ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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【第9章】 修学旅行はパンデモニウム
第1話 意地と女難のパラダイス!


 季節は秋に移行していた。

 外の空気もだんだん冷たくなってきて、それに伴い非常に心地いい季節である。

 秋といえばスポーツの秋、読書の秋、食欲の秋……まあたくさんあるだろう。

 しかし俺はここに一つ、断言したい。

 ―――女難の秋を。

 

「行ってはダメよ、イッセー!!」

「そうですわっ!! 私たちを置いて、そんなの……寂しいですのっ!!」

 

 涙を目元に溜めて、今生の別れの如くそんなことを言ってくるリアスと朱乃さん。

 

「にゃぁ……離れたく、ないです……」

「うぇえぇぇん!! ぼ、僕も連れて行ってくださいぃぃ!!」

 

 足元にくっ付いてくるのは小猫ちゃんとギャスパー……えぇい、可愛いなもう!

 って、一体なんなんだよ!?

 

「み、みんな!! ―――たかが修学旅行で、深刻になりすぎだから~~~!!!」

 

 オカルト研究部に、俺の叫び声が響き渡る瞬間であった。

 ……そう、季節は秋。

 ―――修学旅行の季節である。

 ―・・・

「これで大体の予定は決まったわね」

「ま、そーだな」

 

 駒王学園の修学旅行は二学年時の丁度秋の季節に執り行われる。

 向かう先は日本の古都、京都。

 実はつい先日、チビドラゴンズと大冒険に行ってきた地でもある。

 そして今現在、俺は班長である桐生と当日の動き方の打ち合わせをしていた。

 

「良いか桐生。京都は素晴らしい場所だ。何が何でも予定通り、滞りなく回り切るのが今回のミッション……心して向かわねば!!」

『―――だからミッションって!?』

 

 すると班員から一斉にツッコミが入る。

 ……俺、可笑しいこと言ったか?

 ―――ともあれ、今回の修学旅行の班員はいつも通りの面子であったりする。

 アーシアを筆頭としてゼノヴィアにイリナ、黒歌、桐生といった女性陣。

 そして俺と松田と元浜の男性陣だ。

 

「にゃふふ~、まっちゃんともっちゃんはイッセーに感謝しないといけにゃいぞ? 他の班の子にたらいまわしにあっていたところをイッセーに助けて貰ったんだから♪」

 

 すると黒歌は楽しそうに笑いながら可愛く松田と元浜の頭を小突いた。

 

「く、黒歌氏!? 少しばかりスキンシップが過ぎるぞ!?」

「ありり~? もっちゃんは恥ずかしがってるのかにゃ~? あ、勘違いは止めてね。これでも私、一途だから♪」

 

 っという風に二人をからかいながらもこっちを真っ直ぐに見てくる黒歌。

 ……こんな風に、黒歌もこの学校に慣れたもんだ。

 その抜群のスタイルとルックス、更に人懐っこい性格が加味して黒歌は女子人気が凄い。

 黒歌と一緒に居れば美容効果があると噂されるレベルで凄まじい人気なんだ(無意識に仙術で周りの人間の気の循環が良くなっているらしい)。

 更に男子に悪戯をする小悪魔っぷりから裏では男子からも人気があるらしいが……まあ黒歌は可愛いから仕方ないか。

 

「にゃ!? い、イッセー……こ、こんなところで可愛いとか言うの、反則にゃん……」

「……え? こ、声に出てた?」

「うん、ばっちし。ほら、録音してるにゃん」

『黒歌は可愛いから……』

 

 ……気をつけよう。

 ってかなんでその一瞬で録音できるんだよ!? ……っというツッコミはしないほうが良いか?

 まあともかく―――ッ!

 俺はその場に立とうとした瞬間、拳に激痛が走った。

 その俺の反応をいち早く察知したアーシアは、心配そうな顔でこちらを見てきた。

 

「イッセーさん。その、大丈夫ですか?」

「アーシア。……うん、ちょっと傷が痛むだけだよ」

 

 ……何故、こんな傷を負っているのか。

 それは先日のことに遡る―――

 ―・・・

 その日、俺は冥界において上級悪魔としての挨拶回りの最後としてサーゼクス様のところに伺っていた。

 といってもそんなに硬い挨拶とかではなく、単純に魔王であるサーゼクス様と語らうといったものだ。

 

「そうか、平行世界に行ったとは聞いていたが……君はまた一段と強くなったようだね」

「はい。あいつらとの戦いは、きっと俺がもっと強くなるために必要不可欠だったんだと思います」

 

 俺は少し前の事件のことをサーゼクス様にお話ししていて、それもほとんど終わるところだ。

 平行世界の変態で、でも漢であった兵藤一誠。

 俺の一つの可能性であったかもしれない黒い赤龍帝。

 ……サーゼクス様とその辺りを話している最中であった。

 

「―――時にイッセー君。私は君に一つ、教えておきたい情報がある」

「……どうしたんですか? サーゼクス様」

 

 サーゼクス様は突如、真面目な表情となり話し出す。

 

「現状、我々の敵である禍の団……君がどれほど彼らについて理解しているかを聞こうと思ってね。イッセー君、君は禍の団にはどれほどの派閥があるか知っているかい?」

「……はい。先代の魔王の血族により構成された旧魔王派、白龍皇・ヴァーリによってかき集められた少数精鋭のヴァーリチーム、そして―――英雄派」

 

 俺は平行世界に飛ばされる前に出会った英雄派のトップである曹操を思い出して、そう口に出した。

 ……英雄派二大トップの一人、曹操。

 完全に普通の人間であるのにも関わらず、目の前に近づかれなければ気付かないほどの隠密性。

 目の前に立った瞬間、死と隣り合わせと思わせるほどに重圧を持つ存在。

 一目ほどしか見ていないが、それを感じ取れるほどの男だった。

 

「そう。君の手により旧魔王派が打開した今、現状においての危険視されているのは英雄派と呼ばれる派閥。……奇しくも、人間により構成された英雄の血を引き継ぐ者達だ」

 

 ……しかしサーゼクス様は、「しかし」と言葉を更に続ける。

 

「でもね、この派閥よりも厄介な派閥も存在しているんだ」

「……え?」

 

 これについては俺も知らないことであった。

 俺の知る限り、確かこれ以外には魔法使いや魔術師で構成された魔女の夜(ヘクセン・ナハト)と呼ばれる派閥だけだ。

 その派閥は大した脅威はないと聞いている。

 

「君が知らないのは当然だ。何せ、最近になって表立って活動を始めたからね―――しかも、人間界の一般人を巻き込んで」

「ッ!? ど、どういうことですか!? 禍の団は、少なくとも俺たち三大勢力を襲うことはあっても、人間界までに手を出していないはずじゃ!?」

「……そう、だから英雄派より厄介なんだよ。人間界で活動を始め、どのような手を使っているかは知らないが各地で小さな戦争を巻き起こして何かを画策する派閥―――我々はその派閥を『戦争派』と名付けた」

 

 ……戦争派。

 思い出してみれば、最近になって冷戦状態になっていた二国間で突如戦争が勃発したりするなどがニュースでやっていたけど……まさかそれも禍の団が関与していたとは思っていなかった!

 でもそれが事実なんだとしたら、許せねぇッ……!!

 

「……君の怒りは最もだが、ここで熱くなっても意味はないよ。それに君にはもうそろそろ修学旅行があるんじゃないのかい?」

「……ッ。すみません、サーゼクス様」

 

 俺はサーゼクス様の一言で冷静さを取り戻し、少し反省をする。

 ……ダメだな、話だけで頭に血を昇らしてたらこれ以降やっていけない。

 俺は上級悪魔になったんだから、もっと冷静に怒らないと。

 

「君は上級悪魔と同時に学生でもあるんだ。君たちグレモリー眷属にはいつも負担ばかりかけていてこんなセリフを掛けるのは筋違いかもしれないが……私は、君たちにはまだ子供で居て欲しいんだよ」

「……分かってますよ。あなたが誰よりも優しいことくらい」

 

 俺は手元にあるティーカップに指をかけ、すすっと紅茶をすする。

 ……俺が赤龍帝である限り、禍の団と争うのは避けられない。

 なら戦争派と戦うことになるのだって、視野にいれても問題はないはずだ。

 

「ところでイッセー君。君の眷属集めは順調かい?」

 

 するとサーゼクス様は話を変えたいというように、興味深そうにそう言ってきた。

 眷属集め、ねぇ。

 

「現状は黒歌と一緒に色々考えてるところですね。俺も少し考えもありますし……そうですね、一応二人ほどですが目星をつけています」

 

 以前、俺がライザーの引き籠りを解決するためにフェニックス家に訪れ、問題を解決した後にライザーから送られてきた手紙に綴られていたんだよ。

 ライザーは……いや、フェニックス家はレイヴェルを俺の眷属とすることを望んでいるらしく、俺は黒歌にそれを話して検討している途中だ。

 あともう一人は……正直、確実に無理だと考えている。

 少なくともただ言葉で伝えても了承しないことは理解しているから、ダメ元でお願いするしかないんだよな。

 ともあれ未定もまた未定だ。

 

「まだお話する段階ではないです。黒歌も悪魔としての力に慣れさせるのに付き合うのが現段階の状況です。っていっても、既にあいつの実力って相当なものなんですけどね」

 

 少なくともガルドには引けを取らないっていうのが俺の判断だ。

 

「なるほど、君には君なりの考えがあるということか。ならば私から聞くことはない―――っと、そろそろ彼らが来る頃合いか」

 

 サーゼクス様が時計を確認した時、突如魔王城の大きな客間の扉が開かれた。

 そこにいたのは―――サイラオーグさんと、エリファさんであった。

 

「お呼びに預かり光栄でございます、サーゼクス様―――あら? あなたもお越しになっていたのですね、兵藤一誠」

「久しぶりだな、イッセーよ」

 

 俺は席から立ち上がろうとすると、二人は構わないという仕草をとった。

 

「来たね、エリファくんにサイラオーグ」

 

 するとサーゼクス様は二人を招き入れ、俺と同じように円卓テーブルに座らせる。

 グレイフィアさんは即座に二人に紅茶を淹れると、すぐさま席を外した。

 

「サーゼクス様。なぜこのお二方がここに……」

「難しいことではない。俺もエリファもこちらの近くによったものでな? そのついでと言っては失礼だが、馳せ参じただけだ」

「その通りですよ。私としては兵藤一誠に会えたことが何よりの僥倖なのですよ」

 

 生前のミリーシェと瓜二つの顔で微笑んでくるエリファさん。

 だけど今の俺はミリーシェと再開し、心を通い合わせたからか彼女が別人にしか思えないんだよな。

 ……っと、そんなエリファさんなんだけど、実は俺が平行世界に行っている間にリアスたちのところに来ていたらしい。

 それで一騒動あったらしく、詳しくは聞いていないんだけど今やリアスの最大のライバルとなっているとのこと。

 なんでもリアスと一騎打ちで腕試しをしたとか、そんなところらしい。

 理由は知らないが……

 

「以前お伺いした時にはあなたはいなかったものですから、ゆっくりお話をしたいものですが……」

「エリファ、お前は話し出すと長いからやめてておいた方がいい―――ときにイッセー。お前の噂はかねがね聞いている。禁断の力をお前らしいものに昇華させたようだな」

 

 するとサイラオーグさんが身を乗り出し、そう言ってきた。

 

「守護覇龍のことか?」

「そうだ。あの悪神ロキを倒すほどの力……ふふ。お前とは是非とも理屈の概念のない、純粋な力比べをしたいものだ」

 

 途端に野獣のような好戦的な笑みを浮かべるサイラオーグさん。

 なるほど……今まで本気の殺気というものを見たことがなかっただけに、これは驚きだ。

 ―――若手の域を軽く超えている。

 下手をすれば最上級悪魔と言われても不思議ではない。

 ……若手悪魔最強の漢、サイラオーグ・バアル。

 極端なまでに身体を鍛えた、俺の知っている限りのトップクラスのパワータイプの悪魔。

 ……悪魔最強の肉弾戦を披露するディザレイド・サタンを目標にしているサイラオーグさんだ。

 ある意味では当然なのかもな。

 

「ああ。次のレーティングゲームはあなたとの戦い。最高の舞台で、最高の戦いにしようぜ」

 

 ―――次のグレモリー眷属の対戦相手はこの人だ。

 きっと今までのゲームとは比較にならないほどの激戦となる。

 ……っと、そのときであった。

 

「……サイラオーグ。先ほどから武者震いが収まらないようだが?」

 

 サイラオーグさんをじっと見つめるサーゼクス様がそのように話しかけた。

 ……サーゼクス様の言うとおり、サイラオーグさんは武者震いをしていた。

 まるで今すぐにでも戦いたいというように。

 

「……いや、お恥ずかしい。俺としても、闘志は抑えていたつもりなのですが―――この男を前にして、その歯止めが効かなくなりそうです」

「ならば―――一戦交えてみればどうだろうか?」

 

 ……サーゼクス様よりそのような提案が出される。

 それを聞いた瞬間、サイラオーグさんと俺は目を見開いてお互いを見合わせた。

 そして―――

 

「願ってもないことです。もしイッセー……兵藤一誠殿がお受けしてくださるのならば、喜んでお受けしましょう」

「っとのことだが、兵藤一誠よ―――上級悪魔となった貴殿の戦いを是非とも私は見たい。相手は現若手悪魔最強の漢、サイラオーグ・バアル。相手にとって不足はないはずだ」

 

 サーゼクス様の笑みが俺に向けられ、俺はフゥっと息を吐く。

 ―――ちょうど、同じことを考えていたんだよ。

 俺も一度、この漢と戦いたい。

 己が全てを一つのものにかけて駆け抜けた漢。

 どこか自分に通ずるものがある気がして、俺の次の前進に必要な気がする。

 だから

 

「お受けしましょう。この兵藤一誠、全力を以って魔王様の願いを聞き届けましょう」

 

 ―――ここに、俺たちの戦いが始まった。

 ―・・・

 魔王城の地下にある大空間。

 そこにはサーぜクス様にグレイフィアさん、そしてエリファさんといった面子が勢ぞろいしていた。

 その視線の先には上着を脱ぎ、ぴっちりとしたアンダーウェアを身に纏うサイラオーグさんと、同じく制服を脱ぎ去ってシャツ一枚の俺の姿があった。

 

「礼を言おう、イッセーよ。よくぞ決闘を受けてくれた」

「構わないよ。俺もサイラオーグさんと戦ってみたかったところだし、それに―――何か掴める気がするからさ」

「そうか……ならばお前はこの手合わせ、軽い調整と思ってくれても構わん」

「それはない―――あんたは、そんな軽い気持ちで相手取れる敵じゃない」

 

 ―――この決闘は俺にとってプラスしかない。

 今考えてる色々な発想を試す機会でもあるし、現状自分がどこまでやれるかを知ることのできる絶好のチャンスだ。

 

「俺は自分の可能性を試す。だからこれからすることは決してあんたを舐めてるわけじゃない―――全力で、下すつもりだ」

「っっっ! ……良い殺気だ。ならば俺も遠慮せず―――」

 

 ……次の瞬間、サイラオーグさんは俺の前から消える。

 

「やらせてもらおう!!」

「っ!!」

 

 ―――そして、神速で俺の前に現れた。

 とても実直で真っ直ぐな、分かり易い一撃。

 その打突は俺の身体の中心線へと真っ直ぐに放たれ、俺は即座に籠手を展開。

 倍増の力を溜める時間はない!

 身体中に魔力を過剰に流し続け、身体の性能そのものをオーバーヒートさせる。

 

「ッ! らぁぁぁ!!!」

 

 そしてその真っ直ぐな拳を、真正面から受け止めた。

 拳と拳がぶつかり合い、そして―――吹き飛ばされた。

 

「がっ!? ……流石、サイラオーグさんってわけかッ。たった一撃だぞ……ッ!」

 

 俺はビリビリと痺れる左腕を無理やり動かすように地面を殴りつける。

 ……たった一撃で理解した―――この拳は、過去最強のものだ。

 冗談抜きでサイラオーグさんの拳は神にも対抗できるほどのものを感じる。

 ……そう思うと、つい顔が緩んだ。

 ―――魔力の気配は一つも感じない。本当にこの漢はその体一つで戦い抜いてきたというのを理解できる。

 俺と似ていると思っていた。

 でも俺にはドライグ(相棒)がいた。

 どんなにゆっくりでも、着実に強くなれた―――強くなれる希望があったから。

 

「……やっべーな、おい―――こんなのいつぶりだよ!!」

 

 俺は駆け出した。

 オーバーヒートモードによる身体超過と籠手の倍増の力を解放し、先ほどからサイラオーグさんがしたのと同じように拳を振るう。

 サイラオーグさんもまた俺と同じようにそれを拳で受け止め、そして―――俺はサイラオーグさんを殴り飛ばした。

 

「くっ……。……神器の真骨頂を使わずとも、その身を鍛え上げているようだな。今の拳はそれの証明―――やはりお前は俺と同じを道を辿って来たのだな」

「ああ、そうさ。俺にあったのはこの身体と籠手だけだった。魔力の才能なんてものもなかった」

 

 俺はファイティングポーズを取り、自然と笑みを浮かべた。

 胸元にブローチ型のフォースギアを展開し、オーバーヒートモードをさらに加速させる。

 ……現場は制限時間は20分ってところだな。

 

「イッセー。お前の力は絶大な反面、多大な代償を背負っている。一つ一つの力が身体への負担、精神への負担が大きい。それを軽減するために様々なカードを切って効率的な戦いをしている―――ならば引き出してやろう。お前が白龍皇を下し、堕天使の幹部を下し、最上級悪魔を下し、そして……。神を下した力を!!」

「それはこっちの台詞だ、サイラオーグさん!!」

『Boost!!』『Force!!』

 

 籠手とフォースギアから音声が鳴り響き、それを確認したと同時に籠手に溜まる倍増の力をフォースギアに譲渡!

 倍増した創造力によって俺は神器を構築した。

 

『Creation!!!』

「神器創造! 更に―――創換!!」

『Convert Creation!!!』

 

 創造変換。

 一度創った神器に更に創造力を加え、神器そのものを創り換える力だ。

 以前、アーシアを救うために使った技だけど、これは思っていたよりも応用が効く力なんだ。

 基本的に創造神器は能力を一つしか持たない。

 それは神器を創造するのに必要な創造の限界が一つであるからだ。

 赤龍帝の籠手は俺がずっとその手に持っていたから創造が可能だったが、それ以外の神滅具が到底不可能だ。

 一つの能力しかない神器をできる限り神滅具の出力に近づけることは可能だ。

 でも神滅具の定義は本来重なり合ってはならない二つ以上の能力が、相乗効果を生んだ結果生まれた神をも殺す可能性を持つ力だ。

 ……これは俺が平行世界で経験したことを思考して、新たな俺の可能性をいろいろ試しているんだ。

 これはその一つ。

 一度基礎を神器で創り、その後に能力を付加する形で創り換えることで神滅具の力を再現したもの。

 ―――平行世界で出会った変態だけど熱い男だった一誠。

 お前の影響でこいつは生まれたんだ。

 お前みたいに赤龍帝の力があそこまで変質していないから、俺はそれをフェルの力で再現してやる!!

 

「行くぜ、フェル! ―――戦車の剛拳(ルーク・オブ・ガントレット)

 

 光が晴れた時、そこにあったのは鋼の巨拳だった。

 鋼鉄に覆われた大体籠手と同じほどの大きさのガントレット。色は白銀で、籠手よりも轟々しいフォルムだ。

 ……元の能力は単純な肉体強化。

 そこから付け加えた能力はこれまた単純。

 

「くらえぇ!!」

「ッ!! おもしろい!!」

 

 サイラオーグさんは俺の拳の異質性に気付いたのにも関わらず、やはりまっすぐと拳を放つ。

 ……おもしれぇ!!

 あんたがまっすぐ来るのなら、俺だってまっすぐやってやる!!

 拳は三度サイラオーグさんと交わり、辺りに激しい衝撃波を撒き散らす。

 互いに力を緩めずに、更に拳を前に突き出す!!

 この拳の第二能力は至ってシンプル―――拳を推し進める限り、拳から放たれる衝撃を半永久的に肥大化させていく。

 ……そう、いわばこれは意地と根気は勝負。

 

「分かりやすくていいだろ?」

「―――とことん気が合うな、イッセー!!」

 

 足で踏ん張り、拳を押し込め合いだけに集中する。

 テクニックとかそんなもん一切関係ない!

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!!」

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 互いに引くことを知らない俺とサイラオーグさん。

 ―――なんだこれ。

 こんなの、いつぶりだ?

 こんなにも―――楽しいなんて!!

 ずっと戦うことは護るためだけと考えていた。

 でも今は何か違う。

 これに、この戦いに護るなんて概念はない。

 そんなしがらみを全て取っ払った戦いに、自然と笑みが浮かんでいた。

 ……永遠に続くと思えてしまうほどの力の張り合い。

 ―――しかしそれも唐突に終末を迎えうことになった。

 

「―――そこまでですよ、お二人とも」

 

 ……突如、俺とサイラオーグさんの間に黒い膨大な弾丸が通り過ぎた。

 その弾丸の危険性をとっさに判断し、俺とサイラオーグさんは我に返って共に後ろに飛ぶ。

 それと同時に弾丸を放った当人をじっと見た。

 

「どういうつもりですか。……エリファさん」

「男の戦いに首を突っ込むつもりか、ベルフェゴール」

 

 ……そこにはサタンとベルフェゴールの紋章が描かれている黒い装飾銃の銃口をこちらに向けて、苦笑いをしているエリファさんがいた。

 正直にいえば勝負の最中に首を突っ込まれたことに対して、かなり不満を持っているところ。

 ……しかし俺は周りを見て、どうして中断させてきた理由が分かった。

 ―――俺たちがいる周辺は拳圧によりボロボロになっており、床はひび割れている。

 それはサーゼクス様やエリファさんのもとまで伸びていた。

 

「まったく。周りへの被害も考えてください。あなたたちレベルになれば、周りへの被害も甚大なのですよ。軽い手合わせとはいえども、です」

「……すまない」

「すみません」

 

 エリファさんの小言を俺たち二人は素直に聞く。

 ……確かに少しばかり理性を失っていたよな。

 それにしても軽くでこれか―――互いに本気ではなかった。

 俺も生身の状態でどれだけこの人とやれるかを確かめたかったし、それにサイラオーグさんも……まったく本気ではない。

 彼の両手両足には枷のような魔法陣が見える。

 きっと自身に多大な負荷を常に掛けているんだろう。

 問題は―――俺の先ほどまでぶつかっていた腕が、現状ほとんど使い物にならないことだ。

 

「……ッ」

 

 先ほどの力比べ、もしエリファさんの仲介が入っていなければどうなっていたか―――まだまだダメだな。

 基礎的なものは俺はサイラオーグさんの足元にも及んでいない。

 本当にドライグとフェルの力がなければ拮抗できない。

 ―――少し調子に乗っていたのかもしれない。

 なんだかんだで今までの敵を降せていたから、このヒトも同じようにいくのではないか、と。

 

「ふむ、これは興が削がれたか」

 

 サイラオーグさんは少しばかり苦笑し、遠くにおいてあった上着を肩にかける。

 ……先ほどの利き手とは逆の手で上着をとった。

 

「申し訳ございません、サーゼクス様。これ以上この男と戦い続けるのはあまり良いとは思わないと判断したため、このような中途半端なものとなってしまいました」

「いや、良い。むしろ私は君たちの力比べをして勿体ないと思っていたところだ」

「……勿体ない、とは?」

「君たちの戦いは、我々だけで観戦するのはいささか勿体ないよ。君たちの戦いは、冥界中が注目する戦い―――レーティングゲームで是非に見たい」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の体にビリッと電流が流れる感覚に囚われる。

 ……歓声が鳴りやまない最高の舞台。

 ―――俺もこのヒトとはそんなところで決着をつけたい。

 

「お前も俺も全力を出し切ってはいないだろう。やはり互いに万全の状態で戦いたいというのが俺の望みだ―――次のレーティングゲーム、俺は最後はお前と戦うことになるということを確信している。イッセー、それまでにお前の新しい可能性を開花させることを望んでいる」

「当然! 次やるときは試すとか、そんなことはしない。俺の持てる最大限を以てあんたを倒す!」

 

 俺たちは先ほどまで戦闘を行っていた手とは逆の手で拳をあてがう。

 表情は不敵な笑み。

 それを目の前で見ていたサーゼクス様は、何か呟いていたものの、俺にはその詳しくは届かなかった―――

 

「……若手。いや、もう悪魔界切ってと言っても過言はないね」

「ええ、サーゼクス様。実質的に言えば―――冥界でも稀にすら見ない屈指の肉弾戦となる。全く、この世代の若手はすごい―――」

 ―・・・

 っと、あの時のことを思い出してしまった。

 ともかく、あの時の一戦の影響はまだ残っているんだよな。

 ふとしたことで地味に痛みが浮かぶっていうか、まだあの時の余韻が残っているというかさ。

 

「……イッセーさん、私があっちの陰で治しましょうか?」

 

 ―――するとアーシアは俺の手をそっと優しく触れて、上目遣いに近い形でじっと見つめてくる。

 共感性の強いアーシアだからか、見上げる目は心配するようにうるっとしている。

 ……一言で言おう。

 

「―――女神さまだ……アーシア」

「……はい! イッセーさんだけの女神さまです!!」

 

 いやぁ、もうアーシアに対する感情が高ぶって凄まじいよ。

 俺のアーシアへの好きはずっと右肩上がりな気がしてならない。

 もうどんな動作でもかわいく思えてしまうんだよな。

 

「……はいはい、ごちそうさま。兵藤、ここ教室だからね?」

「……はい」

 

 でも今回は頭なでなでだけで済んでいるからましじゃないか? とは口が裂けても言えなかった。

 でもひどいカップルだったら教室で膝の上に座らせたり、隠れてキスとかしてるからな。

 

「でもイッセーさん、辛かったらいつでも私を頼ってくださいね?」

「ああ、分かってるよ。癒しオーラは後でお願いするな?」

「はい!」

 

 アーシアは凄まじいニコニコを見せてそう答えた。

 ……本当、もっとアーシアと一緒にいたいんだよな。

 最近は上級悪魔の昇格の影響か、ほかの眷属の皆とは離れて行動するとか増えてきているし、これ以降も上級悪魔としての依頼とかが増えるだろうからな。

 甘えるときにとことん甘えて、甘えられるときにとことん甘えさせてあげないと。

 

「……あ、そだイッセー」

「黒歌、熱いから離れて」

「ひどいにゃん! 三桁オーバーのお胸にむにゅってされて無反応とか可笑しいにゃん!!」

 

 後ろから突如抱き着いてきた黒歌。アーシアの癒しオーラに充てられた俺にお色気なんてもんは通用しないんだよ!(単に慣れたともいう)

 

「で、なんだよ。俺は今、アーシアを如何に甘やかすことで頭がいっぱいなんだけど」

「むぅ……最近のイッセーはある意味の悟りを開いていて面白くないにゃ~ん!!」

「いや、だから早く要件を」

「―――だったら、奥の手!」

 

 黒歌は業を煮やしたのか、背中から伸ばした手を俺の胸元に添える。

 そして―――ッッッ!?

 

「ふふふ、これはね? 仙術の応用で気の流れを狂わして、精力を極限まで高める術にゃん♪」

「おま、なにやって……ッ」

 

 黒歌が耳元で静かにそうに呟くと同時に、体がやけに熱くなるッ!

 いや、これはマジでやばい……ッ。

 っの野郎、このタイミングでそれはダメだろ!?

 俺はともかくこの術をどうにかするために黒歌に抱き着かれたまま廊下に飛び出て、急いで人気のないところに移動する。

 周りの皆はぽかんとしていたけど、今はもうどうでもいい!!

 

「にゃん、こんな人気のないところに連れ込んでナニをするのかにゃ~? 初めてが学校とかアブノーマルだにゃん♪」

「う、るせぇ! い、良いからこれ早く治してくれ……ッ! い、今は女の子を見ただけでやばいから!!」

「……本来は近くにいるだけで襲っちゃうくらいのレベルなんだけど、やっぱりイッセーって鋼の理性だよね」

 

 黒歌は少し関心しているような表情になり、次は正面から抱きしめてくる。

 ―――その感触で頭のばねが外れそうになり、逆に強く抱きしめ返してしまった!

 

「はにゃ!?」

 

 ……黒歌もそれは予想外であったのか、気の抜けたなんとも可愛らしい声を漏らした。

 ―――今、それやられると逆効果なんだよな。

 頭は冷静でも、体は勝手に動いて……

 

「ちょ、イッセーそこさわっちゃ……にゃぁ~~~っっ!? め、そこはびんか―――んにゃぁぁぁぁ!!?」

 

 黒歌はあまりもの衝撃からかつい猫耳と尻尾を出していたので、つい尻尾を撫でるとそんな嬌声を上げた。

 ……でもこれは本格的にやばいな。

 思考できてもそれを止める理性がない。

 本当、思考と行動が一致しないな。

 ……っと、唐突に俺の意識はまともなものに戻った。

 

「あれ、戻った? 黒歌、お前何か……」

「はぁ、はぁ……イッセー……そ、こは、性器とおなじくりゃい、びんかんだから……もっと、やさしく、にゃん……?」

「……発情期ですか、そうですか」

 

 俺は即座に以前、小猫ちゃんに創った発情期を抑える神器を創り、目がトロンとして艶めかしい汗をかいている黒歌に使った。

 発情させた本人が逆に発情させるのってどうなんだよ、ほんと。

 フェル、本当にごめんな?

 

『まったく、困った泥棒ネ―――じゃなく、エロ猫ですね』

「フェルさん? それ言い直せてないし、オブラートに包んでいないからな?」

『ふん、この淫乱ネコめ』

「ドライグ!! もっと物事はオブラートに包めよ!」

 

 俺の中の親ドラゴンたちはとても辛口であった。

 ……しかしこのとき、俺はこのときの黒歌の話を聞いておかなければならないという意味を全く理解していなかった。

 まさかこれが―――しばらくぶりの凄まじい女難の始まりだということを知る由もなかった。

 ―・・・

「ふぇぇ、イッセーちゃんが遠くにいっちゃうよ~!! ケッチー!!」

「ま、まどかが俺に甘えてくれて―――愛しているぞ、まどか! あ、それとイッセー!」

 

 ……息子の目の前でイチャイチャする馬鹿夫婦こと兵藤夫妻。

 今日の部活は俺たち二年生が修学旅行の準備ということで早めに上がることになり、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、黒歌は旅行の買い物という名目で街に繰り出した。

 ほかの部員はまだ部室にいて、祐斗も今日はまっすぐ帰ったらしい。

 それで俺も家に早めに帰って荷物のチェックをしようと思っていた矢先、帰ってきたら母さんと父さんが抱き合っている現場に遭遇した。

 ……客観的に見て、どうしても犯罪臭がするのは気のせいだろうか?

 俺は咄嗟に物陰に隠れてしまい、出るに出れないというのが現状だ。

 

「私ね、イッセーちゃんがいないと寂しいんだ……」

「大丈夫だ、まどか―――俺はいつでもまどかのそばにいる。俺じゃ、だめか?」

「……ケッチー。なんか私ね、今ものすごくドキドキしてるんだ? ほら確かめてみて?」

「…………ああ、すごくドキドキしてるな」

「ケッチーこそ……ね? 私ね? その……い、イッセーちゃんに妹とか弟がいたらなーって―――」

 

 ……まずい。

 ちょ、なにこれ気まずい!?

 いや、父さんも母さんも若いからそれは夫婦の営みもするだろうけどさ!?

 まさかその現場に鉢合わせるとは思ってなかった!!

 え、なに? 俺に弟か妹できるの?

 それはとてもかわいがると思うけど―――って、ちっがーう!!

 体隠しているから音声しか聞こえないけど、これはこれでなんかやらしいんですけど!?

 

「……俺の守る家族はまた増えるな」

「いや、なの?」

「―――本望だ!」

 

 ……いや、かっこいいけどそれをリビングでするなよ!?

 そういうのはベッドの上でしろっての!!

 これは辛いぞ!? ど、ドライグにフェル! 助けてくれ!!

 

「……あれ、人間の、愛、育み?」

「ああ、それが目の前で起きようとしていることにひたすら目を背けたいんだ―――ってオーフィス!?」

 

 声を抑えて叫んだ俺えらい!!

 っていうかいつの間にか俺の隣にチョコンと座っていた。

 気配もなにも感じなかった! 

 

「……まどかの体温、急上昇。イッセー、風邪?」

「違うと思うから手に持っている体温計を母さんに今持っていこうとしないで!!」

 

 なお、小声でオーフィスを止める俺。

 ―――オーフィスは感情が芽生えてから無邪気である。

 なんにでも興味を持ち、なんでもしようとしたがる。

 そんなオーフィスがあの二人が今何をしているのかを知れば―――考えたくもない。

 今、俺の成すべきことはオーフィスを納得させつつ、この場を離脱すること。

 これはそう―――親が子供に、どうやって赤ちゃんは生まれると聞かれたとき、親が子に対して説明する問答だ。

 確信に迫らず、しかし大筋から逸れない例えと説明。

 

「なら何故、二人、体温が上昇している? 何故、今、粘膜接触、してる?」

「せ、説明するなー!」

 

 でもこれは本格的に不味いな。

 不味いな……―――ん?

 そういえば、母さんって自分の意思に関係なく人の心の声が聞こえるん……だよな?

 それを考えた瞬間、俺は冷や汗を掻いた。

 

「ん? 二人、粘膜接触、終わった。体温下降―――イッセー、何故?」

「ふ、ふふふ―――うん、俺ってば、すっかり忘れてたな~。あ、オーフィス。あの行為は愛の行為なんだよ。それをすることで絆を深めて、好きって気持ちを再確認するんだ~」

「なら我もイッセー、したい」

「うん、それがね? 今はちょっと無理なんだよね―――ほら、俺首根っこ持たれてるだろ?」

 

 ……首根っこを持たれて、体を無理やり宙づりされる俺。

 その剛腕は俺の体を容易に持ち上げ、鬼神ごときオーラを迸させていた。

 

「い、イッセー?」

「オーフィス、ごめんなー? ―――ちょっと死んで来る!」

 

 ―――そうして俺は闇の中に消えていった……

 ―・・・

 あ、足腰に力が入らないほど正座をさせられた。

 でもさ! リビングでそういうのするほうが可笑しいと思うんだよ!

 ……なんて言い訳をしたり、父さんから全力のボディーブローされ、それで母さんが父さんにぶち切れて余計面倒なことになった。

 

「な、なんか今日は面倒なこと多くないか?」

 

 俺はふらふらとした足取りで自室に向かう。

 しかし足に力が入らないので壁を伝い歩きしていた。

 今日は災難もいいところだ!

 こういう時はチビドラゴンズを呼んでひたすら癒されるのがいいか?

 または小猫ちゃんのところでゲームをするとか……。

 そんな思考をしていたときであった。

 がちゃ! ……突如伝え歩きしていた壁沿いにある扉の一つが開き、そこから手が伸びた。

 その手によって俺は何者かに室内に連れ込まれ、そのままベッドに押し倒される!?

 更にすぐさまガチャリと扉の鍵が締められ、ベッドがギシギシと軋む音が嫌に耳に入る。

 少しすると薄暗い室内に目が慣れたのか、俺に迫る人の姿が見え始めて……

 

「イッセー、くん……お願い、私を、置いていかないで?」

 

 ―――そこにいたのは下着姿の朱乃さんであった。

 紫色のレースを用いた上下の下着を身につけている。

 明らかに朱乃さんの胸部のサイズにあっていないほど下着のサイズは小さく、布地の面積も極端に小さい。

 ―――み、見えてはいけない部分が見えてるんですけどぉ!?

 

「あ、朱乃さん! なにやってるんですか!?」

「だめ……ちゃんとわたしを、見て?」

 

 視線を外そうにも朱乃さん俺の頬をそっと手で添えて、自分の身体を強制的に見せる。

 ……引き締まった素晴らしいスタイルだと思う。

 パーツ一つ一つがどれをとっても魅力的で、理想のスタイルが手を伸ばす距離にあった。

 ―――うん、やっぱり冷静になったらそんなことしか考えれねぇ!!

 

「み、見ました! 見ましたからもういいですよね?」

「なんで、私のことをまださん付けなんですの……?」

 

 こ、ここぞとばかりに朱乃さんが攻めて来る!?

 ……でも考えてみれば、俺はリアスのことはリアスと呼んでいる。

 一悶着があったとはいえ、しかし朱乃さんだけに敬語を使っているのは確かに距離を感じたのかもな。

 

「……わかった―――朱乃? いったい、なんでこんなことをしてるんだ?」

 

 俺はごく自然に、朱乃の頭に手を置いてそっと撫でる。

 普段はこういうのは年下やアーシアにすることなんだけど……あんなに目頭に涙を溜められては仕方ない。

 っていうかそもそも精神的には俺の方が年上なんだよな。

 ―――あれ? そう思うと途端に朱乃のことが可愛く見えて来たぞ?

 いや、もともと可愛いけどさ?

 年下特有の魅力というか、なんか構いたくなるようなオーラっていうか。

 ともかく愛でたくなる!

 

「あ……イッセーくんのナデナデ、すっごく優しい」

 

 朱乃は途端に表情をぱぁっと明るくなり、本当に年相応の女の子になった。

 ……ふむ、しかしこれは完全に停滞している。

 話が進まないんだよな。

 こうなれば一度朱乃を元に戻してから―――

 

「イッセーくん。膝枕、して?」

「うん」

 

 ―――全く、俺の決心は簡単に揺らぐぜ!

 ……それから30分後。

 

「なるほど、つまり俺たち二年生が修学旅行に行くから寂しかったと」

「そうなのです。……お恥ずかしいところをお見せしてしまいましたわ。ごめんなさい、イッセー君」

 

 どうやら朱乃さんは修学旅行で数日間の間、俺たちが離れることが寂しかったそうだ。

 はずかしいけど俺と離れることが嫌だったそうで、少しでも触れ合おうと思考した結果、このような行動を起こした……ってことらしい。

 

「その、イッセー君は上級悪魔になってここのところ、あまりゆっくりしていなかったもので……私が色々お世話をしてあげようと思ったのですわ」

「色々ってところは敢えて聞かないけど、でも気遣ってくれてありがとう。でも俺、結構元気だから大丈夫だよ」

「……うふふ。なんだか、そうやって敬語を使わない方がしっくりしますわ。なんだか、イッセーくんがお兄さんのように思えて―――って、兄龍帝なら当然ですわね」

 

 朱乃さんが美しい微笑みを浮かべる。

 ―――か、可愛い。

 駄目だ、さっきから言語能力が著しく情弱になってるぞ!?

 落ち着け、朱乃さんは綺麗系の美女だ。

 決して俺の求める癒し系可愛さとは別の……

 

「ん? どうしたの、イッセー君?」

「……い、いえ。そ、その……朱乃さんがいつもと違って、なんか可愛いっていうか……。普段は綺麗だな~っとか、美しいって部分が印象的だったので」

「…………。うふふ、イッセー君はやっぱりあざといですわ」

 

 朱乃さんは一度俺の膝から退いて、そして俺の隣にそっと腰かけて頭を俺の方にコトッと乗せる。

 

「そんなこというから、どんどん好きになるのですよ?」

「……ごめん、なんかその……中途半端なことして」

「良いの。だってイッセー君が真に想いを寄せているのは私ではないことくらい―――二番目でも良いって前にも言ったでしょう? あれ、本気なのですよ?」

 

 ……八方美人で、都合が良いのに誰もそれに文句を言わない。

 いずれ、俺は俺の答えを出さないといけない。

 誰も傷つけない選択肢なんて、そんなものは絶対にない。

 ……平行世界の一誠は、皆を幸せにするためにハーレム王になると豪語した。

 ―――俺にもそんなことが出来るのかな?

 そういうところは、素直にあいつが凄いと思うよ。

 ……目を瞑れば、俺の頭に浮かぶのは二人だ。

 俺は揺れている。

 胸の奥がこう、なんかムズムズするんだ。

 この気持ちが何なのかは分からない。

 

「イッセー君。あまり難しく考えないで。皆、イッセーくんのことが大好きなのですわ。だから、イッセー君は自分の気持ちに素直になって、答えを出して。誰もイッセー君の答えに文句なんて言わないから」

「ありがと、朱乃。……んじゃ、おやすみ」

 

 俺が朱乃から離れようと立ち上がった―――その時、不意に俺は服の裾を強く引っ張られた。

 朱乃の唇は俺へと近づき、そして……その唇は、俺の額にチュッという音を響かせて触れた。

 

「……答えを出すまで、私もこれで我慢しますわ」

 

 朱乃はそういうと俺の背中を押し、部屋から無理やり退出させる。

 ……ホント、今日は女難っていうかなんていうか。

 ―――ズルいよな。朱乃、俺も。

 

「……っし!」

 

 俺は気合を入れるように声を張り上げ、再度自分の部屋に向かい、そして部屋の扉を開けた。

 するとそこには―――

 

「イッセーっ!! 修学旅行なんて行ってはダメよ!!」

「……離れるのは、嫌ですっ」

「うぇぇぇぇん!! イッセー先輩が芸者さんといちゃこらしちゃうよぉぉぉ~~~!!!」

「…………」

 

 ―――俺の本日の女難は、しばらく鳴りやまないようだ。

 そんな気苦労が微妙にかかる一日なのであった。

 ―・・・

「……曹操よ。何故お前は皆殺しという手段を択ばない」

「それは以前にも説明しただろう? 皆殺しというのは些か俺の英雄の美学に反する。それが例え悪魔だろうが、堕天使だろうがね。俺は人間の英雄になる。人間の害にならないなら、無駄な殺傷は好まないんだ」

「お前は甘すぎる!! 何故お前ほどの実力とカリスマがありながら、俺のことをわかってくれない!!」

「……お前の目には、ただ野望しか映っていない。お前は自分主体なんだ。英雄には野望も大切かもしれない。だがな、お前には理念が足りない。お前はそのままだといずれ、必ず歪むぞ」

「……歪みなどせん。俺は俺を貫き通す。今まで通り、この俺は―――安倍晴明は、英雄派の長として害悪を駆逐する!!」

 

 ―――英雄()英雄()

 ―――今ここに、誇り高き英雄の子孫たちとグレモリー眷属は衝突する。

 そして……

 

 

 

「アルアディア、私は動くよ?」

『そうか。我が主よ、お前は一体どう立ち回るつもりだ?』

「私はイッセーくん(オルフェル)の味方―――そう、いつだってあのヒトだけの味方……それ以外は、どうでも……良いんだぁ~」

『……そうか、歪みの欠片も集まりつつあるか―――ふふ、終焉が徐々に近づいているよ、フェルウェル。お前も早く目覚めないと、全てが終わるぞ』

 

 ―――全ては、動き始めていた。

 


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