天使がなくしたもの   作:かず21

15 / 48
ついに下書きが切れました。

あと、今週からテスト週間なので来週は休みです。

では、どうぞ。


泣いた理由

「僕と、友達になってくれないかな?」

「!」

 天使は驚愕に打たれ、表情が固まった。

 しかし、それも一瞬のことで徐々にしわを寄せ、突然、嗚咽を漏らし始めた。

 今度驚くのは赤奈の番だった。

 細い肩を小さく震わせ、泣きじゃくる姿に暗然とした気分になる。

 赤奈は身じろぎひとつ出来なかった。なぜなら、目の前で女の子に泣かれた経験がほとんど無かったからだ。最後にそれと対峙したのは、小学校低学年の頃だ。おもちゃを壊した妹がぐずっているときも今のように一歩も動けなかったのだ。

 そんな彼が何かできるわけなくもなく、掛ける言葉すら見つからない。

 代わりに嫌な考えだけが脳裏を駆け巡っていく。

――――何で泣いているんだろう。そんなに僕と友達になるのが嫌だったのか。こんなんだったら言わなかったらよかった。よし、今からでもなかったことに…………

 暗闇に沈んでいく赤奈の意識が逃げの一言を喉元まで押し寄せる。

 しかし、天使の嗚咽混じりの声の方が早かった。

「ごめんなさい。泣くつもりはなかったんです。あまりにも嬉しくてつい――――」

 赤奈は一瞬言葉の意味が解らなかった。

 ――彼女は今なんて言った? 嬉しいって言ってくれたのか?

 もはやまともな思考ができなくなりつつある赤奈を余所に天使は涙声のまま続ける。

「私は今まで記憶がないことで自分が解らなくて、記憶の手がかりを探していたんです。自分は一体どんな人間だったのか。自分はどんなことが好きだったのか? 家族は? 友達は? どれだけ探しても解らなかった」

 天使の言葉はひどく重く、悲しみに溢れていた。

 いつの間にか赤奈は考えることをやめ、天使の掠れ声しか耳に入らなくなっていた。

「だから、なんですかね。私は自分のことで精一杯で他人を省みようとしなかった。気付くと私は周りから孤立していました。そして、記憶喪失がバレてしまい、前例のない天使として、私はより一層他人と距離ができ、気味悪がられた挙句迫害を受けたのです」

 赤奈の頭が重い話によって軋みを立てる。

 停止していた思考もそれに同期するように徐々に活性化を始める。それに追い討ちを書けるように赤奈の冷え切った手を天使の両手が包んだ。

 右手が熱をこもるのと同時に一気に鼓動が跳ね上がったる。

「! な、また!?」

 脈略なく発作の予兆に頭を抱えそうになるがそうも言っていられない。痛みに備えるために咄嗟に身を固くする。

 赤奈は予兆と発作の僅かな合間にどうしてもこの病について考えてしまう。

 まずこの発作は前触れなくやってくる。原因は不明。判明しているのは現代の医学で完治できないことといつか赤奈の命を奪うということだけだ。

 今は仁矢の処方する薬で発作の間隔を長くしているが、最近は頻繁に起きるようになっている。

 と、そこまで考えたとき、赤奈はいつまでたっても発作が起きないことに気付いた。

 恐る恐る体の力を抜き、ホッと胸に詰めていた息を吐く。

 どうやら自分の勘違いだったようだ、と赤奈は首を傾げ、今度こそ考えるのをやめた。

 そんな赤奈の様子に気付かぬまま、天使の一人語りは続く。

「それで、私は今まで友達という存在がいなかった。だから、その、アナタに言われて嬉しくなり、つい泣いてしまいました。ごめんなさい迷惑でしたよね。でも、だからこそ、私からも言わせて下さい」

 赤奈の手がギュッと強く握り締められた。

 またも強く心臓が強く脈を打つ。

 そして、天使の桜色の唇から待ち望んでいた言葉が流れた。

「私の友達になってくれませんか?」

 突然、目元がじわりと滲んだ。

 たかが友達で、と思うかもしれないが、赤奈にとっては切望してやまなかった存在がようやくできたのだ。涙腺が緩んでも致し方あるまい。

 そして、それは天使にだって言えるはずだ。

 ようやく引っ込んだはずの涙が赤奈からもらい泣きしたかのか、急に瞳が潤み始めた。

「はは、急にどうしたんだい? 泣きそうになって。全く……泣き虫だね」

「赤奈さんこそ涙声ですよ。――――私たち似た者同士ですね」

 そこで二人同時に微苦笑。

 この一瞬一瞬、二人の心は繋がっていた。

 昨日出会ったとは思えないほどに……

「では、参りましょう! エスコートをお願いしますよ?」

 しみったれた雰囲気を吹き飛ばすために天使が冗談めかしに張り切る。

 赤奈もそれに合わすように丁寧にお辞儀して

「かしこまりましたお嬢様……とその前に君のその服をどうにかしないとね」

 冬にワンピースは目立つ、と指摘する。

 天使もなるほど、と頷いた。

 赤奈は愛用のスリッパを履いて、天使の傍を横切り、クローゼットをおもむろに開いた。

 そして、ガサゴソと中を探り始めた。

 その様子を見て、つい天使は興味本位でクローゼットを覗いた。

 中は存外、綺麗に片付いていた。いや、あまり使われていないというべきか。

 生活感の無さに違和感を覚えるが、それを上書きするような情報が目に飛び込んだ。

「あ、赤奈さん?」

「え、何?」

 手を止めて、赤奈は振り返った。

 そこには『恐怖ここに極まれり』といった表情で立ち尽くす天使の姿があった。

 一体どうしたんだ、と口にしようとしたら、それより早く天使が標準の定まらない指先を赤奈に向けた。

「赤奈さん。その手に持っているのは、なんですか?」

 からの名誉のため敢えて何とは明言しないが、女性の身につける布だと伝えておこう。

 赤奈も彼女の言わんとしたことが解ったのか、急いでピンクのそれを背に隠す。

 だが、時すでに遅しとかのレベルじゃないくらい遅しだ。

 天使の羞恥心メーターが振り切り、マシンガンの如く罵声を捲し立てた。

「へへへへ変態! なぜ女性の下着を持っているんですか! 一体どこから盗んできたのです! この下着ドロボーの人間のクズ! エッチ! スケベ!」

「へへへへ変態ちゃうわ! ――――こ、これには深いわけが………………って逃げないで!? せめて話を聞いてくれーーーー!」

 友達になって早々。二人の関係に亀裂が走ったようだ。




はいお疲れ様でした。

来週は休みですが、18話はようやく病院から出ていけそうです。

下書きも切れたから今以上にペースを上げなきゃ……!

感想や誤字脱字の指摘をお待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。