ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~ 作:マッハでゴーだ!
俺は目の前のこいつ……恐らくは
俺はこいつに心底イラつきを覚えている。
怒りで我を失いそうなほどに……ッ!
「お前は……どうも思わなかったのか?人を殺すことに」
「ありゃありゃ、それはナンセンスな質問でござんす!人を殺す?快楽っしょ!?そんなあ~たりまえっなことを悪魔の糞のくせ聞いてんじゃあ~りませぇぇん!」
……そうか。
そんなくだらない理論で、感情で……ただ誰かを殺すことがお前の生きがいであり、願いなのか。
誰も幸せになれない選択肢がお前の答えなんだとしたら―――俺はお前を屠ることしか考えられなくなった。
俺は
相変わらずうんともすんとも言わない籠手。もしかしたら動かない可能性があるかもしれないけど―――関係ない。神器は俺の気持ちに応えてくれる。
「動け、ブーステッド・ギア」
『Boost!!』
……悪魔になって、ようやくまともな倍増だ。。
これがいつまで持つかは自分でもわからない。いつ何時バーストするかもわかんねぇけどさ―――例えそうだとしても何度も倍加してやる!
「……おいおい、そりゃ何ですか!?赤い腕?腕だけで僕ちんを倒せると?のんのん、そんなのノーキャンですよ?だって今からあたしゃ~、てめえの心臓やら内臓器官に弾丸を注ぎ込むっちゃ♪」
……イカレ神父が懐より銀色の拳銃を取り出し、もう片手に刀身のない柄だけの剣を握っている。
剣の柄より光が眩く生まれ、光の刀身となった。
「ってことでバイちゃ!!」
イカレ神父はその拳銃から数発の光の弾丸を音速で打ち込んできた,
―――今の俺は切れてんだ。
そんな目で追えるような速度、大した力の無い攻撃なんぞ―――
「遅いんだよ!!」
俺は籠手で光の弾丸を殴り、相殺する。拳からは煙が立ち込め、煙越しに見えるイカれ神父の表情は驚愕そのものだった。
―――籠手は悪魔のものじゃない。元が神器によるものなら聖なる光も怖くはない。
「……おいおい、まじっすか!?なに簡単に俺の弾丸砕いてんの!あひゃあひゃ、すんばらしいぃぃぃ!!悪魔のくせに糞みたいな根性してますね~、ひゃは!それでそれで!?今度はこの俺、フリード・セルゼンに何を見せてくれるわけよ!!」
「―――お前は黙って糞でもしてろ、イカレ神父。お前に見せるものはこれ以上は」
『Boost!!』
「―――なにもねぇ!!」
籠手の力で更に倍増を果たすと、様子を見計らったようにイカレ神父は光の剣を俺に振りかざしてくる!
……まだだ。怒りはまだ発散するな。
冷静になるんだ、あいつの口車なんかに乗ってやらない。
『Boost!!』
『Boost!!』
『Boost!!』
『Boost!!』
奴の攻撃を全ていなすように躱し、倍増の力をプールするように増やしていく。
思っていた以上にスムーズに倍増は行われることに俺は驚くけど、いつ消えるかわからない。
またバーストを起こす可能性だってある。だからこいつは短期決戦。一撃必殺で確実に叩き潰すッ!!
「おいおい!?何で俺の攻撃が当たらないんスか!?糞の糞の脱糞野郎のくせに粋がるのもいい加減にしちゃいましょうかぁ!!」
イカレ神父は至近距離から光の弾丸を撃ち込んでくる。……当たってなんかやらねえ。
俺は奴の弾丸を、斬撃を全て避ける。
身体能力において、こいつは俺の足元にも及ばない。俺は何も装着していない右手で、神父の顔面を全力で撃ち抜いた!
「が・・・ッ!?」
俺のストレートが奴にまともに入ると、衝動でイカレ神父は後方の壁へと激突する。
イカレ神父は殴られたことにか、それとも光の弾丸を避けられたことにか、どっちにしても驚愕という表情をしている。
顔にはあの呑気な余裕さも消えてないけども―――切り札でも隠してやがるのか?
「ひゃははははは!殴った!?悪魔が神父を殴った!おいおい罪深いですねぇ、あ!悪魔ですからね?悪魔だけに!?ははは、上手いっしょ!―――そう言うわけでさ。そろそろホント、マジで死んでくれよぉ!!!」
するとイカレ神父は服をまさぐり―――そこより二丁目の銃を取り出した。
あの野郎、もう一丁隠し持ってたのか!
神父はあの光の弾丸を撃ち放てる拳銃を両手に持ち、その照準を完全に俺に合わせる。
「封魔弾の二丁流っすよぉ?ってことでぇ…………死んでねぇぇぇぇ!!」
イカレ神父は二丁の拳銃で俺へ弾丸をぶち込む仕草に入った。
―――この体勢で、あの全てを見切ることは不可能だ。
俺は奴の弾丸を逃れるため、障害物を探そうとした。
「―――やめてください!!」
―――その時だった。
俺の耳に、聞いたことがある声が聞こえた。
その澄んだ優しそうな声音を、俺は知っている。
何で、ここにいる……そう思いながら、俺は耳を疑った。
―――本当につい最近出会った子だ。
その性質も力も、全てが全て癒しのような女の子。
あの子が何でここに……どうして―――どうしてだよ!
「―――アーシア!」
―――そこには……部屋の扉の入口には、アーシアが立っていた。
いつものようなシスター服に身を包み、ヴェールを被るアーシア。
「おやおや?助手君のアーシアじゃあーりませんか~?結界は張り終わったのかな?なら邪魔しないでね、こいつを今から蜂の巣にしちゃうんでね!!」
「何を言って……っ!?い、いやぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
アーシアは床に倒れている、何度も切られた跡のある男の死体を黙視すると、悲鳴に近い叫び声をあげたッ!
「見るな!アーシア!!」
俺はアーシアの元に行こうとするが、イカレ神父が俺に銃口を向け、硬直状態になった。
「可愛い悲鳴、いただきちゃ!アーシアちゃんも教訓として神父のお仕事を学びなさいねぇぇ!特に悪魔に魅入られた人間なんかは即、首はねってことでぇぇ!」
「そ、そんな……………え?」
……不意に、アーシアの視線が俺の方に向けられた。
目を見開いて、まさに驚愕していた。
俺を悪魔と信じられないと言わんばかりの表情だった。
その目に宿るのは拒否の色と、その逆に信じたいと思うような縋るような色。
「い、イッセー、さん……どうして、ここに?」
「おやおや!?もしかしてアーシアちゃんはこの悪魔とお知り合いですかぁ?そんなのノンノン!悪魔は殺す!問答無用ってわけっすわ!」
「イッセーさんが、悪魔?」
「……アーシア」
アーシアは信じられないような目で呆然と俺を見ている。
……そうだったのか、アーシアは。
アーシアはあいつの仲間で、恐らくはぐれと呼ばれる存在なんだろう。
「あれあれ?もしかしてまさかのシスターと悪魔の禁断の恋?でも残念!悪魔と人間の恋なんて皆無、皆無ってやつですよ~!それに俺たちは神の加護から見放されたはぐれなんで?堕天使様の加護がなかったら生きていけないんですぜ?」
アーシアは未だ、呆然としている。
それに……堕天使の加護?
まさかアーシアはあの堕天使と繋がってたのか?
俺の頭にそんな可能性がチラつく。
―――だけど。俺はすぐにその考えを振り払うように自分の頬を殴った。
…………違うだろ、俺は知ってるだろ。
馬鹿野郎、俺は一体彼女のなにを見てきたんだよ。
あの子は他人にあそこまで優しくなれるすごい子なんだ!
そんなアーシアは一瞬でもあんな野郎たちと一緒と思った自分が許せない!
アーシアをイカレ神父と一緒にするのもおこがましい!
―――なら俺に出来ることは一つだけだ。
「まあそこの辺はどうでもいいんでぇぇ……とにかく俺様、そこの悪魔君を殺さないと気が済まないんすよねぇ!封魔銃の二丁ばりでこいつの体全体に風穴空けてやるぜい!」
イカレ悪魔は二丁拳銃を構える。
その時だった,……今まで、呆然としていたアーシアが俺とイカレ神父の間に入り、俺を庇うように腕を広げ、イカレ神父をじっと見た。
「……おいおい、アーシアちゃん?自分が何してんのか分かってんでしょうかぁぁぁ!?」
イカレ神父はアーシアの行動に明らかに不機嫌になる。
「フリード神父。この方を……イッセーさんをお見逃しください」
アーシア、君は―――俺を…………庇ってくれるのか?
「もうやめてください……!!悪魔に魅入られただけで人を殺すなんて、間違ってます!!」
「はぁぁぁぁあああ!?こんの糞シスター!頭湧いてんじゃねぇか!?悪魔はゴミ屑で、死する存在って教会で習っただろうが!!」
「悪魔だって……悪魔にだって良い人はいます!私は少なくともイッセーさんと触れ合って、そう思いました!」
「いるわけねぇだろ、このバァァァァアアアアカ!!!目を覚まそうぜ!!?そこの糞悪魔殺してさ!!!」
「嫌です!!イッセーさんは良い人です!!こんな私を何度も助けてくれました!だから私は悪魔だって良い人がいるって思えたんです!!」
アーシアは、イカレ神父に断言し、拒否する。
……その時だった。
イカレ神父は、アーシアに銃口を向け、そして光の弾丸を放った。
―――俺の反応が一歩遅れた。
「ッ!アーシア!!」
……俺はアーシアの腕を掴んで、自分の後方に投げた。
そして俺の太ももに……光の弾丸が撃ち込まれた。
「が、あぁぁぁぁああ!!」
撃ち込まれた弾丸は俺の体を蝕み、激痛を迸らせる。
血が止まらないッ!体を引き裂く痛みだ!!
これが光かの力―――確かに悪魔にとっては毒以外の何物でもない。
「おお!?悪魔ちゃんにクリティカル・ヒット!!おいおい、偽善悪魔君。君を殺す前にやることが出来ちゃったみたいだから、ちょっと待っててね?」
すると、イカレ神父は俺の後ろのアーシアのところまで歩いて行った。
そしてアーシアの腕を引っ張ると、陰に叩きつけて頬を乱暴に―――殴った。
「あ~あ、堕天使の姉さんからは君を殺さないようにいわれてんだけどさ、何してるわけ、君ぃ。……ホント、殺すのと同じぐらいのことをしないとな!そうだ!元聖女なわけだから処女っぽいしぃぃぃ、ここで無理やりロストヴァージンってのはどう?アーシアちゃんの大切な悪魔くんの前で犯すっていうのも中々のものですなぁ!?」
「いや……ッ!そんなの、いやぁぁぁ!!!」
―――情けねえな。
こいつが俺の横を通った時、痛みなんか気にせずに殴ればよかった。
ドライグとフェルウェルがいたら、たぶん、俺を叱るだろうな。
……どうかしてるよな。ちょっと自分について見直さないといけない。
こんな油断ばかりで―――これなら昔の方が力がなくても百倍マシだ。慢心が過ぎるんだよ、馬鹿野郎。
―――アーシアが泣いてるんだ。
彼女は俺に助けを求めている。
戦う力なんてないのに、それでも俺を庇ってくれるような強い子が、泣いているんだ。
―――あのイカレ神父がアーシアを傷つけようとしてんだ!
こんなところで、のうのうと息なんかしてられねぇ!
それにな・・・・・・アーシアを殴った。
俺の―――大切な友達を傷つけた。
アーシアに汚い言葉を浴びせて、汚い言動を繰り返してアーシアの全てを穢そうとしている。
……たった一つ、俺がすべきこと。
それは―――アーシアを助けることだ!
「いい加減にしろよ、イカレ神父」
―――怒りを抑えることは止めた。
「ああ?何、敗者復活してるわけ?てめえはそこでご観覧お願いしますわ!」
痛みは怒りで忘れろ。冷静さなんて今は捨て去れ。
ただ一つ、あのイカレ神父を消し飛ばすことだけを考えろ!!
「アーシアとお前なんかを一緒にするなよ。アーシアは良い子だ、優しい子だ!!てめえみたいな外道と一緒にしてんじゃねぇよ!!」
「……ヒュ~、かっくいいねぇ―――なら君から殺してあげるっすわ!!」
イカレ神父は拳銃を捨て去って、懐から柄のない二本の光の剣を取り出す。
『Boost!!』
・・・一度、倍増の力はアーシアの登場でリセットされた。
気付かないうちにな。
でもな、あれから時間は経ってんだ。
今の倍加で、もうな―――8回の倍増が済んでるんだよ!!
『Explosion!!!』
力が漲ってくる。
力の放出、それが赤龍帝の力の一つ。
溜めた倍増のエネルギーを解放し、一時的に自分そのものを溜めた分だけ強化する。
時間が経てば神をも超える、神滅具の力だ。
「はぁ!?何ですか、この魔力は!?ちょ、ま!!」
「―――消し飛べ、イカレ神父ッッッ!!!!!」
俺は赤龍帝の赤いオーラを纏った全力の拳で、イカレ神父の剣を完全に壊し、そして腹部に一撃、身体能力が上がっている間に、更に4撃、5撃を連続でくれてやった。
ゴキッ、バキッ……。そんな骨が折れる音や、肉が潰されるような音が響き渡り、俺の拳はイカレ神父に突き刺さる。
そしてイカレ神父は俺の殴打の勢いに負け、そのまま家の窓を突き破って遠くまで飛んで行った。
ちょうど、廃墟があるところぐらいだ。……近辺の家には特に被害は出ないだろうと思う。
生きているか死んでいるかで言えば、あいつの悪運次第か。
『Burst』
そこで俺の籠手は機能を失い、神器は解除される。
まあ、今回はまだ持った方だ。
あいつをぶっ飛ばせた。今回はそれで充分だ。
―――っ!次の瞬間、今まで痩せ我慢を続けていたツケが回ってきたように、光の傷の痛みを痛感する。
さすがに光のダメージが少しは残ってる……。
でも今はそれよりも―――
「アーシア。……ごめんな、悪魔だって、黙ってて」
実際には初めて会った時は悪魔じゃなかったけど……でも謝りたかった。
少なくとも二度目にあったとき、俺はもう悪魔だったから。悪魔だって理解した上で、君と親しく接してしまったから。
―――するとアーシアは首を横に振った。
「良いんです。だってイッセーさんは、優しい人ですから。……また私を助けてくれました。たくさん驚きましたけど、私はそれでいいんです―――ごめんなさい。私のせいで、こんな怪我を……」
……アーシアの指にある指輪型の神器から優しい、緑色のオーラが撃ち抜かれた太ももに放射される。
―――優しい、こんな優しいのに、何で堕天使の加護なんて受けてるんだ。
俺は癒しの力を一身に受けながら、そう考えた。
……こんな人材を、なぜ天界勢力は手放したんだ?
―――その時、大きな部屋の一点に赤い、グレモリー家の紋章が現れた。
……転移のための魔法陣だ。
「やあ、兵藤君。助けに来た……けどもう終わったのかい?」
……遅いんだよ、木場。
木場に続くように残りのオカルト研究部の面々が魔法陣から現れ、周りの状況の確認をすると、俺の元に駆け寄る。
「あんなクサレ神父に負けるかよ。……アーシア、ありがとう。おかげで随分楽になったよ」
俺はアーシアの頭を優しく撫でる。そしてアーシアが殴られた頬に触れた。
「い、イッセーさん?」
「……頬が赤くなってる。俺のせいだな」
「い、いえ……イッセーさんが助けてくれなければもっと酷いことをされたと思うので、……その、えっと―――助けてくれて、ありがとうございました……っ!!」
…………やっぱあいつに、100発くらい殴っておけばよかった。
少し恥ずかしそうに、殴られた反対側の頬まで赤くしたアーシアがペコリと頭を下げている姿を見て、俺はそう思った。
「・・・・・・・・・先輩、その人から離れてください」
その光景を見ていた小猫ちゃんがジト目で俺を見てくる!?
…………それよりも、だ。
「ごめん、アーシア」
俺はその場から立ち上がり、あの神父に殺された人の元に向かう。
既に、息は絶えてる。
この人は俺を呼んだ人だ……何かしてほしいことがあって、自分ではどうにもできなくて悪魔を頼った。
確かにそれは良くないことだったかもしれない―――でもこんな風に無惨に殺される理由にはならない。
「……俺がもっと早く来ていれば、救えたかも知れない命だ―――ごめん、せめて……アーシア」
「イッセーさん……。はい」
アーシアは俺の傍に寄ると、既に息絶えてる男性の傷を神器で癒す。
……俺は男性の顔を見ると、そこにはどこか安らかな表情をした男性の姿があった。
「・・・イッセー、貴方は悪くないわ」
「いいえ。これは俺が背負うべき十字架です―――そんな簡単に割り切っていいことじゃない」
部長が少し離れた所から俺にそう言ってくる―――こんな簡単に人が死んで良いのかよッ!
「……イッセー、貴方はそこにいる女の子の正体を知っているのね?」
「・・・シスターと悪魔は、相容れないって言いたいんですか?」
俺は少し、部長を睨んでしまう。
分かってる、部長の言いたいことは理解できる……。でもアーシアは俺の―――理屈じゃ、ないんだよ、これは!
「―――ッ!部長、この近くに堕天使のような気配がここに近づいていますわ」
……朱乃さんは何かを感じ取ったように部長にそう言うと、部長は手を開いてその場に魔法陣を出現させる。
「イッセー、話しはあとで聞くから今は帰るわよ?」
「……ならアーシアも!」
「無理よ。この魔法陣は眷族しか転移されない。だからその子は無理なの。そもそも彼女は堕天使に関与している者。だったら尚更よ」
「―――なら俺は……!」
俺は立ち上がり、堕天使全員ともう一度、戦うことを示す。
するとその時だった。
「……イッセーさん」
アーシアが……俺の背中に抱きついた。
その手はほんの少し震えていて、俺は首だけアーシアの方を向けると―――アーシアは優しげに微笑んでいた。
「私は大丈夫です。だから行ってください」
「な、何言ってるんだ?アーシア、大丈夫だよ……。俺は戦えるし、あんな堕天使何かに負けは―――」
「駄目です。イッセーさんを大切に想う仲間を心配させたら……。イッセーさん、大丈夫です―――またきっと……きっと、会えますから……っ」
……アーシアは涙を流しながらも笑顔だった。
そしてその笑顔のまま、俺の背中を押し、俺は押されるがまま部長が展開させた魔法陣の中に入る。
「……感謝するわ、シスターさん」
「アーシア!」
俺はアーシアに向かって手を伸ばすも、でもその手がアーシアを掴むことはなかった。
「……また、です!イッセーさん!」
そうして、俺は俺たちは光に包まれ、そしてそのまま駒王学園の部室へと転送されたのだった。
―・・・
俺はその日、ずっと呆然としていた。
家の縁側でずっと呆然としながら空を見ていた。
時折、母さんが俺を心配してか顔を出しては飲み物やらお菓子やら果物などを俺に渡してくる。
でも食欲がわかないんだ。
昨日、あの後、部室帰ってからの部長の言葉を俺は思い出す。
『あのシスターのことは諦めなさい。初めから教会側の人間と悪魔は相容れないのよ、悲しいけどね。……それにそれ堕天使と戦ったら私達も堕天使たちと争うことになるわ。それで私の可愛い眷属を失うのは嫌なの。分かってちょうだい、イッセー……』
……部長の言いたいことは最もだ。
俺の気持ちだけで、他の部員を危険な目に遭わせるわけにはいけない。
それは確かにそうだけど、でも!
「イッセーちゃん、これ」
すると母さんは、いつの間にか隣にいて俺に紙切れを渡してきた。
「映画のチケット。本当はイッセーちゃんと行きたかったけど、でもイッセーちゃん一人で行って来て?それかお友達でも誘って……」
「母さん……」
母さんは心配そうな顔でそう言ってくる。……この母さんを悲しませるなんて、俺は何してんだよ。
「母さん、ごめん……でもありがとう!」
俺は母さんの好意を無下にせず、手軽に財布と携帯電話をもって靴を履き替えて、町に出ることにした。
っと言ってもチケットは二枚ある。
一人でいくのもあれだな。……よし、木場でも呼ぼうかな?
オカルト研究部男子との親交を深めるのも大事だよな、うん。
そう思って俺はケータイを操作し、最近木場に無理やり教えられた番号に電話した。
『はい、もしもし兵藤君?どうしたんだい、珍しいね、君が電話なんて』
木場は一コール目で電話に出て、興味津々というような声音で話し始めてきた。
「母さんからさ、映画のチケットもらったからさ、その」
俺が木場を誘おうとしたその時だった。
「……イッセー、さん?」
「―――え?…………アー、シア?」
俺はつい電話口から耳を話し、何故かそこにいる―――アーシアを呆然と見た。
『映画かい?良いね、僕も一度、君と一緒に遊んでみたかったんだよ!それでどこにいるんだい?今すぐ向かうけど……』
「……木場、悪いけどやっぱりそれは無しだ」
『え?兵藤君、ちょっと待』
俺は木場に本当に悪いと思いながらも電話を切った。
っというより、完全に今、混乱していた。
「あ、アーシア?何でこんなところで……」
「えと.ちょっとだけ野暮用があって、ってそれよりもその―――また会えるって、思ってました……ッ!!」
そう言うと、アーシアは満面の笑みで俺にそう言ってくる。
アーシアは俺の手をギュッと握る。
俺は当然、今は混乱しているけど、とにかく今思えることは……
「良かった……ッ!アーシアが無事で!」
……男らしくもなく、少し涙を流してしまう。
そんな俺をアーシアは心配そうな表情で声をかけてきた。
「い、イッセーさん!?どこか怪我をしたんですか!?そんな泣くほどの怪我……もしかして昨日のあの怪我がまだ!?」
アーシアは途端におろおろする……ホント、アーシアは良い子だな。
「大丈夫だよ、アーシア……俺の体には全くもって、傷一つもない!!」
俺はその場で一回転した。
「…………ふふ。イッセーさん、何ですか、それ」
アーシアは可笑しそうに笑ってくれた。
アーシアには笑顔が一番似合う。それに俺はそんな笑顔が一番好きなんだよな。
「さてアーシア……俺は今、非常に暇を持て余しているんだ?」
「そ、そうなんですか?」
アーシアは少し戸惑うように俺に尋ねる。
「どこか心の優しいシスターさんは、そんな暇で暇で仕方のない俺を助けると思って一緒に遊んでくれないかな~……なんてな」
アーシアはキョトンとしたような表情になっている。
「あの・・・イッセーさん?」
「……今日は遊ぶ楽しさってものを教えてやる。だから覚悟しろよ!今日一日、足腰が痛くなるくらい連れまわすからな!!」
「―――はい!」
俺の言葉にアーシアは力強く、嬉しそうに頷いてくれたのだった。