高みを行く者【IS】   作:グリンチ

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なんか書いててテンポが遅い気がしたから、ちょっと省きつつ早めていこうと思う。
原作丸々やってたら規約違反(?)だし、全部書く必要ないもんね。



2-3 バナナ! 粉バナナ!

とりあえずシャワー浴びてくる、そういって段ボールから新品の衣類を持って行く男子を三人で見送った。

入学式前から仲良くなった三人で顔を見合わせる。

 

「うわー、うわー、うわー」

「ナギ、顔真っ赤ー」

「だって、だって、急に真横に寝転んでくるんだもん。 顔なんてすぐ目の前だったよ、目の前!」

「ホントに顔真っ赤ー、はい、ジュースー」

 

顔を真っ赤にしたナギに茶々を入れる二人。

鏡ナギと谷本癒子は隣の『1029号室』、布仏本音はあぶれてほかの誰かとルームメイトになることになった。

まだ来ない本音のルームメイトを三人で待ち構えていた。

いい人が来て、一緒に仲良くやれたらいいね、程度に思っていたが予想斜め上を行く人物がやってきた。

 

大きな段ボールを持って入ってきたのは、心配になるほど疲労の色を滲ませたIS学園のたった二人の男子の片割れ。

段ボールを置くと、『いっやほう』と小声で呟くと呆然とするナギの真横に寝転んだ。

 

「ねぇ、それよりさ、さっき凄い光景を見たんだけど、どうやって起き上がった?」

「そうそう、寝転んだまま、九十cmくらい飛び上がったよね」

「少し離れた壁に手をついてたから、もっと飛んだかな」

「うつ伏せなら猫がとかやれそうだけど、仰向けって」

「ねぇ」

 

猫が恐るべき身体能力で飛び上がったりするのを見たことがあるが、人間サイズでできるとも思えない。

ましてや仰向け。

 

「そもそも、なんで織斑くん小栗くんが同室じゃないんだろ」

「そういえば、織斑くんって、篠ノ之さんと同じ部屋だって聞いたけど」

「んー、おじょうさまから聞いたけど、最初はおぐりん四組に入る予定だったらしいよ」

「それホント!?」

「おぐりんはほっとくと盗撮盗聴されるかもだから、おりむーと同室にすると問題だったんだって。 それで生徒会関係者と相部屋になる予定だったらしいよ。 あれ、それで私?」

 

潤の登場が唐突すぎたせいでIS学園はかなりてんてこ舞いになった。

一夏は結構前から知られてたので迎え入れる準備ができたが、二人目がこんなに早く見つかるのは誰も予測できなかったのだ。

それも国連がやっきになって調べても全く身元の割れない人間。

一夏にとっての千冬も日本もいない。

一人部屋や、半端な生徒にしようものなら盗撮盗聴されるのは目に見えている。

一夏と同室になれば、これ幸いとばかりにもっと多くの組織から狙われるだろう。

学校側としても、生徒が外部からの圧力に晒されているのに対し見ぬふりをする事が出来ない。

一度でも捨て置けば悪しき前例を残すことになる。

生徒会長にして裏社会にも詳しい更識楯無と同室にすることも考えたが、彼女も一夏を迎え入れる為に動いているため難しい。

しかし、悪いことがあれば良いこともあるもので、偶然にも今年の新入生に生徒会関係者が二人いた。

妹の身を案じてか、妹と同室同クラスは反対されたが、もう片方は一夏と同クラス。

潤の一組編入、布仏とのルームメイト決定にはこういうバックストーリーがあった。

 

「ふーん」

 

三人で話していると、相部屋の男子がシャワー室から出てきた。

疲労の色はだいぶ軽減しているようにも見える。

 

「さて、と。 さっきも言ったが鏡さん、すまなかったな」

「い、いいよ、いいよ。 私気にしてないし、まだドキドキしてるけど……」

「ありがと。 相部屋は布仏さんでいいのか?」

「布仏じゃなくても好きに読んでいいよー」

「なら、呼び捨てでいいか? 『さん』付けは呼ぶのも呼ばれるのも慣れてなくてな」

「いいともー」

「懐かしいな、それ」

 

手前側のベットの端に座りながら、四人で談笑する。

潤は女生徒と相部屋になってもさほど驚かなかった。

男女が寮で相部屋になるのは士官学校では割とよくある光景でもあった。

徹底した集団意識を持たせるため、個人を殺すためや、男女間の羞恥を克服するため、士官学校では措置がとられていた。

勿論、事件性に発展すれば軍法で裁かれる。

慈悲はない。

お互い合意の上ならお互いが学校規則に裁かれる。

 

「私は『癒子』って呼び捨てでいいよ」

「わかった」

「鏡って呼ばれ慣れてないから、私はナギで」

「ああ、わかった。 それで二人は?」

「『1029号室』、本音ちゃんの友達」

「そうか、これから宜しくな。 じゃあ、さっさと決めること決めるか」

「おぐりん、なに決めるのー」

「最低でもシャワーとか着替えの時間はずらさないとな。 洗面所に鍵を掛けられたから、着替えは今後そこで済まそう、もちろん鍵をかけてな」

「はーい」

 

いい加減眠気に負けそうな潤であったが、本音にお菓子を進められて一緒に食べたり、癒子、ナギ二人から質問攻めにされたり、潤がここの部屋に入っていったと聞きつけた各学年の生徒が二十人ばかり襲撃して来たり、

はっきりこれをしようと決めている時ほど、色々なことが起こるものである。

結局最後まで潤は付き合った。

人付き合いも大切である。

殺るか殺られるかの一期一会が基本の戦場、そここそがかつての居場所だったが、今の彼が住んでいるのは、『また明日』が続く平和な学校だった。

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

無理にでも瞼を閉じて寝ようとするも、胃のムカムカが邪魔をして目がさえてくる。

夜寝る前にお菓子なんぞ食べたせいで、胃もたれがすごい。

どうせ慣れない人間がいる状況では熟睡できない性分なので、最後までガールズトークに付き合った。

どうもISを学ぶというカリキュラムの中で男という存在が非常に少なく、聞けばIS学園に入学した殆どの生徒は専門の女子中学から来ているとの事で、同世代の男自体珍しいとの事。

廊下の出来事然り、部屋にまでやってきて自己紹介するのは、年頃の女子なら当然と癒子は言っていた。

朝食を一緒に取る約束もしている。

寝る前にハンガーにかけてあった制服と手に取って、洗面所へ。

 

朝になると決まって、安堵と悲哀を感ぜざるを得ない。

目を覚ませば、今の世界は性質の悪い夢だった。

いつも通りの悪趣味な王と、変態で馬鹿な部下に悩まされる日々が始まるんじゃないかと錯覚する。

そして、再び未知の異世界に来た現実に直面し憂鬱になる。

潤の朝は毎日決まって溜息から始まっていた。

 

 

さて、髭もそって、歯を磨いて、着替えも終わって、そろそろ約束の時間だというのに、すやすや寝息を立ててるこの着ぐるみ少女どうすっか。

 

 

とりあえず着替えとか色々あるだろうから外に出て待つ潤。

癒子とナギのペアはどうにかして寝ぼける学友を起こそうと奮闘していた。

待つこと十分。

眠たそうな着ぐるみ少女と、朝から妙につかれた顔色のコントラストはその労力を如実に表していた。

 

 

そして朝食である。

暗殺、諜報、潜入を生業にしてきた潤にとって、夜の闇こそが仕事場であり、朝食は逆に眠りの前の軽食だった。

 

「小栗くん、小食なんだね」

「元々朝はあまり食べないし、昨日、菓子を食べすぎたしな」

「えっ!? ……わ、私たちも、お、同じかな。 ねぇ?」

「こ、これで平気だよね」

 

四人そろって軽食。

パン二枚とサラダだけ受け取る潤の朝食。

そんな潤より更に少なめな女子の朝食は、思春期の女子の意地かもしれなかった。

席を探そうと周りを見渡すと、一夏と何やら不機嫌そうな表情の篠ノ之箒が見える。

 

「小栗くん、織斑くんの席に行かない? 声かけてほしいんだけど」

 

窓際の席には一夏と、昨日教室から一夏を連れ出した女子が居た。

何故か、二人の間にぎくしゃくした雰囲気を感じたが、今の四人だけで食べれば気疲れする。

嫌な提案でもないので、四人で一夏の席に向かった。

 

「おはよう、一夏。 隣いいか?」

「ん? 潤か。 おはよう、好きなだけ隣に座ってくれよ、なんか女子しかいないと気疲れしてな」

「同感だ」

 

とりあえず男子二人で隣りに座り、女子三人が追従して席を埋める。

三人が小さく役得だね、と小声で話しガッツポーズしていた。

 

「ところで、なんで男子二人しかいないのに、別室なんだよ」

「俺が知るか。 寮長であるお前の姉に聞けよ」

「千冬姉が寮長!? マジかよ」

 

 

 

 

 

「授業の前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めなければいかんな」

 

朝食を終え、実践で使用する各種装備の説明という重要な授業の前に、そう千冬は切り出した。

真耶までメモを取る準備をしているので重要度を疑うことはない。

 

「クラス代表とは読んでそのままの意味だ。 様々な行事にクラスの顔、代表として参加し、入学時点での各クラスの実力推移を測るためクラス対抗戦にも出てもらう。 決まれば一年間変更はないからそのつもりで」

 

クラス代表について説明が入る。

どことなく委員長という単語が思い起こされる。

軍属、隊長所属、出来なくはないが……。

責任ある立場ともなれば、IS知識と起動の熟練は必須となる。

後者には、似たものを纏い空を飛んだものとして絶対の自信を持っていたが、前者は後塵を期しているのが現状であった。

そういう観点から、潤の中では代表候補性のセシリアが適任であり事実そうなるだろうと判断した。

 

「自薦他薦、立候補問わない、申し出てみろ」

「はいっ。 織斑君を推薦します」

「私もそれが良いと思います!」

「お、俺!?」

 

いきなり自分を推薦され思わず焦る一夏。

大多数の意見によって流される少数の意見を垣間見た。

何時だって世界は、平等によって隠された不平等競争社会である。

――ん? 待てよ?

 

「他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」

「じゃあ、私は「ハイ! 先生!」

「なんだ、小栗」

「代表候補性のセシリア・オルコットを推薦します。 実力、知識共に申し分ないはずです」

 

今までにないほど大きな声で潤が遮る。

一夏が真っ先に推薦されるのを見て、じきに自分が推薦される可能性を察知した。

この流れなら間違いなく誰かに推薦される。

事実、癒子が名前を言う寸前だった。

『あいつなら、きっと何とかしてくれる!』とばかりに無理難題を押し付けられてきた過去がよぎる。

セシリアの性格ならば、自分と肩を並べて推薦された一夏にくってかかるだろう。

潤の推測は見事的中し、自分こそ代表に相応しいと考えるセシリアは一夏を貶している。

二人の言い争いの陰で、新世界の神のような笑み浮かべる男が居た。

言い争いはヒートアップし、決闘騒ぎまで発展した。

 

「では、来週の月曜日に第三アリーナにて織斑、オルコット。 ……ついでだ、小栗を含めて三名でクラス代表決定戦を行う。 多く勝利した者をクラス代表とする。 異論はないな?」

「い、異論しかないんですけど?」

 

そして、その笑みは早速崩壊した。


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