天使がなくしたもの   作:かず21

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もはやひと月投稿になりつつあるw

今回は少し長めです。

期末試験が始まるのでまたしばらく打てそうにありません。

楽しみにしてくれている方たちには本当に申し訳ない。

それではどうぞ


vsベヒモス 2

 手中に毒々しいまでの赤黒い血のこびりついた剣が現れる。

 見るだけで分かる。あの剣には悲鳴とうめき声がぎっしりと含まれている。

 あってはならない。あんなものはこの世に存在してはならない。

 天使としての本能がいますぐあれを壊せと叫んでいる。

 だが、同時にどれほど危険なのかはもう半分の本能が教えてくれた。

 蜃気楼のように揺れる赤いオーラから死が臭う。おそらく、銀鱗と同じ能力なのだろう。一撃必殺の剣。莫大な力が今にも暴れだしそうだ。

 ならば、対抗する手段は一つ。それと同等、もしくはそれ以上の力をぶつけるしかない。

 だから、もう一度力を貸してもらう。銀鱗に、目の前の敵を討つ力を!

「――――――――――!」

 思い出せ昨日の戦いを。そして、想像しろ。

体中をめぐる血液は心臓とつながっている。その心臓(こころ)にはユウとの思い出が詰まっている。人のみが手にすることができた温かさを血管を経由して銀鱗に伝えろ。だから、ありったけの自分の想いを銀鱗に流し込め。日和 赤奈!

 刀が赤奈の想いに呼応し、金色の輝きを魅せる。眩く光るそれは昨夜の銀鱗に見劣らぬ光だ。

 だが、赤奈は決してそれを放出しようとはしなかった。

 赤奈は全てにおいて現状ベヒモスに負けている。そんな彼が唯一優れている点はユウを想う気持ちだろう。

 ゆえにその想いを手放しはしない。一滴たりとも余さずこの刀身に宿したままぶつけなければきっと自分は勝てない。はっきりとそれだけは分かった。

「いくぞ外道悪魔。これでアンタとの因縁に蹴りを着ける」

「荒々しい言葉使いやな赤奈君。使ってもいない悪魔に感化されすぎやろ」

「! …………減らず口はそこまでにしてもらいますよ。勝負だ。ベヒモス!」

「望むところや!」

 赤奈とベヒモスは僅かに遅れることもなく同時に飛び出した。

 二人の距離はあっという間に縮まった。

 今度はベヒモスは上段から振り下ろし、赤奈は下から迎え撃った。先ほどの打ち合いとは逆の位置だ。

 そして、衝撃(インパクト)

 二つの武器が交差した瞬間、世界が爆発した。

 嵐にも似た叩きつける風圧が前髪をかき上げる。腕にずっしりとした重みが加わり思い通りに動かない。

 しかし、鍔迫り合いの中、赤奈にはっきりとした囁き声が聞こえた。

 勝てる。このまま押し返せる。自分の想いはベヒモスの剣に勝っている。

 そして、そのまま押し返そうと見上げた時ベヒモスと目が合った。

 不快なまでに歪んだ赤い光と穢れを知らぬ神聖な金の光に照らされた彼は場違いにも笑っていた。

 それはまさに勝利を確信した者特有の笑みにほかならない。

 「危険だ」と直感が告げるが遅かった。

 アッシュレッドの刀身が更に赤黒い血を含んだ。ベヒモスはまだ本気を出していなかったのだ。わざと手を抜き、僅かな希望を抱かせて突き落とす。赤奈は知る由もないが彼の常套手段だ。

 剣が重くなる。支えきれない。負けてしまう。いや、赤奈は負けた。

「赤――――――」

 ひときわ強いダークレッドの光がユウの言葉ごと赤奈の身を包んだ。光の熱に呑まれた赤奈は声すらあげることもできなかった。

 彼の想いはほんの3秒の内に砕かれてしまった。

 ドサッとまるで糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。体中火傷のあとがあり、所々黒ずんでいる。

 完敗だった。彼のユウを思う気持ちはベヒモスの卑劣な心に敗れてしまった。

 隻腕の鬼は高笑い、敗者を見下ろした。

 実に愉快そうな口ぶりで

「いや、残念やったな。銀鱗の性能ならワンチャンとか考えたんやろうけど持ち主が欠陥品やったせいで力を発揮できんかったようやな。まあ、君のもう半分の本性は悪魔やから仕方ないやろうけど」

 もう一度耳障りな高笑いが夜の廃屋に響く。

 ユウの涙声が風に煽られ虚空に消えた。

「んん? 大事な女の子が泣いてるで? はよ起きたらなあかんやろ?」

 起きないことを知りながらベヒモスはぼうぞくに赤奈を足蹴にする。

「ほらほら、不意打ちでも騙まし討ちでも何でもするんやろ? もう一回チャンスやるからもう片腕切り落としてみーや」

 ぐりぐりと頭部を踏みにじり、ユウの反応を楽しむ。

 彼女の心から負のエネルギーが流れ込むのを感じ、満腹の優越心をいっぱいにしていく。

 

 だから、ガシリと足首を掴まれたときには心臓が止まるかと思った。

 

「お前…………まだ!」

「ギンギン……響くんだ……ですよ。いい加減に…………してもらえません、かね」

 足首を掴んだ赤奈の握力はほとんどない。そのはずなのにこの湧き上がる寒い感覚は何だ? これが恐怖というやつなのか。

 そんな訳あるか、と突如到来した謎の感覚を振り払うように赤奈ごと蹴りだす。

 死に体である赤奈に抵抗する力も残されてはおらず、いとも簡単に慣性に従った。

 あわやフェンスに激突する寸前――――今まで泣き腫らしていた天使が人間ボールを受け止めた。

 だが、勢いを殺しきれず、二人一緒にコンクリートの上を転がり、フェンスギリギリで

停止した。

「赤、奈さん。大丈夫ですか?」

「馬鹿。君のほうこそ怪我は……?」

 傷を舐めあう子犬のようにお互いの安否を確かめる。

 ユウは赤奈を受け止めたため全身すり傷だらけだ。白い肌も今は砂だらけで血が滲んでいる。しかし、どこか折れているなどはなさそうだ。

 赤奈の体はユウ以上にひどくボロボロだったが動けなくはない。赤黒い光に包まれる瞬間、銀鱗の光を開放し、相殺したのが功を奏したようだ。

「待っててください。今すぐ治療を」

「ちょっと待った。その必要ないよ」

 口付けをしようとしたユウの唇に内緒の仕草をするかのようにそのふっくらとした唇に指を当てた。

「赤奈さん? どうして、私はなんとも――――」

「あるでしょ。僕もさっき君に天聖術使ったから分かるけど相当負担があるよね。今日だけで数え切れないくらい使ったんだからもう今日はお預けだよ」

 でも、食い下がるユウに赤奈は仄かに微笑んだ。

「少し傷を負ったくらいですぐ治癒に頼ってちゃ駄目なんだと思う。男ならこれぐらいの怪我でも背負って戦わなくちゃ。それにさ、このままじゃ、かっこつかないでしょ? 僕は気味のヒーローでいたいんだから」

「赤奈さん…………」

 僅かな間のあと、ユウは泣き笑いにも似た笑みを浮かべ、仕方なさそうに呟いた。

「男の子って馬鹿なんですね。でも、それはきっと仕方のないことって分かりました」

「だね。僕もそう思うよ――――だから、待ってて。今度こそ終わらせてみせるから」

 今まで何度も負けてきた。どんなことにおいても彼に勝ったことはない。

 おそらくこの勝負は10回やっても10回負けてしまうだろう。それくらいの実力差がベヒモスとはある。

 ならば、作ればいい。現状での日和 赤奈で勝てないならば新しい日和 赤奈を生み出してしまえばいい。

 答えは見つかってる。嫌、気付かない振りをしていただけだ。その鍵はすぐそこにあったのだから。

 しかし、僅かに迷いはあった。

 それを使えば自分は完全に人ではなくなる。――ゆえに気付かない振りをした――使わない力など人間とさして変わるまい。そう思い込めば赤奈は半分まだ人間である。

 意外にも人と言う未練に囚われている自分を心の中で嘲笑う。

 それに認めたくなかった。自分の中に醜い悪魔の血が流れていると言うことが。目の前にいる邪悪な存在と同類だと思うと胸が張り裂けるくらい痛みを感じる。

 だが、迷いはあっさりと晴れた。それが皮肉にも敵であるベヒモスの言葉で。

「あああ! イライラする。何でお前はそこにおるんや。なんでまだ立っていられるんや。おかしいやろ。ふざけるな!」

 それは子供の癇癪に似ていた。

 ズングリとした巨体が地団太を踏むたびにコンクリートにヒビが入る。時間が時間なら誰かに気付かれてもおかしくないくらいの地響きだ。

 そこで、ベヒモスが思い出したかのようにニンマリと嫌な笑みを見せた。

 どこまでも歪んだ悪魔は絶望の切符を切る。

「そういえば大事なことを言ってなかったな。なあ、天使ちゃん?」

「ま、まさか…………!」

 ユウはベヒモスが何を言わんとしたか察した。

「ユウ?」

「だ、だめ。やめて! お願いだから言わないで!」

 ベヒモスは言うつもりだ。赤奈とユウの本当の関係を。

「や、やめてぇ!」

 

「赤奈君。君の愛してやまない天使ちゃんの前世を教えたるわ。それはな、君の妹――――日和 結希なんやで」




おつかれさまでした。

なんというか読者からしたら「知ってる」と言う引きでしたが赤奈からしたら今まで生きてきた理由が実はすぐそばにいた。と言う状況なんですよね。

ここからようやく作品のテーマである「家族愛」について触れます(うまく書けるとは言っていない)

でも、恋愛要素もある小説なんで二人の関係についてはきっちり決着をつけたいとおもいます。

それでは感想や誤字脱字の指摘お待ちしております

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