バイトが忙しくて下書きが全然進まない。
とりあえず今週中に下書きノートを使い切りたいなー
では、どうぞ。
「すみません。遅くなりました」
巷では女性の準備というのは最低でも30分かかると聞いたことがあるが、天使はその例に漏れたようだ。
思いのほか早かったが、それでも寒天の下で15分も待たされたのだ。どう文句をつけてやろうか、と考えながら振り向くと目に飛び込んだ光景にはっと息を飲んだ。
先程まで簡素なワンピースを身につけていた天使は別人のように変わっていた。
赤奈とは別種のコートを羽織っている。白のツイードだ。その下にアイボリーのニットと、赤いアーガイルチェックのスカート。
全体の色彩が赤白という実に女の子らしいカラーは金髪碧眼の彼女にもよく似合っていた。
しばらく、見惚れていると天使が恥ずかしそうに両腕を胸の前に重ねながら尋ねた。
「な、何か変でしょうか? できれば、おかしなところを指摘してもらえると助かるのですが…………」
「え……いや、そんなことないよ! 似合ってる! 馬子にも衣装とはよく言ったものだね」
最後の一言は余計だ、と自覚するがここで素直に『かわいい』などと言える程、赤奈の対女性スキルは高くない。
「もう! そこは素直にかわいいと言えばいいじゃないですか」
ぷくっと赤い頬を膨らませる天使は案の定不服そうだ。
これ以上天使の機嫌を損ねるのは赤奈の望むところではない。
(もうこれは言うしかないのかな? あ、そうだ。これは天使の機嫌を取るためにいうんだ。取るためなんだ……!)
そのように自分に言い聞かせ、固く決心をする。
そのような赤奈の少し困った姿を見て天使は満足げに笑っていた。
真実を話すと、別に彼女は『かわいい』と言ってもらうつもりなどなかった。
本の少し赤奈を困らせてみたかっただけなのだ。
つまり、目的は充分達した。そろそろネタばらしといこうではないか。
「なんーて、冗談――――」
ですよ、と言葉が出るよりも先に赤奈がズイと近づいた。
突然のことで、思わず身を引いてしまい、言葉が途切れてしまった。
そんな天使にお構いなく赤奈は彼女の要望に応えた。
「かわいいよ」「ふぇっ!?」
意外にも女の子っぽい反応をする天使に赤奈は目が点になった。
どういうことだ? 反応がおかしいぞ、と赤奈は訝しげな視線を天使に送るが、当の本人はわざとらしく目を逸らす。
その怪しい行動にピン! と来るものがあった。さっき天使が言いかけた言葉をよく思い出す。
(ふーん、なるほどなるほど)
天使の考えを察した赤奈はにやり、と悪魔のような笑みを浮かべた。
「ね、君ってモデルみたいな体してるよね。スレンダー体系っていうのかな?」
「きゅ、急に何を…………」
明らかに何かしてきそうな様子に天使はたじろぐ。
赤奈はこれ以上にないくらい満面な笑顔を浮かべる。
「いや、何って言われてもねー。僕はただそっちの要望を答えようとしてるだけだよ。だから、かわいいよ」
「なっななななな!?」
もはや言語すら自由に操れなくなりつつある天使の慌てふためく姿は今すぐカメラに収めたいくらい愛らしいものだった。
もっと見たい、という悪戯心と下心を赤奈は我慢できそうに無かった。
さっきの仕返しを兼ねてさらなる追撃を試みる。
「かわいい超カワイイ。ポニーテールからチラチラ見えるうなじとかものすごく僕好みだし、こんなに寒い中雪にも負けないくらい透き通った素足晒すなんて僕的にもポイント高いよ!」
正に褒め殺しとはこのことだ。
妙にテンションの高い赤奈から聞こえる言葉はもはや天使には理解不能だった。しかし時折混じる「かわいい」に頬が高調し、全身の血が熱くなる。
今まで味わったことのない感情が胸を満たし、どうしたらいいのか分からなくなる。
それが天使の顔に出ていたのか、赤奈もやりすぎたことに気付いたようだ。
すぐさま平謝りモードへ移行する。
「ごめん。そんなつもりじゃ無かったんだ。その、つい出来心で…………」
申し訳なさそうな赤奈に対して天使はよほど恥ずかしかったのかまだ赤みのある顔を背けた。
それよりも困らせようとしたのにものの見事に倍返しを喰らったことが悔しかったようだ。
天使がどこか拗ねた口調で赤奈を責め立てる。
「やっぱり、赤奈さんは変態ですね。私を困らせて楽しんでしまう特殊な性癖をお持ちのようです」
「うっ……別にそんな性癖を持ってるわけじゃないんだけど…………」
辛辣な物言いに赤奈はたちまち子犬のようにシューンとする。
そんな赤奈の耳に「プッ」小さく吹き出すような音が聞こえた。
顔を上げると天使の白い手を隠した毛糸の手袋が彼女の口元を抑えていた。
――――え……笑っている? あの冷徹な天使さんが?
含み笑いではあるが、初めて見せる純粋な笑顔に唖然と立ち尽くしてしまう。
やがて、笑みを引っ込めた天使はどこか見たことのある表情で赤に詰め寄った。
「ジョーダンですよ。冗談。さっきの仕返しです」
どこか楽しげに言う天使は赤奈の顔を覗き込んだ。
天使の思わぬ行動に赤奈は黒い瞳を揺らしながら、身を仰け反らせた。
それもそうだ。赤奈と天使の距離は互いの鼻先が触れ合うくらいまで縮まっている。女性に免疫のない彼ではとてもだが冷静でいられる状況ではない。
天使も分かってやっているのか不敵な笑みを浮かべた。
いつのまにか立場が逆転していることよりも何か話さなければ赤奈の心臓が破裂しそうだ。
とにかく何か、と回らない舌で必死に言葉を紡ぐ。
「ちょ、ちょっと近いんじゃないかな…………?」
「近くしてるんですよ?」
「なっ…………!」
どうにか口にした言葉もあっさりと返されてしまう。
さらに動揺したため僅かながらも自分から距離を縮めてしまった。
それでも天使は身を引かない。
むしろ、それを挑戦と受け取ったのか天使は更に顔を近づける。
(ちょ、ちょっと待ってよ!? 本当にやばいから! これ以上はマジで!)
心臓の音が今までに無いくらい高鳴っている。
いよいよ唇が触れるか触れないかの距離でようやく天使は止まった。
超至近距離になって初めて気付いたが、天使の白い肌は赤みを帯び、瞳孔が定まっていなかった。
天使も引くに引けなくなったのだろう。動揺が伝わってくる。
そんなお互い身悶えするような息苦しい雰囲気のまま二人は固まってしまった。
しかし、この距離だと赤奈はいやでも意識してしまう。天使の唇を。
そして、それは天使もだ。
ようやく定まった焦点は一つしか見てなかった。
赤奈の微弱な吐息が前髪にかかる度、頭がボーとなっていく。
「赤奈さん……」
天使が目を閉じた。この行動に赤奈の動悸が加速する。
(え、これってつまり、そういうことなのか……?)
もうそこまで思考した時には、赤奈は考えることを放棄した。
本能に赴くまま、手を天使の細い肩にかけ、そして――――
『フォ! フォ!』
甲高いクラクションに二人は魔法が解けたかのように意識を取り戻した。
二人揃って音の方に目を向けると目的のバスがすでに停車していた。
そこでようやく自分たちの置かれている状況を認識し、同時にばっと離れる。
天使が取り繕うように言う。
「バスが来ましたね! 早く乗りましょう!」
「そ、そうだね。乗ろう乗ろう!」
赤奈も同調したが、二人は顔を背けたままバスに乗り込んだ。
やがて、バスが動き出したあとも赤奈と天使は互いに目を合わせようとしなかった。
赤奈は顔が熱くなっていくのを意識しながらも思わずにはいられなかった。
――――僕は今、一体何をしようとしたんだろ?
それに答える者は誰もいない。
はいお疲れ様でした。
少しお知らせがあります。
次回の投稿からは日曜18時から日曜0時に変えようと思います。
理由はなんとなく以外ありませんが覚えといてください。
それにしてもキャラの服装がむずすぎる!
天使の服装なんて某レイピア使いさんの服装丸パクリ……!
なんかいい資料があるサイトとかありませんかね?
いつもより長文ですみません
では、また来週!