高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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なんか評価で9をつけてくれた人とか、感想くださったヤンさんの影響とかあって、さくっと次が出来てしまった。
こんな偶然はあまり起きないので、次から不定期更新に戻ります。

鈴がIS学園に来る時間軸が違う件についてですが、IS学園側も新規生徒の受付に慎重になっているから対応がやや遅れた、ということです。

物語の進みが遅いのは作者の仕様。
すまぬ、すまぬ。


3-2 胸騒ぎがする。 ちょっと外の様子見てくる

「織斑君クラス代表決定おめでとう!」

『おめでとー!』

 

パン、パンとクラッカーが鳴る。

一夏とともに、グランドにあいた大穴を塞いで寮に帰ってきた二人は、待っていましたと言わんばかりの表情をしたクラスメイトに連れられ、彼女らの目的地、食堂まで連行された。

そして目に入る壁紙には『織斑一夏クラス代表就任パーティー』の文字。

あれよあれよと促されるまま、一夏が中央へ座り、箒が右、セシリアが左を固める。

潤もセシリアの左へ座らされた。

 

「なんで俺がクラス代表なんだ? 潤の方がいいんじゃないか?」

「俺はオルコットを推薦した身だからな。 なにより俺の専用機は合宿までに完成を目指すらしいし、それまではデータ取得用のスペックが低い量産機だから、花のある専用機持ちがいるならそいつの方がいいさ」

「あら、今さら他人行儀ですわね。 セシリアでよくってよ、潤さん?」

「なんだいきなり」

「次こそは、その澄ました顔にわたくしのブルー・ティアーズを命中させて完膚なきまでに叩きのめしてさしあげますわ。 それまで、このセシリア・オルコットの好敵手として、名前で呼んで結構です」

「……そうか、卒業までにかなうといいな」

「それでこそ」

 

普段通りの潤、不敵な笑みを浮かべるセシリア。

それは両者の静かな宣戦布告だった。

 

「ちょっと待て。 それで俺がどうしてクラス代表になるんだよ」

「それは、わたくしがクラス代表を辞退したからですわ。 勝負の区別はつきましたけど、考えてみれば代表候補生のわたくしが勝つのは当然。 大人げなく怒ったことを反省してお譲りいたしましたの」

「……良かったな、貸し借りが無くなったぞ」

「ちくしょーめ」

 

項垂れる一夏の声は、若干震えていた。

 

「はーい! こっち向いてー、私は新聞部、黛薫子、よろしくね! セシリアさん、小栗君、織斑君、写真一枚いいかな?」

「俺は結構です」

「OH、噂通りのクールガイ。 でも私も部長命令でね~。 協力してね~」

「いや、だから……」

「協力してね~」

「ですから……」

「協力してね~」

「俺を馬鹿にしているのか?」

「はい、おぐりん、せっしーとおりむーと握手しようねー」

「はいはい、握手握手」

 

無限ループに陥った二人に助け船を出す癒子と本音。

小栗潤、頼みごとの強制には弱いのである。

それを頼みごとと言っていいのかどうかは定かでないが。

 

「それじゃあ、撮るよー。 三十五×五十一÷二十四は?」

「七十四.三七五」

「はい正解」

 

カシャっと独特の機械音を鳴らしシャッターがきられる。

と何故か三人で取っていたはずの写真に、恐るべき行動力で一組ほぼ全員が入り込んだ。

おかげでぎゅうぎゅう詰めになったが。

ともあれ、謎の行動力とテンションを維持したクラスメイトは『織斑一夏クラス代表就任パーティー』を二十二時まで続けた。

途中から潤の姿は見えなくなっており、一夏の肩身が随分狭くなっていたが。

 

 

食堂の喧騒を抜け、夜の校内を彷徨う人影が一つ。

何時になく真剣な表情で練り歩くのは、この学園二人だけの男子が片割れ、小栗潤である。

取り残されて肩身を狭くしている一夏を放ってまで彼がここを歩いているのは、ちょっとした直感からだった。

魔法を使えるものは魔力を持つ者を感知できる。

当然感知されにくくする術もある。

しかし、戦場ともなれば隠すものも少なく、開戦直後には魔力が津波の様に兵を飲み込むのだ。

それを指して人は、『敵が来る』とか、『不穏な気配がする』と言うのだ。

そして、今。

潤の肌に、その慣れ親しんだ波が押し寄せている。

つまり、魔力を持つか、そうでなくとも無意識的にそれに準ずる何かが出来る存在が近くに来ている。

鋭敏にそれを察した潤は、いてもたっても居られなくなり外に出てきてしまったのだ。

 

「誰なんだ……、誰かいないのか!?」

 

過去に常に浴びていた波は、最早自分がいつも使っている布団のように心地いい。

懐かしいってそんなにいい事なのか、未来を望む子供はそう言うが、大人にとって過去とは未来と同じくらい重要なのである。

この際誰でもいい、ジョンでもいい、本当に誰でもいい。

心の底から理解しあえるならば、例え嘗ての敵であろうとも、共に支えあえる相手が欲しい。

 

「誰か……誰か……」

 

その悲痛な声を聞いたか聞かないか、誰かが暗闇から姿を現した。

街灯が、その姿を徐々に鮮明にさせた時、潤の頭を支配したのは、安堵でも、懐古でもなく、恐怖だった。

 

茶色の髪

 

ツインテール

 

リボン

 

翡翠色の瞳

 

その姿は紛れもなく――

 

「リリム……」

 

朝の夢が頭によみがえる。

彼女は先行調査団現場責任者、そして二度と祖国の地を踏むことなく、遺跡の闇に紛れて自殺したパートナー。

そして、その遺跡調査団に責任者として彼女を推薦したのが、他ならぬ潤だった。

 

「ねえ、アンタ」

「いい加減にしろ……。 俺の頭から出ていけ、お前は死んだんだ!」

「――はぁ? ケンカ売ってんの?」

 

記憶にある、どんな場面のリリムより遙かに活気な声が場を制した。

その声に、突然のことで錯乱状態にあった潤は混乱した。

 

「声色まで一緒、リリムが……二人?」

「何? アンタ頭おかしい人なの? ……いや、記憶喪失だったっけ?」

 

ニュースで流れたもう一人の男、小栗潤。

国籍も過去も全くの不明、祖国中国でも自国との関連性はあるのかないのか下らない論争が起きていた。

潤の目の前にいる少女は、そんな記憶に障害のある男より、馴染み深い最初の男の方が気になっていたが。

 

「べ、別人なの、だった、でしたか。 すまない、ません、昔の知人にあまりに似ていたもので、しょう、な」

「こっちを向いて喋りなさいよ、混乱中の勘違い男」

「頼む、髪の色を変えるか、髪型を変えるか、瞳の色を変えるか、眼鏡を掛けるか、身長を伸ばしてくれ」

「やっぱり、ケンカ売ってるでしょ?」

 

どれか一つでもやれば、印象がだいぶ変わるものばかりである。

そして、この少女はとある部分限定の身体的特徴に、コンプレックスがあった。

 

「それよりIS学園の受付ってどこよ? アンタ案内しなさいよ!」

「性根まで一緒か、まったく。 ほらボストンバック持ってやるよ」

 

過去に出会った相棒と果てしなくそっくりなこの少女。

一緒に歩きながら、総合事務受付まで進んでいく。

そこで、潤がリリムを最も受け付けられなかった趣味について聞きたくなった。

もし、このIS学園においてその趣味が一致でもしたら大惨事になる。

 

「ところで、お前の趣味、いや好きなものはなんだ?」

「趣味? これといってないけど、料理かな」

「そうか! それはいい趣味だ、ようやくお前と仲良くやれそうだ」

 

リリムの好きなものは、美人と、美少年、自分。

趣味は、好きなものを集めての放送禁止の性的行為とオ○ニー。

彼女の適性がサキュバスなので、しょうがないと割り切るには当時の潤は若かった。

頭が固いわけではいが、スケスケのネグリジェで公務を行うリリムを潤は心底嫌っていた。

結局その後は総合事務受付の窓口まで案内した。

時間はそろそろ二十二時。

食堂で行われていたパーティーも終わっているだろう。

 

「ちょっと待ったー!」

 

寮に歩いて帰ろうとした潤の背に、時間帯など顧みない声が届いた。

 

「アンター、名前はー!」

「小栗潤!」

「中国代表候補生! 凰鈴音! 案内ありがとねー!」

 

どうやら性格には大きな違いがあったようだ。

鈴のカラッとした性格に、彼女と会う前のもやもやした感情は何時しかなくなっていた。

 

「ただいま」

「おかえりー、お菓子にする? シャワー浴びる? それともあ・た・し?」

「ナギで」

「え!?」

「ナギで」

 

1030号室。

部屋にいたのは鏡ナギただ一人。

とても懐かしい古典的なギャグを聞いたので、これまた古典的ボケ殺しに走る。

 

「ど、どうぞ召し上がって下さい!」

「ボケ殺しをボケ殺しで返すな」

 

顔を真っ赤にして身を預けてきたナギをそのままベッドに座らせ、ハンガーに上着をかける。

何時もの二人は大浴場に行ったらしい。

 

「なんか良いことあったの?」

「昔の知人に良く似た奴に会った。 似ているだけの別人だが、少しだけ気が楽になった、良かったよ」

「もしかして、好きな女の子だったとか?」

「いや、生理的に受けつけないほど嫌いだった」

 

生理的に嫌いな相手と似た姿の知人、それに会って嬉しそうにしている。

ナギの頭は混乱したが、初めて笑みを浮かべている目の前の男性に心を惹かれて、ついつい携帯のカメラで撮影してしまった。

そろそろ学園生活も一ヶ月も経とうかというのに、今まで一回も笑ったことのない男、小栗潤。

無表情の仮面をかぶっているとさえ女子に言われる男が、微笑ながらお菓子を食べる姿が激写された。

ナギはこの画像ファイルを宝物にすることを決めた。

そして、その夜。

潤はアグレッシブなリリムに肉体的に迫られるという悪夢を見て、良かった機嫌がぶっ飛んだ。

 

 

 

---

 

 

 

パトリア・グループ 本社。

そこの会議室には、ISの武装関連においてその人ありといわれる、パトリア・グループの重鎮が集まっていた。

 

「では、専用機開発のコンペ結果の発表を始めてくれ」

 

話し合われるのは、勿論潤の専用機に関することである。

元をたどれば彼らは専用機をいきなり作り出す気は無かった。

IS委員会から、男性適合者・小栗潤の専用機開発の一括受託を請け負った際に、まず考えたことは、機体を一から作ることのノウハウの無さだった。

それゆえ、開発陣と企画陣の反発を抑えつつ、安易な開発スタートは考えずに、堅実的かつ現実的な案を練ることから始めた。

保守・運用方面から実績のある第二世代型ISを基本とし、潤の成長に合わせて拡張機能を順次追加、七月の合宿においてサード・パーティーの拡張まで到達できれば上出来。

機体のデータを収集する傍ら、専用機開発の時間を取り、機体開発のノウハウを蓄積しようと思っていたのだ。

しかし、それも過去のものだ。

一夏の専用機の性能もそうだし、ファースト・シフト終了時点で単一使用能力の発現もそうである。

なにより問題だったのは、当の潤本人の実力。

イギリス代表候補生との模擬戦時において、総合的に考えればフィンランド代表を蹴落としかねない次元にいたことだった。

 

「しかし、見事なものだ。 機動制御に関して飛びぬけた潜在能力を有しているのは分かっていたが……」

「まさか、全体の能力でも二番、三番についているとは……」

 

間違いなく、二、三年後には――フィンランドで最高の使い手になる。

データを見る限りそう判断するしかない。

そんな人間を、データ取得用の試験機に乗せたせいで、一回の戦闘で随分機体が傷んでいる。

一回のみの出番だったので機体はまだまだ安定稼動できるし、しっかりとした整備をすれば今後も問題ない。

しかし、潤にとって全力を出し切れない、満足できない機体を提供していることは間違いない。

 

「まあ、こんな予測できるはずも無い」

「彼の能力を完全に出し切れる機体を提供する、もうそれしかないのです。 後は前進あるのみですよ」

 

もう拡張機能を重視した、性能を抑えた第二世代など提供できるはずが無い。

最終的に一夏の件も含めてパトリア・グループの上層部は、こう判断した。

従来のパーツなどをなるべく流用した機体設計を機軸とすることによる生産のし『易さ』と信頼性の高さを求め、それに伴って早期に基礎を固めて完成までの期間を短縮可能といった開発の『早さ』、使い手本人の力量を頼りにすることで、使い勝手の良さを犠牲に潤の機動センスを遺憾なく発揮可能な『ウマミ』。

『ウマミ』は強引な感じがするものの、ようは『ヤスイ・ハヤイ・ウマイ』である。

ただ、基本的なISの性能は高いものを作れるし、機体構造を単純化することで各部の耐久性も高く出来るが、これでは潤の能力を生かしきれない。

そこで、今日の会議では、第三世代の特徴でもあるイメージ・インターフェイスを用いることで、潤の機動センスを余すところなく発揮できる、『ある物』の企画会議を開くこととなったのだ。

 

「では、報告を始めます。 お手元の端末をご覧ください」

 

企画部から満を持して提出された企画が、端末に表示されている。

そして社長は、その企画に関する報告を聞きながら頭を悩まさなければならなかった。

企画部の責任者が、浮ついた雰囲気で報告を述べている。

しかし、こう思わざるを得ないのだ。

お前らふざけているのだろう、と。

企業の特色として、珍しいタイプの社員が集まっているのは当然知ってはいたが、ここまで酷いとは考えていなかった。

『こんなものを作って喜ぶ変態どもめが』、と達観を含んだため息と呟きは、幸いにも誰にも聞かれなかった。

発表が終わりに近づき、あと一つの機体設計書を残すのみになったときに、遂に社長の堪忍袋の緒が切れた。

彼が鶴の一声で会議を中断させると、震える手でメガネを外す。

 

「企画部責任者、Goサインを出した開発部関連のメンバー以外は退室してくれ」

 

ぞろぞろと提出していく役員、各部の責任者たち。

一方浮かばれない顔で何人かが会議室に残る。

 

「ふざけてるんじゃないぞ! なんだこの『どうしてこうなったのかはわからない』面白企画は! 欽ちゃんの仮装大賞じゃねぇんだ! そこまでしてやる理由がわからないし、本当にやろうとするとも思わなかった! 普通に考えれば高機動型を主軸にしたものを考えるはずだろ! お前らが妙にやる気だったから任せた、すでに設計図まであたためているやつも居ますと言ったからだ。 その結果がコレだよ、お前らなんて大っ嫌いだ!」

「ちゃんと高機動型でコンセプトが出来ているじゃありませんか!」

「大気圏突破したり、一日で地球一周できる機体なんていらねぇんだよ! このキ○ガイ!」

「いくら社長とはいえ失礼です。 撤回してください」

「うるせえ! 稼働時間が十時間もないのにこの機動制御、しかもEEGが過去最高の計測結果! パイロットもパイロットだよ! ちくしょーめぇぇぇぇえええ!!!!」

 

一層大きな声を張り上げ、苛立ちからか、持っていたペンを力いっぱい机に叩きつける。

それでも怒りは静まらない。

 

「お前らは今まで世界常識の何を学んだんだ! 肝心の機体は何一つまともな物がない! ノウハウが無いのは知っている、無理を通さなければ道理が邪魔をするのは知っている! それでもコレはねぇんだよぉ!」

 

力なく頭を抱える社長。

企画部開発部そうほうの部長がソワソワし始める。

 

「とりあえず……、最後の一つを聞こうか……、今日はそれで終いだ」

「あの、社長?」

「なんだ?」

「我々の企画案は、全て発表が終わっているのですが……」

 

発表が終了したから総括として、この話をされているものとばかり思い込んでいた一同が困惑する。

社長はイージーミスだろうと、さほど気にせずその詳細設計書に目を通しだした。

機体設計は単純化した上で着工期間を短くする、と決めているのに、機体の草案から用意されているこの企画書にイラつきながら。

そして、その苛立ちは、あるものを見た瞬間驚愕に変わった。

 

「これは……、この性能は……なんだ。 第二世代がまるで玩具だ。 ……!? な、なんたることだ……!?」

 

今日この日、潤の専用機開発は静かに、深いところから進みだした。


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