天使がなくしたもの   作:かず21

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はい、宣言通り日曜日に6時に投稿できました。

これからはおそらく日曜日の6時が固定になりそうです。

あと、今回は地味に貼っておいた伏線がお披露目されます。

では、どうぞ


変わる瞳

本当は人間を傷付けたくなかった。

しかし、使命である人界の守護を放り出してでも、前世の記憶を欲した。それぐらい彼女には必要だっだ。ずっと求め続けていたものなのだから。

 せめて痛みを感じさせないために神器――〈天旋弓〉をクロスボウ形態から光の粒へ、そして本来の鉄弓へと形作る。

神器にはそれぞれ固有能力があり〈天旋弓〉は所有者の意思によりその姿を弓かボウガンへと変えることができる。弓はボウガンのようにノーモーションから放つことはできないが、自分で射る分、威力と精度が段違いに変わる。

 鋼の矢が何もない空間から出現し、ギリギリと細い弦を引いていく。それから、狙いを赤奈の額へと定める。そのまま、限界まで引いた弓を離そうとする前に赤奈と目があった。

『僕は君を人殺しにさせたくない。君を助けたい!』

 脳裏にそんな言葉が過ぎった。

 もし本当にそう思ったなら、どういう心境の変化なのか。

 気にはなったが、もう関係ないのだ。彼はここで死ぬのだから。

「もしもっと早く出会っていればこんなことにならなかったのかな……」

 ぽろりと本音が漏れる。言っても仕方ないことだ。もうここまで来て引き返すなんてできない。

「……確かに予想は外れた」

 赤奈が囁き声に近い音で呟く。

 しかし、天使はもう時間稼ぎに付き合うつもりはない。

 赤奈は〈銀鱗〉からの力の供給と言っていたが、それは全くもって見当違いである。正しくは力の供給ではなく、力の解放なのだ。

 強すぎる力は人界では邪魔だ。天使のブレスレッドや神器を手にしていなければ本来の力を発揮できないようにリミッターを掛けられている。他にも本来の姿になると現れる翼も常に出さなければいけない。赤奈はその事も知らずに愚行に、一縷の望みを託したのだ。

 可哀想に、と同情しながら天使は弦を引く。残念ながら彼はここまでだ。

 そして、矢を放とうとしたその瞬間――赤奈の瞳の色が文字通り変わった。

 黒から――碧色へと。

 天使は驚きを通り越して恐怖を感じた。瞳の色が変わるなんて聞いたことがない。

――いや、よく考えれば瞳の色がコロコロと変わっていたような……?

 混乱する思考は余計に恐怖を募らせる。そのまま天使は恐れに駆られ、手を離す。

 ビュッと鋭く放たれた矢は狙い違わず額へと飛んだ。だが、赤奈はその矢を凝視しながら柄を強く握り締めた。

「――でも、持てない重さじゃない!」

 叫び、流れるように刀を下から斜め上へ振る。刀に触れた矢は真っ二つに折れた。

 驚く間もなく赤奈が刀を両手で引きずるように走り出した。

「うおおおおおおお!」

 雄叫び声を上げ、真っ直ぐ突っ込んで来る赤奈に対しても天使は動けなかった。先程の事態に思考が処理しきれないのだ。

瞳はもちろん、〈銀鱗〉を振るった時点で赤奈が普通の人ではないと証明している。それ以前に負傷して満足に刀を振るうことができないはずだ。

 予想外の行動に焦り、判断が鈍る。だが、眼前まで迫る赤奈が刀を振り上げるのを見ると体は反射的に動いてくれた。ギリギリだが体を反らす。

 しかし、振り下ろされた〈銀鱗〉は最初から天使を狙っていなかった。刀は無防備に晒された翼を斬ろうとしていたのだ。それに気付いた天使は咄嗟に翼を畳む。

 〈銀鱗〉が空を斬る赤奈の体は刀の重さにより前かがみの姿勢で天使の横を通過してしまう。赤奈は転げそうになるが足を踏ん張り何とか耐えていた。

 今の内に天使は再びを翼を広げ、跳躍。刀など到底届かぬ高さまで飛翔する。安全圏に逃れても表情は強ばったままだ。

 一方、赤奈は〈銀鱗〉をコンクリートに突き刺し、空を仰いだ。その息は激しく荒れている。空を仰ぎ、呼びかけてきた。

「降りてきてくれ。話がしたいんだ」

「嫌です……話すことなんか、ありません」

 天使はイヤイヤするように首を振り、更に距離をとった。

 天使は赤奈が自分以上に異様な存在に感じられた。もう天使には赤奈は恐れの対象でしかない。

 それを汲み取ってか赤奈は柔和な笑みを浮かべ、ただひたすら呼びかけた。

「頼むよ。僕はただ、君と話がしたいだけなんだ」

 

 刀一つで形勢逆転とは思ってもみなかった。自分としてはただめちゃくちゃ重いだけど手に取ることはもちろん振るうことだってできた。なんにしても今なら言葉が届くかもしれない。

「頼むから話を聞いてくれ。これ以上君が傷つくのを見たくないんだ!」

「私が傷つく? これは自分で決めました。後悔はしてません!」

「嘘をつくな! 本当は誰も傷つけたくないんだろ? その証拠に君は――――」

 耳をつんざくような叫びが二人ぼっちの屋上に響いた。

「刀を寸止めしたじゃないか!」

 




はい。お疲れ様でした。

今回瞳の色が変わる伏線を半分回収出来てよかったです。

これに気づいていた人いますか? いたらすごいですww

この瞳が意味するのはまた違う話で回収します。

では、感想や誤字脱字の指摘待ってます。

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