バイトが忙しくて……(甘え)
24話の下書きはまだ途中です。
では、どうぞ。
あの後、口元を抑えながらトイレへと駆け込んだ天使は幸い吐き気を催すだけで済んだ。
胃をムカムカさせながら戻るとテーブルの例のゲテモノ料理は皿ごと姿を消していた。
まさかたった数分で二人分のアレを平らげたと?
何食わぬ顔でティーカップをすする赤奈に畏れを感じる。
「やぁ、おかえり。もったいないから君の分も食べといたよ」
「……はぁ、どうも。残したらいけませんからね悪奈さん」
「うん。語呂が良いからスルーしそうになったけど僕の名前は赤奈だ」
「間違いました。悪魔さん」
「誰が人類の敵だ」
くだらない掛け合いをしながらも天使もココナッツミルクを口に含む。
程よい苦さの後に追ってくる微かな甘味が喉を通過する。
なんとも不思議な味で思わず二口目で一気に飲み干した。
「でも、悪魔さんというのもあながち間違いではありませんよ?」
「ん、どう言う意味だい?」
ティカップをソーサーの上に置いて赤奈の疑問に答える。
「悪魔の好物は芋虫やカエルですから。後女性の肉とかもです」
流石の赤奈もウヘッ、と顔を顰める。
どうやら彼はまだカエルには手を出してないらしい。いや、今のリアクションは人肉に対してなのか? もしそうなら相当な猛者である。
「なら、このメニューを紹介した僕の担当医も悪魔かもね。あの人カエルもいける口だし………………悪魔といえばあれから僕の状態はどうなってる?」
打って変わって真剣な表情で問う赤奈。
状態というのは今朝話した赤奈の存在という意味だろう。
「少し待って下さい」
瞳を閉じて、意識を集中させる。
数秒後、天使は複雑な顔を作る。
「まだ何とも言えませんね。変化なしです」
「うーん。ひとまず安心……なのかな?」
赤奈は曖昧な笑みを浮かべた。
持病の他に問題が発生しているのだ。あまりいい気持ちはしないはずだ。
そう考えると天使の気持ちが沈んだ。もはや天使にとって赤奈のことは他人事ではない。
それに彼の病による謎の発作もそうだ。自分は何一つ赤奈の力になれていない。
せめて彼に安らぎを与えれればどんなにいいか。
(あれ? そういえばなんで私はこんなにも赤奈さんの病気に詳しいんだろう?)
曖昧な記憶の中だが、契約者の話では病を抱えてるしか聞いていなかったはずだ。
もしかしたら失われた記憶と関係があるのかもしれない? もしそうならそれはいったい…………
「お待たせいたしました。バニラアイスとチョコアイスでございます」
そこで注文した覚えのない品がテーブルに置かれた。やむなく思考を中断する。
「これは?」
「僕が頼んだんだ。さっきので台無しにしちゃったからね。どっちにする?」
ニコニコと笑う赤奈に少々唖然する。
普通なら少しくらい何か思うはずだ。しかし、赤奈からその様子は見られない。
(まったく、豪胆なのかお気楽なのか…………不思議な人だなー)
「あ、笑った」
「え?」
嬉しそうに指摘する赤奈に言われ、頬が緩んでいることに気付いた。
「さっきから難しそうな顔してたからさ。そんなに考えても仕方ないよ。きっとなるようになるって。それに笑った顔の方がかわいいよ」
「…………今朝の続きですか? からかわないで下さい」
「……本音なんだけどな(ボソッ)」
赤奈が何かを呟いたようだが、この距離でも聞き取れない音量だった。
しかし、天使は特に言及するわけでもなくチョコアイスをたぐり寄せる。
「ん、チョコにするの?」
「ええ、しばらく白い食べ物はこりごりです」
「あ、あはは」
あれだけのものを魅せられたのだ。皮肉の一言くらいいいだろう。
スプーンでチョコアイスをすくい口へ運ぶ。
冬でもこのヒンヤリとした味わいに季節は関係なさそうだ。
「…………それもおいしそうだね。どう一口交換しない?」
バニラアイスの半球を突付きながら、期待の眼差しを送ってくる。
「下からそれが目的でしたね。だから、違う種類のを選んだんですか」
「うん。こうしたら二度お得でしょ?」
「意外と食い意地張ってるんですね。私の意地っ張りと比べるとどうなんでしょう?」
「ドングリの背比べじゃないかな?」
「それは相当ですね。…………では、そちらからお願いします」
「じゃ、あーん」
赤奈がアイスの乗ったスプーンをごく自然に差し出す。
余りにも慣れた動きだったためか、天使も何の抵抗もなくそれを口にした。
そして、アイスが喉を冷やす頃にあれ? と思い当たる。
今の恋人っぽくないか?
『恋人』というフレーズにあちこちで貼られているポスターを思い出すが、気恥かしさと共に脇へ押しやる。
「じゃ、次、僕にそれちょうだい」
「え、あ、はい。あーんです」
ポスターの件で動揺してアイスを差し出してしまう。
彼も躊躇いなくそれを頬張った。
そして、満足そうな顔が急に硬直した。
どうやら彼も天使と同じ末路を辿ったらしい。
「「……………………」」
ナニヤラセテルンデスカ
ツイムカシノクセデ
次いで二人して音高くテーブルに顔を伏した。
顔、いや、体中が熱くなっていくのが分かる。
「えーと、ごめん。その、昔妹とよくやっててつい……」
「やめてください。今その話をされると焼死体になりそうです。違う話題を」
傍目から見てもおかしな構図だ。しかし、それを配慮できないほど当の本人たちの心情は荒れている。
赤奈も会話で気分を紛らわすのには賛成のようでくぐもった声を出す。
「その金髪って自毛? あと瞳の色も。君の顔って日本人っぽいんだけど……」
「赤奈さんが訊いてこなかったので言い忘れてました。天使は転生するとき、容姿に変わりはないんですけど、髪は金色。瞳は青系統なんですよ。天使の共通点です」
「あー、なるほど。だから、不思議な容貌なんだね」
天使の容姿は金髪碧眼のおかげで浮世離れな印象を受ける。
なにせ顔の輪郭は日本人だ。それに元の顔をかなりレベルが高いので、拍車が掛かっている。恐らく生前でも可愛いらしい顔をしていたに違いない。
「容姿について赤奈さんにとやかく言われたくないですね。赤奈さんだって可愛らしい顔をしているじゃないですか」
「うわっ! やめてよ。昔姉妹に間違えられたことがあるんだ。……可愛い娘さん達ですねって。幼いながらも男のプライドを傷つけられたよ」
「でしょうね。その辺にいる女の子よりも顔いいですし。ああ、だから女装癖に目覚めたんですか」
「ちょ、だから、それは違うんだって! 深い訳があるんだよ」
顔を上げて猛烈に抗議するが、天使は聞く耳持たずだ。
「アイスが溶けそうですよ」
むしろ、涼しそうな顔で残りのアイスを口に運んでいる。
赤奈も諦めるしかなく、やりきれない鬱憤と一緒にアイスを飲み下した。
はいお疲れ様です。
なんだろ全然話が進まない。
もっと字数増やすべきか……
次くらいで喫茶店から出たいかな?
では、感想や指摘などお待ちしております。