お久しぶりです。かず21です。
もう執筆がおそすぎて自分でもドン引きしてます。
これはもう一度プロットを作るべきかもしれん…
では、どうぞ。
12
外に出るとぶるりと身体が震えた。それもそのはず辺り一面雪景色に覆われているからだ。まるで建物に雪のカーテンをかけたように見える。
寒い寒い、と赤奈は先程購入した毛糸のマフラーに首を埋めた。
「このマフラー買って正解でしたね」
「貰いものだけどね」
二人が救助されたのは閉じ込められて、約5時間後のことだった。救助後、デパートの責任者である老夫婦たちは何度も謝罪し、お詫びをさせてくれ、と頼み込まれた。無下にするのも良心が痛むので、ありがたくマフラー頂戴することにした。
「うわ、すごい雪……結構積もてますよ」
再び降り始めた雪に触れて、天使――ユウは子供のようにはしゃいだ声を出した。
ほんの少し歩いた先も所狭しと生える建物に雪化粧が施されている。まるで、買いたてのキャンパスのようだ。
数歩遅れてきた赤奈はユウの姿を見て微笑みながら
「災難だったよね。僕達あまり運がよくないみたいだ」
と白い息を吐き出した。
深呼吸をすると肺が凍るくらい冷たい空気が入り込んだ。あまりの冷たさに咳き込みそうなる。
もっとも、赤奈のぼやきとは対象にユウは楽しそうに笑った。
「そうですか? エレベーターに閉じ込められるなんて滅多にありませんよ。これも経験だと思った方がいいですよ」
「……ポジティブだなー」
棒読みくさい返事をしながら先ゆくユウの後ろについていく。歩くたびにキュキュと鳴るのも冬の風物詩だろう。
「でも確かにあの余った時間でお互いのことを話せたのは良かったと思うよ。僕達なんだかいろいろ過程を飛ばしすぎたかもしれないね」
赤奈は主に家族――それも妹との冒険談について話した。
話している内に結希との思い出が蘇ってきて、胸の内に封印した想いが涙腺を緩ませた。
人前で涙を流すなどとてもできないので我慢したがおそらくユウには見破られているだろう。なんとなくそんな気がした。
ユウ自身はあまり語りたくなかったようだが、渋々といった感じで昔のことを話してくれた。
驚いたことに学生時代の話だった。
話を聞く限り、天使を社会になじませるために義務教育をやっているそうだ。ちなみにユウは既に教育課程を済ませているらしい。
「あれ? てことは君って僕と同い年?」
「いえ、教育課程は終わらせましたが、赤奈さんの一つ下ですよ」
「あ、やっぱり。そんな気がしてた」
「えー、嘘ばっかり」
他愛もない会話を繰り返しているうちにシンシンと降っていた雪が少し強くなった。
ユウは赤奈の体を心配してか、僅かばかり歩を速めた。赤奈もそれに合わせるように歩幅を増やす。
「赤奈さん。大丈夫ですか? 寒いの苦手じゃ……近くにコンビニもありますし、傘を買ってきますよ?」
どこか早口言葉のユウに赤奈は頭の雪を払いながら
「大丈夫だよこれぐらい。それになんだか、体の調子がいいんだ。重さが取れたっていうのかな? これも天使の因子のおかげかもね」
一見、軽い調子のように聞こえたが、僅かばかり戸惑いの声色を感じ取れた。
やはり、怖いのだろう。自分が段々と人から離れていくのが。
ユウも天界で散々言われたことがある。決して他人に天使だと悟らせるな、と。
「どうして」と一度だけ尋ねたことがある。
担当教諭は苦虫をすりつぶしたような顔で忌々しそうに言った。
『人間は自分や他者とは大きく外れた者を畏れ、蔑む傾向が強い。並外れた力を持つ我々だって例外ではない。もし正体がばれれば迫害の対象になってしまうのは間違いない』
もう既になっています、と最後まで言わなかった当時の自分を思い出しながらため息をつく。
今思えば教師の彼は既に経験していたのかもしれない。時々、顔を歪ませては思いつめるような顔をしていたからだ。赤奈もそのようになってしまうんだろうか?
嫌だと思った。赤奈に辛い思いはさせたくない。
「あ、赤奈さん 天使って色々と便利ですよ! 身体能力だって上がるし、怪我をしても大体一日で完治するし、ほら何より空も飛べるじゃないですか! 人類の夢ですよ夢!」
赤奈を慰めたい一心でそれはもう必死に言葉を繕った。あまりにも必死すぎて滑って転んでしまうくらいだ。
「きゃっ」
女の子な悲鳴と盛大な音を立てて、尻餅をつくユウに赤奈は慌てて寄りそう。
「大丈夫? めちゃくちゃ痛そうだけど」
「だ、大丈夫ですよ。これくらいどうってことないです」
「ほんとに? もし辛いならおぶっていくけど。もうすぐそこが博物館だし」
「だ、ダメです! いくら調子がいいからって油断してはいけません! 赤奈さんはただでさえ、虚弱でもやしなんですから無理してはダメです!」
跳ね起きながら赤奈に無理させまいと熱弁を振るう。思いは通じたが、代わりに赤奈の男の尊厳が木っ端微塵に砕け散った。
「う、うん。そうだね。無理しちゃダメだよねアハハ……………………はぁー」
「はい。…………………………ん?」
あ。
とユウが一瞬硬直。やってしまったありえない、という痛恨の表情を過ぎらせる。
それから慌てて赤奈に――赤奈の背中に視線を投げた。
「………………」
言うべきだ。
「あ、あの赤奈さん」
「ん…………どうしたの?」
傷心を負った赤奈が問いかける。顔から色素が失せているのは気のせいではあるまい。
「や、やっぱり、足が少し痛むなーなんて」
「見た感じ腫れたりはしてないけど」
「腰の方が痛い気が……」
「打ったのお尻じゃなかったかな?」
と、ことごとく建前を潰してしまう。こちらの意図がまるっきり伝わらない辺り、流石赤奈である。
ストレートにおんぶしてくれ、と言いたいが、一度断った手前、改めては言い出しにくい。意を汲んでくれないか、などという期待など最初から持つべきではなかった。
やがて、あきらめのため息をつき
「…………なんでもありません」
赤奈さんのアホ馬鹿間抜けボケ。
ユウは未練をおいていくように歩を早めた。
赤奈は首をかしげながらその後を追う。
それからしばらくして
「あ、博物館が見えてきたね」
「あれが……大きいですね」
遠目だが、白い大きな建物が見えた。
デパートから歩いて15分。それは町外れにあった。
ここに、自分のルーツが眠っているのだ。鼓動が速くなるのが分かる。今すぎにでも飛び込みたい。
「ねぇ、ユウ。今幸せ?」
初めて名前を呼んでもらえた。たかがそれくらいのことでドキッとする自分がいる。
言葉が出ず、視線だけで返事をする。
赤奈は瞳を覗き込みながら小さく笑った。
「特に意味なんてないけどね。ただ、僕は今『生きてる』って感じがするんだ。ずっと寝たきりだった僕がさ、こんな素敵な女の子と街に出て、一緒に遊んで、喧嘩して、、一つの目的を一緒になって取り組んでいる。これってきっと素晴らしい事なんだよ」
いろいろ言いたいことがあったが、とりあえず赤くなった顔を見せないように俯いた。
雪の冷たさに負けないくらい体が熱いのを意識しながらユウは微笑む。
「その気持ち大事にしてください。天使は人のプラスの感情を力にできます。赤奈さんのその幸せな気持ちが私に勇気をくれます。だから、忘れないでくださいね」
「うん。ありがとう」
雪はまだ降り続ける。
博物館の開館時間はゆうに過ぎた。
はい、おつかれさまでした。
ようやく外に出て、次はいよいよ二人の目的である〈真実の鏡〉に接触します。
来週は新しいキャラが出るんで要期待で。
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