ハイスクールD×D ~優しいドラゴンと最高の赤龍帝~   作:マッハでゴーだ!

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こんにちは!

今回は前々から募集していた特別番外編です!

今回のお話は『h995』さんと『美麗刹那・序曲』さんのコメントを元にお話を書かせていただきました! 本当にありがとうございました!

それでは特別番外編をどうぞ!


特別番外編 チビイッセーの苦難の日々

 いつも通りだった。

 いつも通り授業を受け、いつも通り授業が終わってアーシアたちと教室を出て部室に向かい、部室にて祐斗とチェスをして、朱乃さんの紅茶を飲んで皆の相手をして……。

 でも俺はこの時、まさかこんな事態に陥るなんてことは考えていなかった。

 まさか……まさか―――

 

「ふぇ? どして体がこどもに?」

 

 ―――体が幼児化してしまうなんて、誰が考えるものかぁぁ!!!!!!

 

『Extra Episode1』チビイッセーとアイカお姉ちゃん

「いやぁ、すまんすまん! まさか部室においてた幼児化装置が勝手に起動してしまうなんてな!!」

「ふざけりゅな!! そのちぇいで、おれの体がちっちゃくなっちゃったんだぞ!?」

 

 ふざけた口調だと思われるだろうが、俺、兵藤一誠は何も悪くないんだ。

 悪いのは全てこの発明家ア☆ザ☆ゼ☆ルである。間違いない。

 この悪の発明家が発明した幼児化装置(なぜ作ったのかは定かではない)が俺付近で突然発動し、俺を対象として効果を発揮したんだよ。

 その結果が、舌が回らないほどに幼児化した俺というわけだ。

 今は制服のブレザーを体に包ませているからか、少し寒……

 

「へくちゅっ!」

「……イッセーさん。……いえ、イッセーちゃん。私が温かめてあげますね」

 

 するとこの場において唯一の女性であるアーシアが、母性溢れる表情で俺を抱きしめて来た。

 ……あ、アーシアさん? 何故に抱きしめて……

 

「ふふ、可愛い……あぁ、これが母性をくすぐるということなんですね、まどかさん―――ふふふ」

「アーチア?」

「はぅぅぅ!! 可愛過ぎですぅぅぅ!!!」

 

 舌足らずが可愛いのか、更に抱きしめてくるッ!?

 アーシアのマシュマロみたいに柔らかい胸に、顔を埋くめる……も、いつもみたいな恥ずかしさとかがない?

 え、これ精神までちょっと幼児化してないか?

 

「あ、アジャジェル!! な、なんだよ、これ!! にゃんか、こころまでこどもになってるぞ!?」

「……お、おぅ。中々に威力あるな、お前。俺を以てして、ちょっと可愛いと思っちまったじゃねぇか」

 

 アザゼルは苦笑いをしつつ、俺の頭をくしゃくしゃと撫でてきやがる!!

 この野郎!! ……あ、でも少し気持ち良い―――じゃねぇ!!

 

『ふしゃぁぁぁぁぁあああ!!!!』

 

 ど、ドライグがネコ化した!?

 アザゼルに対してなんか異常なまでに威嚇をしているのは気のせいでしょうか!?

 

『アザゼルも中々の父性の持ち主。更に主様に触れることが出来るということが羨ましいのでしょう―――ところで主様、ちょっと機械ドラゴン化して主様に触れてもよろしいですか? ふふふふふふふふふふふ』

 

 ちょ、怖いんですけどフェル!?

 

「ちょっと待ってください、イッセーくんも突然のことで混乱しています。そんな彼に対していきなり撫でまわすのは酷ではないでしょうか?」

 

 するとこの場に同席していた祐斗がそう言ってくれた。

 ……祐斗、お前ってやっぱり良い奴だよッ!!

 

「ゆーと……ありがと!!」

「……ふふ。い、良いんだよ。ぼ、僕は子供になった、く、くらいでブレナイサ。アハハハハ」

「……ゆーとおにいちゃん?」

「―――お持ち帰りするから止めてくれ、イッセー君。僕の心を!! 掻き乱さないでくれぇぇぇぇ!!!!」

 

 ふ、普段クールな祐斗が叫びながら部室から高速で去って行く!?

 そのシュールな光景を見て、俺は呆然としている……が、依然としてアーシアは俺を可愛がることを止めるはずもなく―――最悪の事態は刻一刻と近づいていた。

 俺の第六感が確実に未来予想を示しているんだ。

 あのアザゼルですら、俺を可愛がってきた。

 今はまだアーシアだけだから良い―――でも、もしこの場に全員集合したら?

 答えは一つだ。

 

「―――お、おれおうちかえるぅぅぅぅ!!!」

「だ、ダメです!! イッセーさん、もっと可愛がらせてぇぇぇ!!!」

「……あれは不味いな。ショタイッセーには男女関わらず歪ませる魅惑な力がある。あいつを知る人物が今の現状を知れば―――お持ち帰りは必然か」

 

 うるせぇぇ、アザゼル!!

 そもそも全てお前のせいなんだよぉぉぉ!!!

 ……俺はそう叫びながら、部室から飛び出していくのだった。

 幸いだったのは、身体能力は大人状態であったことだった。

 ―・・・

 とりあえず人目を気にしながら被服室に侵入し、被服部が展示している子供用の服を一時的に拝借させてもらう。服に関しては今度何かお礼をつけて丁重にお返しさせてもらおう。

 ともあれ服を手に入れた俺はこれからのことを考えた。

 俺の中の二人は今や妄想の魂と成り果てているから頼りにならず、しばらくは知り合いには会えない気がする。

 とはいえ非日常の知り合いならまだしも、松田とか元浜を頼れるはずもないか……。

 

「どうしよ……」

 

 俺は誰も通らないはずの特別棟の階段で座りながら、そう呟いた。

 この幼児化がいつまで続くかも分からないし、そもそもこれ解けるのか?

 まあアザゼルの発明だからいつかは解けると思うけど……ふむ。

 っと、まずはここから移動しよう。そろそろ誰かが通るかも―――

 

「おや? どうしてこんなところに子供が……」

「あ……」

 

 しかし時すでに遅し。

 俺の目線の上には美しい銀髪のロスヴァイセさんが、本を片手に目を丸くして俺を見ていた。

 

「僕? どうしてこんなところにいるの? もしかしてお兄ちゃんとかに会いに―――」

 

 しかし俺の顔をしっかり見た瞬間、彼女の体は止まる。

 目を見開いて、何かに驚いていた。

 

「あ、あの……その……」

「もももも、もしかして兵藤一誠君のご親族ではございませんか!?」

 

 ぴ、ピンポイントォォ!?

 まさか一発でそこを突いてくるなんて、可笑しいだろ!?

 しかもなんでロスヴァイセさんは敬語になってるの!?

 当のロスヴァイセさんはこっちの心境はいざ知らず、俺の肩を揺さぶっている。……ぶっちゃけ怖い。

 だけどここで一つ安心することは、部室から早い段階で脱出できたのは幸いであったってことだ。

 だけどここで俺が兵藤一誠だと悟られれば一発で部室に直行、しかし兵藤一誠の親族であると嘘をつけばそれはそれで部室に直行……つまり、適当且つ適切な俺と関係があり無関係な存在の援助がいる。

 ならもう一つの強硬手段が―――

 

「しゅとう!!」

「はぅ!!」

 

 ……瞬時に俺はロスヴァイセさんの背後に回り、その首筋に手刀を喰らわせて失神させた。

 ……あとで謝ることは確定だけど、とにかく今は移動しよう。

 本当に体は動いて良かったとしぶしぶと思いながら、さながらスパイのようにコソコソと辺りを気にして歩く。

 全ての責任はアザゼルにあるものの、こんな機会は中々ない故か、俺は少しワクワクしていた。

 精神的に一部幼児化しているというのはあながち間違いじゃないかもな。

 

「おーい、イッセー。いるなら返事しろー」

「イッセくーん! 早く出て来ないと後が怖いのよー?」

 

 すると廊下の向こうから聞こえてくるゼノヴィアとイリナの声が廊下に響く。

 ……もしかしなくても、俺を探してるさんだろなー。

 部室に行って現在の状況を聞いたのだろう。

 

「ふむ、ちっちゃいイッセーが見れると聞いていたが、これは中々に……」

「そんな簡単に諦めていた事案じゃないのよ、ゼノヴィア!? 小さなイッセーくん、通称ショタイッセーくんは本当に可愛いの!! この世に舞い降りた本当の天使と言っても差し支えないわ!!」

「い、イリナ? 紛いなりにも天使である君がそんなことを言ってもいいものなのか……?」

「―――紛いもなにも、天使よわたしは!! でも今はそんなことどうでも良いの! あの愛くるしい天使をもう一度拝めるなら、私は堕天への狭間に陥ることも厭わないわ!」

「あ、ああ。本当にすごいのは、そこまでの劣情なのに堕天しかけてもいないという純粋な不純だが……。イリナを以ってそこまで言わせるなら私も興味があるな」

 

 …………ふぇぇ。なんか心まで幼児になりそうだ。

 ともかくあいつから見つかるわけにはいかない! 背後にドライグとフェルがいる時点で終了な気がするけども!

 そっとだ、そっと……

 

「およ~? なんたってこんなところに子供が……」

「え……?」

 

 ゼノヴィアとイリナの声に気を取られ過ぎて、近づいていた存在に目を向けていなかった。

 俺の頭上の上には同じクラスメイトの桐生藍華がいて、桐生は子供の俺の背丈に合わせるように身を屈ませていた。

 ……まずい。

 これは本当にまずい。

 桐生は悪魔の俺たちには無関係の一般人であるが、イリナやゼノヴィアの友達だ。

 ここで長居したら、絶対に大声で話している二人の前に俺を連れていく。

 そうなれば―――

 

「お、お姉ちゃん! ぼ、僕お兄ちゃんを探してるの!!」

「お、お姉ちゃん? あ、そっか。名前も分からないなら仕方ないよね。私は桐生藍華ね? 君のお名前はなんてうのかな~?」

 

 すると意外と桐生は優しげな声音でそう尋ねて来た。なんていうか、この反応は予想がというか……

 

「……い、イチ」

「なるほど、イチ君か。イチ君のお兄さんは誰なのかな?」

 

 咄嗟に俺は自身のことを『イチ』と名乗り、桐生は俺の頭を撫でる。こいつ、実は兄弟でもいるのか?

 ともかく今はやり過ごすしかない!

 

「い、イッチェーおにいちゃん!!」

「イッチェー? ……ああ、兵藤のことかしら? でもあいつにこんな可愛い弟がいるなんて聞いてないし……親戚かしら?」

「そ、そうなの!」

「ふむふむ。それなら安心しなさい! お姉さんが今からあいつと仲良い子たちのところに連れて行って……」

「あ、アイカお姉ちゃんと一緒にいたい!!」

 

 桐生が最悪の事態に事を運ぼうとした瞬間、俺は咄嗟に桐生の手を引いてそう言った。

 桐生は目を丸くして、キョトンとした表情で俺を見ていた。

 

「大丈夫よ? 皆良い子だし……」

「で、でも……おにいちゃんをいつもとりあいしてるし……」

「……あぁ、もう可愛いね! このこの~♪」

 

 とりあえず皆の前に連れていかれないように適当に言い訳をすると、桐生は何か可愛いものを見たように俺を可愛がりはじめた。

 

「なるほど、おにいちゃん大好きなイチ君は皆に嫉妬してるんだ~。うんうん、大好きなお兄ちゃん取られたら怒っちゃうよね~」

「……うん」

 

 ものすごく良い感じの解釈をしてくれた桐生に若干感謝しつつ、嘘をついていることに対する罪悪感が芽生える。

 桐生が物凄い子供に優しい良いお姉ちゃん体質とか、意外以外の何物でもないんだよな。

 でも新しい一面を見れて、少し見直したというか……。

 

「んじゃお姉ちゃんと遊ぼっか! お姉ちゃんね、兵藤のお友達だから後で連絡しといてあげるから♪」

 

 ……確かに、願ったり叶ったりではある。

 今の感じを見る限りでは桐生は子供に対しては優しく、良いお姉さん気質であることは間違いないし、皆が落ち着くまで逃げるには丁度良い。

 それに良い感じに勘違いしてくれているから、他の皆に気付かれそうになったら隠してくれるだろう。

 

「うん! アイカお姉ちゃん、あそぼ!!」

「オッケ~♪ じゃあ街に繰り出すぞー!」

 

 ……昔、ずっと子供の振りをしていたのが癖になっているのか、自分でも驚くぐらい子供に成り切っている俺であった。

 ―・・・

「う~ん、こっちも可愛いんだけど、でもねぇ~。いや、カッコいい路線もありかな?」

「あ、アイカお姉ちゃん?」

 

 現在、駒王学園近くのショッピングモールの幼児服コーナーに来ている俺たちなんだけど、ものの見事に俺は着せ替え人形をさせられてた。

 桐生はとにかく面倒見が良い。

 それはアーシアやゼノヴィア、イリナなどといった転校生に親身に接していたから知ってはいたが、まさかその範囲が子どもにまで伸びているのにかなり驚いている。

 ……将来結婚したら、良いお母さんになりそうだな。

 普段下ネタ連発の下品な野郎と思っていたけど、中々に女の子らしい面を垣間見た。

 

「ごめんね~。私、兄妹いないからさ? 昔からこういうの憧れてたんだよね♪ 後でアイス奢ってあげるから付き合ってね~」

「うん、それはいいんだけど……。お、女の子のかっこするのは、はずかしいよ!」

 

 ―――ホント、それさえなければ完璧だったのに!!

 

「大丈夫、大丈夫♪ イチ君は傍から見たら女の子にも見えるから♪ フリフリとかゴスロリとか着せたいよね~」

「だいじょぶだから! お、男の子のかっこがしたいの!!」

「……ふむ。ボーイッシュが良いと」

「―――それちがうの!!」

 

 超解釈をする桐生に、舌足らずながらもツッコミを入れてしまう。

 ボーイッシュっていっても結局は女の子の服装だから!

 

「あはは! やっぱ兵藤の親戚だからか、からかい甲斐があるねぇ~。良く見ればルックスとか髪型も兵藤にそっくりだし」

「だ、だって……」

「うんうん、みなまでいわなくても憧れるんだよねぇ~♪」

 

 ……まあ実は本人なんですよね。

 桐生にそう言えるはずもないし、そもそも言っても信じてくれないだろうけど!

 

「でも今のイチ君は私の弟だから、あいつにばっか好き好き言ってるのは悔しいね~。ね、もう一回お姉ちゃんって言ってごらん?」

「……アイカお姉ちゃん?」

「うんうん、よくできました♪」

 

 すると桐生は嬉しそうに俺の頭を撫でまわしてくる。

 ……まさか桐生とどっかに出掛けるなんて事態になるとは思っていなかったけど、新鮮でこれはこれで楽しいかもしれないな。

 

「って言っても、いつまでも同じ店に居てもしょうがないか。じゃあ次のお店に向かおっか?」

 

 桐生は俺の手を引き、満足そうな表情を浮かばせながら移動していくのだった。

 ……ずっと一人っ子だったから良くは分からないけど、姉ってこんな存在なのかな?

 ―・・・

「も、もうあるけない……」

「ごめんね? ちょっと連れまわし過ぎたかな? 向こうでアイス買ってくるからここで待っててね!」

 

 あらかたの店を回り切った俺たちは、アイス店があるフードコートに来ていた。

 身体能力は余り変化していなくても体力ばかりは無理があったのか、俺はフードコートに設置されているベンチに座って項垂れる。

 桐生はまだまだ元気というように軽いフットワークでアイスを買いに行き、俺はベンチでゆっくりすることにした。

 

「はぁ~……ちかれた……」

『ふむ、俺もようやく冷静さを取り戻せたよ、相棒』

 

 するとしばらくの間、黙りこくっていたドライグが俺に話しかけて来た。

 どうやらフェルはまだ俺の中で興奮が冷めぬようだが、思ったよりドライグの復帰が早かったな。

 

『ああ。俺はそもそも昔の相棒をずっと見て来たからな。昔に戻ったと言う感慨はあったが、感動は薄かったのだよ―――むしろ歴代の奴らを止めるのが大変であった』

「……もちかちて、ぼうそーしてるの? せんぱいたち」

『ああ、それはもう狂乱しているさ―――本当に困った連中だ。あれが歴代の相棒たちと考えたくもない』

 

 ドライグは本当に疲れた声でそう話す。

 ……俺のことをお兄様と豪語し、俺への忠誠を誓ったらしい俺の中の歴代の赤龍帝の先輩たち。

 怨念の時代も厄介だったけど、ここに来て更に厄介になるとは思いもしなかったんだよな。

 

『まあ奴らは当分狂乱しているだろうから、神器に潜ることはしばらくは避けた方が良い―――それよりも可笑しな状況になっているな』

「……うん」

 

 ドライグは俺の現状を垣間見てか、こちらを心配しているようだった。

 

『まあ相棒の仲間たちがいた方が厄介なのは間違いないがな。……っと、そろそろ俺もあいつらを再度止めに行くとしようか』

 

 ……お願いします、ドライグさん。

 

『なに、心配ないさ―――それに奴らの覚醒は何も悪い事ばかりではないからな』

「……え? なにを言ってリゅの?」

『まあ近いうちに分かるさ。ただ一つ……俺たちの赤龍帝の力はまだまだ終わり知らずということだ。答えは守護覇龍だけではない』

 

 ドライグが何やら意味深なことを呟きながら、神器の奥へと潜っていく。

 ……近いうちに分かる、か。まあ他の誰でもない相棒のいうことなら信じる他ないな。

 そうしているとアイスを買い終えた桐生がこっちに向かって歩いてきた。

 

「イチ君、お待たせ! はい、これ!」

「ありがと、アイカおねえちゃん」

 

 俺は桐生からアイスを受け取り、桐生は俺の隣に一切の距離を取らずに座る。

 普段男子に対して絶妙な距離がある桐生としては珍しい距離感だな。

 

「うん、美味しいねぇ~」

「うん!」

 

 ……どうやら感情とは別に、勝手に子供のように振る舞っている。

 あれか、体と心は繋がっているというのかな? 体に伴って、心も若干だけど子供になっていうようだし……。

 

「……それにしても、本当に兵藤にそっくりよね。イチ君は」

「そうなの?」

「うん。なぁ~んか、兵藤をそのまま小さくしたみたいな感じかな?」

 

 ……一瞬ドキッとする。桐生って偶に妙に鋭いところがあるんだよな。

 そういうところはこいつの美徳であり、長所であると思う。人のことをしっかりと見ているから誰かのために行動出来ているんだろうし、空気を読めるんだろう。

 

「……アイカお姉ちゃんは、お兄ちゃんのことどうおもってるの?」

 

 ……少しズルいと思うけど、俺は桐生にそう尋ねてしまった。

 ―――俺からすれば、桐生藍華って女の子は馴染みやすい奴だった。

 初対面からすごく馴れ馴れしくて、女の子なのに下ネタをバンバン吐いてくるし、その割には何かと世話を焼いてきた。

 幼馴染の松田と元浜以外に友達は誰だって言われると、俺が真っ先に答えるのは桐生かもしれない。

 悪友……みたいなものだろう。

 

「ん~、そだね~……私にとってのあいつは、なんかほっとけない奴……かな?」

「……」

 

 すると桐生は少し真面目な顔をして、じっと遠くの方を見た。

 俺は桐生の顔を見上げるように見て、話を聞く。

 

「ちょっと前の兵藤はね、誰に対しても壁を敷いていたんだ。本当に絶妙な感じ。近すぎもなく、遠すぎてもなくて……何か誰かとの深い繋がりを拒んでいるみたいだったんだ~。……なんか見ていてさ。そんな奴を解いてあげたい、なぁんて考えてみたんだよね」

 

 桐生は苦笑いをして恥ずかしそうにそう話す。

 

「あいつの前に隔たっていた壁って結構硬いものだったんだよね。こっちから普通に話しかけたら、特別な反応をするわけでもなくマニュアル通りの当たり障りもない返答をして……。あいつが本当の自分を見せているのは松田と元浜くらいだった」

 

 ……桐生が俺をここまで見てくれていたことに驚いていた。

 確かに昔の俺は、誰かとの深い関わりを避けていた。

 何かを失うことを恐れていたから、無意識に自分から関わりに行こうとしなかったんだ。

 それでも……それでも桐生はそんなことお構いなしに話しかけて来た。

 ノリ的には松田や元浜と同じだったのからか、それとも桐生の雰囲気に心を許していたのか、俺は桐生とは普通に接していた気がする。

 

「……でも今のあいつは変わった。あいつの前に隔たっていた壁ってものはいつの間にか無くなっていたんだよね―――アーシアちゃんが転校してきて、他の人たちがたくさんあいつの周りにいて、あいつは変わった。だから私のしていたことは本当は必要なかったと思うんだ」

 

 ……桐生は少し寂しそうな表情で、俺を見てそんなことを言ってくる。

 でもすぐに頭を左右に振って、ちょっと前までの笑顔を浮かべた。

 

「ごめんね、なんか意味分からないことを言っちゃって! アイス溶けちゃ―――」

「―――そんなこと、ないとおもう」

 

 ……でも言わなくちゃ。

 

「きっと、イッチェーお兄ちゃんにとって、アイカお姉ちゃんはたいせつだって、おもってる」

「…………」

「……だってアイカお姉ちゃんはやさしいもん。だから、きっとおにいちゃんは―――アイカお姉ちゃんのことを、大好きっておもってるよ?」

 

 俺は桐生の何気なさに救われていた。それは嘘ではなく、間違いない。

 ……好きの意味はたくさんあると思う。

 それでも俺は胸を張って、桐生に親愛に近い好きを抱いている。

 ……すると桐生は俺の頭を撫でて、優しげな表情を浮かべていた。

 

「ありがと、イチ君。お姉ちゃん、イチ君みたいな子が大好きだよ」

「…………うん」

 

 ……少し、はずかしい。

 それに桐生とここまで関わったのは初めてだ。

 ―――体が戻ったら、桐生とまたいつも通り話そう。

 こいつは悪戯だし、下ネタを連呼する羞恥心もないけど……。それでも胸を張って言える『友達』だから。

 

「アイカお姉ちゃん、そっちのアイスもちょっとちょーだ―――」

 

 俺が桐生にそう言おうとした瞬間だった。

 

「うぉぉぉらぁぁぁぁぁあああ!!!!! 死にたくなかったら、そこを動くなぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」

 

 ……突如、野太い男のそのような声が響いた。

 その瞬間、フードコート内に響き渡る二発三発の銃声。

 ―――まさかこれって……

 

「う、っそ。あいつって、もしかして……指名手配中の砂蔵癌(すなぐらがん)!?」

 

 ……桐生が先ほどの銃声に怯えたような表情になりながら、震える手で俺の手を握ってくる。

 ―――俺はじっと先ほど拳銃を上に向けた撃った男を見た。

 前にニュースを見たことがある。……とある一家全員を銃で皆殺しにして、犯罪を重ね続けている指名手配中の犯罪者だ。

 なんでこんなところに……いや、待て。

 ―――あいつは、こっちを見ている……ッ!?

 

「お、こんなところに人質に最適な餓鬼がいるじゃねぇか―――おい、そこの女。その餓鬼をこっちによこしな」

 

 ……すると男は拳銃をこっちに向けながら、俺たちの方に歩いてくる。

 途端に桐生の俺の手を強く握った。

 

「だ、誰がイチ君を渡すもんか!!」

「……これはお願いじゃねぇぞ? ほら、早く渡せ」

 

 桐生は拳銃の銃口を向けられて、体をびくびくと震えさせながらも俺を強く抱きしめた。

 ……どうする?

 今、ここで力を使ったらこんな男は数秒と待たずに昏倒させることは容易い。

 でも……流れ弾が桐生に当たってしまうかもしれない。

 ここまでの人間の前で魔力を使ってしまえば、その瘴気に当てられて影響を受ける人間がどれだけいるかも計り知れない……ッ!

 

「い、いやッ!! この子は私の友達から預かってる、大切な子なの!! だから絶対に、―――渡さないんだから!!!」

 

 ……迷う必要なんて、ない。

 ここで桐生を傷つけたら、俺は一生後悔する。

 例え恐れられようとも、それでも俺は桐生を護らないといけない。

 それが―――今、護られていることに対する恩返しだ。

 

「じゃあ死ねよ。今更一人殺したところで、俺は何とも思わねぇよ」

 

 男は引き金を引く。

 桐生は俺を庇うように抱きしめて、男から背を向けた。

 ……俺の目と男の目が合う。

 

「―――ッッッッッ!!!?」

 

 ……男が俺の目を見て、表情を失う。

 ―――悪魔は、人間からしたら恐怖の存在でしかない。

 俺たちの世界では悪魔は比較的平和だけど、それでも人間からしたら恐ろしいものだろう。

 ……俺は何度も血を見て来た。

 死線を繰り広げた経験は、子供になろうと変わらない。

 だから殺気と共に視線を合わせるだけで、ただの人間では萎縮して動けなくなる。

 

「…………」

「な、なんだ? なんで、こんな餓鬼に俺が……ッ」

 

 男は無意識に殺気に当てられ、手が震える。

 ……後は簡単だ。

 いつも通り、手の平に魔力を込めて一発殴るだけで良い。

 俺は桐生の抱擁を振りほどこうと力を入れた―――けど、桐生はなお力を込めた。

 

「絶対、護るから……ッッッ!!」

「あ、アイカお姉ちゃん!! はやくはなして!!」

 

 桐生、どうしてお前は!

 ―――いや、桐生のやさしさは知っている。

 その優しさは本物で、例え怖くても今の行動を起こしているんだ。

 ……でも、それで自分が傷ついてちゃダメに決まってるだろ!?

 

「うわぁぁぁぁああああ!!!!!」

 

 男は絶叫しながら引き金を引いた。

 俺は咄嗟に手の平を銃口に向けて、魔力を展開しようとした―――

 

 

「―――だぁぁぁれの弟に手を出してると思ってる、この糞男ォォォォォォォ!!!!!!!?」

 

 ―――その時であった。

 まるで風のような速さで男の背後に女性らしきシルエットが現れ、一回転というダイナミックな動きをしながら、流れるような動作で男の首筋に回し蹴りを繰り出した。

 男はその圧倒的な蹴りに対して一切の防御も出来ず、察することも出来ずに地面に叩きつけられ、地面に体を何回もバウンドさせて、最後は空席だったベンチに叩いつけられた。

 白目を完全に向いており、腕が変な方向に曲がっている。

 ……俺はふと、その蹴りを繰り出した人物を見た。

 ―――腰まで伸びた煌びやかな黒髪に、パンツスーツ姿の美女の姿をしている女性。

 ……ティアが、激怒というべき表情を浮かべ、そこに立っていた。

 

「アザゼルから一誠が小さくなったと聞いて飛んで来てみれば、私の可愛い弟に手を出そうとは―――万死に値する」

「ち、チア?」

 

 ティアは手をパンパンと払い、俺たちに近づいてくる。

 その瞬間店内に大歓声が起きて、男を拘束しようと複数人の人たちが倒れている男の方へと向かった。

 

「ん、なんだ? 随分と騒がしいようだが―――まあ良い。それにしても」

 

 ティアは俺と同じ目線に立ち、俺を護るように抱きしめてる桐生を見た。

 その目は優しげで、どこか関心しているようだった。

 

「死を目の前にして、誰かを庇えるとは人間にしては見込みがある―――気絶していても、一誠を離さなかったことを称賛しよう」

「……?」

 

 俺はそこでようやく気付いた―――桐生は、気絶したまま俺を抱きしめていた。

 片時も離さないように。

 

「……ありがと、きりゅう」

 

 俺は先ほどとは逆に桐生の頭を軽く撫でる。

 次第にフードコート内に警察が入ってきて、あの男は逮捕されるのを確認すると、ティアは俺と桐生を背負ってそそくさと離れる。

 

「……チアは、ぼーそーしないのか?」

「ん? そんなもの、とっくの昔に暴走しまくったに決まっているだろう? 一周回って冷静になったんだ!」

 

 ……まあそんなことだろうと思ったけどさ。

 ―――最中、俺はティアに背負われる桐生を見た。

 その表情は先ほどまでの恐怖と使命に駆られた険しいものではなく、心から穏やかなようにも見えたのだった。

 桐生との触れ合いは新鮮で、でもどこかいつも何気なしに絡んでいるような触れ合いだった。

 ……体が戻ったら、少しは優しくしようと、そんな風に思わずにはいられなかった。

 ―・・・

『Extra Episode 2』 チビイッセーとチビドラゴンズの大冒険

 

 今日も今日とて幼児である俺こと兵藤一誠は、凄まじいストレスに悩まされていた。

 桐生に関してはあの時の事件のショックが大きかったのか、前後の恐怖体験は忘れているそうで、ティア曰くアフターケアは出来ているらしい。

 ……話は脱線したけど、その俺のストレスに関してだ。

 もちろんいつまでも帰らないわけもいかず、俺はティアに連れられて兵藤家に帰り、そして―――地獄を見た。

 ……何も言葉を発さずに写真をおもむろに取り続ける母さん、無性に構ってくる眷属の皆さん、やたらとベタベタしてくるオーフィス。

 全く以って俺には自由の時間なんてものは存在せず、我慢に我慢を続けた俺は

 

「もういや! こんないえ、でていく!!」

 

 ―――限界を迎えてしまったのだった。

 ―・・・

「で、私のところに来たってことか」

「うん」

 

 家を飛び出し、俺が真っ先に向かったのはドラゴンファミリーの自称姉担当であるティアマットことティアのところだった。

 ティアは珍しくも幼児化前と変わらずに俺に接してくれているんだよな。

 俺は以前に教えてもらったティアの隠れ家にお邪魔しており、着替えも全ての背中のリュックに入れているから、しばらくは籠城するつもりだ。

 

「全く、困った奴らだな。姿形は変わろうとも一誠は一誠というものを……。ふふふ。安心しろ! お姉ちゃんドラゴンが責任をもってお前を保護する!」

「チア……っ!」

 

 ティアの姉御肌に目頭が熱くなるが、ティアはそれを見越したように俺を抱き寄せる。

 ……ど、どうしてしまったんだ、ティア!?

 ティアがこんなにも頼りになって、尚且つこんなにも包容力があるなんて!!

 

「……とても失礼なことを考えていないか?」

「か、かんがえてないよ!」

 

 ティアが妙に鋭くそう指摘して、思わずそう言い訳をする。

 ……ふむ、そういえばこの体になって一日ほど経つな。

 アザゼル曰くいつ治るかわからないらしく、解決方法すらも分かっていない。

 割と深刻な問題なんだけどなー。

 ……っと、その時だった。

 

「ティアねぇー! いまかえったぞー!」

「フィーは一人でさきばしりすぎ! いきなりワイバーンに石をあてちゃだめなの!」

「……そういってメルもたのしそうだった」

 

 どうやら隠れ家にチビドラゴンズが帰ってきたみたいだった。

 といいつつ今の俺も小さいんだけどな。

 三人は小走りで室内に入って来て、そしてティアに抱きつこうとした。

 ……その直前に小さくなった俺と目があった。

 

「……だれだー?」

「なんだか、ものすごく誰かにそっくり!」

「……すんすん。これは、にぃにとおなじかおり」

 

 ティアのところに行こうとしていた三人は俺に興味を持ったのか、俺にすり寄って来て三者三様の反応をとっていた。

 フィーは何故か頭をくしゃくしゃとしてきて、メルは俺の頬に両手で触れ、ヒカリは匂いを嗅いでくる。

 その光景を見てティアは何故か慈愛に満ちた表情をしているが……

 

「そーだな。おれはじつは―――」

「こいつはイチって名前で、なんと一誠の従兄弟なんだ」

 

 ―――俺が真実を語ろうとしたとき、突如ティアがそんなことをチビドラゴンズに言い放った。

 ……は? いやいやティアさん!

 ここは嘘を付く理由はないだろ!?

 

「すまん、一誠。こいつらはお前を至高の兄のように慕っているんだ。だから、その理想をあまり崩したくないんだ」

 

 するとティアは俺に突如耳打ちをしてくる。

 ……そういうのは本当にズルいと思う。俺がチビドラゴンズを掛け合いに出されたら、協力せざる負えないっていうのをティアだって理解しているはずなのにな。

 

「……よろしく、さんにんとも!」

「おう、よろしくな! フィーはフィーっていうんだ! にぃちゃんにつけてもらったんだぞ!」

「メル! よろしくね、イチくん!」

「……ヒーはヒカリ。イチくん、むこうであそぼ?」

 

 するとチビドラゴンズは普段俺に対する態度とほぼ同じで、それぞれの個性をふんだんに見せてくる。

 なんていうか、ホントこの三人は良いチームっていうか、妹たちっていうか。

 ある意味で新鮮な時間を俺は三人と過ごした―――

 

「あ、こらメル! イチはフィーとサッカーをするんだぞ!?」

「ちがうもん! メルとおふろに入るの!」

「……おままごと、しよ?」

 

 ―――なんて平和的な解決に至るわけもなく、相変わらず口論が始まっていた。

 普段三人とも本当の姉妹のように仲が良いけど、ひとたび意見が合わなければいつも喧嘩しているのはフィーとメル。

 そしてその二人から隠れて漁夫の利を得ようとするのがヒカリだ。

 ともかくなんか腕やら服やらを引っ張られて、遊ぼうにも遊べない!

 

「おいチビ共。あんまりこいつを困らせるなよ?」

「「「えー」」」

 

 露骨に嫌そうな顔をするチビドラゴンズの面々。

 しかしティアはそんなことを意に介さないように、ニヤリと笑って次にこう宣言した。

 

「―――なに、今からもっと刺激的なところに連れて行ってやる」

 

 ……もう、嫌な予感しかしなかったのだった。

 ―・・・

 上空一万メートルの空を、巨大なドラゴンが空を切るように飛んでいた。

 ―――ティアの宣言から数分も経っていないのにも関わらず、俺たちは向かっていた。

 ……京都に。

 

「チア。どうしてきょーとなの?」

「ン? ああ、夜刀に会うためさ」

 

 ティアはそんなことを言う。

 ……そういえば夜刀さんは、今は亡き三善龍最後の一角である盟友が封じ込められた神器が京都にあると聞いて、今は京都にいるんだったな。

 

「夜刀は仙術の達人だ。それ以外にも薬などにも長けていてな……。今のお前の現状もどうにか出来るかもしれない」

「……チアって、優しいんだね」

「―――私だって、物凄く愛でたいのをひたすらに我慢しているということを忘れるなよ?」

 

 巨体が突如、ぶるっと震えるのを俺は見逃さなかった。

 ……俺とチビドラゴンズを乗せたティアは超高速で移動するも、俺は地味に魔力壁を展開して風を凌ぐ。

 体は小さくなっても体と力は健在なのはやっぱり便利だ。

 ……それから約30分が経過。

 

「……ふむ、偶にはお前たちにも冒険を楽しんでもらうか」

 

 ―――ティアのそんなわけのわからない理屈のせいで、俺たちはどこかも分からない京都の町に置き去りにされていた。

 ―・・・

「もう! あのバカチアが!」

 

 舌が回らないが、ティアに対する文句が募る!

 何でわざわざ俺たちを置いていくのかな!?

 

「イチ、おちつけよ! な~に、このフィーがいれば大丈夫だ!」

「おかねもいっぱいもらってるからね♪」

「……きょうとかんこうへ、ゴー」

 

 ……まあ意外に楽観的で肝っ玉が備わっている二人は置いておくとして、まあ今はあのバカに文句を垂れていても仕方がないな。

 それによく考えれば京都は俺の今年の修学旅行先でもあるからな。

 連絡手段はちゃんとあるし、今はこの状況を楽しむしかないか!

 

「みんな、いくぞ!」

「「「うん!!」」」

 

 ……ともあれ、俺のチビドラゴンズとの大冒険が始まった。

 始まった……だが―――速攻で問題が発生した。

 

『ふぇふぇふぇふぇ……悪い子はおらんがぁぁぁ!?』

「……えー」

 

 全く以てあれなんだが、少し森に入った瞬間に何故か妖怪に遭遇した。

 しかもあの妖怪、確実に京都にいるはずのない妖怪なんですけど!?

 あれか? 子供を脅かすのが仕事なのか?

 まあ普通の子供であれば恐れおののくことは間違いないだろうが……

 

「ん? なんだ、おまえ!」

「イチくんにふれないで!」

「……せんめつ」

 

 ……相手が悪かったな、妖怪さん。

 成長が著しいチビドラゴンズを前にして、妖怪さんは火を吐かれ、光速で翻弄され、雷撃で沈んでしまった。

 見事な連携により哀れな妖怪さんを退けた俺たちは、森の中へと更に侵入していく。

 

「ふむ、もしかしたらおれたちはようかいの森にはいったのかな?」

「だいじょうぶだぞ、イチ! フィーはものすごくつよいから、イチをまもってやる!!」

「メルだってつよいんだから! むふふ~♪」

「……ヒーははやいもん」

 

 妖怪の森に紛れ込んでしまったというのに、三人は凄くくっ付いてきて離れない。

 三人からしたら同世代?の存在は新鮮なのかもしれないな。

 しかも俺の従兄弟って認識しているからか、その傾向は強いのかもしれない。

 ……お兄ちゃん的には、本当の同世代の他の友達をいっぱい作って貰いたいものだけど。

 

『ぬぉぉぉぉぉ……今からお前を、たべちゃうぞぉぉぉぉぉ?』

 

 すると次に現れるのは―――

 

「フィーブレス!!」

 

 ……木の妖怪、だったものだな。うん。

 

『俺の頭の皿で、スライディングしよ―――』

「メルサンダー!!!」

『うふふふっふ、可愛いおチビちゃ―――』

「……ヒータックル」

 

 ……現れる数々の妖怪を、最後まで台詞を言わせることなく瞬殺していくチビドラゴンズ。

 なんか、妖怪さんが不憫に思えてきて、燃え盛っている木には水の神器で消化を、割れた河童の皿は接着剤で修復、なんか蛇の頭みたいな妖怪さんは頭を撫でてあげた。

 その結果―――

 

「なに、これ……」

 

 ―――いつの間にか、俺たちの配下の如く妖怪さん達が百鬼夜行のように行列を作っていた。

 え、なにこれ!?

 

『傷ついた俺たちを、優しく介抱してくれるッ! 悪いことをしたのは俺たちなのに、何て優しい子供なんだ!!』

 

 ……あ、自覚はあったんだ。妖怪さんも仕事だからって色々大変なんだな~。

 そんなことは置いておくとして、さて。

 この状況をどうしたものか、考えものだな。

 

「あ、イチくん! よつばのクローバーだよ?」

「うん、きれいだね。って、つちがついてるよ?」

 

 森を歩いているからか、服に土がついているのを払ってあげる。

 なんだかんだで普段みたいに面倒を見てしまう癖がついてしまっているのか、なにかとお節介を焼いてしまうんだよな。

 ……っと、何故かメルが顔を真っ赤にしていた。

 

「あ、あれれ? なんか、かおがあついな~」

「だ、だいじょうぶ?」

「う、うん! イチくんにくっついてればへいき!!」

 

 すると俺の腕を絡めるように抱きしめてくるメル。

 ……照れているところなんて、初めて見たな。

 さて、現状終わりが見えないこの大冒険だ。まあ楽しいといえば楽しいから別に良いんだけど、目的がなければやはりやる気というものは起きない。

 冒険の目的といえば、それはもちろんラスボスの存在なんだ。

 でもまあ、そんなのが都合良く現れるわけないよな!

 

『……ここから、立ち去れ』

 

 ……そう、思っていたのも束の間だった。

 俺たちの目の前に、異様な雰囲気を身に纏うボロボロの鎧を身に付ける、武士が現れる。

 身体中に矢が突き刺さっており、手には血濡れの刀―――落ち武者だ。

 その存在が目の前に現れ、今まで俺たちの中に流れていたお気楽なムードは変わる。

 ……強い。この落ち武者は間違いなく強い。

 それこそ上級悪魔とやりあえるほどに。

 ―――少なくとも、まだ幼いチビドラゴンズには荷が重い。

 

「な、なんだおまえ!」

「フィー! メルと合わせて!」

 

 すると少し怯えるフィーに果敢にも声をかけるメル。

 あの落ち武者の実力を理解してか、メルは口元に雷撃を迸らせる。

 それを見たフィーも口元に火炎を含ませ、そしてほぼ同時に落ち武者へと放った。

 

『……聞かぬならば、切り伏せるのみ』

 

 しかし落ち武者はその雷撃と炎撃に対して刀を縦に振るい、切り裂く。

 それを間近で見せつけられたフィーとメルは、理性的にも落ち武者の力を理解した。

 ……ったく、妹分が頑張ってるのに俺は何してんだよ。

 俺は俺たちの前にゆっくり歩いてきている落ち武者へと駆け出し、身体を投げたし気味な大勢で敵へと殴りかかる。

 振りかぶり、振り抜いた拳は落ち武者の腹部を貫き、少し後方に吹き飛ぶ。

 しかし倒れるまでには至らず、しかし血で染まった悍ましい目は俺を捉えていた。

 

『ほう……。今の身のこなし、子供だと油断していたが、獅子の類であったか』

「うるちゃい。こどもでも、そんなのかんけいにゃい!」

 

 多少舌足らずで締まらないが、そんなの関係ない!

 俺の妹分に手を出そうものなら、俺はそんな奴をぶっ潰す!

 いくぞドライグ、フェル!

 

『『…………』』

 

 ……ん? なんでか分からないが、ドライグとフェルから応答がない。

 それに何より、神器が動かないんだけど!?

 

『……小さな相棒、戦うの、ダメ』

『傷ついてしまう、ダメ』

 

 ―――こんなときになに言ってんだバカヤロー!!!!

 ほんとお前らバカ! 親バカにも程があるだろ!?

 

「ムトウ!!」

 

 俺は子供サイズだと少し大きな刀身のない刀、無刀を取り出して魔力を通わせる。

 性質はできる限りダメージを与えるために断罪の刃……、殺傷力をできる限り極めた刃にする。

 

『……む。それはまさか閃龍の逸品か?』

 

 すると落ち武者は俺の刀を見て関心するような態度を見せる。

 もしかすると夜刀さんを知っているのか?

 聞く話によると、特に日本において夜刀さんの名は有名だそうだからな。

 ……しかし困った。

 現状、親バカドラゴンたちが使い物にならないから、この刀と魔力と、何よりこの身体であいつを倒さないといけない。

 身体能力は変わらないとはいえ、普段と勝手の違うこの身体で奴を相手取るのは危険すぎる―――

 

「……イチくんひとりに、たたかわせない」

 

 ……すると、今まで現場を静かにしていたヒカリが俺の手を握り、隣に立つ。

 彼女の周りには黄色い龍円陣が展開されており、ヒカリの身体は黄色く輝く。

 そして……

 

「……だから、私が君を守る」

 

 ……身体が少女の状態となる。

 身体を強制的に成長させる龍円陣。あれは現状においてヒカリのみが長時間展開が可能な技らしい。

 身体の大きくなったヒカリは少し手は震えているものの、先ほどとは別物の力を迸らせる。

 

「「ヒー……」」

 

 フィーとメルも、ヒカリの名を呼んで俺の手を引いた。

 ……チビドラゴンズの中での最強は、恐らくヒカリだ。

 それは力とか云々を差し置いて―――才能が、性質が他二人を現状飛び抜いている。

 

「……っ!」

 

 ヒカリはその瞬間、その場から消える。

 速度において飛び抜けている光速龍のヒカリは速度で敵を翻弄し、更に見つけた隙からブレスを放つ。

 それをただ繰り返し、確実なダメージを与える……、それがヒカリの戦い方。

 確かにフィーやメルのような派手さはないのかもしれない。

 だけどそれを補うほどの特殊性がヒカリだ。

 

『ほう。身体を強制的に成長させ、俺では捉えられない速度で動くことを可能にしたか―――しかし若い』

 

 落ち武者は刀を両手で持ち、そして少しの静寂の後に恐ろしい速度で一閃。

 辺りに激しい風が巻き起こり、それによりヒカリは減速してしまう。

 ……衝撃波による減速が狙いか!?

 

「……ッ!?」

『我が刀は風の剣。幾ら速かろうと、風が動きの邪魔をする―――さあ、王手だ』

 

 落ち武者は瞬間的に光に近づき、そして刀を居合いをするように構える。

 ……やらせるか!!

 俺は自身の中に流れる魔力を急速に循環させ、全てを身体強化に回す。

 それにより身体能力はオーバーフローを起こし、俺自身の全機能が急激に上昇する。

 ―――オーバーヒートモード。それを始動させて瞬時にヒカリと落ち武者の間に入り込んだ。

 

『ッ!?』

「……やらせないもん!」

 

 瞬間に現れた俺に対して落ち武者は反応が遅れ、その隙を突いて俺は無刀を振るう。

 しかし落ち武者の反応も早く、横腹の鎧を掠めただけで大ダメージには至らなかった。

 でも追撃の一手は繰り返し放ち続ける。

 刀での剣戟戦は初めてだけど、これならやれる。

 ひとしきりに剣戟を繰り返した最中、落ち武者は距離を取った。

 

『リーチの短さはオーラの噴射による刃の増長で補うか。実に建設的な戦い方な上に、洗練されている―――どれ、ならばこちらも奥義を出してみよう』

 

 落ち武者は自身に突き刺さる刀を一本抜き去り、それを両手で逆手に持つ。

 そして足腰に力をグッと入れ、そして―――突如、回転を始めた。

 辺りからは土埃による竜巻が生まれ、そしてその中心にいるはずの落ち武者はこちらに向かってくる!!

 

『―――螺旋斬術・竜巻』

「み、みんなにげて!」

 

 俺は後ろに隠している三人に向かってそう言うが、当の三人は現状の光景に動けず仕舞いになっていた。

 ……初めての完膚なきまでの敗北だからショックは大きいだろうけど、ここからは命に関わるレベルだ!

 あの落ち武者、予想を遥かに超えて強い!!

 

「もう、きょうちぇいてきにじんぎをつかうちか!!」

 

 俺はドライグとフェルを放って、無理やり神器を展開しようとした―――その時であった。

 

「―――止めなさい、落ち武者」

 

 ……俺たちのすぐ隣を流れる動きで通り過ぎ、竜巻の中に侵入する人影があった。

 その人影が竜巻に侵入したと同時に竜巻は止まり、そして土埃の中から人影が二つ。

 一つは落ち武者、もう一つは―――美しい藍色の長髪を切り揃えた、美しい人であった。

 その手には刀、恰好は神官が着るような仰々しい服装。

 二人は互いに刀と刀で鍔迫り合いをしており、その姿を見た落ち武者は充血した赤い目を細めていた。

 

『貴様、まさか―――土御門の家の人間か』

 

 ……つち、みかど? ―――その名前には、確かな聞き覚えがあった。

 知らないはずがない。

 ……土御門は、母さん―――兵藤まどかの旧姓だッ!!

 

「その通りだ。しかしそんなことはどうだって良い―――落ち武者、剣を退け。例え人外の類であろうと、子に手を出すのは私は許さない」

『許すも許さぬも、彼奴らはここに無作法にも侵入し、森を荒らした。それを許せるはずが』

「―――退けと言っている。さもなくば、我が剣の餌食になるぞ」

 

 その美しき人物は、手に持つ刀に力を入れてその存在感を強調する。

 ……あれは、ただの刀なんかじゃない。

 所々機械的な見た目で、更に要所要所に宝玉が多数埋め込まれている―――間違いない、あれは神器だ。

 俺も知らないレベルの神器……落ち武者はその刀を見て、刀を振り払いその人物から離れる。

 

『……風の噂に聞く()の力を宿した名刀か。それを出されたら俺としても退かざる負えないものだ』

 

 落ち武者は先ほどまでの好戦的な態度とは裏腹に、刀を鞘に仕舞う。

 そして俺の方を見て、そして言い放った。

 

『次は本当の姿(・ ・ ・ ・)でここに来るが良い、少年よ。俺はまやかしが嫌いなものでな』

 

 落ち武者はそれを聞くと、霧のようにその場から消えていく。

 それを確認すると長髪の人物はふっと刀を消し去り、温和な表情を浮かべながら視線を俺たちと合わせる。

 

「例え龍であろうと、子供だ。あまり危険なことはしない方が身のためです」

「…わかるの?」

「ええ。特に龍のことにおいては私は博識でしてね―――さあ、帰りなさい」

 

 その長髪の人物は俺たちから背を向け、森の更に奥に歩いていく。

 俺はその姿と、その身から発していたオーラをじっと見ている時だった。

 

「ぅぅっ……っ! イチ、こわがったよぉぉぉ!!!」

 

 ……フィーたちは緊張の線が切れたのか、大粒の涙を流しながら抱きついてきた。

 先ほどまで落ち武者と戦っていたヒカリも術を解除して幼女モードとなっており、俺は何も言わずに三人を受け止める。

 ―――きっとこの敗北は必要なことなんだ。

 三人が更に前に進むためにこの敗北を噛み締めないといけない。

 でも……そんな三人に優しく支えるのだって、必要なことだ。

 甘いかもしれないけど、俺はそうやって兄貴をしていく。

 

「……だいじょうぶ。おれが、まもるから」

 

 聴こえないほどの小さな声でそう呟きながら、森から去っていくのだった。

 ―・・・

「ふむ。非常に厄介であるが、治せるでごさるよ」

 

 チビドラゴンズとの大冒険から一転して、今俺たちは古びた前時代的な和風の屋敷にいた。

 俺の目の前には久しぶりに夜刀さんがいて、甚平を身に纏っているところを見る限り、今はフリーなのか?

 

「ほんと?」

「うむ。要は身体に流れる気を上手く循環させれば良いのでござるよ。そのための薬はすぐにでも煎じる故、少しそこらで待っているでござる」

 

 夜刀さんは薬を煎じるための道具を用意し、薬草をパパッと入れて煎じていく。

 

「やとさんは、こっちでのもくてきははたせたの?」

「……いや、残念ながらまだ情報は揃ってはおらぬ。ディン殿が封じられている神器の所有者も分からずのままでござるよ」

「……どうして、そこまでしちぇさがしているんですか?」

「―――友であるからでござるよ。盟友と再会したいだけでござる!」

 

 夜刀さんは満面の笑みでそう言い切った。

 そして俺の頭をくしゃくしゃにするように撫でまわし、縁側の方を指さした。

 そこにはいつもとは裏腹に、沈んでいるチビドラゴンズの姿があった。

 

「落ち武者は体術だけならば拙者と渡り合える実力者でござる。負けるのは当然―――イッセー殿が慰めるでござるよ」

「……うん!」

 

 俺は小走りになりながらチビドラゴンズへの方へと行く。

 身体は小さくなろうとも、それでも三人は俺にとって大切な妹分だからな。

 ―――話して、遊んで、慰めて。そして最後にはこいつらは笑ってくれる。

 いつも俺を癒してくれるチビドラゴンズは俺を護ってくれて、また違う方向で俺を癒してくれた。

 ……子どもになって良かったと思えたのだった。

 ―・・・

「ってことがあって、やっと体が元に戻ったってわけだ」

「にゃ~。私もイッセーで遊びたかったのに~~~」

 

 俺は自室にて、久しぶりに大人の体で黒歌と話していた。

 あれから夜刀さんから調合してもらった薬のおかげで元の姿に戻った俺は、たまたまその時は俺と一度も遭遇しなかった黒歌の文句を聞きながら、今後の方針を色々話していた。

 

「ホント、アザゼルの馬鹿には勘弁してほしいよ。ホント、大変だったんだからな」

「でもチビイッセーも良いけど、やっぱり私は大人なイッセーの方が良いにゃん♪ ほら、子作りエッチし放題だし♪」

「―――ばーか。そんな煩悩振りまく前に、早く方針決める……ぞ?」

 

 ……俺は途端に言葉を失う。

 ―――いや違う。これは声が高くなっている感覚?

 え、ちょっと待てよ!?

 俺は目の前の黒歌を見た。

 ―――その手には、俺を幼児化にした装置が握られていた。

 

「ふふふふふふ……。イッセー、甘いにゃん♪ 私がこんな愛くるしいイッセーをみすみす見逃すわけないでしょ~? それに白音ももっと可愛がりたいらしいし、素直に……私達の玩具になるにゃぁぁぁん!!!」

 

 ―――その一言と共に流れ込むように皆が室内に侵入してくる。

 

「―――あんまりだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 ……ともあれ、俺のチビイッセーとしての日々はまだ続いて行くようであった。


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