ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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第2話 前夜と波乱の幕開け

 修学旅行前夜、俺はリアスと一緒に対サイラオーグさんについてのことを話していた。

 

「サイラオーグさんは言わばパラメーターが力に振り切っている一転集中の極端なパワータイプだ。このパワーに対抗しようと鎧以外の力を総結集したが、全力ではない状態でも通用しなかった。しかもあのヒトはスピードと防御力も桁外れに高い。……神帝の鎧を纏っても確実に勝てる算段はない……って、聞いてるのか? リアス」

 

 俺が一方的に話し続けている最中、リアスは俺の顔をぼうっと見つめながら、頬を紅潮させていた。

 俺が少し怪訝な表情でそう尋ねると、するとリアスはなおのことこちらを見つめてくる。

 ……ってか無意識レベルで気づかなかったけど、距離が近い!

 

「ふふ、ごめんなさい。イッセーの顔を見てたら、このヒトが私の好きなヒトなんだなって思って」

「な、なに言ってるんだよ。ほら、今はサイラオーグさん対策の話し合いで」

「照れてるの? イッセー。ふふ、可愛い」

 

 するとリアスはすっと頭を撫でてくる。

 ……リアスって最近、悩みがなくなったから異様に大人な魅力がついてきたんだよな。

 落ち着き、といえばいいのかな? その辺りは眷属でも群を抜いていて、前のような絡み方はしなくなったんだ。

 なんていうか、その―――前は構って構って! って感じだったのに、今は可愛がってくるって感じなんだよな。

 

「私ね、男のヒトの考えてるところとか、しっかりしているところが好きなのよ。最近になって気づいたんだけど、実は私は年上のほうが好きだったみたい」

「そ、それは俺のほうが実質的に年上ではあるけどさ」

「うん! でもイッセーってかっこいいのに、ふとした仕草が可愛くてね? つい甘やかしたくなるの。……イッセーをずっと見てると、そんな新しいところが見えてうれしくて、ついずっと見つめていたくなるのよ」

 

 リアスはそういうと、俺を抱きしめてくる!

 更に俺の頭を優しく摩り、子供をあやすように甘やかしてきた。

 

「な、なにしてるんだ?」

「なにって、もちろん触れ合っているのよ。私はイッセーに触れることが大好きなのは前から知っているでしょう?」

 

 ちょ、待てよ待てよ。

 最近、こういうの多くないか?

 確かにリアスは最近、すごく成長しているとは俺も感じている。思考が柔らかくなったというか、一皮向けたというか。

 ロキとの戦いの前、リアスからの告白を断ったことでリアスは変わり始めた。

 なんていうか、女の子から女性へと変わっている気がするんだ。

 ……俺が平行世界から帰って来てから、それが顕著だ。

 

「態度が変わったっていうか、なんていうかさ。……リアスは大人びたよな」

「まあそうね―――だって、あのエリファ・ベルフェゴールに負けていられないもの」

「……ホント、エリファさんと何があったんだよ」

「別に大したことではないわ。ただ―――エリファ・ベルフェゴールは私がこの手で降さないといけない好敵手。あなたがサイラオーグと決着を着けなければいけないように、私はレーティングゲームで彼女を必ず倒すの」

 

 ……その顔は凛々しいの一言であった。

 俺がいなかった数日間の間でリアスとエリファさんに何があったかは知らない。

 ―――だけど良い顔だ。

 なんかリアスの色々な面を見れてなんていうんだろう……そうだな、単純に嬉しいんだろう。

 

「だからイッセーにお願いがあるの」

「……お願い?」

「そう。あなたにしかお願い出来ないこと……聞いてくれるかしら?」

「それは別に良いけど……」

 

 改まってリアスがそんなことを聞いてくるものだから、俺も少し戸惑いつつリアスの返答を待つ。

 そして意を決したようにリアスは俺を見据えて、言った。

 

「―――私と本気で戦って」

 ―・・・

「本当に良いんだな? リアス」

「ええ。遠慮なんかいらないわ。私はあなたの全力を受け止めたいの」

 

 リアスの決意を聞いてから、俺たちは地下のトレーニングルームにてジャージに着替えて向かい合っていた。

 リアスからの申し出は俺との本気の決闘。

 至極簡単なようだけど、俺からしたら少し意外であった。

 リアスと俺では戦い方のタイプが違い過ぎる。

 俺が基本的に修行の面倒を見るのは小猫ちゃんや祐斗、ゼノヴィアなどといった前線で戦うメンツだ。

 それ以外はそれぞれの修行法で鍛錬しており、俺もたまにしか触れていない。

 ……そんなリアスが俺に初めて決闘を挑んだんだ。

 

「……手加減なんていらないわ。私は本気のイッセーと戦いたいの」

「そっか……。分かった。なら俺も―――加減は、しない」

 

 俺は身体から見えるように魔力を放出し、リアスに全力の殺気を放つ。

 その殺気にリアスは一歩、後退りをする。

 

「……これが、イッセーの殺気。……ホント、今までの敵はこんなものを充てられていたのね」

 

 リアスとこうして向かい合うのは本当に初めてだ。

 殺気を送るのも戦いをするのも恐らく初めて。

 ……この前はサイラオーグさんで、今回はリアスっていうのも中々運命めいたものを感じるよ。

 

「でもイッセーは明日から修学旅行を控えているから、私も少しは自重するわ―――一撃。互いに持てる本気の一撃をぶつけ合う。あなたが先日サイラオーグとしたことと同じね」

「それでいいのか?」

「ええ。私はそれを望むわ」

 

 リアスは手の平で魔力を炎のように煌めかせ、更にもう片手で魔力の塊をコーティングする。

 次第にそれは大きなものとなり、どんどんと濃度を高めていった。

 ブルッ……そんな寒気がするほどに、その魔力の塊は異質な質量を誇る。

 ―――本気だ。

 あの魔力量、密度……まさに必殺。

 最上級悪魔にも通用し得る力……サイラオーグさんと同様の感覚だ。

 

「ドライグ、禁手だ。フェル、その後に神器の強化で神帝の力を使う」

『……ほう、そう判断したか』

『確かに隙があろうとも、あの一撃は様子見や力を試すのに使ってはいけないほどの圧力―――いわば必殺の滅閃(デッドリィ・エクスティンクション)とでも名付けましょうか』

 

 ……必殺の滅閃か。

 二人をしてそう言わせるのなら、俺の考えは間違いではない。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』

『Reinforce!!!』

 

 俺は即座に鎧を身に纏い、更にそこからフォースギアを展開して神器の『強化』を行う。

 白銀の光に鎧が包まれ、鎧はあらゆる箇所が鋭角にフィルムを変え、宝玉が激しい光を撒き散らした。

 そしてそれと共に俺は紅蓮の魔力の塊を宙に浮かばせて、それを手の平で割るように握る。

 

『Infinite Booster Set Up……。Starting Infinite Booster!!!!!!!』

『Infinite Accel Booster!!!!!!!!!!』

 

 更に神帝の鎧の無限倍増を開始、更に神帝の鎧の倍増の速度が最速にする音声が鳴り響き、俺の手の平の魔力が膨張するように室内を包み込んでいった。

 その突風でリアスの赤い紅髪が揺れ動き、リアスは冷や汗を掻いて俺を見つめる。

 

「……えげつないわね、イッセー」

「それを望んだのはリアスだろ? 今ならやっぱりなしにしてもいいぜ?」

「―――冗談! 行くわよ、イッセー!」

 

 リアスはその膨大な魔力弾を俺へと直線で放った!

 それは特に軌道を描かず、ものの見事に真っ直ぐと俺へ放たれる。

 紅蓮の閃光のような一撃に対し、俺は魔力にプロセスを叩きこんだ。

 ―――断罪の性質。あえてリアスと同じ、滅殺力を高めた俺の能力付加の魔力弾の中で一二を争う破壊力の魔力弾をつくる。

 

「いくぜ! 断罪の大龍弾(コンヴィクション・ドラゴンブラスト)!!」

 

 ゆうに普段の数倍の断罪の弾丸はリアスの魔力の塊と衝突し、そして―――勝敗はすぐに決した。

 

「……昔は才能がなかったから、少しでも武器を増やすために出来ることをした結果生まれのが、魔力への能力付加。それを神器の力で極限まで跳ね上げることで、強い武器にまで昇華した力―――ここまであっさりだと、逆にすっきりするわね」

 

 消え去るのはリアスの滅びの魔力。

 しかしその瞬間であった―――俺の右頬から、何かで切ったような切り傷が生まれ、更にそこから一筋ほどではあるものの血が流れていた。

 これは……

 

「イッセーの全てをつぎ込んだ全力の一撃は終始私の力を圧倒するわ―――でも魔力の才能は本来、私の方が上なの。だから勝てなくとも、瞬間的の爆発力を私は望んだの」

「一瞬の爆発力で俺の力をひと時だけ越えて、ダメージを越えたってことか。……リアスも自分の進む力の使い方を手にしつつあるんだな」

 

 言わば強弱を付けて、緩急さを軸に魔力を運用するってことか。

 ……今は確かに俺はリアスに勝っているかもしれない。

 でも俺はリアスの片鱗を感じ取ったのかもしれないな。

 ―――リアスは、必ず今よりも遥かに強くなる。

 サーぜクス様のように己の力の運用を決めたのなら、それは恐らく予想より早く成長する。

 俺はそれを天賦の才と感じた。

 

「今は届かなくても、必ず私はイッセーの隣に立って戦える女になる―――約束よ。私は最高の王になって、レーティング・ゲームの王者になる」

「……ああ。俺もリアスをてっぺんに連れていけるくらいまで強くなる」

 

 手を伸ばすリアスの手を俺は強くギュッと握る。

 ―――それと共に、グイッと手を引っ張られた。

 

「でも、それとこれとは話が別♪ 私だってもっとイッセーと触れ合いたいんだから、抱擁ぐらい許してね?」

「……ホント、ちゃっかりしてるよな」

 

 俺は溜息を吐きつつ、不思議と拒否感はなかった。

 ―・・・

「用意は準備完了。当日の予定は全部頭に入っているし、お土産リストも……うし、オッケー」

 

 荷物の確認を終え、俺は修学旅行のボストンバッグを部屋の隅に置いた。

 お土産用の大きめのカバンもしっかりと準備しているし、何よりも修学旅行に対しての意気込みも十分だ。

 全く以て楽しみで仕方ない!

 ……が、一つ問題が発生した。

 

「……他の皆が用意に大忙しなせいで、かなり暇だな」

 

 そう、俺以外の二年生メンバーは皆修学旅行の用意で大忙しなんだよな。

 やっぱり女の子は男の俺よりも用意に時間がかかるものなのかな?

 

「……風呂でも入るか?」

 

 思い立ったら吉日というように俺は替えの服とバスタオルを片手に風呂場に向かう。

 ……この時間だったら、大浴場に入っても問題ないかな?

 普段は皆との鉢合わせを避けるために普通の家庭風呂に入っているけど、偶には大きな風呂でのんびり入るのも一興か?

 ってことで方向転換で俺は大浴場に向かった。

 幸い他に誰も入っていないようなので心置きなく衣服を脱ぎ、そのまま風呂場へと突入する。

 適当に体の汚れを取って、俺はお湯に浸かった。

 ―――やっぱ、大きなお風呂は最高だな。

 

「ふぅぅ~……身体に温かさが染みこむようで、気持ちいいな~」

「……そうですね。私も、とっても温かいです」

「やっぱ温泉はこうでなくちゃなぁ~。やっぱ、小猫ちゃんとは趣味があうなぁ」

 

 俺は伸ばした足にチョコンと座る小猫ちゃんの頭を優しく撫でて、そう言った。

 …………優しく、撫でて?

 ―――誰を?

 いや、この大浴場には俺しかいないはずだ。

 あれ? それじゃ俺は誰の頭を撫でて……

 

「……ナデナデが甘いです。もっとつむじを添うように撫でてください」

「おっと、ごめんごめん。髪はすうっと指を通るようにだよな?」

 

 注文通り頭を撫でると、気持ちよさそうなくすぐった声で「にゃぁ~♪」っと喘ぐ小猫ちゃん。

 ―――んん? 

 

「……男の人の筋肉は、とても気持ちいいです。イッセー先輩、ぎゅ~……してください」

「うん」

 

 次はその小さい体を抱きしめ―――って!!

 

「―――ちっが~~~~っっっう!!!」

 

 俺はすぐさまに下を隠してそそっと小猫ちゃんから離れようと……するが小猫ちゃんがそれを阻む!

 ち、力強ッ!? あ、そうか戦車だからか!!

 って一人ボケをかましてる時でもないだろ!?

 

「いつの間に入って来たんだ小猫ちゃん!? 風呂場入った時、気配も何も感じなかったんだけど!?」

「……仙術で、ちょちょいと」

「修行の成果をこんなしょーもないことで使っちゃダメだろぉぉぉ!!」

 

 頭を軽く叩こうとする……が、俺には小猫ちゃんを叩くことは出来るはずもなく、力なくポンポンと頭を撫でる結果となる。

 

「にゃぁん♪ ……イッセー先輩。裸の付き合いなんて、今更じゃないですか?」

「…………」

 

 何故か小猫ちゃんの言葉に納得してしまう。

 よくよく考えたら小猫ちゃんとの混浴なんて今まで何度もあったし、あえて言ったら子供の時はいつも一緒にお風呂に入っていた(それは猫モードであるけども)。

 

「……分かりました。二人が駄目っていうのなら―――」

 

 すると小猫ちゃんは凄まじい勢いでバスタオルを体に巻き付け、風呂場から風のように消え去る。

 今の速度は恐らく木場よりも早いだろう。

 そして何かドタドタという大きな足音と共に数秒後、再び大浴場の扉が開かれ、そして……何かが、大浴場の中心に投げ込まれてドシャーン!!っという音を響かせて水しぶきを上げた。

 そこには―――

 

「うぇぇぇぇん!!! 小猫ちゃんが投げ込んだァァァァ!!!」

「……ギャスパー?」

 

 ……フリフリの部屋着を着こんだままで風呂場にぶち込まれた哀れなギャスパーであった。

 一応は性別は女なギャスパーである。

 正直にいって目も向けられないレベルでスケスケであった。

 

「……これなら、良いですか?」

「おいおい、確実に了承得ずに連れて来ただろ。……まあギャスパーだから良いか」

「僕だから良いって何ですかぁ!! ……あ、でもイッセー先輩と混浴。……合法的に、イッセー先輩の美術級の裸を見られる……。血、いっぱい吸える……」

 

 ギャスパーは突如、不穏な言葉を漏らしに漏らす。

 ……風呂場で貧血とか嫌だぞ、この野郎。

 でもまあギャスパーがいるからギリギリ冷静さは取り戻せたか。

 確かに可愛い後輩とも少しの間は会えないし、少しくらい構ってあげても良いか?

 適度な距離を保っていれば、問題は―――

 

「……もっとぎゅってします」

「ぼ、僕も……えへへ」

 

 問題大有りだった。

 バスタオルを完全に取っ払った後輩たちはほとんどゼロ距離で、しかも腕を絡めて来る!

 いくら小さい二人と言っても柔らかいもんは柔らかい!

 少しくらい絡んであげないと駄目とは思ってたけど、考えてたのと少し違うんですけど!?

 

「気持ちいいですね、イッセー先輩!」

「そう言いつつ首筋に口を持っていくなよ、馬鹿野郎」

 

 俺がギャスパーの頭を軽くチョップすると、ギャスパーは「きゃん♪」と叩かれた頭を押さえた。

 ……なんで嬉しそうなのかは知らないけどさ。

 すると次は小猫ちゃんがジト目で俺とギャスパーをじっと見つめる。

 

「……ギャーくん、イッセー先輩と仲が良いね。付き合いの長い私より」

「そ、そうなのかな? えへへ……って、痛いよ小猫ちゃぁぁん!?」

 

 すると小猫ちゃんは身を乗り出して、俺の隣にいるギャスパーの腹をグイッと抓る。

 その表情は実につまらなさそうな表情で、ひとしきりギャスパーを弄った後、その眼は俺に向けられた。

 ……ふむ、可愛い。

 って違うか。

 

「あの、小猫様?」

「……もっと、イッセー先輩と仲良くなりたい……です」

「いやぁ、もうこれ以上にないくらい仲は深いと思うけど」

 

 一緒にお風呂に入って膝の上に乗せるくらいには。……それはそれで不健全すぎるけどな!!

 

「……だったら、修学旅行から帰ってきたら、二人でデートしてください」

「それは全然かまわないけど……」

 

 ……考えてみれば、黒歌が小猫ちゃんの元に帰って来てからはずっと二人はセットでいた気がする。

 黒歌は凄まじいシスコンだから基本小猫ちゃんと一緒に居ようとしてるし、そこに俺もいるってことが大半だったからな。

 確かに小猫ちゃんと二人きりで過ごすっていうのはなかった。

 ……ある意味で蔑ろになっていたのかもしれないな。

 

「分かった。帰ってきたらデートをしよう。デートって言えるかは分からないけど、小猫ちゃんの言う事を一日ずっと聞くよ」

「……約束、です」

 

 お風呂の熱さのせいか、はたまた別の要因かは分からないけど、小猫ちゃんは頬を紅潮させながらも満面の笑みを浮かべた。

 ……俺の癒しの双城は流石健在か。

 俺はいつの間にか膝上に移動していた小猫ちゃんを頭を撫でながら、少しだけ抱きしめた。

 

「ふにゃぁ~……あったかいです…。なんか、眠くなって……」

 

 すると小猫ちゃんは少しウトウトし始めていた。

 ―――黒歌から少しずつ習っている仙術の真似事が聞いたみたいだな。

 人の眠気を促進させる術だけど、小猫ちゃんはそれによって次第に体重を俺に重ねてきて、寝息を響かせる。

 普段は隠している耳と尻尾がパッと出てきて、俺はそんな小猫ちゃんを支えながら頭を撫でた。

 

「……ホント反則的な可愛さだよな、白音は」

 

 その無防備さから昔のような呼び方になる俺。

 白音……それが小猫ちゃんの本当の名前だからさ。

 俺が付けた名前。毛並みが真っ白で、綺麗な音を奏でるように鳴くから白音。

 

「……い、イッセーせんぱぁい! 僕のこと、忘れてませんかぁ?」

「あ……わ、忘れてねぇぞ?」

「う、うそだぁぁ!!! 今の返し、絶対に忘れてました!!」

 

 ギャスパーはポカポカと俺の肩を叩いてくるが、非力な故に痛くなかった。

 こいつもこいつで可愛いんだけどな。こういう天然なあざとさとか、弄り易いところとか。

 ……そう言えば、俺がオルフェルだった頃に出会った吸血鬼の少女も、こいつみたいに弄り易かったよな。

 

「……もしかしたら、あいつとギャスパーはどこかで繋がっているのかもな」

「……あいつって誰ですか?」

 

 するとギャスパーが興味深そうに俺の声に反応する。

 ……まあギャスパーになら話しても良いかな?

 

「そうだな……。俺がオルフェルだったころに出会った、吸血鬼の女の子だよ」

「イッセー先輩の、前世の時の……」

「そう。これがまたすっごいドジな吸血鬼でさ。ギャスパーと同じで人間の血とかを進んで飲むような子じゃなかったんだよ」

「……そのヒトとは、何もなかったんですか?」

 

 ……おっと、随分とドストレートに聞いてくるな。

 って言っても当時の俺は強くなることで精一杯だったし、何よりも彼女の好意に気付くことが出来なかったからな。

 何より―――人種が違った。

 

「俺は人間で、彼女は吸血鬼。それに何より俺にはミリーシェがいたから―――リーティアとは何もなかったな」

 

 ……リーティア・ヴラディ。

 恐らくギャスパーの先祖であると思う。

 もしかしたら今も生きているかもしれないな。

 ただ―――恐らく、オルフェルとしての俺のことは、記憶から抜け落ちているんだろうけどさ。

 

「……え?」

「どうした、ギャスパー」

「…………えっと、その―――り、リーティア様は、僕に唯一優しくしてくれた、曾祖母です……」

 

 ……え?

 

「え、えっと……リーティア・ヴラディ?」

「は、はい。リーティア・ヴラディです」

「「……………………」」

 

 二人の間に流れる沈黙。

 ……更に沈黙。

 …………そして次の瞬間―――

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!!!??!?」」

 

 俺たちの驚きの声が風呂場中に広がったのだった。

 それはここ最近で一番の驚きであった。

 ―・・・

 あれからギャスパーとリーティアのことで少しばかり会話が弾み、今は既に夜中であった。

 俺のベッドにはいつも通り人口密度が凄まじいことになっており、既に皆さん就寝中であった。

 ……何故寝る前はアーシアしかいなかったのに、今は全員集合しているのですかね。

 全く以て疑問でしかない。

 ともかくこんな魔境(松田と元浜は楽園と呼ぶ)に自分から入っていくつもりもなく、俺は室内のソファーの方に移動した。

 ……それにしても最近は濃い日が続く。

 明日からもっと濃厚な日になるってのにさ。

 

『ともあれ平和なことは相棒が最も望むことではないか』

『わたくしは、主様が健やかであればあるほどそれで良いです』

 

 っというドライグとフェル。

 まぁそうなんだけどさ、こっちに帰ってきてからどこか女難も前と同じようになってきてるようで仕方ないんだよ。

 贅沢な悩みかもしれないけどさ。

 

『それはきっと、相棒の方向性が決まったからだろう。考え込むのを終わらせ、前に進んだ者ほど魅力的に見える』

『元より主様は魅力を持っていたのです。今更ですよ』

「今更ってな。まあでも、別に苦でもないからいいけどさ」

 

 そんな軽口を叩くと共に、少し俺にも思うところがあった。

 ……俺の前世と、この今は確実に繋がっている。

 ミリーシェとオルフェルとしての俺の存在が抹消されても、俺が出会ったヒトたちは確かに存在していた。

 ギャスパーの曽祖母であるリーティアも、もしかしたら他にも繋がりがあるのかもしれない。

 ……ミドガルズオルムは前世の俺とミリーシェを知っていると言っていた。

 名前は思い出せず、それが第三者の仕業。

 黒い影……ミリーシェを殺した存在が、俺たちを今の状態にした可能性が高い。

 俺は兵藤一誠に生まれ変わり、ミリーシェはその性質がバラバラにされてこの世界の何処かに欠片として散りばめられた。

 俺の目的……ずっと、復讐と考えていたものは、今では少し変わっている。

 今は真実を突き詰めたい。

 俺たちの前世の謎を、解き明かしたいんだ。

 そう思えるようになったのはアーシアや仲間……それに何より、ミリーシェの存在がだった。

 きっとミリーシェはこの世界に、俺と同じように存在している。

 彼女の『記憶の欠片』は俺の中に確かに存在しているのだから。

 

「そのためにももっと強くならないとな―――っと、そろそろ寝るよ」

 

 俺はそう思いつつ眠気から目をつむる。

 次第に……意識が薄れていった。

 ―・・・

 ……俺たちは現在、新幹線の中である。

 あれから夜が明け、難しいことを考えるのは止め、今は京都へ向けて移動をしていた。

 俺の隣にはアーシアが座っており、その前の座席は向かい合わせの席となっている。

 そこに座っているのはゼノヴィアとイリナ。

 そして俺たちのすぐ後ろの席には松田と元浜、更には桐生と黒歌が座っており、二人は絶賛弄られ中である。

 ……黒歌と桐生のコンビとか、考えただけで寒気がするよ。

 まあともかく俺の安全は確保されているのでどうでもいいか!

 

「ふぁ~……」

 

 すると俺の前に座るイリナが眠たそうに欠伸をした。

 ……イリナって昨日、一番最初に寝てなかったっけ?

 

「眠たそうだな、イリナ」

「うん……。そうなのよ。なんだか夜中に目が覚めちゃって、それから修学旅行が楽しみすぎて眠れなかったのよね」

「あれだったら到着するまで眠っていてもいいぞ? 起こすし」

「私、枕がないと寝れないのよ―――はっ! これは合法的にイッセー君に膝枕をしてもらえるチャンスじゃないのかしら!?」

「それを公言する時点で非合法だぞ、イリナ」

 

 あのゼノヴィアにまじめに突っ込まれて愕然とするイリナ。

 ……まああのゼノヴィアに言われては仕方ないな。

 

「なぜか異様に馬鹿にされている気がするのだが……」

 

 おっと、今日のゼノヴィアは鋭いな。

 

「はふぅ……あ、ごめんなさい」

 

 すると次はアーシアが欠伸をする。

 ……ふむ、実にかわいい欠伸だ。

 アーシアは昨日、荷造りでかなり遅くまで起きていたもんな。

 

「あの、イッセーさん……少しお肩をお借りしても良いですか?」

「ああ。いくらでも使ってくれよ?」

 

 アーシアが恥ずかしそうに、おずおずとそう言ってくるので俺は快諾した。

 ……膝枕ではなく肩を要求してくるところがなんともアーシアらしいな。

 ともあれアーシアは俺の肩に頭をこつんと落とし、少しして静かに寝息を漏らし始めた。

 

「……こう、目の前でイチャイチャされるのも、中々に堪えるな」

「天使が抱いてはいけないものが沸々と沸いてくるようだわ」

「おい、アーシアが起きるから静かにしろ」

 

 ……でも確かに暇ではある。

 アーシアと話をしていれば特に暇はなかったが、これではトランプもできないな。

 

「そういえばイッセー。この修学旅行中、イッセーが有事の際の代理王をすることになっているのだろう?」

 

 するとゼノヴィアが棒状のチョコ菓子を一本こちらに差し向けて、そう言ってきた。

 ……そう。この修学旅行中、もし予測していないような状況になったとき、俺はグレモリー眷属とシトリー眷属、そしてイリナと黒歌を纏め上げる『代理王』を任命されている。

 禍の団がいつ何時、襲ってくるかもわからないこのご時世だからな。

 

「ああ。一応は任されてる」

「なら言っておいたほうが良いと思ってね―――今、私の元にデュランダルは不在なんだ」

 

 ……聞いてはいたけど、本当に不在なんだな。

 ゼノヴィアのデュランダルが不在。……これにはわけがある。

 元々ゼノヴィアのデュランダルは多くの制限が掛けられていた。

 それはゼノヴィア自身がデュランダルを扱うには荷が重すぎるということで、力を抑えてゼノヴィアにも扱えるように工夫を施したからだ。

 しかしゼノヴィアは数々の戦いで成長していき、次第にデュランダルがゼノヴィアの力に追いつかないようになっている。

 ゆえに制限を軽減するために、デュランダルを天使サイドに送っているというわけだ。

 細かな調整もするらしく、それ故に今、ゼノヴィアは丸腰というわけだ。

 

「今までこんなにも丸腰で外を出歩いたことはなくてね。少しばかり私も不安なんだ」

「……まあそうだよな。本来の武器がない上に、それに代わるものないのか」

「一応は徒手格闘の心得もあるけれど……まあ私たちの戦うレベルの奴らとは到底渡り合えるものではないからね」

 

 少し自嘲気味に笑うゼノヴィア。

 ……ゼノヴィアって偶にそういう風に笑うんだよ。

 自身の不甲斐なさからって以前言っていたけど、それだけじゃないと思うんだよな。

 

「イッセーは例えば神器がない時のことを考慮して自身の力を伸ばしている―――少し羨ましいのかもしれない。私はイッセーや木場のように器用ではないから。速度で木場に劣り、パワーでイッセーに劣る。……だから、もっと私も強くなりたいんだ。それこそ、イッセーを守れるくらいに」

 

 ゼノヴィアは手をギュッと握り、視線を下方に向けてそう呟いた。

 ……ゼノヴィアは自身がないんだ。きっと。

 俺たちの敵は恐ろしいほどに強く、一対一では対抗できないような連中ばっかだった。

 ロキなんていい例だ。

 だからゼノヴィアは気付いていないんだ―――自分に眠る、圧倒的な才能に。

 

「―――ゼノヴィア。お前は前向きでいればいい」

 

 俺は言ってやる。

 答えではなく、きっかけを。

 

「難しく考え込むのはお前らしくない。……っていうか、たぶんゼノヴィアじゃあ、たぶん考え込むだけじゃ答えにはたどり着けないよ」

「……ひどいな。私だって少しは―――」

「―――脳筋がお前の短所であり、何よりの長所だろ? ゼノヴィアにデュランダル。俺はお前たちは凄まじい相性の良さだと常々考えているよ。だからお前は自分よりも先に剣と向き合ってみろよ。そこから始めても遅くはないはずだ」

 

 剣と向き合う。

 その言葉を聞いた瞬間、ゼノヴィアはハッとしたような顔になった。

 ……ゼノヴィアは既にデュランダルの洗礼を受けている。

 剣との対話は、それこそ神器との対話とも似ている行為だ。

 デュランダルとの同調と信頼を獲得すればするほど、デュランダルの真価を発揮する……俺はそう確信している。

 そうでなきゃ俺のアスカロンがデュランダルよりも強いなんてことはないんだから。

 

「……イッセー君ってつくづく変わったよね。物腰というか、余裕さが」

「突然なんだよ、イリナ」

「……べっつに~? ……ただ、イッセーくんの傍にいれたら、それだけでも幸せかな? って思っただけ!」

 

 するとイリナは席から立ちあがり、他のクラスメイトのところに行ってしまう。

 ……俺はイリナの最後の一言の真意がわからないまま、目を瞑ろうとした―――その時であった。

 

『……イッセー、聞こえるか?』

 

 ……突如、周りからはわからないように俺の耳元に通信のための魔法陣が展開され、アザゼルから連絡が届く。

 なんだろう。修学旅行中は必要がない限りはアザゼルから連絡は来ないことになっているはずなのに。

 

『あまりお前に負担を掛けたくはないが、少しばかり緊急事態が発生した。できれば今から直接伝えたいことがある』

『……分かった。どこに行けばいい?』

『車内の連結部分のスペースに来てくれ』

 

 アザゼルの指示を聞くと、通信は途切れた。

 それを確認するとゼノヴィアは察してくれたのか、アーシアを支えてくれ、俺はすぐにアザゼルの言ったところに向かう。

 車両と車両をつなぐ連結部分には既にスーツを着るアザゼルがおり、俺はすぐにアザゼルに駆け寄った。

 

「それでなんなんだよ。緊急事態って―――まさかこの車両が狙われてるとかじゃないよな?」

「いや、さすがにそれはねぇよ」

 

 俺の予想をアザゼルは苦笑いで否定はするも、表情は未だに優れない。

 ……何か言いにくいことなのか?

 

「……良いか、イッセー。これから話すことは、お前にとって、少しばかり考えちまうことかもしれねぇ。だから先に言っておく。冷静に受け止めてくれ」

「……ああ」

 

 アザゼルは俺の了承を聞くとともに、電子タブレットを俺に見せてくる。

 そこには―――

 

「つ、土御門本家……かい、めつ?」

 

 ―――母さんの実家でもある、土御門本家が壊滅したという文面が目に入った。

 

「……恐らくは禍の団の仕業だと思う。お前は知らなかったにしろ、イッセーには土御門の血が流れているからな―――本家の人間はほぼ死んでおり、その手は分家の一部にも届いているらしい。イッセーには伝えねぇと思ってな」

「……そっか」

 

 ……俺にとって、土御門は母さんを追いやった存在でしかない。

 それでも壊滅やら滅亡なんて言葉を見れば、何も感じないわけではない。

 俺はそれでもいい―――でも母さんがこのことを知れば、どうなる思うかなんて俺には想像もできない。

 

「だが俺たちの向かう京都で既に禍の団が活動していることは目に見えている。奴らが現状は人間に手を出してはいないとはいえ、これから先のことはわからねぇ。……イッセー、お前には一番負担を掛けることになる。臨時のキングで、しかも赤龍帝の名前は既に全世界に知れ渡っているからな」

「……ああ。任された以上、絶対に果たしてみせる。俺の役目を」

 

 アザゼルに見えないように拳を強く握る。

 ……だけど、少し疑問だ。

 禍の団の、いったい誰が土御門を襲ったんだ。

 英雄派は俺たちの敵であって、人間の敵ではない。

 ……ならいったい誰が、どんな目的で土御門家を襲ったんだ。

 俺はその疑問を考えつつ、アザゼルと別れようとした。

 

「……イッセー。それともう一つだけいいか?」

 

 しかしアザゼルは今一度俺を止めた。

 

「……土御門本家の崩壊を考えるに、恐らく京都の妖怪も揺れている。おそらくは普段なら大丈夫なことも、今は過敏に反応するはずだ。もしかしたら襲われることだってあり得る―――そんな時、まずは語らってくれ。現状で妖怪とは友好を結びたいんだ。今回の俺の目的もそこにある」

「ああ。……アザゼルも気をつけろよ。お前も単独行動を好むところがあるからさ」

「はは、違いねぇな。……後でまどかと謙一に連絡をしてやれ。あいつらにもこの一方は通っているはずだからな」

 

 アザゼルはそれを伝えると、車内へと戻っていく。

 ……俺は少し考える。

 全く以て、平穏ってものはただでは来ないものだよな。

 最近は少し平和が続いていたから、少し油断していたのかもしれない。

 だけど―――スイッチが入った。

 

「何が目的かはわからない。それでもお前たちが京都で何かしようって言うなら―――絶対に止める。何があろうと絶対に」

 

 俺は頬を二度ほどパンッ!!っと叩き、車内へと戻ろうとする。

 扉の取っ手に手を掛けようとしたとき、不意に扉が開いた。

 

「あ、ごめんなさ―――あれ? イッセーくん?」

「すみませ―――え? 観莉がどうしてここに!?」

 

 ―――そこにはなぜか、観莉がいるのであった。

 ……そういえば、今は秋―――修学旅行の季節は俺たちだけではなかったのだ。

 


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