高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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お久しぶりです。
復活しました。
出来れば月2を取り戻りたいところ。
今月は毎週日曜日に更新しますね。

労働時間が月300を越えると病んでくる
( ᕦ 。 ᕤ)アビャー←まじでこんな顔になってくる
はっきりわかんだね


3-6

「じゃあ、纏めるということでいいんだな?」

「……うん。 潤はそういう華やかなことは嫌いだから、少なくなるように纏める位で丁度良いと思う」

「布仏、勘付かれた気配は無いか?」

「今のところ大丈夫~。 いざとなったら完成記念を前面に押し出せばごまかせると思うよ」

「うむ。 嘘をつくのなら虚実混ぜ合わせるのが良い。 ケーキは私と簪がやるとして、その他の準備は?」

「うん。 もう準備OK。 ばっちりだよ」

「私たちの部屋に隠せば、いくら小栗くんでも気が付かないよね」

「所で、こちらが意図した時間に来てくれるのか?」

「大丈夫、おぐりん、必要最低限が終われば忽然とパーティー中にいなくなる口だから」

「あー、織斑君のクラス代表就任パーティーでも気付いたらいなくなっていたよね。 そういえば」

 

ラウラの席の周囲でひそひそ話に興じるのは、当のラウラと本音と簪、癒子とナギ。

ひそひそ話なのに三人寄ればなんとやらで非常にかしましい。

一人で起きた本音を訝しみ、珍しく避けるように朝食を済ませた癒子とナギに怪訝な目を向けた潤は、珍しく一夏と一緒に朝食をとっている。

簪まで一組にやってきている状況を考えれば、せっかく仲間内だけで話しているのに目立ってしまって仕方が無いと思うだろうが、一組全体で一夏の誕生日の話題で持ちきりなので誰も気にしてはいなかった。

何か余程面白いことでもあったのか、きゃあきゃあと黄色い声が津波の様に響いている。

 

「じゃあ、二十七日、潤に気付かれないように――」

「おはよう。 簪までめず――」

「っひ――!」

「うおおっ!?」

 

輪の中にいきなり潤が入って来て、名前を出していた簪が引きつった声を上げて悲鳴を上げた。

同時にちょっと飛びのいたせいで一夏にぶつかって、ピタゴラスイッチに使われる道具のごとく再び潤の懐に飛び込んできた。

 

「ご、ごご、……ごめん、なさい」

「いや、特に怒ってないから。 ところで何の話をしていたんだ」

「――打鉄弐式の開発完了のお祝い、のようなものだ。 兄は主賓の一人なんだから、準備などは気にしなくても良い。 こっちで勝手にやる」

「む、そうか。 無粋な事を聞いた。 ……簪も主賓なのに準備するのか」

「えっ!? いや、私は――」

「かんちゃんはねー、ヴィッヒーにケーキの作り方教えてくれているんだよ」

「ふーん」

 

ラウラと本音が連携して、少しばかり調子を崩した簪を即座にフォローする。

何か言ってはいけないことまでボロボロ喋ってしまいそうな雰囲気があったので仕方が無い。

潤は少しばかりまだ隠し事をしている事を察したが、自分で口にしたとおりこれ以上聞き出すのは無粋と判断して口を噤んだ。

癒子とナギも何度も頷き、場を収めようとしている。

 

「所でもうそろそろチャイムが鳴るから更識さん、クラスに戻った方がいいんじゃないか?」

「あ、……もう、こんな時間。 それじゃあ、……また」

 

一夏に時間を指摘され、急いで教室を出て行く簪。

入れ替わるように朝のホームルーム三分前に千冬が教室に入ってきて、女子のお喋りは強制お開きになった。

立てば軍人、座れば侍、歩く姿は装甲戦車のよう――などと常々潤は思っているが口には出さない。

だって怖いから。

 

「今日は二十七日に行われるキャノンボール・ファストに備え高機動について授業を行う。 本授業は第六アリーナで行う関係上、事故が起こった場合周囲の施設に物損的な被害が出るので細心の注意を払うように。

 また、専用機持ちを除く生徒には教師が併走するので自分勝手なコースを進まないように気をつけること。 尚、付き添いの教師達が飛行状態に問題がありと判断したら直ちに中断させる。

 山田くんのホームルームが終わり次第準備して集合するように。 遅刻は許さん」

 

第六アリーナ。

最近墜落事故を起こした片割れの潤は、気まずそうに頭をかいた。

 

 

 

---

 

 

 

授業は一夏とセシリアの実演から始まった。

真耶のフラッグと共に白式とブルー・ティアーズが一気に飛翔、超音速飛行によって衝撃波と轟く様な大音響を発して音の壁を突破した。

高機動型の加速に慣れていない一般生徒達が轟く爆音に顔を歪める。

ソニックブームがしっかりと視認可能な状態で現れており、もし機体同士がぶつかりでもしたらその衝撃は簪と共に起こした墜落事故の比ではないだろう。

学園中央のモニュメントであるタワーなんて、ガラス細工の様に倒壊させることだって楽に出来てしまう。

 

「よし、今年は一年生も参加する異例の事態となっているが、やって損することは無い。 何かしら学べるし、糧にもなるだろう。 よし、出席番号順に訓練機を装備、順番に飛行開始だ」

 

ここ最近はキャノンボール・ファストを迎えるに当たって、高機動ISの操縦方法についての授業が特別に行われていた。

安全に操縦するに必要な物理学、医学、計器の見かた等の基礎を学び、筆記試験に挑んできた。

当然潤や一夏も筆記試験に挑んでいる。

 

「次のフライトテストの生徒は待機せよ。 繰り返す、次の生徒は訓練機着用後待機せよ」

 

殆どの生徒にとって、ISを使って不自由な機動を求められる高負荷に晒される始めての体験となる。

教師達、千冬も真耶も生徒達一人一人に追従する形でフライトを始めてチェックし始めた。

馬力でどうにでもなるヒュペリオンや白式、紅椿などと違い、一般生徒向けに貸し出されている打鉄やリヴァイブ、カレワラには安全にフライするためにはテクニックを必要とする。

スラスターの向き先が数度ずれただけで数秒後には激突コースになっている可能性があるからだ。

例年では、この訓練の期間がどうしても取れないので一年生の参加が見送られていた。

今年は専用機持ちが複数人いるため特例として行われるらしい。

 

「ねぇ、私は誰と飛ぶの?」

 

カレワラを身に纏った相川がウロウロしている。

一夏と箒とスラスターに対してどのようにエネルギーを割り振るか雑談している潤の耳にも届いた。

 

「小栗」

「はい。 なんでしょうか、織斑先生」

「お前も教導官として一般生徒のフライトに付き合え」

「え?」

「楯無にもこういう場合には手伝わせている。 お前も次期会長ならば今のうちから恒久的に人手不足の教師陣に協力してくれ。 それに、出来るだろ?」

「分かりました。 ……マジかよ」

「なんか、潤って千冬姉に信頼されているのか? 相性がいいのか?」

「信頼しているのを理由にして、便利だからって何でもかんでも押し付けられている気しかしない。 まったく――相川! 俺がペアになった。 チェックシートに則って最終チェックを始めてくれ」

 

潤が大声を上げながら女子の輪に入っていく。

どちらかといえば歓迎の色が濃いクラスメイトの声を聞いて、一夏が感嘆とした視線を向けた。

 

「千冬姉にISの実力で信頼されている潤って、かなりすげーよな」

「……性根に問題がありそうだがな」

「箒ってなんで潤と仲悪いんだ?」

「――わからん。 だが、なんとなく奴の性格、いや性根がちょっとな」

 

何故か箒は潤が苦手なようだ。

一夏は自分のことなのに、まるで結論を出せない箒を不思議そうに見つめていた。

 

 

 

---

 

 

 

「……全体的に生徒の資質がはっきりしてきたかな?」

 

今までコース取りに失敗し、強引にコースを変更した生徒もいるが、何人かは安定した挙動と的確なバーニア制御の扱いを見せ、その才能を如実に現していた。

そうでない生徒は、整備やら開発やらに進むことになるだろう。

 

「うん、中々上手いじゃないか」

「全然自由が利かないんだね。 操作が重いかな?」

 

隣を飛んでいるのは鷹月静寐さん。

クラス代表の一夏を差し置いて、委員長と呼ばれるしっかり屋さん。

中々ビギナーらしからぬ機動を見せている。

余裕が出てきたのか、速く飛行する代償に方向転換が難しくなった挙句、操作が重くなった機体に文句を言っている。

 

「ヒュペリオンって、サクサク方向転換してるけど、こんなに操作性が悪くなる高機動状態でどうやっているの?」

「実は方向転換してるんじゃなくて、一瞬で完全停止と最高速度化をやってるだけだから。 全身に急進可能なこの機体は、裏返しに言えばあらゆる方向にブレーキ出来るんだよ。 イメージ的には見えない壁に衝突してバウンドをする感じだな」

「それ安全なの?」

「んー。 そこはかなり微妙でな。 脳波コントロールで駆動系の操作を補助し、身体が壊れないように相当難しい制御を行えるから安全なんだけど、その肝心の脳波適正が低いと反転時に骨がバキバキ折れるらしい」

「うわー……」

「パトリア・グループの方針なのか、篠ノ之博士が仕組んだのか、どうもパイロットの資質を最大限に引き出すのを基本方針にしてるみたいだな」

「その結果があの機動なのか……ふーん……」

 

第四アリーナを一周し、そろそろ着地体制に入る。

 

「着地後に気をつけてくれ」

「もしかして織斑先生や、山田先生が着地後暫く直立不動で立たせているのと関係あったりする?」

「そういえば説明されてないな。 ……取り敢えずやらせてみるか。 体感すれば良く分かるよ。 うん」

 

鷹月が着地してISの機動を安定させようとすると、途端にカレワラがバランス感覚を失ってだばだばし始めた。

まず右足を勢いよく宙に向かって蹴り上げ上半身が後ろ側に倒れる。

持ち直そうとしたのか今度は足を地面に叩きつけ、ダイナミックお辞儀をし始めた。

それを見た潤は悪戯が成功した悪ガキのような表情でヒュペリオンを傍につけ、ひょいっと腰の部分から手を回して持ち上げ体勢を正す。

 

「お分かりのとおり。 高機動状態のISはその操作性の難しさのため、普段よりスキンバリア越しに取得するデータをもの凄く過敏に取得しているんだ。 その状態で歩くと、ちょっと足を上げたつもりが腹を蹴り上げるかのように動くからそうなる」

「すっごい意地悪だよね小栗くん!?」

「あっはははは。 あ~、面白い。 初心者を高機動ISから降ろす時は、動かさず直立不動にするのは、そういうことさ。 因みに専用機には操縦者に最適化された専用のシステムが採用されてるから一夏は知らない」

 

ちょこちょこっと問題ありそうな言動をしていたが、概ね潤が教える側に回っても問題は起こらなかった。

むしろ事故が起こったのは、どちらかといえば生徒側の問題で。

やり直しを二度ほど繰り返したナギを相手にしていたとき、そういった事故が起こる要因が揃ってしまう。

 

「最後は……ナギか。 どうしてやり直し組に入っているんだ? どちらかというとISには慣れているほうだろうに」

「織斑先生にも言われたんだけど、あがり症で……」

「技術じゃなくて精神的問題か。 どんな物であれ克服しなければだが、これまた時間の掛かりそうな問題だな」

 

チェックは問題ない。

あがり症だというが、急上昇し姿勢を安定させてコースを飛ぶ姿からはそんな事微塵も感じさせない。

 

「どの変がどう駄目なんだ?」

「なんか、後ろを飛ばれて身体をじろじろ見られるとつい……。 あはは……。 それに間隣をいきなり飛ばれるとこわばっちゃって」

「……戦闘向きじゃないな」

「う~……。 やっぱりそう思う? 治らないのかなぁ?」

「手っ取り手早くするなら、いや、ちょっと試してみるか」

「何かあるの?」

「心理テストをするために手を握ってみたり、ちょっとしたらボディータッチをして反応を確かめてみてからだな」

「それはちょっと恥ずかしいかもぉ、なんて言ってみたり……」

 

どうやら本格的に駄目らしい。

何を想像したのか知らないが、一瞬で指定されたコースのイエローゾーンに入っていく。

このままなら三秒後にはレッドゾーンに入っていく。

計器に集中し切れていないナギがその事に気付くはずも無く、あっという間に再試験コースに入っていった。

 

「コースがずれ過ぎた。 速度落せ、やり直す」

「え!? ――ひゃ!」

「はあ!? 貴様ぁ、何をやっている!?」

 

取り敢えず定められた規則に従い、訓練機を拘束。

適当に掴みやすい箇所、今回はナギの肩を掴んで速度を落させ速度を潤のコントロール下で徐々に落していく。

そのはずが、一瞬で潤が横に着いたこと。

肩を捕まれる直前手をかわす様に動いたことでわき腹を抱え込まれてしまったこと。

弾みでヒュペリオンのマニュピレーターが胸を触ることになってしまったことで、ナギはパニックになってしまった。

潤もぐにゃっとした柔らかい感触がヒュペリオン越しにしたことで、直ぐに手を引っ込めたのが最悪の結果になってしまう。

 

 

――カレワラの背中から腰の部分のパーツの切り離しを実行。

――メイン制御装置離脱により各部パーツが待機状態に移行。

 

 

カレワラはヒュペリオンを元にして作られた機体で、脳波コントロールシステムを搭載しており、それにより機体操作を補助している。

今回は、ナギの『離して欲しい』といった感情が、最悪の方向に伝わってしまった。

後に聞いてみれば、今回のことは殆ど覚えていなかったらしく、本能レベルの強い感情を拾ってしまったのが原因あるといえる。

何はともあれ――

 

明後日の方向にすっ飛んでいくカレワラ。

地平線を百キロ近い速度ですっ飛んでいく生身のナギ。

絶句する潤。

口ポカーン状態の千冬と真耶。

 

「行くぞ、ヒュペリオン!!」

 

可変装甲を即座に展開。

セシリア戦の経験が此処で生きた。

斜めに飛んだせいでこのままでは直ぐにナギが地面に墜落してしまう。

追い付いたのも束の間、間髪いれずにナギに対して身体を水平に差し込み、墜落する時間を少しでも稼ぐ。

 

「潤くん――!? あの? これ!?」

「黙って俺にしがみ付いていろ! 死にたいのか!?」

 

抱きしめて身体を固定。

ナギが抗議の声を挙げるが、人命救助故の致し方ないことなので諦めてもらう。

カレワラを纏っていてくれれば簪の時と同様、『墜落』といった簡単な選択肢も取れたのだが、ナギはお生憎様生身の状態。

ブレーキをかけつつ負荷が身体の一つに集約しないように、下から上に押し上げたり、斜めに引っ張ったり、上から持ち上げたり様々な方向から体勢を安定させる。

地面に接触する前に勢いを少しでも削らないとナギが死ぬし、負荷を集めすぎれば骨が折れる。

その微妙なバランスを、僅かな時間で完璧に取って、速度を殺さねばならない。

 

 

――最終的には時間オーバーで墜落したんですけどね。

 

 

「……おい、無事か?」

「えっと――」

「イエスかノー以外の返答は認めない。 それではもう一度、『無事か?』」

「イエス、だと思う?」

「そうか」

 

下が砂浜じゃなかったらナギがアスファルトに叩きつけられたカエル同然になるところだった。

もう少し速度を殺すのが遅かったら砂浜でもそうなっていただろう。

墜落といっても、僅かに足を引き摺った程度で済んだ。

しかし、直前でもう間に合わないことがはっきりしたため、強烈に急ブレーキをかけたので生身だったナギには何かしら不調が出ている可能性が高い。

 

「気を付け、そこから休めの体勢。 その次に手をなるべく地面と水平になるように広げろ」

「え?」

「いいからやる!」

「は、はいっ!」

 

脹脛から始まって太ももから腕までを軽く叩く。

ISのスーツはスクール水着みたいなもので、手足は付け根まで露出しているからパッと見ただけで折れているかいないか判断可能だが念のためだ。

太ももを叩いたとき、くにゅとした感覚があったり、肉が波打ったりしたが――、色即是空、空即是色、心頭滅却。

 

「あ、あの、あんまり触られると……」

「やかましい。 空中で高機動状態なのにISを強制解除するほどパニックに陥ったお前が悪い」

「えーと、怒ってる?」

「勿論。 だが、怒るのは俺の仕事じゃない。 後は織斑先生と二者面談でもしてこってり絞られるんだな。 だから、俺の責任が及ぶのはお前の怪我までだ。 さ、深く息を吸って」

 

胸とか触ると流石に問題があるので、ちょっと気をつけて肋骨辺りを触診する。

普通に深呼吸をしているあたり問題なさそうだが、墜落直後といったこともあり、アドレナリンが出て多少の痛みを感じていないだけということもある。

 

「ん?」

「なんか、変だった?」

「なんか、一箇所だけ熱が……、箇所的に第八か第九かな? ちょっと失礼」

 

背中から押し込むように手を当て、腹部を軽く押す。

 

「痛たぁ!」

「……うん。 罅か剥離だろうな。 呼吸して痛まないなら折れちゃいないだろう。 織斑先生には話を付けておくから保健室にいこうか」

 

再びヒュペリオンを展開させると痛みに顔を歪ませるナギを拾い上げ、目的地は保健室へ。

肋骨は弓状なので、正面から圧力を受けると割とあっさり折れたりする。

あの骨は内蔵を守るほかに、大事な機能として呼吸を補助する役割があって肺を押しつぶすことが出来たりする。

ようは結構動くように出来ているので簡単に怪我するのである。 南無。

 

「しかし、この一年間で三度も墜落現場に立ち会って、全てに救助に携わるかね、普通。 しかも難易度が徐々に上がってるし、次あったら実質不可能だったりして……」

 

だが、潤の悪い予感は大抵当たる運命にある。

それを知るのは、左程遠くない未来である事を彼は当然知らない。

 


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