いやー、どうにか書き終えることができました。
今回は一人称で進めます。
では、どうぞ。
4
ジリリリリ! とけたましい時計の重音が耳元で鳴り響いだ。赤奈の意識がゆっくりと覚醒していく。重いまぶたを持ち上げると見慣れた白い天井が目に入る。
「ここは……僕の部屋? 一体どうして……」
寝ぼけた頭で昨夜のことを思い出そうとする。しかし、どうも記憶の終極だけはっきりと思い出せない。一つ一つ順を追って思い出す。
――確か、僕は屋上で天使とファンタジーよろしくな戦いをして、それから、落ちてくる天使を死ぬ覚悟で受け止めて――――
「そうだ! 確か僕は――」
思わず叫んだ後、すぐに異変に気付いた。
体を支えていた腕で、破損した部分に触れる。破裂したはずの内蔵はそこにあり、砕けたはずの骨も正常だった。もちろんこうして無事を確かめている腕も正常だ。
混乱してしまいそうになる寸前、膝辺りから何かがもぞ、と動いた。視線を落とす。
そこにいたのは金色のポニーテールの少女だった。丸めた両腕と共に膝の上でうつぶせてるので、誰かは分からない。――――本当は分かってるがありえない、と脳が拒絶する。
――昔、妹もこんな感じで看病してくれたよなーよくみたらどことなくあの子に似てるし……あ、じゃ、この子は僕の妹か。おーい、結希起きろ。朝だぞ。
現実逃避のため益体もないことを考えていると少女はこちらに寝返りを打った。端正な寝顔が現れた。
「う~ん。お兄ちゃん……もう、食べれ、ないよ」
「なるほど。本当に僕の妹だったのか」
微笑ましい寝言にボケで返し、どうしてこうなった、と肩を落とす。
小動物みたいな愛くるしい寝顔に騙されそうになるが、少女の正体は昨夜、激戦を繰り広げた天使だった。
――やっぱり妹の件は無しで。些細な喧嘩で毎回土下座しないといけなくなる。
「アホなこと考えても仕方ない。現実を見よう。うん、それがいい」
自分をそう言い聞かせる。助けることができた。それでいいいじゃないか。
しかし、なぜこんなところに? と疑問に思う。天使に聞いてみないと解からないが、質問しようにも彼女は見ての通り夢の中だ。自分の体が無事の理由も聞きたいので一刻も早く起こしたいが、正直、寝ている女の子の対処の仕方なんて赤奈辞典には載っていない。
しかし、このまま待つのは得策ではない。看護師が様子を見に来るかもしれない。というよりも朝食の時間まで猶予はあまりない。
意を決して、天使を起こそうと手を伸ばす。ジワジワ距離を詰め指先が触れる一歩手前に天使はビクリ、と体を震わせた。慌てて手を引っ込める。
「むにゅ……」
天使が謎言語を呟き――笑いそうになった――パッチと瞬きし、赤奈を見上げた。
形のいい眉が僅かにひそめられる。上体を起こし、金色の髪を左右に揺らしながら、辺りを眺める。最後に赤奈を見て――ガタッと派手な音を立てて飛び起きた。
瞬時に透明な肌を赤く、青く、赤く――おそらく羞恥、驚愕、激怒の順――コロコロと色を変える。お前は信号機か。
「なっ……見て……うぅ」
またも謎言語を口ずさむ天使に向かってガチガチの笑顔で挨拶をした。
「おはよう。いい夢見れた?」
天使は俯いたまま、細かく震えている。
微妙な沈黙が続いた。
「…………ます」
「え? 何だって?」
「おはようございます! そう言ったんです!」
爽やかさに欠ける挨拶だ。
「ま、まぁ、椅子にかけなよ。君と話したいことがあるんだ」
天使に一夜を共にしたであろうパイプ椅子に座るように勧める。
「……奇遇ですね。私もあります」
失礼します、と天使は律儀に断りを入れて椅子に腰を下ろした。
「まず、君に言わなくちゃいけないね」
「……そうですね。覚悟はできてます」
やけに毅然とした物言いにたじろいでしまう。
「え、えーと、その、まぁ、ね」
結果、赤奈の思考を馬鹿正直にトレースした脳は歯切れの悪い言葉しか出なかった。
「なんですか。はっきり言ってください。そっちのほうが気が楽です」
「そ、そっか。じゃ、遠慮なく」
そうは言ったものの、照れくささが勝り、上手く言えそうになかった。
なので、赤奈は視線を泳がせ、頬を掻きながら
「ありがとう。一晩中、傍に居てくれて。それに、ここまで運んでくれたことも」
精一杯の感謝を述べた。余計に恥ずかしさが込み上げてくる。
なのに
「え? ええええ!?」
可愛らしい声に似合わない大きな驚き声が部屋に響く。
……まだ朝ですよー
赤奈は呆れ顔を浮かべ、面食らってる彼女に言う。
「いやいや、何に驚いたのさ。君だろ? ここに運んでくれたのは」
「そうですけど……まさか、お礼を言われるなんて思わなくて……私はあなたに酷いことをしたんですよ? まさか、打ち所が悪くて忘れてしまったんですか?」
昨日までの刺々しい雰囲気の天使はそこにはいなかった。
シュンと俯いているしおらしい姿は大人びた振る舞いよりもこっちの方が余程らしい気がする。
「いや、覚えてるけどさ、もういいんだよ。怪我もなんでか治ってるし…………あ、そういえば」
思い出したようにもう一度訊く。
「これも聞きたいことの一つ。僕が君を受け止めた時に骨とか折っただろ? なのに、元通りだから気になって……何か知ってる?」
「えっ……いえ! わ、私は何も知らないです!」
そう尋ねただけなのに、天使は急に慌てだした。
なんでか顔が赤い。ゆでダコのようだ。
あたふたとしきりに顔を振る天使をどうやって落ち着かせようか、と考える。ひとつだけ思いついたが、しかし、若干、いや、かなり気が引ける行為だ。
――まぁ、仕方ない。話も進まないし。それに天使の反応も気になる。
心の中で言い訳をして、手を伸ばした。度は引っ込めることなく、手をサラサラとした天使の頭部に乗せた。
頭を撫でる――とも呼べないこの行為に天使はピタリと動きを止めた。
絶妙な角度で俯いてるので、表情は見えない。
「……頭がどうにかなりそうなくらい顔が熱いです」
「風邪でもひいた? 毛布も掛けずに寝るからだよ。とりあえず、お医者さん呼んでこようか?」
「何でもないです!」
きつく吠えられ、思わずたじろぐ。
顔を上げた天使はさっきよりも数割増し頬を赤く染めていた。それを見て余計に心配が積もる。
「そ、そんなことよりも他に訊きたいことはありませんか? 無ければ私から質問します」
強引に話を戻し、次に進めようとする。明らかに何か知っている様子だが、あえて何も聞かないでおこう。
「いや、まだ幾つかあるよ。――――長くなるけどいい?」
はい、お疲れ様です。
一人称視点で赤名の心理を詳しく書いてみたかったのですが、たいしてかわらなかったかもww
あと、しばらく説明会が続きそうです。
では、また来週に