天使がなくしたもの   作:かず21

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約一週間ぶりですね。

いや、いろいろと忙しくて全然投稿できませんでしたw

では、どうぞ。


廃墟の屋上

天使は遅まきながら気づいた。赤奈はただ質問を繰り返したわけではないことに。

 天使はここに来る前にナース達の見回りのルートや時間を把握し、見つからぬように侵入した。だから分かる。10時40分は

「ん? 赤奈君。まだ起きてるんですか? 就寝時間はとっくに過ぎていますよ~」

 見回りの看護婦が赤奈の部屋に訪れる時間だった。

 このままスライド式のドアが開かれば全てが終わる。

 看護婦に見つかれば今日のところは一旦引き返すはずだ。

 そして、明日の夜は、どこかでやり過ごせばいい。それこそ使用人などで人の多い実家に一日早く帰ってしまえば逃げ切ったことになる。

「入りますよ」

 看護婦がドアを開けようとした。その間に事は起きた。

 天使が床に穴をあける勢いで、地面を蹴った。常軌を逸した速さが赤奈に詰め寄る。

 予想外の動きに反応できず、棒立ちになった赤奈を突き飛ばすのは、赤子の手をひねるより容易だっただろう。

 体がくの字に曲がり、突き飛ばされた赤奈は、咄嗟に目を瞑り来るべき背中の衝撃に備えた。

 しかし、いつまでたっても背中に痛みは来ない。

 なぜ? ――目を開けば、視界に映ったのは、常闇に唯一輝く満月。

 赤奈は遅まきながら窓を解放していたことを思い出した。そして、体は窓を通過し空に投げ出されていることを理解する。

 あっと思う間もなかった。地面と並行を保っていた体は時が動き出したかのように落下を始めた。

 体を浮遊感が包む。4階からの落下が意味するのはただ一つ。

「嘘」

 もはや声にならない声で呟く。

 ぼんやりとした思考のまま、手を伸ばすが、その手は虚しく空を切った。同時に、走馬灯のように思い出が頭を過る。

――幼い頃、二人の兄妹はある約束をした。

内容はごくありふれた約束。しかし、それは赤奈にとってどんなことにも変え難い約束だった。約束は今もまだ生きている。

 ――そうだ。まだ、僕は約束を果たせていない。それまでは死ねない!

 頭にかかったモヤを払い除け、何かを掴もうと手を伸ばす――――ガシリと誰かがその手を握った。眼だけでその正体を探る。

 病弱な赤奈に勝るも劣らぬ白く透き通るような腕。視界に嫌でも入る大きく広げられた純白の翼。可愛らしい顔を引きつらせた天使が赤奈を転落死から救った。

 どうして、と思う間もなく赤奈は天使の胸にすっぽり収まる。

「な、なにを――」

「静かにしてください。気が散ります」

 そう言われれば黙るしかない。

 ただ抱きしめられたのと、女の子特有の甘い香りが思考をオーバーフローさせる。

 そして、追い打ちをかけているのが――

 ――当たってる! 頬に微かな柔らかい何かが!

 それ以上煩悩をエクスプロージョンさせることはできなかった。

 なぜなら、天使が地面スレスレで急旋回したからだ。

 

「うっ!」

 叫ぶことも許さない多大なGに呻き吠えを漏れる。天使はお構いなしに病院の裏手に回り込んで、緩やかに上昇していく。

 よもや、このまま落とされるのではないだろうな――と怯えつつ、事の顛末を待つ。

 やがて、病院の屋上へと到達し、天使は赤奈をコンクリートの地面に放り出した。

「イタッ!」

 尻餅を付いた赤奈は痛みを噛み締める間もなく、すぐさま立ち上がった。

 四肢に力を込め、いつでも動けるようにする。

 一方、天使は翼を二つに折り畳み、トン、と軽やかな音を立て着地する。

「「…………」」

 無言のまま対峙する二人。静かにぶつかり合う両者の瞳は嵐の前ぶれか。

 しばらくして、天使はゆっくりと暗闇の屋上を見渡した。

 その気は無かった赤奈だが、澄んだ空色の瞳に釣られて視界を動かしてしまう。ただ、釣られたと思われるのが癪だったので、天使より早く首を回す。

 思いのほか外は黒く塗りつぶされ、近くにいる天使すらはっきり見えない。

 だから、赤奈は天使の些細な変化を見抜けなかった。

 そんなことも知らず赤奈は改めて、考えを巡らせていた。

 屋上に人気はない。もうとっくに夜の10時を過ぎているので当然だが、この場合赤奈にとって都合が悪い。

 なぜなら、先程も言ったとおり天使は誰にも見られず赤奈を闇に葬らなければならない。

 その証拠に看護婦に見られるより先に、赤奈を突き落とし部屋から姿を消した(なぜか助けたが) なので、人がいれば天使の目論見は潰えたはずだ。もう看護師が自分の不在に気付き、屋上を捜索してくれることに祈るしかない。

 赤奈は天使を警戒しながらもそう新しくない屋上の記憶を引っ張り出しだす。屋上はかなり広く、昼間は患者や病院の関係者問わず、憩いの場としていつも結構な人だかりができている。そのためそれなりのスペースがあるはずだ。

 しかし、暗闇に目が慣れた赤奈の瞳には、そう遠くない距離に腰ぐらいの高さしかない半壊したフェンスが写った。反対側も似たりよったりの錆びれたフェンスが見える。

 赤奈は、自身の記憶と現在地に差異を感じた。

 どうもここは自分の知っている屋上ではないようだ。明らかに狭いのだ。

 よく見れば足元のコンクリートも小さなヒビや緑黄色の苔を生やしている。それがいくつか確認できたので、この建物の老朽化が進んでいるのが解る。

 建物に心当たりがあった。

 ――ここは廃墟になった旧棟の屋上だな…………うわぁー。

 途端に背中にゾクリと悪寒が走った。

 この旧棟は戦時からある曰くつきの病棟で、いろいろと良くない噂が立っている。

 曰く――夜な夜な幼い子供達が走り回っていたり

 曰く――誰もいないはずの屋上で人影が目撃されたり

 昔、赤奈も妹に引き連られ、ここに潜り込んだことがある(その時のことはトラウマとして脳裏に深く刻まれている)

だから、この近くを通ろうとする者など自分を含めていないはずだ。

これで誰かが見つけてくれることは諦めるしかない。

 だからと言って自分の命を諦める気にはなれない。諦めてはならない理由がある。

 チラリと背後にある出入り口に目をやる。

 案の定、ツタを生やした鉄製の扉にドアノブはついてなかった。

 一瞬、体当たりでもするか、と逡巡するが虚弱なもやしっ子では、せいぜい肩を痛めるのが関の山だろう。

 なにより、背中なんて見せたらそれこそ天使に刀を叩き込まれ――――。

「私は――――ここを知っている、ような気がします」

 今までだんまりだった天使が突然、開口したので思考が止まった。

 不可解な言葉に訝しながらも赤奈は顔を上げる。

 天使の碧色の瞳は先程の冷徹な印象はなく、愁愛を帯びた色を灯していた。ツンとしていた表情も幾分か柔和になっている。

 仄かに滲ませた年相応の笑みが本当の彼女なのかもしれない、と場違いな考えが巡った。

 天使は赤奈に聞こえるくらいの声で独り言のように続ける。

「懐かしい気持ちになるのは生前の私がここに来たのでしょう。知っていますか? 天使は、元は人間なんですよ」

 




はい。お疲れ様でした。

なんか中途半端なところで終わってしまいすみませんw

えー、次回はもっと進めたらいいな、と思っています。

では、感想や修正点など待っております

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