ネットの調子が優れなくて長いあいだ放置してました。
最近直ったのでまた投稿していきます。
では、どうぞ。
「どうして、ここが?」
流石にいきなり追いかけてきた理由は聞けなかった。やっぱり自分は臆病だな、と辟易する。
「分からない。ただ、夢中で走っていたら君がここにいる気がしたんだ」
その理由は天使には分かっていた。ただ、今は言うべきではない。
グッと言葉を飲み込んで、強く拳を握り締めた。
「赤奈さん。私は……あなたにひどいことをしました。そして、今度はあなたの心を傷つけた。それでも、なぜアナタは私を追いかけてこれるんですか?」
「あのさ――――――」
ガタッ
その音は赤奈が何かを言いかけた時に聞こえた。一瞬だけ重力がおかしくなる。
エレベーターが動き出したようだ。どうやら、誰かがスイッチを押したらしい。
天使は小さくため息をついた。
話は一旦中止だ。他人にこの話を聞かせることはできない。
この後、どうするんだろう。場所を変えて話し合いを続けるのか。それとも、ここでお別れなのか。
答えはどちらも違った。
「ごめん。ごめんなさい!」
唐突に赤奈は頭を深々と下げた。この後のことはまるで考慮に入れてない、計算から外れた行動だった。
毎度ながら突然すぎる。天使は何かしらのアクションも取ることができなかった。
しかし、赤奈は言葉を続ける。溢れんばかりの想いを天使に伝える。
「僕が悪いんだ。僕が先に君から逃げた。そして、君を泣かせた。それが追いかけてきた理由だよ。それに女の子を泣かせたのに追いかけないなんて最低だからね」
もっともすぐに追いかけれなかったけど……と赤奈はバツが悪そうに付け足した。
天使は今度こそ自分の息が止まったのが解った。
どんな言葉を返せばわからない。ただ、胸が詰まりそうなくらい嬉しかった。
まだ、自分は嫌われていない。その一点だけで胸がいっぱいになった。
そうだ。今なら聞けるかもしれない。告白の返事を。
しかし、聞けなかった。口を開こうとした瞬間
目の前が真っ暗になった。
「え、な、何!?」
「う、動いちゃダメだ。これは……!」
天使が狼狽えながら、暗闇の中無用心に動く。どうやら、赤奈の警告が聞こえないくらいパニックに陥っているようだ。次いで、ガタンッと個室が揺れた。。
エレベーターが起動した音ではない。それよりも重々しくて、尚且平和的な音ではなかった。
強い揺れにより二人の体が同じ方向に投げられる。
「わっ!」
赤奈が短い悲鳴を上げる。背中をしたたかに打ち付け、鈍い痛みが走った。間髪いれずに体の上に天使が覆い被せてきた。
「うっ」
カエルが潰されたような声を漏らし、一瞬意識も飛んだ。
「す、すみません。い、今すぐどきます!」
天使が慌ててその場から退こうとするが、焦ってうまくいかないようだ。
目の前の天使すら見えない暗闇で暴れられては困るので、赤奈は天使を支えようと腕を伸ばした。
「……あれ?」
すると、何やら不思議な好ましい感触が伝わってきた。小ぶりだが、弾力のあるそれの正体を探るべく、二、三度力を込める。
「や、やめ――――――!!」
突然耳元でスピーカー顔負けの悲鳴が上がり、またしても赤奈は頭を打ち付けた。同時に体から重さが消失する。その新たな衝撃に目眩を起こしながらも上半身を起こした。
まず視界に入ったのは淡く光る青い何か。それは天使が身につけているブレスレットだ。その小さな光が天使を照らしていた。
ペタリと女の子座りをしている天使はどうしたことか、ちょっと表現できそうにない剣幕で睨んでいた。顔は今までにないくらい真っ赤に染めて、両腕を胸の前に硬く交差している。
――胸…………? あれ、まさか。僕……もしかして、やっちゃった?
突如、直感的に赤奈は先ほど自分が掴んでいた物の正体を察した。同時に、自分が危機的状況に陥っているのに遅まきながら自覚する。
「え……えっと、大丈夫。もう少ししたら大きくなるよ……?」
瞬時に銀色に輝く刀――銀鱗をどこからか取り出し、赤奈の喉元に突きつけられた。
パニックになっていたのはどうやら自分の方らしい。なんと馬鹿なことを言ってしまったのだろう。
すぐさま土下座モードに移行したいが、天使の涙目に浮かんだ殺気が一際強くなった。多分あれは殺るか殺らないかを考えている目だ。
咄嗟に浮かんだ打開策を検討しようとしたその時、薄暗いエレベーターの明かりが付いた。
それでもやっと、お互いの顔の判別がつくくらいだ。
「え、えーと、どいてくれたら嬉しいな?」
「……ふん!」
天使はようやく刀を収め――銀鱗が影も形もなく消える――赤奈の上から退いた。とりあえず、危機は去ったらしい。
アハハ、と乾いた笑みを浮かべながら赤奈はようやく上半身を起こした。
「赤奈さん……何笑ってるんですか?」
「…………はい。すみません」
どうやらそうではないらしい。天使の無機質な声が赤奈の背中をなぞった。その声は出会った時のそれをはるかに超える平坦さだ。
もう今度こそしっかり、額を地面に付けて態度で示した。
この時どうしても思わずにいれなかった。
…………僕ここに何しに来たんだっけ? と
はい、おつかれさまでした。
もうね、謝るために走りに行ったらこのざまですよ。
でも、ようやく、プロット通りに進んできたので僕としては一安心です。
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