少し遅れたけど許容範囲ですよね?
では、どうぞ。
「んー、頭がキーンってなる~!」
赤奈は一気にアイスを食べたせいで顔をしかめ、こめかみを指で押さえる。その様子に呆れたように天使はため息を吐いた。
「はぁー、一気に食べれば当然ですよ。…………それで、次はどこに行くんですか?」
「そうだなー。ここって色々あるからね。迷っちゃうよ」
腕組みして考え込む赤奈。どうやら候補がありすぎて困っているようだ。
天使としてはどれも初めての体験で、何でも楽しめれる、と考えている。
しかし、せっかくのデートなのだ。できれば赤奈にも楽しんでほしい。
何かないのか、と窓に目をやる。そして、それは飛び込んできた。
(あれは……!)
視界に入ったのは例のポスターだ。そして、赤奈に不自由を強要した原因でもある。
ハートのデコレーションを施したポスターの内容はいたってシンプルだ。
最上階である5階のフロアで『カップル限定』のイベントがあるそうだ。そこで行われるゲームで優勝すれば特別な品が贈られる、といった内容だ。
なぜこのようなイベントがあるのか不明だが、悪天候でも人が多いのに納得がいく。
(それにしても面白そうだな……)
天使は性格に反して割とお祭り騒ぎなどを好む方である。
故に参加してみたいと心の片隅で思ってしまう。
ただ、問題がいくつかあった。
まず一人では参加できない。男のパートナーが必要だ。この点は赤奈に頼めば承諾してくれるかもしれないが言い難い抵抗を覚えた。
なぜかはわからない。別に赤奈のことが嫌いと言う訳ではない。しかし、どうもこのポスターを目にすると動悸が酷くなる。
ここへ来る途中何度も心臓落ち着かせようとするが、それは結局叶わなかった。
しかも、その度に赤奈の顔が脳裏を過る。そして、胸がギューと締め付けられるのだ。
だから、赤奈にポスターを見て欲しくなかった。様子がおかしいことを気取られたくなかったからだ。と言っても彼は全く気付いていないようだが。
(それにしてもなんだろうこの気持ち。赤奈さんの傍にいるとモヤモヤする。でも、ワクワクしてて、それでいて切なくて。私、どうしたんだろ……)
何かに気付きそうだ。ただ、どれだけ考えても霞のかかったこの気持ちに終止符を打てそうにない。
「君はどこか行きたい所ある? 絶賛アイディア募集中」
赤奈がそう問い掛ける。天使は一旦名の知れぬ感情を胸に仕舞い込み、提案した。
「ゲームセンターはどうでしょう? あそこなら二人共楽しめると思います」
「んー、悪くないけど。あそこはあんまり雰囲気よくないからな…………もしかしたらたかられたりするかも」
赤奈の反応はあまり好ましくない。多少柄の悪いお兄さん達に絡まれても天使なら撃退できるが、そういう問題ではないらしい。
「んー、でも、ずっとここに居るのもいけないよな…………あれは?」
赤奈は何かを見つけたようで、カウンターを凝視した。
釣られて振り返った天使はそれを見てギョッと目を剥いた。
赤奈が見つけたのはピンク色のポスターだった。内容は言わずもがな。
なぜここにあるんですか! と叫びそうになる。しかし、店の辺境の地とは言えここはあくまでデパート内だ。あってしかるべしだろう。
天使は自分の思慮不足が招いた結果に体を強ばらせる以外できなかった。
怖い。聞きたくない。ネガティブな思考がまるで荒波のように押し寄せてくる。しかし、それでいてもう一人の自分が赤奈の反応を期待している。
矛盾した気持ち。やはり自分は素直になれないと心の中で自嘲の笑みを漏らす。
「あのポスターなんだけど……」
気弱な笑みを浮かべる赤奈。それを見て天使は落胆に近い気持ちを感じた。
なぜそんな心情になったのかは解らない。天使はただ様子がおかしいことを気取られたくなかっただけのはずだ。一体なぜ?
考えれば考える程こんがらがって、答えが遠ざかっていくような気がする。
そうやって立ち止まっている内に赤奈の言葉が紡がれる。そして、その言葉は天使に予期せぬものだった。
「なんていうか――――面白そうだよね。二人でこ、恋人の振りでもして参加する? なんちゃって」
最後は恥ずかしくなって茶化したが、天使はそれどころでは無かった。
聞き間違い、あるいは幻聴かと思った。しかし、赤奈のひどく緊張した有様からそうでない事が読み取れた。
天使は一、二もなく頷いた。
それを見た赤奈の表情が驚きに染まる。
「え、いいの? め、迷惑じゃなかった?」
「い、いえ。私も参加したい、と思ってましたから!」
どこかぎこちない雰囲気だが、二人の表情は明るい。
特に天使なんかは子供のように瞳をキラキラと輝かせていた。
「なら、善は急げだね。お会計は僕が済ませておくから先に表で待ってて」
「そんなっ! 悪いですよ。私も天界からお金の方は支給されているので自分の分は自分で払えます」
慌てて天使が遮る。しかし、赤奈は柔和な表情で首を振った。
「いや、ここは僕に払わせてもらえないかな? 僕の顔を立てるためだと思ってさ」
それに僕も一応、男だし。最後にそう付け足して天使に笑いかけた。
ここまで言われると断ることはできなかった。
それにこれ以上食い下がると赤奈の気持ちを無下にするようで悪い気もする。
渋々ながらも天使は小さく頷いた。
「では、今回はご馳走になりますね。先に表で待っておきます」
ペコリ、と一礼してそのまま天使は踵を返した。
その足取りは軽く、どこか浮かれているように感じる。
何かいいことがあったのかな? とゆらゆら揺れる金色のポニーテイルのしっぽを見送りながら赤奈はそんなことを思った。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
実は水曜日から土曜日にかけて台湾へ卒業旅行兼里帰りしてました。
6年ぶりの台湾でとても有意義でした。
また行きたいですw
では、感想や誤字脱字の指摘お待ちしております。