天使がなくしたもの   作:かず21

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お久しぶりです。かず21です。

約2週間ぶりですかね?こうして投稿できて嬉しいです。

今回はいつもよりも少し長めになってしまったので目に気お付けてください。

では、どうぞ。


真夜中の少女

 

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 赤奈は夕食と入浴を済ませ、ベットの上で惰性的に続けてきた読書にうつつを抜かしていた。

 その日の夜は、銀側の月が、部屋灯りなど必要ないくらいに綺麗に輝いている。あまりにも綺麗だったもので灯りを消し、窓を解放した。

 ただ、連続最低気温更新中の真冬に窓全開は自殺行為に等しいので、愛用の羽織を肩に掛けている。

 院内生活が長い赤奈の娯楽は主に読書だ。一人用ゲームは性に合わず、テレビは時たま流れるニュースぐらいで、余暇のほとんどはページをめくるだけである。それに

「本の虫になると、自分の世界に入ってしまう程の集中力を発揮する」

 と、周りの者に言わしめる程、夢中になれる。

 だからなのだろう。

 

 声を掛けられるまで気づかなかったのは。

 

「すいません。ここは401の日和赤奈さんの病室でしょうか?」

 聞けば誰もが振り向いてしまうような鈴の音を転がしたような可愛いらしい声。自分の世界に入り込んでいた赤奈でさえも例外なく反応してしまった。

 声の方向――この部屋唯一の出入り口に目を向けると、ハッと息を呑んだ。

 恍惚に魅入るくらい可憐な少女が立っていたからだ。

 月明りをも反射する黄金になびく長髪を一本にまとめ、小柄で線の細い体は力を加えれば壊れてしまいそうな繊細さを思わせる。どこか浮世離れした顔立ちが、美しさより幼さや可愛らしい印象を受けた。

 以上のことを理解しても凝視を続ける赤奈は思春期故なので許してやってほしい。

 しかし、一向に返事を返さない赤奈を不審に思ってか少女は一歩詰め寄りもう一度問う。

「あの、聞いてますか?」

「え、あ、はい。ききききいてますよ!?」

「……吃ってますが」

 またも少女の声で正気(?)を取り戻すが、頭の中は舞い上がったままだ。

 仕方ないといえば仕方ない。赤奈の長い入院生活は周りが大人だらけの環境だった。入院する前は一応、学校に通っていたものの以前から病弱だったため休みがちだったのだ。

 そんな赤奈に同世代の――ましてや可愛い女の子とお話しなどできるはずがない。

「いや、ん、大丈夫、大丈夫。で、何を――――ん?」

 俗に言うコミュニティ障害を悟らせたくないがため、体裁を取り繕うとするが、その前にあることに気付き。首を傾げた。

今まで容姿ばかり着目していた赤奈が、少女の服装が現代から外れた奇抜な格好をしていることに気づいた。

 パッと見、膝まで伸びた白いワンピースに見えるのだが、どうも細部や素材が違う気がした。なんだったか、と頭を捻る。答えはすぐ思い当たった。

(ああ、そういえば先金の読んだ歴史の本に載ってたな。何頭衣だったけ……)

 名称は思い出せそうになかった。さして大したことではないのでバサリと斬り捨て次の疑問へと進む。

 不審に思う点もあった。

 どうも、素材に心当たりがないのだ。一見すると、シルクにも判別できるものの、どこか違う気がした。根拠はないが、自分のあたる直感がそう告げている。

 更に彼はもう一歩、疑問の地へ踏み出してしまう。

 だめだと感じているが、そんな杞憂をあっさり飛び越え最後の疑問を手に取る。

 今宵は、最低気温を更新するような寒夜だ。羽織を着ている赤奈ですら、肌寒さを感じるくらいだ。なのに、なぜ――

 

――目の前の少女は夏服であるワンピースを着ているのだろう?

 

 突然、悪寒が走った。

 気温のせいだけではない。また、別の何かだ。

 それが恐怖から来るのは本能の訴えで分かった。コイツはヤバイ、と

 他にも少女にはおかしな点がある。

 夜、一人で病院に訪れたのは――なぜ?

 見回りの看護師に発見されなかったのは――なぜ?

 そして、自分の名前を、赤奈を探していたのか?

 答えは知らない。解りたくなかった。

 ただ、恐怖と焦りに赤奈はその少女へと問いかけた。

「君は一体……何者なんだ?」

「…………」

 少女は答えない。代わりに、加工の施された写真を突き出した。

 少し目を細め、写真を見る。

 写っていたのはどこか見覚えのある黒髪の少年だった。

 少し長めの前髪が交差していて、一見、女の子とも見て取れる雰囲気の顔立ち。病的なまでに白い肌と痩せ気味の体が余計に女の子を思わせる。パッチリとした黒い瞳は笑っていないのに、笑顔の形に唇がつり上がっている(合成臭い)

 背景のキラキラとしたデコレーションが合成の線に拍車をかける。

 赤奈は遅まきながら写っているのが誰か分かった。

 ――あの顔、僕だよな? なんか変な加工してるけど……

 写真の主が自分だと理解できると、更に不安がこみ上がってきた。

 そんな赤奈の不安をよそに、謎の少女は淡々と言う。

「この写真を見る限り、あなたは日和赤奈です。しかし、そっくりさんの可能性も否定できません。もう一度聞きます。あなたは日和赤奈ですか?」

「う、うん。そうだよ。僕が日和赤奈だ」

 異様なプレッシャーに気圧され、赤奈はバカ正直に答える。

 その時、窓からの月明りを雲が遮り、部屋が暗闇に染まった。

「これでは、何も見えませんね。灯りをつけてくれませんか?」

 やれやれといった感じで首を振る気配が伝わる。

 赤奈は慌てて、リモコンを探す。しかし、視界が悪いのと気が動転しているため、中々見つからない。もたつく赤奈に呆れた天使のため息が聞こえた。

「もう結構です。見つからないみたいですし」

 暇つぶしにいじっていた髪を払う。その仕草が恐らく年下であろう彼女に大人びたギャップを与える。

「仕方ありません。もう始めますか」

 少女が何か呟くのと同時にどこからか淡く光る青白いブレスレットを右手首にはめた。

 暗闇の中、唯一の光源であるブレスレットに目線を奪われ、凝視した。

 透明なブレスレットの中に光の粒がいくつもふわふわと浮いている。中には、触れ合い溶けてしまうものや弾けてしまうものもあったが、その度に補うように青白い光は増える。

(不思議な光だな。どんな原理で光ってるんだろ?)

 ぼんやり考えていると、ブレスレットの光に既視感を覚えた。

(ずっと昔、どこかで見たことがある。あの温かな光は……)

 記憶の奥底から何かが叫んでいる。そんな感覚に触れるが、思い出せそうにない。

 もっと深く思い出をたぐろうと意識を集中させるが、またしても少女の声に阻まれた。

「■■■■■」

 聞き覚えのない異国風の言葉にブレスレット――どうしてかそう感じた――が反応する。

 少女の足元に幾何学な魔法陣が展開され、一室を青く照らす。

 いつの間にかブレスレットは光を失っていた。逆巻く見えない力が少女の腰まで伸びた綺麗な髪を重力から開放している。

「完了」

 

 少女の背中から美しくも異形の白い翼が音を立てて幻出した。

 

 




はい、長々とした文を読んで下さりお疲れ様でした。

ようやく物語が動いてきた感じですね。

これからどうなっていくのか楽しみにしてください。

では、感想など待ってます。

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