長いこと待たせてすいません。
とにかく熱く書くこと。かっこよく書くことを意識しました。(うまく書けたとは言っていない)
では、どうぞ。
「なん、だって?」
それしか言えなかった。あまりにも衝撃的な事実に脳のキャパスティを超えてしまった。
事前のユウの反応と現在の俯き、唇を噛み締めている姿だけで真実は告げられているのも同然だったが、僅かな可能性が確認を促した。
「本当なの? ユウの前世が――――僕の妹である結希だって?」
返ってきたのは首肯だった。
「……………………」
ちょっと味わえないような懸念が脳を侵食していく。悪い意味で頭がクリアになっていく。
「ハハハ、これが最後の手段や。どうや? 好きな人が妹やった感想は? また会えて嬉しい? 感動のあまりむせび泣きそう? 違うわな! さっさと絶望してお前の力をワイによこせ!」
「――――――から…………した」
「ん? 」
「だから、どうしたって言ったんだ!」
空気がビリビリと震えた。
半眼の赤奈に睨まれ、自分が半歩下がったことをベヒモスは気付くことができなかった、
「アンタの言うことなんて一々間に受けない。嘘つきの悪魔が言うことなんて信じるわけないだろう」
「いやいや、でもこうして妹ちゃんも肯定してるわけやん」
「そうだね。ユウは結希だった。認めるよ。確かにまた会えて嬉しい。感動の余り体の震えが止まらないよ。だからこそ言える。それがどうしたって」
すべての情報が自分の元に集った。その情報と自分の戻った記憶を統合していく。
「アンタはたった一つ間違いを犯した」
ゆえにそれは彼の決意を固める。
その瞳はどこまでも強く、大きく、輝く。
「訂正させてもらうよ。最愛の人が妹だったんじゃない。
そうだ。何もおかしくない。結局自分の好きな人が好きな人だった。それだけの話だ。
むしろ、効果は倍増だ。好きな人を守る。死んだ妹を救う。二重の想いが弱い心に勇気をくれる。
でも力が足りない。彼女を守るための実力が自分には足りていない。
ならば、開放してしまえばいい。もう半分の力――悪魔を使い、未完成の器を本物にすればいい。
そのためのトリガーは既に手中にある。
「残響? いつの間に!?」
手にしたのは一つのハンドガン。博物館でも撃たれたベヒモスの銃である。ユウが赤奈を受け止めた時に巻き込まれたようだ。そして、それは都合のいいことに足元にあった。
もう既にパスは通してある。プロセスが組み上げられ、残響の情報が流れてくる。
モデル ファイブセブン。初速が速く貫通力に特化している為、あの肉鎧にもダメージを与えられそうだ。
前任者の名は――――マリー。
どんどん人間としての日和 赤奈が消えていく。悪魔の記録が上書きされていく。だが、数刻前に感じていた未練なぞは無い。在るのはたった一つの矜持。新たに芽生えた譲れない想い。
だから、彼は叫ぶ。
――愛すべき人も守れぬ日和 赤奈など。
――掛け替えの無い妹を守れぬ兄など。
――――死んでしまえばいい。
全工程終了。今この時をもって日和 赤奈は人間をやめた。
その証に彼は翼を手に入れた。
しかし、それは白い翼でもなく黒い翅でもなかった。
本来なら白い天使の翼を鴉を思わせる艶のいい漆黒色が塗りつぶしている。
それだけではない。瞳の色にも変化が起きている。
天使の証である蒼と悪魔の色である紅が両目に一つずつ宿っている。俗に言うオッドアイズというやつだ。
今の自分の状態を確認し終えるとどこか自嘲気味に呟いた。
「ちょっと違うかも知れないけどさしずめ『堕天使』ってとこかな。天使であり、悪魔でもある僕にはぴったりだ」
もう自分は人ではない。だが、それでいい。力の無い者が誰かを守るなんてできやしない。
左手に持った残響のトリガーに指を掛け、銃口を向ける。
目を丸くして呆けているベヒモスに容赦の無い一撃をお見舞いした。
「! いきなりかい!」
だが、銃を向けた瞬間流石と言うべきか横に走り出し難を逃れた。
それも計算のうちだ。素人の自分がいくら大きいからといって動く的に当てれるとは思っていない。そもそも片手で反動を抑えているだけでも儲けものだ。
あくまで牽制。――――もう2、3発撃つ。
本命は――――残響に力を流し込む。
「これだ!」
秘弾が放たれる。
その弾丸は黒く濁り、闇夜に溶けた。
しかし、命中することは叶わず、ベヒモスの足元を削るのみ。
だが、それでいい。そいつの役割は他にあるのだから。
「響け! 残響!」
コンクリートに埋め込まれたそれは呼応するかのように破裂した。
瞬間。ベヒモスの鼓膜を潰さんばかりの金属音が耳を通し、脳の中に響いた。
「ぐおおおお。これは……残響の……!」
残響の力。それはいつまでも残るノイズ。その効果は決して馬鹿にすることはできない。被弾したものは三日三晩、頭が割れるような音に苛ませられるのだから。集中することが困難ということは戦闘では致命的弱点だ。
それを突かないほど赤奈は甘くない。
すぐさま右手の銀鱗でトドメを刺しにいく。
しかし、それより早くべヒモスは骨ばんだ翅で空へと難を逃れていた。
どことなく昨日とデジャヴする。銀鱗の力で追撃を狙いたいが残響にエネルギーを割いた為連続して使えそうに無い。
ならば、こちらも空戦をしかけるしかないだろ。
「っ」
初めての飛行。初めての空中戦。躊躇いが無い訳ではなかった。
だが、それ以上にいますぐ目上のたんこぶを落とさなければこの黒い感情は収まらない。
膝を深く曲げ、慣性を利用し跳躍。一定の高さに達した時に翼を広げ帯空した。
「隙ありや!」
「なっ!?」
空を飛ぶ感触を確かめる間もなく、ベヒモスの反撃がきた。
銀鱗で迎え撃つ――片手で受け止めるのは不可能。その間残響をホルスターに収める――咄嗟の事態だった為、誤って足で踏ん張ってしまった。
大気を足場にすることなどできるわけもなく、勢いよく後ろに弾き飛ばされる。
「そぉら! まだまだあるで!」
追撃が来る。
何とか体勢を整える。今度は翼を広げ踏ん張り、鍔迫り合いに持ち込んだ
「ほう、初めての割にはよう翼を制御できてるやん」
「センスがいいんでしょ多分。それより残響の影響がなくなってるように見えますけど、どんな手品ですか?」
「手品なんてもんに興味はないな。ただ、前の持ち主とよう喧嘩しとったからな。毎回それを打ち込まれてたわ。おかげで多少の我慢はできるようになった……だけや!」
片手だけの豪腕は空でも健在のようでぐいっと押し込まれる。もし片手で受け止めようとしていたら斬られていただろう。
「なるほ、ど……! よく分かりましたよ」
「残念やったな。もう同じ手には引っかからんで。このまま押し切らせてもらうからな」
もしここが地上ならば赤奈はこのまま斬り伏せられていただろう。
しかし、ここは空。力に負けても落ちることで回避につながる。
赤奈はあえて逆らわず、そのまま背中から降下していく。
すぐさま
「いてっ!」
撃つことに集中しすぎ、受身を疎かにしてしまった結果が痛みと共に返って来る。
「だ、大丈夫ですか。怪我は!?」
慌てて結希が駆け寄ってくるが、手のサインで止める。
翼を失ったベヒモスが地に落ちてくる。巨体の地響きが心臓を揺らした。
「よくも! また俺に傷をつけたな日和 赤奈!」
膝を突いた隻腕の悪魔が大声で吼える。その迷惑極まりない音量の返事に冷笑を向けた。
「……親子そろって忌々しい! 突然現れてマリーをさらって、お前みたいな子供を作って! 俺のほしいもの片っ端から奪いやがって! ふざけるなふざけるなよ!」
山のような巨体が地面にヒビを入れながら突撃してくる。
その執念の塊に僅かに気圧された。
「大丈夫。大丈夫ですよ。赤奈さんなら大丈夫です」
僅かな態度の表れから読んだのか、結希が気遣いの声を囁く。
その声は翼知っているもので何度も心を奪われた。
「だから、だから、勝って! お兄ちゃん!」
その声に応えることのできない兄などこの世におるまい。
「うん、任せて。なんたって僕は君のお兄ちゃんだからね!」
待つのではなく、こちらから仕掛ける。
右手に銀鱗。左手に残響。一丁一刀流で赤奈は全力で駈け出す。
それは何も目の前の敵を倒すためだけではない。未来を得るために前へ進むという決意を体現したものだった。
ベヒモスの顔が悦に歪んだ。それは勝利を確信した者のみ得る表情。
当然だ。パワーに差があるのに両手ではなく片手で赤奈は対応しようとしているからだ。
銀と赤の得物が交差した。だが、均衡などはない。武器が弾き飛ばされた。
「……………………」
「な――――」
だが、それは刀ではなく剣だった。
ベヒモスは気付かなかったのだ。自身の手の甲に銃創があることに。それが元で握力が失われている。
単純な話だ。2発の弾丸は翼を抉り、もう2発の弾丸は外れた。残りの1発は手に命中していただけの話である。
それに気付けなかったのは怒りで我を忘れアドレナリンを大量に分泌していたからだ。
なんとも皮肉な話である。医者の皮を被ったベヒモスが医学的な要素に足を引っ張られるとわ。
今度こそトドメをさそうと残響を突きつけ――――
「――――――んてな!」
だが、この男はまだ隠し玉を持っていた。それはさながらノーハンドの状態で隠し持っていた最後のカード切るかのようだった。
何もない空間から炎が発生し、2本目のアッシュレッドを形成した。
「切り札は最後まで隠し持っとくもんや! 死ね! 日和 赤奈!」
ベヒモスの思わぬ反撃に赤奈の心臓が捉えられ――――――はしなかった。
赤奈の体が一段と深く沈んだ。
ベヒモスの突きは何もない空虚に吸い込まれた。
赤奈の動きはまるでベヒモスの動きを予測していたかのようだった。いや、実際に彼は予測していたのだ。二つ目の武器の存在を。
「これでも喰らえ!」
銃口をピタリと密着させ、トリガーを振り絞る。
零距離射撃
マズルフラッシュが二人をオレンジに照らす。
完全に動きを止めたベヒモスの体に銀鱗を食い込ませる。その剣は黄金に輝いていた。
フルチャージ完了。あとはその聖なる光を開放するのみ!
「トドメだ! ド外道!」
光の熱が迸り、ベヒモスの体を飲み込んだ。
「ぐわあああああああああああああ」
悪魔の絶叫と共に黒い巨体は塵一つ残さず消え去った。
「はぁ、ハア、ァ」
最後の一滴まで振り絞ったので立つことすらままならない。呼吸が苦しい。息が掠れて音にならない。もう限界だ。
膝の力が抜け崩れ落ちる。
薄れていく視界で辺りを見渡す。寒空の下には自分と涙ながらに駆け寄ってくる結希しかいない。
――――――ああ、終わったんだ。安心した。
消えていく意識の中、音色のような美しい声が必死に自分を呼びかけている気がした。
おつかれさまでした。4300文字くらい打った今回は過去で一番長い回だったのは間違いないw
次回が最終回のはず……はずだよね?
ともかくもう少し赤奈と結希のお話に付き合ってください!
感想や誤字脱字の指摘お待ちしております。