これ頑張ったら週二回体制とか出来るんじゃないんだろうか?
大学が始まるまでの限定だろうけど、要望の声があればやってみようかな?
では、どうぞ。
「「………………え?」」
二人の間抜けな声が周りの喧騒に呑まれた。
あまりのことに頭がついていかない。
しかし、二人を余所に司会は進行する。
「さて、一回目はポッキーゲームという恋人の二人には楽々のお題となってしまった訳だが、ルールの説明だ。クリア条件は単純明快。ポッキーゲームをしてキスをしたらOKという至ってシンプルなものだぜ。それでは、スタッフの皆さん。お客様にポッキーを渡してくれYО!」
それにしてもこの司会者ノリノリである。
先に我に返った赤奈はそんなことを思った。
いや、これもただの現実逃避でしかない。
後から復活した天使も口をパクパクと何かを訴えてきている。顔は林檎のように赤く染まっていた。
しかし、赤奈はぎこちない笑みを返すだけでそれ以上は何もできない。
「はい、こちらをどうぞ」
そして、ついにスタッフから茶色の棒のお菓子を渡される。
天使がどうも、とそれを受け取る。しかし、見つめるだけで動くことができない。
周りのカップルまたは夫婦達は照れながらも着々とポッキーを咥えていく。
「そ、それにしてもこのようなものも人間界にあるんですね」
天使は上擦った声で言う。意外にも天界にもポッキーゲームという風習(?)はあるらしい。
赤奈は相槌を打つ。会話でお互いの緊張をほぐすのが目的だと瞬時に察せた。
赤奈は天使の意図を汲んだが、いかんせん彼の頭はパンク寸前だった。
「え、えーと、経験おありなんです、か……?」
おかげでとんでもないことを口走った。
天使の挙動が一瞬止まった。しかし、すぐさま怒りと羞恥が入り混じった顔で怒鳴る。
「そ、そんなわけないじゃないですかっ! キ、キスなんてそんなハレンチなことやってません! 周りの者たちがやっているのを遠目で見たことがあるだけですっ!」
「ご、ごめん。でも、だからって怒鳴らなくても…………というか僕はキスじゃなくてポッキーゲームの話を――――――」
「どっちも一緒ですよ! 赤奈さんのムッツリ! 変態! だから、いやらしいんですよ!」
天使の怒涛の罵倒に小さくなって謝る赤奈。
傍から見たら尻に敷かれている図である。
ただ、必死になって詰め寄る天使は何かを隠しているような気がするが思い過ごしだろうか?
「と、とにかくこれをどうにかしなければ、次に進めませんっ!」
何か案は? と視線を送るが、あいにく赤奈にはゲームを進行する以外思いつかなかった。もしくはここでリタイアかだ。
その意思を伝えると顔を引きつらせた天使はうーん、と唸った。
恐らく貞操観念の強い天使はキスなどしたことがないはずだ。というか本人がそう証言した。
つまり、これがファーストキスになる。
こんな形では不本意だろうし、何より相手が自分などダメに決まっている。
所詮、赤奈と天使は友達なのだ。
それ故に真正面から断りづらいのだろう。
ならば、自分から切り出すしかない。
「よし、ここはリタイアしよう。こんなので君のファーストキスを奪うなんてできないしね」
ピクリと天使が動きを止めた。
「ファースト、キスですか…………」
天使が何かを呟くが、赤奈には聞き取れなかった。
ただ、その表情には陰りが見える。
まるで後ろめたい秘密を抱えているような――そんな顔だ。
自分はフォローをしたつもりなのに、天使の様子がおかしくなるなど計算外だ。
「……やりましょう。赤奈さん。ポッキーゲームを」
茫然としていた赤奈にか細いが、覚悟のこもった声がはっきり聞こえた。
耳を疑うよりも早く天使の顔を見る。
小さな肩を震わせ、僅かに羞恥に頬を染めながらも、その瞳は力強く光っていた。
何が彼女をそこまでさせるのか?
赤奈には何一つ解らなかった。
ただ蒼い瞳に魅入られたのか、こくりと頷く。
ポッキーを受け取っていた天使が茶色の先端を咥えた。続く赤奈も呆けたように咥える。
じっとりと体中から汗の感触がした。
心臓が早鐘のように鳴り響き、耳が痛い。もはや、お菓子の味など感じやしない。。
それから、麻痺した思考が自然にある天使へ意識を移した。
長い、整ったまつ毛。雪のような白い頬は恥じらいで、薄赤く染まっている。そして、最も目が惹かれたのは艶やかで、奥ゆかしい、桜色の唇。
それを見て、天使がちょっとありえないほどの美人だと再認識する。
探るようにお互いの距離が縮んでいく。
一歩、一歩ずつ。
それに同期するように心臓が更に鳴り響き、薄くなった思考が甘く溶けていく。
もはや、考える余地はほとんど無かった。
天使はいよいよ怖くなったのか目をギュッと瞑った。
そして、お互いの吐息が額にかかるくらいの距離で――――彼はヘタレた。
限界だった。熟れた果実よりも赤い顔でバッと退く。
最後のひとかけらを飲み込んだ天使はえっと両目を丸くしている。事態を把握できていない顔だ。
一気に罪悪感が押し寄せてきた。
「ご、ごめん!」
それでもなんとか謝罪を口にし、逃げるように走り出した。
「あ、赤奈さん!?」
後ろから困惑気味な天使の声が聞こえた。だが、構わず足を速める。
スタッフの制止の声も振り切り、赤奈は部屋から出て行った。
「赤奈、さん?」
一人置いていかれた天使はその場でただ立ち尽くす他無かった。
あれから無我夢中で走っていた赤奈は3階のベンチで頭を抱えていた。
どうやってここまで来たかはあまり覚えていない。走りながらもさっきの件で思い倦ねていたからだ。
色々あるが、天使を置いていったのは一番まずかった。最低だ、と呟き自己嫌悪に陥る。
ただ唯一の救いはキスをしなかった事だ。
別にしたくなかったわけではない。男なら誰だってあんな可愛い子と出来て嬉しいはずだ。
しかし、あんな形で初めてを、とは思わない。もし、していたなら今よりもっと自分は後悔をしていたはずだ。
「でも、やっぱり、逃げたのはダメだったよな。今からでも戻るべきかな……」
どうしたものかと停滞していると
「赤奈さん。……やっぱり、ここにいたんですね」
聞き覚えのある声。見上げるとそこには表情を曇らせた天使が佇んでいた。
――――やっぱりとは? どうしてここが? 今にも泣きそうに見える。
他にも脳裏で様々な思惑が交差し合ったが、死ぬほどどうでもよかった。僅かな逡巡を蹴飛ばし、立ち上がった。
そして、深々と頭を下げる。
「ごめん。本当にごめん。許してもらえないかもしれないけど謝るよ。本当に――――」
「赤奈さん」
鋭さや持ち前の人を惹きつける美声でもないただの声。しかし、その抑揚のなさが逆に疑念を呼んだ。
顔を上げると天使は何かを堪えるような面持ちだ。
声が出なかった。どう声を掛けたらいいのかも解らない。名前を呼べばいいのか? でも、自分は…………
しかし、考えがまとまるよりも先に天使はどこか諦観めいた口調で問いかけた。
「赤奈さん。赤奈さんは私のことどう思っています?」
はい、お疲れ様でした。
今回暗すぎて自分でも大丈夫かよ! と思いました。
普通ならは笑って済ますギャグパートだけど、思春期だしこんな風にこじれるんじゃないかな?
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