く残っていて、表情は真剣そのもの。

 身体からは白黒の混じったオーラが滲み出て、それは俺の肌に突き刺さる。

 ―――間違いない。ティアの本気だ。

 ティアは自身の周りに無数とも思える龍法陣を展開し、そのそれぞれが違う効果を持つ円陣を自分に掛ける。

 ……数えることが馬鹿らしくなるほどの円陣がティアを囲み、変化はすぐに訪れた。

 

「……んだよ、それ。お前、ずっとそんなもんを隠していたのかよ」

 

 ―――人型でありながら、女性型のドラゴン。

 そのオーラは神にも劣らず、魔王を凌駕し、辺りの魔物を雰囲気だけで震え上がらせていた。

 森の生物は全てがその圧倒的覇者に対してすぐさま従属するように静かとなり、それを目の前にする俺もまた、内心でティアの奥の手に恐ろしさを感じていた。

 ……今までの敵で、ここまでの脅威を感じたことはほとんどない。

 それこそ、初見のロキや黒い赤龍帝の時よりも衝撃が強かった。

 ―――これで二天龍の二歩手前か。

 

「龍法陣の制限解除だ。私の持てる全て龍法陣を全て自分に展開し、一時的な改造形態―――本当ならば、ドライグを倒すために用意していた奥の手。使うのは初めてだ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

「―――クロウ・クルワッハには使わなかったのか?」

「……ああ、使わなかった。だが、使わなかったから負けたなどとはいわない。これを使っていたとしても、私はあいつには届いてはいなかったからな」

 

 より強大になった姿で、そんなことを呟くティア。

 ……その言葉を聞いた時、俺はふと思った。

 ―――ティアが負けた、本当の理由を。

 

「……俺が、証明しないといけないな―――フェル、一度だけ力を借りるぞ」

 

 ―――声は返ってこない。俺の中で深く眠るフェルは、いつもみたいに俺の言葉に反応して一緒には戦ってくれない。

 

 それでも俺の胸元には既に創造力を溜まり切っているフォースギアが現出していて、白銀の光の結晶が漏れている。

 ……最後の奥の手は一つ。

 

「―――神器強化」

 

 フェルの意識がないため、音声は流れない。

 でも確かにフォースギアは俺の鎧を包み、更には俺の周りの残りの守護飛龍までもを白銀の光が包み込む。

 鎧は鋭角なフォルムを作り出し、翼はよりドラゴンに近づき、鎧の各所はどこか機械的に進化を遂げる。

 守護飛龍もまた同じような変化を遂げ、そして俺は完全に姿を変える。

 ―――何度も俺と共に、あらゆる強敵を倒してきた、俺の中では最も安定して最強の鎧。

 

「―――赤龍神帝の鎧(ブーステッド・レッドギア・スケイルメイル)

 

 ―――俺の体が限界を迎えるまで、永遠に神速で倍増を重ね、全ての敵に必勝するための鎧を。

 神帝の鎧を身に纏った瞬間、ティアもまた冷や汗を掻きながら笑みを浮かべた。

 ……ティアとは修行でもこの鎧を纏ったことがない。

 だからこそ、どれほど通用するかは未知数だ。

 こいつを使った戦闘は、思い出す限りではコカビエル、ヴァーリ、ガルブルト、ロキ、フェンリル、黒い赤龍帝、平行世界の兵藤一誠だ。

 そのうち常に使い続けて戦ったのはロキとフェンリル、黒い赤龍帝のみ。

 この力は常に消耗を重ねるが故、基本的には奥の手で使用するのが主だ。

 白銀龍帝の双龍腕と併用していたから負担は減っていたけど、こいつを単体で使用するのは本当に久しぶりだ。

 ―――神帝の鎧の単体での乱用は危険。身体的にも精神的にも、だ。

 ……ティア。今の俺はどう映る?

 俺にはティアが果てしなく強者に映る。神をも凌駕するティアを、心の底から敬意を払い、恐れおののいているのかもしれない。

 それでも―――倒すことを諦めてはいない。

 たとえ勝てなくとも、自分の取れる手を全て試す。その上で負けたのなら、その後に反省をした上で鍛えなおす。

 ……ティアが負けた本当の理由。

 それは―――

 

「―――お前は、クロウ・クルワッハに対して勝つことを諦めた。全力を見せることなく、感覚だけで敵を計って挑戦することをしなかった。だからお前は負けた」

「―――お前にはまだわからないことだよ」

「わかってたまるか。俺はどんな敵でも諦めない。諦めることでどれだけ後悔するか、どれほど後で悔やんで涙を流すかを知っているから―――だからどんな状況でも、諦めてやるか」

 

 俺はティアの言葉をそう言い捨てて、拳を構える。

 ティアはきっと、自分が負けるなんて微塵も考えていないんだろう。

 だからあんな台詞を吐いた―――思い出させてやる、ティア。

 昔のお前を。ドライグが知っているお前を。

 

『Infinite Booster Set Up―――Starting Infinite Booster!!!!!!!』

 

 俺の思いに応えるように鎧の真骨頂、無限の倍増が開始される。

 ティアは俺を見て、どこか苦虫を噛むような表情となった。

 

「…………。もういいさ。お前は口で言っても理解しないんだ―――力ずくで、解らせてやる」

 

 ティアは神速で俺の目の前から姿を消す。

 次に現れたとき、ティアはその豪腕で俺の体を打ち抜こうとしていた。

 ―――その強靭な拳を、俺も拳で打ち込んで相殺する。

 その衝撃で俺たちのいるクレーターは更に広がり、至近距離で鎧越しの俺の目とティアの充血する目が交差する。

 

「―――絶対に謝らせる、チビドラゴンズに。ティア、歯ぁ食いしばれ」

 

 その宣言の元、俺たちの戦いは終盤へと差し掛かった。

 ―・・・

 広大な森の、あらゆる場所を戦場に変えて、俺たちは拳を重ねていた。

 身体中を全て龍法陣で強化し、天龍に近いレベルまで至っているティアに、神帝の鎧で無限の倍増を主体で戦う俺。

 その戦いは恐ろしいほどまで―――圧倒的であった。

 

「―――無駄だっ!! どれほどの攻撃をしようが、どれほどの力を見せようが、私には効かないことがどうして理解できない!?」

「…………ッ!!?」

 

 ―――鎧の各所が崩壊し、俺自身もボロ雑巾のように血みどろだ。

 対するティアは大した外傷がなかった。

 ……この時点で俺はティアに完全に劣っていた。

 俺の一撃はティアに対してダメージにはなっても、致命傷には至らない。

 それに加えてティアは龍法陣で自然治癒力を高めているため、すぐに傷を回復する。

 ……もちろん、俺もただやられているわけではない。

 自分なりに立ち回り、この数十分の戦いを繰り広げてきた。

 ……ティアは強い。恐ろしいほどに強い。自分の手札を切らないと、ここまで圧倒的に叩き潰されるほどに強かった。

 全てにおいて万能を誇る龍法陣と彼女の強さがあいまって、ティアは無類の強さを誇っている。

 ―――にも関わらず、ティアは焦るようにドラゴンの拳を振るう。

 勝ち急ぐように、ティアは何度も俺を殺す勢いで拳を振るった。

 

「―――どれだけ、ボロボロでも……、俺は、拳を握り続ける限りは、諦めない……ッ」

『アキラメナイ!!』

 

 俺の傍に控える二体のワイバーンが、俺を支えるように寄り添ってくる。

 ……そうだ、何があろうと諦めない。

 ワイバーンが俺と共にまだ戦ってくれるように、俺もまだ戦える。

 つまらない先入観なんていらない。

 ティアが強いことなんて最初から分かっていたんだ。なら、何を諦める理由がある。

 最初から前提として勝てないって理解していても、そんな理解糞食らえだ。

 

「―――チビドラゴンズが見てんだ。妹が、兄貴が戦うところを心配そうに見てんだよ。……諦めない理由はそれだけで充分だ」

「―――たったそれだけでお前は強くなるのか。あながち、お前は単純なんだな」

 

 ティアはオーラの大きくなった俺を見て、苦笑混じりにそう呟いた。

 しかしその攻撃の手を休めるなんて甘さ、ティアにはない。

 彼女の四方に展開される円陣により、ティアの両腕は極太になり、両足の爪は鋭利な刃物のように鋭くなる。

 更に翼を織りなして宙に浮かび、その鋭い眼光で俺を睨みつける。

 ……さぁ、ここから先は本当の意味でも正念場だ。

 ―――ここから少しの間、俺は本当の意味で本気を出す。

 その少しの間だけが、俺がティアの今の状態とまともに戦える唯一の時間だ。

 ほんの数分―――そこに俺という力の塊の全てを賭す。

 

「ドライグ、全力でいくぞ!!!」

『応っ!!』

『Infinite Accel Booster!!!!!!!.』

 

 ドライグとの掛け合いと共に神帝の鎧は最大出力を発揮するために変化する。

 鎧のオーラを辺りに撒き散らすために、ガシャンと鎧に隙間が出来て、噴射口が生まれる。

 更に残りのワイバーンが俺の両腕に纏わり、そのまま両腕に合体した。

 ワイバーンは神帝の鎧と完全に同化し、ワイバーンの倍増速度は鎧と同じ―――つまり、無限倍増となった。

 これが今の俺の、本当の奥の手。

 3つの倍増の原動力を持つ代わりに、その負担も3倍となった形態。

 その継続時間は多分五分も持たない。

 ―――三分。それが俺が戦える最後の時間。

 

「ドライグ、最後まで付き合えよ?」

『心配するな。いつまでも付き合ってやる』

 

 ―――駈け出す。

 向かいくるティアに向けて、俺がした行動は実に単純だ。

 足腰で地面を蹴り、上半身を軽く捻らせ、腕を引き―――拳を放つ。

 ティアもまた俺と同じように極太のドラゴンの拳を放ち、俺たちの拳は何度目かも忘れたほどに、交差する。

 

「―――イッセェェェェェ!!!」

「―――ティアァァァァァ!!!」

 

 その衝撃波だけで鎧にヒビが生まれ、ティアの身体に切り傷が生まれる。

 しかし俺たちはどちら引くこともなく拳を合わせ―――力負けしたのは、ティアだった。

 その結果にティアは驚愕の表情を浮かべる。

 その隙を見た俺は両手の平に二つ大きな魔力球を浮かべ、そこに両腕のワイバーンの無限倍増のエネルギーを注ぎ込む。

 それによって生まれるのは、紅蓮の龍星群が二発。

 俺はそれを立て続けに放ち、ティアに追撃を繰り出した。

 ……ティアは早い反応で即座に幾つもの龍法陣を展開し、俺の流星から逃れようとする―――しかし、流星は変化した。

 極太の魔力砲から、防御陣を掻い潜るように弾丸は拡散し、円陣を潜り抜けてティアに向かう。

 その総数は数百弾の弾丸の雨。

 その脅威に対し、ティアは笑みを浮かべていた。

 まるで、自分の予想を超えたことを喜んでいるとでも言いたいように。

 ―――全ての弾丸はティアへと向かい、容赦なくティアの肢体を破壊しようとする。

 弾丸の雨が止み、俺はティアを見た。

 

「―――あれを受けて無傷とは言わせねぇぞ」

 

 ―――ティアは傷を負っていた。それも明らかにこれまでの傷とは段違いの、致命傷に近い傷。

 しかしティアの表情は―――楽しそうであった。

 

「―――まだだ。私はこんな程度では、倒れない……ッ!!」

 

 血だらけのティアは瞬時に俺に近づき、その拳を振るってくる。

 俺はそれを避けようとすると、ティアは更にノーモーションで尻尾を振りかざし、俺へと追撃の手を休めない。

 こちらが防御に専念しなければやられるほどの猛攻。

 俺の反撃を許さないほどの超速度での攻撃は腕、足、爪、拳、翼を全て使う立体的で出鱈目な動き!!

 だけど俺だって―――負けてられねぇよ!!

 ティアが拳を振るうのを見計らい、その拳を受け流し、その勢いのまま懐に入り込む。

 ―――このリーチは、俺の独壇場だ!!

 龍殺しの力、魔力、倍増のエネルギー。その全てを左腕に込め、俺はティアの腹部に必殺の一撃を放つ!!

 

「―――か、はっ……ッ!!」

 

 その一撃によりティアは後方に大きく反り飛び、口元から血反吐を吐く。

 しかし口を開き、口元に円陣を描き、神速のブレスを幾重にも放つ……ッ!!

 

「ッッッ」

 

 そのブレスにより俺の鎧は各所が大きく破損する。

 でも、俺は全て受け止めきった。

 マスクが割れて、顔の一部が外気に晒された。

 その時、ティアと俺の目があった。

 

「―――次で、終わらせる」

「望むところだ、馬鹿姉が……ッ!!」

 

 ―――ティアは翼に、腕に、口元に、脚に、尻尾に……その全てに龍法陣を展開し、その体を黒と白で輝かせる。

 対する俺はワイバーンを両腕の巨大籠手形態から、巨大な砲門を表に出した形態に変化させる。

 その砲門の銃口にみるみる内に紅蓮のオーラが集結していき、俺は二つの砲門を重ねてティアに照準を合わせた。

 ―――たぶん、今の俺の編み出せる最大出力だ。

 本当に力押しで、はずかしいほどにテクニックも糞もない一撃。

 だけど……この一撃、神を確実に屠るレベルの一撃だ。

 神帝の鎧の無限倍増を別駆動で三つ、平行に運用し、更に持てるほぼ全ての魔力を注ぎ込み、そこに龍殺しの力と破滅力の性質を付加させる。

 ―――神滅の龍撃殲紅(ロンギヌス・レディエイター)

 それが赤龍神帝の鎧(ブーステッド・レッドギア・スケイルメイル)における最強の一撃。

 ワイバーンの力に目覚めたからこそ編み出せた一撃、これが初披露だ。

 

「―――それが、お前の最後の本気ってわけか」

 

 ―――目前のティアは、その姿を変化させていた。

 それは誇り高く、美しい気高きドラゴンの姿。

 その白と黒の織りなす絶妙なカラーバランスが至高さを醸し出して、幾重もの龍法陣で最大強化されてティアの身体は二回り以上は大きくなっていた。

 その口元には白と黒のオーラが混ざり合い、ティアもまた最後の大技を披露するつもりなんだろう。

 ……龍王最強の遠距離技であるブレスと、赤龍帝最強の遠距離技である殲滅砲撃。

 ―――雌雄を決するには、分かり易くていい!!

 

『終わりだ、イッセー!!!』

「ロンギヌス―――レディエイター!!!」

 

 ―――ティアの超高火力ブレスと、俺の最大砲撃が同時に放たれる。

 それにより空は半分が赤く染まり、半分が黒と白の混ざった灰色に染まる。

 ―――すっげぇ、威力だ。

 こんなもん、今までで一番強い。

 なぁ、ティア。

 俺はさ、今まで結構な敵と戦ってきたんだぜ?

 ―――ロキは神の中でもトップクラスの実力者で、フェンリルの速度は目で追うのがやっとで、ドライグが自分と同等と言ったほどの強敵。

 ……黒い赤龍帝は、その二匹を軽々と凌駕する実力を持っていた。

 ―――そんな化け物染みた奴らを相手にしてきて、俺は今のティアがこれまでで一番強いと感じた。

 だから、何が言いたいかってさ―――お前は、クロウ・クルワッハに心で負けたんだ。

 実力差なんてほとんどないはずなんだ。

 天龍の二歩手前なら、たぶん俺はもう既にそれほどの敵をこれまでに倒してきた。

 だけどお前はここまでの無茶をしないと、戦いにすらならなかった。

 ―――お前の日々は、決して無駄なんかじゃないんだ。

 だから!

 ―――だから、俺たちの元から去る必要なんてない!!

 

『―――押されて、いる!?』

 

 ―――お前はもっともっと強くなれる。それは一人で、じゃない!!

 

『何故……何故お前はそうしてまで!!』

「―――んなもん、決まってんだろ!!!」

 

 ……叫ぶ。

 声が枯れそうになるほど、ティアに自分の気持ちを伝えたいから。

 

「お前がどんなに、決心しようが関係ねぇ! お前は俺たちの仲間で、俺たちの大切なんだ!! だから一人ぼっちになんてさせてやんねぇ!!」

『そんな甘い考えでは―――奴には、勝てないんだぁ!!!』

 

 ティアのブレスがより一層強くなる。

 ……ああ、確かにそうかもな。甘い考えかもしれない。

 理屈をどれだけこねようが、本当の想いは違う。

 もっと単純なんだ。

 ―――弟の、妹の我が儘だ。

 俺は……俺たちは!!

 

「―――俺たちは、お前のことが大好きなんだよ!!!!」

『―――』

 

 ……ティアが、言葉を失くす。

 その瞬間、ティアのブレスが少し弱くなった。

 

「いつもチビたちを大切にしていて、俺のことも無駄に溺愛してる姉ドラゴンのティアが!! 俺たちは―――俺は大好きなんだ!!」

 

 俺の想いの力に反応するように、ここ一番で砲門から放たれるオーラが更に急上昇する。

 ―――その瞬間、俺の頭の中に声が響いた。

 

『―――ほんなら、あんさん。このしがないガンマンがちとばかり力貸すぜぃ』

 

 ―――その声は、俺の中に思念として残る赤龍帝の歴代先輩の一人の声だった。

 その声―――初代赤龍帝ガレッドさんの声。

 まるでその声が俺の両腕の砲門に手を添えるような感覚がした。

 ……ドクン、と音が響く。

 何かが目覚めるような予兆。

 ドクンドクンと、音が響いた。

 その音は次第に大きくなり―――気付いたときには、俺たちは一つになる(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

『―――鎧の形態が、変わっただと!?』

 

 ―――ティアが驚く。

 しかし俺の心は不思議と冷静だった。

 俺の頭の中にはガレッドさんがいて、今も俺を支えるように砲門に触れている。

 たったそれだけで―――もっと限界を越えられる気がした。

 

「『いくぞ、ティアァァァァァ!!!』」

 

 声が重なる。

 その瞬間の俺の一撃は、これまでよりも遥かに―――そして、ティアごと紅蓮が空を全て染め上げた。

 ティアの声が軽く聞こえる中、俺の身体は限界を迎える。

 

「あぁ……くそっ、もう鎧の維持ができねぇ、のか……っ」

 

 ―――神帝の鎧は解除され、ほぼほぼ壊滅状態の鎧を纏った状態で俺は地上へと落ちていく。

 神帝の鎧の解除と共に、先ほどまでの現象も消え去り、頭の中からガレッドさんも消える。

 

『―――相棒、まだだ!! 奴は!!』

 

 ―――ドライグの焦る声が聞こえた瞬間、俺の視線の先の紅蓮のオーラの渦より現れるのは、傷だらけの人間態のティアだった。

 ティアは既にドラゴン形態の維持が腕だけとなっており、満身創痍で俺へと迫る。

 

「惜し、かったな……だが、恥じることはない。お前は、この私を、ここまで……追い込んだのだからな!!」

 

 ……ティアがゆっくりと俺に迫る最中、ついに鎧も限界を迎えて解除させる。

 ―――鎧が解除される一瞬で、ドライグが鎧に残る倍増の力の一部を籠手に移した。

 しかしそれだけで、ティアに勝てるかといえば……まぁ、無理だろうさ。

 

「……イッセー、もし、お前が私に勝って、いたら……よかった―――かもな?」

 

 ―――ティアがそう呟く。

 だけどその小さな呟きが耳に届いた瞬間、俺は笑ってしまった。

 この馬鹿姉はこのタイミングで、本音を吐露しやがる。

 やるなら徹底的に仮面被りやがれ。

 だけど―――聞いたぜ。お前の願い。

 

「―――その言葉を待ってたぜ、ティア」

 

 ―――その瞬間、雲間をある存在が突き抜けてくる。

 それは小さな存在。

 ……ティア、本当に―――お前の詰めの甘さを愛してるぜ!!

 

『―――アルジ、マモル!!!』

「―――なっ!?」

 

 ―――その小さな存在の出現に、ティアは目を見開いて冷や汗を掻いた。

 そりゃそうだ。

 ―――一番最初に地上に落ちて破壊されたと思っていたはずの、ワイバーンがこの最後のタイミングで現れたんだからな。

 

「ティア、お前の本音は聞いた―――さっきの言葉、実現してやる」

 

 ワイバーンは凄まじい速度で俺の近くまで飛来し、そしてそのまま左腕の籠手に合体した。

 その結果、籠手は巨大な腕となり、そこから滴るのはワイバーンが極限まで溜めた倍増のオーラ。

 そこに籠手の残りの倍増のエネルギーを加え、わずかに残った魔力でそれを底上げし―――腕全体が紅蓮のオーラで包まれた。

 

「イッセー……お前、は―――」

 

 ティアは何かを言おうとして、しかし―――微笑を浮かべて、言うのを止めた。

 俺は俺に近づくティアへと向けて拳を放つ。

 その拳は一筋のオーラとなって―――ティアを覆った。

 俺は悪魔の翼を生やして地上に落ちる最中、宙に何とか浮かび上がる。

 そして地面に着地すると、そこは最初の場所。

 つまりそこには―――チビドラゴンズとオーフィスがいた。

 更に俺とは遅れてその場所に落下するティア。

 辺りはその衝撃で土埃に包まれ、俺は引き摺る足のままティアに近づく。

 ……そこには、どこか満足そうなティアの表情があった。

 そしてティアは俺の存在を確認すると、血みどろに倒れながら―――

 

「私の、完敗だ。あぁ、好きに煮るなり、焼くなりしろ……。全く、本当に―――お前は、面白いな」

 

 笑みを浮かべながら、ティアはそう小さく笑って言った。

 ―・・・

「ティアねぇのばぁぁぁぁか!!!!」

「もうしらないもん!! ばかばかばかばかばかばか、ばぁぁぁぁか!!!」

「……おたんこなす」

「……ティアマット、愚か者」

「ふん、龍王の面汚しが」

「ふむ、今回ばかりは同情はしないでござる―――ばぁか、でござる」

「うんうん、本当に素直じゃないよね~」

『付き合い短いけど、まぁ僕も馬鹿って言っておこうかな? ばかばか』

『まぁ、我が息子が勝つのは当たり前であったがな? あっははは、ばぁかめぇ!!』

 

 ……などなど、ドラゴンファミリーが深い傷で動けないティアを囲んで好き勝手罵詈雑言を浴びせていた。

 対するティアは色々とやらかした上に、未練タラタラだったことが露見して何も強く言えない様子。

 そんなティアに追い打ちをかけるように、俺の眷属たちもまた……

 

「結局、ただの構ってちゃんにゃん! だっさい!!」

「……私は何も言いません―――っふぷ」

「ま、まぁ無事でよかったではありませんかね? あ、あはは」

「―――貴様らぁぁぁぁああ!!! わ、私が何も言えないことを良いことに好き勝手言いやが―――い、痛い痛い!! オーフィス、そこに触れるな!!」

 

 ティアが吠えるので、オーフィスがティアの傷口を突く。するとティアが表情を歪めて反応した。

 ……今、俺たちは家出姉のティアをチビドラゴンズの隠れ家に連れて行き、全員が再集合していた。

 まぁやっていることは主にヴィーヴルさんによる俺とティアの治癒と(9:1の割合で俺優先)、煮るなり焼くなり宣言をしたティアを、文字通り煮て焼いていた。

 俺は少し離れたところからその姿を見て、実は心の中で笑っていたりするのだが……うん。

 でもティアが帰ってきたことでチビドラゴンズも笑顔になったし、それにあいつらにもしっかりとティアは謝った。

 ……俺は痛む体を庇いながら、ティアの元に行く。

 ベッドに倒れ込むティアはそれに気付いたのか、すぐに体を起こして俺を見た。

 

「……ティア」

「ああ、分かっているさ―――私は全力でお前と戦い、負けた。お前には私を好きにする権利がある。さ、好きに何でも言え」

 

 ティアは諦めたようにそう言う。

 ……ほぉ、何でも、ねぇ。

 ―――んじゃ、お言葉に甘えて。

 

「―――じゃあ、お前俺の眷属になれ」

「あー、はいはい分かった―――は?」

 

 ―――その場の空気が、鎮まる。

 そして次の瞬間―――

 

『はぁぁぁぁぁぁああ!!!!?!?』

 

 ティアを含むほぼ全員が驚愕の声をあげた。

 

「いいいい、イッセー殿!? そ、それの意味することを理解しているのでござるか!?」

「ほら、タンニーンの爺ちゃんだって悪魔になれたんだぜ? なら別に良いじゃん」

「いやいや、俺とはまた理由が違い過ぎる! 相手はあの龍王最強だぞ!?」

 

 まぁ、皆が驚くのも無理はない。

 これは眷属の皆にも言っていなかったことだからな。

 ―――だけど、俺は最初から決めていたんだ。

 確率がどれだけ小さくても、俺の眷属になって欲しい存在のことを。

 

「―――ティア。お前が俺の使い魔になってくれた時、言ったよな? お前は面白いって。俺を評価して見守ることにしたって。だけど俺はお前と共に、上に行きたくなった」

「…………」

 

 ティアは俺の言葉に無言で返す。

 ただ目は俺をじっくりと見据えて、俺の言葉を待っていた。

 

「―――クロウ・クルワッハをぶっ倒すんだろ? なら俺も混ぜろ。最強の邪龍? 上等じゃないか。最強の龍王と最高の赤龍帝で、ぶっ倒してやろうぜ」

「―――面白い」

 

 俺は宙に赤い悪魔の駒を浮かばせると、ティアはその一つに手を伸ばした。

 そしてそれを勢いよく掴み―――

 

「お前の行く末を最も近い場所から見守ろう。イッセー―――お前の口車に乗ってやる。だがな、私が眷属になるからには決まりごとが一つある」

「……ああ、分かっているさ」

「―――私たちの眷属は常に最強であること。それだけだ」

 

 ―――ティアの手に握られるのは、俺の右腕の証である『女王』の駒。

 それはティア程の実力者が持つことが相応しい。

 ―――他の眷属も困惑はすれど、ティアを仲間として受け入れることには賛成のようだ。

 ……俺はティアを眷属にするべく、彼女の足元に魔法陣を展開する。

 そして―――駒がティアの身体の中へと入っていく。

 

「んじゃ、これからよろし―――」

 

 ―――はず、だった。

 

「―――え?」

 

 ……ティアの身体から弾き飛ぶように、女王の駒は俺の元に戻ってくる。

 それはまるで―――

 

「女王の駒が、ティアを拒否してる?」

「―――そ、んな……ば、馬鹿な?」

 

 俺の呟きに、ティアが戦慄の声を漏らした。

 まるで信じられないのと、心からショックなのか、顔が青ざめていた。

 ……な、なんでだ?

 女王の駒で、ティアの駒価値は何とか足りるはずだ。

 それなのに、なんで弾き飛ばされた? 拒否をするように。

 

「こ、これはあれか? 私はイッセーの女王に―――相応しく、ない? あは、あはははははははは」

『…………』

 

 ……皆が、ティアの呆然とした呟きに居たたまれなくなって同情の視線を送る。

 ―――そして

 

「―――こんな家出てってやるぅぅぅぅぅぅぅ!! 私はイッセーの右腕になりたかったんだぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「て、ティアねぇがまたいえでした!!!」

「……これは、したかない」

「ヒー、そんなこといってるばーいじゃないよ! ティアねぇー!!」

 

 室内から泣きながら出ていくティアを追いかけるチビドラゴンズ。

 そんなチビドラゴンズを追いかけて、他の皆も再び追いかけた。

 ―――平和では終わらないドラゴンファミリーの日常。

 ……疑問は色々残るけど―――とりあえず今はティアをもう一度捕まえよう。

 そう心に決め、俺も走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、ティアはチビドラゴンズの全力の癒しによって何とか回復した。

 そしてティアには『戦車』の駒を二つ与え、俺の戦車として悪魔に転生したのはまた別の話。

 ただ、最強の龍王が赤龍帝の眷属となったということが公になるのは、もっと先の話であった。

 

『赤龍帝眷属』

 王  兵藤 一誠

 女王 ――――

 戦車 ティアマット(new)

 騎士 土御門 朱雀

 騎士 ――――

 僧侶 黒歌

 僧侶 レイヴェル・フェニックス

 兵士 ――――

 兵士 ――――




―――それは悲しい少年少女の物語

真性の悪は、その悪意を平気で振りかざす

様々な存在が介入し

―――物語は、人間さえも巻き込む

相対するのは全てを壊す、壊れた人間と

―――全てを護る、優しき赤龍帝


Original Chapter ―――課外遠足のシスターズ


うむ。どうにかお主たちにこの騒動の鎮圧を願いたい。赤龍帝眷属よ――北欧の主神、オーディン
それは北欧における騒乱の幕開けだった。


どうも怪しいよね。少なくとも普通の手は使ってないにゃん――赤龍帝の僧侶、黒歌
優秀な黒猫は、その戦場で主を支える


眷属になってほんのわずかでこの状況……。付き従うと覚悟を決めた甲斐がありますわ!――赤龍帝の僧侶、レイヴェル・フェニックス
その時、箱入り娘は箱から抜け出す


可愛い弟のために、王のために戦場に馳せ参じよう。三下共。私は最強の戦車で、最強の龍王であるティアマット―――消えたい奴から前に出ろ――最強の龍王戦車、ティアマット
恐らく敵の一番の予想外は、彼女が彼の眷属になっていたことだろう。


上層部の考えそうなことだ、虫唾が走る。だが今回は感謝しようか―――共闘と洒落込もうか、兵藤一誠――若手最強の王、サイラオーグ・バアル
若手最強の漢が、赤龍帝と共に戦場に降り立つ


酔狂だな……まさか貴様と、こうして相見えるとは思わなかった――堕天使の男、〇〇〇〇〇〇
彼にとっては、懐かしい顔ぶれだった


つまらないな。戦争派は。まぁ僕は自分の仕事をするだけさ――魔帝剣・ジークフリート
英雄派きっての剣士は、戦争派に確かな嫌悪を見せた


造られたんだよ、あの子たちは―――英雄派の特攻隊長、クー・フーリン
その表情は、どこか儚げだった


……おめぇらの事情は知らねぇけどな! それでお前、諦めるのは違うだろ!? 糞餓鬼!!――英雄派の戦士、ヘラクレス
その男は確かに変わり始めていた。


君たちには分からないだろうさ! 僕たちの運命はずっと決まっているんだ!! それに従わないと、生きてさえいけない!!――戦争派の聖剣使いの少年
少年は、崩れていく


……メルティ。理解不能。守護? 命令遂行?――造られた少女、メルティ・アバンセ
その少女の濁った目に映るのは、誇り高き赤だった


てめぇの勝手理論は俺っちどうでもいいでござんす♪ ……ただな。あんたらは触れちゃいけねぇものに手ぇ出した。……だから、ぶっ殺す――大罪の神父、フリード・セルゼン
罪を背負い、彼は自分の誓を違えず前に進む


リリス。イッセー、知りたい――混沌の無龍、リリス
歪な少女の変化とは?


あははは、やっぱりイッセーくんはいいなぁ。でも、邪魔が多くて困るよね。ま、最後は全部終わらせるんだけど♪――終焉の少女、エンド
袴田観莉は、少しずつ、変質する


レディース&ジェントルメーン! さぁさぁ、この戦争に御集まりの悪魔天使人間の皆様ぁ! この度お見せする戦争派のショーは―――地獄であぁりまぁす!!――戦争派のトップ、ディヨン・アバンセ
全ての元凶は奴だ


いいねぇ、さっすがディヨン君だ! リゼおじいちゃんは今回はおとなしーく見といてやんよ♪――クリフォトのトップ、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー
すべからく、真性の悪魔は関わる


朱雀。お前たちはここから去れ。これ以上、ここにはいるな――英雄派二大トップ、安倍晴明
彼は一体、何がしたいのだろう?



戦争派によって引き起こされる、北欧を舞台にした災禍の戦争。それは人間さえも巻き込み、多くのヒトを絶望させる。
しかし、その戦場でただ二人だけ、生き残ろうとする姉妹がいた―――


ボクは、絶対に妹を守る! 誰にも触らせない! 妹を守ることだけが、ボクの生きる理由なんだよ! ……それしか、ボクには価値がないんだ――双子の姉の少女

……雨の後は必ず晴れるなんて嘘。だって、私たちのお空はずっと雨模様――双子の妹の少女


絶対に、なんて言ってもお前たちは信じてくれないよな。でも、それでも言ってやる――赤龍帝の王、兵藤一誠
―――絶対にお前たちを護る。彼はそう、力強く言った。


誰も自分たちを救ってくれない
誰も他人なんて見ていない
誰かが助けてくれるなんて、そんなのおとぎ話の空想でしかない
だから自分のことは自分でしないと生きていけない
それでも助けたかった―――妹だけは。

少女たちに映るのは絶望
運命はいつも死よりも残酷で
―――それでも最後は願った。

―――自分たちを救ってくれる、都合の良い馬鹿みたいに優しいヒーローを。


第10章 課外遠足のシスターズ

二人の姉妹が涙を流した時、彼はきっと動き出す―――














後書きも合わせて、ここまで長い一話をお読みいただきありがとうございます!

それではまた次回の更新でお会いしましょう!

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